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男性不妊の原因となる因子にはストレスや生活習慣のほか、さまざまな疾患があります。また、生まれ持った性質によることもあり、いずれも医療機関にて検査を受けなければ特定が難しいものです。本記事では、男性不妊の原因を疾患別・種類別に解説しています。ご自身やパートナーとの間で男性不妊の可能性を疑う方は参考にしてください。
不妊原因の割合
「不妊」と聞くと女性の問題であるといったイメージを多く持たれますが、実際は原因が男性側にあることも珍しくありません。過去の調査では、男性の20〜30%に不妊の原因があるとされ、男女両方に原因がある割合を含めると約半数に上るとされています。
また、2015年に国立社会保障・人口問題研究所が行った調査では、不妊を心配したことがある(または現在心配している)夫婦の割合が35.0%におよび、3組に1組の割合であることが明らかとなりました。加えて、子どもがいない夫婦を対象とした場合、不妊を心配する割合は55.2%と、さらに高くなっています。
このような結果から、不妊に対する不安や悩みは女性特有のものではなく男性にも原因がある場合があり、夫婦における問題となっていることが分かります。
男性不妊の原因
男性不妊の原因は大別すると、遺伝や臓器の発育不全などによる先天性のものと、ストレスや加齢などによる後天性のものです。
先天性の原因としては、生まれつき精子の通り道となる精管が形成されていない「先天性精管欠損症」などが挙げられます。また、遺伝的要因や発育過程において何らかの臓器障害が起こった場合も、先天性疾患が認められることがあります。
後天性では、多くがストレスやプレッシャーといった心因性によるものです。勃起する能力が不十分もしくは持続不可能な状態が続いてしまう「勃起障害(ED)」、膣内に挿入してから過度に短い時間で本人の意思に反して射精してしまう「早漏」、射精はできてもオルガズムに達することができない「オルガズム障害(無オルガズム症)」などが挙げられ、これらをまとめて「性機能障害」と呼びます。性機能障害の多くは日常生活や人間関係、仕事によるストレスが原因とされ、うつ病や精神疾患を発症することで性機能障害を引き起こすことも知られています。
また、以下の点も後天性の原因です。
- アルコール
- 喫煙
- 肥満
- 病気
- 薬
- 精巣の損傷・機能障害
- 精子の産出・射精トラブル
糖尿病や腎臓病などの疾患や精巣の損傷など身体的な要因が原因となる場合もあります。また、治療中の疾患があり投薬治療を受けている場合、内服薬の種類によっては生殖器に影響を及ぼすものがあります。そのほか、肥満や喫煙習慣、飲酒といった生活習慣病に関係する要因も精子の運動能力や産生力を低下させ、男性不妊の原因となることが知られているため注意が必要です。
男性不妊の種類
男性不妊の種類は、大きく分けて以下の3つに分類されます。
- 造精機能障害(精子を作り出す造精機能に問題がある)
- 性機能障害(勃起や射精が起こらず性交渉が上手くいかない)
- 精路通過障害(射精はできるが、精液中に精子が含まれていない)
造精機能障害に当てはまる疾患として「無精子症」、「乏精子症」、「精子無力症」などが挙げられます。これらは、正常な精子が産生されない、精子の運動性や機能性が乏しいといった症状を引き起こします。性機能障害は、主に妊娠に対するプレッシャーやストレスが起因です。勃起不全(ED)や膣内射精障害など、射精自体ができなくなってしまうことがあります。精路通過障害は、射精を行うことはできるものの精液中に精子が含まれないため妊娠が成立しません。先天的な異常や生殖器の炎症などが理由で精管が詰まることが原因とされています。
男性不妊の種類1. 造精機能障害
精巣において精子を作り出す能力や成熟過程に異常があると、運動性や機能性が乏しい精子が産生されてしまいます。このような状態が「造精機能障害」です。造精機能障害には以下のような疾患が含まれます。
無精子症
精液の中に精子が全く存在しない疾患です。射精はできるものの、排出された精液に精子が認められず、妊娠が成立しません。精子の通路が障害されている「閉塞性無精子症」と、精巣において精子が作り出されない「非閉塞性無精子症」の2種類が存在します。
乏精子症
精液の中に精子の数が少ない場合、乏精子症と診断されます。精子の数が少ないと、膣内へ射精されたとしても卵子と出会う確率が減るため妊娠の可能性が低下します。診断は、2010年に改定されたWHO基準に則って行われ、次に解説する精子無力症を合併している割合が高いことが特徴です。
精子無力症
精子そのものの運動性が低い場合に精子無力症と診断されます。精子の運動性が低いと卵子が待つ卵管へ辿り着くことができなかったり、卵子と遭遇したとき上手く内部へ侵入できなかったりするため妊娠が成立しない可能性が高まります。診断基準は乏精子症と同じく、WHO基準です。
精索静脈瘤
精索静脈瘤は、精巣に流れる血流障害や血液の逆流により陰嚢にこぶ(静脈瘤)ができてしまう男性不妊の代表的な疾患です。陰嚢に痛みや違和感があることはまれであり、たいていは陰嚢の形状に左右差がある、陰嚢の表面に凹凸があるなど見た目の特徴で気がつきます。
膿精液症
生殖器の感染症などにより、精液中に白血球を認める場合があります。これは「膿精液症」と呼ばれ、精液の色が黄色くなるなどの症状が見られます。重症化すると精子無力症につながることもあり注意が必要です。
男性不妊の種類2.性機能障害
「性機能障害」は、妊娠に対するプレッシャーやうつ病、精神疾患を発症している場合など、多くは心因性によるものが原因で発症します。そのほか、糖尿病などの持病や内服薬が原因となる場合もあります。
逆行性射精
射精した精液が膀胱へ逆流してしまう疾患です。痛みを感じることはほとんどなく、通常よりも精液量が少ないように思えたり、射精後の尿が白く濁っていたりするなどの症状が見られます。
勃起不全(ED)
性的な興奮はあるのに正常に勃起が起こらない、勃起しても持続しない状態を「勃起不全(ED)」と呼びます。発症の原因は心理的なストレスや、神経系の異常、生活習慣病などです。
膣内射精障害
勃起が起こっても膣内で射精できない状態を「膣内射精障害」と呼びます。多くは不妊治療にともなうプレッシャーが原因です。
無精液症
精液そのものが出なくなってしまう疾患です。機能的な異常は見つからないにも関わらず射精自体ができなくなってしまうことを「射精障害」と呼び、これには逆行性射精も含まれます。
精路通過障害
精子の通り道が何らかの異常により詰まり、射精が起こっても精液中に精子が認められなくなる状態が「精路通過障害」です。
先天性精管欠損
生まれつき精管(精子の通り道)が形成されていない疾患で、精液量の減少が認められる場合があります。精液中に精子が認められないため、妊娠は成立しません。
男性不妊の検査方法
男性不妊の検査では、下記3つの要素が重要になります。
- 精液検査
- 視触診
- 精索静脈瘤
精液検査では、精液の濃度、精子の数、精液量などを測定します。2〜7日程度の禁欲期間を設定し、その後にマスターベーションを行って精液を採取します。
視触診では、精巣や陰嚢の大きさの測定に加え、左右差がないかなどを確認します。陰嚢の大きさが明らかに左右非対称であったり、凹凸が見られたりするなど、目視と触診で確認できる精索静脈瘤も合わせて診察します。
精液検査
男性不妊の原因を探るため、ほとんどの方が受ける検査です。2〜7日程度の禁欲期間後、マスターベーションを行い精液全量を採取します。精液は事前に採取するのではなく、検査を受けるクリニックや医療機関に用意された個室で行うことが一般的です。採取された精液から精子の運動性、数、質の程度などを検査し、WHOの基準に沿って診断が行われます。
精液の状態はその日の体調やストレス因子などにより変動するものです。最初の検査結果が悪かったとしても、再検査で異常が認められない可能性もあります。
視触診
精巣や陰嚢のサイズ測定、左右の大きさを比較したときの差の有無などの検査を行います。サイズ測定には、オーキドメーターと呼ばれる機器を使用します。オーキドメーターは、さまざまなサイズの球状模型が連なった形をしており、実際の精巣と並べてみることで大きさを確認する機器です。触診は一般的に、ベッドに横になった状態で硬さや大きさなど主に外性器の診察を行ないます。
精索静脈瘤
精索静脈瘤は男性不妊の原因の多くを占めている疾患です。精巣への血流障害が原因となり、陰嚢の表面に凹凸が見られるほか、左右の大きさに差が出ることがあります。視診・触診での診察が可能なため、確認項目の一つに含まれています。外性器の診察は横になった状態で行いますが、精索静脈瘤の検査は立った状態で診察します。重症度が高いほど視診で確認しやすくなることが特徴です。
【種類別】男性不妊の治療方法
男性不妊は大きく分けて以下のように分類され、それぞれ治療方法も異なります。
- 造精機能障害
- 性機能障害
- 精路通過障害
造精機能障害は、疾患に応じて薬物療法か手術療法を行います。乏精子症や精子無力症には漢方、ビタミン剤などの薬物療法、精索静脈瘤は手術の適応となります。勃起不全(ED)に代表される性機能障害は主に薬物療法の適応です。状況によりカウンセリングが行われる場合もあります。精路通過障害では精路再建術(詰まっている精子の通り道を取り除き、つなぎ合わせる手術)などを行うことがあります。
次に、各分類における代表的な疾患について、治療法などの詳細を解説します。
1.造精機能障害
造精機能障害は主に薬物療法の適応となりますが、症状の程度に応じて生活習慣などの改善から始めることがあります。また精子の産生や運動性を阻害する薬剤を内服している場合は、可能な範囲で投薬を中止します。
乏精子症、精子無力症
乏精子症や精子無力症には、薬物療法として漢方やビタミン剤、血流改善薬などが用いられます。ただし、これらの薬物療法は確実な有効性が証明されているわけではありません。改善効果が期待できる薬剤を投与し、経過観察を行う形で進められます。薬剤の価格は比較的安価であり、副作用も少ないことから期間を設定して内服します。ビタミン剤と併用してホルモン療法を行うこともあり、この場合も一定期間内服して効果判定を行います。
精索静脈瘤
精索静脈瘤に対しては多くが手術適応です。精巣への血流障害によって引き起こされるため、手術により精巣へつながる静脈を遮断し血流を止めてしまいます。その結果、新たな血液の流れが再建され血流が改善します。
費用は術式によって異なり、2泊3日程度の入院で全身麻酔にて行う場合は保険適応で15万円程度、局所麻酔で日帰り手術の場合は自費診療となり22万円程度です。術前・術後の検査や通院回数に応じてさらに費用がかかる場合があるため、あくまでも目安として考えると良いでしょう。
2.性機能障害
性機能障害の原因は主に心理的なストレスです。そのため、まずは薬物療法やカウンセリングを行い、ストレス因子を取り除くことを中心に行います。医療機関やどのような治療を選択するかにより費用は異なります。
勃起不全(ED)
勃起不全に対しては、原因の種類に関わらず薬物療法が一般的です。ストレス因子や生活習慣病関連因子を取り除いたうえで、改善効果のある薬剤を内服します。勃起不全に対する治療は保険適応外であり、治療のための検査や通院回数など、医療機関によって費用が異なります。
早漏
早漏の原因は心因性によるものや性器が過敏になっていることなどが挙げられ、抗うつ薬などの薬物療法のほか、射精を我慢することでコントロールする方法があります。
性欲欠如
性交渉に対しての意欲が湧かない、性的な興奮が起こらないなどの場合は、ストレス因子の排除や薬物療法にて治療します。薬物療法にはホルモン剤が有効な場合があります。
精路通過障害
精路通過障害は精子の通り道である精管が詰まるために精液中に精子が認められない疾患です。閉塞性無精子症の場合は手術が適応となります。そのほか、感染症や炎症が原因で軽度の場合は薬物療法が用いられます。
手術の場合は、精路(精子の通り道)において塞がっている部分を除去して再びつなぎ合わせる方法(精管精管吻合術)や、精巣に直接精管をつなぎ合わせる方法(精管精巣上体吻合術)などがあります。医療機関によっても異なりますが、手術の場合の費用は保険適応で21万円程度が目安です。
先天性精管欠損
生まれつき精管が形成されていない状態です。この場合は手術や薬物療法での改善は望めず、精巣から直接精子を採取し顕微授精にて妊娠の成立を図ります。
射精管閉塞症
精巣の感染症や炎症が原因となり精路が詰まっている場合は、精管精巣上体吻合術の適応です。精巣と精管をつなぎ合わせることにより、術後の精液に精子が認められる可能性があります。精管の途中が閉塞している場合は精管精管吻合術の適応となり、詰まっている箇所を取り除いて再び精管同士をつなぎ合わせます。
尿道炎
性器クラミジア感染症など、何らかの感染症による尿道の炎症が精巣にまで及ぶことがあります。通常は抗菌薬の内服で治療を行いますが、重症化した場合は手術適応です。
人工授精も選択肢の1つ
原因と思われる疾患に対する治療を行っても妊娠に至らない場合、精子の産生機能に問題がなければ人工授精を選択することも視野に入れておきましょう。人工授精は、運動性の良い精子を採取し子宮へ直接注入する方法です。精子と卵子が受精に至るまでの過程を人工的に縮めることで妊娠の確率を高めます。
1回の人工授精につき、費用は15,000円から20,000円程度となりますが、前後の検査や通院回数にもよるため、あくまでも目安として考えましょう。
まとめ
女性側の問題として捉えられがちな不妊症は、男性側に原因があるケースも珍しくありません。ストレスや生活習慣以外にも、医療機関での検査でしか分からないような特定の疾患が隠れている可能性もあります。妊活をしていてもなかなか妊娠に至らないという場合は、パートナーと一緒に医療機関を受診し、専門医に相談すると良いでしょう。
また、年齢が上がると精子のなかの異常な遺伝子の数が増えるのですが、パパの年齢上昇と関係のあるお子さんの疾患リスク(積算リスク1/600とダウン症候群とより若干多くなります)をNIPTで検査することが可能です。ご興味のあるかたは以下の関連記事をご覧ください。
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