目次
「会社に勤めるようになり、いつも同じミスを指摘される」
「どうして周りと同じように仕事ができないの…」
このようなお悩みがあれば、ADHDの可能性があります。
しかし、ADHDを疑ったとしても受診先や治療のイメージが持てないため、放置しているケースも少なくありません。
そこでこの記事では、ADHDの治療に関する以下の内容について解説します。
- 大人のADHDの原因や種類
- 受診先や具体的な治療法
- 大人のADHDで悩んだ方の体験談
ADHDの診断をしてもらい、適切な治療を受けられれば、症状をコントロールすることも可能です。ご自身のADHDを疑ったり、症状に悩まされたりしているなら、ぜひこの記事を一読ください。
「ADHD(注意欠如・多動症)」という発達障害を理解する
ADHD(Attention-Deficit Hyperactivity Disorder)とは「注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害」と呼ばれる生まれつき、もしくは生まれた後に発症する発達障害の一種です。
近年、社会的な理解が進んできたこともあり、子どもだけでなく大人のADHDにも注目されています。不注意や多動・衝動性などの症状から、人間関係や社会生活の営みに難しさを感じる方が多いようです。
従来は「注意欠陥・多動性障害」という診断名でしたが、2013年に米国精神医学会が発行DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)により「注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害」に統一されました。
では、大人のADHDの原因と特徴(症状)について詳しく見ていきましょう。
大人のADHDの原因
近年の研究によると、ADHDが発症する原因は脳の前頭葉の働きが弱い、もしくは偏りがあることで発症すると考えられています。前頭葉は行動・感情をコントロールする働きがあります。
前頭葉によりコントロールされている具体的な日常行動は、以下のとおりです。
- 考える
- 記憶する
- 集中する
- 興味をもつ
- 外的な刺激に反応する
つまり、これらの働きをコントロールできずに、ADHDの症状が発症するのです。生まれつき(遺伝因子)や出生後の家庭・生育環境(環境要因)のどちらも発症に影響すると考えられています。
また、男女比だと「男性:女性=2:1」と男性の方が圧倒的に多く、女性は不注意の特徴が目立つ傾向にあります。
厚生労働省によると、学童期の小児の「約3〜7%」がADHDと考えられています。しかしながら、大人のADHDは近年注目され始めたので、どれくらいの割合になるかは未知数なのが現状です。
なお、ADHDの遺伝については「子どものADHDは遺伝する?確率や5つの特徴、検査・治療まで解説」の記事で詳しく解説しているので、参考にしていただけると嬉しいです。
参考資料:厚生労働省 e-ヘルスネット/ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療
大人のADHDの3つのタイプと特徴(症状)
ADHDのタイプは、以下の3つに分類されます。
- 不注意優勢型
- 多動性–衝動性優勢型
- 混合型
「不注意優勢型」とは、多動・衝動性の症状はありませんが、不注意が目立つタイプのADHDです。外的な刺激に敏感であるが故に不注意になり、周りにばかり注意がいく結果、本来すべきことがなかなか進まなかったり、ミスをしたりします。
例えば、会社で同じミスを繰り返したり、職場の物音が気になって仕事が全く手につかなかったりするなどの特徴が考えられます。
「多動性–衝動性優勢型」とは、不注意については気になりませんが、多動・衝動行動が目立つタイプのADHDです。考えるより行動するタイプで、感情や欲求のコントロールができません。
そのため、グループワーク・ディベートなど協調性が求められる社会人になると、周りに合わせた行動ができず、悪目立ちする可能性があります。
「混合型」とは「不注意優勢型」と「多動性–衝動性優勢型」のミックスです。どちらの特徴も含んでおり、症状が混在しているため、一つひとつの症状を紐解いて解決してあげる必要があるでしょう。
大人のADHD治療の種類:心理社会療法
ADHDの治療の基本は、心理社会療法です。
身の回りの環境調整をはじめ、専門家との関わりを通して、症状をコントロールできるようになれれば、現在よりも少しは気持ちに余裕ができます。
心理社会療法には、以下の6つがあります。
- 治療①:環境調整
- 治療②:認知行動療法
- 治療③:ソーシャルスキル・トレーニング(SST)
- 治療④:コーチング
- 治療⑤:ニューロフィードバック
- 治療⑥:ペアレントトレーニング
それぞれの治療法の特徴がわかれば、今後あなたに必要な治療を考える判断材料になります。
ぜひ、最後まで読んでご活用ください。
治療①:環境調整
環境調整とはADHDの症状の種類や程度に合わせて、日常・社会生活をしやすいように環境を整えることです。
例えば、会社の業務の締め切りを忘れないために、スケジュールアプリでスケジュール管理をするとともに、忘れたとしても思い出せるようにリマインダーを活用すると良いでしょう。
周りの物音や雑音が気になって仕事に集中できないなら、外的刺激が影響しづらいデスクに変更してもらったり、会社に許可をとって耳栓やイヤホンを着けさせてもらったりすると良いでしょう。
このように症状を抑え込むのではなく、上手く付き合っていく環境を整えていくことが重要なのです。
治療②:認知行動療法
認知行動療法とは、物事の捉え方や考え方を変えていく治療法です。
例えば、仕事の定時まで残り30分だったとします。「あと30分もある…」と考えるか、「たったの30分で終わる!」と考えるかで、仕事に対するモチベーションが変わってきますよね。おそらく後者の方が体感的に仕事を早く終えられるうえに、定時までの時間を楽しく過ごせます。
つまり、同じ事象だとしても、物事の捉え方や考え方一つでその後の行動意欲を変えられるということです。認知行動療法により行動のモチベーションやフットワークの軽さを良い方向へ促すことができます。
治療③:ソーシャルスキル・トレーニング(SST)
ソーシャルスキル・トレーニング(SST)とは、周りの人たち(ソーシャル)と上手く関わるために必要なスキルを養っていくトレーニング方法です。
例えば、「1対1」もしくは「グループワーク」によるトレーニングを行います。対人コミュニケーションを通して相手の気持ちや考えを理解し、こちらの考えを言葉に出すことでコミュニケーションスキルを高めていきます。
SSTのプログラムが受けられる機関は、以下のとおりです。
- 精神科デイケア
- 地域若者サポートステーション
- 地域障害者職業センター
- 就労・生活支援センター
- 就労移行支援事業所
- 就労継続支援A型・B型事業所
- 自立訓練事業所
- リワーク
施設によっては、プログラムの内容に人数制限があったりするため、必ず予約していきましょう。
また、最近では、発達障害者への療育以外でも、小学校の教育でも取り入れられるほどメジャーなトレーニングになりつつあります。
治療④:コーチング
コーチングとは、専門家コーチとの話を通して自己を見つめ直し、理解を深め、自分の中にある課題を解決へと導いてもらう治療法です。
カウンセリングに近く、これまで気づかなかった自分を発見できます。専門家から客観的な評価をしてもらえるため、自分の特性や傾向など細かい部分まで知り、今後自分が解決すべき課題を明確にできます。
治療⑤:ニューロフィードバック
ニューロフィードバックとはあなたの脳波の傾向をしり、脳波の良い状態を積極的に活用していこうという治療法です。
具体的には、脳波から「集中している時」と「集中できていない時」の違いを分析します。集中できている時の脳を分析して、あなたが物事に集中できる状況を把握し、いつでも集中するための脳波が出るトレーニングをします。
そのことで脳自体に「集中とはどのような状態か?」ということをインプットさせるのです。不注意や多動の改善に効果的だと言われています。
治療⑥:ペアレントトレーニング
ペアレントトレーニングには保護者の協力が不可欠です。
ペアレントトレーニングとは、行動療法の理論に基づいてADHDご本人の行動を分析、理解し、最善の関わり方を学ぶ方法です。
基本的には、子どものADHDの治療でよく用いられます。また、同居するご両親のストレスを減らす目的で活用されます。最近では専門の医療機関以外にも子育て支援事業などでもペアレントトレーニングが取り入れられ、徐々に普及してきました。
大人のADHD治療の種類:薬物療法
薬物療法の適応は「心理社会療法だけではコントロールが難しい」もしくは「心理社会療法と一緒に治療を進める必要があると医師が判断した」場合です。
ADHDの原因と考えられている脳の前頭葉の働きをサポートするお薬を使います。そして症状をコントロールすることで、今ある悩みを改善できるかもしれません。
ADHDの治療で用いられる代表的な薬剤は、以下の3つです。
- メチルフェニデート塩酸塩徐放剤
- アトモキセチン
- グアンファシン塩酸塩徐放剤
日本では、副作用の影響を考慮して薬物療法の対象は「6歳以上」です。医師が安全性を確認したうえで、あなたに最適な薬の処方と治療計画を立ててくれます。
各薬剤で効果や作用が違うので、ADHDの薬物治療を検討中の方は、参考にしていただけると幸いです。
治療薬①:メチルフェニデート塩酸塩徐放剤
メチルフェニデート塩酸塩徐放剤は「精神刺劇薬」であり、精神活動を高める効果があります。
中枢神経を刺激することで脳内の神経伝達物質である「ドパミン」や「ノルアドレナリン」の働きを強めて、覚醒や注意力の維持・向上をもたらします。この効果により、不注意や集中力の欠如を改善でき、症状を緩和できるのです。
副作用として「食欲不振(40.8%)」や「不眠症(18.2%)」などがあります。また、長期的な投与が認められていないため、継続内服する場合はかかりつけの医者と十分相談したうえで決めましょう。
参考資料
厚生労働省 e-ヘルスネット/メチルフェニデート(めちるふぇにでーと)
医療用医薬品 : コンサータ
治療薬②:アトモキセチン
アトモキセチンは脳内の神経伝達物質である「ノルアドレナリン」の再取り込みを阻害して、神経の働きを強め、不注意や多動・衝動行動を予防する治療薬です。
簡単にいうと、ADHDの精神活動を整えるノルアドレナリンの効果を最大限引き出す薬剤ということです。代表的な薬剤だと、ストラテラはカプセル(40mg、25mg、10mg、5mg)があり、水薬で小児用もあります。
副作用として、悪心(46.9%)、食欲減退(20.9%)、眠気(16.6%)が多く、運転前に服用するのは控える必要があります。また、向精神薬などを内服中の方は、そちらの薬剤の増量や併用で症状の変化を観察していくことも可能です。
参考資料:医療用医薬品 : アトモキセチン
治療薬③:グアンファシン塩酸塩徐放剤
グアンファシン塩酸塩徐放剤とは、交感神経の過剰反応を押さえてあげることで多動・衝動行動をコントロールする治療薬です。簡単に言うと、ADHDの症状を引き起こす興奮の元となるアドレナリンを選択的に取り込むことで、症状を抑えるイメージです。
もともとは血管拡張薬として使われていましたが、現在はADHD治療薬として利用されています。
副作用の中でも眠気が強く現れるため、基本的には寝る前に1日1回の服用になることが多いです。また血管への影響が大きいことから、血圧と心電図検査を見ながら長期内服を検討する必要があります。
参考資料:医療用医薬品 : インチュニブ
【確定診断】大人のADHDの可能性がある方の受診先
大人のADHDを疑ったら、以下の診療科を受診しましょう。
- 精神科
- 心療内科
- 発達外来
基本的には、どの診療科を受診しても専門の医師がいます。
そして、確定診断のためには以下の検査が行われます。
- 問診
- 血液検査(ホルモン検査など)
- 脳波・MRIなどの精密検査(必要に応じて)
診断基準には、2013年に米国精神医学会が発行したDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)を用いる機関が多いです。
しかし、発達障害の明確な診断基準は設けられておらず、診断する医師の経験や検査内容、受診時の状況などに左右される難点があります。
問診では、社会生活を営むうえで感じる悩みや困りごとを聴取して、ADHDの症状と一致するかを確認します。また、ADHDは精神疾患を合併しやすいため、強迫症や不安症、睡眠障害などの観察も重要です。
血液検査ではホルモンの分泌状態を調べて、医師が必要と判断した場合は脳波やMRIなどの精密検査が行われます。
これらすべての検査結果を総合して、ADHDの診断が行われます。
参考資料:公益社団法人 日本精神神経学会/今村明先生に「ADHD」を訊く
大人のADHD症状と上手く付き合う3つのコツ
大人のADHD症状と上手く付き合うコツは、以下のとおりです。
- コツ①:自分の特徴を理解する
- コツ②:相談先を見つけておく
- コツ③:社会的なサポートを利用する
これらのコツを押さえておくだけでも、様々な状況へ柔軟な対応ができます。
コツ①:自分の特徴を理解する
ADHDの症状をコントロールして、上手く付き合うための第一歩は「自分の特徴を理解する」ことです。
そのためには専門の病院でご自身の傾向を分析してもらわなければいけません。ご自身の傾向がわかれば、日常・社会生活をよりスムーズに送るための具体的な対策を考えられます。
例えば、あなたが多動・衝動行動で悩まされているADHDだとします。仕事は事務作業が多く、座っての作業がメインですが、仕事中どうも落ち着きません。周りからも「少しは落ち着いて仕事をした方が良い」と言われることもあります。
一見、多動・衝動行動は「落ち着きがない」「集中力がない」などの短所に感じますが、裏を返せば「フットワークが軽い」という長所にもなります。そこでこの長所を活かして、外回りの営業部に異動希望を出してみても良いでしょう。
あなた自身の特徴がわかれば、社会生活を送るうえでストレスの少ない環境を選べます。
また、この他にも厚生労働省による発達障害への就労支援も行われているため、あなたが活き活きと過ごせる環境を見つけるのに利用してみると良いでしょう。
参考資料:厚生労働省/発達障害者の就労支援
コツ②:相談先を見つけておく
相談相手を作っておくこともADHDと上手く付き合っていくためには必要です。
なぜなら、ADHDは完治することのない発達障害であり、一人で悩んでも解決するのは難しいからです。障害を受け入れて、一生涯上手く付き合っていかなければいけません。悩んだときに相談相手がいると心強いでしょう。
例えば、家族や信頼できる友人が相談相手になってくれれば、安心できます。また、ADHD専門家に相談したいなら、以下の施設を利用するのも一つの手です。
- 専門の病院
- 発達障害者支援センター
- 産業保健総合支援センター
各相談先の特徴や受けられるサービスについては「大人の発達障害は意外と多い?チェックリストや悩みごと、相談先まで徹底解説」の記事で詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。
一人で悩まず、困った時は誰かに助けを求めることもADHDと上手く付き合っていくためには必要です。
コツ③:社会的なサポートを利用する
ADHDの症状が原因で社会に馴染めないと、社会生活だけでなく私生活も苦しくなります。
「徐々に仕事に行けなくなり、生活費が稼げなくなったらどうしよう…」
「ADHDの症状と上手く付き合いながら、利用できるサポートはないものか?」
このような考えに至る方も少なくありません。
実はADHDと診断されると社会的なサポートが利用でき、知らないと損をします。
具体的なサポートは、以下のとおりです。
- 自立支援医療(精神通院医療)
- 障害者手帳の交付
- 障害年金
大人から子どもADHDまでこれらの社会的なサポートについては「子どものADHDは見た目で分かる?診断と検査・治療法や相談先について解説」の記事で詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。
大人のADHDの治療事例と症状の変化
T君の概要
就職2年目
スケジュール立てて仕事を進めるのが苦手
先輩からもよく確認不足を指摘される
仕事で同じミスを繰り返しており、本人もどのように改善すれば良いか悩んでいる
これらからT君は職場で肩身狭い思いをしていたと話していました。そのような時にT君の友人で看護師のKさんに相談したところ、心療内科へ相談してみるようにアドバイスされました。
受診の結果、大人のADHDであることが判明し、すぐに治療開始となりました。治療内容は、カウンセリングと薬物療法からだったとのこと。少量の薬剤で症状コントロールしながら、まずは自分の抱える悩みを明らかにしてもらい、具体的な解決策を一緒に考えてもらえたそうです。
その結果、仕事でのミスが徐々に減り、ミスをしても原因が何かを考える習慣がついたとのことでした。また、周りとの人間関係も徐々に修復して、今も同じ職場で楽しく仕事をしていると話していました。
ADHDの症状や程度は人それぞれです。そして絶対的な治療法はありません。だからこそ、専門の病院で確定診断をしてもらい、自分にあった治療を受ける必要があるのです。
まとめ: ADHD|治療で症状を改善できる【一人で悩まないこと】
今回は大人のADHDの治療に注目して解説しました。
ADHDが完治することはありませんが、治療で症状が改善することはわかっています。そして、治療は「心理社会療法」、症状が落ち着かなかったり強かったりするなら「薬物療法」の併用が基本でした。
治療を通して、自分なりにADHDの症状と上手く付き合う方法を見つけられるかがポイントです。
この記事でも治療内容について具体的に解説しているので、忘れたり、読み飛ばしたりした方は「大人のADHD治療の種類:心理社会療法」「大人のADHD治療の種類:薬物療法」を読んでいただけると幸いです。
社会人になり、会社での人間関係やその他業務で悩むことが多く、ADHDを疑っている方がいれば、迷わず医療機関に相談しましょう。確定診断は医療機関しかできないことや、一人で悩んでいても何も解決しないからです。
受診して適切な治療を受けられれば、これまであなたを苦しめていた悩みを解決できるかもしれません。