目次
ダウン症とは、正しくはダウン症候群といい、細胞内にある遺伝子を記録している構造体である染色体が1本多いために発症する先天性疾患群です。最初に報告したダウン博士の名前にちなんで名付けられました。
ダウン症には3つの種類があります。本記事では、3種類あるダウン症の1つであるモザイク型について、その原因や症状を詳しく解説いたします。
ダウン症のモザイク型とは?
本来、人の細胞内にある遺伝子を記録している染色体は23対で合計46本で構成されています。このうち、21番目の染色体が1本多く3本になることで発症するのがダウン症です。[注1]
人の精子と卵子に含まれている染色体は、細胞分裂が行われる過程で、23対46本から対となっているもののどちらか片方が残って23本まで減ります。これが、減数分裂です。やがて精子と卵子から23本ずつ染色体を受け継ぐことで23対46本となります。
減数分裂の際に、何らかの原因によって21番目の染色体が2本とも残って精子あるいは卵子に入ってしまう場合があります。これを染色体不分離といいますが、その状態で受精することにより2本と1本で3本となるのです。ダウン症の9割はこの染色体不分離が原因だとされています。
ダウン症には、標準型と転座型、モザイク型の計3種類があります。親の遺伝子が正常なある場合に子どもにダウン症の症状が見られるケースは、標準型と分類されます。一方で、親がダウン症であるために染色体転座の遺伝によって発症するのが転座型です。[注1]
このほかに、報告されているダウン症候群のケースのなかで、もっとも稀とされているのがモザイク型です。全体に対しておよそ1%だとされています。
モザイク型の場合、受精前の精子あるいは卵子の減数分裂の際に発生した染色体不分離ではなく、受精後の細胞分裂のときに染色体不分離が起きるために発症します。モザイク型は両親から遺伝するのではなく、突然変異によって発症するのです。
モザイク型というように、正常な細胞と21番目の染色体が1本多い細胞が混在しているのが特徴です。そのため、正常の細胞のほうが比率が高ければダウン症としての症状は軽いものとなります。
[注1]厚生労働省:21トリソミーのある方のくらし
www.mhlw.go.jp/content/11920000/000792732.pdf
モザイク型の症状や特徴
ダウン症の症状は、合併症や発達スピード、見た目の特徴といったところで見られます。ダウン症の合併症としてもっとも多く確認されているのが心臓疾患です。その数は、全体の報告例のうち半分にも及びます。なかでも、心室中隔欠損や心内膜欠損、動脈管開存といったものが多く見られます。
心臓疾患のほかにも、食道閉鎖や鎖肛、十二指腸閉鎖といった食道または腸に異常が見られることもあります。
また、発達スピードにもダウン症ではない場合と比べて違いが見られます。ダウン症の場合は、発達に遅れがあるのが特徴です。しかし、標準型と比較するとその遅れも少ないほうだとされています。
モザイク型は標準型とは異なり、染色体の異常と正常なものが混在しているためだと考えられています。この違いはIQにも見られ、標準型よりもモザイク型のほうが平均値が高いです。
標準型と比べるとモザイク型は染色体が正常な細胞も存在しますが、ダウン症であることには変わりありません。ダウン症を発症すると、身体的な部分にも特徴が見られます。とくに顔つきはわかりやすく、目は吊り上がって離れており、鼻や耳の位置が低くなりがちです。
これは、ダウン症であるために鼻の骨が欠損、あるいは成長が完全ではない状態で生まれてきてしまうために、周囲の骨や皮膚よりも成長の速度が遅くなります。顔の中心にある鼻の成長速度は遅いのに、周囲はそれよりも早く発達していくため、ダウン症患者の顔つきは似ているように見えるのです。
また、顔つきのほかにも筋肉の緊張度の低下や小柄で肥満傾向にありがちな特徴もあります。こういった身体的特徴についても、標準型と同様にモザイク型のダウン症患者にも見られます。
モザイク型は検査でわかる?
ダウン症患者は、700人に1人の割合で生まれてくるとされています。[注2]
これまでに報告されているダウン症の事例を分析してみると、標準型については0.18%で国内では年間でおよそ2,200人生まれているとされます。モザイク型はこのうちの2%とされているので、国内では年間でおよそ44人生まれていることになります。
年間で報告されているモザイク型の例は少ないですが、検査で確認することは十分に可能です。妊娠中、母体の血液には胎盤から流れ出ている胎児を由来とするDNAがおよそ10%含まれています。
すなわち、母体の血液から胎児のDNAについて検査を行い、染色体に異常がないかを調べることが可能です。この検査をNIPTといいます。母体の血液から検査ができるため、胎児に影響が及ぶことがなく、また流産のリスクもありません。
NIPTはとても有用な検査であり、ダウン症候群のほかにも18番目の染色体が多くなることで発症するエドワーズ症候群、13番目の染色体が1本多いために発症するパトウ症候群も、極めて高い精度で確認できるのがポイントです。
しかし、NIPTは確実にモザイク型かどうかを確認できるわけではありません。陽性であるのに陰性と検査結果が出てしまうのを偽陰性といいます。逆に、陰性であるのに陽性となってしまうことを偽陽性といいます。
NIPTによって偽陰性あるいは偽陽性が生じてしまうケースがあります。これは、母体に染色体異常が見られたり。胎児あるいは胎盤に正常な染色体と異常な染色体の混在が確認されたりするのが原因だとされています。
胎盤由来で正常な染色体と異常な染色体の混在が確認されたために、胎児の染色体は正常でも検査の結果は染色体異常があったと出てしまわないように、さらに検査の精度を高めていくことが今後の課題です。
[注2]有限会社 胎児生命科学センター|よくある質問「ダウン症とは?」
www.flsc.jp/contents/category/faq/
ダウン症モザイク型を抱えている場合の生活
モザイク型は標準型と比べるとIQが高い方であったり、発達の遅れも緩やかだったりします。ダウン症モザイク型を抱えている場合、周囲はどのようなサポートが必要なのか、詳しく解説いたします。
幼児期
ダウン症モザイク型を抱えて生まれてきた赤ちゃんも、そうではない赤ちゃんと同じように寝て、起きて、飲んで、トイレをします。
しかし、モザイク型の場合はいくつか注意することがあります。
まずは、成長の遅れに対して周囲が焦ってしまわないことです。普通の赤ちゃんと比べると成長の速度は遅いです。標準型よりも遅いことはない傾向にありますが、それでも焦りは禁物です。
成長が遅いからこそ、療育が必要となります。モザイク型の赤ちゃんが自分のペースでしっかりと成長していけるように、寝返りや歩き方、理学療法、着替え、食事、会話などの訓練を行います。
また、定期的に病院に行くことを忘れてはいけません。ダウン症は合併症が多いのが特徴です。とくにちょっとした変化や体調不良が見られた場合には、甘く見ず医師に見てもらったほうがよいでしょう。
学校
小学校までは、特別支援クラスだけではなく普通クラスに入る例も存在します。学校側のサポートが整っていれば、モザイク型でも普通クラスで他の子どもたちと一緒に過ごすことが可能です。
小学校を卒業してからは勉強の内容が本格化していくため、周囲と差が出てきます。特別支援学級に移るのを検討される親御さんも多くいらっしゃいます。
卒業後
学校を卒業してからは、就職の道が待っています。社会の理解やサポートが進んだ現代においては、ダウン症患者のための労働施設だけでなく、一般企業で働くことも難しいことはでありません。
就職のほかにも、オープンカレッジや専門学校、大学を目指すこともあります。その他、芸術やスポーツといった分野で自分の才能を発揮するケースも見られています。ダウン症を抱えていても自立できるようにと用意されたサポートを受けることで、自分らしく人生を歩まれている人はとても多いのです。
ダウン症モザイク型は標準型と比べると異なる部分が多い
ダウン症の報告例のなかでも、標準型と比べてモザイク型は稀なほうでその原因や症状も異なる部分が多いです。染色体に異常が見られない正常な細胞が混在するために、ダウン症の症状が緩やかに見られます。
それでも、ダウン症ではあるので、周囲は必要なサポートを受けさせてあげることが大切です。ダウン症についての理解やサポートは、以前と比べてずっと進んでいます。その人だけの個性や才能を活かして自分らしく生きていくことは十分に可能なのです。