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DMRT2遺伝子とは|体節・筋肉・骨格の発生を司る転写因子をやさしく解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

ヒトのからだは、背骨・肋骨(ろっこつ)・骨格筋(こっかくきん)といった「体の軸」を、胎児のごく早い時期につくり上げます。その設計図の一部を担うのがDMRT2遺伝子(ディーエムアールティーツー遺伝子)です。DMRT2は、他の遺伝子の働きをオン・オフする転写因子(てんしゃいんし)という種類のタンパク質をつくり、胎児期の体節(たいせつ)という区切られた組織で働いて、筋肉や骨格のもとを整えます。近年、このDMRT2の働きが両方の遺伝子で失われると、肋骨や背骨が正しく形づくられない重い病気(脊椎肋骨異形成症)につながることが、ヒトでも報告されました。この記事では、DMRT2とは何か、どんな仕組みで体づくりを支えているのか、そしてどんな病気や研究とつながっているのかを、臨床遺伝学の観点から解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約16分
🧬 DMRT2・体節形成・脊椎肋骨異形成症
★ 臨床遺伝専門医監修

Q. DMRT2遺伝子とは何ですか?まず結論だけ知りたいです

A. DMRT2は、9番染色体の先端近く(9p24.3)にある転写因子の遺伝子で、胎児期に背骨・肋骨・骨格筋のもとになる「体節」でおもに働きます。DMRT2がつくるタンパク質は、DMドメインという特有のDNA結合部分をもち、Pax3という上流の因子から指令を受けて、筋肉づくりの引き金であるMyf5遺伝子をオンにします[1]。マウスでDmrt2を働かなくすると、肋骨や胸骨・背骨の形成異常のために生まれた直後に亡くなります[2]。ヒトでも、両方のDMRT2が機能を失う変異が、重い肋骨・背骨の形成異常(脊椎肋骨異形成症)の原因になることが報告されています[3][4]。

  • ➤正体 → 9p24.3にあるDMドメイン転写因子の遺伝子(HGNC:2935、GeneID 10655)
  • ➤おもな働き → 胎児期の体節で、筋肉・骨格・背骨の形づくりを制御する
  • ➤分子の仕組み → Pax3から指令を受け、Myf5をオンにする「Pax3→Dmrt2→Myf5」の連携
  • ➤関連する病気 → 両方の遺伝子が機能を失うと、重い脊椎肋骨異形成症(SCDO7型)につながる
  • ➤現状 → ヒトでの報告例はまだ少なく、研究が続いている段階

🧬 DMRT2遺伝子の基本情報

項目 内容
遺伝子名・読み方 DMRT2(ディーエムアールティーツー)。正式名称は「doublesex and mab-3 related transcription factor 2」。別名はDSXL-2、SCDO7
場所(座位) 9番染色体の短腕の先端付近、9p24.3[5]
遺伝子ID HGNC:2935/NCBI GeneID 10655/UniProt Q9Y5R5/OMIM 604935[5]
つくるもの DMドメインという特有のDNA結合部分をもつ転写因子(他の遺伝子の働きを調節するタンパク質)
おもな発現場所 胎児期の体節(とくに皮筋節=dermomyotome)。成人組織での発現は限られる[1]
関連が報告された病気 脊椎肋骨異形成症7型(SCDO7、常染色体潜性〔劣性〕遺伝)[3][4]

※本記事はDMRT2遺伝子の機能と関連疾患を解説するもので、特定の検査を勧めるものではありません。

1. DMRT2遺伝子とは ─ 体の軸をつくる転写因子

DMRT2は、私たちの9番染色体の短腕のいちばん端に近い場所(9p24.3)にある遺伝子です[5]。この遺伝子がつくるのは、転写因子と呼ばれるタンパク質です。転写因子は、DNAの特定の場所にくっついて、近くにある別の遺伝子のスイッチをオンにしたりオフにしたりする「調整役」のタンパク質です。DMRT2は、胎児が体をつくっていくごく早い段階で働き、とくに背骨・肋骨・骨格筋のもとになる組織で活躍します。

DMRT2という名前は、「doublesex and mab-3 related transcription factor 2」の頭文字です。ショウジョウバエのdoublesex(ダブルセックス)や、線虫(せんちゅう)のmab-3(マブスリー)という、性の決定にかかわる遺伝子と共通の特徴的な部分(DMドメイン)をもつ仲間、という意味です[5]。DMRT2はこのDMRT1遺伝子やDMRT3遺伝子とともに、9p24.3にまとまって並ぶ「DMRT遺伝子ファミリー」の一員です。染色体上の並び順は、末端側からDMRT1・DMRT3・DMRT2の順で、この配置は魚類など複数の生き物で共通して保たれています[5]。

同じDMRTファミリーでも、担当する仕事はそれぞれ違います。DMRT1はおもに精巣(せいそう)の発生や性の決定にかかわるのに対し、DMRT2はおもに体節・筋肉・骨格の形づくりを担当するという役割分担があります。名前の由来こそ「性の決定にかかわる遺伝子の仲間」ですが、DMRT2自身の中心的な役割は、性ではなく「体の軸をつくること」にあると考えられています。

💡 用語解説:転写因子とは

遺伝子の情報は、DNA → RNA → タンパク質という順で読み取られます。この最初の「DNAからRNAを写し取る(=転写する)」段階を調節するのが転写因子です。転写因子はDNAの決まった目印(配列)にくっつき、そこにある遺伝子を「たくさん働かせる」または「働かせない」ようにコントロールします。DMRT2のように、体づくりの号令をかける転写因子は、1つで多くの下流の遺伝子を動かすため、少しの変化でも大きな影響が出ることがあります。

2. DMRT2の基本情報 ─ どこにあり、何をつくるのか

DMRT2遺伝子は、9番染色体の9p24.3という位置にあり、正式な遺伝子記号はDMRT2です[5]。国際的な遺伝子命名の管理団体であるHGNCではHGNC:2935として登録され、NCBIの遺伝子データベースではGeneID 10655、病気と遺伝子の対応をまとめたOMIMでは604935という番号が付けられています[5]。別名として「DSXL-2(doublesex-like 2)」や、後述する疾患名にちなんだ「SCDO7」が知られています。

DMRT2がつくるタンパク質の最大の特徴は、DMドメインという、DNAをつかむための専用パーツをもっていることです。このDMドメインは、亜鉛(あえん)を含んだジンクフィンガー様の構造をとり、DNAの特定の配列を認識して結合します[1]。DMRT2はこの部分を使ってDNAにくっつき、標的となる遺伝子の働きを高める「転写活性化因子」として機能します[1]。

DMRT2がどこで働いているかというと、その中心は胎児期の体節(たいせつ)です[1]。体節は、胎児の背骨の両側に、頭から尾に向かって規則正しく並ぶ、区切られた組織のかたまりです。ここから背骨・肋骨・骨格筋などがつくられていきます。DMRT2はとくに、体節の背中側にある皮筋節(ひきんせつ/dermomyotome)という部分で強く働きます[1]。皮筋節は、骨格筋のもとになる細胞(筋幹細胞)を含む大切な場所です。一方、生まれたあとの成人組織でのDMRT2の発現は限られており、体づくりが終わったあとの主な役割はまだよく分かっていません。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「性の遺伝子の仲間」が体づくりを担うということ】

DMRT2は、名前のうえでは「性の決定にかかわる遺伝子の仲間」に分類されます。ところが実際にこの遺伝子が担っているのは、背骨や肋骨、筋肉といった体の骨組みづくりです。遺伝子の名前は、最初に見つかったときの手がかり(この場合は性決定遺伝子との類似)で付けられることが多く、その後の研究で本来の役割が分かってくると、名前と中身がずれて見えることがよくあります。

遺伝子の機能を文献から評価するときには、「名前」や「ファミリー名」だけで役割を決めつけず、同じファミリーでも、一つひとつの遺伝子がどの組織で、いつ、何をしているのかを個別に確かめることが重要です。DMRT2は、その必要性を示す遺伝子の一つです。

3. DMドメイン ─ DNAをつかむ特有のパーツ

DMRT2のDNA結合部分であるDMドメインは、DMRTファミリーに共通する「目印」のような構造です。もともとは、ショウジョウバエのdoublesexと線虫のmab-3という、性を決める遺伝子で見つかった配列でした[5]。ヒトのDMRT2は、同じファミリーのDMRT1と、このDMドメインの中心部分で約80%という高いアミノ酸配列の一致を示します[5]。これは、DMドメインが進化の中でとても大切に守られてきたことを意味します。

DMドメインは、亜鉛イオンを取り込んだ二量体(にりょうたい/ダイマー)を形づくってDNAを認識すると考えられています。二量体とは、同じ、または似たタンパク質が2つ組み合わさって働く形のことです。DMRT2は、このDMドメインを使ってDNA上の決まった配列にくっつき、標的の遺伝子の近くにある調節領域(エンハンサーなど)に作用します。

💡 用語解説:エンハンサーとEボックス

エンハンサーとは、遺伝子から少し離れた場所にあって、その遺伝子の働きを「強める」スイッチの役割をするDNA領域です。転写因子がエンハンサーにくっつくことで、標的の遺伝子がしっかり働くようになります。DMRT2は、後で出てくる筋肉づくりの遺伝子Myf5の「エンハンサー」に結合して、Myf5をオンにします[1]。なお、筋肉づくりにかかわる遺伝子の調節領域には、Eボックス配列という別の目印もよく登場します。

DMRT2のタンパク質には、いくつかの種類(アイソフォーム)が存在します。1つの遺伝子から、選択的スプライシングという仕組みによって、少しずつ違う複数のタンパク質がつくり分けられることがあります。DMRT2でも複数の転写バリアントが登録されていますが、全長以外のアイソフォームがそれぞれどんな意味を持つのかは、まだ十分には分かっていません。

4. 体節と筋肉づくり ─ Pax3・Dmrt2・Myf5の連携

DMRT2の最もよく調べられた役割が、胎児期の筋肉づくり(マイオジェネシス)の号令です。体幹や四肢の骨格筋をつくる筋前駆細胞は、体節の背中側にある皮筋節に由来します。この皮筋節の細胞は、Pax3(PAX3遺伝子)という転写因子を目印としてもっています[1]。

マウスを使った研究で、この筋肉づくりの号令が「連携プレー」であることが明らかになりました[1]。まず上流のPax3が、Dmrt2遺伝子から約18kb離れた場所にある調節領域(エンハンサー)に直接くっつき、Dmrt2のスイッチを入れます。次に、オンになったDmrt2が、筋肉づくりの引き金となる遺伝子Myf5(MYF5遺伝子)の背側筋用エンハンサーに結合して、Myf5をオンにします。こうしてMyf5が働き始めると、皮筋節の細胞が筋肉の細胞へと分化を始めるのです。この一連の流れは「Pax3 → Dmrt2 → Myf5」という調節カスケード(連鎖反応)と呼ばれています[1]。

Pax3皮筋節の目印
▶
Dmrt2中継役の転写因子
▶
Myf5筋肉づくりの引き金
▶
骨格筋最初の筋肉が誕生

この連携は、Dmrt2が「体節の構造を保つ役割」と「細胞の運命を決める役割」の両方を担っていることを示しています[1]。実際、Dmrt2の働きを失ったマウスの胚では、体節の成熟が乱れ、筋節(きんせつ/myotome)の筋肉組織が正しく形づくられないことが確認されています[1][2]。DMRT2は、体節の成熟と筋形成の双方に関わる転写因子です。

💡 用語解説:体節(somite)と体節時計

体節は、胎児期に背骨の両側で、頭から尾へ向かって一定のリズムで次々とつくられる、区切られた組織のブロックです。このリズムを刻む仕組みは体節時計(segmentation clock)と呼ばれます。体節から背骨・肋骨・骨格筋がつくられるため、この段階でつまずくと、背骨や肋骨の数・形の異常につながります。

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5. 骨格をつくる ─ Sox9とRunx2をつなぐ役割

DMRT2の役割は、筋肉づくりだけにとどまりません。近年の研究で、Dmrt2が軟骨(なんこつ)から骨がつくられる過程(内軟骨性骨化)にも関わることが分かってきました[6]。私たちの背骨や手足の長い骨の多くは、まず軟骨のひな型がつくられ、それが徐々に本物の骨へと置きかわっていく「内軟骨性骨化」という道すじでつくられます。

マウスの研究では、軟骨をつくる司令塔である転写因子Sox9(SOX9遺伝子)が、Dmrt2遺伝子の調節領域に働きかけてDmrt2をオンにすることが示されました[6]。そして、オンになったDmrt2は、骨をつくる別の司令塔である転写因子Runx2(RUNX2遺伝子)と協力して、軟骨細胞が成熟し骨へと移行する段階を後押しします[6]。つまりDmrt2は、Sox9からRunx2へと橋渡しをする中継役として、軟骨から骨への切りかえを支えているのです。

この骨づくりの役割は、Dmrt2の働きを失ったマウスが、背骨や胸郭(きょうかく)の骨形成に異常をきたすことからも裏づけられます[6]。筋肉づくりと骨づくりの両方を支えているという点で、DMRT2は体の軸そのものの形成に深く関わる遺伝子だといえます。

6. 左右の決定 ─ 種によって異なる役割

体づくりのもう一つの重要なテーマが、左右軸(さゆうじく)の決定です。心臓は左寄り、肝臓は右寄り、というように、私たちの内臓は左右で非対称に配置されています。この「どちらが左でどちらが右か」を胎児期に決める仕組みに、魚類や両生類ではDmrt2が関わることが報告されています。

両生類のアフリカツメガエルを使った研究では、Dmrt2が、体の中心にできる「左右をつくり分ける器官(左右オーガナイザー)」の形づくりに必要であることが示されました[7]。Dmrt2の働きを抑えると、この器官の細胞が正しく指定されず、下流の左右シグナル(Nodalやpitx2など)が乱れて、内臓の左右が正しく決まらなくなります[7]。ゼブラフィッシュなどの魚類でも、dmrt2は左右の決定と体節形成の同期に関わることが知られています。

⚠️ 重要:この左右の役割はヒト・マウスでは保存されていません

魚類・両生類でみられるDmrt2の「左右軸決定」の役割は、少なくともマウスでは保存されていないことが示されています。マウスのDmrt2を働かなくしても内臓の左右配置は正常で、左右をつくり分ける器官(マウスではノード)でDmrt2は発現していません[8]。つまり、Dmrt2の左右軸形成における機能は脊椎動物種間で保存されていないと考えられています[8]。ヒトのDMRT2が左右軸の異常(内臓錯位など)に関わるという報告は、現時点ではありません。

このように、同じDmrt2という遺伝子でも、生き物の種類によって担う役割が違います。魚類・両生類では左右軸形成への関与が報告される一方、マウスではその機能は保存されておらず、体節・筋肉・骨格形成への関与が示されています。ヒトでは主として骨格異常との関連が症例報告から示されています。この「役割のちがい」は、遺伝子の機能を動物モデルからヒトへ当てはめて考えるときに、慎重さが必要であることを教えてくれます。

7. DMRT2と関連する病気 ─ 脊椎肋骨異形成症

DMRT2との関連が注目されている病気が、脊椎肋骨異形成症(せきついろっこついけいせいしょう/spondylocostal dysostosis、SCDO)です。これは、背骨(椎骨)や肋骨が胎児期に正しく形づくられず、背骨の変形(側弯など)、低身長、胸郭が小さいことによる呼吸の障害などをきたす、まれな遺伝性の骨格疾患です[3]。脊椎肋骨異形成症は、体節をつくるもとの組織(傍軸中胚葉)のトラブルから生じると考えられており、これまでにDLL3・MESP2・LFNG・HES7・TBX6・RIPPLY2といった、体節形成に関わる遺伝子の変異が原因として知られてきました[4]。DMRT2は、これらに加わる新しい原因遺伝子として位置づけられつつあります。

DMRT2が胎児期の体節、とくに皮筋節で働き、DMRT2機能喪失による体節の成熟・パターニング異常から肋骨・椎骨の形成異常を伴う重症SCDO様疾患につながる仕組みを示す模式図

DMRT2は胎児期の体節、とくに皮筋節で働き、体節・骨格筋・骨格の正常な発生に関与します。DMRT2の機能が失われると体節の成熟やパターニングが乱れ、その後の肋骨・椎骨の形成異常につながります。ヒトでは2018年と2026年にDMRT2の両アレル機能喪失をもつ重症例が報告されており、肋骨の欠損・癒合・分岐・低形成や椎骨形成異常を伴うSCDO様疾患との関連を支持する知見が蓄積しています。

きっかけとなったのは、2018年に報告された1例です[3]。重い肋骨の形成異常(肋骨の欠損・癒合・分岐・低形成)と背骨の異常をもって生まれ、出生直後から重い呼吸不全を示した新生児で、全エクソーム解析により、DMRT2の両方のコピーに「開始コドン消失変異(c.1A>T)」が見つかりました[3]。この子の両親はそれぞれ片方だけこの変異をもつ保因者で、症状はありませんでした[9]。従来の脊椎肋骨異形成症とは異なり、背骨そのものの明確な分節異常を伴わない点が特徴で、新しいタイプの可能性が示されました[3]。この特徴は、Dmrt2を働かなくしたマウスが示す肋骨・背骨の異常とよく重なります[2]。

さらに2026年には、この関連を裏づける2例目が報告されました[4]。重い肋骨・背骨の形成異常をもつ新生児で、DMRT2の両方のコピーに機能を失う変異(フレームシフト変異)が確認され、1例目とよく似た骨格の特徴を示しました[4]。この報告により、DMRT2の両アレル(両方の遺伝子)の機能喪失が、重症の脊椎肋骨異形成症様表現型の原因となることを支持するヒトでの証拠が追加されました[4]。加えて、この2例目では胸腺(きょうせん)の無形成による免疫不全もみられ、DMRT2欠損の症状の広がりとして、これまで知られていなかった特徴の可能性も指摘されています[4]。報告した研究者らは、骨格の異常を調べる遺伝子検査のパネルにDMRT2を含めることを提案しています[4]。この病型は、OMIMでは脊椎肋骨異形成症7型(SCDO7)として扱われています。

なお、DMRT2は9p24.3でDMRT1のすぐ近くにあるため、この領域がまとめて欠ける「9p欠失」では、DMRT1・DMRT2の両方が失われます。こうした患者さんでは、著しい成長の遅れなどが報告されていますが、これは複数の遺伝子がまとめて欠けた影響であり、DMRT2単独の役割とは区別して考える必要があります[10]。

💡 用語解説:常染色体潜性(劣性)遺伝

脊椎肋骨異形成症7型は、常染色体潜性(劣性)遺伝のかたちをとります。これは、父由来・母由来の2本ある遺伝子の「両方」に変化があってはじめて症状が出るタイプです。片方だけに変化がある人は「保因者」と呼ばれ、多くは症状が出ません。両親がともに同じ遺伝子の保因者の場合、子どもがその病気になる確率は妊娠ごとに4分の1(25%)です。

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8. 既知の変異と検査 ─ 現時点で分かっていること

DMRT2でこれまでに病気との関連が報告された変異は、まだ限られています。最初の報告例で見つかったのは、開始コドン消失変異(c.1A>T)です[3][9]。開始コドンとは、タンパク質をつくり始める「スタート地点」の合図となる配列です。ここが変化すると、そもそもタンパク質を最初から正しくつくり始められなくなり、機能をもつDMRT2タンパク質が失われると考えられます[9]。2例目では、これとは別の、機能を失うタイプの変異(フレームシフト変異)が報告されています[4]。

💡 用語解説:開始コドンとミスセンス変異

開始コドンは、遺伝子の情報からタンパク質をつくり始める「開始の合図」です。ここが壊れると、タンパク質づくりのスタートに支障が出ます。一方、ミスセンス変異は、DNAの1文字が変わってアミノ酸が別のものに置きかわる変化のことです。ミスセンス変異は、影響が大きいものから、ほとんど影響しないものまでさまざまです。

病気を起こすとはっきり確認された変異のほかに、意味がまだ確定していない変異も登録されています。臨床的な変異情報を集めたデータベースClinVarには、DMRT2のミスセンス変異(p.Glu24Ala、グルタミン酸がアラニンに変わる変化)がVUS(意義不明変異)として登録されています[5]。VUSとは、「病気と関係があるかどうか、現時点では判断できない」変異のことです。この変異が実際にどんな意味を持つのかは、まだ分かっていません[5]。

💡 用語解説:VUS(意義不明変異)

遺伝子検査では、「病気の原因になる変異」でも「無害な個人差」でもなく、どちらとも判断がつかない変化が見つかることがあります。これをVUS(Variant of Uncertain Significance=意義不明変異)と呼びます。VUSは、研究や症例の蓄積が進むにつれて、「病的」または「良性」に再分類されることがあります。VUSが見つかっても、それだけで病気と決まるわけではありません。

現時点でDMRT2は、脊椎肋骨異形成症のような重い骨格疾患の関連遺伝子として、骨格の病気を調べる遺伝子パネルに含めることが提案される段階にあります[4]。当院でも、こうした骨格疾患を対象にした脊椎肋骨異形成症のNGS遺伝子検査についてご案内しています。ただし、どの遺伝子を調べるべきかは症状や状況によって異なるため、検査を検討する際は臨床遺伝専門医にご相談ください。

9. 遺伝診療との接点 ─ DMRT2をどう読み解くか

DMRT2は、まだヒトでの報告例が少なく、研究が続いている遺伝子です。それでも遺伝診療の観点からは、いくつか大切な視点を与えてくれます。

一つは、動物モデルの知見をそのままヒトに当てはめないという姿勢です。左右軸の決定でみたように、同じDmrt2でも、魚類・両生類とマウス・ヒトでは役割が違いました[8]。遺伝子の機能を考えるときには、どの生き物で調べられた知見なのかを見極めることが欠かせません。DMRT2の場合、ヒトで確認されているのは、あくまで骨格(背骨・肋骨)の形成に関わる役割です。

もう一つは、両方の遺伝子に変化があってはじめて症状が出る(常染色体潜性遺伝)という点への理解です。DMRT2関連の重症脊椎肋骨異形成症様表現型は、これまで両アレルの機能喪失で報告されています。報告家系ではヘテロ接合の両親は非罹患でした。ご家族の中で同じような症状がみられた場合や、原因が分からない骨格の異常がある場合には、遺伝形式をふまえた整理が役立つことがあります。

当院では、遺伝子や染色体に関わる検査の前後で、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行っています。検査で何が分かり何が分からないのか、見つかった変化がご本人やご家族にとってどういう意味を持つのか、どのような選択肢があるのか、といった点を中立の立場で整理します。検査を受けるかどうかを含め、決めるのはご本人です。私たちは判断材料をお渡しする役割を担います。なお、仲田院長は成人を診療する臨床遺伝専門医であり、胎児期に発症するこうした疾患については、直接の診療ではなく、臨床遺伝専門医としての視点から情報を整理する立場でご説明しています。

10. よくある誤解

誤解①「DMRTは性を決める遺伝子だから、DMRT2も性決定用」

DMRTファミリーには性の決定に関わる遺伝子(DMRT1など)もありますが、DMRT2の中心的な役割は体節・筋肉・骨格の形づくりです。名前はファミリー共通の由来ですが、担当する仕事はそれぞれ異なります。

誤解②「魚で左右を決めるなら、ヒトでも同じはず」

魚類・両生類のDmrt2は左右軸の決定に関わりますが、この役割は少なくともマウスでは保存されていません。マウスでDmrt2を失っても内臓の左右配置は正常です。動物の知見をヒトに当てはめるときは注意が必要です。

誤解③「変異があれば必ず発症する」

DMRT2に関連する脊椎肋骨異形成症は常染色体潜性(劣性)遺伝です。片方の遺伝子だけの変化(保因者)では、多くの場合症状は出ません。ヒトで報告された重症例では、両アレルに機能を失う変化が認められています。

誤解④「登録された変異はすべて病気の原因」

ClinVarにあるDMRT2のミスセンス変異(p.Glu24Ala)はVUS(意義不明変異)で、病気と関係があるかどうかはまだ判断できません。データベースに載っている=病気の原因、ではありません。

まとめ ─ 体の軸をつくる、まだ解明途上の遺伝子

DMRT2は、9番染色体の9p24.3にある転写因子の遺伝子で、胎児期の体節で働き、背骨・肋骨・骨格筋という「体の軸」の形づくりを支えています[1][5]。上流のPax3から指令を受けてMyf5をオンにする筋肉づくりの連携[1]や、Sox9とRunx2をつなぐ骨づくりの中継役[6]など、体づくりの複数の場面で重要な役割を担うことが分かってきました。

ヒトでは、両方のDMRT2が機能を失うことで重い脊椎肋骨異形成症(SCDO7型)が起こることが、2018年と2026年の報告によって裏づけられつつあります[3][4]。とはいえ報告例はまだ少なく、症状の広がりや、DMRT2が下流で動かす遺伝子ネットワークの全体像、成人での役割などは、これからの研究課題として残されています。DMRT2は、体づくりの根幹に関わりながら、まだ多くの謎を残す、解明途上の遺伝子だといえます。

よくある質問(FAQ)

Q1. DMRT2遺伝子とは何ですか?

DMRT2は、9番染色体の9p24.3にある転写因子の遺伝子です。DMドメインという特有のDNA結合部分をもち、胎児期の体節(背骨・肋骨・骨格筋のもとになる組織)で働いて、体の軸の形づくりを制御します。名前はショウジョウバエのdoublesex、線虫のmab-3という性決定遺伝子との類似に由来しますが、DMRT2自身の中心的な役割は体節・筋肉・骨格の形成にあります。

Q2. DMRT2はどんな働きをしていますか?

おもに胎児期の体節で働きます。上流のPax3から指令を受けて、筋肉づくりの引き金となるMyf5遺伝子をオンにする「Pax3→Dmrt2→Myf5」の連携が知られています。また、軟骨の司令塔Sox9と骨の司令塔Runx2をつなぐ中継役として、軟骨から骨への移行にも関わります。筋肉と骨格の両方の形づくりを支える転写因子です。

Q3. DMRT2はどんな病気と関係がありますか?

両方のDMRT2が機能を失う変異が、脊椎肋骨異形成症(せきついろっこついけいせいしょう、SCDO)という、背骨や肋骨が正しく形づくられない重い骨格疾患の原因になることが報告されています。2018年に最初の1例、2026年に2例目が報告され、DMRT2の両アレル機能喪失と重症型SCDO(SCDO7型)の関連が裏づけられつつあります。常染色体潜性(劣性)遺伝のかたちをとります。

Q4. マウスの実験で左右が決まると聞きましたが、ヒトでも同じですか?

いいえ。魚類(ゼブラフィッシュ)や両生類(アフリカツメガエル)ではDmrt2が内臓の左右の決定に関わりますが、この役割は少なくともマウスでは保存されていません。マウスでDmrt2を働かなくしても内臓の左右配置は正常で、左右をつくり分ける器官でDmrt2は発現していません。ヒトのDMRT2が左右軸の異常に関わるという報告は、現時点ではありません。

Q5. DMRT2の変異が見つかったら、必ず病気になりますか?

いいえ。DMRT2に関連する脊椎肋骨異形成症は常染色体潜性(劣性)遺伝で、ヒトで報告された重症例では、両アレルに機能を失う変化が認められています。報告家系のヘテロ接合保因者は非罹患でした。また、ClinVarに登録されているミスセンス変異(p.Glu24Ala)はVUS(意義不明変異)で、病気と関係があるかどうかはまだ判断できません。見つかった変化の意味は、臨床遺伝専門医にご相談ください。

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参考文献

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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