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妊婦健診や胎児ドックのエコーで「ソフトマーカーがあります」と言われると、赤ちゃんに何か病気があるのではと強い不安を感じる方が少なくありません。けれどもソフトマーカーは、それ自体が病気や異常を意味する所見ではありません。健康な赤ちゃんにも一定の割合で見られる、染色体異常などの可能性を考える「手がかり」の一つです。この記事では、ソフトマーカーとは何か、妊娠初期と妊娠中期にどんな所見があるのか、そして見つかったときにどう考え、何をすればよいのかを、臨床遺伝専門医がわかりやすく解説します。
Q. ソフトマーカーとは何ですか?まず結論だけ知りたいです
A. ソフトマーカーとは、胎児エコー(超音波検査)で見つかる所見のうち、それ自体は異常ではないものの、染色体異常などの可能性がわずかに高まることを示す所見のことです。健康な赤ちゃんにもよく見られ、ソフトマーカーだけで病気が診断されることはありません。ほかに異常がない「単独」のソフトマーカーで、NIPTなどのスクリーニング検査の結果が陰性であれば、それだけを理由に羊水検査などの確定検査は一般に勧められていません[1]。
- ➤正体 → 異常そのものではなく、染色体異常などの可能性を考える「手がかり」となるエコー所見
- ➤種類 → 妊娠初期(NT肥厚・鼻骨の欠損など)と妊娠中期(心臓内高輝度エコー像・脈絡叢嚢胞など)で異なる
- ➤大切な見方 → 単独か、ほかの所見や構造異常を伴うかで意味が大きく変わる
- ➤見つかったら → これまでのスクリーニング結果とあわせて考え、必要に応じて遺伝カウンセリングで方針を決める
- ➤診断との違い → 染色体異常を確定できるのは羊水検査などの確定検査だけ
🔎 ソフトマーカーの基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 読み方・別名 | ソフトマーカー(soft marker)/出生前胎児超音波マーカー |
| 定義 | それ自体は異常ではないが、胎児の染色体異数性や一部の染色体以外の異常の可能性が、年齢などから想定されるよりわずかに高まることを示す胎児エコー所見 |
| 見つかる時期 | 妊娠初期(第1三半期)と妊娠中期(第2三半期)のエコー検査 |
| 代表的な所見 | NT肥厚、鼻骨の欠損・低形成、心臓内高輝度エコー像、脈絡叢嚢胞、単一臍帯動脈、高輝度腸管など |
| 位置づけ | 可能性を見積もるためのスクリーニングの手がかりであり、診断ではない |
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。実際の方針は、担当医や臨床遺伝専門医とご相談ください。
1. ソフトマーカーとは ─ 異常ではなく「手がかり」
ソフトマーカーとは、胎児エコーで見つかる所見のうち、それ自体は異常ではないものの、胎児の染色体の数の異常(異数性)や一部の染色体以外の異常の可能性が、年齢などから想定されるよりわずかに高まることを示すものです。「ソフト(柔らかい)」という名前のとおり、心臓の形の異常のような「構造異常」とは違い、多くは健康な赤ちゃんにも一定の割合で見られます。
ソフトマーカーは、もともとダウン症(21トリソミー)の発見率を高める目的で、エコー検査に取り入れられてきました[1]。しかしその後、母体血清マーカー検査やNIPT(新型出生前診断)といったスクリーニング検査が大きく進歩したことで、ソフトマーカーが持つ意味の重さは以前より小さくなっています[1]。
💡 用語解説:「単独(孤立性)」のソフトマーカー
ソフトマーカーの意味を考えるときに最も大切なのが、それが単独で見つかったのか、ほかの所見と一緒に見つかったのかという点です。詳しいエコー検査で、構造異常や胎児発育不全、ほかのソフトマーカーがなく、そのソフトマーカーだけが見つかった状態を「単独(孤立性)」と呼びます[1]。単独の場合とそうでない場合では、その後の考え方が大きく変わります。
ソフトマーカーを見つけるエコー検査の全体像は、胎児超音波検査(超音波胎児スクリーニング検査)の記事で詳しく解説しています。
2. 妊娠初期(第1三半期)のソフトマーカー
妊娠初期のエコー検査では、主に次のような所見がソフトマーカーとして挙げられます。なかでもNT肥厚や鼻骨の欠損は、ダウン症などとの関連がよく知られている代表的な所見です。
🩺 妊娠初期の主なソフトマーカー
| 所見 | どんな所見か |
|---|---|
| NT肥厚 | 赤ちゃんの首の後ろのむくみ(NT:nuchal translucency)が厚く見える所見 |
| 嚢胞性ヒグローマ | 首の後ろのリンパ液のたまりが、仕切りのある袋状に大きく見える所見。ソフトマーカーの中でも染色体異常などとの関連が強い |
| 早期胎児リンパ管拡張症 | リンパ管が広がり、体の一部にむくみとして見える所見 |
| 鼻骨の欠損 | エコーで鼻の骨が確認できない所見 |
| 胎児膀胱肥大(巨大膀胱) | 赤ちゃんの膀胱が週数に比べて大きく見える所見 |
| 妊娠初期の胎児発育不全 | 頭殿長(CRL)が、確定した妊娠週数から予測されるより小さい所見 |
| 妊娠初期の構造異常 | この時期に見つかる体のつくりの異常 |
| 静脈管の血流異常 | 心臓へ向かう血管(静脈管)の血流の波形に異常が見られる所見 |
| 三尖弁逆流(三尖弁閉鎖不全) | 心臓の三尖弁で血液が逆向きに流れる所見 |
妊娠初期の胎児発育不全
妊娠週数が確かな場合に、1〜2週間後のエコーで測った頭殿長(CRL)が予測より小さく、成長が遅れているときは、妊娠初期の胎児発育不全と考えます。染色体の数の異常に伴う成長の遅れは、早ければこの時期から現れることがあり、特に18トリソミー・13トリソミー・三倍体との関連が指摘されています。胎児発育不全の原因や診断基準、染色体異常との関係は、胎児発育不全(FGR)の記事で詳しく解説しています。
3. 妊娠中期(第2三半期)のソフトマーカー
妊娠中期、主に妊娠18〜20週ごろの詳しいエコー検査では、次のような所見がソフトマーカーとして挙げられます。多くは健康な赤ちゃんにもよく見られ、時間とともに消えるものも少なくありません。
🩺 妊娠中期の主なソフトマーカー
| 所見 | どんな所見か |
|---|---|
| 心臓内高輝度エコー像(EIF) | 心臓の中に、骨のように白く光る小さな点が見える所見 |
| 脈絡叢嚢胞(CPC) | 脳の中で髄液をつくる部分(脈絡叢)に、小さな袋状の水のたまりが見える所見 |
| 単一臍帯動脈(SUA) | 通常2本あるへその緒の動脈が1本しかない所見 |
| 尿路拡張 | 腎臓の中の尿がたまる部分(腎盂)などが広がって見える所見 |
| 長管骨(上腕骨・大腿骨)の軽度短縮 | 腕や太ももの骨が、週数に比べてやや短く見える所見 |
| 高輝度腸管 | 腸が骨と同じくらい白く光って見える所見 |
| 後頸部皮膚の肥厚(NF) | 妊娠中期に、首の後ろの皮膚が厚く見える所見(nuchal fold)。妊娠初期のNTとは別の計測 |
| 鼻骨の欠損・低形成 | 鼻の骨が見えない、または週数に比べて小さい所見 |
※妊娠中期のソフトマーカーの中でも、後頸部皮膚の肥厚と鼻骨の欠損・低形成は、ほかの所見に比べてダウン症との関連が強いとされています[1]。
4. ソフトマーカーが見つかったときの考え方
ソフトマーカーを指摘されたときに大切なのは、所見そのものよりも、「単独かどうか」と「これまでにどんなスクリーニング検査を受け、結果はどうだったか」です。考え方の流れを図にまとめました。
単独で、スクリーニング検査が陰性の場合
米国母体胎児医学会(SMFM)は、NIPTなどのスクリーニング検査で陰性だった方に単独のソフトマーカーが見つかった場合、そのソフトマーカーだけを理由に、染色体異常を調べる確定検査は勧めないとしています[1]。心臓内高輝度エコー像や脈絡叢嚢胞のように、単独であれば通常の所見と考えてよいものも多くあります。
これまでスクリーニング検査を受けていない場合
スクリーニング検査をまだ受けていない方に単独のソフトマーカーが見つかった場合は、その所見を踏まえて染色体異常の可能性を見積もるための説明を受け、NIPTなどのスクリーニング検査や確定検査を選択肢として検討します[1]。どの検査を選ぶか、あるいは選ばないかは、ご本人とご家族が決めることです。
染色体以外の理由で経過を見る所見
ソフトマーカーの中には、染色体とは別の理由で経過観察が必要になるものがあります。たとえば高輝度腸管では先天性サイトメガロウイルス感染症などの確認や赤ちゃんの発育の評価が、単一臍帯動脈や長管骨の軽度短縮では妊娠後期の発育の確認が、尿路拡張では妊娠後期のエコーでの再評価が勧められています[1]。
⚠️ ソフトマーカーだけで診断はできません
ソフトマーカーは、あくまで可能性を見積もるための手がかりです。ソフトマーカーがあるから赤ちゃんに病気がある、ないから病気がない、ということにはなりません。ほかに構造異常がある場合や、複数の所見が重なる場合は意味が大きく変わるため、担当医や臨床遺伝専門医と一緒に、全体を見て判断することが大切です。
5. NIPT・羊水検査との関係
ソフトマーカーと同じく、NIPT(新型出生前診断)も「可能性を調べるスクリーニング検査」です。NIPTは21・18・13トリソミーについて精度の高い検査ですが、それでも結果は確定ではありません。一方、羊水検査や絨毛検査は、赤ちゃんの細胞を直接調べて染色体異常の有無を確定できる検査です。
ソフトマーカーに加えて構造異常が見つかった場合などは、染色体の数だけでなく、小さな欠失や重複まで調べられる染色体マイクロアレイ検査を検討することがあります。どの検査が適しているかは、見つかった所見、妊娠週数、ご本人の考えによって変わります。
🩺 院長コラム【「所見がある」と「病気がある」は違います】
エコーで「白い点がある」「鼻の骨が見えにくい」と言われ、そのまま眠れない夜を過ごして相談に来られる方がいます。ソフトマーカーという言葉は、医療者にとっては「可能性を少し調整する材料」ですが、言われた側にとっては「何かの前触れ」のように響いてしまうものです。
大切なのは、一つの所見だけを切り取らず、ほかの所見の有無や、これまでの検査結果と合わせて全体を見ることです。そのうえで、さらに調べるか、調べずに見守るかを、ご自身の価値観で選んでいただく。そのための情報整理をお手伝いするのが、遺伝カウンセリングの役割です。
6. よくある誤解
誤解①「ソフトマーカーがある=赤ちゃんに病気がある」
ソフトマーカーは健康な赤ちゃんにもよく見られる所見です。多くは単独で見つかり、染色体異常などの可能性をわずかに調整する材料にとどまります。
誤解②「ソフトマーカーがなければ安心」
ソフトマーカーが見られないことは、染色体異常がないことの証明にはなりません。可能性をより正確に知りたい場合は、NIPTなどのスクリーニング検査や確定検査を検討します。
まとめ
ソフトマーカーは、胎児エコーで見つかる「それ自体は異常ではないが、染色体異常などの可能性をわずかに高める」所見です。妊娠初期にはNT肥厚や鼻骨の欠損、妊娠中期には心臓内高輝度エコー像や脈絡叢嚢胞などがあります。見つかったときに大切なのは、単独かどうか、そしてこれまでのスクリーニング検査の結果とあわせて考えることです。単独でスクリーニングが陰性なら、それだけで確定検査が必要になるわけではありません。不安なときは一人で抱え込まず、臨床遺伝専門医にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. ソフトマーカーとは何ですか?
胎児エコーで見つかる所見のうち、それ自体は異常ではないものの、染色体異常などの可能性がわずかに高まることを示す所見のことです。NT肥厚、鼻骨の欠損、心臓内高輝度エコー像、脈絡叢嚢胞などがあり、健康な赤ちゃんにもよく見られます。
Q2. ソフトマーカーが見つかったら、赤ちゃんに病気があるのですか?
いいえ、ソフトマーカーだけで病気があると判断されることはありません。多くは健康な赤ちゃんにも見られる所見です。ほかに構造異常や複数の所見がある場合は意味が変わるため、担当医と全体を見て判断します。
Q3. NIPTが陰性でソフトマーカーを指摘されました。羊水検査は必要ですか?
ほかに異常のない単独のソフトマーカーで、NIPTなどのスクリーニング検査が陰性であれば、そのソフトマーカーだけを理由に羊水検査などの確定検査を行うことは、一般に勧められていません。ただし所見の種類や数によって考え方が変わるため、担当医や臨床遺伝専門医にご相談ください。
Q4. ソフトマーカーは消えることがありますか?
あります。心臓内高輝度エコー像や脈絡叢嚢胞、軽い尿路拡張などは、妊娠の経過とともに見えなくなることが少なくありません。所見によっては、妊娠後期に再度エコーで確認することが勧められます。
🏥 エコーの所見や出生前検査のご相談
ソフトマーカーを指摘されて不安な方、NIPTや羊水検査を受けるか迷っている方は、
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにご相談ください。
テーマ別に詳しく読む
👶 妊娠初期のエコー所見
🩺 妊娠中期のエコー所見
🔬 検査の選び方
参考文献
- [1] Society for Maternal-Fetal Medicine (SMFM); Prabhu M, Kuller JA, Biggio JR. Society for Maternal-Fetal Medicine Consult Series #57: Evaluation and management of isolated soft ultrasound markers for aneuploidy in the second trimester. Am J Obstet Gynecol. 2021;225(4):B2-B15. [doi:10.1016/j.ajog.2021.06.079]



