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妊婦が食べてはいけないもの一覧|うなぎ・生卵・刺身はどこまで大丈夫?理由と量の目安

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医として遺伝医療に携わっています。

妊娠中に避けたいのは、生ハム・加熱せずに食べるナチュラルチーズ(特に未殺菌乳製・軟質のもの)・スモークサーモン・生肉など「感染症のリスクがある食品」と、アルコールです。量に気をつけたいのは、レバーやうなぎ(ビタミンA)、キンメダイ・メカジキ・本マグロなどの大型魚(水銀)、ひじき(ヒ素)、昆布(ヨウ素)です。一方で、刺身や生卵は、鮮度や賞味期限を守っても感染リスクをゼロにはできず、妊娠中は十分に加熱したものを選ぶほうが安全です。うなぎの蒲焼は、量とほかの食品からのビタミンA摂取に注意すれば食べられます。この記事では、何をどのくらいなら食べてよいのかを理由と数字で整理し、臨床遺伝専門医の視点から「ビタミンAがなぜ赤ちゃんの形づくりに影響するのか」「うっかり食べてしまったらどう考えるか」まで解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🍽️ 妊婦が食べてはいけないもの・うなぎ・生卵
★ 臨床遺伝専門医監修

Q. 妊婦が食べてはいけないものは何ですか?

A. 避けたいのは「加熱していない肉・肉や魚の加工品・ナチュラルチーズ」とアルコール、量に注意したいのは「レバー・うなぎ・大型魚・ひじき・昆布」です。前者はリステリアやトキソプラズマが胎盤を越えて赤ちゃんに感染するおそれがあるため、後者は成分のとりすぎが赤ちゃんの発生に影響しうるためです。うなぎの蒲焼を80〜100g食べる場合は、ビタミンAの耐容上限量を単独では超えませんが、1人前の大きさとほかの食品からの摂取量に注意が必要です。避けたいのは肝やレバー、ビタミンAのサプリとの重ね食べです。

  • ➤避けたい食品 → 生ハム・ナチュラルチーズ・スモークサーモン・生肉・アルコール
  • ➤量に注意 → レバー・うなぎの肝・対象の大型魚(種類に応じた週の目安を合算)・ひじき・昆布
  • ➤加熱がより安全 → 刺身・生卵・温泉卵は感染リスクが残るため加熱を推奨。うなぎの蒲焼は量に注意
  • ➤遺伝の視点 → ビタミンAの影響は妊娠初期の器官形成期に集中し、サプリやレバーなどからの高用量レチノール摂取に注意

1. 妊婦が食べてはいけないもの・量に気をつけるもの早見表

妊娠中の食べ物の注意は、「感染症のリスクがあるので避けたいもの」「成分のとりすぎに注意したいもの」「条件を守れば食べてよいもの」の3つに分けると整理しやすくなります。ネット上では「妊婦はこれもダメ、あれもダメ」という情報が並びがちですが、実際に避ける理由がはっきりしている食品は限られています。まず全体を一覧にし、それぞれの理由は次章以降で説明します。

表を見るときのポイントは、「食品そのもの」ではなく「その食品に何が含まれているか」で判断することです。たとえば同じ魚でも、生のまま長期間冷蔵されるスモークサーモンと、その日に切った刺身とではリスクの中身が違います。同じ「マグロ」でも、本マグロとツナ缶とでは水銀の量が違います。理由がわかれば、表にない食品でも自分で判断できるようになります。

🍽️ 妊娠中の食べ物 早見表

区分 食品の例 理由 目安・食べ方
避けたい 生ハム・加熱しない食肉加工品、肉や魚のパテ リステリア 加熱調理したものを選ぶ
避けたい 加熱殺菌していないナチュラルチーズ、未殺菌乳 リステリア プロセスチーズや十分に加熱したものを選ぶ。殺菌乳使用でも再汚染に注意
避けたい スモークサーモン、生牡蠣 リステリア、ノロウイルスなど 加熱したものを選ぶ
避けたい ユッケ・レバ刺し・馬刺し・鶏刺し・レアステーキ・ローストビーフの赤い部分 トキソプラズマ、食中毒菌 中心まで十分に加熱する
避けたい アルコール(料理の酒も十分に加熱していないもの) 胎児性アルコール・スペクトラム障害 妊娠中はゼロにする
量に注意 レバー、うなぎの肝、ビタミンA入りのサプリ ビタミンA(レチノール) レバーは少量でも耐容上限量に近づく
量に注意 うなぎの蒲焼 ビタミンA(レチノール) 時々、80〜100g程度を目安に。肝やレバーと重ねない
量に注意 キンメダイ・メカジキ・本マグロ・メバチ メチル水銀 1週間に合計80g程度まで
量に注意 ひじき 無機ヒ素 水戻し・ゆでこぼしをして、ふつうの量で
量に注意 昆布・昆布だし・とろろ昆布 ヨウ素 毎日大量にはとらない
加熱がより安全 刺身・寿司 食中毒・寄生虫 鮮度だけでは安全とはいえない。加熱した魚や寿司の具を選ぶ
加熱がより安全 生卵・温泉卵・半熟卵 サルモネラ食中毒 期限・冷蔵保存を守ってもリスクは残る。黄身・白身が固まるまで加熱
特別な制限なし 加熱したたこ・いか・えび、ツナ缶、サケ、アジ、サバ、果物(マンゴーなど)、干し芋、はちみつ 妊娠に特有の制限はない ふつうの量で、バランスよく

※リステリアの原因食品は厚生労働省[1]、魚の量の目安は厚生労働省の注意事項[2]による。カフェインを含む飲み物は別記事で扱います。

表の「特別な制限なし」に入っている食品は、検索でよく調べられているものです。たこ・いか・えびは加熱してあれば妊娠中に特別な制限はありません。果物にも妊娠中に禁止されているものはなく、マンゴーや干し芋も糖分のとりすぎに気をつければふつうに食べられます。はちみつが注意されるのは1歳未満の乳児で、妊婦が食べても問題はありません(FAQで説明します)。

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2. なぜ妊娠中は「食べてはいけないもの」があるのか

妊娠中に食べ物の注意が増える理由は、大きく「感染」と「成分」の2つです。この2つは仕組みがまったく違うため、対策も違います。感染のリスクは加熱すれば下げられますが、成分のリスクは主に摂取量で管理します。ただし、ひじきの水戻し・ゆでこぼしのように、一部の成分を減らせる調理法もあります。

🦠 感染リスク(加熱で防げる)

リステリアやトキソプラズマは、母体の血液から胎盤を越えて赤ちゃんに感染することがあります。生ハム・ナチュラルチーズ・生肉など「加熱しないまま食べるもの」が原因になります。中心まで加熱すれば防げます。

⚖️ 成分リスク(量で管理する)

水銀・ビタミンA・ヨウ素・ヒ素は、通常の加熱だけではリスクをなくせません。ヒ素やヨウ素は、水に溶け出した成分を調理水ごと捨てることで減らせる場合があります。過剰摂取によって胎児の発達や甲状腺、母体の健康に影響しうる成分です。種類ごとに量の目安を知っておくことが大切です。

感染リスク:胎盤を越える病原体がある

胎盤は、母体の血液と赤ちゃんの血液を直接混ぜずに、酸素や栄養だけを受け渡すしくみです。多くの細菌やウイルスはこの「関所」を通りませんが、なかには胎盤の細胞に入り込んで赤ちゃんの側へ移っていくものがあります。食べ物から感染するものの代表が、細菌のリステリアと寄生虫のトキソプラズマです。

妊娠中は、赤ちゃんを異物として攻撃しないように母体の免疫のバランスが変わります。そのため、細胞の中に入り込むタイプの病原体に対する防御が弱くなり、ふだんなら発症しないような少ない菌の量でも感染が成立しやすくなります。妊婦本人は風邪のような軽い症状ですんでも、赤ちゃんには流産・早産・重い先天感染につながることがある点が、妊娠中に特有の問題です。逆にいえば、サルモネラのように「お腹をこわす」食中毒菌は、母体はつらくても赤ちゃんへ直接感染することはまれで、両者は分けて考える必要があります。

成分リスク:赤ちゃんの発生に影響しうる量がある

もう一つは、食品に含まれる成分そのものの問題です。水銀は魚の体に蓄積され、胎盤を通って赤ちゃんの発達途中の神経に影響しうることから、量の目安が決められています。ビタミンAは体に必要な栄養素ですが、動物性の食品やサプリに含まれる「レチノール」をとりすぎると、赤ちゃんの体の形づくりに影響することがわかっています。ヨウ素は赤ちゃんの甲状腺ホルモンの材料で、とりすぎても足りなくても甲状腺の働きに影響します。ひじきの無機ヒ素は、長期間の大量摂取が問題になる成分です。

通常の加熱だけでこれらの成分のリスクがなくなるわけではないため、「よく焼けば安心」は当てはまりません。その代わり、ほとんどの成分には「どのくらいまでなら大丈夫か」という目安があり、それを超えない範囲で食べればよいという考え方になります。「絶対にゼロ」にすべきなのは、成分のなかではアルコールだけです。

3. 感染症のリスクがあるため避けたい食品

生ハム・ナチュラルチーズ・スモークサーモン(リステリア)

生ハム・加熱せずに食べるナチュラルチーズ(特に未殺菌乳製・軟質のもの)・スモークサーモン・肉や魚のパテは、リステリアの原因食品として、妊娠中は避けたい食品です。厚生労働省は、リステリアの原因食品として生ハムなどの食肉加工品、未殺菌乳やナチュラルチーズなどの乳製品、スモークサーモンなどの魚介類加工品を挙げ、共通点を「冷蔵庫に長期間保存され、加熱せずにそのまま食べられる食品」としています[1]。

リステリアが厄介なのは、ほかの多くの食中毒菌と違って、4℃以下の冷蔵庫の中や、12%という高い塩分濃度の中でも増殖できる点です[1]。つまり「冷蔵庫に入れておいたから大丈夫」「塩漬けだから大丈夫」が通用しません。そのうえで、厚生労働省は妊婦が感染すると、リステリアが胎盤や胎児へ感染し、流産や生まれた赤ちゃんへの影響が出ることがあると注意を呼びかけています[1]。妊婦向けのパンフレットでも、妊娠中は一般の人よりもリステリアに感染しやすくなることが示されています[3]。

一方で、リステリアは加熱に弱い菌です。生ハムもピザの上で焼けば、パテも加熱調理すれば、リスクは下がります。チーズについては、日本で市販されているプロセスチーズは製造過程で加熱されています。「殺菌乳使用」はリスクを下げますが、製造後の汚染を防ぐ保証ではありません。特に軟質のナチュラルチーズは、殺菌乳使用でも保存や衛生管理に注意し、グラタンやピザのように中心まで十分に加熱するとリスクを下げられます。未殺菌乳製のチーズは、そのまま食べることを避けてください。

💡 用語解説:リステリア症

リステリア症は、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)という細菌による感染症です。健康な大人では無症状や軽い胃腸炎ですむことが多い一方、妊婦・高齢者・免疫の弱い人では、少ない菌の量でも発症し、敗血症や髄膜炎など重くなることがあります。妊婦が感染すると、菌が胎盤を通って赤ちゃんに感染し、流産・死産・早産や新生児の重い感染症の原因になることがあります。発熱・筋肉痛・悪寒など、インフルエンザに似た症状で始まるのが特徴です。

生肉・加熱不十分な肉(トキソプラズマ)

ユッケ・レバ刺し・馬刺し・鶏刺し・レアステーキなど、中心まで火が通っていない肉は、トキソプラズマの感染源になるため妊娠中は避けてください。トキソプラズマは猫を最終的な宿主とする寄生虫で、豚・羊・鹿などの肉の中にシスト(殻に包まれた休眠型)として潜んでいることがあります。加熱が不十分な肉を食べたり、猫のふんで汚れた土に触れた手で口を触ったりすることで感染します。

妊娠中に初めてトキソプラズマに感染すると、赤ちゃんに感染する「先天性トキソプラズマ症」が起こることがあります。母子感染のリスクは感染した時期によって大きく変わり、母体の感染が妊娠13週なら約6%、26週なら約40%、36週なら約72%と、週数が進むほど赤ちゃんへ感染しやすくなります[4]。その一方で、早い時期に赤ちゃんに感染した場合ほど、水頭症や網脈絡膜炎(目の奥の炎症)などの重い症状が出やすいことが知られています[5]。感染しやすさと重症度が逆の関係にあるため、妊娠のどの時期でも予防が大切です。

予防の基本は、肉を中心温度75℃で1分以上、または同等の条件で加熱すること(色の変化だけで判断しないこと)[23]、生肉を切ったまな板や包丁をよく洗うこと、土いじりのときは手袋をつけること、猫のトイレ掃除はできればほかの家族に任せることです。妊娠前からトキソプラズマに感染したことがある人(抗体を持っている人)は、妊娠中に新たに感染して赤ちゃんに影響が出る心配はほとんどありません。妊娠中に起こる感染症で赤ちゃんに影響しうるものの全体像は、TORCH症候群の解説にまとめています。

刺身・寿司は食べていい?

日本で刺身や寿司が妊娠中に一律に禁止されているわけではありませんが、新鮮でも食中毒や寄生虫のリスクは残ります。妊娠中は、十分に加熱した魚や寿司の具を選ぶほうが安全です[20]。厚生労働省がリステリアの原因食品として挙げているのは、スモークサーモンのように加工されて長く冷蔵保存される魚介類で[1]、その日に切り分けて食べる刺身とは性質が違います。生の魚で心配されるのは、腸炎ビブリオなどの食中毒や、寄生虫のアニサキスです。これらは母体の胃腸に強い症状を起こしますが、赤ちゃんへ直接感染するものではありません。

ただし、妊娠中は食中毒になると脱水や発熱で母体の負担が大きくなり、つわりの時期と重なれば食事がとれない状態が長引きます。鮮度に不安がある刺身、作り置きの寿司、体調がすぐれない日は控えるほうが無難です。生牡蠣はノロウイルスなどの食中毒の原因になるため、妊娠中は中心まで十分に加熱したものを選んでください。ノロウイルス対策では、中心温度85〜90℃で90秒以上の加熱が目安です[22]。カキフライや鍋でも中心まで加熱できたかが重要です。また、マグロの刺身は種類によって水銀の目安があるため、本マグロやメバチは次章の量を参考にしてください。

生卵・半熟卵・温泉卵は?

日本で生食用として売られている卵も、賞味期限内・冷蔵保存・殻にひびがないという条件だけで、サルモネラのリスクがゼロになるわけではありません。妊娠中は、生卵・半熟卵・温泉卵より、黄身と白身が固まるまで十分に加熱した卵を選ぶほうが安全です[19]。日本の生食用の卵には「生食用であること」と「賞味期限を過ぎたら加熱が必要であること」の表示が義務づけられており、表示された賞味期限は「生で食べられる期限」を意味しています[6]。ただし、この表示は妊婦に対する安全性の保証ではありません。卵かけご飯やすき焼きの溶き卵、コンビニの温泉卵でも、加熱の程度によってリスクが残ります。

妊娠中に生卵が注意される理由は、サルモネラ食中毒です。サルモネラは激しい下痢や発熱を起こしますが、リステリアやトキソプラズマのように胎盤を越えて赤ちゃんに感染することはまれです。心配なのは、高熱や脱水で母体がつらい状態になることのほうです。海外の妊婦向け情報では、未殺菌の生卵や加熱不十分な卵を避け、十分に加熱することが勧められています[19]。日本の生食用卵でも汚染の可能性を完全には除けないため、衛生管理の違いだけを理由に安全と言い切ることはできません。

気をつけたいのは、賞味期限が切れた卵、ひびの入った卵、室温に長く置いた卵、自家製マヨネーズやティラミスのように生卵を使って作り置きした料理です。賞味期限を過ぎた卵は十分に加熱し、ひびや保存状態に不安のある卵、長時間放置した料理は食べないでください。また、「卵は1日何個まで」という質問も多いのですが、妊娠中に卵の個数の上限は決められていません。卵は良質なたんぱく質や鉄を含む食品なので、ほかの食品とのバランスを見ながら食べてください。

4. 量に気をつけたい食品

大型魚の水銀(キンメダイ・メカジキ・本マグロ)

キンメダイ・メカジキ・クロマグロ(本マグロ)・メバチは1週間に合計80g程度まで、キダイ・マカジキ・ミナミマグロなどは1週間に160gまでが、厚生労働省が示す妊婦の目安です。魚は食物連鎖を通じて海の中のメチル水銀を体にため込むため、寿命が長く、食物連鎖の上のほうにいる大型の魚ほど水銀が多くなります[2]。

🐟 妊婦が注意したい魚と量の目安(厚生労働省)

目安 魚介類
1週間に合計80g程度まで(1回約80gとして週1回) キンメダイ、メカジキ、クロマグロ(本マグロ)、メバチ(メバチマグロ)、エッチュウバイガイ、ツチクジラ、マッコウクジラ
1週間に160gまで(週2回) キダイ、マカジキ、ユメカサゴ、ミナミマグロ(インドマグロ)、ヨシキリザメ、イシイルカ
2週間に80gまで コビレゴンドウ
2か月に80gまで バンドウイルカ
特に注意は不要 キハダ、ビンナガ、メジマグロ、ツナ缶、サケ、アジ、サバ、イワシ、サンマ、タイ、ブリ、カツオ、エビ、タラなど

※複数の対象魚を食べる場合は、各魚の目安量に対する摂取割合を合計して調整します。週80gの魚を2種類食べるなら、それぞれ40g程度が目安です。厚生労働省「妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項」[2]より作成。刺身1人前が約80g、切り身1切れが約80gです。

メチル水銀は胎盤を通りやすく、赤ちゃんの脳や神経は発達の途中にあるため、大人よりも影響を受けやすいと考えられています。目安が妊婦向けに設定されているのはこのためです。ただし、魚は良質なたんぱく質や、赤ちゃんの脳の発達に関わるDHA・EPAを含む大切な食品です。表で「特に注意は不要」とされている魚は、ふつうに食べてかまいません。ツナ缶の多くはキハダやビンナガで作られており、制限はありません。

💡 用語解説:メチル水銀

メチル水銀は、水銀が微生物の働きで有機物と結びついた形で、魚介類の体に蓄積されやすい性質があります。体に入ると消化管からよく吸収され、胎盤や脳の関門も通り抜けます。体の外へ出ていくまでに時間がかかるため、目安は「1日あたり」ではなく「1週間あたり」で示されています。ある週に多く食べたら、次の週は控えるという調整で大丈夫です。

ビタミンA:レバー・うなぎ・サプリ

ビタミンAで注意が必要なのは、レバーやうなぎの肝のような「レチノール」を多く含む食品と、ビタミンA入りのサプリです。食品成分表では、100gあたりのビタミンA(レチノール活性当量)は、うなぎの蒲焼が1,500μgRAE[7]、うなぎの肝が4,400μgRAE[8]、鶏レバーが14,000μgRAE[9]、豚レバーが13,000μgRAE[10]です。これに対して、妊婦のビタミンAの耐容上限量(健康への悪影響が生じるリスクがほとんどないと考えられる習慣的な摂取量の上限)は1日2,700μgRAEとされています[11]。

この数字を比べると、レバーは20gほど、焼き鳥のレバー1本程度で上限に届くことがわかります。「レバーは1日1かけ程度なら」と書かれた情報もありますが、数字で見るとレバーは「量に注意」というより、妊娠初期は特に避けたほうがよい食品です。一方、うなぎの蒲焼は100gで1,500μgRAEなので、80〜100g程度なら単独では上限を超えません(次章で詳しく計算します)。

誤解しやすいのは、緑黄色野菜のβカロテンです。にんじんやかぼちゃに含まれるβカロテンは、体の中で必要な分だけがビタミンAに変換されるため、とりすぎても催奇形性の問題は起こりません。注意すべきなのは、最初からビタミンAの形で含まれている動物性のレチノールと、サプリに含まれるレチノールです。妊娠中にマルチビタミンを飲む場合は、ビタミンAがレチノールの形で何μg入っているかを確認してください。

💡 用語解説:レチノール活性当量(μgRAE)

ビタミンAには、動物性食品に含まれるレチノールと、植物に含まれるβカロテンなどのカロテノイドがあります。体内での効果が違うため、両者をレチノールに換算して合計した値が「レチノール活性当量(RAE)」です。サプリの表示に使われる国際単位(IU)では、レチノール1μgが3.33IUに相当し、10,000IUはレチノール約3,000μgにあたります。

ひじき(無機ヒ素)

ひじきは無機ヒ素を含みますが、水戻しやゆでこぼしをして、ふつうの量を食べる分には妊娠中でも問題ありません。食品安全委員会は、通常の摂取の範囲でヒ素中毒などの健康影響が生じたとの報告はないとしています。これは、長期的なリスクがゼロという意味ではありません。また、農林水産省の調査では、水戻しで約5割、水戻し後のゆでこぼしで約9割の無機ヒ素を減らせました。戻し水・ゆで汁は捨ててください[21][12]。

海外ではひじきを食べないよう勧めている国もありますが、無機ヒ素の含有量と健康リスクを踏まえた判断であり、食習慣の違いだけで説明することはできません。日本の家庭のように、水で戻して戻し汁を捨て、煮物などにして時々食べる範囲なら、心配する必要はありません。ひじきは鉄や食物繊維を含む食品でもあります。ただし、つわりの時期などに同じものばかり食べ続けるのは、栄養のかたよりという意味でも避けたほうがよいでしょう。

昆布(ヨウ素)

昆布はヨウ素を非常に多く含むため、毎日大量にとることは避けてください。妊婦のヨウ素の耐容上限量は1日2,000μgとされています[11]。昆布はわずか数グラムでこの量を超えることがあり、とろろ昆布や昆布の佃煮を毎日たっぷり食べる、昆布だしを濃く引いて大量に飲む、といった習慣は見直す価値があります。

ヨウ素は甲状腺ホルモンの材料です。赤ちゃんの甲状腺は妊娠中期ごろから働き始め、母体から届くヨウ素を使ってホルモンを作ります。とりすぎると、逆に甲状腺ホルモンを作る働きが一時的に抑えられることがあり、生まれた赤ちゃんの甲状腺機能低下の原因になることが知られています。日本人はもともと海藻からヨウ素を十分にとっているため、不足よりも過剰に気をつける場面のほうが多くなります。妊娠と甲状腺の関係は妊娠と甲状腺疾患の関係で解説しています。ヨウ素を含むうがい薬の使いすぎも同じ理由で注意が必要です。

5. 妊婦はうなぎを食べていい?一人前・時期・量の目安

妊婦はうなぎを食べても大丈夫です。うなぎの蒲焼を80〜100g食べる場合は、ビタミンAの耐容上限量を単独では超えませんが、1人前の大きさとほかの食品からの摂取量に注意が必要です。避けたいのは、肝吸い・肝焼きなど肝を一緒に食べること、同じ日にレバーやビタミンA入りのサプリを重ねること、うなぎを毎日のように食べ続けることです。「うなぎを食べると奇形になる」という心配は、数字で整理すると過剰であることがわかります。

うなぎ1人前は上限を超える?

うなぎの蒲焼のビタミンAは、100gあたり1,500μgRAEです[7]。うな重1人前のうなぎを仮に100gとすると1,500μgRAE、80gなら1,200μgRAEになります。妊婦の耐容上限量は1日2,700μgRAEなので[11]、この80〜100gの例では単独で上限を超えません。ただし、1人前の大きさは一定ではなく、蒲焼180gで約2,700μgRAEに達します。ほかの食品やサプリからのレチノールも含めて考えてください。耐容上限量は習慣的な摂取量の目安であり、1回超えただけで先天異常が起こるという境界ではありません。

ネット上では「うなぎ1人前で1日の量を大幅に超える」と書かれていることがありますが、これは「推奨量」と「耐容上限量」を取り違えたものです。推奨量は「足りなくならないためにとりたい量」で、耐容上限量よりずっと低い値に設定されています。推奨量を超えることは、すなわち危険という意味ではありません。比べるべきなのは、健康への悪影響のリスクを抑えるための習慣的な摂取量の上限である耐容上限量のほうです。

一方で、うなぎの肝は100gあたり4,400μgRAEです[8]。肝吸いに入る肝は数グラムと少量ですが、肝焼きを1本食べたり、蒲焼に肝吸いと肝焼きを重ねたりすると、合計が上限に近づきます。妊娠中は、うなぎは身だけを楽しみ、肝は控えるのがよいでしょう。ひつまぶしも、うなぎの量としては1人前と同じ考え方で大丈夫です。

初期・中期・後期で考え方は変わる?

ビタミンAの影響を最も受けやすいのは、赤ちゃんの主要な器官が作られる妊娠初期の器官形成期(おおむね妊娠5〜10週、特に早い時期)です(第6章で詳しく説明します)。この時期は、うなぎを食べるとしても80〜100g程度を目安にとどめ、肝やレバーとは重ねないようにしてください。妊娠に気づく前に1人前を食べていたとしても、この量で先天異常のリスクが目に見えて上がるというデータはありません。

妊娠中期・後期になると、体の形づくりはほぼ終わっているため、ビタミンAによる形態異常の心配は小さくなります。「妊娠中期にうなぎ1人前を食べてしまった」「臨月にうなぎを食べた」という場合も、心配する必要はありません。ただし、レチノールは脂溶性で体にためこまれる性質があるため、時期にかかわらず、毎日のように大量に食べ続けることは避けてください。土用の丑の日などに時々80〜100g程度を食べる場合は、ほかの食品からの摂取量も含めて考えてください。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「食べたら奇形」ではなく、量と時期で考える】

うなぎについての不安は、「ビタミンA」「奇形」という言葉だけが一人歩きしているように見えます。医学的には、催奇形性は「何を」だけでなく「どのくらいの量を」「妊娠のどの時期に」で決まるもので、量と時期を抜きにした「危険」「安全」はあまり意味を持たないと考えています。

うなぎの蒲焼80〜100gのビタミンAは、成人の耐容上限量の約4〜6割です。後で述べる研究で問題になったサプリからの摂取量は1日約3,000μg超で、蒲焼100gの約2倍であり、「けた違い」ではありません。数字を知ったうえで、器官形成期は肝やレバーを避け、うなぎは時々楽しむ、という線引きが現実的だと考えています。

6. 遺伝の視点:ビタミンAはなぜ形態異常を起こすのか

ビタミンAが赤ちゃんの形態異常を起こしうるのは、ビタミンAから作られる「レチノイン酸」が、胚の体の設計図を読み出すスイッチの役割をしているからです。必要な栄養素がなぜ「催奇形因子」にもなるのか、その仕組みは発生遺伝学の基本にかかわります。体の形づくりに影響する物質の考え方は催奇形因子(テラトゲン)で解説しています。

レチノイン酸は胚の「位置情報」

体に入ったレチノールは、細胞の中でレチノイン酸に変換されます。主な活性型である全トランス型レチノイン酸は、細胞の核にあるRARに結合します。RARはRXRと二量体(2つの分子の組)を作り、特定の遺伝子のスイッチを入れたり切ったりする働きをします[13]。発生の途中の胚では、レチノイン酸は場所によって濃さが違うように作られ、分解されています。この濃度の差が「ここは頭」「ここは首」「ここは胴体」という位置情報として働き、HOX(ホックス)遺伝子群など体の前後の区画を決める遺伝子の発現を調節しています。詳しくはレチノイン酸(RA)シグナルの解説を参照してください。

レチノイン酸が多すぎると、この位置情報が狂い、本来とは違う場所で違う遺伝子が働いてしまいます。特に影響を受けやすいのが、神経堤細胞と呼ばれる細胞の集団です。神経堤細胞は、胚の背中側から体のあちこちへ移動して、耳・あご・顔の骨、心臓の出口の血管(流出路)、胸腺を支える間葉組織などの形成に関与します。胸腺の上皮そのものは主に内胚葉に由来します。レチノイン酸が過剰になると、この細胞の移動や分化が乱れ、小耳症・小顎症・口蓋裂・心臓の流出路の異常・胸腺の低形成といった、神経堤細胞に由来する部分の異常が起こりやすくなります。

このパターンがはっきり示されたのが、重いにきびの治療薬イソトレチノイン(レチノイン酸の一種)を妊娠初期に服用した例です。1985年の報告では、妊娠初期に服用した例で、頭蓋顔面・心臓・胸腺・中枢神経の異常を組み合わせた特徴的な形態異常が見られ、「レチノイン酸胎芽症」と名づけられました[14]。イソトレチノインは日本では承認されていませんが、海外で処方を受けた場合や個人輸入では、妊娠を考えている時期から注意が必要な薬です。

影響を受けやすい時期

食べ物や薬が赤ちゃんの形づくりに影響するかどうかは、妊娠のどの時期にとったかで大きく変わります。一般に、受精から妊娠3週末までは「全か無かの法則」の時期、妊娠4〜7週は薬の影響を整理するときの「絶対過敏期」、8〜15週は「相対過敏期」、16週以降は形の異常より機能への影響(胎児毒性)が問題になる時期と整理されています[15]。

受精〜妊娠3週末全か無かの法則
▶
妊娠4〜7週絶対過敏期(器官形成期)
▶
妊娠8〜15週相対過敏期
▶
妊娠16週以降胎児毒性が中心

💡 用語解説:全か無かの法則

受精から妊娠3週末ごろまでの胚は、まだ細胞が役割分担をしていない段階です。この時期に強い影響を受けると、胚は着床しないか流産するか(全)、影響を受けた細胞をほかの細胞が補って完全に修復されるか(無)のどちらかになることが多いと考えられています。ただし、物質の種類や作用が続く期間によって例外があり、すべての曝露の安全を保証する法則ではありません。このため、この時期の摂取が形態異常として残ることは少ないとされます。最終月経の開始日を妊娠0週0日として数えるため、妊娠に気づく前の時期にあたります。

ビタミンAについても、この時期の考え方がよく当てはまります。後で紹介する研究では、高用量のビタミンA摂取に伴う形態異常の増加は、妊娠7週より前の摂取に集中していました。ただし、妊娠7週以降なら高用量でも安全という意味ではありません[16]。うなぎやレバーで特に気をつけたいのが妊娠初期、という説明の根拠はここにあります。妊娠週数ごとの影響の詳しい考え方は妊娠中の薬の影響でも解説しています。

食事とサプリ・医薬品の違い

ビタミンAの催奇形性が問題になったのは、主にサプリからの大量摂取です。1995年に発表された米国の研究では、22,748人の妊婦を対象に、妊娠初期のビタミンAの摂取量と赤ちゃんの形態異常の関係が調べられました。その結果、サプリから1日10,000IU(レチノール約3,000μg)を超えてとっていた人では、5,000IU以下の人と比べて、神経堤細胞に由来する異常の有病率比が4.8となり、約57人に1人の赤ちゃんの異常がサプリによるものと推定されました[16]。この研究では1日10,000IU付近に見かけ上の閾値が示されましたが、観察研究の結果であり、個人の安全・危険を分ける確定した境界ではありません。

この「サプリから1日3,000μg超」という量は、食事のうなぎ100g(約1,500μgRAE)の2倍にあたり、しかもそれを妊娠初期に毎日続けた場合の話です。食事からの摂取とサプリからの摂取は分けて考える必要があります。逆にいえば、レバーを毎日食べる、ビタミンAを多く含むサプリを飲みながら肝やレバーも食べる、といった重ね方をすると、食事でもこの量に近づきえます。

妊娠を計画している時期や妊娠初期は、ビタミンAを多く含むサプリの使用は避けるのが基本的な考え方です。妊娠中にサプリを使う場合は、ビタミンAがβカロテンの形か、レチノールの形かを確認してください。βカロテンの形であれば、前述のとおり体内で必要な分だけ変換されるため心配はいりません。

7. 食べてはいけないものを食べてしまったら

一度食べただけで先天異常が起こるわけではない

妊娠に気づく前に生ものやうなぎ、レバーを一度食べてしまったとしても、それだけで赤ちゃんに先天異常が起こるわけではありません。まず知っておきたいのは、食べ物や薬とは関係なく、先天異常は一定の割合で起こるということです。米国疾病予防管理センター(CDC)は、米国では毎年33人に1人の赤ちゃんが先天異常をもって生まれるとしています[17]。日本の妊娠と薬情報センターも、一般的な先天異常の発生率を約3%として、薬を使った妊婦の赤ちゃんの先天異常の頻度と比べています[18]。

この約3%の多くは、染色体の数の変化や遺伝子の変化、原因がわからないものなど、妊娠中の食事とは関係のない理由で起こります。食べてしまったことを考えるときは、「その食品がこの3%をどれだけ上乗せするのか」という見方をすると冷静に整理できます。先天異常の種類や原因の内訳は先天異常とはで詳しく解説しています。

ビタミンAでいえば、問題になったのはサプリから1日3,000μgを超える量を妊娠初期に続けた場合です[16]。うなぎ80〜100gを1回食べただけで、先天異常のリスクが上がるという確立したデータはありません。ただし、レバーは少量でもレチノールが多いため、種類・量・時期を確認せずにリスクを断定することはできません。水銀も1週間単位の目安なので、ある日にキンメダイを食べすぎたら、その後しばらく控えれば十分です。生ハムやナチュラルチーズは、食べたら必ず感染するものではなく、問題になるのはリステリアに汚染されていた場合に限られます。

受診したほうがよい症状

食べてしまった後で気をつけたいのは、食べたこと自体よりも、その後の体の変化です。特にリステリアは、食べてから発症までの期間が数日から数週間と長いことがあり、食べたことを忘れたころに症状が出ることがあります。

⚠️ 産婦人科を受診したほうがよい症状

38℃以上の発熱、悪寒、筋肉痛、頭痛など、インフルエンザに似た症状が出たとき(リステリアの初期症状のことがあります)。嘔吐や下痢が続いて水分がとれないとき。お腹の張りや痛み、出血があるとき。受診の際は、いつ・何を食べたかを伝えてください。リステリア症には抗菌薬による治療があり、早く見つけることが大切です。

症状がなければ、特別な検査をする必要はありません。妊婦健診では、トキソプラズマの抗体検査を行う施設もあります。心配なことは次の健診で相談してください。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「もしかして」を、数字の物差しで測り直す】

妊娠がわかった直後に「気づく前にお酒を飲んだ」「生ハムを食べた」と振り返り、不安になることがあります。臨床遺伝専門医として大切だと考えているのは、一般的な先天異常の頻度が約3%であることを踏まえ、食べたもの・量・時期・感染の有無を個別に評価することです。基礎的な頻度だけでは、特定の曝露によるリスク増加を否定することはできません。

それでも赤ちゃんの状態を確かめたいと考える方には、染色体の数の変化を調べるNIPTや、形の異常を超音波で調べる胎児ドックという方法があります。ただし、食事の影響そのものを調べる検査ではないことも知っておいてください。何がわかり、何がわからないかを理解したうえで選ぶことが大切だと考えています。

心配が残るとき:NIPTと胎児ドックの役割

妊娠中の食事に関係する不安と、出生前検査でわかることは、必ずしも一致しません。NIPT(新型出生前診断)は、母体の血液に含まれる主に胎盤由来のDNAから、ダウン症候群(21トリソミー)などの染色体の数の変化を調べる検査です。染色体の変化の多くは受精卵ができるときに偶然起こるもので、妊娠中に食べたものが原因になることはありません。

一方、ビタミンAの過剰や感染症で起こりうる形の異常は、染色体の検査ではわからず、超音波で赤ちゃんの体の形を詳しく見る胎児ドックの対象になります。先天性の感染症が疑われる場合は、母体の血液検査や、必要に応じて羊水の検査で評価します。どの検査が何を調べるのかを知っておくと、不安の中身に合った方法を選びやすくなります。

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8. 時期別に意識したい栄養

妊娠中に必要なエネルギーは、初期は1日+50kcal、中期は+250kcal、後期は+450kcalが付加量の目安です。日本人の食事摂取基準(2025年版)は、妊娠の時期ごとにこの付加量を示しています[11]。「2人分食べる」必要はなく、中期でもおにぎり1個とヨーグルト程度の上乗せです。時期ごとに意識したい栄養素も変わります。

妊娠初期:葉酸と、食べられるものを食べること

妊娠初期に最も大切なのは葉酸です。妊娠を計画している時期から妊娠初期の女性は、赤ちゃんの神経管閉鎖障害(二分脊椎など)のリスクを下げるために、通常の食事に加えて、サプリなどから葉酸を1日400μgとることが望ましいとされています[11][18]。神経管は妊娠6週ごろまでに閉じるため、妊娠に気づいてからでは間に合わないことがあり、妊娠前から始めることが勧められています。葉酸サプリの選び方や効果は葉酸サプリメントの効果で解説しています。

妊娠初期はつわりで食事が思うようにとれない時期でもあります。妊娠初期も葉酸などの栄養は重要ですが、つわりで食べにくい間は、栄養バランスにこだわるよりも、食べられるものを食べ、水分をとることを優先してください。つわりの時期に食べやすいものはつわり中におすすめの食べ物にまとめています。この時期にレバーで鉄や葉酸を補おうとするのは、ビタミンAの面から勧められません。

妊娠中期:鉄・たんぱく質・カルシウム

妊娠中期になると、赤ちゃんの成長とともに母体の血液の量が大きく増えます。血液の材料になる鉄の必要量が増えるため、妊娠中期以降は鉄欠乏性貧血が起こりやすくなります。赤身の肉や魚、あさり、大豆製品、小松菜などを毎日の食事に取り入れてください。肉や魚の鉄(ヘム鉄)は吸収がよく、野菜の鉄はビタミンCと一緒にとると吸収されやすくなります。健診で貧血を指摘された場合は、食事だけでは追いつかないことも多く、鉄剤が処方されます。

たんぱく質は、赤ちゃんの体や胎盤を作る材料です。食事摂取基準では中期から付加量が設定されており、肉・魚・卵・大豆製品を毎食少しずつとるのが目安です。カルシウムは妊娠中に付加量が設定されていません。妊娠中は腸からのカルシウムの吸収が高まるため、ふだんの推奨量をとっていれば足りると考えられています。ただし日本人の女性はもともとカルシウムの摂取量が少ない傾向にあるため、乳製品や小魚を意識してとるとよいでしょう。

妊娠後期:体重・塩分・血糖

妊娠後期はエネルギーの付加量が最も大きくなる一方で、体重が増えすぎやすい時期でもあります。体重の増え方の目安は妊娠前の体格によって違うため、健診で指摘された目安を参考にしてください。体重の増え方の考え方は妊娠中の体重で解説しています。

後期は妊娠高血圧症候群が起こりやすい時期でもあり、塩分のとりすぎに注意が必要です。だしの風味を活かす、汁物は1日1杯にする、加工食品や外食のスープを残す、といった工夫が役立ちます。また、妊娠中は胎盤から出るホルモンの影響で血糖が上がりやすくなります。甘い飲み物や菓子のとりすぎは、血糖の上昇や過剰な体重増加につながります。ただし、妊娠糖尿病はインスリン抵抗性や分泌能力などが関わる病気で、甘いものを食べたことだけが原因ではありません。間食はとってかまいませんが、果物や乳製品など栄養のあるものを選ぶとよいでしょう。妊娠糖尿病については妊娠糖尿病とはをご覧ください。

便秘しやすい時期の食べ方

妊娠中は、黄体ホルモン(プロゲステロン)の作用で腸の動きがゆっくりになり、後期には大きくなった子宮が腸を圧迫するため、便秘になりやすくなります。鉄剤を飲んでいる場合も便秘の原因になります。ごぼう・さつまいも・きのこ・海藻などの食物繊維の多い食品と、十分な水分をとることが基本です。ヨーグルトなどの発酵食品も、腸内環境を整える助けになります。

食事で改善しないときは、自己判断で市販の下剤を使わず、健診で相談してください。妊娠中にも使える便秘薬があります。妊娠中の便秘の仕組みと対策は妊娠中期の便秘で詳しく解説しています。

9. 飲み物・アルコール・薬について

アルコールは、妊娠中は量にかかわらずゼロにしてください。アルコールは胎盤を自由に通り、赤ちゃんの脳の発達や顔の形に影響する胎児性アルコール・スペクトラム障害の原因になります。安全とされる量は示されていないため、「少しなら大丈夫」という考え方はとれません。妊娠に気づく前に飲んでいた場合の考え方を含め、詳しくは妊娠中のアルコール(胎児性アルコール症候群)で解説しています。

コーヒーや緑茶などのカフェインには、1日の目安量があります。飲み物ごとのカフェイン量や、妊娠中に選びたい飲み物、ハーブティーの注意点は妊娠中におすすめしたい飲み物・注意したい飲み物にまとめています。

薬やサプリについては、この記事で説明したビタミンAのように、成分と時期によって考え方が変わります。市販薬を使ってしまったときの考え方や、週数ごとの影響は妊娠中の薬との付き合い方で解説しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 妊婦ははちみつを食べてもいいですか?

はい、食べても問題ありません。はちみつが注意されるのは、乳児ボツリヌス症の原因になることがある1歳未満の赤ちゃんです。健康な成人の腸では通常、ボツリヌス菌の芽胞が定着して増殖することはありません。妊婦がはちみつを食べることは、赤ちゃんの乳児ボツリヌス症の原因にはなりません。

Q2. マグロの刺身やツナ缶は食べていいですか?

ツナ缶やキハダ・ビンナガ・メジマグロは、水銀について特別な摂取制限はなく、通常の量をバランスよく食べられます。本マグロ(クロマグロ)とメバチは、水銀の目安として1週間に80g(刺身1人前程度)までにしてください。刺身は新鮮でも食中毒や寄生虫のリスクが残るため、妊娠中は十分に加熱した魚を選ぶほうが安全です。

Q3. チーズはどれなら食べていいですか?

プロセスチーズや、中心まで十分に加熱したチーズ(ピザやグラタン)を選ぶとリスクを下げられます。未殺菌乳製のナチュラルチーズは、そのまま食べることを避けてください。殺菌乳使用でも製造後の汚染は起こりうるため、特に軟質のものは十分に加熱するほうが安全です。リステリアは冷蔵庫の中でも増えるため注意が必要です。

Q4. 温泉卵や卵かけご飯は食べていいですか?

生食用の卵でも、賞味期限内・冷蔵保存・殻にひびがないという条件だけでは、サルモネラのリスクをゼロにできません。妊娠中は黄身と白身が固まるまで十分に加熱した卵を選ぶほうが安全です。温泉卵や半熟卵も加熱の程度によってリスクが残ります。賞味期限は生食の期限を示す表示で、妊婦への安全性を保証するものではありません。

Q5. 妊娠中に食べてはいけない果物はありますか?

妊娠中に食べてはいけない果物はありません。マンゴーやパイナップルなども食べられます。ただし果物は糖分を含むため、食べすぎると体重増加や血糖の上昇につながります。ドライフルーツや干し芋も同じで、量を決めて食べるとよいでしょう。

Q6. 妊娠初期にうなぎ1人前とレバーを食べてしまいました。大丈夫ですか?

1回食べただけで先天異常が起こると決まるわけではありません。ただし、レバーの種類と量が不明なため、摂取量やリスクをこの情報だけで断定はできません。妊娠初期の高用量レチノール摂取には注意が必要です。食べた量・時期・サプリの使用を確認し、大量に食べた場合や繰り返し摂取していた場合は産科に相談してください。この先は肝やレバーを控え、レチノール入りのサプリを重ねないようにしてください。

まとめ

妊娠中に避けたいのは、生ハム・加熱せずに食べるナチュラルチーズ(特に未殺菌乳製・軟質のもの)・スモークサーモン・生肉など、リステリアやトキソプラズマが赤ちゃんに感染するおそれのある食品と、アルコールです[1]。量に気をつけたいのは、大型魚の水銀(キンメダイ・メカジキ・本マグロ・メバチは合計週80g程度まで)[2]、レバーやうなぎの肝のビタミンA、ひじきのヒ素、昆布のヨウ素です。刺身や生卵は、鮮度や賞味期限だけで安全とは判断できず、妊娠中は十分に加熱したものを選ぶほうが安全です。うなぎの蒲焼は、量とほかの食品からのビタミンA摂取に注意すれば食べられます。

ビタミンAの催奇形性は、レチノイン酸が胚の位置情報として遺伝子のスイッチを調節していることに由来し、影響は妊娠初期の器官形成期に集中します。高用量摂取のリスクはサプリに限られず、研究ではサプリからの大量摂取との関連が示されており[16]、うなぎ80〜100gは耐容上限量を単独では超えませんが、総摂取量への注意が必要です[7][11]。うっかり食べてしまったときも、先天異常は何もしなくても約3%に起こるという出発点から考え[18]、1回の摂取だけで先天異常が起こると決まるわけではありません。ただし、感染症は無症状のこともあるため、回収対象食品の摂取や生肉の摂取、ビタミンAの大量摂取などが気になる場合は産科に相談してください。

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ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医が常駐し、NIPTの検査前後の遺伝カウンセリングから結果の説明までを行っています。NIPTでわかること・わからないことを理解したうえで、検査を検討されている方はご予約ください。

参考文献

  • [1] リステリアによる食中毒. 厚生労働省. [厚生労働省]
  • [2] 妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項について(平成17年11月2日 食安基発第1102001号). 厚生労働省. [厚生労働省]
  • [3] 妊娠中に注意が必要な食中毒菌がいます(リステリア). 厚生労働省. [厚生労働省検疫所 FORTH]
  • [4] Dunn D, et al. Mother-to-child transmission of toxoplasmosis: risk estimates for clinical counselling. Lancet. 1999;353(9167):1829-1833. doi:10.1016/S0140-6736(98)08220-8. [PubMed 10359407]
  • [5] Damar Çakırca T, et al. Toxoplasmosis: A Timeless Challenge for Pregnancy. Trop Med Infect Dis. 2023;8(1):63. doi:10.3390/tropicalmed8010063. PMID:36668970. [PMC9867407]
  • [6] 生卵の賞味期限について. 食品安全委員会 食品安全総合情報システム. [食品安全委員会]
  • [7] 魚介類/うなぎ/かば焼. 日本食品標準成分表(八訂)増補2023年. 文部科学省 食品成分データベース. [文部科学省]
  • [8] 魚介類/うなぎ/きも/生. 日本食品標準成分表(八訂)増補2023年. 文部科学省 食品成分データベース. [文部科学省]
  • [9] 肉類/にわとり/[副品目]/肝臓/生. 日本食品標準成分表(八訂)増補2023年. 文部科学省 食品成分データベース. [文部科学省]
  • [10] 肉類/ぶた/[副生物]/肝臓/生. 日本食品標準成分表(八訂)増補2023年. 文部科学省 食品成分データベース. [文部科学省]
  • [11] 日本人の食事摂取基準(2025年版)の策定ポイント. 厚生労働省. 2025. [厚生労働省]
  • [12] ひじきに含有されている無機ヒ素について. 食品安全委員会 食品安全総合情報システム. [食品安全委員会]
  • [13] Rhinn M, Dollé P. Retinoic acid signalling during development. Development. 2012;139(5):843-858. doi:10.1242/dev.065938. [PubMed 22318625]
  • [14] Lammer EJ, et al. Retinoic acid embryopathy. N Engl J Med. 1985;313(14):837-841. PMID:3162101. [DOI 10.1056/NEJM198510033131401]
  • [15] 妊娠(胎児発育)の時期と催奇形性における薬剤の胎児への影響と留意点. 塩野義製薬 医療関係者向け情報. [塩野義製薬]
  • [16] Rothman KJ, et al. Teratogenicity of high vitamin A intake. N Engl J Med. 1995;333(21):1369-1373. PMID:7477116. [DOI 10.1056/NEJM199511233332101]
  • [17] Data and Statistics on Birth Defects. Centers for Disease Control and Prevention. [CDC]
  • [18] 妊娠中のお薬Q&A. 国立成育医療研究センター 妊娠と薬情報センター. [国立成育医療研究センター]
  • [19] Dairy and Eggs (Food Safety for Moms-to-Be). U.S. Food and Drug Administration. [FDA]
  • [20] Meat, Poultry & Seafood (Food Safety for Moms-to-Be). U.S. Food and Drug Administration. [FDA]
  • [21] ヒジキに含まれるヒ素の低減に向けた取組. 農林水産省. [農林水産省]
  • [22] ノロウイルスに関するQ&A. 厚生労働省. [厚生労働省]
  • [23] 家庭でできる食中毒予防の6つのポイント. 厚生労働省. [厚生労働省]

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プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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