InstagramInstagram

化学流産を繰り返す原因は?何回続いたら検査?不育症との関係と受けたい検査

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医として遺伝医療に携わっています。

化学流産を繰り返す原因は、1回ずつ見ると、多くが受精卵に偶然起きた染色体の異常だと考えられています。化学流産は健康なカップルでもよく起こる出来事なので、2回続くこと自体は珍しくありません。一方で、日本の「不育症管理に関する提言2025」は、化学流産(生化学的妊娠)を3回以上繰り返す場合に、不育症に準じた原因検索を行うことを推奨しています。この記事では、化学流産を繰り返す原因、流産回数に数えない理由、何回続いたら検査を考えるか、受けたい検査の内容、そして自分でできることを、臨床遺伝専門医の立場から解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約13分
🧬 化学流産・反復・不育症・検査
★ 臨床遺伝専門医監修

Q. 化学流産を繰り返すのはなぜ?何回続いたら検査が必要?

A. 1回ごとの化学流産は、多くが受精卵の偶然の染色体異常によるものと考えられ、2回続くことは珍しくありません。ただし、日本では3回以上繰り返す場合に、子宮の形、甲状腺、抗リン脂質抗体、夫婦の染色体などを調べる「不育症に準じた原因検索」が推奨されています。化学流産は、ご本人の行動や生活が原因で起こるものではありません。

  • ➤主な原因 → 受精卵(胚)の染色体の数の異常が中心。繰り返す場合は子宮・内分泌・免疫・夫婦の染色体も確認する
  • ➤不育症との関係 → 日本では流産回数に数えないが、3回以上なら不育症に準じて原因を調べる
  • ➤受けたい検査 → 子宮形態・抗リン脂質抗体・甲状腺機能・夫婦染色体など
  • ➤防げるか → 1回ごとの化学流産を防ぐ方法は確立していない。できるのは原因を調べることと体調を整えること

1. 化学流産を繰り返すのはなぜ?まず知っておきたい前提

化学流産を繰り返す理由を考える前に、化学流産がどのような状態で、どのくらいの頻度で起こるものなのかを押さえておく必要があります。「何度も起きるのは自分の体に問題があるからではないか」と感じる方は少なくありませんが、化学流産はもともと起こりやすい出来事であり、回数だけで原因を決めることはできません。

化学流産を繰り返して悩む女性

化学流産(生化学的妊娠)とは

化学流産とは、尿や血液の検査で妊娠反応が一時的に陽性になったものの、超音波検査で胎嚢(赤ちゃんを包む袋)が見える段階に至らずに妊娠が終わる状態です。医学的には「生化学的妊娠」と呼ばれます。日本産婦人科医会の研修ノートは、hCGが一時的に検出されたあと、胎嚢を認める段階に至らず妊娠が終結してhCGが陰性化する状態と説明しています[1]。

妊娠検査薬が反応するのは、受精卵が子宮内膜に着床したあとにhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)というホルモンがつくられるためです。つまり化学流産は「着床はしたものの、その後の発育が続かなかった」状態と考えられます。多くは生理と同じ時期か少し遅れて出血があり、生理が少し遅れただけと区別がつかないこともあります。

日本では、生化学的妊娠を妊娠の回数にも流産の回数にも含めていません[2]。化学流産の症状や見分け方の基本は、化学流産とは?気がつくきっかけで詳しく解説しています。

💡 用語解説:hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)

hCGは、着床した受精卵の周りの組織(のちに胎盤になる部分)からつくられるホルモンです。市販の妊娠検査薬は、尿中のhCGを検出して陽性・陰性を判定します。hCGがいったん検出されても胎嚢が確認されないまま値が下がっていく場合に、化学流産(生化学的妊娠)と判断されます。

化学流産はよく起こる

化学流産は、異常のない若く健康なカップルでも30〜40%に起こるとされる、頻度の高い現象です[1]。この頻度は、検査の感度や調べる対象によって値が変わります。

米国で221人の女性の尿を毎日調べ、ごく微量のhCGまで検出した研究では、着床後に確認された妊娠198件のうち22%が、臨床的に妊娠と気づかれる前に終わっていました。着床後の妊娠喪失は、臨床的な流産を含めて全体で31%でした[3]。以前は気づかれずに過ぎていた妊娠の終わりが、感度の高い検査で見えるようになったとも言えます。

現在の市販の妊娠検査薬は感度が高く、生理予定日の前後に使うと、この「気づかれなかったかもしれない妊娠」が陽性として見えることがあります。化学流産の発生確率そのものについては、化学流産の確率で詳しく扱っています。

偶然が重なって2回続くこともある

化学流産はもともと起こりやすい出来事なので、原因となる病気がなくても、偶然が重なって2回続くことがあります。1回ごとの化学流産の多くは、その時々の受精卵の状態で決まると考えられており、前回と今回は別々の出来事として起きている場合が少なくありません。

「2回連続する確率は何%か」という質問をよくいただきますが、個人ごとの確率として示せる信頼できる数値は、現時点では確認できません。年齢、妊娠を試みている期間、体外受精かどうか、妊娠検査薬を使う時期などで、化学流産に気づく頻度そのものが大きく変わるためです。

参考になるデータとして、原因不明の反復流産の女性587人を調べた研究では、紹介される前の妊娠のうち37%が、胎嚢が確認されないまま終わった妊娠でした[4]。化学流産が何度も起こることは、流産を繰り返す方にとって珍しくない経過であることがわかります。

2. 化学流産を繰り返す原因

化学流産の原因は、大きく「受精卵(胚)側の要因」と「母体・夫婦側の要因」に分けて考えます。1回ごとの化学流産では胚側の要因が中心と考えられていますが、繰り返す場合には、子宮、ホルモン、免疫、血液の固まりやすさ、夫婦の染色体といった要因が関わっていないかを確認します。

なお、化学流産では流産した組織を採取して調べることが通常できません。そのため、化学流産そのものの染色体を直接調べたデータは限られており、以下の原因の多くは、妊娠初期の流産や体外受精の胚の研究から推定されたものです。

受精卵(胚)側の原因:染色体の数の異常と年齢

化学流産の主な原因は、受精卵の染色体の数の異常(異数性)と考えられています。日本産科婦人科学会によると、妊娠12週未満の流産組織の染色体を調べると約80%に異常が見つかり、そのほとんどは偶然の出来事です[2]。化学流産はそれよりさらに早い時期の妊娠の終わりなので、同様に胚の染色体の異常が大きく関わっていると考えられます。

染色体の数の異常は、卵子や精子がつくられる減数分裂のときに染色体がうまく分かれない(染色体不分離)ことで起こります。体外受精の胚15,169個を調べた研究では、異数性の割合が最も低かったのは女性が26〜30歳のときで、それより年齢が上がるにつれて増えていました。23歳以下でも40%を超える胚に異数性があり、若い年齢でも一定の割合で起こります[5]。

このことから、「30代前半なら着床の問題、30代後半なら卵子の問題」といった年齢による単純な切り分けはできません。胚の染色体の異常はどの年齢でも起こり、年齢とともに増えていく、という理解が正確です。卵子で異数性が起こる仕組みは、なぜ卵子で染色体異常(異数性)が起こるのかで解説しています。

💡 用語解説:異数性(いすうせい)

ヒトの細胞には通常46本の染色体があります。異数性とは、特定の染色体が1本多い(トリソミー)、または1本少ない(モノソミー)など、染色体の数が正常とは異なる状態です。異数性のある胚の多くは発育を続けることができず、着床しない、化学流産になる、流産になるといった経過をたどります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「私の体のせい」と決めつけないでほしい理由】

化学流産が続くと、自分の体のどこかが悪いのではないかと考えがちです。しかし、臨床遺伝専門医として染色体の側から見ると、胚の染色体の数の異常は減数分裂の過程で一定の割合で起こるもので、ご本人の行動や生活で防げるものではありません。

そのうえで、繰り返す場合には母体や夫婦の側に見つけられる要因がないかを調べる意味がある、というのが私の考えです。「偶然が重なっただけ」と「調べる価値がある」は両立します。この2つを分けて整理することが、次の妊娠に向けて冷静に判断するための土台になると考えています。

夫婦どちらかの染色体の構造異常(均衡型転座)

夫婦のどちらかが、染色体の一部が入れ替わった「均衡型転座」を持っている場合、染色体の量に過不足がある受精卵ができやすくなり、流産を繰り返す原因になることがあります。均衡型転座を持つご本人は、染色体の総量が保たれているため、通常は健康に過ごしており、自覚することはありません。

日本の不育症カップルのリスク因子の調査では、夫婦の染色体構造異常は3.7%でした[6]。頻度は高くありませんが、見つかった場合には次の妊娠の考え方が変わるため、不育症の検査では推奨検査の一つに位置づけられています。一方、欧州生殖医学会(ESHRE)のガイドラインは、夫婦の核型検査をすべての方にルーチンで行うことは推奨せず、個別にリスクを評価したうえで行えるとしており[7]、国によって考え方に違いがあります。

化学流産の反復と均衡型転座の関係を直接示した日本のデータは確認できていないため、ここでは不育症に準じた検査の一つとして紹介します。転座の仕組みは染色体の均衡型構造異常、流産との関係は不育症の原因になる染色体異常で詳しく解説しています。

💡 用語解説:均衡型転座(きんこうがたてんざ)

2本の染色体の一部が切れて入れ替わっているものの、遺伝情報の総量には過不足がない状態です。ご本人には通常症状がありませんが、卵子や精子がつくられるときに、入れ替わった部分の組み合わせによって染色体の一部が多すぎたり少なすぎたりする配偶子ができることがあり、その受精卵は流産しやすくなります。

子宮側の原因:子宮形態異常・筋腫・ポリープ・子宮内癒着・慢性子宮内膜炎

子宮の形や内膜の状態が、着床やその後の発育に影響する場合があります。日本の不育症のリスク因子の調査では子宮形態異常が7.9%で、3D超音波による子宮形態の検査が推奨検査とされています[6]。子宮の中に仕切りがある中隔子宮などが代表的で、詳しくは子宮奇形で解説しています。

子宮の内側に向かって突き出す子宮筋腫や子宮内膜ポリープ、手術などのあとに内膜どうしがくっつく子宮内癒着も、着床の環境に影響しうる病気として挙げられます。ただし、これらが化学流産の反復を起こすという直接の根拠は十分ではなく、見つかった場合に治療するかどうかは個別に判断されます。

子宮内膜に慢性の炎症がある慢性子宮内膜炎は、次の妊娠で流産しやすいとの報告があり、抗菌薬による治療で生産率が上がるとする報告もあります。しかし提言2025では「研究的検査」の位置づけで、ランダム化比較試験による確認が必要とされています[6]。ESHREの2022年版ガイドラインも、エビデンスは限られているとしています[8]。

また、子宮内膜が受精卵を受け入れやすい時期(いわゆる着床の窓)がずれているという考え方もあります。しかし、染色体が正常な胚を移植する際に子宮内膜の受容能検査で移植日を調整しても、標準的な日程との間で生児出産率に差はなかった(58.5%対61.9%)とする多施設のランダム化比較試験があり[9]、化学流産の原因として確立したものではありません。

内分泌・免疫・凝固の要因:甲状腺機能、抗リン脂質抗体など

ホルモンの異常、免疫の異常、血液の固まりやすさの異常も、流産を繰り返す要因として調べられます。日本の不育症のリスク因子の頻度は、甲状腺機能異常9.5%(うち甲状腺機能低下症7.9%)、抗リン脂質抗体陽性8.7%、第XII因子欠乏症7.6%、プロテインS欠乏症4.3%と報告されています[6]。一方で、リスク因子が見つからないケースが65.1%を占めています[6]。

甲状腺ホルモンは妊娠の維持に関わっており、TSH(甲状腺刺激ホルモン)とfT4(遊離サイロキシン)の検査が推奨されています。妊娠と甲状腺の関係は妊娠と甲状腺疾患の関係で解説しています。

抗リン脂質抗体は、血栓(血の塊)をつくりやすくする自己抗体で、胎盤の血流に影響して流死産の原因になることがあるため、推奨検査に含まれます。第XII因子やプロテインSといった凝固に関わる因子は選択的検査の扱いです。ESHREの2022年版は、遺伝性の血栓性素因をルーチンで調べることは推奨していません[8]。

💡 用語解説:抗リン脂質抗体

細胞膜の成分であるリン脂質や、それに結合するタンパク質に対してつくられる自己抗体の総称です。この抗体が持続して陽性で、血栓症や流死産などの症状を伴う状態を抗リン脂質抗体症候群といいます。一度の検査で陽性でも、時間をおいて再検査して持続しているかを確認することが一般的です。

体外受精で化学流産が続くとき(着床障害との関係)

体外受精では妊娠判定を早い時期に血液検査で行うため、自然妊娠では気づかれないような化学流産もわかります。体外受精における化学流産の頻度は、単一胚移植の研究で8.1%、凍結胚移植の研究では妊娠の18.4%など、報告によって幅があります[10]。化学流産の正確な原因は明らかではなく、次の周期で修正できる確立した予測因子もありません。凍結胚移植の研究では、女性の年齢上昇が化学流産率の上昇と関連していました[10]。

胚の染色体の数を移植前に調べるPGT-A(着床前胚染色体異数性検査)について、日本産科婦人科学会の見解(2026年5月7日改定)では、体外受精で2回以上妊娠に至らなかった反復着床不全のカップルや、流産を2回以上繰り返した不育症のカップルなどが対象とされています[11]。化学流産がこの回数にどう数えられるかは見解からは読み取れないため、対象になるかどうかは主治医や実施施設に確認してください。

体外受精で化学流産が続く場合、胚側の要因と、着床する子宮側の要因の両方を考える必要があります。胚の染色体を調べても、子宮側の要因や、検査で調べきれない要因は残るため、PGT-Aだけですべてが解決するわけではありません。

3. 化学流産を繰り返すと不育症?流産回数に数える?

化学流産を繰り返していると、「自分は不育症なのでは」と心配になる方が多くいます。ここでは、日本と海外での数え方の違いと、不育症の診断との関係を整理します。

日本では流産回数に数えない

結論から言うと、日本では化学流産(生化学的妊娠)は流産の回数に数えません。提言2025は、不育症を「流産あるいは死産が2回以上ある状態」と定義し、生児がいるかどうかは問わず、流産や死産が連続していなくてもよいとしています。そのうえで「生化学的妊娠も流産回数には算定しない」と明記しています[6]。

したがって、化学流産を何度繰り返しても、それだけで「不育症」という診断名がつくことはありません。日本産婦人科医会の研修ノートも、生化学的妊娠は流産回数に含めないとし、米国生殖医学会も同様の立場であると紹介しています[1]。

ただし、診断名がつかないことと、調べる意味がないことは同じではありません。提言2025は、生化学的妊娠を3回以上繰り返す場合を「反復生化学的妊娠(流産)」とし、不育症に準じた原因検索を行うことを推奨しています[6]。この点は第4章で詳しく説明します。

海外(ESHRE)との違い

欧州生殖医学会(ESHRE)は、化学流産も妊娠喪失として数える立場をとっています。ESHREのガイドラインは、妊娠喪失を「受精の時点から妊娠24週までのすべての喪失」と定義し、2回以上の喪失で反復妊娠喪失の診断を考慮できるとしています[7]。日本の不育症研究班も、欧州生殖医学会は生化学的妊娠を流産回数に含めるとした一方、日本とアメリカでは流産としていないと説明しています[12]。

ESHREの2022年版ガイドラインは、反復妊娠喪失の統一された定義がないこと自体を、この分野の大きな課題に挙げています[8]。数え方は国際的にもまだ揃っていないのが現状です。

不育症の定義や、何回流産したら不育症と考えるかについては、不育症とはで、国内外の違いも含めて詳しく解説しています。

それでも受診時に伝えたほうがよい理由

化学流産は流産回数に数えませんが、産婦人科を受診するときには、化学流産を繰り返していることを医師に伝えておくことをおすすめします。回数に数えないのは定義上の取り決めであり、化学流産の経過が医学的に無意味だということではないためです。

原因不明の反復流産の女性を対象にしたESHREの研究グループの報告では、胎嚢が確認されないまま終わった妊娠が1回増えるごとに、次の妊娠で出産に至る可能性が下がっていました(相対リスク0.90)。その影響の大きさは、臨床的な流産1回ごとの影響(相対リスク0.87)とほぼ同程度でした[4]。

この結果は、すでに流産を繰り返している方を対象にしたもので、化学流産を経験したすべての方に当てはまるわけではありません。それでも、化学流産の回数や時期は、主治医が検査の必要性を判断するための材料になります。妊娠検査薬で陽性になった日、出血が始まった日などを記録しておくと、受診時に正確に伝えられます。

4. 何回続いたら検査?受けたい検査

検査を考える目安は、日本では「化学流産を3回以上繰り返したとき」です。ここで押さえておきたいのは、原因を調べることと、治療を始めることは別の話だという点です。日本産婦人科医会の研修ノートは、反復する生化学的妊娠の原因は解明されておらず確立した治療法もないため、不育症の患者と同様の治療を行うことは慎むべきだとしています[1]。検査は、見つけられる要因がないかを確認するために行います。

検査を考える目安

提言2025は、生化学的妊娠を3回以上繰り返す場合に、不育症に準じた原因検索を行うことを推奨しています[6]。2回までであれば、偶然が重なった可能性も十分にあり、すぐに検査が必要とは限りません。

化学流産1回よく起こる出来事
▶
2回続いた偶然の重なりもありうる
▶
3回以上反復生化学的妊娠
▶
原因検索不育症に準じた検査

一方で、2回であっても、年齢が高い方、妊娠を試みている期間が長い方、体外受精を受けている方などは、次の妊娠までの時間をどう使うかという観点から、主治医と早めに相談してよい状況です。これは提言で示された回数の基準ではなく、個別の事情に応じた判断です。

また、臨床的な流産(胎嚢が確認されたあとの流産)が2回以上ある方は、化学流産の回数にかかわらず不育症の定義に当てはまります[6]。その場合は、不育症として検査を受けることになります。

不育症に準じた検査の一覧

不育症に準じた原因検索では、提言2025で推奨検査とされている項目を中心に調べます[6]。選択的検査は、推奨検査の結果や個別の状況に応じて追加される項目です。

🔬 不育症に準じた原因検索の主な検査(提言2025)

区分 検査 調べていること
推奨検査 子宮形態検査(3D超音波) 中隔子宮など子宮の形の異常
推奨検査 抗リン脂質抗体 血栓をつくりやすくする自己抗体
推奨検査 夫婦染色体検査 均衡型転座などの染色体の構造異常
推奨検査 内分泌検査(TSH・fT4) 甲状腺機能の異常
選択的検査 MRI・子宮鏡/プロテインS・第XII因子/抗PE抗体・抗PS/PT抗体・ネオセルフ抗体/抗TPO抗体 子宮の詳しい評価、凝固因子、免疫の異常など
研究的検査 慢性子宮内膜炎の検査 子宮内膜の慢性的な炎症

※区分は不育症管理に関する提言2025[6]による。流産した組織の染色体検査も推奨検査に含まれますが、化学流産では組織を採取できないため、通常は対象になりません。

これらの検査の多くは、不育症を診療する産婦人科で行われます。結果によっては、治療の対象になるものと、経過をみるものがあります。

夫婦の染色体検査と遺伝カウンセリング

夫婦の染色体検査は、結果がご本人だけでなく、ご家族や将来の妊娠にも関わる検査です。そのため提言2025は、検査前に個々のリスクを評価して適応を判断し、夫婦双方に十分な遺伝カウンセリングを行い、同意が得られた場合に検査を行うべきだとしています[6]。

遺伝カウンセリングでは、染色体の構造異常が見つかった場合について、保因者ご本人への影響、流産や正常児・異常児を出産する可能性、生まれてくるお子さんが保因者になる可能性、きょうだいなど血縁者への影響、今後の妊娠への対応などを説明する必要があるとされています[6]。検査を受ける前にこうした情報を知っておくことで、結果を受け止めやすくなります。

均衡型転座が見つかった場合の選択肢の一つに、受精卵の染色体の構造を調べるPGT-SR(着床前胚染色体構造異常検査)があります。染色体検査の方法は染色体検査(Gバンド法)で、遺伝カウンセリングの内容は遺伝カウンセリングとはで解説しています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【染色体検査の前に考えておきたいこと】

夫婦の染色体検査は採血だけで受けられますが、結果が持つ意味は小さくありません。転座が見つかれば、どちらが保因者なのかがわかり、ご本人のきょうだいにも同じ転座がある可能性が出てきます。

そのため、検査の前に「見つかった場合にどうするか」「知ったことを誰とどこまで共有するか」まで話し合っておくことが大切だと考えています。臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングは、そうした点を検査前に整理するためにあります。

\ 染色体検査の前に遺伝カウンセリングを受けたい方へ /

📅 遺伝カウンセリングを予約する

お問い合わせはこちら | 不育症の原因になる染色体異常

5. 化学流産を繰り返すときにできること

化学流産を繰り返しているときにできることは、「防ぐ」ことよりも、「原因を調べる」「体調を整える」「気持ちの負担を減らす」ことが中心になります。ここでは、よく聞かれる疑問に順に答えていきます。

産婦人科で相談する女性

化学流産は防げる?

1回ごとの化学流産を確実に防ぐ方法は、現時点では確立していません。日本産婦人科医会の研修ノートも、反復する生化学的妊娠の原因は解明されておらず、確立した治療法はないとしています[1]。胚の染色体の数の異常は受精の時点で決まっていることが多く、妊娠がわかってから生活を変えても結果は変わりません。

一方で、繰り返す場合には、第4章で紹介した原因検索によって、子宮形態の異常、甲状腺機能の異常、抗リン脂質抗体など、対応できる要因が見つかることがあります。できることは、「見つけられる要因を探すこと」と「全身の健康状態を整えること」の2つです。

甲状腺の病気や糖尿病など、もともと持病がある方は、妊娠前から治療を受けて状態を安定させておくことが、妊娠の経過にとって基本になります。喫煙や過度の飲酒を控える、適正体重を保つといった一般的な健康管理も、化学流産を直接防ぐ方法ではありませんが、妊娠全体に関わることです。

フライング検査との付き合い方

妊娠検査薬は、一般に生理予定日の約1週間後から使うように作られています。それより早く使う「フライング検査」をすると、以前なら生理が少し遅れただけで終わっていた妊娠まで、陽性として見えることがあります。

フライング検査をしても、化学流産が起こるかどうかは変わりません。変わるのは「化学流産に気づくかどうか」です。陽性を確認したあとに生理のような出血が来る経験を繰り返すと、そのたびに期待と落胆を行き来することになり、精神的な負担が大きくなります。

とくに不妊治療中の方は早く結果を知りたくなるものですが、気持ちの負担が大きいと感じる場合には、決められた時期まで検査を待つことも一つの方法です。どの時期にどのくらい反応が出るかは、妊娠検査薬のフライング検査で解説しています。

心のケア(グリーフケア)とパートナーとの支え合い

化学流産は流産回数に数えられなくても、妊娠がわかったあとに失うという点では、ほかの流産と変わらない喪失の体験です。日本産婦人科医会の研修ノートは、反復する生化学的妊娠では、精神的支援を重視した臨床的な対応が重要だとしています[1]。

「ストレスが原因で化学流産したのではないか」と心配される方もいますが、ESHREのガイドラインは、ストレスは反復妊娠喪失と関連するものの、ストレスが妊娠喪失の直接の原因であるという証拠はないとしています[8]。ストレスと流産の関係はストレスは流産の原因になる?で解説しています。

喪失による悲しみを抱えた方が気持ちを整理できるよう支える取り組みを、グリーフケアといいます。具体的には、気持ちの整理、悲しみへの対処、心の症状の評価、夫婦や家族の関係の調整、次の妊娠への希望と不安への対応、必要に応じた精神科などとの連携が含まれます。厚生労働省は2021年に、流産や死産を経験した女性も母子保健の支援の対象であることを自治体に示し、不妊専門相談センターでのグリーフケアの相談などを挙げています[13]。都道府県ごとの相談窓口は、こども家庭庁のページで確認できます[14]。

化学流産が続くと、パートナーとの間で気持ちの受け止め方に差が出ることもあります。つらさの感じ方は人それぞれで、どちらかが正しいわけではありません。記録を一緒につける、受診に一緒に行くなど、同じ情報を共有しておくと、次の妊娠についての話し合いも進めやすくなります。

「化学流産と言われたが持ち直した」ケースについて

妊娠検査薬の反応が薄い、hCGの値の上がり方が遅いといった理由で化学流産を心配されたあと、胎嚢が確認されて妊娠が続く経過もあります。妊娠のごく初期にはhCGの値に個人差があり、1回の検査だけで結果を判断することはできないためです。

ただし、「化学流産かもしれない」という段階では、経過をみる以外に妊娠の継続を助ける方法はありません。持ち直すかどうかは、その妊娠の受精卵の状態によるところが大きく、ご本人の行動で左右されるものではありません。化学流産かと思ったら継続したケースの見分け方は、化学流産の症状と出血、継続したケースで詳しく解説しています。

⚠ 受診を急いだほうがよいサイン

妊娠反応が陽性のまま胎嚢が確認できない場合は、子宮外妊娠(異所性妊娠)との見分けが必要になることがあります。hCGがなかなか下がらない、強い下腹部痛がある、出血が多い、めまいや気分の悪さがあるといった場合は、自己判断で様子をみずに早めに産婦人科を受診してください。子宮外妊娠については子宮外妊娠の原因や症状で解説しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 化学流産は流産回数・妊娠回数に含まれますか?

日本では、化学流産(生化学的妊娠)は流産回数にも妊娠回数にも含めません。欧州生殖医学会(ESHRE)は受精から妊娠24週までのすべての喪失を数える立場で、国によって扱いが異なります。

Q2. 化学流産が2回続いたら異常ですか?

2回続くこと自体は珍しくなく、偶然が重なった可能性も十分にあります。日本の提言では、3回以上繰り返す場合に不育症に準じた原因検索が推奨されています。年齢や不妊期間などによっては、2回でも主治医と相談してかまいません。

Q3. 化学流産を繰り返すと次の妊娠に影響しますか?

体外受精で1回化学流産した方は、妊娠反応が出なかった方より次の周期で継続妊娠に至った割合が高かったという報告があります。一方、流産を繰り返している方では、胎嚢が確認されない妊娠喪失が増えるほど次の出産率が下がるという報告もあり、影響は状況によって異なります。

Q4. 化学流産を繰り返すのは不妊症ですか?

化学流産は着床してhCGがつくられた状態なので、妊娠そのものが成立しない不妊症とは別のものです。ただし、避妊をせずに一定期間(日本では1年が一般的)妊娠に至らない場合は、化学流産の有無にかかわらず不妊症の検査が勧められます。

Q5. 化学流産を防ぐ方法はありますか?

1回ごとの化学流産を確実に防ぐ方法は確立していません。多くは受精卵の染色体の偶然の異常によるもので、ご本人の行動で防げるものではありません。繰り返す場合は、原因検索で対応できる要因が見つかることがあります。

Q3の根拠は、体外受精での報告[10]と、反復流産の女性を対象にした報告[4]です。不妊症の原因や検査の流れは不妊症の原因、化学流産のあと妊娠検査薬がいつまで陽性になるかは化学流産はいつまで陽性?で解説しています。

まとめ

化学流産は、健康なカップルでも30〜40%に起こるとされる頻度の高い出来事です[1]。1回ごとの原因は、多くが受精卵の偶然の染色体異常と考えられ、2回続くことも珍しくありません。日本では流産回数に数えないため、化学流産だけで不育症と診断されることはありません。

一方で、3回以上繰り返す場合には、不育症に準じた原因検索が推奨されています[6]。子宮形態、抗リン脂質抗体、甲状腺機能、夫婦の染色体などを調べ、対応できる要因がないかを確認します。夫婦の染色体検査は、結果がご家族や将来の妊娠にも関わるため、検査前の遺伝カウンセリングが求められています。化学流産を確実に防ぐ方法はなく、ご本人の行動や生活が原因ではないことも、あわせて知っておいてください。

📘 夫婦の染色体検査・遺伝カウンセリングをお考えの方へ

ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医が、不育症の原因検索としての夫婦の染色体検査(Gバンド法)と、その前後の遺伝カウンセリングを行っています。抗リン脂質抗体や子宮形態などの検査は、不育症を診療する産婦人科での実施となります。検査の対象や結果の意味を確認したうえで、次の妊娠に向けた方針を選んでいただけるよう説明します。

参考文献

  • [1] 生化学的妊娠(Biochemical pregnancy)の扱い方. 研修ノート. 日本産婦人科医会. [日本産婦人科医会]
  • [2] 流産・切迫流産. 日本産科婦人科学会. [日本産科婦人科学会]
  • [3] Incidence of early loss of pregnancy. N Engl J Med. 1988;319(4):189-194. [PubMed 3393170]
  • [4] Non-visualized pregnancy losses are prognostically important for unexplained recurrent miscarriage. Hum Reprod. 2014;29(5):931-937. [PubMed 24603132]
  • [5] The nature of aneuploidy with increasing age of the female partner: a review of 15,169 consecutive trophectoderm biopsies evaluated with comprehensive chromosomal screening. Fertil Steril. 2014;101(3):656-663.e1. [PubMed 24355045]
  • [6] 「不育症管理に関する提言」改訂委員会. 不育症管理に関する提言2025(令和7年5月13日). [こども家庭庁]
  • [7] ESHRE guideline: recurrent pregnancy loss. Hum Reprod Open. 2018;2018(2):hoy004. [DOI 10.1093/hropen/hoy004]
  • [8] ESHRE guideline: recurrent pregnancy loss: an update in 2022. Hum Reprod Open. 2023;2023(1):hoad002. [DOI 10.1093/hropen/hoad002]
  • [9] Effect of timing by endometrial receptivity testing vs standard timing of frozen embryo transfer on live birth in patients undergoing in vitro fertilization: a randomized clinical trial. JAMA. 2022;328(21):2117-2125. [DOI 10.1001/jama.2022.20438]
  • [10] Biochemical pregnancy during assisted conception: a little bit pregnant. J Clin Med Res. 2013;5(4):269-274. [PubMed 23864915]
  • [11] 「不妊症および不育症を対象とした着床前遺伝学的検査(PGT-A・SR)」に関する見解. 日本産科婦人科学会. [日本産科婦人科学会]
  • [12] 不育症Q&A No.3. 不育症研究班(厚生労働科学研究班・日本医療研究開発機構 齋藤班). [不育症研究班]
  • [13] 流産や死産を経験した女性等への心理社会的支援等について(情報提供). 厚生労働省子ども家庭局母子保健課 事務連絡(令和3年5月31日). [PDF]
  • [14] 流産・死産等を経験された方へ. こども家庭庁. [こども家庭庁]

関連記事

プロフィール
仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、
臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。
のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、
検査結果の数値そのものだけでなく、
「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、
一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、
日本人として異文化の中で生活した経験があります。
価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。
この経験は現在の診療においても、
「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、
36週6日で一人を死産した経験があります。
その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、
そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。
現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、
出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、
家族の未来に関わる重要な意思決定です。
年齢や統計だけで判断するのではなく、
医学的根拠と心理的支援の両面から、
ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/
日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。

2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、
複数の海外メディア・専門誌で特集掲載
されました。

関連記事