InstagramInstagram

上のお子さんがGJB2遺伝子変異による難聴がありNIPTで出生前診断

上のお子さんがGJB2遺伝子変異による難聴で、乳幼児期むけの聾学校に通っているご夫婦から相談をもらいました。NIPTでGJB2遺伝子検査を検出可能なのがミネルバクリニックだけなので、全国から相談が寄せられています。

先天性難聴とは

先天性難聴は生まれた時から難聴がある状態を意味しています。日本では大体500人に1人が先天性難聴で産まれるという頻度が高いものです。そのうち約70%が遺伝的原因で難聴を発症していると考えられています。

難聴は言語発達や教育にも大きな支障をきたすことからQOL(生活の質)の著しい低下を来すものです。内耳は小さな器官生検できないため、遺伝子診断が感音難聴のほぼ唯一の確定診断法である。耳の聞こえ具合に関係のある遺伝子は多いのですが、GJB2遺伝子病的変異による劣性遺伝難聴の頻度が一番高いものです。GJB2遺伝子の病的変異による難聴は劣性遺伝形式を取ります。

GJB2遺伝子の病的変異の保因者頻度

健常者でのGJB2遺伝子の病的変異の保因者は白人等では約3%(30人に一人)と報告されています。ミネルバクリニックでは新型出生前検査NIPTの際に、ご両親・おなかの赤ちゃんを調べることが可能ですが、日本人の保因者も約30人に一人で、白人と同程度の確率で保因者がいることがわかってきました。

また、GJB2遺伝子変異による難聴患者数が日本全国で約4万人ですので、日本の人口を1億3千万人で計算すると、日本人は3.5%の確率でGJB2遺伝子病的変異を保因していることになると計算できるので、ミネルバクリニックにおける検査結果と合致しています。

GJB2遺伝子の病的変異による難聴の症状

GJB2遺伝子はギャップ結合蛋白(コネキシン26)をコードする遺伝子で、内耳のカリウムイオンの維持に重要な役割を果たしています。症状は、両側性の感音性難聴です。変異の種類によって難聴の程度や進行速度にバリエーションがありますが、回復することはありません。

合併症

難聴以外の症状の報告はありません。

治療法

現時点では疾患そのものを治療する有効な治療法はありません。難聴の程度に応じて、補聴器による聴力の補助や人工内耳による治療を行います。将来的には胎児のうちに診断して子宮内で治療することが可能となるよう研究が進んでいます。

遺伝カウンセリング

このご夫婦はお子さんの遺伝子検査の結果をお持ちでした。

ミネルバクリニックでは遺伝性疾患の出生前診断をNIPTで4種類の遺伝子について可能で、その中にGJB2遺伝子も含まれています。この検査ではご両親の遺伝子検査とおなかの赤ちゃんの遺伝子検査の両方をします。

上のお子さんのGJB2遺伝子検査は保険診療で可能ですが、あくまでも難聴のあるご本人だけが保険で可能で、ご両親やご兄弟(同胞)の保因者検査などは出来ません。保険では3880点(1点は10円で計算)ですが、対象外のかたの検査を自費でするとなると、その医療機関の倫理審査委員会を通さないといけないので、外来で医師に「調べたいんです」と希望を出しても断られると思います。

ミネルバクリニックではご両親、お腹の赤ちゃんのGJB2遺伝子異常を検査することが可能ですが、確定診断には絨毛または羊水の検体で遺伝子検査をすることが必要になります。しかし、現実的にはこれを行ってくれる施設は日本にはありません。

こういう背景を踏まえて、このご夫婦はコンプリートNIPTデノボプラスのコースをお選びになりました。上のお子さんの言語獲得のための教育環境を確保するのに都会でも結構苦労すること、母親が働かずに子どもになるだけ接したほうが言語獲得能力が高くなるなどの周囲からの圧力などが理由で、もう一人聴覚障害のお子さんは育てられない、この検査がなければそのまま妊娠中絶することを選択したい、という事だったからです。このご夫婦にはすでに複数のお子さんがいるので、お子さんの数を無理に増やしたいという事でもなく、妊娠も意図しないものだったそうです。こういう場合、昔なら出生前診断が発達していなかったのでそのまま中絶されていたことでしょう。しかし、現在はネット社会。幸か不幸か情報にあふれており、ミネルバクリニックはGJB2遺伝子というキーワードでヒットします。こうしてミネルバクリニックにたどり着いてくださったご夫婦。藁をもつかむ思いでミネルバクリニックにたどり着く方々。
検査を受けることでもしかして大丈夫なお子さんだと判ったら産んでくれる。臨床遺伝専門医としては複雑かつ倫理ジレンマに陥りながら、わたしはこの検査をこのご夫婦に提供することにしました。「難聴」だけで合併症のないこの疾患を出生前診断の対象とすることについては大いに議論があるところなので専門医としては倫理的ジレンマに陥る。出生前診断の基本的方針としては「生命予後がよくない疾患」や「生活の質QOLが甚だしく制限される疾患」に限るという方針です。しかし、「QOLが制限される」はご本人たちの受けとめかたや社会のバックアップなどにより変わりますので、どういう疾患なら対象とすべきかなどといった根本的な議論がなされないまま検査会社によりどんどん上市されていく、医療提供側の心の準備もままならない、という感じで出生前診断の現場は大きく揺らいでいます。
しかし。最善ではなくても次善ということが世の中にはある。確かに絨毛または羊水の検体で遺伝子検査をすべきなのですが、日本では行えない。NIPTで可能という次善があるのに提供しない、ということも専門医としてははばかられるし、何よりリスクやベネフィットを理解してご本人たちが選択することを徹底的にサポートすることがわたしの専門医としての揺るがない態度です。患者さんとわたしは悩みながらこの検査をすることにしました。

検査結果

検査結果は、GJB2遺伝子病的変異を持っているお子さんの2つの遺伝子変異の片方ずつをご両親がそれぞれ持っていました。そして、お腹の赤ちゃんは病的変異がありましたが、片方だけでした。つまり、常染色体劣性遺伝形式なので片方だけでは発症しない、おなかのお子さんは保因者の可能性が高いと判明しました。

ご夫婦の選択

この検査結果を受けて、ご夫婦はおなかの赤ちゃんの出産へと舵を切りました。もちろん、この検査結果が正しくなくてもそれはそれで受け入れる、というお覚悟でした。しかし、妊婦さんご本人はこの結果にとても安堵しておられました。

まとめ

出生前診断に携わっていると、わたしがいなければ生まれなかった命が少ないけどある、という結果につながります。それはとても嬉しいことですし、とても重いことだと思います。これからも、日本全国の悩める方々の一筋の光となれるように精進したいと思います。無事に妊娠期間を過ごして元気にうまれてきますように。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

関連記事