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網膜色素変性症(RP)は、視機能の進行性の低下を特徴とする遺伝性網膜疾患です。この記事では、RPの遺伝的背景について一般の方にもわかりやすく解説します。
網膜色素変性症とは
網膜色素変性症は、網膜の光受容体細胞(視細胞)が徐々に失われていく遺伝性疾患です。最初に杆体(かんたい)細胞が変性し、続いて錐体(すいたい)細胞も影響を受けます。この疾患により、患者さんは夜盲(夜間の視力低下)や視野の狭窄を経験し、最終的には中心視野が失われると完全な失明に至る場合もあります。
世界的な有病率は約1/4000と言われており、決して珍しい病気ではありません。
遺伝パターン
網膜色素変性症は、いくつかの異なる遺伝形式で発症します:
1. 常染色体優性遺伝(AD-RP)
遺伝子の片方(父親か母親からの一方)に変異があるだけで発症します。親の一方が疾患を持っている場合、子どもが発症する確率は50%です。比較的進行が遅いとされています。
2. 常染色体劣性遺伝(AR-RP)
両親から変異遺伝子を受け継いだ場合(両方の遺伝子に変異がある場合)に発症します。両親は通常、症状がなく保因者です。進行速度は優性遺伝よりも速い傾向があります。
3. X連鎖遺伝(X-RP)
X染色体上の遺伝子変異によるもので、主に男性が発症します。女性は保因者となることが多いですが、軽度の症状が現れる場合もあります。
4. 孤発例
家族歴がない単発の症例も多く存在します。これらは新たな突然変異や、複雑な遺伝形式によるものと考えられています。
重要なポイント:同じ遺伝子変異であっても、遺伝形式によって発症年齢や進行速度が大きく異なる場合があります。例えば、RP1遺伝子の変異は、常染色体優性と劣性の両方の形で引き起こされますが、劣性遺伝の場合は発症が早く、20代から視力が低下し始め、40代までに重度の視機能障害に至ります。一方、優性遺伝の場合は50〜60代まで良好な視力が保たれることが多いです。
主な原因遺伝子
現在までに、網膜色素変性症に関連する90種類以上の遺伝子が特定されています。これらの遺伝子は主に以下のような機能に関わっています:
1. 光変換カスケード
光を電気信号に変換する過程に関わる遺伝子です。代表的なものとして:
- ロドプシン(RHO)遺伝子:常染色体優性RPの30〜40%を占め、杆体細胞に特異的なタンパク質をコードします。変異の場所によって症状の重症度や進行速度が異なります。
- ホスホジエステラーゼ(PDE6B)遺伝子:光変換に関わる酵素をコードします。
2. 視細胞外節の構造
視細胞の形態を維持する遺伝子群です:
- ペリフェリン2(PRPH2)遺伝子
- ROM1遺伝子
これらの遺伝子にコードされるタンパク質レベルの変化が大きいほど、発症が早く、病理学的変化も重度になる傾向があります。
3. 視覚サイクル
網膜で光を感知する化学反応に関わる遺伝子です:
- RPE65遺伝子:この遺伝子変異によるRPは、他の変異と比較して進行が遅い傾向があります。
- ABCA4遺伝子
- RDH12遺伝子
4. その他の重要な遺伝子
- USH2A遺伝子:RPの一般的な原因遺伝子で、視細胞の繊毛領域で発現するアッシェリンというタンパク質をコードします。この遺伝子変異はアッシャー症候群(難聴を伴う)と非症候性のRP両方を引き起こします。非症候性タイプの方が発症が約10年遅く、視力低下や視野欠損の進行も遅い傾向があります。
遺伝子バリアント
同じ遺伝子であっても、異なる変異(バリアント)が存在し、それによって病気の進行速度や症状の現れ方が大きく異なることがあります。例えば:
- RHO遺伝子の135番目のアミノ酸変異(R135WとR135L)は重度の症状を引き起こしますが、R135Wの方がR135Lよりも重度で進行が速いことが知られています。
- MERTK遺伝子の変異を持つ患者56名の臨床検査では、一部は重度の表現型を示し、残りはより軽度であることが分かりました。これは患者によって変異の数が異なるためと考えられています。
遺伝子名 | 関連する機能 | 遺伝形式 |
---|---|---|
RHO(ロドプシン) | 光変換 | 常染色体優性 |
USH2A(アッシェリン) | 視細胞の構造維持 | 常染色体劣性 |
RPGR | 視細胞の繊毛機能 | X連鎖 |
RPE65 | 視覚サイクル | 常染色体劣性 |
PRPH2(ペリフェリン2) | 視細胞外節の構造 | 常染色体優性 |
遺伝子検査の重要性
遺伝子検査により以下のことが可能になります:
- 正確な診断の確定
- 病気の進行予測
- 遺伝カウンセリングや家族計画への情報提供
- 遺伝子特異的な治療法の選択(将来的に)
まとめ
網膜色素変性症の遺伝的背景は非常に複雑で、90種類以上の遺伝子が関与しています。遺伝形式、原因遺伝子、遺伝子バリアントによって発症年齢や進行速度が大きく異なるため、個々の患者さんに対する正確な診断と予後予測には遺伝子検査が重要です。
遺伝子検査技術の進歩により、より多くの遺伝子変異が特定されるようになり、将来的には個別化された治療法の開発につながることが期待されています。
※この記事は医学的情報提供を目的としており、診断や治療の代わりになるものではありません。具体的な症状や治療については、眼科専門医にご相談ください。

ミネルバクリニックでは、「視力の未来を守りたい」という思いを持つすべての方へ向けて、網膜色素変性症遺伝子パネル検査を提供しています。
網膜色素変性症は、視野の狭まりや夜盲から始まり、進行すると失明に至ることもある疾患で、約半数が遺伝性とされています。家族に網膜の病気を持つ方がいる方や、将来子どもに遺伝するかもしれないと不安をお持ちの方に、ぜひ知っていただきたい検査です。
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