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大人ASDの方の話し方にはいくつかの特徴があります。そして、その特徴が原因で会社でのコミュニケーションが上手くいかず悩んでいる方も少なくありません。
そこでこの記事では、大人ASDの方の話し方の特徴や具体的な会話の例を用いて、詳しく解説します。
「会社で上手くコミュニケーションができない」「話し方について指摘されることが多い」などの悩みを抱えている方は、ご自身の状況と照らし合わせながら読んでいただけると、ASDについての理解が深まります。
大人のASD(自閉スペクトラム症)とは?
大人になってASDであると気づく方も少なくありません。
そこでこの章では、大人のASDについて、特徴や困りごとなど具体的な内容がイメージできるように解説します。
ASDとは?
ASD(自閉スペクトラム症)とは、生まれつき脳機能に偏りがあることで発症する障害のことです。2013年にアメリカ精神医学会(APA)の診断基準DSM-5が発表されて以降は、下記の発達障害を総称して「ASD」と呼ぶことになっています。
- ・自閉症
- ・広汎性発達障害
- ・アスペルガー(Asperger)症候群
ASDは対人コミュニケーションが苦手という特徴があり、他者との関係作りや意思疎通が難しいことがあります。それでも幼少〜学童期までは個性やキャラクターとして成立しているため、本人や周りの大人も障害に気づかず過ごしていることも少なくありません。
一方、社会人になると協調性や協力することが求められるため、症状が悪目立ちしてASDであることに気づきます。「周りと上手く付き合えない」「集団生活がストレス」と感じているなら、ASDの可能性があります。
※参考資料:NCNP病院 国立精神・神経質医療研究センター/自閉スペクトラム症(ASD)
ASDの原因
ASDが発症する明らかな原因は解明されていません。最近の研究では、何らかの形で遺伝因子が影響して、胎児の時に脳機能の発達に偏りが出るためと考えられています。
ASDを始めとする発達障害は、親の育児や生活環境が原因という噂や風潮があります。しかし、これらは根も葉もない噂にすぎませんので、ご安心ください。
大人ASDの特徴
大人になってから ASD であると気づくケースも少なくありません。
大人のASDの代表的な特徴は、以下の3つです。
- ・対人コミュニケーション障害
- ・特定のことへの強いこだわり
- ・外的な刺激の過敏症
上司や同僚との人間関係作りや対人コミュニケーションが苦手で、会社では変わり者扱いをされてしまうこともしばしばあります。
大人ASDの具体的な特徴は、以下の通りです。
- ・チームワークが必要な仕事やグループディスカッションが苦手
- ・会社での人間関係の構築が苦手
- ・会社の環境に慣れるのに時間がかかる
- ・業務連絡や会話をすると噛み合わないことが多い
- ・言葉で伝えるのが苦手だけど、視覚情報が加わると得意になる
- ・仕事や会社の人に興味を持てない
- ・自己流で仕事を進めて周りから反感を買うことがある
「自分はASDではないか?」と疑っているのであれば、これらの特徴とあなたが抱えている状況を照らし合わせてみましょう。また、これらの特徴は働くようになり、周りから指摘されて初めて気づくケースも少なくありません。
では、次に大人ASDの方の具体的な困りごとについて解説します。
大人ASDの困りごと
ASDの方は、急激な変化に弱いという特徴もあります。
例えば、社会人になり人間関係や生活環境がガラッと変わると適応できなかったり、できたとしても人より時間がかかったりと過度なストレスを感じるでしょう。
ASDの症状が目立つようになると、以下の困りごとが出てきます。
- ・会話が続かない
- ・相手の気持ちが分からず苦労する
- ・その場の空気や流れを汲んだ言動・行動ができない
- ・思ったことがすぐ口に出る
- ・急な予定変更でパニックになる
- ・抽象的な指示を出されると理解できない
- ・いつも同じミスをする
- ・マイペースが乱される集団行動は苦手
- ・職場の音やニオイが気になって仕事に集中できない
複数当てはまった方もいるのではないでしょうか?
ASDが原因でこれらの困りごとを感じるなら、症状を上手くコントロールすることで
改善の余地があります。気になった方は、お近くの心療内科や精神科がある病院に相談するのも良いでしょう。
大人ASDのチェックリスト
ASDの確定診断を受けるには精神科(心療内科)のある病院を受診する必要があります。
しかし、自分がASDを疑っているだけで、精神科の病院に行くのはハードルが高いと感じる方も多いのではないでしょうか?
そこで、自宅で簡単にASDかを確認できるチェック方法について「セルフチェック可|大人のASD(自閉症スペクトラム障害)とは?|今悩んでいるあなたへ」の記事で紹介しています。ぜひ、ご覧ください。
また、チェックリストでASDの可能性があれば、病院を受診するためのきっかけにもなります。
大人ASDの話し方の特徴・原因・会話の具体例
大人のASDの方の話し方には特徴と原因があります。
この章では、特徴やその原因・具体的なシチュエーションを用いて大人のASDの話し方について詳しく解説します。
ASDの話し方の特徴
ASDを疑っている方の中には「普段から話がどうも伝わりにくいな」と感じている方も多いのではないでしょうか?
実際、ASDの話し方には以下の特徴があり、会話が成立しないことも多々あります。
- ・相手の意図したことを踏まえて会話できない
- ・一方的な会話になる
- ・説明文が長い
- ・抽象的な表現ができない
- ・冗談や比喩、皮肉が分からない
- ・事実や状況は伝えられるが、気持ちを伝えられない
- ・視線を合わせるのが苦手
- ・集団で会話が始めると黙り込む
- ・興味のある会話にだけ熱心になる
ASDの方は相手の気持ちをイメージしながら話すのが苦手です。そのため、相手の気持ちを考えずに不快に感じることを言ったり、一方的に話し続けたりする特徴があります。
ただし、全てのASDの方に当てはまるわけではありません。会話の内容や話し相手によって、誰にでも得意・不得意はあります。
「どうも会話が噛み合わないな」「話し相手が困った表情になっている」などがあれば、この章で紹介した特徴がないか確認してみましょう。
ASDが特徴的な話し方になる原因
ASDが特徴的な話し方になる原因は、以下の通りです。
- ・相手の気持ちを「イメージ」「共感」できない
- ・言葉や文章だけだと具体的なイメージに結びつかない
- ・感情表現が苦手
- ・特定のことだけに強いこだわりがある
相手の気持ちをイメージできないため、一方的な会話になる傾向にあります。言葉や文章だけではイメージできないため、説明文が多く会話が長いと感じさせてしまいます。しかし、相手が退屈になり表情や態度が変わっても、それにすら気づくことができません。
また、特定のことだけに強いこだわりがあり、会話に偏りが出ます。興味のある会話には積極的に参加できるものの、それ以外の話題にはついていけないこともあります。
「協調」や「共感」が求められる社会でこのような会話をしていると、上手くコミュニケーションがとれず、次第に孤立することになります。
ASDの会話の具体例
ASDの会話の特徴と原因について触れてきました。そして、より具体的なイメージを持ってもらうために、以下の具体例で大人ASDの話し方について見ていきましょう。
以下は新社会人でASDの方を想定した会話です。ご自身と比べながら読んでいただけると幸いです。
部長「昨日お願いした急ぎのプレゼン資料はできた?」
大人ASDの方「ええぇっと、昨日から作り始めましたが、部長から説明していただいた〇〇の部分が分からず、結局夜中の2時まで作成していたのですが、寝落ちしてしまって。」
部長「つまり、まだできていないってこと? 急ぎの資料なのに、どうして昨日説明した時点で確認しなかったの?」
大人ASDの方「その場で部長に確認しても教えてくれそうになかったので、聞きませんでした」
部長「(怒りや情けんさから表情が曇る)…。」
大人ASDの方「資料が間に合わなかった場合、部長がお願いしたら、どうにかしてもらえますか?」
会話が噛み合わず、相手(今回だと部長)の気持ちが置き去りになっていることが分かります。一方で大人ASDの方は、相手が怒っていることすら気づいていません。
もし会社で話し方について指摘されたなら、ご自身の話し方の特徴を探って見るも良いでしょう。
大人ASDの方がスムーズな会話をするための改善方法
今後はスムーズに会話ができるようになりたいと思った方もいるのではないでしょうか?
ASD自体は生まれつきの障害であり、完治することはありません。しかし、ASDの特徴を知りつつ適切な対処ができれば、社会生活を送る上で話し方に困ることはありません。つまり「治す」のではなく「学んで徐々に改善する」といったイメージです。
具体的な改善方法は、以下の2つです。
- ・自己理解
- ・会話トレーニング
まずはあなたの会話の特徴を探ります。家族や知人に協力してもらい、あなたが意図した内容の話が相手に伝わっているかを確認しましょう。そして、気づきや改善点は忘れないようにメモをして、都度振り返れるようにしておくことが大切です。
そして、次に会話トレーニングを始めます。あなたの話し方の特徴を踏まえた上で、どのような会話にすると上手なコミュニケーションができるかを考えましょう。
例えば、「一方的に話されて不快になった」と言われたなら、30秒に1回は話を相手にパスすると良いでしょう。そして、実際の会話で試して見て、相手に不快感を与えなければ、今後の会話で意識すべきことになります。
一度で全て改善できる人はいません。徐々にでも確実に改善しましょう。
「ASDかな?」と思った方が次にすべき3つの行動
ASDを疑い一人で悩んでも解決することはありません。
そこで、疑ったら以下の3つの行動をすべきです。
- ・専門病院を受診する
- ・発達障害者支援センターで相談する
- ・障害者就業・生活支援センター
相談相手を見つけて、客観的にあなたのことを評価してもらうことが重要です。
専門病院を受診する
精神科や心療内科のある専門病院で相談しましょう。
初めて受診する方の中には「ASDと診断されたらどうしよう…」と不安に感じる方も多いと思います。ネガティブなイメージから受診までのハードルが高くなってしまう恐れがあります。
しかし、受診が遅れて障害や症状が悪化すると、今よりも社会生活を送ることが難しくなりかねません。
医療機関を受診すると以下のメリットがあります。
- ・確定診断を受けられる
- ・自分の話し方や行動を分析してもらえる
- ・専門的な治療を受けられる
確定診断があれば治療を始めたり、障害者手帳の交付ができたりします。ASDは症状をコントロールしながら生涯付き合っていく障害です。そのため、周りのサポートを上手く活用することが大切です。
医師や看護師をはじめ専門家にアドバイスをもらいながら、今抱えている悩みを解決していきましょう。また、障害者手帳で受けられる各種サービスは、ASDによる経済的な負担を減らしてくれます。
これら病院で確定診断を受けるメリットについて、より詳しく知りたい方は「発達障害の種類|子どもの成長具合が心配な親が今すべき全ての行動を解説」の記事が参考になるので、ぜひご活用ください。
発達障害者支援センターで相談する
社会・日常生活を送る上での相談なら発達障害者支援センターがおすすめです。
発達障害者支援センターとは、発達障害者へ総合的な支援をするための都道府県・指定都市が主体で運用する専門機関のことです。
保健、医療、福祉、教育、労働などの専門機関と協力し合い、発達障害者またはその家族が、スムーズに地域生活を営んでいけるようなネットワーク作りを目的に設置されています。
発達障害者支援センターを受診するメリットは、以下の通りです。
- ・ASDに関する情報収集ができる
- ・具体的な悩みや困りごとを相談できる
- ・地域の専門機関と連携してもらえる
発達障害者支援センターを利用するなら、各市区町村が指定した社会福祉法人・特定非営利活動法人等へご確認ください。
各都道府県の発達障害者支援センター一覧は、国立障害者リハビリテーションセンターのサイトで調べることができます。
※参考資料:国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター/発達障害者支援センター・一覧
障害者就業・生活支援センター
ASDの確定診断を受けたなら、障害者就業・生活支援センターを利用できます。
障害者就業・生活支援センターとは、国や県が実施主体になって障害者の就業・生活面の相談・支援を行う機関のことです。
具体的なサービスは、以下の通りです。
- ・就業に関する相談・支援
- ・雇用管理に関する助言
- ・日常生活に関する相談・助言
- ・関係機関との連携
また、関係機関との連携については、厚生労働省の以下の図解が参考になります。
(厚生労働省/障害者就業・生活支援センターについてより画像引用)
障害者の方が安心して仕事や生活ができる仕組み作りがされています。「今している仕事が本当に自分に向いているの?」「自分に合った仕事が知りたい」というASDの方は、利用して損はないでしょう。
※参考資料:厚生労働省/障害者就業・生活支援センターについて
大人ASDの方の仕事選びとコミュニケーション術
大人ASDだからといって仕事や対人コミュニケーションを諦めてはいけません。
あなた自身の特徴を知った上で仕事を選んだり、コミュニケーションをしたりすることで十分改善できるからです。
この章では、大人ASDの方の仕事選びやコミュニケーション術についてお伝えします。
ASDの強みを活かせる仕事とその特徴
ASDの方には以下の特徴がありました。
- ・対人コミュニケーション障害
- ・特定のことへの強いこだわり
- ・外的な刺激の過敏症
これらの特徴は弱点として捉えられがちですが、視点を変えてみるとASDだからこその強みにもなります。
例えば、対人コミュニケーションが苦手なら1人作業に向いていると考えられます。特定のことに強いこだわりを持てるため、専門性の高い仕事やアーティスト活動の素質を発揮するかもしれません。つまり弱点と強みは表裏一体ということです。
ASDの方におすすめの代表的な仕事は、以下の通りです。
1人の時間を大切にしつつ、ASDの強みを活かせる仕事は色々とあります。社会生活に息詰まり、働くことが辛いと感じている方は、ご自身の特徴を踏まえた上で自分に向いている仕事選びができるようになりましょう。
ASDの方が仕事で意識すべきコミュニケーション術
ASDだから話し方は改善できないと諦めるのはまだ早いです。
なぜなら、仕事中にこれからお伝えするコミュニケーション術を意識するだけでも、劇的に改善する可能性があるからです。
具体的な方法は、以下の通りです。
- ・受信メインの会話を意識する
- ・疑問はその場で解決する
- ・教えてもらったことはすぐメモに残す
- ・メモしたことは、家に帰ってまとめる
- ・仕事の指示は復唱して確認する
- ・抽象的な指示は納得するまで確認する
- ・メールやチャットなどのコミュニケーションツールを活用する
一方的な会話をしてしまうなら、 受信メインの会話を意識しましょう。相手の考えや伝えたいことは、相手発信がなければ知ることはできません。
また、疑問があれば「それって〇〇ということですか?」とその都度解決しておくことも大切です。教えてもらったことはメモして後で振り返れば、仕事のミスや抜け漏れを減らせるでしょう。
対面でのコミュニケーションが苦手ならメールやチャットを活用することもできます。
このようにASDと上手く付き合いつつ、自分に合ったコミュニケーションの方法を探ることも社会生活を送る上で大切な考えなのです。
まとめ: 大人ASDの話し方の特徴を知り、一歩ずつ改善しよう!
以上、大人ASDの話し方の特徴について詳しく解説しました。以下の特徴から対人コミュニケーションを苦手に感じるASDの方も少なくありません。
- ・相手の意図したことを踏まえて会話できない
- ・一方的な会話になる
- ・説明文が長い
- ・抽象的な表現ができない
- ・冗談や比喩、皮肉が分からない
- ・事実や状況は伝えられるが、気持ちを伝えられない
- ・視線を合わせるのが苦手
- ・集団で会話が始めると黙り込む
- ・興味のある会話にだけ熱心になる
しかし、これらの特徴は改善することができ、社会生活を送る上でスムーズなコミュニケーションを取れるようになります。そのためには、まずはご自身の話し方の特徴を知ることが重要です。
あなたとの会話で感じた率直な感想を聞き、相手に不快感を与えないための具体的な改善策を考えるようにしましょう。
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