この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

遺伝性膵炎は、生まれ持った遺伝子の変化が原因で、子どものころや若いうちから膵炎をくり返す病気です。お酒も飲まず胆石もないのに膵炎をくり返し、「原因不明」と言われたまま何年も過ごしている方の中に、PRSS1・SPINK1などの遺伝子の変化が見つかることがあります。原因がわからないまま病院を回る時間を、1回の検査で短くできる可能性があります。このページでは、膵炎の原因になる15の遺伝子を一度に調べる「慢性膵炎の遺伝子パネル検査」でわかること、遺伝する確率、膵がんへの備え、ご家族の検査までを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. 遺伝性膵炎の遺伝子検査で何がわかりますか?
慢性膵炎の検査として、PRSS1・SPINK1・CFTRなど、膵炎の原因やなりやすさに関わる15の遺伝子をまとめて調べます。シュワッハマン・ダイアモンド症候群など、膵臓の病気をともなう症候群の遺伝子も入っています。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
子どものころの急性膵炎、原因不明のまま膵炎を繰り返す方、25歳より前に始まった原因不明の慢性膵炎の方、ご家族に膵炎・糖尿病・膵がんの方が多い方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円で、遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。結果までは2〜3週間です。血液・唾液・頬の内側の粘膜で検査でき、オンライン診療でも受けられます。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因がわかれば、禁煙・禁酒や、膵がんの見張りが必要かどうかなど、次に何をするかを考えられ、病的変異が特定されればご家族も同じ変化をピンポイントで調べられます。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 遺伝性膵炎とは?お酒・胆石以外の膵炎の原因になる遺伝子
遺伝性膵炎とは、遺伝子の変化が原因で、子どものころや若いうちから急性膵炎をくり返し、慢性膵炎へ進んでいく病気です。膵炎の原因というとお酒や胆石が思い浮かびますが、それらがないのに膵炎をくり返す方では、遺伝子が原因のことがあります。遺伝性膵炎は、国の指定難病(指定難病298)にも定められています。
膵臓は、食べ物を消化する酵素(消化酵素)を作る臓器です。その代表がトリプシンで、ふだんは膵臓の中では働かない形(トリプシノーゲン)で作られ、腸に出てから働き出します。PRSS1は、このトリプシノーゲンの設計図になる遺伝子です。PRSS1の変化や、トリプシンを抑える働きをもつSPINK1の変化があると、トリプシンが膵臓の中で働いてしまい、膵臓が自分自身を傷つけて膵炎が起こると考えられています[1]。
日本の全国調査(2005〜2014年)では、遺伝性膵炎の基準を満たした100家系・271人が集められました。遺伝子を調べた家系のうち、PRSS1の変化が41%、SPINK1の変化が36%で見つかっています[2]。難病情報センターは、日本の遺伝性膵炎の患者さんを300〜500人ほどと推計しています(2026年10月時点で確認)。
若いのに膵炎を繰り返すのはなぜ?
10代・20代で膵炎を繰り返す場合や、原因不明の急性膵炎を何度も起こす場合は、遺伝子の変化が隠れていることがあります。遺伝性膵炎では、症状が早く始まるのが特徴です。米国の大きな家族研究では、膵炎と診断された年齢の中央値は7歳でした。平均すると、急性膵炎は10歳ごろ、慢性膵炎は20歳ごろに起こるとされています[1]。日本の全国調査では、症状が出はじめた年齢の平均は17.8歳でした[2]。
若いうちに始まる膵炎ほど、遺伝子の変化が見つかる割合も高くなります。ドイツの研究では、CPA1という遺伝子の働きを弱める変化が、10歳以下で発症した慢性膵炎の方の9.7%に見つかりました[7]。日本の研究では、TRPV6という遺伝子の変化が、20歳以下で発症した膵炎の方の9.7%に見つかり、一般の方では0.1%でした[10]。
遺伝性膵炎の症状と経過(いつ始まるか・糖尿病・寿命)
遺伝性膵炎では、腹痛・吐き気・嘔吐などの膵炎の発作をくり返すうちに慢性膵炎へ進み、年齢とともに消化酵素が足りなくなることや、糖尿病が増えていきます。膵臓で消化酵素が作れなくなると、脂肪が消化されずに便に出る(脂肪便)、下痢、体重が減る、といった症状が出ます。インスリンを作る力が落ちると、糖尿病になります。
📈 遺伝性膵炎の合併症が起こる割合(累積)
※日本は遺伝性膵炎の全国調査(2005〜2014年、100家系271人)[2]、欧州はEUROPACの調査[3]による。調べた集団・年齢の区切りが違うため、数字をそのまま比べることはできません。
「遺伝性膵炎の寿命は?」と心配される方は多いのですが、遺伝性膵炎の寿命を年数で示した信頼できるデータは、今のところありません。見通しを左右するのは、糖尿病や消化酵素の不足をどう管理するかと、のちほど説明する膵がんへの備えです。遺伝性膵炎では、膵がんの起こる人が50歳ごろから増えはじめるとされています[1]。だからこそ、原因を知って早くから備えることに意味があります。
指定難病298・小児慢性特定疾病(2026年10月時点)
遺伝性膵炎は、指定難病298に定められています。また、小児慢性特定疾病情報センターの対象疾病にも、慢性消化器疾患の「遺伝性膵炎」が掲載されています(いずれも2026年10月時点で確認)。医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。認定の基準や申請の方法は、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。
病名がわかると、こうした制度を使えるかどうかを主治医と具体的に相談できるようになります。遺伝子検査で原因がわかることは、制度を考えるうえでも手がかりになります。
2. 慢性膵炎の遺伝子検査を受けるとよい人
原因のわからない膵炎を若いうちから繰り返している方、ご家族に膵炎の方が多い方に向く検査です。遺伝性疾患の解説書GeneReviewsは、次のような場合に遺伝子検査を考えるとしています[1]。
- ●子どものころに急性膵炎を起こした方
- ●原因がわからないまま急性膵炎を繰り返している方
- ●原因不明の慢性膵炎の方(とくに25歳より前に始まった方)
- ●ご家族に、膵炎を繰り返す方・子どものころに膵炎になった方・糖尿病や膵がんの方が多い方
このほか、シュワッハマン・ダイアモンド症候群、ジョハンソン・ブリザード症候群、家族性高カイロミクロン血症(高リポタンパク血症)と診断された方や、その疑いがある方も対象になります。
病名がわかると、受けるべき検査、気をつけたい生活習慣、使える制度(指定難病・小児慢性特定疾病)が決まります。遺伝性膵炎とわかれば、禁煙・禁酒の意味がはっきりし、膵がんの見張りを何歳から考えるかも計画できます。原因不明のまま「次の発作が来ないように」と過ごすのとは、できることが大きく変わります。
この検査より別の検査が向いている場合
膵炎のほかに目立つ症状や検査の異常があるときは、そちらに合わせた検査のほうが向いていることがあります。このパネルにも一部の遺伝子は入っていますが、それぞれの病気をより広く調べる検査が当院にあります。
🔍 症状・検査の結果に合わせた検査の選び方
※遺伝子の数は、2026年10月時点の当院の各検査ページによる。どの検査が合うかは、症状・検査の結果・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングで一緒に決めましょう。
3. 調べる15遺伝子と、それぞれでわかる病気
この検査では、膵炎の原因やなりやすさに関わる遺伝子と、膵臓の病気をともなう症候群の遺伝子、あわせて15の遺伝子を一度に調べます。15遺伝子は、APOC2、CASR、CEL、CFTR、CLDN2、CPA1、CTRC、EFL1、GPIHBP1、LPL、PRSS1、SBDS、SPINK1、TRPV6、UBR1です。
🧬 慢性膵炎の遺伝子パネル検査で調べる15遺伝子
※PRSS1・CASRはGeneReviews[1]、SPINK1は文献[5]、CTRC・CPA1・CEL・CLDN2・TRPV6は文献[6][7][8][9][10]、UBR1は文献[11]、SBDS・EFL1は文献[12]、LPL・APOC2・GPIHBP1は文献[13]による。CFTRの病名は当院の嚢胞性線維症・先天性両側精管欠損症のページによる。
PRSS1は遺伝性膵炎の代表的な原因遺伝子で、日本でもっとも多く見つかります。日本の全国調査では、遺伝子を調べた家系の41%にPRSS1の変化(R122H型が33%、N29I型が8%)がありました[2]。PRSS1の変化をもつ方のうち、実際に膵炎になる割合(浸透率)は、変化の種類によって約40%から96%まで幅があると報告されています[1]。難病情報センターは、PRSS1の変化をもつ方の8〜9割が発症するとしています。
SPINK1は、日本で2番目に多く見つかる遺伝子です。日本の全国調査では、家系の36%にSPINK1の変化(N34S型22%、c.194+2T>C型14%など)がありました[2]。ただし、SPINK1の変化は「持っていれば膵炎になる」というものではありません。N34S型を含む型は、多くの集団で1〜3%の人がもっている一方、慢性膵炎は1万人に1人未満とされています。複数の研究をまとめた解析では、この型をもつ人が原因不明の慢性膵炎になるオッズは、もたない人の約15倍(オッズ比14.97)でした[5]。この数字からは、SPINK1の変化をもっていても、多くの方は膵炎にならないことがわかります。
CFTRは、肺や膵臓などに症状が出る嚢胞性線維症の原因遺伝子として知られていますが、膵炎のなりやすさにも関わります。GeneReviewsでは、SPINK1・CFTR・CTRC・CASRは、トリプシンが膵臓の中で働いてしまうのを強める方向に働く遺伝子(修飾遺伝子)と考えられています[1]。CTRCは、トリプシンを分解する酵素の設計図で、その働きや分泌を弱める変化が慢性膵炎と関連していました[6]。
近年見つかった遺伝子もあります。CPA1の働きを弱める変化は、ドイツの慢性膵炎の方の3.1%に見つかり、膵炎のない方(0.1%)より大きく多い結果でした。日本の慢性膵炎の方でも2.0%に見つかっています[7]。CELとよく似た配列が組み換わった型(CEL-HYB)は、家族性の慢性膵炎の方の14.1%に見つかり、膵炎のない方では1.0%でした[8]。ただし、CEL-HYBはCELとよく似た配列(偽遺伝子)が組み換わってできる構造の変化で、遺伝子の配列を読む通常の解析では見つけられない場合があります。この検査でCEL-HYBまで調べられるかは、遺伝カウンセリングでご確認ください。CLDN2のよくある型の違いは、アルコール性・原因不明の膵炎のなりやすさに関わります[9]。TRPV6は日本の研究で見つかった遺伝子で、アルコールが原因ではない慢性膵炎の方の4.3%に、働きを弱める変化がありました[10]。
💡 用語解説:「原因」と「なりやすさ」
PRSS1のように、1つの変化で病気が起こりやすい遺伝子を「原因遺伝子」と呼ぶのに対し、SPINK1・CTRC・CPA1などは、変化があると膵炎に「なりやすくなる」遺伝子です。なりやすさの遺伝子は、ほかの遺伝子の変化やお酒・たばこなどの環境と重なって、はじめて膵炎につながると考えられています。2つの遺伝子の変化が重なって病気が起こるしくみを二遺伝子遺伝といいます。
症候群の一部として膵臓が悪くなる遺伝子
このパネルには、膵臓の病気が症候群の一部として現れる3つの病気の遺伝子も入っています。膵臓以外の症状が手がかりになるので、あわせて確かめます。
シュワッハマン・ダイアモンド症候群(SBDS・EFL1):膵臓で消化酵素が作れない状態(90%を超える方)、好中球などの血液の細胞が減る状態(95%を超える方)、骨格の変化(約60%)、体重が増えにくい・成長が遅い(約80%)などが特徴です。原因の約92%はSBDSの変化で、EFL1は1%未満です。骨髄異形成症候群が約10%の方に起こるとされ、血液の見張りが欠かせません[12]。SBDSは、当院の好中球減少症の遺伝子検査・骨髄不全症候群の遺伝子検査にも入っています(EFL1は入っていません)。
ジョハンソン・ブリザード症候群(UBR1):生まれつき膵臓の消化酵素が出ない状態に、鼻翼(小鼻)が小さい・ないなどの体の形の変化や、知的障害をともなう常染色体潜性(劣性)遺伝の病気です。UBR1が働かないと、おなかの中にいるときから膵臓が壊れていくことが報告されています[11]。
家族性高カイロミクロン血症(LPL・APOC2・GPIHBP1):血液の中性脂肪を分解するしくみが働かず、中性脂肪がとても高くなって急性膵炎を繰り返す常染色体潜性(劣性)遺伝の病気です。治療していない状態で中性脂肪が2,000mg/dLを超えると、この病気を疑います。約30万人に1人と推定され、LPLの変化によるものがもっとも多いとされています[13]。中性脂肪が高い原因をより広く調べたい場合は、家族性高トリグリセリド血症の遺伝子検査(14遺伝子)が向いています。
4. 膵炎は遺伝する?遺伝する確率とご家族への影響
膵炎の多くは、お酒や胆石などが原因で、遺伝子1つで決まるものではありません。ただし、遺伝子の変化が原因の膵炎は、親から子へ受け継がれることがあります。受け継ぐ確率は、どの遺伝子のどんな変化かによって大きく違います。
常染色体顕性(優性)遺伝では、対になった遺伝子の片方に変化があれば発症しうるため、親が変化をもっていれば、お子さん1人ごとに2分の1の確率で受け継ぎます。性別には関係しません。GeneReviewsによると、遺伝性膵炎の方の多くは親も同じ病気ですが、親から受け継がずに新しく起きた変化(新生突然変異)の方もいます[1]。
常染色体潜性(劣性)遺伝では、対になった遺伝子の両方に変化があると発症します。片方だけに変化がある方は保因者で、ふつうは症状が出ません。ご両親とも保因者の場合、お子さん1人ごとに4分の1の確率で発症します。
⚠️ 「親が軽いから、子どもも軽い」とは言えません
PRSS1の変化をもっていても、発症しない方や症状が軽い方がいます。そのため、親御さんが膵炎に気づいていなくても、同じ変化を受け継いだお子さんが子どものうちから膵炎を繰り返すことがあります。ご家族の中で症状の重さが違っても、「誰のせいか」という話ではありません。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。知ったうえで、ご家族それぞれが備えることに意味があります。
「家族に膵炎の人が多いけれど、自分も・子どもも膵炎になるのでは」と不安を抱えながら暮らしている方もいます。ご家族で原因の変化がわかっていれば、その変化をご自身が受け継いでいるかどうかを調べられます。受け継いでいないとわかれば、その変化について、ご家族と同じ確率を心配しなくてよくなります。受け継いでいるとわかった場合も、次の章で説明するように、早くからできる備えがあります。知らないでいることも、選べる選択肢です。
5. 検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、15の遺伝子にある小さな変化(一つの塩基の変化や、小さな欠失・挿入)と、遺伝子のまとまった欠失・重複の一部です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
PRSS1を例にとると、病気の原因となる変化の94%以上は遺伝子の配列を読む方法で見つかり、最大6%は欠失・重複を調べる方法で見つかるとされています[1]。ただし、これはPRSS1関連遺伝性膵炎についての報告で、この15遺伝子パネル全体で原因が見つかる割合を示す数字ではありません。この検査では、遺伝子の配列を読む解析と、遺伝子のまとまった欠失・重複を調べる解析の両方が料金に含まれています。
- ●調べていない場所:遺伝子のはたらきを調節する領域の多くや、遺伝子の中の奥深い領域(遺伝子の読み取られる部分から20塩基以上離れた場所)の変化、染色体の組み換え(転座・逆位)、繰り返し配列の伸長は、この検査では見つかりません。
- ●欠失・重複の見つけやすさ:遺伝子1つまるごとの欠失・重複(頬の粘膜・血液の検体)や、となり合う2つ以上のエクソン(遺伝子の読み取られる部分)の欠失・重複(血液の検体のみ)は見つけられますが、エクソン1つだけの欠失・重複はふだんの解析では見つかりません。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
- ●モザイク:体の一部の細胞にだけ変化がある状態(モザイク)を見つけることは目的としていません。がんなどの腫瘍の組織を調べる検査でもありません。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうかまだ判断できない変化が見つかることがあります。VUSだけで診断を確定したり、否定したりはできません[1]。
- ●陰性でも否定はできません:日本の全国調査でも、原因の遺伝子が見つからない遺伝性膵炎の家系があります。15の遺伝子に変化が見つからなくても、遺伝性膵炎ではないとは言い切れません。
- ●症状のない方の陽性:浸透率が100%ではないため、症状のない方でPRSS1などの変化が見つかっても、それだけでは遺伝性膵炎の診断にはなりません[1]。
調べた目的とは別の病気の原因が見つかった場合(二次的所見)の扱いは、当院の二次的所見の開示方針に沿ってご説明します。
6. 病的変異が見つかったら、次にできること
原因の遺伝子がわかると、ご本人は禁煙・禁酒などの対策を考えられます。膵がんの見張りが必要かどうかは、原因の遺伝子・膵炎の経過・ご家族の膵がんの有無などをふまえて判断します。病的変異が特定された場合は、ご家族も同じ変化をピンポイントで調べることを検討できます。わかるだけで終わらず、次に何ができるかを、読む方の立場ごとにまとめます。治療や見張りは、膵臓の病気を専門にする医療機関で受けていただきます。
ご本人:禁煙・禁酒と、膵がんの見張り
遺伝性膵炎とわかったら、いちばん大事なのは禁煙と禁酒です。GeneReviewsによると、たばこは遺伝性膵炎を含むすべての膵炎のリスクをおよそ2倍にし、お酒とたばこが重なるとおよそ8倍になります。たばこは膵がんのリスクも2倍にし、膵がんが起こる年齢を早めます。反対に、たばこを避けると膵がんが大きく減ることも示されています[1]。難病情報センターも、飲酒と喫煙を厳しく控えるよう求めています。
遺伝性膵炎では、膵がんのリスクが高くなります。ただし、その大きさは研究によって幅があります。
🩺 遺伝性膵炎と膵がんのリスク(研究ごとの報告)
※調べた集団・方法・年齢の区切りが違うため、1つの数字にまとめることはできません。ご自身のリスクは、遺伝子の結果・年齢・喫煙歴・ご家族の膵がんの有無をふまえて考えます。
膵がんを早く見つけるための見張り(定期的な画像検査など)については、国際的な専門家の会議(CAPSコンソーシアム)で、遺伝性膵炎の方には見張りを勧めること、多くの専門家は40歳から、または初めての膵炎発作から20年たったところで始めるのがよいとしたことが報告されています。ただし、どのように見張るかは、専門家の間でも意見が分かれている点とされています[4]。膵炎で膵臓に傷あとがあると画像で見分けにくくなるため、見張りは遺伝性膵炎にくわしい医療機関で計画することが勧められています[1]。SPINK1などのなりやすさの変化が見つかった方も含め、見張りが必要かどうか、いつから始めるかは、原因の遺伝子・膵炎の経過・ご家族の膵がんの有無などをふまえて、膵臓の病気を専門にする医療機関で判断します。がんの心配について当院で相談したい方は、がん診療専門外来のページもご覧ください。
消化酵素が足りなくなったときは、膵消化酵素薬で補います。難病情報センターは、病気が進んだ段階では脂肪を減らしすぎず、膵消化酵素薬を使って十分な栄養をとることが大切としています。糖尿病の管理、内視鏡治療・手術を考えるかどうかも、原因がわかったうえで主治医と相談できます。
家族性高カイロミクロン血症とわかった場合は、膵炎を防ぐために脂肪の量を1日約20g(エネルギーの約15%)に抑える食事が基本になります。女性では、妊娠中に急性膵炎になるリスクが約120倍高いと推定されているため、妊娠を考える段階から主治医と計画することが大切です[13]。シュワッハマン・ダイアモンド症候群とわかった場合は、骨髄異形成症候群に備えて血液の定期的な見張りが必要になります[12]。
ご家族:同じ変化をピンポイントで調べる
ご本人で原因の変化がわかると、ご両親・きょうだい・お子さんは、その変化だけを調べて、受け継いでいるかどうかを確かめられます。症状のないご家族の検査は、将来の膵炎や膵がんのリスクを知る検査でもあるため、ご本人の同意のうえで、検査の前に遺伝カウンセリングで知ることの意味をよく考えていただきます。
変化を受け継いでいるとわかった症状のないご家族は、たばこを吸わない・お酒を控えるといった生活の工夫を、早くから意味をもって続けられます。膵炎の症状が出たときに、遺伝性膵炎を前提に早く相談できることも利点です。潜性遺伝の病気で保因者とわかった方は、ご自身の健康に大きな影響はふつうありませんが、パートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかで、お子さんへの確率が変わります。
お子さん・妊娠を考えるとき
結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる大きな選択です。PRSS1の変化がわかっている方は、お子さんへの確率が2分の1であることを知ったうえで、計画を立てられます。潜性遺伝の病気(シュワッハマン・ダイアモンド症候群・家族性高カイロミクロン血症など)の保因者とわかった方は、パートナーの保因者検査で、お子さんへの確率を具体的に知ることができます。
CFTR・SBDS・LPLは、当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子)の対象に入っています。妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」(女性787遺伝子・男性714遺伝子、単独では受けられません)もあります。当院のNIPTは妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。対象の遺伝子かどうかは、それぞれの遺伝子一覧でご確認ください。
ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。当院では羊水検査・絨毛検査を院内で行っています(2025年6月から産婦人科を併設)。その病気で出生前診断を行えるかは、病気の重さや国内の指針をふまえて個別に考えますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。もちろん、何も調べずに出産することも、そのまま選べる選択肢です。どの選択も尊重します。
陰性・VUSだったとき
15の遺伝子に原因が見つからなかった場合でも、遺伝性膵炎の可能性がなくなるわけではありません(第5章)。原因のわからない膵炎の経過観察や治療は、引き続き主治医のもとで続けていただきます。症状がほかの病気を思わせる場合は、第2章の表のように別の検査を考えます。
意義がまだわからない変化(VUS)は、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査に使ったりはしません。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。生まれ持った遺伝子は一生変わらないので、一度の検査でわかったことは、この先の健康管理や家族の計画を考えるときにも使える情報になります。
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明し、次にどうするかを一緒に考えてから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。
7. 費用・結果までの日数・検体・検査の流れ
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。血液・唾液・頬の内側の粘膜のいずれでも検査でき、オンライン診療でも受けられます。この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
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💴 費用・日数・検体
※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。オンライン診療(ビデオ通話での診療)では、遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただく流れになります。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体の取り違えや品質の低下を防ぐため、検体はご自身の判断で採らず、当院の案内に沿って採取してください。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。報告書の読み方は、遺伝子検査結果の見かたでも解説しています。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
8. 院長コラム
🩺 院長コラム【「原因不明」のままにしないことが、次の一手になる】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
膵炎は「お酒の飲みすぎの病気」と思われがちです。そのため、お酒を飲まない若い方が膵炎を繰り返しても、原因がわからないまま発作のたびに治療を受けている、ということが起こりえます。けれども、遺伝性膵炎では、たばこを避けることや、膵がんの見張りをいつから考えるかなど、原因がわかってはじめて意味をもつ備えがあります。私はがん薬物療法専門医でもあり、膵がんを早く見つけることの大切さを重く考えています。
遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。ご自身の健康管理も、ご家族の検査も、結婚や妊娠の計画も、原因がわかってはじめて具体的に考えられます。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 遺伝性膵炎の寿命は?
遺伝性膵炎の寿命を年数で示した信頼できるデータは、今のところありません。見通しを左右するのは、糖尿病や消化酵素の不足をどう管理するかと、膵がんへの備えです。たばこを吸わない、お酒を控えることが大切で、原因の遺伝子がわかれば、膵がんの見張りをいつから考えるかも計画できます。
Q2. 遺伝性膵炎で膵臓がんのリスクは高くなりますか?
高くなります。日本の全国調査では、膵がんと診断された人の割合は70歳で22.8%でした。ただし研究によって幅が大きく、より新しい推定では70歳までに7.2%という報告もあります。たばこは膵がんのリスクを高め、発症を早めるため、禁煙がとくに大切です。
Q3. 膵炎は遺伝しますか?遺伝する確率は?
膵炎の多くは遺伝子1つで決まるものではありませんが、遺伝子が原因の膵炎は受け継がれることがあります。PRSS1の変化は常染色体顕性(優性)遺伝で、お子さん1人ごとに2分の1の確率で受け継がれます。ただし、受け継いでも発症しない人もいます。SPINK1などのなりやすさの変化は、何%が発症するとは言えません。
Q4. SPINK1の変化が見つかったら、必ず膵炎になりますか?
必ずなるわけではありません。SPINK1のN34S型を含む型は、多くの集団で1〜3%の人がもっている一方、慢性膵炎は1万人に1人未満とされています。SPINK1の変化は、ほかの遺伝子の変化やお酒・たばこと重なって膵炎につながる、なりやすさの変化と考えられています。
Q5. 家族に膵炎の人が多いと、結婚や妊娠に影響しますか?
遺伝の確率は、どの遺伝子のどんな変化かによって、ご家族ごとに違います。遺伝子検査で、ご自身が変化をもっているか、パートナーが保因者か、お子さんへの確率はどれくらいかがわかります。知ったうえで、出生前診断なども含めて計画を立てられます。当院では羊水検査・絨毛検査を院内で行っていますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。
Q6. 検査で異常が見つからなければ、遺伝性膵炎ではないのですか?
そうとは言い切れません。日本の全国調査でも、原因の遺伝子が見つからない遺伝性膵炎の家系があります。この検査で調べられない種類の変化や、まだ知られていない遺伝子が関わる可能性もあります。症状がある場合は、引き続き主治医のもとで経過観察や治療を続けてください。
Q7. 遺伝性膵炎は指定難病ですか?
はい。遺伝性膵炎は指定難病298に定められており、小児慢性特定疾病の対象疾病にも掲載されています(2026年10月時点)。医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。
Q8. オンライン診療で受けられますか?
受けられます。唾液・頬の内側の粘膜・血液のいずれでも検査でき、血液の場合は全国の提携医療機関で採血をお願いします。オンラインで遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただきます。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。
🧬 原因不明の膵炎を、次の一手が決まる病名に
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。膵炎の原因の遺伝子がわかれば、禁煙・禁酒や膵がんの見張りといったご自身の備えだけでなく、ご家族の検査や、結婚・妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
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