目次
卵子のもとになる細胞(卵母細胞)は、お母さんのおなかの中にいる胎児のころに最も多く、妊娠20週ごろには600〜700万個あります。生まれたあとに新しくつくられることはなく、出生時には100〜200万個、思春期には30〜50万個、37歳ごろには約2万5,000個、閉経を迎えるころには約1,000個まで減っていきます[1]。ピルで排卵を止めても、妊娠中でも、この減り方は止まりません。この記事では、卵子の数が決まっている理由、年齢ごとの目安、AMH検査でわかることとわからないこと、そして卵子が早く減る体質に遺伝がどう関わるかを、臨床遺伝専門医の立場から解説します。
Q. 卵子の数は生まれたときから決まっているのですか?
A. はい。卵子のもとになる細胞は胎児のうちにつくられ、生まれたあとに増えることはありません。数は胎児期がいちばん多く、その後は一生を通じて減り続けます。「数」と「質(染色体が正しく分かれるかどうか)」は別のもので、数が多くても年齢による質の変化は避けられません。
- ➤年齢別の目安 → 出生時100〜200万個、思春期30〜50万個、37歳ごろ約2万5,000個、閉経ごろ約1,000個
- ➤減り方 → 排卵は月に1個でも、毎月たくさんの卵胞が発育を始め、そのほとんどが消えていく
- ➤調べ方 → AMH検査や胞状卵胞数で「残りの目安」はわかるが、妊娠できるかどうかは予測できない
- ➤遺伝の視点 → FMR1前変異やターナー症候群など、卵子が早く減る体質には遺伝が関わることがある
1. 卵子の数は何個?生まれる前に決まっている理由
女性の卵子の数は、生まれる前にほぼ決まっています。卵子のもとになる細胞は胎児期に増えたあと、新しくつくられることはなく、一生を通じて減っていく一方です。「卵子は毎月つくられている」と思われていることがありますが、実際には、胎児のころに用意された在庫を少しずつ使い、同時に大部分を失っていく仕組みになっています。
卵子は胎児のうちにつくられ、あとから増えない
卵子の起源は、受精後まもない胎児の体にあらわれる原始生殖細胞(げんしせいしょくさいぼう)です。原始生殖細胞は、将来の卵巣になる場所へ移動し、卵原細胞(らんげんさいぼう)として細胞分裂をくり返して数を増やします。
1963年にヒトの胎児の卵巣を顕微鏡で数えた研究では、卵子のもとになる細胞は妊娠5か月ごろに最も多くなり、その後は急速に減っていくことが示されました[2]。米国産科婦人科学会(ACOG)の2025年の声明も、最大数は妊娠20週ごろの600〜700万個で、出生時には100〜200万個に減るとしています[1]。
卵原細胞は胎児期のうちに分裂をやめて卵母細胞(らんぼさいぼう)になり、この段階で「増える」時期は終わります。生まれたあとの卵巣には、卵子のもとを新しくつくり出す仕組みは確認されていません。そのため、出生時の数が、その人が一生のあいだに使える卵子の上限になります。
「卵子の数」とは原始卵胞の数のこと
卵巣の中の卵母細胞は、1個ずつ細胞の層に包まれた「卵胞(らんぽう)」という袋の中にあります。1つの卵胞に入っている卵母細胞は、原則として1個です。「卵胞の中に卵子はいくつあるの?」という疑問への答えはこれです。
休眠している最も小さな卵胞を原始卵胞(げんしらんぽう)といいます。医学的に「卵子の数」「卵巣に残っている卵子」というときは、この原始卵胞の数を指すのがふつうです。原始卵胞は、目覚めて発育を始めると、周りの細胞が増えて大きくなり、やがて超音波で見える「胞状卵胞(ほうじょうらんぽう)」になります。
💡 用語解説:卵子・卵母細胞・卵胞のちがい
卵母細胞は卵子そのものになる細胞、卵胞は卵母細胞を包んで育てる袋のような構造です。排卵とは、十分に育った卵胞が破れて中の卵子が外に出ることを指します。日常会話の「卵子の数」は、医学的には「卵巣に残っている原始卵胞の数」とほぼ同じ意味で使われています。
一生つくり続ける精子との違い
精子は、もとになる細胞(精原細胞)が思春期以降も分裂をくり返すため、一生を通じて新しくつくられます。卵子とは仕組みが根本的に違います。精子と卵子がどのようにつくられるかの違いは、配偶子形成と受精のしくみで詳しく解説しています。
ただし、男性の年齢が妊娠にまったく関係しないわけではありません。精子のもとの細胞は分裂をくり返すぶん、年齢とともに新しく生じる遺伝子の変化が少しずつ積み重なります。女性は「在庫が減り、残った卵子が年をとる」、男性は「つくり続けるが、つくる細胞が年をとる」と整理すると、両者の違いがわかりやすくなります。
2. 年齢別の卵子の数の目安
卵子の数は、胎児期の600〜700万個をピークに、出生時100〜200万個、思春期30〜50万個、37歳ごろ約2万5,000個、51歳ごろ約1,000個と減っていきます[1]。以下の表は、ACOGが示している数値をまとめたものです。
🥚 年齢別の卵子の数の目安
| 時期 | 卵子(卵母細胞)の数の目安 | 補足 |
|---|---|---|
| 胎児期(妊娠20週ごろ) | 600〜700万個 | 一生で最も多い時期 |
| 出生時 | 100〜200万個 | 生まれる前にすでに大部分が失われている |
| 思春期 | 30〜50万個 | 月経が始まるころ |
| 37歳ごろ | 約2万5,000個 | このころから減り方が速くなる |
| 51歳ごろ | 約1,000個 | 閉経を迎えるころ |
※数値はACOG Committee Statement No.22(2025年)[1]による。集団の目安であり、個人の数を示すものではありません。
胎児期・出生時・思春期
卵子が最も大きく減るのは、実は生まれる前です。妊娠20週ごろの600〜700万個が、出生までの約4か月で100〜200万個になります[1]。胎児期の卵巣では、つくられた卵母細胞の多くが、周りの細胞にうまく包まれないなどの理由で自然に消えていきます。
出生後も減少は続き、月経が始まる思春期には30〜50万個になります[1]。月経が始まる前の子どもの時期も、卵胞は発育を始めては消えることをくり返しているため、「排卵していないから減らない」ということはありません。
💡 用語解説:資料によって数が違うのはなぜ?
卵子の数は、数え方によって大きく違います。ACOGの数値は両方の卵巣の卵母細胞全体を指します。一方、片側の卵巣の原始卵胞だけを数学モデルで推定した研究では、ピークは妊娠18〜22週ごろの約30万個とされています[3]。どちらかが誤りなのではなく、数えている対象が違うため、別々の資料の数字を1つの表に混ぜて比べないことが大切です。
30代・40代でどのくらい残っているか
37歳ごろの卵子の数は約2万5,000個で、このあたりから減り方が速くなります[1]。1992年の研究では、残りが約2万5,000個になる37.5歳ごろを境に、卵胞がなくなる速さが増すことが示されました[4]。
「35歳では何個」「40歳では何個」という年齢ごとの実数を直接示した信頼できるデータはありません。割合で示した研究としては、原始卵胞の数を数学モデルで推定した2010年の研究があり、30歳の時点で残っているのは最も多かった時期の約12%、40歳では約3%と推定されています[3]。35歳の数は37歳の約2万5,000個より多く、40歳の数はそれより少ない、と理解しておくのが現実的です。
閉経のころには約1,000個
卵子の数が約1,000個まで減ると、卵巣は月経周期を保てなくなり、閉経を迎えます。ACOGは51歳で約1,000個という目安を示しています(51歳は米国の平均的な閉経年齢です)[1]。
つまり閉経は、卵子が「ゼロになった」状態ではなく、「周期を維持できる数を下回った」状態です。2010年の研究のモデルでは、閉経年齢の予測値は平均49.6歳、95%の人が38.7〜60.0歳の範囲に入ると推定されています[3]。閉経する年齢に20年以上の幅があることは、卵子の数に大きな個人差があることを反映しています。
同じ年齢でも個人差が大きい
卵子の数は年齢で大きく決まりますが、同じ年齢の人どうしでも、数には大きな差があります。2010年の研究では、原始卵胞の数のばらつきの81%が年齢だけで説明でき、25歳以下では95%に達すると推定されました[3]。
同じ研究では、平均的な時期に閉経する人の出生時の原始卵胞が片側の卵巣で約29万5,000個であるのに対し、閉経が早い人では約3万5,000個、遅い人では250万個を超えると推定されています[3]。生まれたときの在庫の多さと、その後の減る速さの両方が、閉経の時期を決めると考えられています。表の数値はあくまで集団の目安で、自分の数を知りたい場合は、後述する検査で「残りの目安」を調べることになります。
3. 卵子はどうやって減っていく?排卵と卵胞閉鎖
卵子が減る主な理由は、排卵ではなく「卵胞閉鎖(らんぽうへいさ)」です。排卵で使われる卵子は月に1個ほどですが、発育を始めた卵胞のほとんどは排卵に至らずに消えていきます。
排卵は月に1個、でも毎月たくさんの卵胞が発育を始めて消えていく
原始卵胞は、月経周期とは関係なく、毎日少しずつ目覚めて発育を始めます。これを「初期リクルートメント」といい、脳から出るホルモン(FSH:卵胞刺激ホルモン)がなくても起こります[5]。発育を始めた卵胞は数か月かけて育ち、そのうち月経周期のタイミングに合ったものだけがFSHの働きで選ばれ、ふつうは1個が排卵します。選ばれなかった卵胞は、途中で閉鎖して消えていきます[5]。
1か月に発育を始める原始卵胞の数は年齢によって変わります。2010年の研究のモデルでは、片側の卵巣で14歳ごろに最も多く、月に約880個と推定されています[3]。「毎月1,000個減る」という説明を見かけることがありますが、一定の数ではなく、年齢とともに変わる数だと理解してください。
排卵したあとの卵胞は「黄体(おうたい)」に変わり、妊娠を支えるホルモンを出します。黄体になるのは排卵した卵胞で、排卵しなかった卵胞は黄体にはならず閉鎖します。排卵された卵子が受精できる時間は限られており、詳しくは卵子の寿命で解説しています。
💡 用語解説:卵胞閉鎖(らんぽうへいさ)
卵胞閉鎖とは、発育を始めた卵胞が、排卵まで育たずに途中で退縮して消えていく現象です。胎児期から閉経まで一生を通じて起こっており、卵子の数が減る最大の理由です。閉鎖は異常ではなく、卵巣の正常な働きの一部です。
ピルを飲んでいると卵子は減らない?
ピル(経口避妊薬)で排卵を止めても、卵子の数の減り方は止まらないと考えられています。原始卵胞が目覚めて発育を始める段階は、FSHなどのホルモンに依存せずに起こるためです[5]。ピルが抑えるのは、その先の「1個を選んで排卵させる」段階です。ただし、ピルを飲んだ期間と閉経の年齢の関係を直接調べたデータは十分ではなく、この説明は卵巣の仕組みにもとづくものです。
実際にわかっているのは、ピルを飲んでいるあいだは検査の数値が低く出ることです。デンマークの研究では、ピルを使っている女性は使っていない女性に比べて、AMHが19%、胞状卵胞数が18%低い値を示しました[6]。これは卵子が減ったのではなく、発育中の卵胞が抑えられている影響と考えられており、ピル服用中に検査を受けた場合は、この点を踏まえて結果を読む必要があります。
妊娠中・授乳中は減りが止まる?
妊娠中や授乳中で排卵がない期間も、卵子の数の減り方は止まらないと考えられています。理由はピルと同じで、原始卵胞が発育を始める段階は排卵の有無と関係なく進むためです[5]。
「妊娠している10か月は排卵しないので、そのぶん卵子を温存できる」という考え方を見かけることがありますが、仕組みから見るとあてはまりません。出産回数と閉経年齢の関係を調べた観察研究はありますが、因果関係を示すものではなく、妊娠によって卵子の数を増やしたり、減りを止めたりできるとはいえません。
排卵誘発や採卵で卵子が早くなくなる?
体外受精などの排卵誘発で多くの卵子を採っても、卵子の在庫を前倒しで使い切るわけではないと考えられています。排卵誘発で育つのは、その周期にすでに発育を始めていて、本来なら閉鎖して消えるはずだった卵胞だからです[5]。
体外受精を受けた女性の閉経年齢を調べた研究では、使ったFSHの量や治療回数と、閉経の年齢とのあいだに関連は見られませんでした[7]。一方、100人を対象にした小規模な研究では、体外受精を受けた群の閉経が平均0.8歳早かったと報告されていますが、著者自身も臨床的に意味のある差ではないとしています[8]。現時点では「早まらないと考えられているが、データは限られている」と理解するのが正確です。卵子凍結の具体的な流れは卵子凍結のやり方で解説しています。
4. 卵子の「数」と「質」は違う
卵子の「数」は残っている在庫の量、卵子の「質」は受精して正常に育つ力のことで、両者は別のものです。質を大きく左右するのは、卵子の染色体が正しく分かれるかどうかで、これは主に年齢によって変わります。
数十年止まったままの減数分裂(ディクチオテン期停止)
卵母細胞は、胎児期に減数分裂を始めますが、途中の段階で止まり、そのまま排卵の直前まで待ち続けます。この停止をディクチオテン期停止といいます。
減数分裂は、染色体の数を半分にして卵子や精子をつくる特別な細胞分裂です。卵母細胞では、対になった染色体が並んだ状態で分裂が止まり、排卵の直前に再開されます。つまり、35歳で排卵される卵子は、35年あまり分裂の途中で止まっていた細胞です。「卵子の年齢は本人の年齢と同じ」といわれるのはこのためです。
💡 用語解説:減数分裂(げんすうぶんれつ)
減数分裂は、46本の染色体を23本に減らして卵子や精子をつくる細胞分裂です。卵子と精子が受精すると、それぞれの23本が合わさって46本に戻ります。この分裂で染色体の分かれ方がずれると、受精卵の染色体の数に過不足が生じます。
年齢とともに染色体の数の異常が増える理由
長く止まっていた減数分裂を再開するとき、年齢が上がるほど染色体が正しく分かれにくくなり、染色体の数に過不足のある卵子が増えます。対になった染色体をつなぎとめている仕組み(コヒーシンというタンパク質など)が、長い年月のあいだに弱まることが原因の一つと考えられています[9]。分かれ方がずれる現象を染色体不分離といいます。
体外受精の胚盤胞1万5,169個の染色体を調べた研究では、染色体の数の異常(異数性)は26〜30歳で最も少なく、35歳で約35%、40歳で約58%、42歳で約75%、44歳以上では約88%に上っていました[10]。この数値は体外受精を受けた人の胚のデータで、自然妊娠のすべての卵子にそのまま当てはまるものではありません。仕組みの詳細はなぜ卵子で染色体異常(異数性)が起こるのかで解説しています。
数が多くても卵子が若いわけではない
同じ年齢で卵子の数が多い人でも、その年齢の卵子の質が若返るわけではありません。数を反映するAMHの値が高い40歳の人でも、卵子が40年あまり減数分裂の途中で止まっていたことに変わりはないからです。
反対に、数が少ない若い人でも、卵子1個あたりの染色体異数性リスクを考えるうえでは年齢が重要な要因です。数の多さは「採れる卵子の数」には関係しますが、卵子1個あたりの染色体異数性リスクなど、年齢の影響を強く受ける要素とは別の話です。卵子の質の考え方や、卵子が老化する原因については、それぞれの記事で詳しく解説しています。
🩺 院長コラム【「数」と「質」を分けて考える】
卵子の話では、数と質が一緒に語られがちです。けれども、数は「あと何回チャンスがあるか」、質は「1回ごとにどのくらいうまくいくか」を表していて、決め手になる要素がまったく違います。数は人によって大きく違い、質は主に年齢で決まります。
AMHが高いから大丈夫、低いからもう無理、という受け止め方は、どちらも正確ではありません。自分の卵子について考えるときは、この2つを分けて整理することが出発点になると考えています。
5. 自分の卵子の数を調べる方法
卵巣に残っている卵子の数そのものを直接数える方法はありません。血液検査のAMHや、超音波で数える胞状卵胞数(AFC)などで、「残りの目安」を推定します。この「残りの目安」を卵巣予備能(らんそうよびのう)といいます。
AMH検査でわかること・わからないこと
AMH検査でわかるのは、卵巣に残っている卵胞の量のおおよその目安です。妊娠できるかどうか、いつまで妊娠できるかは、AMHでは予測できません。AMH(抗ミュラー管ホルモン)は発育を始めた小さな卵胞から出るホルモンで、残っている卵胞が多い人ほど高い傾向があります。ACOGも、AMHは卵巣予備能の「有用だが不完全な」指標だとしています[1]。
米国生殖医学会(ASRM)は2020年の見解で、卵巣予備能の検査は不妊ではない女性の自然妊娠の見込みを予測できず、「妊娠力のテスト」として使うべきではないとしています[11]。30〜44歳で妊娠を試み始めて3か月以内の女性を追跡した研究でも、AMHが低い人と正常な人のあいだで妊娠のしやすさに差は見られませんでした[12]。AMHが特に役立つのは、体外受精の排卵誘発でどのくらいの数の卵子が採れそうかを見積もる場面です。
💡 用語解説:AMH(抗ミュラー管ホルモン)
AMHは、発育を始めた小さな卵胞の細胞から分泌されるホルモンです。卵胞が多く残っているほど値が高くなる傾向があるため、卵巣予備能の目安に使われます。ピルの服用中は低く出ることがあり、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)では高くなります。値だけで卵子の質や妊娠のしやすさは判断できません。
胞状卵胞数(AFC)とFSH
胞状卵胞数(AFC)は、経腟超音波で見える直径数ミリの小さな卵胞を数える方法です。残っている原始卵胞そのものは小さすぎて超音波では見えませんが、そこから発育を始めた胞状卵胞の数は、在庫の多さをある程度反映します。月経周期の初めに測定するのが一般的です。
FSH(卵胞刺激ホルモン)は、月経周期の初めに血液で測ります。卵巣の働きが落ちると、脳が卵巣を刺激しようとしてFSHが高くなります。AFCもFSHも、AMHと同じく卵子の数の目安にはなりますが、不妊ではない人の妊娠の見込みを予測するものではありません[11]。どの検査も1つの値で結論を出さず、年齢や月経の状態とあわせて読むものです。
「卵巣年齢」という言い方の落とし穴
AMHの値を「卵巣年齢◯歳相当」と換算して示すことがありますが、この換算に医学的な裏付けはありません。AMHの値は測定法や施設によっても変わり、年齢ごとの平均値との比較は、数の多さのおおまかな位置を示すにすぎません。
「卵巣年齢が45歳」と言われると、45歳の卵子の質になったように聞こえますが、そうではありません。前の章で見たように、卵子の質は本人の年齢でほぼ決まり、AMHが低くても30歳の人の卵子は30歳相応です。また、ピルの服用中はAMHが低く出ます[6]。換算された年齢だけで、将来の予定を決めないことが大切です。
卵子の数が少ないと言われたら
AMHが低いと言われても、それだけで自然妊娠ができないという意味ではありません[11][12]。ただし、卵子の在庫が少ないと、体外受精などで一度に採れる卵子の数は少なくなりやすく、閉経が早めに訪れる可能性もあります。
妊娠を望む時期がまだ先の場合、若いうちの卵子を凍結保存する方法もあります。年齢別の妊娠率や必要な個数の考え方は卵子凍結の妊娠率で、不妊治療としての体外受精の流れは別の記事で解説しています。また、40歳未満で月経が不順になった、AMHが年齢に比べて極端に低いといった場合は、次の章で扱う遺伝的な原因も含めて、原因を調べる意味があります。
6. 卵子の数が多い人・少ない人
卵子の数には個人差があり、年齢に比べて多い人も少ない人もいます。多い場合も少ない場合も、背景に病気や治療歴が隠れていることがあります。
数が多い人:多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
AMHや胞状卵胞数が年齢に比べて高い代表的な状態が、多嚢胞性卵巣症候群(たのうほうせいらんそうしょうこうぐん、PCOS)です。PCOSでは小さな卵胞がたくさん卵巣にとどまり、排卵が起こりにくくなります。「卵子の数が多い病気は?」という疑問への答えとして、最も多いのがこの状態です。
2023年の国際ガイドラインは、成人ではAMHを卵巣の多嚢胞所見の判定に使えるとしつつ、思春期の人には使わず、AMHだけでPCOSと診断してはならないとしています[13]。AMHが高いことは「卵子がたくさんあって妊娠しやすい」という意味ではなく、排卵障害のサインである場合もあります。PCOSの原因や治療は多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とはで解説しています。
年齢以外で減る原因
年齢以外で卵子の数を減らす原因には、卵巣の手術、抗がん剤や放射線による治療、自己免疫の病気、喫煙などがあります。子宮内膜症でできる卵巣の嚢胞(チョコレート嚢胞)の手術では、周りの正常な卵巣組織も一緒に失われることがあり、メタ解析では術後のAMHが平均で35〜54%低下していました[14]。
喫煙については、17の研究を統合した解析で、現在喫煙している女性は吸わない女性に比べて、40歳未満で閉経するリスクが約2.05倍、40〜44歳で閉経するリスクが約1.80倍でした[15]。禁煙して10年を超えた人では、吸わない人と同程度のリスクに戻っていました[15]。抗がん剤や放射線は種類や量によって卵巣への影響が大きく異なり、治療前に卵子などを凍結保存する方法があります。自己免疫の病気は、早発卵巣不全の原因の一つにも挙げられています[16]。
7. 遺伝の視点:卵子が早く減る体質は遺伝する?
卵子が減る速さや閉経の時期には、遺伝が大きく関わっています。一部の人では、特定の遺伝子や染色体の変化が、卵子が早く減る直接の原因になっています。40歳未満で卵巣の働きが失われる状態を早発卵巣不全(POI)といい、ESHRE(欧州ヒト生殖医学会)の2024年のガイドラインによると、その頻度は古い研究で約1%、最近の研究では3.5%と報告されています[16]。早発卵巣不全と早発閉経の全体像はそれぞれの記事で扱い、ここでは卵子の数と遺伝の関わりに絞って整理します。
閉経する年齢は母や姉妹と似やすい
閉経する年齢のばらつきの約6割は、遺伝的な要因で説明できると推定されています。イギリスの双子を対象にした研究では、閉経年齢の遺伝率は63%でした[17]。遺伝率とは、集団の中でのばらつきのうち、遺伝の違いで説明できる割合のことです。
ただし、これは集団全体の傾向で、「母が早く閉経したから自分も同じ年齢で閉経する」と個人の将来を予測できるわけではありません。閉経年齢には、多くの遺伝子のわずかな違いが少しずつ積み重なって影響していると考えられています。一方で、母や姉妹が40歳未満で閉経している場合は、次に挙げるような、1つの遺伝子や染色体の変化が家系の中で受け継がれている可能性を考える手がかりになります。
FMR1前変異(脆弱X症候群の保因)と早発卵巣不全
X染色体にあるFMR1(エフエムアールワン)遺伝子の「前変異」を持つ女性の約20〜30%が、脆弱X関連原発性卵巣不全(FXPOI)を発症します[18]。FMR1遺伝子には「CGG」という3つの塩基の並びがくり返す部分があり、そのくり返しが55〜200回ほどに伸びた状態を前変異といいます。
前変異を持つ女性では、卵子が減る速さが早まり、閉経が早くなる傾向があります。リスクはくり返しの回数によって一様ではなく、85〜89回で最も高く、閉経が約10年早くなる一方、65回未満や120回を超える場合には、はっきりしたリスクの上昇は見られませんでした[18]。この20〜30%は集団での頻度で、個人の発症確率をそのまま示すものではありません。
前変異が重要なのは、卵巣だけの問題ではないためです。前変異は子どもに受け継がれるときにくり返しが伸びることがあり、200回を超える「全変異」になると、知的障害などをともなう脆弱X症候群(ぜいじゃくエックスしょうこうぐん)の原因になります。ESHREのガイドラインは、原因が治療によらない早発卵巣不全のすべての女性に、FMR1前変異の検査を強く推奨しています[16]。卵巣への影響はFXPOI(脆弱X関連原発性卵巣不全)で、検査の内容はFMR1遺伝子リピート伸長検査で解説しています。
💡 用語解説:前変異(ぜんへんい、premutation)
前変異とは、遺伝子の中のくり返し配列が、正常より長いものの病気を起こすほどではない長さに伸びた状態です。FMR1遺伝子ではCGGのくり返しが55〜200回ほどの状態を指します。本人は脆弱X症候群にはなりませんが、卵巣の働きが早く落ちることがあり、子どもに受け継がれるときにくり返しがさらに伸びることがあります。
ターナー症候群・X染色体の変化
ターナー症候群は、2本あるはずのX染色体の1本がない、または一部が欠けている状態で、卵子がとくに早く失われます。45,X(X染色体が1本)の胎児の卵巣でも卵子のもとの細胞はつくられますが、妊娠20週の時点でその約70%が細胞死を起こしており、46,XXの胎児の3〜5%と比べて、失われる速さが大きく異なります[19]。
このため、ターナー症候群では自然に初経を迎える人は10〜15%にとどまります[19]。45,Xの細胞と46,XXの細胞が混ざっている「モザイク」の人は、卵巣の働きが保たれやすく、自然な初経や妊娠の可能性が高いとされています[20]。また、X染色体の長い腕の先のほう(Xq24より先)の欠失では、低身長などの特徴をともなわず、早発卵巣不全としてあらわれることがあります[20]。ESHREのガイドラインが早発卵巣不全のすべての女性に染色体検査を推奨しているのは、こうした変化が見つかることがあるためです[16]。
卵巣の働きに関わる単一遺伝子と女性不妊症遺伝子パネル
FMR1やX染色体のほかにも、卵胞の発育や減数分裂に関わる多くの遺伝子の変化が、早発卵巣不全の原因になります。早発卵巣不全の女性1,030人の遺伝子を調べた2023年の研究では、既知のPOI原因遺伝子と新たに関連が示された遺伝子を合わせると、23.5%に病的または病的可能性の高いバリアントが見つかりました[21]。また、遺伝的要因の寄与は、いったん月経が始まった後に無月経となった症例より、月経が一度も来ない原発性無月経の症例で高いことが示されました[21]。
原因遺伝子の例には、卵母細胞が出す成長因子の遺伝子であるBMP15やGDF9、減数分裂で染色体をつなぎとめるタンパク質の遺伝子であるSTAG3などがあります。ESHREのガイドラインは、十分な遺伝カウンセリングのうえで、次世代シーケンサーなどによる追加の遺伝学的検査を提案できるとしています[16]。複数の遺伝子をまとめて調べる方法として女性不妊症NGS遺伝子パネル検査があります。
遺伝の相談を考えたほうがよい人
遺伝学的な評価の対象として考えられるのは、40歳未満で月経が止まった、またはAMHが年齢に比べて極端に低いと言われた人や、家族に早発閉経・脆弱X症候群の人がいる場合です。ESHREのガイドラインは、早発卵巣不全と診断された場合には、原因が治療によるものでない限り、染色体検査とFMR1前変異の検査を行うよう推奨しています[16]。
家族歴として手がかりになるのは、母や姉妹、おばが40歳前後より前に閉経していること、原因のわからない知的障害や発達の遅れのある男性の親族がいること、高齢になってから歩行のふらつきや手のふるえが出た男性の親族(母方の祖父など)がいることなどです。後の2つは、FMR1の前変異や全変異が家系の中にあるときに見られることがあります。遺伝学的検査の結果は、本人の卵巣の見通しだけでなく、姉妹や将来の子どもにも関わるため、検査の前後に専門医から説明を受けることが大切です。なお、早発卵巣不全と診断されても、卵巣の働きが一時的に戻って自然妊娠が起こる可能性があることが、ガイドラインで示されています[16]。
🩺 院長コラム【卵子の数の話が、家族の遺伝の話につながるとき】
卵子の数は、多くの場合、年齢の問題として扱われます。けれども、40歳未満で卵巣の働きが落ちている場合には、その背景にFMR1の前変異や染色体の変化が見つかることがあり、それは本人だけでなく、姉妹や子ども世代の遺伝の話にもつながります。
臨床遺伝専門医として大切にしているのは、「年齢のせい」で片づける前に、原因を調べる意味があるケースを見分けることです。正確な診断があってはじめて、妊娠の計画や家族への情報提供について、根拠のある選択ができると考えています。
8. 卵子の数を増やす方法・減りを遅らせる方法はある?
現在の医学では、卵子の数を増やす方法はありません。減り方を遅らせる方法として根拠があるのも、禁煙など一部にとどまります。卵子のもとは胎児期につくられたものがすべてで、生まれたあとの卵巣で新しくつくる仕組みは確認されていないためです。
生活習慣のうち、閉経の時期との関係がはっきりしているのは喫煙です。前の章で見たように、喫煙している人は40歳未満で閉経するリスクが約2倍で、禁煙して10年を超えると吸わない人と同程度に戻っていました[15]。たばこをやめることは、卵巣にとって根拠のある選択です。
一方、抗酸化作用のあるビタミンやサプリメントで卵子の数が増える、あるいは減りが止まるという根拠は確立していません。運動や食事は体全体の健康には大切ですが、卵子の在庫そのものを変えるものではありません。卵子の質に関する生活上の工夫については卵子の質を上げる方法で解説しています。現実的な選択肢は、自分の卵巣予備能の目安を知ったうえで、妊娠を望む時期を考えることや、必要に応じて卵子凍結を検討することです。
よくある質問(FAQ)
Q1. 40歳の卵子の数は何個くらいですか?
40歳の卵子の数を直接示した信頼できる実数のデータはありません。37歳ごろで約2万5,000個とされ、このころから減り方が速くなるため、40歳ではそれより少ないと考えられます。数学モデルでは、40歳の時点で残っているのは最も多かった時期の約3%と推定されています。個人差が大きいため、自分の目安を知りたい場合はAMH検査などで調べます。
Q2. 卵子の数は決まっているのですか?
はい。卵子のもとになる細胞は胎児期につくられ、生まれたあとに新しく増えることはありません。数は妊娠20週ごろの600〜700万個が最も多く、その後は一生を通じて減り続けます。
Q3. 1回の排卵で卵子はいくつ出ますか?
ふつうは1個です。ただし、同じ周期に発育を始めた多くの卵胞は、排卵に至らずに閉鎖して消えていきます。そのため、卵子が減る数は、排卵される数よりずっと多くなります。まれに2個が排卵されると、二卵性の双子になることがあります。
Q4. 卵胞の中に卵子はいくつありますか?
1つの卵胞の中にある卵母細胞は、原則として1個です。卵胞は卵母細胞を包んで育てる袋のような構造で、十分に育った卵胞が破れて卵子が外に出ることを排卵といいます。
Q5. 卵子の数が多い病気はありますか?
代表的なのは多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)です。小さな卵胞がたくさん卵巣にとどまるため、AMHや胞状卵胞数が高くなりますが、排卵が起こりにくくなります。AMHが高いことは、妊娠しやすいという意味ではありません。
Q6. 自分の卵子の数はどうやって調べますか?
卵子の数を直接数える方法はなく、血液検査のAMH、経腟超音波で数える胞状卵胞数(AFC)、月経周期の初めのFSHなどで残りの目安を推定します。これらは卵子の数の目安にはなりますが、妊娠できるかどうかや、いつまで妊娠できるかを予測するものではありません。
まとめ
卵子のもとになる細胞は胎児期に最も多く、妊娠20週ごろの600〜700万個から、出生時100〜200万個、思春期30〜50万個、37歳ごろ約2万5,000個、閉経ごろ約1,000個へと減っていきます[1]。生まれたあとに増えることはなく、減る主な理由は排卵ではなく卵胞閉鎖です。ピルや妊娠で排卵が止まっても、減り方は止まらないと考えられています[5]。
AMHなどの検査は残りの目安を示しますが、妊娠できるかどうかを予測するものではありません[11]。卵子の数と質は別のもので、質は主に年齢で決まります。そして、40歳未満で卵巣の働きが落ちている場合には、FMR1前変異やX染色体の変化など、遺伝的な原因が見つかることがあり、ガイドラインは染色体検査とFMR1前変異の検査を推奨しています[16]。原因を正確に知ることは、本人の妊娠の計画だけでなく、家族の健康管理にも関わります。
🧬 早発卵巣不全・低AMHの遺伝学的検査をお考えの方へ
ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医が、FMR1遺伝子リピート伸長検査や女性不妊症遺伝子パネル検査などの遺伝学的検査と遺伝カウンセリングを行っています。40歳未満で月経が止まった、AMHが年齢に比べて極端に低い、家族に早発閉経や脆弱X症候群の方がいるなど、卵子が早く減る原因を正確に調べたい方は、検査の対象や内容をご確認のうえご予約ください。
参考文献
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