Y染色体異常
Y染色体とは?
東京でNIPT他の遺伝子検査を提供しているミネルバクリニックです。NIPTなどの遺伝子検査や遺伝性疾患を理解するためには、基礎的なヒトゲノムや染色体の構造についての理解が必要となってきます。このページでは、Y染色体が性分化にどのようにかかわっているのかについて言及したいと思います。
Y染色体の構造と性の発逹におけるその役割は分子レベルとゲノムレベルの両方で解明されてきました。
男性の減数分裂ではX染色体とY染色体は通常短腕の末端部にある偽常染色体領域で対合し、この領域で組換えを行います。偽常染色体領域に存在するX染色体とY染色体上のゲノムは基本的に同じであり、相同染色体のように第一減数分裂で相同組換えを起こすため、このように呼ばれています。実はX染色体長腕とY染色体長腕の遠位末端にも短腕ほど大きな領域ではありませんが、小さな第二の偽常染色体領域が存在いたします。
染色体 | 塩基対数Mbp(100万塩基対) | 遺伝子数 |
---|---|---|
1 | 279 | 2610 |
2 | 251 | 1748 |
3 | 221 | 1381 |
4 | 197 | 1024 |
5 | 198 | 1190 |
6 | 176 | 1394 |
7 | 163 | 1378 |
8 | 148 | 927 |
9 | 140 | 1076 |
10 | 143 | 983 |
11 | 148 | 1692 |
12 | 142 | 1268 |
13 | 118 | 496 |
14 | 107 | 1173 |
15 | 100 | 906 |
16 | 104 | 1032 |
17 | 88 | 1394 |
18 | 86 | 400 |
19 | 72 | 1592 |
20 | 66 | 710 |
21 | 45 | 337 |
22 | 48 | 701 |
X | 163 | 1098 |
Y | 51 | 78 |
これらの遺伝子の多くは性腺と性器の発達に関連した機能をもちます。
生殖系の発生学
生殖系は両性に分化可能な性腺として発生し、Y染色体があると精巣に、Y染色体がないと卵巣になる、という形で発生します。
両性とも初期には胚体外部にあった始原生殖細胞が、妊娠第6週には生殖堤まで移動し、始原生殖細胞はここで生殖索に囲まれ、一対の原始性腺を形成します。この時点(妊娠7週)までは、染色体の組み合わせがXXであってもXYであっても発達中の性腺は両性に分化可能です。
卵巣と精巣のどちらに発達するかは、一連の遺伝子の協調作用により巧妙な調節を受けて決定されます。Y染色体が存在しない場合には性線は卵巣へと発達し、Y染色体が存在する場合にぱ精巣になります。通常の状態ではTDF(昔は精巣決定因子(testis-detennining factor)とよばれていたのでTDFと呼ばれています〕というY連鎖遺伝子(Y染色体にのっている遺伝子をこう呼びます)により精巣の発達経路に切り替えられないかぎり、卵巣の発達経路をたどります。Y染色体が存在しなければ性腺は卵巣へと分化を始めることとなります。妊娠8週には性腺の分化が始まり、数週間続きます。皮質が発逹、髄質が退縮、そして卵胞内で卵原細胞が発達し始めます。胎生3カ月の初めには卵原細胞は第一滅数分裂に入り、この過程は網糸期(dictyotene)で停止し、長い年月を経て排卵が起こるまでそのままとどまります。
これに対して、TDFをもつ正常なY染色体が存在する状況では、髄質組織が精細管とLeydig細胞をもつ精巣を形成し、Leydig細胞は胎盤由来の絨毛性ゴナドトロピンにより刺激されてアンドロゲンを分泌します。
始原生殖細胞から一連の体細胞分裂によって生じた精原細胞は、精細管壁に整列してSertoli細胞に支持されて精子形成を開始するための思春期の始まりを待ちます。始原生殖細胞が生殖堤に移動している間に生殖堤が肥厚し、発達する性腺中の細胞が産生するホルモンの影評を受けて生殖管の中腎管(Wolff管)と傍中腎管(Muller管)が発達していきます。生殖管形成は通常妊娠3カ月までに完了します。
初期胚では、生殖結節、陰唇陰嚢隆起対、尿道ひだ対から外性器が構成されています。
この未分化状態から、妊娠12週頃にアンドロゲンの影響下で男性の外性器の発達が開始されます。
精巣がないとき(アンドロゲンがないとき)には、卵巣の有無にかかわらず(!)女性の外性器が形成されることになります。
精巣決定遺伝子SRY
Y染色体が精巣を決定する機能が明らかにされた30年後、Y染色体のさまざまな微細構造異常をもつ患者やよく研究されている性分化疾患をもつ人の染色体分析とゲノム分析によりYp上の第一次精巣決定領域が同定されました。
x染色体とY染色体は通常第一減数分裂時にXpとYpの偽常染色体領域どうしで遺伝子を組換えして交換しますが、稀に偽常染色体領域の外で組換えが起こってしまうことがあります。
このような場合XX男性(核型は46,XX)とXY女性(核型は46,XY)といいます。
Y染色体上の性決定領域(sex-determining regionon the Y)遺伝子はSRY遺伝子と表記され、Y染色体上の偽常染色体領域の境界近傍に位置しています。
この遺伝子は46,XX男性の多くでX染色体上に存在し、46,XY女性の一部のY染色体上で欠失や変異がみとめられているため、男性の性決定にSRYが関係することが強く示唆されています。
SRYは、発生初期に生殖堤細胞で精巣分化直前にほんの短期間発現します。
この遺伝子はDNA結合タンパクをコードしています。転写因子として機能し、未分化の性腺において重要な役割を果たす常染色体上の遺伝子SOX9の発現を促進し、精巣へと完全に分化させているのではないかと考えられています。現在の遺伝学的および発生学的基準では、SRYはY染色体のTDF遺伝子に相当し、SRYが欠失していたり適切に機能しなければ核型は46,XYでも女性へと性分化することになります。
正常な男性への性分化にSRYが重要な役割を果たしていることは確かなのですが、SRY/TDFの有無により異常な性決定をすべて説明するできるわけではありません。他の遺伝子も性決定に関与しています。
精子形成とY連鎖遺伝子
男性におけるY染色体の欠失や微細欠失の発生頻度はおよそ2~3千人に1人と報告されています。
しかし、Yqの男性特有の部位の微細欠失は精液中に精子が検出されない非閉塞性無精子症から重症の乏精子症(500万/mL未満。正常だと2~4千万/mL)まで精子数の少ない男性のかなりの割合にみられるものです。こうした事実から、AZF〔azoospermia factor(無精子症因子)〕とよばれる1つ以上の遺伝子がY染色体上にあることを示唆され、Yqに3つの関連領域、AZFa、AZFb、 AZFcが存在することがわかっています。
こうした微細欠失の遺伝学的解析から精子形成において重要であると思われる一連の遺伝子が同定されました。
AZFcは3.5Mb長にわたるのですが、その領域には4コピーのDAZ〔deleted in azoospermia(無精子症で欠失するという意味)〕遺伝子など、精巣にのみ発現する7つの遺伝子ファミリーが含まれています。この4コピーのDAZは精巣の減数分裂前の生殖細胞にのみ発現する、ほとんど同じRNA結合タンパク質をコードする遺伝子です。
AZFcのdenova欠失は、およそ4千人の男性あたり1人に生じ、無精子症の男性の約12%と重症の乏精子症男性の約6%にみられます。
4つのDAZ遺伝子のうち2つの欠失は軽症の低精子症と関連しています。これらは分節重複間の組換えにより生じているゲノム病の機序で欠失しています。
頻度は少ないのですが、 AZFaとAZFbの欠失も組換えをともないます。
しかしYqの微細欠失は非症候群的で、正常男性の精子形成の異常の原因となるだけである。AZFの欠失に関連した遺伝子はいずれも精巣にのみ発現し、他の組織や細胞では機能をもたないからである。健康な男性のおよそ2%は重症の精子形成異常のため不妊である。
Yqにおける遺伝子のde novo欠失や変異はこれらのかなりの割合を占めていると考えられているため、男性の特発性の不妊については核型決定を行うべきです。
そして、体外受精による不妊治療の導入前に、そのカップルから生まれる男児は不妊の原因であるYqの微細欠失を受け継ぐ可能性があるため、Y染色体の分子遺伝学的検査と遺伝カウンセリングが必要となります。
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