米国人類遺伝学会ACMGは、2021年、プレコンセプション(preは前、conceptionは受胎、日本語では妊娠前という意味)および出生前キャリアスクリーニングに関する最新のガイダンスを発表した。このガイダンスでは、最適なパネルサイズやどの遺伝子を含めるべきかなど、複数の内容が検討された。このガイダンスでは、キャリアスクリーニングを4つの段階に分けている。さらに、委員会は、パネルを全人類的、つまり、人種によらない普遍的なものにすることと、これらの検査を人種および/または民族ごとに分けることの問題を検討した。
キャリアスクリーニングとは?
キャリアとは、具体的には、常染色体劣性またはX連鎖性疾患における病原性または病原性の可能性が高いバリアントのヘテロ接合体である個体を指す。
キャリアスクリーニングとは、常染色体劣性遺伝性疾患またはX連鎖性遺伝性疾患の子供を持つリスクのある個人およびカップルを特定するために用いられる分子生物学的検査をさす。一般的にキャリアは健康であるが、脆弱X症候群のキャリアは早発卵巣不全のリスクがあるなど、医学的な問題がある場合もある。
キャリアスクリーニングは、患者さんに妊娠に関する知識を提供し、生殖の選択肢や管理計画について十分な情報を得た上で選択できるようにする。
検査前カウンセリングで理解されるべき内容
- ・検査は任意であり、辞退して別の機会に検査を依頼することもできる。
- ・出生前(妊娠中)スクリーニングよりもプレコンセプション(妊娠前)スクリーニングが推奨されている。
- ストレスが少ない
- PGT(着床前診断)などの追加オプションがある
- ・妊娠中に検査を行った場合は、同時にパートナー検査を行う必要がある。
- ・新しい生殖パートナーがいるかどうかを確認する。新しいパートナーがいる場合は、カップルのリスクが変化しているため、キャリアスクリーニングを再度実施する必要がある。
- ・キャリアスクリーニングパネルで検査されるのは、全遺伝子疾患のうち少数派に過ぎない。
- ・スクリーニングパネルで検出された遺伝子変異は、通常、何世代にもわたって家族に存在する。
- ・キャリアスクリーニングでは、胎児のde novo変異(新生突然変異)を検出することはできない。
- ・キャリアスクリーニングは、両親のDNAを調べて、子孫の特定の遺伝的疾患のリスクを判断するものである
- ・新生児スクリーニングは、特定の医学的および遺伝的疾患について、子孫を直接評価する検査である。
- ・常染色体劣性遺伝性疾患のリスクは血縁関係で上昇する:特定の地域出身のカップルは、直系のはとこではないものの、リスクが上昇する可能性がある。
- ・検査が陰性であれば、患児を持つ可能性は低くなるが、リスクがなくなるわけではないということを受検者に理解してもらうことが重要。
どのような疾患を検査すべきなのか?
ACMGはスクリーニングのための4つの段階的アプローチを開発した。このうち、ACMGはTier 3を推奨している。Tier4スクリーニングについては、検討する必要があると言及されている。
- Tier 1
- CF嚢胞性線維症、SMA脊髄性筋萎縮症|リスクに応じたスクリーニング
- Tier 2
- 保因者頻度が100人に1人以上(Tier 1を含む)
- Tier 3: 推奨される
- 1/200以上のキャリア頻度(Tier2を含む)および有病率prevalenceが4万人に1人以上のX連鎖疾患
- Tier 4
- 1/200未満のキャリア頻度(Tier 3を含む):対象とする遺伝子や疾患は検査所により異なる。
頻度が50人に1人より多い劣性疾患遺伝子
頻度が50人に1人未満100人に1人以上の劣性疾患遺伝子
頻度が100人に1人未満150人に1人以上の劣性疾患遺伝子
頻度が150人に1人未満200人に1人以上の劣性疾患遺伝子
GeonmADで過小評価される可能性のある11の遺伝子
ACMGの推奨事項
2021年7月、米国医遺伝学・ゲノム学会は、新しいキャリアスクリーニングガイドライン「Screening for autosomal recessive and X-linked conditions during pregnancy and preconception: a practice resource of the American College of Medical Genetics and Genomics (ACMG) 」を発表した。この勧告の要点は、妊娠を考えている、あるいは妊娠しているすべての人に、113の特定遺伝子を含むキャリアスクリーニング・パネルを提供すべきであるということである。この113遺伝子を決定するのに利用されたキャリア頻度は、公開データベースgnomADである。米国の総人口の約2%を構成するある部分集団のキャリア頻度を鑑みて11遺伝子が追加された。
Tier 3の保因者頻度を200人に1人以上とした理由については、重要なことは、1/200以下のキャリア頻度では、リスクのあるカップルの数が増えることであると述べられている。リンク先を参照されたい。
この113の遺伝子は以下の通りである。
ABCA3, ABCC8, ABCD1, ACADM, ACADVL, ACAT1, AFF2, AGA, AGXT, AHI1, AIRE, ALDOB, ALPL, ANO10, ARSA, ARX, ASL, ASPA, ATP7B, BBS1, BBS2, BCKDHB, BLM, BTD, CBS, CC2D2A, CCDC88C, CEP290, CFTR, CHRNE, CLCN1, CLRN1, CNGB3, COL7A1, CPT2, CYP11A1, CYP21A2, CYP27A1, CYP27B1, DHCR7, DHDDS, DLD, DMD, DYNC2H1, ELP1, ERCC2, EVC2, F8, F9, FAH, FANCC, FKRP, FKTN, FMO3, FMR1, FXN, G6PC, GAA, GALT, GBA, GBE1, GJB2, GLA, GNPTAB, GRIP1, HBA1, HBA2, HBB, HEXA, HPS1, HPS3, IDUA, L1CAM, LRP2, MCCC2, MCOLN1, MCPH1, MID1, MLC1, MMACHC, MUT, MVK, NAGA, NEB, NPHS1, NR0B1, OCA2, OTC, PAH, PCDH15, PKHD1, PLP1, PMM2, POLG, PRF1, RARS2, RNASEH2B, RPGR, RS1, SCO2, SLC19A3, SLC26A2, SLC26A4, SLC37A4, SLC6A8, SMN1, SMPD1, TF, TMEM216, TNXB, TYR, USH2A, XPC ( 113遺伝子 )
このACMGガイダンスの目的は、すべての患者に提供可能な標準パネルを定義することである。本ガイダンスでは、妊娠中または妊娠を考えているすべての患者に「Tier 3」パネルを提供することを推奨し、生殖パートナーにも同時にTier 3パネルを提供することができるとしている。このパネルには113の遺伝子が含まれ、そのうち86はgnomADデータから200人に1人以上の保因者頻度を持つものとして導き出され、さらに11の遺伝子は1つまたは複数の患者集団に非常に多く存在し、gnomADで過小評価される可能性があるためTier 3に加えられた。16遺伝子はX連鎖疾患に関連し4万分の1以上の頻度で存在している。
ACMGは、Tier1またはTier2パネルをいかなる患者にも使用しないことを推奨している。さらに、Tier4パネルは血縁関係のある妊娠(はとこまたはそれより近い)、および家族歴や病歴からTier4スクリーニングが有益であると考えられるカップルに適していると述べている。
Tier 3の問題点
Tier 3推奨遺伝子の中には、見逃される可能性のある一般的なバリアントや、通常のプラットフォームでは検出を免れると予想されるバリアントがある。次世代シーケンサーで確実に特定できない3塩基反復(トリプレットリピート)、逆位などは検出されない可能性がある。例えば、FXN病原性変異の大部分はGAAリピート拡張によるものであるが、次世代シークエンサーでは検出できないため、rpPCRなどの違う手法を用いる必要がある。また、F8遺伝子の最も一般的な変異は、遺伝子の逆位であるため、サンガー法のような適した別の方法で検査すべきであるが、そうすると次世代シークエンサーを用いた遺伝子パネル検査とはならないため、コストが大きくなる。PLP1遺伝子では、最も一般的な変異は遺伝子の重複であるため、こちらも次世代シークエンサーでは検出できない可能性がある。OCA2遺伝子ではリアレンジメント(遺伝子再構成)が一般的であるため、これについても次世代シークエンサーでは検出できない可能性がある。このような次世代シークエンサーでは検出できないバリアントのバリエーションは、キャリアスクリーニングパネルを設計する際に、大きな課題となる。