目次
NIPT陰性で流産、2回目は陽性。
40代・体外受精の体験談と専門医の解説
📍 クイックナビゲーション
今回は、40代前半で体外受精を経てご妊娠され、NIPTを2回受検されたAさんの体験談をご紹介します。陰性判定後の予期せぬ流産、不育症治療を経ての再妊娠、そして2度目で下された陽性判定と自然流産。悲しみの中で必死に命と向き合ったご夫婦の歩みを、臨床遺伝専門医の視点から丁寧に解説いたします。
Q. NIPTで「すべて陰性」だったのに、なぜ流産してしまうのですか?
A. NIPTは「特定の染色体や遺伝子の異常」を調べる検査だからです。
陰性であっても、不育症(血液の凝固異常など)や子宮環境、NIPTの対象外となる発育の揺らぎなどが原因で、初期流産が起こることはあります。決してご自身を責めないでください。
- ➤1回目の経験:陰性判定から突然の流産。不育症検査で見えた希望
- ➤2回目の試練:40代の体外受精で陽性判定。待つ間に訪れた自然流産
- ➤検査の真実:偽陽性を防ぎ、心をえぐらない「高精度な検査手法」の選び方
- ➤サポート体制:悲しみの淵にいるご夫婦を支える、当院の制度と遺伝カウンセリング
1. 1回目のNIPTはすべて陰性。それでも流産が起こる理由とは?
40代前半のAさんは、体外受精を経て待望のご妊娠を迎えられました。高齢妊娠ということで「赤ちゃんの健康をしっかり確認しておきたい」という強いお気持ちがあり、早期に当院のNIPTを受けられました。
結果はすべて陰性。広範囲な遺伝学的リスクを排除できたという安心感は、Aさんご夫婦にとって大きな希望となったはずです。しかし数週間後、赤ちゃんの心拍が突然停止し、流産宣告を受けることになりました。形態異常のない男の子でした。
Aさんが最初に受けられたのは、当時当院で提供していた非常に広範囲な検査です。現在の「ダイヤモンドプラン」に相当し、常染色体トリソミー、性染色体異数性、微細欠失(1/1000の積算リスク)に加え、56種の単一遺伝子疾患をカバーします。
56遺伝子には重度の合併症を伴う症候性(重症)自閉症の原因も多数含まれ、その多くは父親由来の精子の新生突然変異(de novo変異)が原因とされています(積算リスク1/600)。
(父親由来の遺伝子変異が子へ伝わるイメージ)
なぜ陰性でも流産してしまうのか?
ここで多くの妊婦さんが戸惑われます。「一番広範囲な検査で異常がなかったのに、どうして?」と。その理由は、NIPTは流産のすべての原因を予測するものではないからです。
流産には、染色体異常のように「受精卵自体」の問題のほか、母体側の血流の問題(不育症)、子宮環境、あるいは現代の医学では説明のつかない生命の揺らぎなど、さまざまな要因が絡み合っています。
NIPTが陰性であったということは「赤ちゃん側の遺伝的な主要リスクは低かった」という事実を示していますが、それは初期流産を完全に防ぐ魔法ではありません。決してご自身のせいではありませんので、どうかご自分を責めないでいただきたいと思います。
2. 不育症の検査と治療へ。次こそ元気な赤ちゃんを抱くために
深い悲しみの中、Aさんは立ち止まりませんでした。「なぜ流産してしまったのか?」その原因を探るため、不育症の検査で原因を突き止める行動に出られました。結果として、軽微な異常値が一つだけ見つかりました。
「妊娠を継続するためにできることは?」と医師と何度も話し合い、Aさんは次回の妊娠に向けて「バイアスピリンとヘパリンの併用療法」を開始することを決意します。
不育症の原因の一つに「血液が固まりやすい体質(血液凝固異常)」があります。胎盤の中で細い血管が詰まると、赤ちゃんに栄養や酸素が届かなくなり流産してしまいます。これを防ぐため、血液をサラサラにする薬(バイアスピリンの内服と、ヘパリンの自己注射)を用い、血流を改善し、流産リスクを低減するのがこの治療法です。
体外受精と不育症治療の過酷な道のり
不妊治療だけでも心身に大きな負担がかかる中、連日の自己注射を伴う不育症治療を重ねることは、並大抵の覚悟ではありません。着床後の発育停止に怯える日々を乗り越え、「次こそは」と再び体外受精に挑戦されたAさんの強さには、頭が下がる思いです。
原因が一つ見つかり、それに対するアプローチ(治療法)が明確になったことは、次こそ元気な赤ちゃんを抱くための希望へと繋がりました。
3. 40代・体外受精での2回目NIPT。陽性判定という厳しい現実
何度目かの挑戦の末、Aさんは見事にご妊娠されました。「今度こそすべてをしっかり確認したい」と、妊娠8週という早い段階で再び当院のNIPTを受検されました。妊娠8週からの早期受検が可能な点は、少しでも早く赤ちゃんの状態を知りたいご夫婦にとって大きな意味を持ちます。
不妊治療専門クリニックでの超音波検査では、赤ちゃんの順調な成長が確認されていました。しかし、当院からの結果報告は「トリソミー陽性」というものでした。予期せぬ陽性判定という重い現実に、ご夫婦は計り知れないショックを受けられました。
年齢要因と、正確な検査手法を選ぶ意味
悲しい事実ですが、40代では染色体異常の確率が上がるという生物学的な壁が存在します。一般的なダウン症(T21)のリスクは1/700と言われますが、年齢が上がるにつれてその確率は上昇します(当院の実績では1/70人が陽性となります)。
NIPTは母親の血液に溶け出した「胎盤由来のDNA」を調べる検査です。稀に、胎盤だけが異常で赤ちゃんは正常という「胎盤に限局したモザイク(CPM)」が起こります。
すべての染色体を広く浅く読む「ワイドゲノム法」では、このCPMの影響を拾いやすく、ワイドゲノム法による偽陽性のリスク(本当は異常がないのに陽性と出てしまうこと)が高くなります。心をえぐるような不要な不安を避けるためには、偽陽性を極限まで抑え、微小欠失の陽性的中率も>99.9%を誇るCOATE法(SNP法+ターゲット法)のような、精度の高いターゲット法を選ぶ重要性があります。
4. 超音波検査での初期流産と、遺伝カウンセリングが果たす役割
ご夫婦は何度も話し合い、当院の遺伝カウンセリングをお受けになることを決められました。NIPTはあくまでスクリーニング(非確定的検査)であるため、陽性判定を確定させるためには羊水検査や絨毛検査が必要です。
しかし遺伝カウンセリングの際、念のため実施した超音波検査で、残念ながら赤ちゃんの心拍は確認できませんでした。確定検査を待つ間の初期流産(自然流産)です。トリソミーなどの染色体異常がある場合、妊娠の継続が難しく、初期にお空へ還ってしまうケースは医学的にも珍しくありません。
結果を伝えて終わりではない、当院の伴走型サポート
Aさんは妊娠10週で手術を受けられることになりました。前回の掻爬(そうは)法で強い痛みを経験されていたため、超音波法での手術に対応できる医療機関のご案内をさせていただきました。
当院は限られた医療機関として、専門医による徹底した遺伝カウンセリングとサポートを提供しています。また、NIPT受検時の強制加入制度である安心結果保証制度(6,000円)により金銭的負担をカバーする仕組みも整えています。この制度は、再検査や確定検査が必要と分かったのに流産してしまい、検体を提出できなかった際などに保証が適用される、患者様を守るための大切な互助システムです。
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5. 臨床遺伝専門医からのメッセージ:つらい経験を乗り越え、未来へ進むご夫婦へ
二度にわたる流産。言葉に尽くせない悲しみの中にあっても、Aさんは「また体外受精を再開して、必ず戻ってきます」と力強くおっしゃいました。その生命に向き合う真摯な姿勢と強さに、私たちスタッフ一同、心からの敬意を抱かずにはいられません。
NIPTは万能ではありませんが、未来へ向けて正しい知識で備えることは、漠然とした恐怖を取り除くための強力な武器になります。ネットの情報に一人で思い悩まないでください。
当院では、強制加入の互助会(8,000円)により羊水検査費用が全額補助されます。金銭的な心配を取り除き、診断から確定検査、そしてその後の心のケアまで、院内で完結できる寄り添い続ける稀有な医療機関でありたいと願っています。
Aさんがいつか、温かく健康な赤ちゃんをその腕に抱ける日が来ることを、心より祈っております。私たちはいつでも、ここで皆様をお待ちしています。
よくある質問(FAQ)
🏥 ネットの情報に、ひとりで思い悩まないでください
NIPTの結果や流産の悲しみを抱え込むのは本当におつらいことです。
私たちは正確性と心の安全を最優先に、あなたにとっての次の一手を一緒に整理します。
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参考文献
- [1] ACMG. cfDNA screening(NIPT)に関するガイダンス [ACMG公式サイト]
- [2] ISPD. cfDNA Screening Position Statement [ISPD公式サイト]
- [3] 日本産科婦人科学会「母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)に関する指針」 [PDF]
- [4] 厚生労働省「不育症に関する主な研究報告」 [厚生労働省公式サイト]

