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ダウン症と胎児の鼻骨|エコーで鼻骨はどれ?鼻骨がない・短いときの確率と、鼻骨があっても安心できない理由

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

⏱️ 30秒でわかる要約

🧬 Q. ダウン症の胎児は鼻骨がないのですか?

妊娠11〜13週の大規模な研究では、ダウン症候群(21トリソミー)の胎児の約6割で鼻骨が見えず、染色体が正常な胎児では2.6%でした。ただし残りの約4割は鼻骨が見えるので、「鼻骨がある=ダウン症ではない」とはいえません。

🔍 Q. エコーで鼻骨はどれですか?

横顔の画像で、鼻すじの皮膚の線の下に並ぶ皮膚より太く明るい白い線が鼻骨です。皮膚の線と鼻骨の線が「=(イコール)」のように2本並んで見えるのが正常の見え方です。

📊 Q. 鼻骨がない・短いとダウン症の確率はどのくらい上がる?

妊娠中期にほかの所見がなく鼻骨だけが短い場合、ダウン症候群の確率はもとの確率の6〜7倍になると報告されています。もとの確率によって結果は大きく変わるため、「何%」と一律には言えません。

🌸 Q. 鼻骨が見えないと言われたら、次は?

鼻骨は確定診断ではありません。確率の説明を受けたうえで、NIPT(母体の採血)か、確定検査(絨毛検査・羊水検査)を選ぶのが一般的な流れです。

ダウン症と胎児の鼻骨|エコーで鼻骨はどれ?鼻骨がない・短いときの確率と次の検査

胎児の鼻骨欠損(びこつけっそん)とは、妊婦健診などの超音波検査(エコー)で赤ちゃんの鼻の骨が見えない状態のことで、鼻骨が見えても短いものを鼻骨低形成(びこつていけいせい)といいます。どちらもダウン症候群などの染色体の病気がある赤ちゃんで多く見られるため、「ソフトマーカー」と呼ばれるエコー所見の一つとして扱われています。ただし鼻骨の所見だけで病気の有無は決まらず、染色体が正常な赤ちゃんでも鼻骨が見えないことがあります。この記事では、エコーで鼻骨がどれかという見え方から、確率の読み方、そのあとに受けるNIPT(新型出生前診断)や確定検査までを、論文のデータで説明します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🩻 鼻骨・エコー・ダウン症候群
★ 臨床遺伝専門医監修
  • ➤鼻骨の見え方 → 皮膚の線と鼻骨の線が「=」に並ぶ。下の線がなければ鼻骨が見えない状態
  • ➤ダウン症で鼻骨が見えない割合 → 妊娠11〜13週で約6割、妊娠中期で約4割
  • ➤確率の読み方 → 尤度比(ゆうどひ)で「もとの確率が何倍になるか」を考える
  • ➤次の検査 → NIPTか確定検査(絨毛検査・羊水検査)。NIPTが陰性で鼻骨だけの所見なら、追加の染色体検査は勧められていない

1. 胎児の鼻骨欠損・鼻骨低形成とは

鼻骨欠損は「エコーで鼻骨が見えない」、鼻骨低形成は「鼻骨は見えるが短い」という、エコー画像の上での所見の名前です。どちらも病名ではありません。赤ちゃんの鼻骨が本当にないのか、まだ骨になりきっていないだけなのか、角度の問題で見えていないだけなのかは、1枚の画像では区別できないことがあります。

鼻骨は、目と目のあいだから鼻すじにかけての骨で、左右一対あります。ダウン症候群(21トリソミー)のある人では、生まれたあとに鼻すじが低く平らに見える顔立ちがよく知られていますが、胎児期にはこれが「鼻骨が見えない・短い」という形でエコーに現れることがあります。こうした「それ自体は病気ではないが、染色体の病気がある赤ちゃんで多く見られる所見」をソフトマーカーと呼びます。

💡 用語解説:ソフトマーカー

ソフトマーカーとは、エコーで見つかる小さな所見のうち、それ自体は治療が必要な形の異常ではないものの、染色体の病気がある赤ちゃんで頻度が高くなるものの総称です。鼻骨欠損・低形成のほか、首のうしろのむくみ(NT)、心臓の中の白い点(心臓内高輝度エコー像)、腸が白く見える所見(高輝度腸管)などがあります。染色体が正常な赤ちゃんでも見られるので、1つ見つかっただけでは病気があるかどうかは決まりません。

鼻骨はいつ骨になる?妊娠11週より前は評価しない理由

鼻骨が骨として確認できるようになるのは妊娠11週前後からで、それより前は鼻骨の有無を判断する時期ではありません。鼻骨評価についての総説によると、鼻骨のもとになる組織は妊娠6週ごろからつくられはじめ、組織の検査で骨が初めて確認できるのは頭殿長(とうでんちょう:頭のてっぺんからおしりまでの長さ、CRL)が42mm、妊娠10.9週ごろとされています[1]。

このため、妊娠11週に入ったばかりの小さな胎児では、鼻骨がまだ十分に骨になっておらず、エコーで見えにくいことがあります。実際、染色体が正常な胎児で鼻骨が見えなかった割合は、頭殿長45〜54mmでは4.7%でしたが、75〜84mmでは1%まで下がりました[2]。週数が早いほど「まだ見えないだけ」のことが多い、というのがこの数字の意味です。同じ総説は、妊娠11〜12週で鼻骨が見えなかった場合は1週間後にもう一度見て、2回目の結果を使うことで偽陽性を減らせるとしています[1]。

「欠損」と「低形成」はどう違う?

妊娠初期(11〜13週)は鼻骨が「あるか・ないか」で判断し、妊娠中期(おおむね15〜24週)は「短すぎないか」まで見ます。妊娠初期の鼻骨はまだ数ミリしかなく、長さを正確に測るのが難しいため、評価は有無に絞られます。妊娠中期になると鼻骨が伸びてくるので、長さを測って「その週数にしては短い」かどうかを判断できるようになります。

妊娠中期の「短い(低形成)」の基準は、研究によって違います。週数ごとの基準値の2.5パーセンタイル・5パーセンタイル・10パーセンタイルを使うもの、2.5mmや3mmといった固定の値を使うもの、頭の横幅(児頭大横径)と鼻骨の長さの比を使うものなどがあり、総説の著者らは目安として、妊娠16週で3mm未満、20週で4.5mm未満を低形成とすることを提案しています[1]。どの基準で「短い」と言われたのかによって意味が少し変わるので、指摘を受けたときは測った値と週数を確認しておくとよいでしょう。

2. エコーで鼻骨はどれ?見え方と調べ方

エコーの横顔の画像で、鼻すじの皮膚の線のすぐ下に、皮膚より太く明るく並んで見える白い線が鼻骨です。「エコー写真のどれが鼻骨なのかわからない」という疑問は検索でもとても多いので、まず正常な見え方から説明します。

2本の白い線が「=」に見えるのが正常

妊娠11〜13週の鼻骨の評価では、胎児の顔を真横から見た断面(正中矢状断:せいちゅうしじょうだん)を出し、頭と胸が画面いっぱいになるまで拡大します[1]。正しく描出できると、鼻のあたりに3本の白い線が見えます。1本目は鼻すじの皮膚、2本目はその下に平行に走る鼻骨、3本目は少し離れた鼻先の皮膚です。

このうち、上の皮膚の線と下の鼻骨の線が並んだ形が、算数の「=(イコール)」の記号のように見えます。鼻骨は骨なので、皮膚よりも太く、白く(明るく)映るのが特徴です。下の線がなかったり、皮膚と同じかそれより暗くしか映らなかったりすると「鼻骨が見えない(欠損)」と判断されます[1]。

鼻骨が見える(正常の見え方)① 鼻すじの皮膚:細く白い線② 鼻骨:皮膚より太く明るい線①と②が「=」の形に並ぶ
鼻骨が見えない(欠損)① 鼻すじの皮膚:細く白い線② 鼻骨の線がない、または皮膚より暗い「=」の下の線が欠けている

模式図:妊娠11〜13週の横顔のエコーで見る鼻骨(実際のエコー画像ではありません)。Sonekらの総説[1]の記載をもとに作図。

下は、エコーで見た胎児の鼻骨の画像です。

ダウン症の胎児の鼻骨

鼻骨が「見えない」と言われても、本当にないとは限らない理由

鼻骨の評価は、超音波を当てる角度・胎児の向き・週数に強く左右されます。総説では、鼻骨に対して超音波をほぼ直角(約90度)に当てる必要があり、鼻骨を縦方向から見る角度(0度や180度)になると、鼻骨があっても見えないように映ってしまうと説明されています[1]。

また、鼻骨を正しく評価できるようになるまでには検査する側の習熟が必要で、同じ総説では、平均80回(40〜120回)の検査で習熟したと報告されています[1]。胎児が下を向いている、手が顔にかかっているといった理由で、その日は評価できないこともあります。1回の健診で「見えない」と言われた場合は、どの週数に、どのような条件で見た結果なのかを確認し、必要なら時期をおいて見直すことが大切です。

13週の鼻骨の平均は?長さの目安

妊娠13週ごろの鼻骨は、長さで正常かどうかを判断する時期ではなく、「あるか・ないか」を見る時期です。「13週 鼻骨 平均」「胎児ドック 鼻骨 平均」といった検索も多いのですが、総説では、妊娠初期の鼻骨の長さの測定値は研究ごとにばらつきがあり、測り方の違いが原因と考えられると述べられています[1]。このため、妊娠初期に「平均より何ミリ短い」と気にするより、鼻骨が「=」の形で見えているかどうかのほうが意味を持ちます。

長さが意味を持つのは妊娠中期で、先に述べたように、妊娠16週で3mm未満、20週で4.5mm未満が低形成の目安の一つです[1]。健診で鼻骨の長さを書いた紙をもらったときは、何週の値なのかとあわせて見てください。

3. ダウン症の胎児は、どのくらいの割合で鼻骨が見えない?

妊娠11〜13週では、ダウン症候群の胎児の約6〜7割で鼻骨が見えず、染色体が正常な胎児では数%です。この差が大きいため、鼻骨は妊娠初期の染色体のスクリーニングに使われてきました。一方で、ダウン症候群の胎児の3〜4割は鼻骨が見えるという点も、同じデータからわかります。

妊娠11〜13週のデータ

最初に注目されたのは、2001年に英国のグループが報告した研究です。絨毛検査を受ける前の妊娠11〜14週の胎児701例を調べたところ、ダウン症候群の胎児では59例中43例(73%)で鼻骨が見えず、染色体が正常な胎児では603例中3例(0.5%)でした[3]。この研究は、もともと染色体の病気の可能性が高いとされて検査を受ける妊婦さんが対象だった点に注意が必要です。

その後、より多くの妊婦さんを対象にした研究が続きました。妊娠11〜13週の胎児5,918例を調べた研究では、ダウン症候群の胎児の68.8%(333例中229例)で鼻骨が見えず、ダウン症候群以外の染色体の病気がある胎児でも32.2%(295例中95例)で見えませんでした[2]。さらに、妊娠初期の複合スクリーニングに鼻骨を加えた研究では、鼻骨が見えなかった割合は、染色体が正常な胎児で2.6%、ダウン症候群で59.8%、18トリソミーで52.8%、13トリソミーで45.0%でした[4]。

📊 妊娠11〜13週に鼻骨が見えなかった割合

赤ちゃんの染色体 鼻骨が見えなかった割合 出典
染色体が正常 2.6% Kagan 2009[4]
ダウン症候群(21トリソミー) 59.8% Kagan 2009[4]
18トリソミー 52.8% Kagan 2009[4]
13トリソミー 45.0% Kagan 2009[4]
ダウン症候群(別の研究) 68.8%(229/333) Cicero 2004[2]

※英国の胎児医学の専門施設で、妊娠11〜13週に行われた研究です。対象の集団や検査する人の習熟度によって数字は変わります。

論文によって数字が違うのは、対象の妊婦さんの集団(もともと可能性が高い人が多いかどうか)、人種の内訳、検査した時期などが違うためです。それでも、「ダウン症候群の胎児では6〜7割で見えない」「正常な胎児では数%」という大まかな傾向は共通しています。

妊娠中期(15〜24週)のデータ

妊娠中期になると、ダウン症候群の胎児で鼻骨が見えない割合は約4割に下がります。総説がまとめた6つの研究では、妊娠15〜24週に鼻骨が見えなかったのは、ダウン症候群の胎児の37%、染色体が正常な胎児の1%でした[1]。鼻骨が見えない例と短い例をあわせると、妊娠14〜25週のダウン症候群の胎児の約60%、正常な胎児の1.4%が当てはまったとされています[1]。

妊娠中期に鼻骨が「ない」割合が下がるのは、骨が育つにつれて、短いながらも鼻骨が見えてくるためと考えられます。そのため妊娠中期では「ない」だけでなく「短い(低形成)」も評価に含めます。

18トリソミー・13トリソミーでも鼻骨は見えにくい

表のとおり、鼻骨が見えない所見はダウン症候群だけのものではありません。18トリソミー(エドワーズ症候群)では52.8%、13トリソミー(パトウ症候群)では45.0%で鼻骨が見えなかったと報告されています[4]。ただし、18トリソミーや13トリソミーでは、心臓の形の異常や手指の形など、鼻骨以外のはっきりしたエコー所見をともなうことが多いのが特徴です。18トリソミー・13トリソミーのエコー所見は、それぞれ18トリソミーのエコーでわかる特徴、13トリソミーはエコーでいつわかる?で詳しく解説しています。

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4. 鼻骨がない・短いと、ダウン症の確率はどう変わる?

鼻骨の所見は「ダウン症候群である確率」を直接示すのではなく、「もとの確率を何倍にするか」を示します。この「何倍か」を表す数字を尤度比(ゆうどひ)といい、エコーのソフトマーカーの意味を考えるときの基本になります。

尤度比で考える:もとのオッズ×何倍

💡 用語解説:尤度比(ゆうどひ)

尤度比とは、ある所見が「病気がある人」で見られる割合を、「病気がない人」で見られる割合で割った値です。たとえば、ダウン症候群の胎児で60%、正常な胎児で2%に見られる所見なら、尤度比は約30になります。所見があったとき、もとの確率(正確には「オッズ」)がこの倍数だけ上がります。尤度比が1より小さい場合は、確率が下がることを意味します。

妊娠中期のソフトマーカーについての48研究のメタ解析(複数の研究をまとめた解析)では、鼻骨がない・短いという所見の陽性尤度比は23.27、陰性尤度比(鼻骨が正常に見えたときの値)は0.46でした[5]。ただし、ほかに所見がなく鼻骨の短さだけが単独で見つかった場合(孤立性の所見)は、確率の上がり方は6〜7倍にとどまると、同じ論文は結論づけています[5]。ほかの所見が一緒にあるかどうかで、意味がかなり変わるということです。

具体的な計算例で考えてみます。ここでの「もとの確率300人に1人」は説明のための仮の数字で、実際のもとの確率は年齢やそれまでの検査結果で一人ひとり違います。

🧮 計算例:もとの確率が仮に「300人に1人」だった場合

エコーの所見(妊娠中期) 尤度比 計算後の確率
鼻骨だけが短い(ほかに所見なし) 6〜7倍 約51人に1人〜約44人に1人
鼻骨がない・短い(ほかの所見の有無を問わない全体の値) 23.27 約14人に1人
鼻骨が正常に見えた 0.46 約650人に1人

※尤度比はAgathokleousら2013年のメタ解析[5]の値。「300人に1人」は説明用の仮の数字で、計算は当院でオッズに尤度比を掛けて求めたもの。個人の確率ではありません。

この仮の計算例では、鼻骨だけが短い場合、ダウン症候群の確率は約50人に1人となり、ダウン症候群ではない確率は約98%です。ただし、これはもとの確率を300人に1人と仮定した場合の数字であり、すべての妊婦さんに当てはまるものではありません。また、鼻骨以外の所見がある場合は、所見の種類や組み合わせによって確率が変わります。「鼻骨が短いと言われた」という同じ言葉でも、ほかの所見があるかどうかで意味が違うため、その点を確認することが大切です。

染色体が正常でも鼻骨が見えないことがある:人種・週数・NT

染色体が正常な赤ちゃんでも、人種や週数によって鼻骨が見えない割合は変わります。妊娠11〜13週の胎児5,918例の研究では、染色体が正常な胎児で鼻骨が見えなかった割合は、白人のお母さんで2.2%、アフリカ・カリブ系で9.0%、アジア系で5.0%でした[2]。この研究は英国で行われたもので、ここでいう「アジア系」には日本人以外も多く含まれます。日本人だけのデータではありませんが、人種によって基準となる割合が違うことは押さえておく必要があります。

同じ研究では、首のうしろのむくみ(NT)が厚いほど、染色体が正常でも鼻骨が見えない割合が高く、NTが95パーセンタイル以下では1.6%、5.5mm以上では15%でした[2]。週数(頭殿長)による違いは先に述べたとおりです[2]。総説も、鼻骨の尤度比を計算するときは人種とNTを考慮すべきだとしています[1]。つまり、「鼻骨が見えない」の重みは、どの週数に、どんな背景の赤ちゃんで、NTがいくつのときに見えなかったかによって変わるのです。

鼻骨があればダウン症ではない?

鼻骨が見えても、ダウン症候群を否定することはできません。妊娠11〜13週の研究では、ダウン症候群の胎児の約3〜4割で鼻骨が見えていました(鼻骨が見えなかった割合が59.8%〜68.8%なので、その残り)[2][4]。妊娠中期では、鼻骨が見えないダウン症候群の胎児は37%なので、6割以上は鼻骨が見えることになります[1]。

上の計算例のとおり、鼻骨が正常に見えると確率はおよそ半分(尤度比0.46)に下がりますが、0にはなりません[5]。「鼻骨がちゃんとあったから大丈夫」と考えて安心しきるのではなく、ダウン症候群かどうかを知りたいなら、染色体そのものを調べる検査が必要です。エコーでダウン症候群が指摘されないこともある理由は、ダウン症はエコーで指摘されない?わかる時期と特徴で詳しく説明しています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「鼻骨がある」も「ない」も、確率の一部にすぎない】

鼻骨の所見は、それだけで結論が出るものではないと考えています。「鼻骨がない」と言われた方は不安になりますし、「鼻骨がある」と言われた方は安心しますが、どちらも確率を上げ下げする情報の一つにすぎません。鼻骨だけが短い場合、計算上は確率が上がっても、大半の赤ちゃんは染色体の病気ではありません。

大切なのは、所見を「何倍」という形で受け止め、もとの確率と組み合わせて考えることだと考えています。そのうえで、確率ではなく答えを知りたいときは、染色体そのものを調べる検査を選ぶ、という順番で整理するのがよいと考えています。

5. 鼻骨以外のエコー所見とダウン症候群

妊娠初期のエコーでは、鼻骨のほかに、首のうしろのむくみ(NT)、心臓の三尖弁の逆流、静脈管の血流などがあわせて見られることがあります。これらはいずれもソフトマーカーで、1つだけで判断するより、組み合わせて確率を計算するのが基本です。

妊娠初期の複合スクリーニング(お母さんの年齢・NT・赤ちゃんの心拍数・血液の2つの成分を組み合わせる方法)に鼻骨の評価を加えた研究では、ダウン症候群の検出率を保ったまま、偽陽性率(病気がないのに「可能性が高い」と判定される割合)が3.0%から2.5%に下がりました[4]。鼻骨は、ほかの指標に「上乗せ」して精度を少し上げる役割だということがわかります。複合スクリーニングについてはコンバインド検査とはで解説しています。

NTについては胎児の首のむくみ(NT)とダウン症の確率、三尖弁の逆流は胎児三尖弁逆流、妊娠中期のエコー全体については胎児超音波検査(超音波胎児スクリーニング)とは、胎児ドックについては胎児ドック(胎児スクリーニング検査)とはをご覧ください。生まれたあとの「鼻が低い」などの顔立ちについてはダウン症の顔つきはなぜ似ているの?で扱っています。

6. 鼻骨が見えない・短いと言われたあとに受ける検査

鼻骨の所見のあとは、確率の説明を受けたうえで、NIPT(母体の採血で調べる検査)か、確定検査(絨毛検査・羊水検査)を選ぶのが一般的な流れです。米国母体胎児医学会(SMFM)は、妊娠中期にほかの所見がなく鼻骨だけがない・短い場合について、次のように推奨しています[6]。

📋 妊娠中期に孤立性の鼻骨欠損・低形成が見られたときの対応(SMFMの推奨)

それまでの検査 推奨される対応
染色体のスクリーニングをまだ受けていない ダウン症候群の確率について説明を受け、NIPT(受けられない場合は母体血清マーカー検査)か羊水検査を、状況と本人の希望に応じて話し合う
母体血清マーカー検査が「低リスク」だった 確率の説明を受け、追加の検査をしない・NIPT・羊水検査のどれにするかを話し合う
NIPTが「低リスク(陰性)」だった 染色体の病気について追加の評価は勧めない

※Society for Maternal-Fetal Medicine Consult Series #57(2021年)[6]。推奨の強さはいずれもGRADE 1B。米国の学会の推奨で、日本の保険制度や検査体制を前提にしたものではありません。

エコーで鼻骨の所見ない・短い
▶
確率の説明ほかの所見の有無も確認
▶
NIPT採血で染色体を調べる
▶
陽性なら確定検査絨毛・羊水

NIPTで染色体を調べる

NIPTは、お母さんの血液に含まれる胎盤由来のDNAを調べる非確定的検査です。鼻骨の所見はエコー画像から染色体の病気の可能性を推定するものですが、NIPTは胎盤由来のDNAの情報から、21トリソミーなどの染色体数の変化がある可能性を評価します。ただしNIPTも確定診断ではなく、陽性の場合は確定検査で確かめる必要があります。精度の考え方はNIPTの精度(陽性的中率)で解説しています。

当院のNIPTは通常妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。どのプランでもダウン症候群(21トリソミー)・18トリソミー・13トリソミーを調べ、スタンダードでも22q11.2欠失症候群を含む6種類7疾患の微小欠失症候群を調べます。プレミアム・ダイヤモンドは15・16・22番のトリソミーと12種類13疾患の微小欠失、双子マックス・インペリアルはすべての常染色体と92種類の微小欠失・重複を対象にし、ダイヤモンド(56遺伝子)とインペリアル(最大155遺伝子・202疾患)は単一遺伝子の病気も調べます。鼻骨の所見はダウン症候群だけでなく18・13トリソミーなどでも見られるため、どの範囲まで調べたいかを検査前に考えておくことが大切です。

確定検査(絨毛検査・羊水検査)

確定検査は、赤ちゃん由来の細胞を採って染色体を直接調べる検査です。絨毛検査は胎盤の一部(絨毛)を、羊水検査はおなかの羊水を採ります。鼻骨のほかにも所見があって確率が高い場合や、早く確実な答えがほしい場合は、NIPTを経ずに確定検査を選ぶこともあります。2つの違いは絨毛検査と羊水検査の違いをご覧ください。

当院では、絨毛検査(妊娠11〜13週)・羊水検査(妊娠15週以降)を院内で行っています。検査は基本的に日曜日(月曜日が祝日の場合は月曜日)に行い、主要な検査項目は3日以内に、マイクロアレイ検査は2週間ほどで結果が出ます。他院でNIPTを受けて陽性だった方の確定検査もお引き受けしています(NIPT陽性後の確定検査(他院で陽性の方も))。

NIPTが陰性で、鼻骨だけが見えない・短いとき

NIPTが陰性で、ほかに所見がなく鼻骨だけがない・短い場合、SMFMは染色体の病気について追加の評価を勧めていません。[6]NIPTはダウン症候群を高い精度で拾い上げる検査なので、その結果が陰性なら、孤立性の鼻骨の所見で確率を大きく上げ直す必要はない、という考え方です。

一方で、鼻骨以外の所見(心臓の形の異常、むくみなど)が新たに見つかった場合は話が別で、「孤立性」ではなくなります。その場合は、NIPTが陰性でも確定検査を含めて改めて検討することがあります。NIPTが陰性でも完全には否定できないことについてはNIPTが陰性だったのに…(偽陰性)で解説しています。

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7. 鼻骨の所見をどう受け止めるか(臨床遺伝専門医の考え方)

鼻骨の所見は「答え」ではなく「確率を動かす情報」です。日本でも、超音波で胎児の形を見て染色体の病気の可能性を推定する検査(超音波マーカー検査)は、羊水検査などの確定的検査とは区別され、非侵襲的な「非確定的検査」の一つとして整理されています[7]。非確定的検査の結果は、確定検査の結果とは意味がまったく違います。

問題になりやすいのは、妊婦健診のエコーで鼻骨について何気なく言われ、その意味の説明を受けないまま不安だけが残る場面です。鼻骨は、本来は確率を計算するための情報の一つですが、説明がないと「鼻骨がない=ダウン症」と受け取られてしまいがちです。反対に、「鼻骨があったから大丈夫」と思い込んで、本当は知りたかった染色体の検査を受ける機会を逃すこともあります。

臨床遺伝専門医として大切だと考えているのは、次の3点を分けて考えることです。1つ目は、その所見が孤立性か、ほかの所見もあるか。2つ目は、もとの確率(年齢やそれまでの検査結果)と組み合わせると、どのくらいの確率になるか。3つ目は、確率ではなく答えがほしいのか、確率がわかれば十分なのか、という本人とご家族の考えです。3つ目はご本人にしか決められないので、検査を受けるかどうかも含めて、情報をそろえたうえで決めていただくのがよいと考えています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【エコーの所見と染色体の検査は、見ているものが違う】

エコーは赤ちゃんの「形」を見る検査で、NIPTや確定検査は「染色体」を見る検査です。鼻骨はその中間にあって、形から染色体の可能性を推し量るための手がかりだと考えています。形の手がかりは、週数や角度、赤ちゃんの向きで見え方が変わるので、どうしても揺らぎがあります。

だからこそ、鼻骨の所見をきっかけに不安を感じたら、その不安を確率の話に置き換え、必要なら染色体そのものを調べる検査で確かめる、という流れが筋の通った進め方だと考えています。エコーの所見と染色体の検査を、それぞれの役割に分けて使うことが大切です。

よくある質問(FAQ)

Q1. ダウン症の赤ちゃんは鼻骨がないのですか?

すべてではありません。妊娠11〜13週の研究では、ダウン症候群の胎児の約6〜7割で鼻骨が見えず、約3〜4割は鼻骨が見えていました。妊娠中期では鼻骨が見えない割合は約4割です。鼻骨が見えないことは、ダウン症候群の可能性を上げる所見の一つにすぎません。

Q2. エコー写真で鼻骨はどれですか?

赤ちゃんの横顔の画像で、鼻すじの皮膚の細い線のすぐ下に並ぶ、皮膚より太く明るい白い線が鼻骨です。皮膚の線と鼻骨の線が「=(イコール)」のように2本並んで見えるのが正常の見え方で、下の線がない、または皮膚より暗いと「鼻骨が見えない」と判断されます。

Q3. 13週の鼻骨の長さの平均はどのくらいですか?

妊娠13週ごろは、鼻骨を長さではなく「あるか・ないか」で評価する時期です。妊娠初期の鼻骨の長さの測定値は研究ごとにばらつきがあり、決まった平均値で判断する方法は確立していません。長さで「短い」と判断するのは妊娠中期で、妊娠16週で3mm未満、20週で4.5mm未満が目安の一つとして提案されています。

Q4. 鼻骨があればダウン症ではありませんか?

否定はできません。ダウン症候群の胎児でも、妊娠11〜13週で約3〜4割、妊娠中期では6割以上で鼻骨が見えます。鼻骨が正常に見えると確率はおよそ半分に下がりますが、0にはなりません。ダウン症候群の可能性をさらに詳しく調べたい場合はNIPT、確定診断を希望する場合は絨毛検査・羊水検査という選択肢があります。

Q5. 鼻骨が見えないと言われました。次に何をすればよいですか?

まず、何週に見た結果か、鼻骨以外の所見があるかを確認してください。そのうえで、確率の説明を受け、NIPT(母体の採血)か確定検査(絨毛検査・羊水検査)を選ぶのが一般的な流れです。妊娠11〜12週で見えなかった場合は、1週間後に見直すと見えることもあります。

Q6. NIPTが陰性で、妊娠中期のエコーで鼻骨が短いと言われました。

ほかに所見がなく鼻骨だけが短い場合、米国母体胎児医学会(SMFM)は、NIPTが陰性なら染色体の病気について追加の評価は勧めないとしています。ただし、鼻骨以外の所見が新たに見つかった場合は、確定検査を含めて改めて検討することがあります。

Q7. 鼻骨の所見のあと、ダウン症候群だけを調べれば大丈夫ですか?

鼻骨が見えない所見は、ダウン症候群だけでなく18トリソミーや13トリソミーでも多く見られます。NIPTでは、ダウン症候群以外の染色体の変化(18・13トリソミー、プランによっては微小欠失など)も調べられるので、どの範囲まで調べたいかを検査前に考えておくことが大切です。

まとめ

胎児の鼻骨欠損は「エコーで鼻骨が見えない」、鼻骨低形成は「鼻骨が短い」という所見で、エコーの横顔の画像で皮膚の線の下に並ぶ太く明るい白い線が鼻骨です。妊娠11〜13週では、ダウン症候群の胎児の約6〜7割で鼻骨が見えず、染色体が正常な胎児では数%でした[2][4]。

鼻骨の所見は確率を何倍にするかを示す情報で、妊娠中期に鼻骨だけが短い場合は6〜7倍とされています[5]。鼻骨があってもダウン症候群は否定できません。さらに詳しく可能性を調べる方法としてNIPTがあり、確定診断には絨毛検査・羊水検査を用います[6]。

🏥 鼻骨の所見のあと、染色体を調べたい方へ

ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医が常駐し、90分の受診枠の中で臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行います。NIPTは通常妊娠9週から(妊娠6〜8週は臨床研究として)受けられ、陽性の場合は絨毛検査(妊娠11〜13週)・羊水検査(妊娠15週以降)まで院内で受けられます。検査を受けるかどうか決める前に、NIPTで何がわかり、何がわからないかを知っておきたい方は、出生前診断(NIPT)でわかること・わからないことやNIPTの遺伝カウンセリング(臨床遺伝専門医)をご覧ください。

参考文献

  • [1] Sonek JD, Cicero S, Neiger R, Nicolaides KH. Nasal bone assessment in prenatal screening for trisomy 21. Am J Obstet Gynecol. 2006;195(5):1219-1230. doi:10.1016/j.ajog.2005.11.042
  • [2] Cicero S, Rembouskos G, Vandecruys H, Hogg M, Nicolaides KH. Likelihood ratio for trisomy 21 in fetuses with absent nasal bone at the 11-14-week scan. Ultrasound Obstet Gynecol. 2004;23(3):218-223. doi:10.1002/uog.992
  • [3] Cicero S, Curcio P, Papageorghiou A, Sonek J, Nicolaides K. Absence of nasal bone in fetuses with trisomy 21 at 11-14 weeks of gestation: an observational study. Lancet. 2001;358(9294):1665-1667. doi:10.1016/S0140-6736(01)06709-5
  • [4] Kagan KO, Cicero S, Staboulidou I, Wright D, Nicolaides KH. Fetal nasal bone in screening for trisomies 21, 18 and 13 and Turner syndrome at 11-13 weeks of gestation. Ultrasound Obstet Gynecol. 2009;33(3):259-264. doi:10.1002/uog.6318
  • [5] Agathokleous M, Chaveeva P, Poon LCY, Kosinski P, Nicolaides KH. Meta-analysis of second-trimester markers for trisomy 21. Ultrasound Obstet Gynecol. 2013;41(3):247-261. doi:10.1002/uog.12364
  • [6] Society for Maternal-Fetal Medicine; Prabhu M, Kuller JA, Biggio JR. Society for Maternal-Fetal Medicine Consult Series #57: Evaluation and management of isolated soft ultrasound markers for aneuploidy in the second trimester. Am J Obstet Gynecol. 2021;225(4):B2-B15. doi:10.1016/j.ajog.2021.06.079
  • [7] 厚生労働省 母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)の調査等に関するワーキンググループ. 第4回 資料1 構成員ヒアリングまとめ(令和2年7月22日). https://www.mhlw.go.jp/content/11908000/000651681.pdf

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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