この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

頭部CTで「脳に石灰化がある」と言われても、多くは年齢とともに見つかる小さな点状の石灰化で、それだけで病気とは決まりません。一方で、大脳基底核を中心に両側に目立つ石灰化があり、歩きにくさ・もの忘れ・気分の落ち込みなどの症状やご家族の同じ所見を伴う場合は、遺伝子が原因の特発性基底核石灰化症(ファール病)のことがあります。原因がわからないまま神経内科・精神科・もの忘れ外来を回り続けるより、1回の遺伝子検査で原因を確かめると、次にすることが決まります。このページでは、脳の石灰化の原因と見分け方、どんなときに遺伝子検査を考えるか、原因の6遺伝子をまとめて調べる検査でわかることを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. 脳の石灰化は問題ないのですか?
日本の大学病院2施設で頭部CTを受けた5,099人を調べた研究では、大脳基底核の点状の石灰化が17〜21%に見つかりました。石灰化があること自体は珍しくありません。ただし「問題ない」と言い切れるのは、石灰化の場所・大きさ・年齢・症状・家族歴を合わせて判断したときだけです。
🧬 Q. どんなときに遺伝子検査を考えますか?
両側の大脳基底核に目立つ石灰化があり、若い年齢で見つかった・ご家族にも同じ石灰化がある・ゆっくり進む神経や精神の症状があるときです。血液検査で副甲状腺の病気などがないことを確かめたうえで考えます。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
原因の6遺伝子(SLC20A2・PDGFRB・PDGFB・XPR1・MYORG・CA2)をまとめて調べ、結果までは2〜3週間、検査費用は税込330,000円です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜で、唾液・頬の粘膜ならオンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因遺伝子が見つかれば、指定難病27の診断基準の「遺伝学的検査」の項目を満たす手がかりになり、ご家族が自分の状態を知る手がかりにもなります。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 脳の石灰化とは:CTで「石灰化がある」と言われたら
脳の石灰化とは、脳の組織にカルシウムなどがたまり、頭部CTで白く写る状態のことです。年齢とともに見つかるありふれたものから、ほかの病気や遺伝子が原因のものまであり、「石灰化がある」という所見だけでは病名は決まりません。見分けるには、石灰化の場所・大きさ・年齢・症状・ご家族の様子を合わせて見る必要があります。
CTは骨やカルシウムのように硬いものを白く写すのが得意なので、頭痛やめまい、頭を打ったときなど、別の理由で受けたCTで偶然見つかることがよくあります。石灰化が見つかりやすい場所の一つが、脳の奥にある大脳基底核です。大脳基底核は、体の動きをなめらかに調節したり、意欲や気分に関わったりする神経細胞の集まりです。
頭部CTの基底核の石灰化は、5人に1人ほどに見つかる
日本の大学病院2施設で、2009年10月から2010年9月に頭部CTを受けた5,099人を調べた研究では、大脳基底核の点状の石灰化が17.2%と20.6%(施設ごと)に見つかりました。まだらに広がる石灰化(斑状の石灰化)は1.3%と1.9%で、65歳を超える人に限ると2.1%と3.1%でした。点状の石灰化は、年齢が上がるほど多く見つかっています[1]。
この研究の対象は病院でCTを受けた人で、健康な人の集団全体ではありません。それでも、基底核の小さな石灰化が決して珍しくないことはわかります。「石灰化がある=病気」ではない、というのが最初に知っておいていただきたいことです。
「病的な石灰化」と判断されるのはどんなときか
指定難病「特発性基底核石灰化症」の診断基準では、長径10mm以上の斑状の石灰化を「病的」とする目安が示されています。ただし、原因遺伝子が見つかった場合や、家族に同じような石灰化がある場合は、大きさによらず病的な石灰化と考えるとされています。一方で、高齢者で生理的な石灰化と思われるものは除く、とも書かれています(難病情報センター、2026年10月時点で確認)。
つまり、「大きさ」だけでは決まりません。若い年齢で見つかった、ご家族にも同じ所見がある、という情報が、石灰化の意味を大きく変えます。臨床遺伝専門医として、CTの所見を見るときには必ずご家族の情報まで一緒に確かめることが大切だと考えています。
💡 用語解説:点状の石灰化と斑状の石灰化
診断基準では、長径10mm未満の小さな石灰化を「点状」、10mm以上のまだらに広がる石灰化を「斑状」と呼んで区別しています。病院でCTを受けた人の研究では、点状は2割前後、斑状は2%前後に見つかりました[1]。
2. 脳の石灰化の原因:年齢・ほかの病気・遺伝子
脳の石灰化の原因は、大きく「年齢に伴うもの(生理的石灰化)」「ほかの病気が原因のもの(二次性)」「遺伝子が原因のもの」の3つに分けて考えます。遺伝子検査を考えるのは、このうち前の2つで説明がつかないときです。
🧠 脳の石灰化の原因の考え方
※二次性の原因として挙げた病気は、難病情報センターの特発性基底核石灰化症の診断基準で「除外すべき疾患」の主な例として示されているもの(2026年10月時点で確認)。
年齢に伴う石灰化(生理的石灰化)
前の章のとおり、基底核の点状の石灰化は年齢とともに多く見つかります[1]。診断基準でも、高齢者で生理的と思われる石灰化は病的なものから除くとされています。年齢相応の小さな石灰化で、症状もなく、ご家族にも同じ所見がなければ、遺伝子検査を急ぐ場面ではないことが多いと考えます。
ほかの病気が原因の石灰化(二次性)
遺伝子検査の前に、まず血液検査でカルシウム・リン・副甲状腺ホルモンを確かめ、石灰化を起こすほかの病気がないことを確認します。診断基準では、副甲状腺の病気(血清カルシウム・無機リン・副甲状腺ホルモンの異常)、偽性副甲状腺機能低下症(血清カルシウムが低い)、偽性偽性副甲状腺機能低下症(オルブライト遺伝性骨異栄養症)などを除外することが求められています。偽性副甲状腺機能低下症のうち、偽性副甲状腺機能低下症1B型については別のページで解説しています。
こうした病気は治療で対応できるものも多いので、遺伝子が原因の石灰化と見分けることには大きな意味があります。この検査を受けていただく前にも、二次性の原因が除外されているかを確かめます。
遺伝子が原因の石灰化:特発性基底核石灰化症(ファール病)
年齢やほかの病気で説明できない、両側の大脳基底核を中心とした病的な石灰化があり、ゆっくり進む神経や精神の症状を伴う場合、特発性基底核石灰化症を考えます。このうち原因遺伝子がわかるものが、このページの検査の対象です。次の章で詳しくご説明します。
3. 特発性基底核石灰化症(ファール病)とは:症状・経過・治療
特発性基底核石灰化症は、両側の大脳基底核を中心に病的な石灰化ができ、体の動き・考える力・気分などに症状が出ることがある病気で、日本では指定難病27に指定されています。ファール病(Fahr病)とも呼ばれ、遺伝子が原因のものは英語で primary familial brain calcification(PFBC、原発性家族性脳石灰化症)と呼ばれます。
難病情報センターによると、発症は子どもから高齢者まで幅広い年齢でみられます。石灰化の大きさと症状は必ずしも相関せず、ほとんど症状がないまま過ごしている方もいるとされています(2026年10月時点で確認)。
症状:体の動き・考える力・気分
遺伝子で確定した516人のデータをまとめた2021年の系統的レビューでは、症状のある349人のうち、体の動きの症状だけの人が27%、それ以外の症状だけの人が31%、両方ある人が42%でした。体の動きの症状で多かったのはパーキンソン病に似た症状(パーキンソニズム)と話しにくさ、それ以外の症状で多かったのは考える力の低下・頭痛・うつでした[2]。
このように症状が神経と精神の両方にまたがるため、歩きにくさで神経内科、気分の落ち込みで精神科、もの忘れでもの忘れ外来、と別々の科を受診していて、石灰化と症状が結びつけられていないこともあります。CTで基底核の石灰化を指摘されたことがあり、こうした症状が続いている方は、主治医に石灰化のことを伝えてください。
頭痛について、難病情報センターは、患者さん全体では一般の方と比べて必ずしも多いわけではないようだが、PDGFB遺伝子の変化がある家族性の方では頭痛が多く強いとしています。
石灰化ができる場所と、症状の出やすさ
同じレビューでは、大脳基底核はすべての人で石灰化していました。そのほか、小脳に58%、視床に53%、白質(神経線維の通り道)に43%の人で石灰化がありました。顕性遺伝の型では、石灰化のある場所が1か所増えるごとに、症状が出るリスクが2倍を超えて高くなっていました[2]。
症状が出ない人もいる
原因遺伝子の変化をもっていても、約3分の1の人は症状が出ていませんでした[2]。遺伝子の変化をもっていても発症しない人がいることを「浸透率が100%ではない」といいます。症状が出るかどうか、どの程度になるかは人によって大きく違い、同じ家族の中でも差があります。
経過・寿命と治療
難病情報センターによると、症状は年単位でゆっくり進むことがあり、石灰化そのものは年単位で見てもはっきり大きくならないことが多いとされています。寿命を一律に示すデータはなく、経過は人によって大きく違います。
今のところ、発症を防いだり進行を遅らせたりする薬はありません。ただし、症状に合わせた薬やリハビリテーションは効果があるとされています。食事でカルシウムを控える必要はなく、偏りのない食事が勧められています(難病情報センター、2026年10月時点で確認)。症状ごとの治療は、神経内科の主治医と相談しながら進めます。
どれくらいの人がいるか
集団の遺伝子データを使って推計した研究では、4つの顕性遺伝の原因遺伝子による特発性基底核石灰化症は、少なくとも1万人あたり4.5人(95%信頼区間3.4〜5.5人)と見積もられました。この数字から、全体では少なくとも1,000人あたり2.1人と推計されています[3]。症状のない人も含めた推計なので、診断を受けている人の数よりずっと多くなっています。
4. 遺伝のしかた:原因遺伝子によって違う
特発性基底核石灰化症の原因遺伝子は、遺伝のしかたで2つのグループに分かれます。SLC20A2・PDGFB・PDGFRB・XPR1は常染色体顕性(優性)遺伝で、お子さんに受け継がれる確率は2分の1です。MYORGなどは常染色体潜性(劣性)遺伝です。難病情報センターによると、家族例の約半数でSLC20A2の変化が、約10%でPDGFBの変化が見つかっています(2026年10月時点で確認)。
常染色体顕性(優性)遺伝の4遺伝子:お子さんへは2分の1
常染色体顕性(優性)遺伝では、対になった遺伝子の片方に原因となる変化があれば発症しうるため、親から子へ受け継がれる確率は、お子さん1人ごとに2分の1です。性別には関係しません。
ただし、受け継いでも発症するとは限りません。2021年の系統的レビューでは、SLC20A2とXPR1の変化をもつ人で症状が出る割合(浸透率)は70%未満で、そのほかの遺伝子(85%超)より低くなっていました。PDGFRBの変化をもつ人は、約54%が症状の出ていない状態でした[2]。
常染色体潜性(劣性)遺伝:きょうだいで4分の1
常染色体潜性(劣性)遺伝では、両親から1つずつ、計2つの変化を受け継いだときに発症します。ご両親はふつう症状のない保因者で、同じご両親から生まれるきょうだいが発症する確率は、1人ごとに4分の1です。ご本人のお子さんについては、パートナーも保因者でない限り発症することはほとんどない、とされています(難病情報センター)。この検査では、潜性遺伝の遺伝子としてMYORGとCA2を調べます。
CA2は、特発性基底核石灰化症とは別の病気で、骨が硬くなりすぎる常染色体劣性尿細管性アシドーシスを伴う大理石骨病3の原因遺伝子です。この病気では、大理石骨病と腎臓の尿細管の酸の調節の異常(尿細管性アシドーシス)に、脳の石灰化を伴います[4]。脳の石灰化の原因を広く確かめるために、この検査に含まれています。
⚠️ 「自分は症状がないから、子どもも大丈夫」とは言えません
顕性遺伝の型では、同じ変化をもっていても、症状がまったくない人から、体の動きや考える力に症状が出る人まで幅があります[2]。親御さんが症状に気づいていなくても、受け継いだお子さんの経過が同じになるとは限りません。症状の有無だけで判断せず、知ったうえで計画することに意味があります。
家族歴がない場合
ご家族に同じ診断の方がいなくても、遺伝子が原因のことはあります。浸透率が100%でないため、同じ変化をもつ親御さんが無症状で、CTを受けたことがないために気づかれていないことがあるからです。また、ご本人の代で新しく起きた変化(新生突然変異)のこともありえます。新しく起きた変化と考えられる場合でも、親御さんの卵子や精子のもとになる細胞にだけ変化がある「性腺モザイク」の可能性は否定できません。生殖細胞のうちどれくらいが変化をもつかは、実際の診療ではわからないため、きょうだいへの確率を「ほぼゼロ」と小さく見積もることはしません。
5. どんな人がこの検査を受けるとよいか
CTで両側の大脳基底核に目立つ石灰化があり、若い年齢で見つかった方、ご家族にも同じ石灰化や診断がある方、ゆっくり進む神経・精神の症状がある方に向く検査です。石灰化の画像や症状だけでは、生理的な石灰化か、遺伝子が原因かを決めきれないことがあります。
CTで石灰化を指摘され、原因を確かめたい方
- ●両側の大脳基底核に、斑状(長径10mm以上)など目立つ石灰化がある方
- ●年齢のわりに石灰化が目立つと言われた方(若い年齢ほど、生理的な石灰化では説明しにくくなります[1])
- ●パーキンソン病に似た症状、話しにくさ、もの忘れ、気分の落ち込みなどの症状がゆっくり進んでいる方
- ●血液検査でカルシウム・リン・副甲状腺ホルモンに異常がなく、ほかの原因が見つからなかった方
日本の未診断疾患イニシアチブ(IRUD)では、全エクソーム解析を終えた5,136家系のうち2,247家系(43.8%)で最終的な診断がつきました[5]。対象も検査も違うので数字をそのまま当てはめることはできませんが、遺伝子を調べることで長い原因探しに区切りがつく方がいる一方、全員に原因が見つかるわけではない、ということも示しています。
ご家族に診断された方がいて、ご自身が受け継いでいるか知りたい方(発症前の検査)
症状のない方が、ご家族で見つかった変化を受け継いでいるかを調べる検査は「発症前の検査(予測的検査)」にあたります。当院は、ライフステージごとに患者さんの人生をサポートするという考え方で診療しており、知りたいと願う方を拒むことはしません。遺伝カウンセリングで十分に考えたうえで、ご本人が知りたいと決めた場合は、その意思を尊重して検査まで行います。知らないでいる選択も、同じように尊重します。
先が見えないまま過ごすより、わかったうえで、仕事・結婚や出産・住まい・ご家族の介護の準備など、これからの人生を計画したいと考える方もいます。英国でハンチントン病の発症前検査を受けた人の理由として最も多かったのは「不確実さを減らすため」(70.5%)でした[6]。病気は違いますが、「知ることで計画を立てたい」という思いは、特発性基底核石灰化症のご家族にも通じるものだと考えています。
一方で、浸透率が100%ではないため、変化を受け継いでいるとわかっても、症状が出るか、いつ出るかまではわかりません。陽性でも陰性でも気持ちの変化は起こりうるので、結果をお伝えしたあとも、遺伝カウンセリングで相談を続けていただけます。なお、日本医学会のガイドラインは、成年期以降に発症する病気の未成年者への発症前の検査は、原則として本人が成人し自分で判断できるまで延期すべきとしています。
結婚・妊娠を考えている方
結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる大きな選択です。ご家族に特発性基底核石灰化症の方がいる場合、ご自身が原因の変化をもっているかを妊娠の前に知っておくと、パートナーとの話し合いや、妊娠したときの計画を具体的に考えられるようになります。大人になってから症状が出ることのある病気の出生前診断をどう考えるかも含めて、当院でご相談いただけます。
潜性遺伝のMYORGやCA2については、当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子)の遺伝子一覧には含まれていません。ほかの版も含め、対象かどうかは拡大版保因者スクリーニングの遺伝子一覧でご確認ください。
この検査より別の検査が向いている場合
CTで基底核の石灰化があるなら、まずこの検査です。一方で、石灰化が目立たない、または症状の特徴が別の病気を思わせる場合は、次の検査のほうが向いていることがあります。比べる相手は検査の種類です。
🔍 症状に合わせた検査の選び方
※どの検査が合うかは、CTの所見・症状・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングで一緒に決めましょう。
6. この検査で調べる6つの遺伝子
この検査では、脳の石灰化の原因として報告されている6つの遺伝子(SLC20A2・PDGFRB・PDGFB・XPR1・MYORG・CA2)を一度に調べます。遺伝子を1つずつ順番に調べる場合と違い、どの遺伝子が原因でも1回の検査で確かめられます。
🧬 調べる遺伝子と関係する病気
※遺伝子は当院の検査の対象遺伝子(6遺伝子)。家族例での割合は難病情報センター(2026年10月時点)、遺伝のしかたは難病情報センターと文献[2][4]による。
SLC20A2の変化は2012年に、家族性の特発性基底核石灰化症の原因として報告され、リン酸の調節と石灰化を結びつける発見になりました[7]。その後、PDGFB[8]、XPR1[9]などが次々に見つかっています。原因遺伝子がわかると、遺伝のしかたが決まり、ご家族の誰が同じ変化をもちうるかを考えられるようになります。
7. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、6つの遺伝子の小さな変化(1文字の置き換わりや小さな挿入・欠失)と、遺伝子1つまるごと、または2つ以上続いたエクソン(遺伝子の中の区画)の大きさの欠失・重複です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
- ●調べていない遺伝子:JAM2やNAA60など、潜性遺伝の型の原因として報告されているほかの遺伝子は含まれていません。今後、新しい原因遺伝子が見つかる可能性もあります。
- ●見つけにくい変化:染色体の一部が入れ替わる変化(転座・逆位)、同じ配列が長く繰り返される変化(リピート伸長)、遺伝子の働きを調節する領域や、エクソンから離れたイントロンの奥の変化は対象外です。1つのエクソンだけの欠失・重複は、ふだんは検出の対象になりません。
- ●欠失・重複の検出と検体:2つ以上続いたエクソンの欠失・重複は、血液の検体でのみ調べられます。頬の粘膜の検体では、遺伝子1つまるごとの欠失・重複までになります。
- ●モザイク:体の一部の細胞にだけ変化がある状態(モザイク)を見つけることは目的としていません。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、まだ判断できない変化が見つかることがあります。
- ●陰性でも否定はできません:原因が見つからなくても、この検査で調べていない原因が残る可能性があります。
検査の精度について(専門的な補足)
遺伝子の配列は、次世代シーケンサー(NGS)で、遺伝子のたんぱく質をつくる部分(コード領域)と、その境目(スプライス部位)を読みます。対象遺伝子の99%以上の領域を、同じ場所を20回以上読む深さで読み取ります(≥99% at 20x)。何度も読むほど、読み間違いと本当の変化を区別しやすくなります。
読み取りの質が十分でない部分は、別の方法(サンガー法)で確かめます。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
8. 結果が出たあと
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。陽性・陰性・VUSのそれぞれで、次にできることが違います。
原因の変化が見つかったとき:診断の確定と、次の一手
原因遺伝子がわかると、石灰化の意味がはっきりし、何に気をつけて過ごせばよいかが決まります。症状に合わせた薬やリハビリを主治医と相談しやすくなり、指定難病の申請を考えるときにも、遺伝学的検査の結果が診断基準の項目の一つになります(第9章)。2021年の系統的レビューでは、顕性遺伝の型で石灰化のある場所が増えるほど症状が出やすかったと報告されており[2]、症状がまだない方でも、主治医と経過の見方を決めておく手がかりになります。
ご家族への影響と、ご家族が検査を受けるとき
顕性遺伝の遺伝子で原因が見つかった場合、ご両親・きょうだい・お子さんも同じ変化をもっている可能性があります。ご家族の中で原因がわかっていると、ほかのご家族は同じ場所を調べることで、受け継いでいるかを確かめられます。あなたの1回の検査が、ご家族が自分の状態を知る手がかりになります。症状のないご家族の検査は発症前の検査になるため、検査の前に遺伝カウンセリングで、知ることの意味をよく考えていただきます(第5章)。
原因が見つからなかったとき
原因の変化が見つからなくても、特発性基底核石灰化症が否定されたわけではありません(第7章)。この検査に含まれない遺伝子や、検出しにくい種類の変化が原因のこともあります。症状やCTの所見、ご家族の情報をもとに、全エクソーム検査などの次の選択肢を一緒に考えます。
意義がまだわからない変化(VUS)が見つかったとき
VUSは、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査に使ったりはしません。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。調べた目的とは別の病気の原因が見つかった場合の扱いは、当院の二次的所見の開示方針をご覧ください。
妊娠を考えている方
ご家族の原因の変化がわかっていると、妊娠を考えるときに、パートナーと具体的な計画を立てやすくなります。当院では、羊水検査・絨毛検査を院内で行っています(2025年6月から産婦人科を併設)。大人になってから症状が出ることのある病気の出生前診断ができるかどうかも含めて、妊娠を考えている段階からご相談いただけます。あらかじめご家族の原因を確かめておくことが、計画の出発点になります。
9. 日本の制度(2026年10月時点)
特発性基底核石灰化症は指定難病27です。難病情報センターに掲載されている診断基準では、「遺伝学的検査」が診断の項目の一つになっていて、原因遺伝子の変化が確認できると「Definite(確実)」の判定につながります。診断基準は、①ゆっくり進む精神・神経症状、②頭部CTで両側の基底核を含む病的な石灰化、③二次的に石灰化を起こす病気の除外、④遺伝学的検査、⑤病理学的検査、の項目からなり、①②③④をすべて満たすものが「Definite 1」とされています(診断基準の告示日:2024年4月1日)。
医療費の助成を受けるには、診断に加えて重症度の基準(日常生活の障害の程度・食事や栄養・呼吸のいずれかの評価が3以上)を満たし、申請する必要があります。指定難病の認定がない場合は、通常の保険診療になります。また、65歳以上は介護保険、65歳未満は障害者総合支援法による支援の対象になる場合があります(難病情報センター)。くわしい条件や申請の方法は、難病情報センターやお住まいの自治体の窓口でご確認ください。
当院のこの検査は自費診療で、保険は使えません。
10. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。唾液・頬の内側の粘膜・血液のいずれでも検査でき、唾液・頬の粘膜ならオンライン診療で受けられます。
ご予約
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遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
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検体の採取お支払い後にキット送付
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結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
オンライン診療では、ビデオ通話で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただきます。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいた後にお送りします。検体の取り違えを防ぎ、検査に使える品質を保つため、キットが届く前にご自身で検体を採取しないでください。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
11. 院長コラム
🩺 院長コラム【「石灰化があります」で終わらせない】
脳の石灰化は、CTを撮れば多くの方に見つかるありふれた所見です。だからこそ、「年齢のせいでしょう」で済まされることもあれば、反対に「脳に石が」と言われて必要以上に不安になる方もいます。大切なのは、石灰化の場所と大きさ、見つかった年齢、症状、そしてご家族の様子を合わせて考えることだと考えています。とくにご家族の情報は、CTの画像だけでは決してわかりません。
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。特発性基底核石灰化症のように、同じ変化をもっていても症状が出る人と出ない人がいる病気では、なおさらです。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる大きな選択です。知ってから決めるのと、知らずに決めるのとでは、同じ選択でも意味が違います。知ったうえで結婚や妊娠を考えたい方には、出生前診断の相談まで当院で続けて支えられる体制を整えています。知る・知らない、どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 脳の石灰化は問題ないのですか?
頭部CTで見つかる大脳基底核の小さな点状の石灰化は珍しくなく、日本の大学病院2施設で頭部CTを受けた5,099人の研究では17〜21%に見つかっています。ただし、問題ないかどうかは、石灰化の場所・大きさ・見つかった年齢・症状・ご家族の様子を合わせて判断します。両側の基底核に目立つ石灰化がある、若い年齢で見つかった、ご家族にも同じ所見がある、ゆっくり進む神経や精神の症状がある場合は、原因を確かめることをおすすめします。
Q2. 脳の石灰化の原因は何ですか?
大きく、年齢に伴うもの(生理的石灰化)、副甲状腺の病気などほかの病気が原因のもの(二次性)、遺伝子が原因のもの(特発性基底核石灰化症など)に分けて考えます。まず血液検査でカルシウム・リン・副甲状腺ホルモンを確かめ、ほかの原因がなければ遺伝子検査を考えます。
Q3. 脳の石灰化は治療で治せますか?
今のところ、石灰化そのものを取り除いたり、特発性基底核石灰化症の発症や進行を抑えたりする薬はありません。症状に合わせた薬やリハビリテーションは効果があるとされています。副甲状腺の病気など、ほかの病気が原因の石灰化では、その病気の治療を行います。
Q4. 特発性基底核石灰化症(ファール病)の寿命は?
寿命を一律に示すデータはなく、経過は人によって大きく違います。難病情報センターによると、症状は年単位でゆっくり進むことがあり、ほとんど症状がないまま過ごしている方もいます。遺伝子で確定した516人のデータでは、約3分の1の人は症状が出ていませんでした。
Q5. 特発性基底核石灰化症は遺伝しますか?
原因遺伝子によって遺伝のしかたが違います。SLC20A2・PDGFB・PDGFRB・XPR1は常染色体顕性(優性)遺伝で、お子さんに受け継がれる確率は2分の1です。MYORGなどは常染色体潜性(劣性)遺伝で、きょうだいが発症する確率は4分の1です。受け継いでも症状が出ない人もいます。
Q6. カルシウムを控えたほうがいいですか?
難病情報センターによると、カルシウムの摂取を控える必要はなく、偏りのない栄養バランスのよい食事が勧められています。
Q7. 頭痛は脳の石灰化と関係がありますか?
難病情報センターによると、特発性基底核石灰化症の患者さん全体では、頭痛が一般の方より多いとは必ずしも言えないようです。一方で、PDGFB遺伝子の変化がある家族性の方では、頭痛が多く強いとされています。
Q8. 指定難病ですか?保険は使えますか?
特発性基底核石灰化症は指定難病27です(2026年10月時点)。診断基準では遺伝学的検査が項目の一つになっています。医療費の助成を受けるには、重症度の基準を満たして申請する必要があります。当院のこの遺伝子検査は自費診療で、検査費用は税込330,000円、遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 人生に一度の遺伝子検査を、ご自身とご家族のこれからに
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。脳の石灰化の原因が遺伝子でわかれば、ご自身の経過の見方や指定難病の申請だけでなく、ご家族の検査や、結婚・妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、6つの原因遺伝子をまとめて調べる検査から、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
参考文献
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