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自閉症スペクトラム障害(ASD)は、遺伝的要因が大きく関わる複雑な神経発達状態です。最近の研究では、200以上の感受性遺伝子と、ほぼすべての染色体に関連する細胞遺伝学的異常が自閉症と関連していることが明らかにされています。遺伝的リスクの大部分は一般的な遺伝的変異によるもので、個々の変異は小さい効果を持ちますが、それらが集合的にリスクを高めます。さらに、稀な、しばしばde novoで、潜在的に有害な変異によって示唆される100以上のリスク遺伝子も同定されています。これらの発見は、ASDの複雑な遺伝的アーキテクチャと臨床的異質性を反映しており、将来的には遺伝学、エピジェノミクス、トランスクリプトミクスなどのマルチオミクスデータを統合した研究が進められることが期待されています。
自閉症と遺伝
自閉症についての遺伝的要因は、現代の遺伝学と精神医学の重要な研究分野の一つです。自閉症には遺伝的な要素が大きく関わっていることが知られています。具体的には、自閉症の遺伝的リスクのうち少なくとも50%が一般的な遺伝的変異によって説明されるとされています。これは、多くの異なる遺伝子の小さな変異が累積してリスクを高めるということを意味します。
さらに、約15~20%のリスクは「de novo」(新規)突然変異、つまり親からは受け継がれず、子ども自身で新しく発生した遺伝的変異によるものと推定されています。これらの変異は、通常、生殖細胞の形成過程で偶発的に発生します。
ただし、自閉症の遺伝的リスクに関してはまだ完全には理解されておらず、残りの遺伝的リスク要因は未だに明らかになっていません。研究者たちは、環境要因や未知の遺伝的メカニズムがこのリスクにどのように寄与しているかを解明するために努力を続けています。
この分野は非常に複雑であり、自閉症の原因や発症メカニズムについては未だ多くの未解決の問題があります。しかし、遺伝学とゲノム科学の進歩により、自閉症のより良い理解と治療法の開発につながる新しい知見が得られつつあります。
自閉症には強い遺伝的要素があり、遺伝率は約80~90%と推定されていますが、遺伝的変異が自閉症発症の全てを説明するわけではありません。自閉症は多くの場合、単一の遺伝子変異ではなく、複数の遺伝子の影響によって発生することが多いです。特定の家族や一卵性双生児の研究は、自閉症の発症に遺伝が大きく寄与することを示していますが、環境要因も影響するため、遺伝率は疾患が遺伝学のみによって決定されるわけではないことを意味します。
自閉症の症例の約10~15%は単一遺伝子疾患やコピー数変異(CNV)によるものであり、これらは症候群性自閉症を引き起こすことがあります。家族調査によって、神経発達や機能に関与する多くの候補遺伝子が特定されていますが、自閉症を引き起こす特定の変異はまだ特定されていません。自閉症の遺伝学は非常に複雑で、異なる自閉症患者間で異なる遺伝子セットの変異が関与する可能性があるとされています。また、遺伝的連鎖分析は決定的ではなく、多くの関連分析によって自閉症に関連する遺伝的変異が発見されています。なお、自閉症ゲノムプロジェクトのデータベースには、自閉症を遺伝子座に結びつける多くの遺伝的連鎖とCNVデータが含まれており、この分野の研究は進行中です。
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自閉症は男性が多いのはなぜ?に一つの答えを最新研究から
自閉症は全ての人種、民族、社会経済的集団に影響を及ぼすが、男性における発症率が女性よりも高いということは広く認識されています。この男女比率(4:1)に関する研究は、自然突然変異が男性では高い浸透率を、女性では低い浸透率を示すと結論付けています。
特に、X染色体上の特定の遺伝子、例えばNLGN4Xの変異がASDに関連していることが指摘されています。これは、男性がX染色体を1本しか持たず、女性が2本のX染色体を持っているという生物学的事実に関連しています。男性では、X染色体上の遺伝子に変異がある場合、その変異の影響を受けやすいのに対し、女性はもう1本の正常なX染色体でその変異を補うことができるため、症状が出にくいという理論です。NLGN4遺伝子はX染色体とY染色体にそれぞれあり、NLGN4X、NLGN4Yと表記されます。
NLGN4XとNLGN4Yは、神経リガンドとして働く遺伝子です。これらはニューロン間のシナプス形成と機能に重要な役割を果たしています。NLGN4XはX染色体上にあり、NLGN4YはY染色体上にあります。
ここでの主な違いは、NLGN4Xが自閉症スペクトラム障害(ASD)と関連していることが多いということです。この遺伝子の変異は、特に男性でASDのリスクを高めると考えられています。なぜなら、男性はX染色体を1つしか持っておらず、そのX染色体上にあるNLGN4X遺伝子に変異がある場合、補うことができる別のX染色体がないからです。
一方で、NLGN4Yは男性のY染色体上に存在しますが、NLGN4Xの変異と同じくらいASDと強く関連しているわけではないようです。研究によれば、NLGN4Yタンパク質は機能的にNLGN4Xタンパク質と異なるか、またはその機能が不十分であるとされています。これは、Y染色体上のNLGN4Y遺伝子がX染色体上のNLGN4X遺伝子と完全に同一ではなく、違う形や量のタンパク質をコードするためかもしれません。
女性の場合、2つのX染色体があり、1つに変異があってももう1つの正常なNLGN4X遺伝子がその機能を補うことができるため、ASDの表現型が出にくいとされています。これは「X染色体の不活性化」という現象とも関連しており、女性のX染色体の1つがランダムにほとんどの細胞で不活性化されるため、変異遺伝子があっても影響が現れにくくなります。
以上のように、NLGN4XとNLGN4Yの違いは、ASDの性差に影響を与える重要な要素となっています。これらの遺伝子がどのように機能し、どのようにしてASDのリスクに寄与するのかについては、引き続き研究が必要です。
また、NLGN4Yタンパク質が機能不全であることから、男性がASDを発症するリスクが高まる可能性が示唆されています。女性が2本のX染色体を持っているため、1つのX染色体上に変異があっても、もう1つのX染色体がその機能を代替することができることが、この性差の理解に貢献しています。
これらの研究成果は、ASDが男女で異なる発症率を示す遺伝的メカニズムを解明する重要な一歩です。しかし、これはまだ研究が進行中の分野であり、新しい発見がこれらの理論をさらに発展させる可能性があります。性染色体の違いがASDの発症にどのように影響を及ぼすかについての理解を深めることで、将来的にはより効果的な診断や治療方法の開発につながるかもしれません。
自閉症スペクトラム障害(ASD)の遺伝的要因に関する最近の研究
自閉症スペクトラム障害(ASD)の遺伝的要因に関する最近の研究からの主要な発見は以下の通りです。
感受性遺伝子の同定:200以上の自閉症に関連する感受性遺伝子が同定されており、ほぼすべての染色体で細胞遺伝学的異常が報告されています。MTHFR C677T、SLC25A12、OXTR、RELN、5-HTTLPR、SHANKなどの遺伝子がASDに関連する候補遺伝子として挙げられています。これらの遺伝子は31のメタ分析と10の体系的レビューの結果に基づいて選ばれました。特にMTHFR C667T変異は、ASDのリスク要因として一貫して同定されています。
複雑な遺伝的構造:ASDの遺伝的風景は複雑であり、一般的な稀な変異、点突然変異、大きなコピー数変異、遺伝的および自発的(de novo)な変異を含んでいます。100以上のリスク遺伝子が、高度に制約された遺伝子における稀で、しばしばde novoで、潜在的に有害な変異によって示唆されています。これらは個々のリスクに大きく寄与しますが、集団リスクの小さな割合を占めます。遺伝的リスクの大部分は、個々には小さな効果を持つ一般的な遺伝的変異に起因しています。確実に関連する一般的な変異も同定されています。
最近の発展と方法論:2018年から2022年のASD遺伝研究に関する科学的レビューは、Scopusから抽出された14,818の記事を分析し、多数の遺伝的座位と遺伝的シーケンス、発現、エピジェネティック変換、および他の生理学的および環境システムとの相互作用における数百の変化を特定しました。この研究はASD遺伝研究内の様々なサブトピックを代表する12の主要なクラスターに整理されています。
これらの所見は、ASDに関連する遺伝的要因が多数であり、さまざまであることを示しています。ASDの遺伝的アーキテクチャの複雑さは、臨床的な異質性を反映しており、異なるリスク遺伝子が遺伝子調節やシナプス接続のような同じメカニズムに収束しています。しかし、表現型の異質性、大きな座位異質性、変異貫通率の変動、広範な多様性といった課題が残っています。今後の研究は、遺伝子組換えデータ、エピジェノミクス、トランスクリプトミクスなどのマルチオミクスデータを統合し、精緻化された表現型評価を行うことで、ASDの遺伝的基盤をさらに洗練させることが期待されています。
自閉症の双子の研究成果
双子の研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)における遺伝的および環境的影響を理解するための重要な手段です。一卵性(MZ)双生児は同一のDNAを共有し、二卵性(DZ)双生児はDNAの約半分を共有します。これにより、研究者は一方が自閉症と診断された場合の双生児間の一致率を比較することで、自閉症の遺伝率を推定できます。
遺伝的要因のみによる状態は、一卵性双生児間で高い一致率を示すのに対し、環境因子の影響が大きい状態は、二卵性双生児間でも同様の一致率を示します。例として、遺伝的影響が低いとされる過敏性腸症候群(IBS)は、MZとDZの一致率がほぼ同じです。一方、遺伝的要因が高いとされる目の色は、MZペアでは高い一致率を、DZペアでは低い一致率を示します。
自閉症の場合、一卵性双生児の研究では、自閉症の遺伝率が36%から95.7%の範囲にあることが示されています。一般人口に比べて、自閉症の兄弟間での発生率は20~40倍高いとされています。自閉症の遺伝性を明らかにするために行われた双子の研究では、一卵性双生児間での自閉症の一致率が非常に高いことが示されており、これは遺伝的要因が重要であることを示唆しています。しかし、一卵性双生児でも自閉症の発症には一致しないケースが存在し、これは環境要因も影響している可能性があることを示しています。
双子の研究には限界もあり、一卵性の診断の誤りや二卵性双生児による社会環境の共有が一卵性双生児と同等であるという仮定が挙げられます。また、双子の研究はそのサイズが小さい場合があり、その結果を一般化することには慎重である必要があります。過去の研究では、一卵性双生児の間での自閉症の一致率が非常に高いことが報告されていますが、これは自閉症の強い遺伝的要因を示唆しています。しかし、自閉症の発生には遺伝的要因だけでなく環境要因も関与している可能性があることを忘れてはなりません。
自閉症患者の兄弟の研究成果
兄弟研究では、自閉症発端者の兄弟姉妹の中で、自閉症の一致率は2.9%、自閉症の軽度の変異型については12.4%から20.4%の一致率が見られました。このことは、自閉症の兄弟において、自閉症特有の特徴や関連症状がより一般的であることを示唆しています。
また、自閉症児の兄弟は空間的および言語的能力に優れる一方で、セットシフトや計画、言語流暢さなどの課題で低い成績を示すことがあります。これは、自閉症の影響が兄弟にも部分的に見られることを意味します。
デンマークの研究では、自閉症のリスク要因として、都市化の度合いや父親の年齢、母親の精神疾患歴などが関連していることが判明しました。自閉症児の兄弟における自閉症の有病率は1.76%と報告され、これは一般人口の有病率0.08%と比較して高い値です。アスペルガー症候群または広範性発達障害を持つ児童の兄弟では、自閉症の有病率が1.04%と報告されました。
2007年の研究では、三番目に生まれた男児のうち42人が自閉症症状を示し、自閉症の約50%が自然突然変異によるものであることが示唆されました。このモデルは、自閉症児の約4分の1が親からコピー数変異を受け継いでいることを示唆しています。
これらの研究は、自閉症の発生には遺伝的要因が大きく関与しているが、親からの直接的な遺伝だけではなく、新たな遺伝的変異も関与していることを示唆しています。
自閉症患者の家族を対象とする研究
自閉症の家族研究では、自閉症児の親の特徴や家族歴に関するさまざまな側面が調査されています。
1994年の研究では、自閉症児の親が「よそよそしく、無礼で、反応が鈍い」という性格特性を示す傾向があることが判明しました。これは、自閉症児の親特有の性格傾向を示唆するものです。
1997年の研究では、自閉症が多発する家族で、社会的コミュニケーションの欠陥や常同的行動がより多く観察されました。また、自閉症児の父親や祖父の中に技術者やエンジニアが多いことが明らかになり、これは「オタク症候群」という用語の造語につながりました。
2001年の研究では、自閉症児の兄弟や両親が示す「認知スタイル」に着目し、広範囲の自閉症表現型には情報処理の利点をもたらす可能性があることが示唆されました。
2005年の研究は、自閉症者の反復行動と親の強迫行動との間に正の相関があることを示し、自閉症の特徴が親子間や配偶者間で類似している可能性を示唆しました。
アスペルガー症候群を持つ家族の精神病歴に関する2005年の報告書では、統合失調症やうつ病の家族歴が高い割合で存在することが明らかになりました。また、アスペルガー症候群を持つ家族では、ASの第一親等血縁者が存在する割合も高くなっています。
2022年の母子二人組を対象とした研究では、母親のうつ病が子どもの行動問題を予測しないことが示されました。
これらの研究は、自閉症の発生には遺伝的要素が重要であると同時に、家族内の社会的、認知的特性が自閉症の特徴に影響を与えることを示唆しています。
自閉症の遺伝に関して想定されるモデル
自閉症の遺伝に関して想定される主要な遺伝モデルには以下のようなものがあります。
- 多因子遺伝モデル:このモデルでは、自閉症は多くの遺伝子の小さな変異が積み重なって引き起こされると考えられます。これらの変異は個々には小さな影響を及ぼすものの、合わせるとリスクが顕著に増加します。
- 単一遺伝子モデル:特定の遺伝子変異が直接的に自閉症の原因となるケースも存在します。このモデルは、特定の遺伝子に関連する特定の症候群(例えば、フラジールX症候群やトゥーレット症候群など)においてより顕著です。
- de novo変異モデル:このモデルでは、親からは遺伝しない新規の変異(de novo変異)が自閉症のリスクを高めるとされます。これらの変異は、子ども自身の遺伝子において新しく発生するものです。
- エピジェネティックモデル:遺伝的な要素に加えて、エピジェネティクス(遺伝子の発現を調節するメカニズム)の変化も自閉症の発症に関与すると考えられます。このモデルは、遺伝子そのものではなく、遺伝子の活性化や非活性化に焦点を当てます。
これらのモデルは、自閉症の遺伝的な原因が多様であり、一つの単純な説明ではすべてを説明できないことを示しています。遺伝学の進歩により、これらのモデルはさらに洗練され、新しい理解が得られる可能性があります。
まとめ
自閉症と遺伝についてお書きしてきましたが、最新の研究で、男性が女性に比べて圧倒的に多いことの手がかりも得られて来たりしていて、この分野の研究の進展が素晴らしいことがわかりました。
自閉症と遺伝の関係について研究が進んでいる中、ミネルバクリニックでは、自閉症に関係していると報告されている遺伝子をひとまとめに検査できる自閉症遺伝子検査パネルを取り扱っております。また、自閉症は知的障害を伴う事も多いですので、自閉症と知的障害のパネルを一度に検査することも可能です。是非ご検討ください。
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