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まだほんの数cmしかない小さな胎児が動き回る様子は、ママとパパだけでなく、誰もが妊娠の喜びを感じられるはずです。
しかし、近年じわじわ知られるようになってきたNTの測定結果によっては、赤ちゃんをこのまま産んでよいのか不安になってしまう妊婦さんも少なくありません。
NTとは、超音波検査において妊娠11週0日〜13週6日頃の胎児後頸部に認められる皮下の液体貯留像のことで、わかりやすくいうと、胎児の首の後ろにみられる液体の溜まりです。英語ではNuchal Translucency、日本語では胎児後頸部透亮像といい、NTの厚みが厚いほど先天性異常の確率が高くなるといわれています。
NT測定でわかるのは胎児の先天性異常の確率ですが、日本ではまだ先天性異常のスクリーニング検査としてはあまり普及していません。しかし、今後急速に普及する可能性が高く、先天性異常の正診率を高める研究も数多く実施されています。
この記事では、NTでわかる胎児の異常とNTについて詳しくご紹介します。
NTでわかる胎児の異常の可能性とは
NTは赤ちゃんに生まれつきの異常があるかを知るために検査するものです。しかし、超音波検査でわかる異常はある程度限られており、これだけで診断を確定するものではありません。
ただ、超音波検査でNTの厚みが正常値ではないと判断された場合、さまざまな先天性異常がある可能性もあります。
ここでは、NTでどんな疾患の可能性がわかるのかご紹介します。
ターナー症候群(モノソミーX)
ターナー症候群は、女性のみに起こる染色体異常で、通常2本のX染色体の1本が部分的または欠失していることにより発生する症候群です。NTが肥厚する染色体異常の中でもっとも多いのがターナー症候群といわれています。
妊娠初期にNTがとても厚い、血流が不安定、手足が短い、頻脈があるなどの特徴が出ている場合にはターナー症候群の可能性が疑われます。超音波検査でターナー症候群が疑われた場合は重症であることが多いようです。
出生女児の約2,500人に1人の割合で発生するといわれており、以前までは病気という位置付けでしたが、近年は特徴として捉えられるようになりました。
ターナー症候群は現れる特徴の程度に個人差があり、出生時にターナー症候群と診断されなかった場合でも、成長していくにつれて特徴が現れてくるケースもあります。
ダウン症候群(21トリソミー)
ダウン症候群は染色体の不分離や転座(染色体の一部が入れ替わってしまう状態)などにより、通常2本ずつあるはずの21番目の染色体が、1本多い計3本(トリソミー)あることが原因で起こる先天性の症候群です。NTが厚い胎児は染色体異常の可能性があり、ダウン症候群(21トリソミー)もターナー症候群とともに危険性が高い症候群です。
約1,000人に1人の割合で生まれてくるとされており、妊婦さんの年齢が高いほど発生頻度が増していくため、近年高齢出産が増加している日本では増加傾向にあります。
ダウン症候群はほとんどの場合精神遅滞を発症しますが、その度合いは患者によって大きな違いがあります。
エドワーズ症候群(18トリソミー)
エドワーズ症候群は18トリソミーとも呼ばれる疾患で、18番目の染色体が通常2本でなければならないところを1本多い3本であることが原因で起こる症候群です。
ダウン症候群よりも症状が重く、発生確率は3,000人〜10,000人に1人といわれています。
エドワーズ症候群もダウン症候群と同様にNTの肥厚がみられる疾患です。エドワーズ症候群は、NTのほかにも以下のような特徴が確認できます。
- 手は拳を握る形で人差し指が中指と薬指の上にある
- 胎動が弱い
- 羊水が過剰
- 胎盤が小さい
- 心奇形
- 低出生体重
- 重度の発達障害
- 指の奇形
- 後頭部の突出
- 足の親指が短く上に曲がっている
ダウン症候群と同じように妊婦さんの年齢が高いほど発生確率が上がります。生まれる前に自然流産してしまう例も多く、かつての平均寿命は男児が2〜3か月、女児が10か月程度でした。
しかし、現在は医学の進歩、技術の革新により平均寿命は6歳程度まで延びています。
パトウ症候群(13トリソミー)
パトウ症候群は13トリソミーとも呼ばれる疾患で、2本で1対であるはずの13番目の染色体が3本あるために起こる症候群です。パトウ症候群もほかの染色体異常同様NTの肥厚がみられ、ほかにもさまざまな特徴が超音波検査でわかります。
- 眼間狭小
- 小眼球症、無眼球症
- 口唇裂、口蓋裂、口唇口蓋裂
- 小耳症
- 嚢胞性ヒグローマ
- 肺低形成
- 心奇形
- 臍帯ヘルニア
- 膀胱出口部閉塞
- 停留精巣
- 単一膳帯動脈
パトウ症候群は超音波検査で上記のような所見が認められるケースも多く、3つのトリソミーの中ではもっとも症状が重い症候群です。出生確率は5,000〜10,000人に1人程度といわれており、ほかの症候群と同様に妊婦さんの年齢とともに発生確率も増加します。
ただ、パトウ症候群の胎児は96%の確率で流産または死産になり、生まれて来ることができたとしても生後1か月で約8割が亡くなってしまいます。
NTについて
NTは染色体異常をふるい分けるために計測するのではなく、それによって心疾患やそのほかの疾患の早期発見、治療に役立つものです。ただ超音波検査でNT測定を行い、胎児異常を知ってしまったママは大きなショックを受けることになってしまうので、事前に詳しい説明を受けて同意の上で検査を受けるようにしましょう。
ここでは、NTについてもう少し詳しくご紹介します。
「NT=先天性異常」ではない
NTに関する情報はネット上にあふれていますが、本当に正しい知識を持っている方は非常に少なく、産科の医師でも理解していない場合も多いのが現状です。
NTは胎内での成長過程ですべての胎児にみられます。循環機能が未熟な妊娠初期の胎児は、循環が不安定であることも多くNTが肥厚しやすい状態です。
そのため、NTに肥厚がみられるからといって必ずしも染色体異常があると決まったわけではなく、あくまでもNTが厚く見えない胎児と比べ、染色体異常の可能性が高いという意味であることを理解しておきましょう。
また、NTの肥厚はさまざまな原因によって起こるもので、ダウン症候群のみと関連しているわけではありませんし、NTの肥厚がみられる胎児でも健康に生まれてくるケースもたくさんあります。
つまり、NTが肥厚していても胎児に異常があると決めつけられないということです。
NTの測定方法
NTの測定期間は妊娠11週0日〜13週6日頃です。胎児の頭部と頸部、胸部が超音波検査機器の画面全体を占めるように十分拡大されている状態で測定します。
以下はNTの測定方法です。
- 胎児を十分拡大して上半身を表示
- 正中矢状断でニュートラルポジションで測定
- NTの端まで正確にキャリパーがおける状態
- 羊膜と胎児の皮膚が分離している
- 胎児の鼻の骨を確認できる断面で測定
- NTは幅がもっとも大きい部位を測定
- 2回以上測定する
このほかにもさまざまな点に十分注意してNTを測定します。胎児の体の向きなどにもよりますが、一般的にNT測定には10〜20分程度の時間を要します。
NT測定は非常に難易度が高い検査であるため、本来は十分な知識と技術をもった専門家が行うべきです。しかし、一般の妊婦健診で行われている超音波検査において偶然発見されてしまうケースもあります。そのような場合は、専門のNT測定資格認定を受けた医師がいる病院へ相談に行ってみるとよいでしょう。
FMFライセンスとは
NT測定は先天性異常などの可能性を示すことから、出生前診断の要素をもっているとされ、欧米では検査の質を保証するFMFライセンスという資格が創設されています。FMFライセンスは、The Fetal Medicine Foundationという英国発祥のチャリティ組織が付与しているNT検査の認定制度です。
日本ではこのような資格はありませんが、FMFライセンスを取得した医師による測定を受けられる病院もあります。
FMFライセンスは、NT検査の専門的資格認定を受けたあとも更新のために症例を報告、審査を受ける義務があり、これによって資格の質を保っています。
まとめ
NTでわかる胎児の異常とNTについて詳しくご紹介しました。
NTの肥大は、ご紹介した先天性異常のほかにも心疾患や先天性横隔膜ヘルニア、骨系統疾患などさまざまな疾患の可能性を知るきっかけになる場合もありますが、NT測定だけではスクリーニング検査としては不十分です。
そのため、病院でNTの肥厚が認められたときはNIPT検査の受検をおすすめします。 NIPT検査は母体の採血のみで行う新しい出生前診断です。
NIPT検査も確定検査ではありません。しかし NIPT検査は精度が99%と非常に高いため、母体と胎児にリスクを伴う羊水検査や絨毛検査の前に受検することで、これらの確定検査を受けるべきかの判断ができます。
病院でお腹の赤ちゃんがNT肥厚であるといわれたママ、はじめての妊娠で不安を感じているママはぜひ本記事を参考にしてみてください。
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