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メンケ・ヘネカム症候群1型とは?原因・症状・診断とルビンスタイン・テイビ症候群との違い

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。2025年国際誌『Global Woman Leader』表紙抜擢など、世界基準の出生前診断と遺伝カウンセリングを提供。

メンケ・ヘネカム症候群1型は、CREBBP遺伝子のエクソン30・31という限られた領域に集中して起こる変異によって生じる、100万人に1人未満という極めてまれな先天性の症候群です。知的発達の遅れ、長い人中などの特徴的な顔つき、低身長、小頭症を主な特徴とします。同じCREBBP遺伝子が原因のルビンスタイン・テイビ症候群とは、原因の仕組みも症状も異なる別の病気であることが、近年の研究で明らかになりました。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 CREBBP遺伝子・先天性疾患・臨床遺伝
臨床遺伝専門医監修

Q. メンケ・ヘネカム症候群1型とはどのような病気ですか?まず結論だけ知りたいです

A. CREBBP遺伝子のエクソン30・31という特定の領域に生じる変異によって起こる、100万人に1人未満の極めてまれな先天性の症候群です。知的発達の遅れ、特徴的な顔つき、低身長、小頭症、摂食障害などを主な特徴とし、よく似たルビンスタイン・テイビ症候群とは原因の仕組みも症状も異なる別の病気であることが診断の鍵になります。

  • 疾患の定義 → OMIM 618332、Orphanet ORPHA:592574、有病率100万人に1人未満
  • 分子メカニズム → ルビンスタイン・テイビ症候群の「ハプロ不全」とは異なる、NMD回避とドミナント・ネガティブ
  • 主な症状 → 発達の遅れ(ほぼ全例)・長い人中・低身長・小頭症・摂食障害
  • 鑑別診断 → ルビンスタイン・テイビ症候群との違いを詳解
  • 診断・管理 → 全エクソーム解析とエピシグネチャー、多職種チーム医療の実際

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1. メンケ・ヘネカム症候群1型とは:定義と発見の歴史

メンケ・ヘネカム症候群1型(Menke-Hennekam syndrome 1、略称MKHK1、OMIM 618332)は、さまざまな程度の知的障害・発達の遅れ・自閉症様の行動・低身長・小頭症、そして特徴的な顔つきを主な症状とする、とてもまれな先天性の症候群です。16番染色体の短腕(16p13.3)にあるCREBBP遺伝子の特定の場所(おもにエクソン30・31)に変化が起こることで発症します。遺伝の形式は常染色体顕性(優性)遺伝で、有病率は100万人に1人未満と推定され、これまでに世界で報告されているのは数十例から100例程度にとどまります。

⚠️ 「メンケス病」とは別の病気です。名前がよく似ていますが、メンケス病(Menkes病)はATP7A遺伝子の異常で銅の代謝がうまくいかなくなるX連鎖潜性(劣性)遺伝の病気で、メンケ・ヘネカム症候群とは原因も遺伝形式も全く異なります。メンケス病をお探しの方はメンケス病の解説ページをご覧ください。

💡 用語解説:常染色体顕性(優性)遺伝とは

「常染色体」とは、性別を決めるX・Y染色体以外の染色体のことです。「顕性(優性)」とは、2本ある染色体のうちどちらか1本に変化があるだけで症状が現れる性質を指します。理論上は親から子へ50%の確率で受け継がれますが、メンケ・ヘネカム症候群1型の多くはデノボ(新生突然変異)——両親には変化がなく、お子さんで初めて生じた変化——によって起こるため、実際には親から遺伝してくるケースは少ないと考えられています。遺伝の形式については遺伝形式の解説ページもご参照ください。

国際的な希少疾患データベースであるOrphanetには「ORPHA:592574」として登録されています。この病気が独立した症候群として確立されるまでの歴史は、遺伝子解析技術の進歩と深く結びついています。長いあいだ、CREBBP遺伝子の変化といえば、幅広く曲がった母指・第一趾と特徴的な顔つきをもつルビンスタイン・テイビ症候群(RSTS)の主な原因として知られてきました。

ところが、全エクソーム解析などの次世代シーケンサーが臨床で普及すると、CREBBP遺伝子に変化があるのに、ルビンスタイン・テイビ症候群の最大の特徴である手足の著しい奇形がなく、顔つきも異なる患者さんがいることがわかってきました。2016年以降、Menkeらの研究グループをはじめとする複数の報告により、これらの患者さんの変化がCREBBP・EP300遺伝子の3’末端(エクソン30・31)に極端に集中していることが見出されました。こうして、発見者の名にちなみ「メンケ・ヘネカム症候群」という独立した病気として定義されたのです。現在は、CREBBP遺伝子由来をMKHK1型、パラログであるEP300遺伝子由来をMKHK2型(OMIM 618333)と分類していますが、両者の臨床像にはとても強い共通性があります。

🔍 関連記事:原因遺伝子のはたらきを詳しく知りたい方へ → CREBBP遺伝子の解説ページ

2. 原因遺伝子CREBBPと分子病態メカニズム

メンケ・ヘネカム症候群1型の複雑な症状を理解する鍵は、原因遺伝子CREBBPがつくるタンパク質のはたらきと、その変化が細胞の中で何を引き起こすかにあります。とても興味深いのは、同じCREBBP遺伝子の変化でありながら、起こり方の違いによってルビンスタイン・テイビ症候群とは全く別の病気になる、という点です。

💡 用語解説:CREBBP遺伝子とCBPタンパク質(転写共役因子)

CREBBP遺伝子は、CBP(CREB結合タンパク質)という大きなタンパク質の設計図です。CBPは「転写共役因子」と呼ばれ、たくさんの遺伝子のスイッチを入れる手助けをします。具体的には、ヒストン(DNAを巻きつける糸巻きのようなタンパク質)に「アセチル基」という目印を付けてクロマチンをゆるめ、遺伝子が読み取られやすい状態をつくる「ライター(書き込み役)」として働きます。さらに、数百もの転写因子が集まる「足場」にもなり、胎児の発生から細胞の増殖・分化まで、体づくりの根幹を支えています。

💡 用語解説:エピジェネティクスとは

DNAの文字配列そのものは変えずに、遺伝子の「読まれ方(はたらき方)」を調整する仕組みの総称です。DNAのメチル化やヒストンの修飾が代表例です。CBPが担うヒストンのアセチル化は、特定の遺伝子を「オン」にするエピジェネティックなスイッチとして機能します。詳しくはエピジェネティクスの解説ページをご覧ください。

ルビンスタイン・テイビ症候群と分かれる仕組み:ハプロ不全とNMD回避

ルビンスタイン・テイビ症候群は、CREBBP遺伝子全体の欠失や、はたらきの中心であるHATドメインを壊す変化、あるいは遺伝子の上流〜中流に生じるナンセンス変異やフレームシフト変異によって起こります。こうした「途中で止まってしまう」異常な設計図は、細胞の品質管理システム(NMD)によって速やかに壊されます。その結果、正常なCBPタンパク質が半分しかつくられなくなる「ハプロ不全」の状態となり、これがルビンスタイン・テイビ症候群の病態の中心です。

💡 用語解説:ミスセンス変異・ナンセンス変異・NMD回避

ミスセンス変異は、DNAの1文字が変わってアミノ酸が別の種類に置き換わる変化で、タンパク質の形やはたらきに影響します(ミスセンス変異の解説)。ナンセンス変異は、タンパク質づくりを途中で止めてしまう変化です(ナンセンス変異の解説)。通常、途中で止まる設計図はNMDという仕組みで壊されますが、変化が遺伝子のいちばん最後(最終エクソン)に起こると、この仕組みをすり抜けます。これを「NMD回避」と呼びます。

これに対してメンケ・ヘネカム症候群1型では、変化がCREBBP遺伝子のいちばん最後にあたるエクソン30・31に極端に集中しています。これらの場所のミスセンス変異やインフレーム欠失は、特定の部分だけ形が変わった完全な長さのタンパク質をつくらせます。さらに重要なのは、日本の研究グループ(Nishiら、2022年)が、エクソン31に生じたフレームシフト変異やナンセンス変異もメンケ・ヘネカム症候群1型を引き起こすことを示した点です。これらは最終エクソンにあるためNMDをすり抜け、C末端側が欠けた、あるいは形の変わった異常なタンパク質が実際に細胞内につくられて蓄積することになります。

💡 用語解説:ハプロ不全とドミナント・ネガティブ効果

ハプロ不全とは、正常なタンパク質の量が半分に減ってしまい、それだけでは足りなくなる状態です(ハプロ不全の解説)。一方ドミナント・ネガティブ(優性阻害)効果とは、つくられた異常なタンパク質が、正常なタンパク質のはたらきを「積極的に邪魔する」現象です。メンケ・ヘネカム症候群1型では、蓄積した異常タンパク質が正常なCBPの複合体形成を妨げると考えられており、「量が足りない」ルビンスタイン・テイビ症候群とは病態の次元が異なります。この違いこそ、同じ遺伝子でも別の病気になる根本的な理由です。

どのドメインが傷つくか:3つのサブタイプ(ZZ・TAZ2・ID4)

近年の最も大きな進展は、「どの遺伝子(CREBBPかEP300か)か」よりも「タンパク質のどの機能ドメインが壊れたか」のほうが、臨床像とエピジェネティックな特徴を強く決める、という発見でした(Haghshenasら、2024年)。メンケ・ヘネカム症候群の変化は、CBPタンパク質のC末端近くにある3つの領域——ZZドメイン・TAZ2ドメイン・ID4リンカー——に集中しており、現在はMKHK-ZZ・MKHK-TAZ2・MKHK-ID4の少なくとも3つのサブタイプに分類されています。

CBPタンパク質のドメイン構造とサブタイプ

N末端
HATドメイン

ZZ
TAZ2
ID4
C末端
MKHK-ZZ
アセチル化ヒストンを読み取る
MKHK-TAZ2
転写因子と結合する
MKHK-ID4
柔軟な天然変性リンカー

変化は、CBPタンパク質のC末端近くにあるZZ・TAZ2・ID4の3領域(エクソン30・31がコードする部分)に集中します。どの領域が傷つくかでサブタイプが分かれ、症状やDNAメチル化の特徴も少しずつ異なります。

TAZ2ドメインは亜鉛イオンを抱えて立体構造をつくる「ジンクフィンガー」の一種で、TP53・STAT1・E2A・MYCなど多くの転写因子と結びつく接点です。ここに生じる変化(たとえばシステイン残基が置き換わるc.5368T>C p.(Cys1790Arg)など)は構造をゆがめ、特定の転写因子との結合だけを選択的に妨げます。システイン残基の置換は報告例の中でも目立つ発症パターンの一つです。ZZドメインは、ヒストンに付いた「アセチル化リジン」を見分けて結合する読み取り役で、ここが壊れるとCBPが正しい場所に呼び込まれなくなります。ID4は決まった形をもたない柔軟な領域で、その最初のαヘリックス付近に変化が集中することが報告されています。

3. 主な症状と表現型のスペクトラム

メンケ・ヘネカム症候群1型の症状は複数の臓器にまたがり、患者さんごとに重症度の幅があります。一方で、特定の特徴は非常に高い割合で共有されています。下のグラフは、これまでに報告されたコホート(症例群)の集計にもとづく、主な症状のおおよその出現頻度です。

主な症状の出現頻度(報告コホートの集計にもとづく推定)

■ 神経・発達 ■ 頭蓋顔面 ■ 全身・その他

知的障害・発達遅滞
100%
長い人中(人中の異常)
92%
平坦な顔貌・四角い顔
79%
眼瞼下垂・眼瞼裂狭小
75%
内眼角開離・両眼隔離
75%
摂食障害
65%
小頭症
63%
眼瞼裂の斜上・斜下
63%
難聴
50%
てんかん
21%
泌尿生殖器異常
21%
心疾患(構造的)
17%

知的障害・発達遅滞はほぼ全例に見られる普遍的な特徴です。頭蓋顔面の特徴も高頻度ですが、心疾患や泌尿生殖器の構造異常の合併率は比較的低い傾向にあります。

🧠 神経・発達

  • 知的障害・精神運動発達の遅れ:ほぼ全例
  • とくに言語発達の遅れが目立つ
  • 自閉症様の行動:高頻度
  • てんかん・けいれん:低〜中頻度

😊 頭蓋顔面

  • 長い人中:90%超
  • 内眼角開離・両眼隔離:75%超
  • 短い眼裂・眼裂の傾斜
  • 平坦な鼻梁・前屈した鼻孔

📏 成長・骨格

  • 低身長・成長障害:高頻度
  • 子宮内発育遅延から続くことが多い
  • 第5指の斜指症・サンダルギャップ
  • 脊柱側弯・関節の過可動性

🩺 内臓・全身

  • 哺乳・摂食障害:70〜80%
  • 慢性便秘・胃食道逆流症
  • 反復性の上気道感染:約50%
  • 感音難聴・白内障など感覚器の障害

💡 用語解説:長い人中(じんちゅう)

「人中」とは、鼻の下から上唇の中央にかけて縦に走る溝のことです。メンケ・ヘネカム症候群1型では、この溝が長いことが最も一貫して見られる顔つきの特徴で、報告例の9割以上に認められます。診断のとき、医師が顔つき全体の印象(顔貌ゲシュタルト)を評価するうえで重要な手がかりの一つになります。

💡 用語解説:摂食障害と成長障害(Failure to thrive)

乳児期に上手におっぱいやミルクを飲めない、食べられないといった哺乳・摂食の困難は、メンケ・ヘネカム症候群1型の乳児期の管理で最も大きな課題になります。これが続くと、体重や身長が成長曲線から大きく外れる「成長障害(Failure to thrive)」を招きます。そのため、必要に応じた経管栄養の導入など、早めの栄養サポートがとても大切です。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「乳児期をどう乗り切るか」が最初の山場です】

この病気のお子さんを持つご家族とお話ししていると、診断名そのものよりも「ミルクを飲んでくれない」「体重が増えない」という日々の不安のほうが、ずっと切実であることに気づかされます。摂食の困難と成長障害は、実は多くのご家庭が最初にぶつかる現実的な壁です。

大切なのは、栄養を「気合いと工夫」だけで何とかしようとしないことです。経管栄養や消化器症状への治療は、決して敗北ではなく、お子さんの脳と体の発達を守るための前向きな選択です。早めに小児科・栄養の専門家と手を組むことが、この最初の山場を越える近道だと、私は考えています。

脳の構造異常と、サブタイプによる表現型の違い

中枢神経系の発達の障害はほぼ全例に見られます。とくに脳梁(左右の脳をつなぐ部分)の欠損などの構造的な脳の異常が小頭症とともに観察されることは、CBPが胎児期の大脳の形づくりや神経細胞の移動に欠かせない役割を果たしている証拠です。さらに、前述のサブタイプ分類にもとづいて、一部の患者さんでは非典型的な症状も報告され始めています。たとえばTAZ2ドメインの変化をもつある患者さんでは、典型的な自閉症様の行動や反復性の感染がない一方で、「手のひらの皮膚が過剰」という珍しい特徴が見られました。これは、傷つく結合相手の違いが、患者さんごとに少しずつ異なる症状の景色を生み出していることを示しています。

4. 鑑別診断:ルビンスタイン・テイビ症候群との違い

臨床の現場でメンケ・ヘネカム症候群を考えるとき、最も重要な区別の相手がルビンスタイン・テイビ症候群(RSTS)です。両者はともにCREBBP(およびEP300)遺伝子の変化で起こる「対立遺伝子疾患」ですが、症状の道のりも管理の方針も大きく異なるため、正確な区別が欠かせません。全エクソーム解析が普及する前は、メンケ・ヘネカム症候群の患者さんが「非定型のルビンスタイン・テイビ症候群」と誤って診断されることがありましたが、現在は領域ごとの病態理解とエピシグネチャーの導入により、こうした誤診は避けられるようになってきています。

比較項目 ルビンスタイン・テイビ症候群 メンケ・ヘネカム症候群
変化の性質 遺伝子全域の欠失・HATドメインの破壊・上流のナンセンス/フレームシフトなど(機能喪失型) エクソン30・31内の特定領域(ZZ・TAZ2・ID4)に集中(ミスセンス・NMD回避型など)
発症の仕組み ハプロ不全(正常タンパク質量が半減) ドミナント・ネガティブ、または機能獲得効果
手足の特徴 異常に幅広く曲がった母指・第一趾(最も象徴的な目印) 第一趾が幅広いことはあっても、RSTSのような著明な母指・第一趾の肥大・屈曲は通常みられない
顔つき 嘴状の鼻、下向きの眼裂、しかめ面のような独特の笑顔 短い眼裂、平坦な鼻梁、長い人中など、RSTSとは明確に異なる
行動・性格 人懐っこく社交的な性格を示すことが多い 自閉症スペクトラム様の行動を高い確率で示し、社会的相互作用に困難を抱える

とりわけ、発達初期の自閉症様行動の有無と、母指の形態異常の有無は、医師が両者を見分けるときの重要な手がかりになります。最終的には、CREBBP遺伝子のどこに変化があるか(エクソン30・31かどうか)と、必要に応じたDNAメチル化のパターン解析によって、客観的に区別できます。

🔍 関連記事:もう一方の対立遺伝子疾患について → ルビンスタイン・テイビ症候群1型(RSTS1)

5. 診断と遺伝子検査の進め方

メンケ・ヘネカム症候群1型は、「いつ・どんな方法で調べるか」によって検査の意味づけが変わります。混同を避けるため、生まれた後の確定診断生まれる前の検査を分けて整理します。

生まれた後の確定診断:血液による遺伝子配列解析が中心

メンケ・ヘネカム症候群1型の原因は、おもにCREBBP遺伝子の点変異(1文字レベルの変化)です。このため、従来の染色体検査(Gバンド法)や染色体マイクロアレイ(CMA)では検出できません。確定診断には、遺伝子の文字配列そのものを読む解析が必要です。具体的には、血液から取り出したDNAを用いた全エクソーム解析(WES)などで、CREBBP遺伝子のエクソン30・31の変化を同定します。

💡 用語解説:全エクソーム解析(WES)とトリオ解析

全エクソーム解析(WES)とは、遺伝子のうちタンパク質の設計図にあたる領域(エクソン)をまとめて読み取る次世代シーケンス検査です。原因がしぼり込めない多彩な症状でも、効率よく原因変化を探せます。患者さん本人だけでなく両親も含めた3名(トリオ)で解析すると、デノボ(新生突然変異)かどうかを確実に判定でき、診断の精度が上がります。当院では全エクソーム検査全ゲノムシークエンス発達障害・知的障害の遺伝子検査をご用意しています。

診断で気をつけたい落とし穴は、変化の解釈です。CREBBPに変化が見つかると、自動的に「ルビンスタイン・テイビ症候群」と判断されてしまうことがあります。臨床遺伝専門医は、見つかった変化がエクソン30・31の特定領域に該当するかを厳密に確かめる必要があります。

補助診断:DNAメチル化エピシグネチャー

💡 用語解説:エピシグネチャー(DNAメチル化の指紋)

血液のDNAのメチル化パターンを網羅的に調べると、病気ごとに特有の「メチル化の指紋」が見つかることがあります。これをエピシグネチャーと呼びます。メンケ・ヘネカム症候群では、ZZ・TAZ2・ID4というドメインごとに異なる指紋が確認されています。研究では、ZZ領域で10例中9例、TAZ2領域で20例中14例、ID4領域では検査した21例すべてで特異的な指紋が検出されました。これにより、「意義不明のバリアント(VUS)」が本当に病的かどうか、どのサブタイプかを客観的に層別化できるようになっています。

🔍 関連記事:確定診断に用いる検査について → 全エクソーム検査(WES)の詳しい解説

生まれる前の検査:確定診断とスクリーニングは別物です

ご家族の中ですでに原因となる変化がわかっている場合(たとえば患者さん本人が次のお子さんを望むケースなど)には、羊水検査・絨毛検査で胎児のDNAを調べる出生前の確定診断が選択肢になります。また、出生前のスクリーニングとしては、CREBBP遺伝子を対象に含むNIPTインペリアルプランがあります。ただし、NIPTはあくまでスクリーニング(ふるい分け)であり、確定診断ではありません。結果の意味づけは、必ず遺伝カウンセリングのなかで丁寧に説明します。

6. 治療と長期管理

現在のところ、メンケ・ヘネカム症候群1型の根本的な原因療法(遺伝子治療など)はまだ確立されていません。そのため管理の中心は、それぞれの症状をやわらげる対症療法と、発達と自立を最大限に伸ばすための多職種チーム医療になります。小児科・遺伝専門医・神経内科・消化器科・耳鼻科・眼科・整形外科、そしてリハビリテーションの専門職が連携することが欠かせません。

発達支援・療育

乳幼児期からの理学療法・作業療法・言語療法の早期導入が予後を左右します。重い発語の遅れや自閉症様の行動に対しては、代替コミュニケーション手段を含む個別の療育と特別支援教育の枠組みが役立ちます。

消化器・栄養

乳児期に最も生命にかかわるのは重い哺乳障害と成長障害です。経管栄養の早期導入、難治性の胃食道逆流症や慢性便秘への治療、必要に応じた外科的対応をためらわないことが大切です。

神経・感覚器・骨格

てんかんに備えた定期的な脳波評価や頭部MRIによる構造評価を行います。斜視・白内障・遠視などの眼科的異常、両側性の感音難聴、股関節形成不全や脊柱側弯に対しても、定期的なスクリーニングと適切な補正・治療を行います。

なお、研究面の話題として、EP300のTAZ2ドメイン変化をもつ患者さんでT細胞性急性リンパ性白血病(T-ALL)の発症が報告されており、これらの生殖細胞系列の変化が小児がんのリスクに関わる可能性が議論されています。これがCREBBP由来のメンケ・ヘネカム症候群1型にも当てはまるかどうかは、まだわかっていません。結論を出すには、長期的な国際共同研究の積み重ねが必要な段階です。現時点で過度に心配する必要はありませんが、今後の知見の蓄積が待たれます。

7. 遺伝カウンセリングの意義

確定診断のあと、ご家族への丁寧な遺伝カウンセリングがとても大切です。メンケ・ヘネカム症候群1型は症状の幅が広く、出生前に見つけることが常にご家族の利益になるとは限りません。私たち医師は情報を提供する立場であり、特定の検査を勧めたり、安心を保証したり、不安をあおったりすることはありません。どうするかの決定は、つねにご家族に委ねられます。

  • 遺伝形式と再発リスクの説明:多くはデノボ(新生突然変異)で、両親への遺伝は通常認められません。ただし常染色体顕性(優性)遺伝のため、患者さん本人がお子さんを持つ場合の遺伝確率は理論上50%です。生殖細胞モザイクの可能性も完全には除外できないため、次のお子さんに関する選択肢も整理します。
  • 予後と療育の見通し:発達の幅が大きいため、お子さん一人ひとりに合わせた現実的な見通しを一緒に考えます。早期療育や教育支援につなげることが、生活の質を高めます。
  • 出生前診断の選択肢:ご家族内で変化が同定されている場合は、絨毛検査・羊水検査による確実な出生前診断が可能です。
  • 心理的サポートと情報の継続:希少疾患のため、国内外の患者レジストリや自然歴の情報は限られています。医療機関との長期的な連携を続けることが、これからの知見の蓄積にもつながります。

8. よくある誤解

誤解①「CREBBP変異=ルビンスタイン・テイビ症候群」

CREBBPに変化が見つかっても自動的にルビンスタイン・テイビ症候群とは言えません。エクソン30・31の特定領域の変化はメンケ・ヘネカム症候群1型を引き起こします。変化の場所と種類の精密な解釈が必要です。

誤解②「珍しい病気だから治療法は何もない」

根本療法はまだありませんが、摂食・成長・難聴・てんかんなど、一つひとつの症状に対する管理と早期療育で生活の質は大きく変わります。「できることがない」わけではありません。

誤解③「親も同じ変化があるはず」

多くはデノボ(新生突然変異)であり、両親には同じ変化が存在しないことがほとんどです。「両親が健康だから遺伝ではない」という思い込みが診断を遅らせることがあります。

誤解④「染色体検査で調べられる」

Gバンド染色体検査やマイクロアレイ(CMA)では、この病気の点変異は検出できません。遺伝子の文字配列を読む全エクソーム解析などが必要です。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「同じ遺伝子」でも「別の病気」を見抜く力】

メンケ・ヘネカム症候群1型は、つい数年前まで「説明のつかない非定型のルビンスタイン・テイビ症候群」として、ひとつの箱にまとめられていた患者さんたちでした。それが、変化の場所がエクソン30・31に集中していること、そしてDNAメチル化の指紋という客観的な証拠によって、独立した病気として鮮やかに切り出されました。私はこの数年の進歩を、現代のゲノム医療を象徴する出来事だと感じています。

大切なのは、CREBBPに変化が見つかったときに「どこの・どんな変化か」まで丁寧に読み解く姿勢です。診断名が変われば、ご家族に伝える見通しも、必要な検査も、療育の組み立ても変わります。希少疾患だからこそ、一人ひとりの診断精度がその後の人生に与える影響は大きい。私が遺伝子疾患の情報発信を続けている理由は、まさにここにあります。臨床遺伝専門医として、その一歩を一緒に踏み出せればと思います。

よくある質問(FAQ)

Q1. メンケ・ヘネカム症候群1型は遺伝しますか?

常染色体顕性(優性)遺伝の病気ですが、報告されているほとんどの症例はデノボ(新生突然変異)によるもので、両親には同じ変化が存在しません。患者さん本人がお子さんを持つ場合の遺伝確率は理論上50%です。次のお子さんの出生前診断(絨毛検査・羊水検査など)の選択肢については、臨床遺伝専門医にご相談ください。

Q2. ルビンスタイン・テイビ症候群と何が違うのですか?

どちらも同じCREBBP遺伝子の変化で起こりますが、メンケ・ヘネカム症候群1型はエクソン30・31の特定領域に変化が集中し、ドミナント・ネガティブなどの仕組みで発症します。一方ルビンスタイン・テイビ症候群はタンパク質量が半分になるハプロ不全が中心です。症状面では、ルビンスタイン・テイビ症候群に特徴的な幅広く曲がった母指・第一趾がメンケ・ヘネカム症候群では通常みられず、行動面でも自閉症様の特徴が多い点が異なります。

Q3. どのように診断されますか?

発達の遅れ・長い人中などの顔つき・低身長・摂食障害といった特徴の組み合わせから臨床的に疑い、血液を用いた全エクソーム解析(できれば両親を含むトリオ解析)でCREBBP遺伝子エクソン30・31の変化を同定することで確定します。必要に応じてDNAメチル化エピシグネチャー解析が補助診断として用いられます。Gバンド染色体検査やマイクロアレイ(CMA)では検出できない点に注意が必要です。

Q4. 知的障害はどの程度ですか?

知的障害や発達の遅れはほぼ全例に見られますが、その程度は軽度から重度まで幅があります。とくに言語発達の遅れが目立つ傾向があります。早期からの療育・言語療法・教育支援によって、できることを着実に伸ばしていくことが大切です。

Q5. 出生前に調べることはできますか?

ご家族内で変化が同定されている場合は、絨毛検査や羊水検査による確実な出生前診断が可能です。出生前のスクリーニングとしては、CREBBPを対象に含むNIPTもありますが、こちらは確定診断ではありません。出生前に調べることが常に最善とは限らないため、選択肢の整理は遺伝カウンセリングのなかで一緒に行います。

Q6. 乳児期にとくに注意すべきことは何ですか?

最も注意したいのは、重い哺乳・摂食の困難とそれに伴う成長障害です。体重や身長が成長曲線から大きく外れる場合は、経管栄養の導入や、胃食道逆流症・慢性便秘への治療を早めに検討します。また反復性の上気道感染にも気をつけ、必要に応じて早めの対応を行います。

Q7. サブタイプ(ZZ・TAZ2・ID4)とは何ですか?

メンケ・ヘネカム症候群は、CBPタンパク質のどの機能ドメインが傷ついたかによって、MKHK-ZZ・MKHK-TAZ2・MKHK-ID4の少なくとも3つに分けられます。これらは原因遺伝子(CREBBPかEP300か)よりも、DNAメチル化の指紋や細かな症状の違いをよく説明します。サブタイプを知ることは、診断の確実性を高め、より精密な見通しを立てるのに役立ちます。

Q8. ルビンスタイン・テイビ症候群と診断されていますが、見直しは可能ですか?

CREBBPに変化が見つかっている場合でも、その変化がエクソン30・31の特定領域であれば、メンケ・ヘネカム症候群1型と再分類される可能性があります。また過去に「意義不明のバリアント(VUS)」とされた変化が、最新の知見やDNAメチル化解析と照らし合わせることで病的と再評価されるケースもあります。臨床遺伝専門医によるセカンドオピニオンと変化の精密な再解釈が有効です。

🏥 希少疾患の診断・遺伝カウンセリングについて

メンケ・ヘネカム症候群1型をはじめとする希少遺伝性疾患に関するご相談は、
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にお寄せください。

参考文献

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  • [5] Identification of a novel, pathogenic CREBBP variant in a patient with Menke-Hennekam syndrome: a Case Report. Front Genet. 2025. [Frontiers in Genetics]
  • [6] Menke-Hennekam Syndrome: A Literature Review and a New Case Report. PMC. 2022. [PMC9139512]
  • [7] UniProt. Menke-Hennekam syndrome 1 (DI-05487). [UniProt]
  • [8] OMIM *600140. CREB-Binding Protein; CREBBP. Johns Hopkins University. [OMIM]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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