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高齢妊娠のリスクや生活上の注意点を詳しく解説

ニュースなどで高齢妊娠という言葉を耳にする機会は少なくありません。晩婚化が進むにつれて、妊婦さんの年齢が上がっているのが要因の一つです。
高齢妊娠は、若い方の妊娠と比較してリスクが生活上の注意点が多くなっていきます。
当記事では、高齢妊娠のリスクや注意点について詳しく解説します。

高齢妊娠は何歳から?

高齢妊娠は35歳以上で妊娠・出産することを指します。
妊娠や出産のリスクは妊婦さん本人の体力や身体機能などに大きく左右されるものです。しかし、一般的に35歳以上の方の妊娠・出産はリスクが高くなるため、医療機関などではより一層注意を払うようになります。

高齢妊娠の割合

全体に占める高齢妊娠の割合についてのデータはありませんが、高齢出産についていえば、その割合がどんどんと高くなっています。
2019年に行われた「第2回妊産婦に対する保健・医療体制の在り方に関する検討会」の資料によれば、2016年に出産した方のうち、35歳以上だったのは28.5%でした。[注1]

実に、4人に1人以上が高齢出産となっており、妊娠・出産の高齢化が進んでいるのがわかります。
しかもこの割合は年々増え続けており、今後も増加傾向が続くとみられています。

[注1]厚生労働省:第2回妊産婦に対する保健・医療体制の在り方に関する検討会(ペーパレス) 資料 p.2
www.mhlw.go.jp/content/12401000/000488885.pdf

高齢妊娠のリスク

高齢妊娠の方は増加傾向にある一方、高齢妊娠にはリスクがともなうこともデータによって明らかになっています。
高齢妊娠では、若い妊婦さんと比べてリスクが大きく、注意が必要です。
では、高齢妊娠のリスクを5つ紹介します。

1. 早産・流産のリスクが高まる

高齢妊娠のもっとも大きなリスクといえるのが、早産・流産の危険です。
通常、赤ちゃんは正期産と呼ばれる、妊娠37週0日から妊娠41週6日の間に生まれてきます。
一方、妊娠22週0日から妊娠36週6日までに生まれてくることを早産、妊娠22週未満で生まれてしまうことを流産と判断します。

高齢妊娠では、早産したり流産したりする確率がより若い妊婦さんと比較して高いです。流産率は一般的に15%程度と言われています。しかし、35歳以上の高齢出産の場合、自然流産率はより高い傾向です。
35歳から39歳までの妊婦さんは20.7%、40歳以上の妊婦さんは41.3%で、34歳未満の妊婦さんとの有意差を指摘している資料もあります。[注2]

流産の原因は染色体異常が関係していると考えられます。
受精の際に染色体の異常が起こる場合があります。
たいていは、染色体の異常を修復しながら赤ちゃんが成長していきますが、修復しきれずに妊娠を継続しきれなくなった時流産が起こるのです。
高齢妊娠になると、卵子の老化にともなう染色体の異常が起こりやすいため、流産率を高くする要因となっています。

[注2]厚生労働省:「不妊に悩む方への特定治療支援事業等の
あり方に関する検討会」 報告書 参考資料 p.10
www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/0000015864.pdf

2. 染色体異常のリスクが大きくなる

高齢妊娠の別のリスクは、生まれてくる赤ちゃんに染色体異常がある確率が上がる点です。染色体異常があると、赤ちゃんがさまざまな障害を持って生まれてくる可能性があります。
たとえば、一般的にダウン症と呼ばれる21トリソミーは、23対46本あるはずの染色体の21番目が3本ある状態を指します。

染色体異常は、卵子の分裂異常が原因であることが多いです。
高齢妊娠では、卵子の老化にともなう染色体異常のリスクがあると考えられています。
日本産婦人科医会では、ダウン症の赤ちゃんが産まれる確率について、以下のように述べています。

“例えば20歳代の母親から生まれてくるダウン症の赤ちゃんは1000人に一人程度ですが、40歳では100人に一人の確率になります。”
[引用]公益社団法人 日本産婦人科医会:高齢妊娠って何歳からですか?
www.jaog.or.jp/qa/confinement/200708/

高齢妊娠の方の中には出生前診断を受けて胎児の染色体異常の有無を調べ、早めに治療や教育環境の整備を始める方も多くいます。

3. 母体への負担が大きくなる

妊娠は母体への負担がとても大きいですが、高齢妊娠の場合、その負担はさらに大きくなります。
年齢を重ねるにつれ、糖尿病や高血圧といった病気にかかるリスクが高まるのは自然の摂理です。そして高齢妊娠の場合、妊娠にともなう体調不良に悩まされる可能性も高くなるのです。

たとえば、妊娠高血圧症候群が挙げられます。
妊娠高血圧症候群は以前は妊娠中毒症と呼ばれていました。症状としては、妊娠時に高血圧が見られたり、高血圧とともにタンパク尿が見られたりするケースを指します。

妊娠高血圧症候群は妊婦さん約20人に1人の割合で起こるといわれています。もともと糖尿病や高血圧の持病をもつ人のほか、肥満、母体の年齢が40歳以上のケースもなりやすいといわれているため、注意しなければなりません。[注2]
妊娠高血圧症候群を発症すると、臓器障害や血管障害が見られるケースもあり、妊婦さん自身の体もリスクにさらされます。

妊娠高血圧症候群の他に、妊娠糖尿病のリスクもあります。
妊娠糖尿病とは、妊娠をきっかけに糖尿病になることです。原因は糖の代謝異常です。
妊娠糖尿病も、年齢が上がるにつれて発症する確率が高くなるのが知られています。35歳以上の妊婦さんの場合、20歳から24歳の妊婦さんと比較して8倍のリスクがあるとするデータもあります。
さらに、もともと肥満傾向だったり、塩分やカロリーの多い食生活を送ったりしていると発症の確率が高くなります。
妊娠糖尿病になると、羊水過多やそれにともなう巨大児・低出生体重児など胎児に影響も懸念されるでしょう。また、高齢妊娠では胎盤早期剥離といった合併症のリスクも上がります。

[注2]公益社団法人 日本産科婦人科学会:妊娠高血圧症候群
www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=6#:~:text=%E5%A6%8A%E5%A8%A0%E9%AB%98%E8%A1%80%E5%9C%A7%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4%E3%81%A8%E3%81%AF,%E7%97%87%E3%81%A8%E5%88%86%E9%A1%9E%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

4. 難産になるリスクもある

高齢妊娠では、赤ちゃんが生まれる時に難産になる可能性があります。
軟産道強靭という状況では、赤ちゃんが生まれる時に通る産道やその周囲の血管、子宮口が加齢とともに柔軟性を失い、硬くなってしまいます。
すると、産道が広がりにくくなり、赤ちゃんがなかなか下りてこられません。
結果として出産に多くの時間がかかり、妊婦さんにも赤ちゃんにも大きな負担がかかってしまいます。母子の命にかかわると判断され、自然分娩ではなく帝王切開に切り替えて出産するケースも少なくありません。
高齢出産での帝王切開の場合、回復に時間がかかってしまうのも考えられます。

5. 産褥期のトラブルが多い

高齢妊娠の別のリスクは、産褥期のトラブルです。
産褥期とは、出産後にお母さんの体が元に戻る時期を指し、およそ出産後6週間から8週間とされます。産褥期は体をゆっくり休めるべき時期ですが、産前にはなかったような体調不良や症状が見られる場合があるのです。
高齢妊娠の場合、若いころより体力が少なく回復に時間がかかります。さらに、自分や配偶者の両親が高齢で、産褥期に十分なサポートを受けられないことも珍しくありません。
子宮が元の大きさに戻らない、子宮復古不全のリスクがあるのも覚えておきましょう。

高齢妊娠のリスクへの対応方法

高齢妊娠のリスクや生活上の注意点を詳しく解説

高齢妊娠は若い妊婦さんと比較してリスクが高いので、妊娠中から十分に注意して対応を考えておかなければなりません。
高齢妊娠への対応をしっかり行うことで、さまざまなリスクを低減させられるのです。
では、リスクにどう対応していけばよいのか見ていきましょう。

1. 妊娠前から葉酸をたくさん摂る

高齢妊娠のリスクを少しでも下げるのに有効なのは、葉酸をたくさん摂取することです。
葉酸は、胎児の脳や脊髄に異常が起こってしまう神経管閉鎖障害を予防するのに役立つ栄養素であり、厚生労働省も接種を奨励しています。
とくに妊娠4週から10週は、器官形成期であり、胎児の脳や脊髄などで重要な役割を果たす神経管が形成されます。

神経管の正常な育成が促進される葉酸は、高齢妊娠に限らず、すべての妊婦さんが積極的に摂取すべき栄養素といえるでしょう。可能であれば、葉酸は妊娠する前の妊活から摂取するよう心がけるべきです。
多くの妊婦さんが妊娠に気付くのは妊娠5週頃であるため、妊娠が分かった時にはすでに胎児の脳や脊髄が作られ始めており、葉酸の供給が間に合わないことが起こりえます。さらに、葉酸を体に蓄えて胎児に十分行きわたるようにするためには、1ヶ月ほどの時間がかかります。
妊活中から葉酸を摂取して、赤ちゃんが必要な時期にしっかりと必要な栄養素を供給できるようになるのです。葉酸はホウレン草やアスパラガス、レバーなどに多く含まれています。

2. バランスの良い食事を心がける

高齢妊娠の場合、食生活によって妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病になるリスクが高くなります。そのため、妊娠中の食生活には普段以上に注意を払うべきです。
太りすぎていると出産時の微弱陣痛のリスクが高まり、逆に痩せすぎていると赤ちゃんに十分な栄養が行きわたらなくなります。

こうしたリスクを回避するために、いろいろな食材、とくに野菜を多めに取り入れた食事を摂るようにしてください。できる限り野菜から食べるようにし、血糖値の急激な上昇を抑えましょう。
料理を作る際には、だしや酢を使うことで塩や砂糖の使用を減らせる場合があります。母子の健康維持のため、塩分を少なめにし、高タンパク・低カロリーな食事を心がけてください。

3. 妊婦健診を受けて医師のサポートを求める

高齢妊娠に限らず、妊婦さんは妊婦健診を受けて体調や生活について医師や助産師に相談するのがよいでしょう。
妊婦健診は、妊娠が判明してから23週までは4週間に1回、妊娠24週から35週までは2週間に1回、それ以降は週1回行うのが勧められています。
高齢妊娠の場合、急に体調が変化したりトラブルを抱えたりすることがあるので、できる限り早く兆候を見分けるのが重要です。
定期的に妊婦健診を受ければ体調の変化の兆候を見つけ、適切に対処ができるでしょう。
妊婦健診には自治体からの補助金が出るので、妊娠が分かったなら早めに申請するのがおすすめです。

【まとめ】高齢妊娠では、リスクをふまえた適切な体調管理が大切

高齢妊娠ではさまざまなリスクがあり、赤ちゃんが障害を持って生まれてくる確率も上がります。
できるだけリスクを低減するために、適切な体調管理や食生活、医師との協力が欠かせません。
高齢妊娠の方は、日々の生活に十分注意して元気な赤ちゃんを産める準備を整えましょう。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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