目次
クラインフェルター症候群は、男性の性染色体がXYではなく「XXY」になっている体質(47,XXY)です。男性のおよそ660人に1人(500〜1,000人に1人)と、男性の性染色体の変化としては最も多く、親から受け継ぐものではなく、多くは精子や卵子ができるときの偶然で起こります。顔つきに決まった特徴はなく、背が高い、思春期の変化が弱い、精子がつくられにくいといった特徴が中心で、診断されるのは全体の4人に1人ほどと報告されています[1]。この記事では、特徴と見た目、年齢ごとの変化、不妊との関係、NIPT(新型出生前診断)でいつ・どこまでわかるか、陽性だったときと出生前に分かったときの考え方までを、臨床遺伝専門医が順に解説します。

- ➤47,XXYとは何か、XXY以外の型(モザイク・48,XXYYなど)との違い
- ➤顔つき・見た目の特徴と、背が高くなる理由
- ➤乳幼児・学童・思春期・大人で気づかれやすい変化
- ➤無精子症と、精巣内精子採取で子どもを持てる可能性
- ➤NIPTでわかるか、陽性的中率が低めになる理由、陽性のときの確定検査
- ➤出生前に分かったときの考え方と、生まれてからの支え
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. クラインフェルター症候群とは?
男性の性染色体にX染色体が1本多い47,XXYの体質です。男性の約660人に1人で、多くは親からの遺伝ではなく偶然起こります。知的な発達は平均の範囲の人が多く、診断されないまま大人になる人が大半です。
👀 Q. 顔つきや見た目に特徴はある?
顔つきに決まった特徴はありません。目立つのは背が高く手足が長い、精巣が小さい、思春期の変化(ひげ・声変わりなど)が弱いといった点で、見た目だけでは分かりません。
🩸 Q. NIPTでわかる?
性染色体を調べるNIPTなら対象です。当院ではスタンダードプランとインペリアルプランで調べられます。ただし性染色体は陽性的中率が21トリソミーより低いため、陽性なら必ず羊水検査などの確定検査で確かめます。
クラインフェルター症候群とは(47,XXY)
ヒトの染色体は通常46本で、そのうち2本が性別に関わる性染色体です。男性はX染色体とY染色体を1本ずつ(46,XY)、女性はX染色体を2本(46,XX)もっています。クラインフェルター症候群では、男性の細胞にX染色体が1本多く、染色体が47本(47,XXY)になっています。「XXY染色体」「47,XXY」「XXY症候群」と呼ばれるものは、いずれもクラインフェルター症候群のことです。
Y染色体には精巣をつくる遺伝子があるため、X染色体が1本多くても、体は男性として発達します。一方で、余分なX染色体の影響で精巣の働きが弱くなりやすく、男性ホルモン(テストステロン)が不足しがちになること、精子がつくられにくいことが主な特徴です。デンマークの研究をまとめた総説では、頻度は男性の660人に1人、診断されているのは約25%で、診断時の平均年齢は30代半ばと報告されています[1]。多くの人は、自分がXXYだと知らないまま生活しているということです。
性染色体の数の変化は、21トリソミー(ダウン症候群)のような常染色体の数の変化とは性質が大きく違います。性染色体が1本多くても、知的な発達が保たれる人が多く、日常生活や社会生活に大きな制約がないことがほとんどです。ほかの性染色体の変化との比べ方は、親ページのNIPTでわかる性染色体の変化(症状・検査・費用)でまとめています。
💡 用語解説:性染色体(せいせんしょくたい)と核型(かくがた)
性染色体は、性別の決定に関わるX染色体とY染色体のことです。核型は、細胞の染色体の本数と組み合わせを「47,XXY」のように書き表したもので、前の数字が染色体の総数、後ろが性染色体の組み合わせです。核型は血液や羊水の細胞を調べる染色体検査で確定します。
XXY以外の型(モザイク・48,XXYYなど)
クラインフェルター症候群の多くは、すべての細胞が47,XXYの「非モザイク型」です。一部の人は、46,XYの細胞と47,XXYの細胞が混ざった「モザイク型」で、XXYの細胞の割合によっては、精巣の働きが保たれやすく症状が軽いことがあります。また、Xが2本以上多い型や、Yも1本多い型は、XXYとは別のものとして扱われます。これらはXXYよりずっとまれで、発達面の特徴が出やすいため、XXYと同じ説明をそのまま当てはめないことが大切です[5]。
🧬 クラインフェルター症候群と関連する核型
| 核型 | 呼び方 | 特徴 |
|---|---|---|
| 47,XXY | クラインフェルター症候群(典型) | 大部分を占める。この記事の主な対象 |
| 46,XY/47,XXY | モザイク型 | XXYの細胞の割合により症状が軽いことがある |
| 48,XXYY | XXYY症候群 | XXYより発達・行動面の特徴が出やすい別の状態 |
| 48,XXXY/49,XXXXY | Xがさらに多い型 | Xが増えるほど発達面・身体面の特徴が強くなる |
48,XXYYについてはXXYY症候群で、女性の性染色体の変化はトリプルX症候群で、Y染色体が1本多い場合はXYY症候群(ヤコブ症候群)で解説しています。
ターナー症候群との違い
よく並べて語られるターナー症候群は、女性でX染色体が1本少ない(45,X)状態で、低身長や卵巣の働きの低下が特徴です。クラインフェルター症候群は「男性でXが1本多い」、ターナー症候群は「女性でXが1本少ない」と覚えると区別しやすくなります。NIPTでターナー症候群の可能性を指摘されたときの考え方は、NIPTでターナー症候群陽性と診断された方へで解説しています。
原因:多くは親からの遺伝ではない
クラインフェルター症候群は、精子や卵子ができるときの細胞分裂(減数分裂)で、性染色体がうまく分かれなかったことで起こります。これを染色体不分離といいます。たとえば、XとYが分かれずに両方入った精子が、Xをもつ卵子と受精すると、受精卵はXXYになります。反対に、Xが2本入った卵子が、Yをもつ精子と受精してもXXYになります。
どちらの親に由来するかを調べた研究では、ほぼ半数は父親側の不分離で、残りが母親側と報告されています[6]。つまり、母親側だけの問題ではありません。また、受精卵ができたあとの細胞分裂で起こると、モザイク型になります。減数分裂の仕組みは減数分裂とはで図解しています。
母親の年齢との関係
卵子側で起こる不分離は、母親の年齢が上がるほど増える傾向があり、クラインフェルター症候群の頻度も母親の年齢とともにやや高くなります。ただし、父親側の不分離はほぼ半数を占め、そちらは母親の年齢と関係しません。「若いから起こらない」わけでも、「高齢だったから起きた」と言い切れるわけでもありません。
また、クラインフェルター症候群は、両親の染色体に変化があって受け継がれるものではないのがふつうです。次の子どもで同じことが起こる可能性は、一般の頻度と大きく変わらないと考えられています。妊娠中にした行動や食事が原因になることもありません。
特徴と見た目
「クラインフェルター症候群の顔つき」「見た目」は多く検索されていますが、最初にお伝えしたいのは、顔つきに決まった特徴はないということです。21トリソミーのように、顔立ちから気づかれる体質ではありません。見た目だけで判断することはできず、診断には染色体検査が必要です。
顔つきに決まった特徴はない
見た目に表れやすいのは、顔ではなく体つきです。男性ホルモンが不足すると、ひげや体毛が薄い、筋肉がつきにくい、皮下脂肪がつきやすいといった変化が出ることがあります。これらはホルモンの量による変化で、すべての人に出るわけではありません。思春期を過ぎてから男性ホルモンを補うと、体つきが変わることもあります。
背が高く手足が長いのはなぜ?
背が高く、特に脚が長い体型になりやすい理由は、主に2つあると考えられています。1つは、X染色体とY染色体の両方にある身長に関わる遺伝子(SHOX遺伝子)が、X染色体が多い分だけ多く働くことです。もう1つは、男性ホルモンが少ないと骨の端にある成長板が閉じるのが遅れ、骨が伸びる期間が長くなることです。背が高いこと自体は健康上の問題ではありません。
精巣・思春期の変化・女性化乳房
ほぼすべての人に共通するのは、精巣が小さく硬いことです。思春期に入ると、精巣の中の精子をつくる組織が徐々に減っていきます。思春期の始まりはほぼ通常どおりのことが多い一方で、その後の声変わりや体毛の変化が弱いことがあります。また、思春期以降に乳房がふくらむ「女性化乳房」がみられる人もいます[1]。
💡 用語解説:高ゴナドトロピン性性腺機能低下症(こうごなどとろぴんせい せいせんきのうていかしょう)
精巣(性腺)が男性ホルモンを十分につくれないため、脳がそれを補おうとして、精巣を刺激するホルモン(LH・FSH=ゴナドトロピン)を多く出している状態です。クラインフェルター症候群の大人の多くにみられ、血液検査でテストステロンが低く、LH・FSHが高いことが診断の手がかりになります。
🩺 院長コラム【「症候群」という名前に引きずられないでほしい】
クラインフェルター症候群という名前を初めて聞くと、重い病気を想像される方が少なくありません。けれども、男性の4人に3人は一生診断されずに暮らしているという数字が示すように、日常生活では気づかれないことの方がふつうの体質です。私は、性染色体の数の変化は「病気の名前」より「体質の説明」として受け止めていただく方が、実態に近いと考えています。
そのうえで、男性ホルモンの不足や不妊、骨の健康など、知っておけば早めに手を打てることがあるのも事実です。知ることの意味は、不安を増やすことではなく、必要な時期に必要な支えを受けられるようにすることにあると考えています。
年齢ごとの特徴(乳幼児・学童・思春期・大人)
クラインフェルター症候群の特徴は、年齢によって目立ち方が変わります。赤ちゃんのころはほとんど分からず、思春期以降にホルモンの変化として表れやすいのが一般的な経過です。下の表は「気づかれやすい変化」の目安で、すべての人に当てはまるわけではありません。
📅 年齢ごとに気づかれやすい変化
| 時期 | 気づかれやすい変化 |
|---|---|
| 乳幼児期 | 多くは目立った特徴なし。停留精巣や小さい陰茎で見つかることがある。ことばの出始めがゆっくりなことがある |
| 学童期 | 読み書きや聞き取り・話すことの苦手、集中のしにくさ、手足が長く背が伸びやすい |
| 思春期 | 精巣が大きくならない、声変わりや体毛の変化が弱い、女性化乳房、疲れやすさ |
| 成人期 | 男性不妊(多くは無精子症)、性欲の低下、骨密度の低下、代謝の変化(体重増加・糖尿病など) |
総説[1][3]をもとに作成。個人差が大きく、ほとんど変化に気づかない人もいます。
知能・ことば・性格はどうか
知能は、平均の範囲の人が大部分です。ただし、全体として、ことばに関わる力(聞く・話す・読む・書く)が、それ以外の力より低めに出やすい傾向があります[1]。学校では、読み書きの苦手さや、指示を聞き取ることの苦手さとして表れることがあります。
性格について「おとなしい」「内向的」と言われることがありますが、これは集団の傾向であって、個人の性格を決めるものではありません。「XXYだからこういう性格」と決めつける根拠はありません。早い時期に特性が分かっていれば、言語聴覚療法や学習面の配慮といった支えを、必要な子に必要なだけ届けやすくなります。
不妊との関係:無精子症と、子どもを持てる可能性
大人のクラインフェルター症候群で最も多い受診のきっかけは不妊です。精巣の中で精子をつくる組織が思春期以降に減っていくため、非モザイク型の大部分は、精液の中に精子がいない無精子症になります。精液の中に精子が見つからない原因のなかで、染色体の変化として最も多いのがクラインフェルター症候群です。
ただし、精液に精子がいなくても、精巣の中には、精子をつくっている小さな部分が残っていることがあります。手術で精巣の組織を取り出し、その中から精子を探す方法を精巣内精子採取(TESE、顕微鏡を使うものはmicro-TESE)といいます。見つかった精子は、顕微授精(ICSI)で卵子に受精させます。
37の研究・1,248人をまとめた解析では、精巣内精子採取で精子が見つかった割合は1回あたり約44%(通常の方法43%、顕微鏡を使う方法45%で差はなし)でした。精子が見つかって顕微授精を行った場合の妊娠率は約43%、出産に至った割合も約43%と報告されています[4]。子どもを持てる可能性は、ゼロではありません。
なお、男性ホルモンの補充療法は、それだけで精子をつくる力を回復させるものではなく、かえって精子づくりを抑えることがあります。将来子どもを望む場合は、補充療法を始める時期や、精子を探す時期を、泌尿器科・生殖医療の専門医と相談して決めることが大切です[3]。精子をつくれない状態については非閉塞性無精子症(NOA)とはで、男性不妊の原因と検査は男性不妊の原因・検査・治療で解説しています。
💡 用語解説:無精子症と精巣内精子採取(TESE:テセ)
無精子症は、精液の中に精子がまったく見つからない状態です。精子の通り道がふさがっている「閉塞性」と、精巣で精子がほとんどつくられない「非閉塞性」があり、クラインフェルター症候群は後者です。精巣内精子採取は、精巣の組織を一部取り出して精子を探す手術で、見つかった精子は顕微授精に使います。
いつわかる?(出生前・思春期・不妊検査)
クラインフェルター症候群が分かるきっかけは、大きく3つの時期に分かれます。最も多いのは大人になってからの不妊検査で、次が思春期の発育の相談、そして近年増えているのが妊娠中の出生前検査です。
生まれてからの診断は、血液の染色体検査で核型を確かめて行います。思春期以降は、テストステロン・LH・FSHの値も手がかりになります。妊娠中は、NIPTでXXYの可能性が分かり、羊水検査や絨毛検査で確定するのが一般的な流れです。妊娠中に分かれば、生まれる前から成長の見通しを立て、必要な支えを準備できるという利点があります。
NIPTでわかる?
NIPTは、お母さんの血液に含まれる赤ちゃん由来(主に胎盤由来)のDNAの断片を調べ、染色体の数の変化を推定する検査です。性染色体を対象にしたNIPTであれば、クラインフェルター症候群(XXY)の可能性を調べられます。一方、13・18・21トリソミーだけを対象にしたNIPTでは調べていません。
日本の認証制度のもとで行われるNIPTは、13・18・21トリソミーを対象としており[9]、性染色体は含まれていません。米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)は2023年のガイドラインで、単胎妊娠の方に性染色体の数の変化を調べるNIPTを提供することを強く推奨しています[8]。どこまで知りたいかは、ご家族が選べることです。
ミネルバクリニックで性染色体を調べられるプラン
当院では、性染色体の数の変化(ターナー症候群・クラインフェルター症候群・トリプルX症候群・XYY症候群)を、スタンダードプランとインペリアルプランで調べられます。なお、双子マックスプランは性染色体を調べません。
🩸 性染色体を調べられる当院のNIPT
| プラン | 調べる範囲 | 検査方式・対象 |
|---|---|---|
| スタンダード | 13・18・21トリソミー+性染色体+微小欠失6種類7疾患 | 標的捕捉濃縮法/単胎・双胎 |
| インペリアル | 全常染色体+性染色体+微小欠失・重複92種類+5Mb超の構造異常+単一遺伝子最大155遺伝子(202疾患) | 低深度全ゲノムシーケンス+ターゲット法/単胎のみ |
当院のNIPTは通常妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。結果は基本10〜14日(インペリアルの単一遺伝子の結果は3〜4週間)です。料金には遺伝カウンセリング・4Dエコー・性別判定が含まれます。
性染色体は陽性的中率が低めになる
ここで知っておいていただきたいのは、性染色体の陽性的中率は、21トリソミーより低いことです。陽性的中率とは、NIPTで陽性と出た人のうち、実際に赤ちゃんがその状態である人の割合です。中国の出生前診断施設のデータでは、47,XXYの陽性的中率は68.8%でした[7]。報告によって幅があり、3人に1人ほどは確定検査で赤ちゃんの染色体に変化がないと分かる計算になります。
陽性的中率が低めになる理由は主に2つあります。1つは、胎盤限局性モザイクです。NIPTで見ているDNAの多くは胎盤から出たもので、胎盤の細胞だけにXXYが混ざっていて、赤ちゃん本人は46,XYということがあります。もう1つは、お母さん自身の性染色体の変化です。お母さんのDNAは血液中に大量にあるため、お母さんの一部の細胞にX染色体の数の変化があると、その影響が結果に出ることがあります。この仕組みは母体モザイクとはで、染色体によって陽性的中率が違う理由はNIPTの陽性的中率が染色体異常によって異なる理由で、性染色体の検査精度はNIPTにおける性染色体検査の精度で解説しています。
💡 用語解説:陽性的中率(ようせいてきちゅうりつ)
検査で「陽性」と出た人のうち、本当にその状態である人の割合です。たとえば陽性的中率が70%なら、陽性の10人のうち約7人は実際にその状態で、残りの約3人はそうではありません。NIPTはスクリーニング検査なので、陽性の結果だけで診断を確定することはありません。
NIPTで陽性だったら
NIPTでクラインフェルター症候群の可能性が高いと出ても、それは診断ではありません。上で説明したとおり、胎盤だけの変化やお母さん側の要因で陽性になることがあるため、陽性なら必ず確定検査で赤ちゃん本人の染色体を確かめます。確定検査の結果が出る前に、妊娠をどうするかを決める必要はありません。
確定検査には、胎盤のもとになる組織を採る絨毛検査と、羊水の中の赤ちゃんの細胞を調べる羊水検査があります。性染色体の陽性では胎盤限局性モザイクの影響を受けやすいため、赤ちゃん本人の細胞をより直接的に反映する羊水検査が選ばれることが多いです。確定検査の正確さと限界は羊水検査・絨毛検査の精度とはで解説しています。
ミネルバクリニックでは、2025年6月から産婦人科を併設し、羊水検査・絨毛検査を院内で受けられます。主要な項目は3日以内、マイクロアレイは2週間ほどで結果が出ます。陽性の場合は、陽性カウンセリングを何度でも無料で受けられます。また、受検者全員が加入する2つの互助会(カトレア会8,000円・安心検査結果保障制度6,000円)で、確定検査の費用や、再検査が必要になったときに備えています。
出生前に分かったら:考えておきたいこと
確定検査でクラインフェルター症候群と分かったとき、ご家族は「この子はどんな人生を送るのか」を考えることになります。ここで大切なのは、大人になってから不妊で見つかる人の情報だけで、生まれてくる子の姿を想像しないことです。出生前に見つかる人は、症状があって見つかった人に限られないため、より幅広い姿を含んでいます。
国や地域で異なる受け止め方
欧州11か国の先天異常登録(EUROCAT)を調べた研究では、2000〜2005年に出生前に診断された性染色体トリソミー(XXY・XXX・XYYを合わせたもの)のうち、36%が妊娠中断となっていました。その割合は国によって13%から67%と大きな幅がありました[10]。この数字はクラインフェルター症候群だけのものではなく、時代や社会の支援体制、説明の仕方によって選択が変わりうることを示しています。
妊娠を続けるかどうかは、ご家族が決めることです。どちらを選んでも、その選択が尊重されるべきだと考えます。そのためには、数字だけでなく、生まれてからどんな支えがあるのかまで知ったうえで考えられることが欠かせません。
生まれてからの支え
出生前に分かっている場合、生まれてからは小児科・小児内分泌の医師が成長を見守ります。乳幼児期はことばや運動の発達を確認し、必要に応じて言語聴覚療法や療育につなげます。思春期が近づいたら、精巣の発育とホルモンの値を確かめ、必要な時期に男性ホルモンの補充を始められます。将来子どもを望む場合の相談は、泌尿器科・生殖医療の専門医が担当します[3]。
小児科から大人の診療科への引き継ぎ(移行期医療)も大切です。思春期以降はホルモン補充、不妊、骨や代謝の健康管理と、関わる診療科が増えていくため、担当の医療機関が途切れないようにすることが長い目で見た健康を守ります。
🩺 院長コラム【性染色体まで「知る」ことの意味】
性染色体をNIPTで調べるかどうかは、国や専門家の間でも意見が分かれるテーマです。私は、知ること自体に正解・不正解があるのではなく、知った結果を正しく受け止められる体制があるかどうかが大切だと考えています。性染色体は陽性的中率が低めで、陽性でも確定検査で変化がないと分かることが少なくありません。陽性の結果だけで判断を急ぐことのないよう、確定検査までを一続きの流れとして準備しておくことが欠かせないと考えています。
クラインフェルター症候群と確定したときも、その情報は「早めに支えを準備できる」という意味をもちます。ホルモン補充の時期、学習面の配慮、将来の不妊治療の選択肢。生まれる前から見通しを立てられることは、ご家族にとって判断の材料になると考えています。
治療と健康管理
XXYという染色体そのものを変える治療はありませんが、不足する男性ホルモンを補うことで、多くの症状を和らげられます。治療と健康管理の中心は次の3つです[3]。
テストステロン補充療法
思春期以降にテストステロンが不足している場合、注射や塗り薬で補います。ひげや体毛、筋肉の発達、声の変化を助け、骨密度を保ち、疲れやすさや気分の落ち込みを和らげる効果が期待できます。ただし、補充療法は精子をつくる力を回復させるものではなく、将来子どもを望む場合は、始める前に精子を探す時期を相談する必要があります。
骨・代謝・乳房の健康管理
クラインフェルター症候群の男性は、骨粗しょう症、糖尿病や脂質異常症などの代謝の病気、血栓症などが一般の男性より起こりやすいことが知られています。デンマークの781人を調べた研究では、死亡のリスクは一般男性の約1.4倍で、生存期間の中央値は2.1年短いという結果でした[2]。ただし、この研究の対象者の多くは十分な治療や健康管理を受けていなかった時代の人たちです。定期的な健康診断と早めの対応で、リスクの多くは下げられると考えられています。乳がんのリスクも一般男性より高いとされているため、乳房のしこりに気づいたら受診してください。
学習・ことばの支え
ことばの遅れや読み書きの苦手さがある場合は、言語聴覚療法や学校での学習面の配慮が役立ちます。早い時期に特性が分かっていれば、困りごとが大きくなる前に支えを用意できます。
🏥 性染色体まで調べるNIPTを、確定検査まで見通して
ミネルバクリニックは臨床遺伝専門医が運営し、NIPTの遺伝カウンセリングから結果の説明、陽性時の羊水検査・絨毛検査まで院内で、終始責任をもって支援します。
NIPTを受ける施設を選ぶときは、陽性のときに誰が説明し、確定検査をどこで受けられるのかまで確認してください。選び方のポイントはNIPTクリニックの選び方にまとめています。
よくある質問(FAQ)
Q1. クラインフェルター症候群とは何ですか?
男性の性染色体にX染色体が1本多い47,XXYの体質です。男性の約660人に1人で、多くは精子や卵子ができるときの偶然で起こり、親からの遺伝ではありません。主な特徴は背が高い、精巣が小さい、男性ホルモンが不足しやすい、精子がつくられにくいことで、知的な発達は平均の範囲の人が大部分です。
Q2. 顔つきや見た目で分かりますか?
分かりません。顔つきに決まった特徴はなく、見た目だけで判断することはできません。背が高く手足が長い、ひげや体毛が薄いといった体つきの傾向はありますが、個人差が大きく、診断には染色体検査が必要です。
Q3. 女性にも起こりますか?
クラインフェルター症候群(47,XXY)はY染色体をもつため、体は男性として発達し、女性には起こりません。女性でX染色体が1本多い状態はトリプルX症候群(47,XXX)という別の体質です。また、染色体は46,XXなのに体が男性として発達する「46,XX精巣性性分化疾患」もクラインフェルター症候群とは別のものです。
Q4. 知能に影響はありますか?
知能は平均の範囲の人が大部分です。ただ、ことばに関わる力が他の力より低めに出やすく、ことばの出始めがゆっくりだったり、読み書きが苦手だったりすることがあります。早めに分かっていれば、言語聴覚療法や学習面の配慮につなげられます。
Q5. 子どもは持てますか?
多くは無精子症ですが、精巣の組織から精子を探す精巣内精子採取で、1回あたり約44%に精子が見つかったと報告されています。見つかった精子で顕微授精を行った場合の出産率は約43%でした。将来子どもを望む場合は、男性ホルモン補充を始める前に専門医と時期を相談することが大切です。
Q6. 寿命は短いのですか?
デンマークの研究では生存期間の中央値が2.1年短いと報告されていますが、対象者の多くは十分な治療や健康管理を受けていなかった人たちです。男性ホルモンの補充と、骨・代謝の定期的な健康管理で、リスクの多くは下げられると考えられています。
Q7. NIPTでクラインフェルター症候群はわかりますか?
性染色体を対象にしたNIPTなら調べられます。当院ではスタンダードプランとインペリアルプランが対象です。ただし性染色体は陽性的中率が21トリソミーより低く、胎盤だけの変化やお母さん側の性染色体の変化で陽性になることがあるため、陽性なら羊水検査などの確定検査で確かめます。
Q8. 出生前に分かったら、妊娠を続けられないのですか?
いいえ。妊娠を続けるかどうかは、ご家族が決めることです。クラインフェルター症候群は、多くの人が通常の学校生活・社会生活を送っており、生まれてからは成長の見守り、ことばの支え、思春期のホルモン補充、将来の不妊治療の相談といった支えがあります。数字だけでなく、そうした見通しを知ったうえで考えることが大切です。
Q9. 有名人にもクラインフェルター症候群の人はいますか?
自分の体質を公表するかどうかは、本人が決めることです。この記事では個人の名前は挙げません。クラインフェルター症候群は男性の約660人に1人と多く、約4人に3人は診断されないまま生活しているため、周囲が気づかないことの方がふつうです。
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参考文献
- [1] Groth KA, Skakkebæk A, Høst C, Gravholt CH, Bojesen A. Clinical review: Klinefelter syndrome—a clinical update. J Clin Endocrinol Metab. 2013;98(1):20-30. [PubMed 23118429]
- [2] Bojesen A, Juul S, Birkebæk N, Gravholt CH. Increased mortality in Klinefelter syndrome. J Clin Endocrinol Metab. 2004;89(8):3830-3834. [PubMed 15292313]
- [3] Zitzmann M, Aksglaede L, Corona G, et al. European Academy of Andrology guidelines on Klinefelter Syndrome. Andrology. 2021;9(1):145-167. [DOI 10.1111/andr.12909]
- [4] Corona G, Pizzocaro A, Lanfranco F, et al. Sperm recovery and ICSI outcomes in Klinefelter syndrome: a systematic review and meta-analysis. Hum Reprod Update. 2017;23(3):265-275. [PubMed 28379559]
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- [6] Thomas NS, Hassold TJ. Aberrant recombination and the origin of Klinefelter syndrome. Hum Reprod Update. 2003. [PubMed 12926525]
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- [8] Dungan JS, Klugman S, Darilek S, et al. Noninvasive prenatal screening (NIPS) for fetal chromosome abnormalities in a general-risk population: An evidence-based clinical guideline of the American College of Medical Genetics and Genomics (ACMG). Genet Med. 2023;25(2):100336. [PubMed 36524989]
- [9] 日本医学会 出生前検査認証制度等運営委員会. NIPT等の出生前検査に関する情報提供及び施設(医療機関・検査分析機関)認証の指針(検査分析機関認証細則). [出生前検査認証制度等運営委員会]
- [10] Boyd PA, Loane M, Garne E, Khoshnood B, Dolk H; EUROCAT working group. Sex chromosome trisomies in Europe: prevalence, prenatal detection and outcome of pregnancy. Eur J Hum Genet. 2011;19(2):231-234. [DOI 10.1038/ejhg.2010.148]
※本記事は一般の方に向けた情報提供を目的とするもので、個別の診断・治療方針を示すものではありません。検査や治療については、主治医・専門医にご相談ください。



