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NTでわかる胎児の状態と異常の可能性|検査方法と基準値を詳しく解説

この記事のポイント
  • NTとは妊娠初期の胎児の首の後ろに見られるむくみのこと
  • NT測定は妊娠11週0日~13週6日の間が最適
  • 一般的に3.5mm以上はNT肥厚と判断される
  • NT肥厚が見られた場合はNIPT検査がおすすめ
  • FMFライセンスを持つ専門医による測定が重要

妊娠が判明すると、お腹の赤ちゃんの健康状態が気になるママも多いのではないでしょうか。妊娠初期の超音波検査で「NT」という言葉を聞いたことがある方もいるかもしれません。NTとは胎児の首の後ろに見られるむくみのことで、このNTの厚みによって先天性異常のリスクを早期に知ることができる重要な指標となります。

この記事では、NTとは何か、測定方法や正常値、もしNT肥厚が見られた場合の対応などについて詳しく解説します。妊娠初期に超音波検査を控えている方や、NT肥厚を指摘された方の不安を少しでも和らげる情報をお届けします。

NTとは?基本知識を理解しよう

NTとは「Nuchal Translucency(胎児項部透過像)」の頭文字をとったもので、赤ちゃんの首の後ろにある皮下の液体貯留(むくみ)のことを指します。このむくみは、妊娠11週0日~13週6日頃のほとんどすべての胎児に認められる正常な所見です。

NT発見の背景

NTが出生前診断のマーカーとして注目されるようになったのは1992年、Nicolaidesらが「NTの肥厚が胎児の染色体異常リスクと関連する」という論文を発表したことがきっかけです。その後、NTの計測方法や評価法が改良され、現在では多くの国で出生前診断の指標として用いられています。

なぜNTができるのか

妊娠初期の胎児にNTが見られる明確な理由はまだ解明されていませんが、いくつかの説があります:

リンパ管システムの発達

胎児のリンパ管システムがまだ発達途上で、一時的に首の後ろに液体が貯留する可能性があります。染色体異常がある場合、このリンパ管の発達に問題が生じやすいとされています。

心機能の未熟さ

妊娠初期の胎児の心臓機能はまだ発達途上のため、循環が不安定になりやすく、NTが肥厚することがあります。先天性心疾患がある場合、この傾向がより強くなります。

筋緊張の低下

胎児の筋肉の発達や緊張度が関係している可能性があります。染色体異常や神経筋疾患がある場合、筋緊張が低下しやすく、NT肥厚につながることがあります。

生理的な一過性現象

妊娠初期に見られるNTは、多くの場合、妊娠中期(15週以降)に自然と消失します。一時的な生理現象として起こる可能性もあります。

NT測定の目的

NT測定の主な目的は以下の通りです:

  • 1 染色体異常のリスク評価:NTの肥厚は染色体異常(特にダウン症候群、18トリソミー、13トリソミーなど)のリスク増加と関連しています
  • 2 先天性心疾患の早期発見:NTの肥厚は心臓の構造異常とも関連があります
  • 3 その他の先天性疾患の早期発見:横隔膜ヘルニアや骨系統疾患など様々な先天性疾患との関連があります
  • 4 追加検査の必要性判断:NT測定結果を基に、NIPT検査や羊水検査などの追加検査が必要かどうかを判断する材料になります
「NT=先天性異常」ではありません

重要なのは、NTの肥厚が見られたからといって、必ずしも胎児に異常があるわけではないということです。NT肥厚がある胎児でも、そのうちの70~80%は健康な赤ちゃんとして生まれてきます。また、NTが増大していても、妊娠中期(15週以降)には自然に消失することも多いのです。NT測定はあくまでスクリーニング検査の一つであり、確定診断ではありません。

NTでわかる胎児の異常の可能性

NTの肥厚は様々な胎児の異常と関連があるとされています。ここでは、NT肥厚と関連性が高い主な疾患について解説します。

染色体異常疾患

疾患名 特徴 発生頻度
ダウン症候群(21トリソミー) 21番染色体が1本多い状態。発達の遅れや特徴的な顔貌、先天性心疾患などがみられます。 約1,000人に1人
(母体年齢が高いほど頻度↑)
エドワーズ症候群(18トリソミー) 18番染色体が1本多い状態。重度の発達障害や多発奇形を伴います。 約3,000~10,000人に1人
パトウ症候群(13トリソミー) 13番染色体が1本多い状態。重度の脳奇形や臓器の異常を伴います。 約5,000~10,000人に1人
ターナー症候群(モノソミーX) 女性で、X染色体が1本欠損または部分欠失している状態。低身長や卵巣機能不全などの特徴があります。 女児の約2,500人に1人

その他の関連疾患

1

先天性心疾患:NT肥厚がある胎児は心臓の構造異常のリスクが高まります

2

先天性横隔膜ヘルニア:横隔膜に穴があき、腹部臓器が胸腔内に入り込む疾患

3

骨系統疾患:骨や軟骨の発達に影響する遺伝性疾患群

4

微小欠失症候群:染色体の一部が欠失することによって起こる疾患群

重要なポイント

NT肥厚があっても、必ずしも上記の疾患があるわけではありません。NT測定はあくまでもスクリーニング検査の一つであり、結果によっては更なる検査(NIPT検査や羊水検査など)が推奨されることがあります。NT肥厚があった場合でも、その多くは健康な赤ちゃんとして生まれてきます。

i

NT肥厚が見られた場合は、NIPT検査(新型出生前診断)の受検をおすすめします。詳しくは 「NIPT検査について」 をご覧ください。

NTの測定方法と正常値

NT測定は超音波検査で行われ、妊娠11週0日~13週6日の間が最適な時期とされています。この時期を過ぎると、NT自体は確認できても適切な評価はできなくなります。

NT測定の手順

NT測定は以下の手順で行われます:

  1. 1
    正中矢状断面での測定:胎児の頭部と胸部が超音波画面に表示されるように調整します
  2. 2
    ニュートラルポジション:胎児の首が過度に伸びたり曲がったりしていない状態で測定します
  3. 3
    拡大表示:胎児の頭部から胸部までを画面いっぱいに拡大して表示します
  4. 4
    測定ポイント:首の後ろの皮膚と羊膜の間の最も広い部分を測定します
  5. 5
    複数回測定:正確性を高めるため、2回以上の測定を行います

NT測定のポイント:NT測定は非常に難易度の高い検査です。測定者の技術や経験によって結果が左右される可能性があるため、できれば専門的な訓練を受けた医療者(FMFライセンス取得者など)による測定が望ましいでしょう。

NTの正常値

NTの正常値は胎児の頭殿長(CRL:Crown-Rump Length)によって異なりますが、一般的には3.5mm未満が正常範囲とされています。

妊娠週数別の一般的な正常値目安は以下の通りです:

妊娠週数 NTの正常値範囲
妊娠11週 1.0-2.8mm
妊娠12週 1.2-3.1mm
妊娠13週 1.6-2.4mm

ただし、NT値が3.5mmであっても、80%の胎児は健康に生まれてくることを覚えておきましょう。NTの値だけで不安になりすぎることのないようにしてください。

FMFライセンスとは

NT測定には高度な専門性が求められるため、測定の質を保証するための認証制度があります。その代表的なものが「FMFライセンス」です。

FMF(The Fetal Medicine Foundation)とは

FMFは1995年にイギリスで設立された胎児医療研究と教育を目的とする非営利団体です。胎児医療の研究と教育を通して、妊婦と胎児の健康向上を目指しています。

FMFは出生前検査の質を一定に保つため、NT測定の国際的な基準を設定し、医療者向けの認証制度(FMFライセンス)を運営しています。

FMFライセンスの特徴

1
国際的な認証

世界的に認められた専門資格で、特別なトレーニングを受けた医療者に認定されます

2
継続的な品質管理

資格取得後も定期的に症例を報告し、審査を受ける義務があり、測定の質を維持

3
標準化された測定基準

NT測定の正確な手法や基準が明確に定められており、測定方法の標準化を実現

4
専門的な知識と技術

正確なNT測定だけでなく、胎児の健康状態を包括的に評価するための専門知識も備えている

日本ではまだFMFライセンスを持つ医療者は多くありませんが、NT測定の質を保証するために重要な資格です。できればFMFライセンス所持者による測定を受けることをおすすめします。

ミネルバクリニックのNT検査について

ミネルバクリニックでは、超音波検査技師による丁寧なNT測定を行っています。NT肥厚が認められた場合には、より精度の高いNIPT検査をご案内しています。

当クリニックでは2024年8月より、最新技術であるCOATE法(Coordinative Allele-aware Target Enrichment法)によるNIPT検査を導入しました。微小欠失症候群の陽性的中率をほぼ100%に高めた革新的な検査方法です。

NT肥厚が見られた場合の対応

NT測定で肥厚が認められた場合、どのような対応をすればよいのでしょうか。不安になるのは当然ですが、冷静に次のステップを考えましょう。

次に行うべき検査

検査名 特徴 検査時期
NIPT検査
  • 母体血から胎児DNAを分析
  • 侵襲性なし(採血のみ)
  • 高精度(99%以上)のスクリーニング検査
妊娠10週以降
コンバインドテスト
  • NT測定と母体血清マーカー検査の組み合わせ
  • 複数のデータから総合的にリスクを評価
妊娠11~13週
詳細超音波検査
  • 胎児の詳細な構造を確認
  • 心臓などの臓器の異常を評価
妊娠18~22週
羊水検査(確定検査)
  • 羊水中の胎児細胞を採取し染色体を分析
  • 確定診断が可能
  • 流産リスク約0.3~0.5%
妊娠15週以降

NT肥厚が認められた場合、まずはNIPT検査を受けることをおすすめします。NIPT検査は母体への負担が少なく、高精度なスクリーニング検査です。NIPT検査で陽性結果が出た場合は、確定診断のために羊水検査を検討します。

NIPT検査(新型出生前診断)とは

NIPT検査は、妊婦さんの血液中に存在する胎児由来のDNA断片を分析することで、胎児の染色体異常の可能性を調べる検査です。従来の羊水検査と異なり、胎児への侵襲がないため流産リスクがなく、99%以上の高精度でスクリーニングが可能です。

ミネルバクリニックでは最新のCOATE法によるNIPT検査を提供しており、染色体数的異常(ダウン症候群など)だけでなく、微小欠失症候群や単一遺伝子疾患についても高精度で検出できます。

遺伝カウンセリングの重要性

NT肥厚が見られた場合や、さらなる検査を検討する際には、遺伝カウンセリングを受けることが重要です。遺伝カウンセリングでは、以下のようなサポートを受けることができます。

検査に関する正確な情報提供

各検査の目的、方法、リスク、限界などについて詳しく説明を受け、十分な理解に基づいた意思決定ができるようサポートします。

心理的サポート

不安や心配を抱えている妊婦さんやご家族の気持ちに寄り添い、精神的なサポートを提供します。

疾患に関する情報提供

染色体異常や先天性疾患について、その症状や医療的ケア、生活上の課題、利用できる支援制度などについて情報を提供します。

個別化された対応

それぞれの妊婦さんの状況、価値観、希望に合わせた個別のサポートを提供し、最善の選択ができるよう支援します。

ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医による丁寧な遺伝カウンセリングを提供しています。NT肥厚が見られた場合や出生前検査をお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。

よくある質問

Q
NT肥厚があっても健康な赤ちゃんが生まれる可能性はありますか?

A

はい、十分にあります。NT肥厚が見られる場合でも、約70~80%の胎児は健康に生まれてきます。NT肥厚は染色体異常などのリスクが高まる可能性を示すものですが、確定診断ではありません。

Q
NT測定は、すべての妊婦健診で行われるのですか?

A

いいえ、NT測定は通常の妊婦健診の一部ではありません。専門的なトレーニングを受けた医療者による測定が必要で、希望される方が受ける検査です。施設によっては「胎児ドック」などの精密超音波検査の一環として提供されています。

Q
NT測定とNIPT検査はどちらが先に受けるべきですか?

A

一般的にはNT測定を先に受け、その結果を踏まえて必要に応じてNIPT検査を検討するという流れが多いです。ただし、35歳以上の方や染色体異常のリスクを心配される方は、NT測定の結果に関わらずNIPT検査を受けることも選択肢の一つです。

Q
NT肥厚は、妊娠中期には改善することがありますか?

A

はい、妊娠初期にNT肥厚が見られても、妊娠15週以降には自然に消失することが多いです。これは胎児の発達に伴う自然な変化の一つです。ただし、NT肥厚が消失したからといって、染色体異常や構造異常のリスクがなくなるわけではないため、必要に応じて追加検査や詳細超音波検査を受けることが推奨されます。

まとめ

NT(胎児項部透過像)は妊娠初期の胎児に見られる首の後ろのむくみで、ほとんどすべての胎児に認められる正常な所見です。しかし、そのむくみが厚くなると(一般的に3.5mm以上)、染色体異常や先天性疾患のリスクが高まる可能性があります。

NT測定は妊娠11週0日~13週6日の間に行うのが最適で、FMFライセンスなどの専門的資格を持つ医療者による測定が望ましいです。NT肥厚が認められた場合は、NIPT検査などの追加検査を検討し、必要に応じて遺伝カウンセリングを受けることが重要です。

最も重要なのは、NT肥厚があっても約70~80%の胎児は健康に生まれてくるということです。NT測定はあくまでスクリーニング検査の一つであり、確定診断ではありません。正確な情報に基づいて冷静に判断し、必要なサポートを受けながら、妊娠期間を過ごしていただければと思います。

不安や疑問がある方はミネルバクリニックへ

NT肥厚が見られた方や、出生前検査に関する不安や疑問をお持ちの方は、ミネルバクリニックの遺伝カウンセリングをご利用ください。臨床遺伝専門医が丁寧にご説明し、最適な検査や対応について一緒に考えます。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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