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ママの出産年齢の高齢化によりダウン症をはじめとする赤ちゃんの異常が多くなるという影響が注目されています。しかし、パパとなる男性の高齢化もすすんでいる現在、父親の高齢化が妊娠や胎児に与える影響についての不安が広まっています。
この記事では父親の高齢化がお子さんやお孫さんに与える影響についてご説明したいと思います。
パパの高齢による遺伝的変化と胎児の病気
父親の年齢が上がることでいくつか遺伝的リスクが増加します。その原因となる可能性のあるメカニズムとしては、父親の年齢が上がると、精子のDNAに点突然変異が増えたり、染色体がコピーされるのに必要なテロメアの長さが短くなっていたり、de novo突然変異(新生突然変異)がおこったり、染色体構造が異常になったり、アポトーシス、エピジェネティックな因子が変化していたり、ということが考えらえています。
卵子に比べて圧倒的に多い精子ができるまでの分裂回数
成熟卵子になるまでの間に23回の細胞分裂に限定される卵子形成とは対照的に、精子形成は男性の生涯を通じて継続する。15歳で思春期を迎えたと仮定した場合、70歳の男性の精子は約1300回の分裂を経ていると推定されています。
成人男性の生殖細胞は、成人女性の生殖細胞よりも多くの有糸分裂を経ているため、コピーするときの塩基配列の書き間違いによるゲノムのエラーが発生する可能性が高くなります。
精子には細胞質がないためDNA修復酵素がない
遺伝的エラーのその他の原因として考えられるのは、精液や精子中の抗酸化酵素の活性が低下しているため、精子が突然変異の変化を受けやすくなっていることがまず考えられます。また、精子は成熟するにつれて細胞質がなくなってしまい、最終的には染色体とほんの少しの細胞質になってしまうのですが、細胞質の中にはDNA修復酵素が含まれており、細胞質がないため精子はDNA修復システムを持たないことが考えられます。
異数性ではない染色体異常も、45歳から59歳以上の男性に多く見られるようです。
さらに、年齢が上がると、カドミウムや鉛などの環境有害物質やその他の有害物質、電離放射線や非電離放射線への暴露が増加します。複数の研究により、これらの暴露が精巣の健康と機能の低下に直接・間接的な影響を与えることが報告されています。
父親の年齢が高くなると常染色体優性遺伝性疾患が増える
父親の年齢が高くなると、子孫に先天性異常をもたらす可能性のある常染色体優性の新生突然変異が増加します。例えば以下のような疾患たちです。
- 軟骨無形成症
- Apert症候群
- Waardenburg症候群
- Crouzon症候群
- Pfeiffer症候群
- Marfan症候群
常染色体優性疾患の子孫のリスクは、父方の年齢が上がるにつれて指数関数的に上昇します。常染色体優性遺伝性疾患は稀であるため、個々の特定の疾患の実際のリスクは小さいのですが、ある研究報告では、さまざまな年齢の父親から常染色体優性疾患の子孫が生まれる全体的な頻度を計算したところ、40歳以上の父親から生まれた子どもが、新たな突然変異(新生突然変異)によって常染色体優性遺伝性疾患を発症する頻度は、0.3~0.5%でした。このリスクは、35歳から40歳の母親の子孫におけるダウン症のリスクと同程度の大きさです。
いくつかの疾患は新型出生前診断(NIPT)で可能となっています。
パパの年齢が上がるとともに増えるX連鎖疾患
X連鎖遺伝性疾患の自然発生的な生殖細胞変異もまた、父親の年齢が高くなるほど多くなると言われています。これらの突然変異は、キャリア(保因者)の娘から男性の孫に伝わり発症するため、そのため “祖父効果”と呼ばれています。
このような疾患の例としては、血友病Aやデュシェンヌ型筋ジストロフィーなどがあります。
父親の年齢が上がると増える染色体異数性
胎児の常染色体異数性のリスクは、父親の年齢が上がるにつれて増加するのですが、増加の程度は母親の年齢が上がることで見られるものほど大きくはありません。21トリソミーの子供が1人いる200家族を対象としたDNA調査では、トリソミーの約5%が父方に由来するものでした。その後、ドナー卵子を用いて受精した胚を対象とした研究では、母体の年齢調整した結果、50歳以上の男性の胚は、39歳以下の男性や40~49歳の男性に比べて、損傷したDNAを持つ精子が多く、胚盤胞の発育不全率が高く、染色体異数性率も高いことがわかりました。
パパの年齢が上がるとともに増える先天性異常や先天性疾患
父親の年齢が高くなると以下のようないくつかの先天性異常が増加することが報告されており、de novo(新生)の突然変異が原因である可能性が示唆されています。
- 神経管欠損症
- 先天性心疾患
- 四肢欠損症
- ウィルムス腫瘍
500万人以上の出生児を対象としたレトロスペクティブコホート研究では、1.5%に先天性異常がありました。父親の年齢で層別すると、25~29歳の父親と比較して、30~35歳、40~44歳、45~49歳、50歳以上の父親から生まれた乳児の先天性異常の調整オッズ比は、それぞれ1.04、1.08、1.08、1.15でした。これらのデータは、高齢の父親から生まれた乳児が先天性異常のリスクをわずかに増加させることを示唆しています。
パパの高齢化と妊娠への影響
父親の年齢が上がると妊娠に影響があることを示唆する研究がありますが、その影響は小さいと考えられるため、ほとんどのカップルが妊娠や不妊治療を進めるかどうかの判断税量とするべきではありません。
父親の高齢を理由とする妊娠前のカウンセリング
父方の年齢が高いことに伴うリスクは、母方の年齢が高い場合と同じレベルの妊娠前のカウンセリングと話し合いが必要です。異数性体の圧倒的多数は母親由来であるため、通常は男性の年齢が上がるこは出生前異数性検査の特別な適応ではありません。従来のGバンド核型検査やマイクロアレイ検査では、常染色体優性または劣性の障害を特定することはできずませんが、最近ではNIPTで一部可能となっています。(関連記事 NIPTでパパのリスクを検査、スーパーNIPT ジーンプラス)
自閉症スペクトラム障害(ASD)を胎児期に特定するための遺伝子検査は現在のところありません。
高齢パパとお子さんの自閉症スペクトラム障害ASD
自閉症スペクトラム障害-父方の年齢の上昇と自閉症スペクトラム障害(ASD)のリスクとの間には、小さいながらも統計的に有意な関連も観察されていいます。
報告例は以下の通りです。
- ・27件の観察研究のメタアナリシスでは、父親の年齢が10歳上昇すると子供の自閉症のリスクが21%上昇すると報告されています。
- ・14,000人以上のオランダ人のASD患者を対象とした研究では、20歳未満の父親と比較して、40歳以上の男性が子供を父親にすると、ASDに罹患した子供が生まれる可能性が3.3倍になることが報告されました。
- ・130,000組以上のカップルを対象としたイスラエルの別の研究では、30歳未満の父親と比較して、40歳以上の男性がASDの子供を持つ可能性は5.75倍と報告されています。
これは、de novoの自然発生的な突然変異(新生突然変異)やエピジェネティックな変化に関連している可能性があると考えられています。
父方の年齢が自閉症の独立した危険因子であることは証明されていないため、潜在的な交絡因子を慎重に検討した大規模な前向きコホート研究で検討する必要があります。