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先天性中枢性低換気症候群(CCHS)の遺伝子検査|PHOX2Bを含む6遺伝子でわかること・次のお子さんへの影響

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

記事の作り方(編集方針)

先天性中枢性低換気症候群(CCHS)の遺伝子検査

先天性中枢性低換気症候群(CCHS)は、眠ると呼吸が浅くなり、体の中に二酸化炭素がたまっても呼吸が自然に深くならない、生まれつきの病気です。主な原因はPHOX2Bという遺伝子の変化で、遺伝子検査で原因を確かめると、病名がはっきりし、合併症への備え方や次のお子さんへの影響まで、具体的に考えられるようになります。原因がわからないまま悩む時間を、1回の検査で終わらせられる可能性があります。このページでは、症状・寿命の見通し・遺伝のしかたと、PHOX2Bを含む6つの遺伝子を調べる検査でわかることを、臨床遺伝専門医が解説します。

⏱️ 30秒でわかる要約

🧬 Q. この検査で何がわかりますか?

先天性中枢性低換気症候群の主な原因であるPHOX2B遺伝子の変化(ポリアラニンの伸長を含む)と、ASCL1・BDNF・EDN3・GDNF・RETの合わせて6つの遺伝子を、まとめて調べます。

🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?

生まれたときから眠ると呼吸が浅くなる赤ちゃんのご家族、大人になってから眠っているときの低換気を指摘された方、そしてお子さんがCCHSと診断され、次の妊娠を考えているご両親です。

🧬 Q. 費用・日数・検体は?

結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜などで、オンライン診療でも受けられます。検査費用はお問い合わせください。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。

🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?

結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。CCHSの方のお子さんが原因を受け継ぐ確率は2分の1です。ご家族の検査や、意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。

\ 一生変わらない遺伝子を知って、これからの計画に /

📅この検査を予約する(遺伝カウンセリングの予約)

検査の前に臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行い、結果も臨床遺伝専門医が直接ご説明します。

お問い合わせはこちら | どの検査がよいか迷う方へ

1. 先天性中枢性低換気症候群(CCHS)とは

先天性中枢性低換気症候群は、呼吸を調節する脳のしくみが生まれつきうまく働かず、主に眠っているあいだに呼吸が浅く少なくなる(低換気)病気です。重い方では、起きているあいだも低換気になります。体の中に二酸化炭素がたまったり、酸素が足りなくなったりしても、本人は息苦しさを感じにくく、呼吸が自然に深くならないのが特徴です[1][2]。

読み方・英語名・別名

読み方は「せんてんせい ちゅうすうせい ていかんき しょうこうぐん」です。英語では congenital central hypoventilation syndrome といい、頭文字をとってCCHSと呼ばれます。古くから「オンディーヌの呪い(Ondine’s curse)」という別名でも知られています。なお、整形外科の骨折の手術でも「CCHS」という同じ略語が使われることがありますが、まったく別のものです。

どれくらいの人がなる病気か

発症の頻度は、日本の研究で出生14万8千人に1人、フランスの研究で出生20万人に1人と推定されています[1]。2020年の国際的な診療ガイドラインも、この2つの数字の幅で頻度を示しています[2]。とてもまれな病気なので、診断までに時間がかかることがあります。

原因:PHOX2B遺伝子とポリアラニンの伸長

CCHSの主な原因は、PHOX2B遺伝子の変化です[1][2]。CCHSでは、呼吸の調節だけでなく、心拍や腸の動きなど、意識しなくても体を整える自律神経の働きにも乱れが出ることがあります[1]。

PHOX2B遺伝子の中には、アラニンというアミノ酸を20個つなげて作る部分があります。CCHSの方の多くでは、この部分が片方の遺伝子で長く伸びて、24〜33個になっています。これを「ポリアラニンの伸長(PARM)」といいます。GeneReviewsによると、PHOX2Bに原因が見つかる方のうち約90〜92%がこの伸長で、約8〜10%はポリアラニンの伸長以外の変化(NPARM)、1%未満が遺伝子の一部や全体の欠失です[1]。

💡 用語解説:「20/25」などの書き方

ポリアラニンの伸長は、「20/25」のように書きます。左が伸びていない側(20個)、右が伸びた側(この例では25個)のアラニンの数です。伸びた数によって、症状の重さや合併症の起こりやすさの傾向が違います[1]。

2. 症状:眠ると呼吸が浅くなる・自律神経の症状

CCHSの中心となる症状は、眠っているあいだの低換気です。あわせて、腸や心臓など、自律神経がかかわる症状が出ることがあります[1][2]。どの症状がどれくらい出るかは、PHOX2Bの変化の種類で傾向が違います。

新生児期に発症する型と、大人になって見つかる型

多くの方は、生まれてすぐの時期に、眠ると呼吸が浅くなることで気づかれます。GeneReviewsでは、アラニンが26〜33個に伸びている方と、25個の方の多くは新生児期に症状が出るとされています[1]。

一方で、大人になってから見つかる方もいます(遅発型、LO-CCHS)。遅発型では、眠っているあいだの低換気が中心で、自律神経の症状は軽いとされています。アラニンが24個の方と、25個の方の一部は、症状がとても軽いことがあります[1]。大人で、原因のわからない睡眠中の低換気を指摘された場合も、この病気を考えるきっかけになります。

呼吸以外の症状:腸・腫瘍・心臓

  • ●腸:腸の一部に神経細胞がないヒルシュスプルング病を、CCHSの方の約13〜20%が合併します[2]。CCHSとヒルシュスプルング病の合併は「ハダッド症候群」とも呼ばれます[3]。合併しやすさはPHOX2Bの変化の種類で変わります[1]。
  • ●腫瘍:神経芽腫などの神経堤という組織から生じる腫瘍が、CCHSの方の約3〜5%にみられます[2]。GeneReviewsでは、ポリアラニン伸長以外の変化(NPARM)をもつ方の50%、伸長が長い20/30〜20/33の方では5%未満とされています[1]。
  • ●心臓:CCHSの方はみな、心拍の細かな変動が少ないとされます。起きているときに心臓が3秒以上止まる(洞停止)ことがあり、その場合は心臓ペースメーカーを考えます[1]。2020年のガイドラインは、CCHSの方すべてで洞停止の有無を調べることを勧めています[2]。

3. 治療・寿命と予後

CCHSの呼吸の問題を根本から治す治療はまだなく、人工呼吸などの呼吸のサポートを一生続けます。GeneReviewsでは、人工呼吸を続けながら30代・40代を過ごしている方が多いとされています[1][2]。

治療:生涯にわたる呼吸のサポート

2020年のガイドラインは、呼吸のサポートは生涯続けるもので、成長しても人工呼吸から離れることを目指さない、としています[2]。酸素を吸うだけでは低換気の治療になりません[1]。

呼吸のサポートの中心は、ご自宅で続ける人工呼吸器です。そのほかに、横隔膜を動かす神経を電気で刺激する「横隔膜ペーシング」という方法があります。横隔膜ペーシングは、主に起きている時間の呼吸を助けて動きやすくする方法として考えられ、夜だけ呼吸のサポートが必要な小さなお子さんには通常すすめられません[1][2]。

寿命・予後の見通し

GeneReviewsでは、適切な人工呼吸を続けて30代・40代を迎えている方が多いとされています[1]。2020年のガイドラインは、若い成人の生活の質は「中程度の低下」にとどまるとする一方、神経の発達については注意が必要としています[2]。見通しは、PHOX2Bの変化の種類、合併症、呼吸の管理のしかたで変わるため、一人ひとりで違います。

日常生活で気をつけること

GeneReviewsは、水にもぐって泳ぐ競争や息止めの競争を避けること、アルコールや、呼吸を弱めるおそれのある薬(鎮静薬・麻酔薬など)を避けることを挙げています[1]。息苦しさを感じにくい病気なので、本人の感覚だけに頼らないことが大切です。

4. 遺伝のしかた:次のお子さんへの影響

CCHSは常染色体顕性(優性)遺伝で、CCHSの方のお子さんは2分の1の確率でPHOX2Bの変化を受け継ぎます。ただし、多くの方はご両親から受け継いだのではなく、ご本人で新しく起きた変化によるものです[1]。

常染色体顕性(優性)遺伝:お子さんへは2分の1

常染色体顕性(優性)遺伝では、2本ある遺伝子のうち1本に変化があれば発症しうるため、変化をもつ方のお子さんは、1人ごとに2分の1の確率でその変化を受け継ぎます[1][2]。性別には関係ありません。人工呼吸を続けながら大人になり、結婚や妊娠を考えるCCHSの方もいます。2020年のガイドラインは、CCHSの方の妊娠は遺伝カウンセリングを受けたうえで計画すること、妊娠中はおなかの圧が上がって呼吸のサポートを増やす必要が出やすいことを示しています[2]。

多くは新しく起きた変化。でも次のお子さんで「ゼロ」ではない

CCHSの方の多くは、ご本人で新しく起きた変化(新生突然変異、de novo)によるものです[1]。この場合、お子さんの病気はご両親のせいではありません。遺伝子の変化は、誰にでも起こりうるものです。

ただし、症状のないご両親を調べると、5〜25%で、体の一部の細胞だけに変化があるモザイクが見つかると報告されています[1]。さらに2020年のガイドラインは、血液などの検査でモザイクが見つからなかった親御さんでも、卵子や精子のもとになる細胞(生殖細胞)にだけ変化をもっている可能性は残り、生殖細胞のモザイクは調べることができない、としています[2]。GeneReviewsも、親御さんのモザイクが多いことから、お子さんの変化がご両親のどちらにも見つからなかった場合でも、次の赤ちゃんはCCHSになる可能性があると考えるべきだとしています[1]。

⚠️ 性腺モザイクがある場合、次のお子さんへの確率は一律には決められません

親御さんの生殖細胞に変化がある「性腺モザイク」では、卵子や精子の一部に病気の原因となる変化が存在します。変化をもつ生殖細胞の割合は人によって異なり、通常の血液検査から正確に推定することはできません。そのため、次のお子さんに同じ変化が受け継がれる確率を一律に示すことはできません。「新しく起きた変化だから次は大丈夫」と小さく見積もらないことが大切です。

症状の軽い親御さんが見つかることがある

アラニンの伸長が短い20/24や20/25の変化は、症状がとても軽く、気づかれないことがあります[1]。原因をもっていても発症しない人がいることを「浸透率が100%ではない」、同じ原因でも症状の重さが違うことを「表現型の多様性」といい、GeneReviewsは、こうした理由で家族歴がないように見えることがあると指摘しています[1]。「自分は症状がないから、子どもも大丈夫」とは言えません。お子さんがCCHSとわかったときは、ご両親も検査を受けて、ご自身の状態を知ることに意味があります。

5. どんな人がこの検査を受けるとよいか

CCHSが疑われる赤ちゃん・お子さんのご家族、大人になってから眠っているときの低換気を指摘された方、CCHSのお子さんのご両親、そして結婚や妊娠を考えているCCHSの方に向く検査です。見た目や家族歴だけでは判断できないことが多いので、迷ったら、まず遺伝カウンセリングで状況をお聞かせください。

生まれたときから、眠ると呼吸が浅くなる赤ちゃんのご家族

眠ると呼吸が浅くなり、その原因がほかに見つからない場合、CCHSを考えます。原因を確かめると、病名がはっきりし、ヒルシュスプルング病・腫瘍・心臓の検査を、どこまで、どの程度の間隔で行えばよいかを考える手がかりになります[1]。

大人になってから、眠っているときの低換気を指摘された方

遅発型のCCHSは、大人になってから見つかることがあります[1]。原因がわかれば、ご自身の管理だけでなく、お子さんやきょうだいへの影響も考えられるようになります。

お子さんがCCHSと診断され、次の妊娠を考えているご両親

ご本人が重い症状のお子さんの場合、この検査を考えるのは、ご両親であることがほとんどです。お子さんの原因がわかれば、ご両親がその変化をもっているかを調べられます。そして、次の妊娠で赤ちゃんを調べる出生前診断を計画できるようになります。原因がわからないままでは、出生前に何を調べればよいかが決まりません。きょうだいのお子さんが将来、結婚や妊娠を考えるときの手がかりにもなります。

ご自身がCCHSで、結婚・妊娠を考えている方

結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる大きな選択です。ご自身の変化の種類がわかっていれば、お子さんに受け継がれたかどうかを、妊娠中に調べることもできます(第8章)。

この検査より別の検査が向いている場合

CCHSを疑うなら、PHOX2Bを含むこの検査が出発点です。一方で、症状によっては、次の検査のほうが向いていることがあります。

🔍 症状に合わせた検査の選び方

こんなとき 向いている検査
眠ると呼吸が浅くなる(ヒルシュスプルング病の合併の有無を問わない) このページの検査(PHOX2Bを含む6遺伝子)
呼吸の問題はなく、ヒルシュスプルング病だけがある ヒルシュスプルング病(先天性巨大結腸症)NGS遺伝子検査(ECE1・EDN3・EDNRB・GDNF・RETの5遺伝子。PHOX2Bは含まない)
ワーデンブルグ症候群が疑われる ワーデンブルグ症候群NGS遺伝子パネル検査
呼吸以外にも多くの症状があり、病気をしぼれない 全エクソーム検査(WES)
お子さんの原因がわかっていて、症状のない親御さんのモザイクをくわしく調べたい この検査はモザイクを見つける目的では作られていないため、別の方法が必要になることがあります(第7章)。遺伝カウンセリングでご相談ください

※どの検査が合うかは、症状・診察所見・ご家族の情報で変わります。検査の内容は当院の各検査ページによる。

\ 原因がわかれば、次の妊娠への備え方が見えてきます /

📅この検査を予約する(遺伝カウンセリングの予約)

当院では、羊水検査・絨毛検査を院内で受けられます(2025年6月から産婦人科を併設)。

お問い合わせはこちら | どの検査がよいか迷う方へ

6. 調べる6つの遺伝子と、それぞれでわかる病気

この検査では、ASCL1・BDNF・EDN3・GDNF・PHOX2B・RETの6つの遺伝子をまとめて調べます。CCHSの原因として確立しているのはPHOX2Bで、PHOX2Bのポリアラニンの伸長も見つけられます。

PHOX2B以外の5つの遺伝子は、ヒルシュスプルング病など、自律神経や腸の神経のでき方にかかわる病気と関係する遺伝子です。RET・EDN3・GDNF・BDNFは、一部のCCHSの方で変化が報告されています。ただし、GDNFの変化は多くの場合それだけでは病気を起こすのに十分ではないとされています[3]。2020年のガイドラインも、RETなどの変化が見つかった報告がある一方で、どの遺伝子にも原因が見つからないCCHSの方がいることを示しています[2]。

🧬 先天性中枢性低換気症候群(CCHS)遺伝子検査の対象遺伝子

遺伝子 関係する病気 遺伝のしかた
PHOX2B 先天性中枢性低換気症候群(主な原因)。神経芽腫などの神経堤腫瘍、ヒルシュスプルング病の合併にも関係 常染色体顕性(優性)
RET ヒルシュスプルング病、多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)。一部のCCHSの方で変化の報告 常染色体顕性(優性)
EDN3 ヒルシュスプルング病、ワーデンブルグ症候群4型(ワーデンブルグ・シャー症候群)。一部のCCHSの方で変化の報告 常染色体顕性または潜性(4型は多くが2本とも変化)
GDNF ヒルシュスプルング病(まれ)。一部のCCHSの方で変化の報告 常染色体顕性(優性)
BDNF 一部のCCHSの方で変化の報告 はっきりしていない
ASCL1 CCHSの原因としての位置づけは、まだはっきりしていない はっきりしていない

※対象遺伝子は当院の検査内容による。関係する病気と遺伝のしかたは文献[1][3]による。

7. この検査でわかること・わからないこと

この検査でわかるのは、6つの遺伝子の小さな変化(1文字の変化や、小さな挿入・欠失)、PHOX2Bのポリアラニンの伸長、そして遺伝子全体などの大きめの欠失・重複です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。

  • ●モザイク:この検査は、体の一部の細胞だけにある変化(モザイク)を見つける目的では作られていません。GeneReviewsは、PHOX2Bの低い割合のモザイクは、遺伝子の配列を読む方法では見つからず、ポリアラニンの部分の長さを測る方法(断片解析)で見つけられるとしています[1]。症状のない親御さんのモザイクを調べるときは、この点をふまえて方法を選びます。
  • ●欠失・重複の範囲:遺伝子1つ全体の欠失・重複(頬の粘膜・血液)と、となり合う2つ以上のエクソンの欠失・重複(血液のみ)を見つけられます。エクソン1つだけの欠失・重複は、見つかることもありますが、ふだんは検出の対象ではありません。見つかった欠失・重複は、MLPA法などの別の原理の方法で確かめてから報告します。
  • ●見つけられない変化:染色体の一部が入れかわる転座や逆位、PHOX2Bのポリアラニン以外の繰り返し配列の伸長、遺伝子の働きを調節する領域やエクソンから離れた場所(20塩基より奥)の変化は見つけられません。
  • ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、今の知識ではまだ判断できない変化が見つかることがあります。
  • ●陰性でも否定はできません:この検査で原因が見つからなくても、CCHSではないとは言い切れません。どの遺伝子にも原因が見つからないCCHSの方もいます[2]。診断は、睡眠中の呼吸の検査などの結果とあわせて行います。
  • ●腫瘍の組織:腫瘍の組織を使った検査は、この検査の対象外です。
検査の精度について(専門的な補足)

この検査は、次世代シーケンサー(NGS)で、遺伝子のたんぱく質を作る部分と、その境目(スプライス部位)を読みます。調べる範囲の99%以上を、同じ場所を20回以上読む深さで解析します。読み取りの質が十分でない部分は、サンガー法という別の方法で確かめます。似た配列が別の場所にある遺伝子では、見つけにくい変化が残ることがあります。

8. 結果が出たあと

結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。陽性・陰性・VUSのそれぞれで、次にできることが違います。

陽性だったとき:病名がわかり、次の一手が決まる

PHOX2Bに原因が見つかると、CCHSの診断がはっきりします。さらに、変化の種類(20/25、20/27などのポリアラニンの伸長か、それ以外の変化か)によって、ヒルシュスプルング病や神経堤腫瘍の起こりやすさの傾向がわかり、どの検査をどれくらいの間隔で受けるかを考える手がかりになります[1]。小児慢性特定疾病などの制度を使うときの手がかりにもなります(第9章)。

ご家族への影響と、ご家族が検査を受けるとき

お子さんに原因が見つかったときは、ご両親も同じ変化をもっていないか調べることが勧められています。調べるときは、低い割合のモザイクも見つけられる方法を選びます。症状の軽い親御さんや、モザイクの親御さんが見つかることがあるためです[1]。あなたの1回の検査が、ご両親・きょうだい・お子さんが自分の状態を知る手がかりになります。症状のないご家族の検査は、知ることの意味を遺伝カウンセリングでよく考えたうえで進めます。

陰性だったとき

6つの遺伝子に原因が見つからなかった場合も、CCHSを否定することはできません(第7章)。症状や検査結果に合わせて、ほかの病気の可能性や、全エクソーム検査などの次の検査を考えます。

意義がまだわからない変化(VUS)が見つかったとき

VUSは、それだけで診断を確定したり、ご家族の発症リスクを判定したりするためには使いません。ただし、病原性を評価する目的で、ご両親などの家族検査を行う場合があります。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。調べた目的とは別の病気の原因が見つかった場合の扱いは、当院の二次的所見の開示方針をご覧ください。

妊娠を考えている方:出生前診断の相談

GeneReviewsは、ご家族のPHOX2Bの変化がわかっている場合、出生前の遺伝学的検査が可能としています[1]。2020年のガイドラインは、出生前の診断が、生まれた直後からの呼吸の管理の準備に役立つとしています[2]。

当院では、羊水検査・絨毛検査を院内で行っています(2025年6月から産婦人科を併設)。CCHSの出生前診断をどのように進められるかを含めて、妊娠を考えている段階からご相談いただけます。あらかじめご家族の原因を確かめておくことが、出生前診断を計画するための出発点になります。

9. 日本の制度(2026年10月時点)

先天性中枢性低換気症候群は、小児慢性特定疾病の「慢性呼吸器疾患」の対象疾病として、小児慢性特定疾病情報センターに掲載されています(2026年10月時点で確認)。

医療費の助成を受けるには、認定の条件を満たし、申請する必要があります。認定の基準や申請の方法、成人になってからの医療費助成の扱いは、小児慢性特定疾病情報センターや難病情報センター、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。なお、当院のこの検査は自費診療で、保険は使えません。

10. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体

結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜などで、オンライン診療でも受けられます。

ご予約
▶
遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
▶
検体の採取唾液・粘膜・血液
▶
結果のご説明2〜3週間後・マイページへ

💴 費用・日数・検体

項目 内容
対象遺伝子 ASCL1、BDNF、EDN3、GDNF、PHOX2B、RET(6遺伝子)
調べる内容 塩基配列、欠失・挿入(どちらも料金に含まれる)。PHOX2Bのポリアラニンの伸長も検出可能
検体 血液(EDTA採血管4ml×2本)、抽出したDNA、頬の内側の粘膜、唾液(採取キットをお送りします)
結果までの期間 2〜3週間(至急オプションで約7日短くなります)
検査費用 お問い合わせください(自費診療)
オプション 至急:55,000円/VUS除外:無料
遺伝カウンセリング料 30分22,000円(税込)※検査費用とは別
オンライン診療 唾液・頬の粘膜・血液のいずれも、オンライン診療で受けられます。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。

※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。

オンライン診療(ビデオ通話)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただきます。ほとんどの方は唾液か頬の内側の粘膜で検査できます。血液で検査する場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いします。検体を採るキットは、検査料金をお支払いいただいたあとにお送りします。検体の取り違えを防ぎ、検体の質を保つため、ご自身の判断で先に検体を採らないでください。

遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。

\ 人生に一度の遺伝子検査を、ご家族とこれからの計画に /

📅この検査を予約する(遺伝カウンセリングの予約)

唾液・頬の粘膜・血液のいずれもオンライン診療で受けられ、結果は臨床遺伝専門医が直接ご説明してからマイページにアップします。

お問い合わせはこちら | ヒルシュスプルング病の遺伝子検査はこちら

11. 院長コラム

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「誰のせいでもない」から、次の計画へ】

私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。

先天性中枢性低換気症候群の多くは、お子さんで新しく起きた変化によるものです。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。一方で、症状のない親御さんがモザイクだったり、とても軽い変化をもっていたりすることもあり、「次の子は大丈夫」とも言い切れません。だからこそ、原因をはっきりさせることが、ご両親が自分を責めることから離れ、次の妊娠を計画するための出発点になると考えています。

遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。たとえば、きょうだいのお子さんの病気をきっかけに念のため検査を受けた方に、まったく別の遺伝子の病的な変化が、体の一部の細胞だけにある状態(モザイク)で見つかったことがあります。ご本人は発症していませんでしたが、卵子や精子のもとになる細胞にもその変化があれば、お子さんが発症することがある病気でした。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。

わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。知ったうえで次の妊娠を考えたい方には、出生前診断まで当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。

よくある質問(FAQ)

Q1. 先天性中枢性低換気症候群の寿命・予後は?

遺伝性疾患の解説書(GeneReviews)では、適切な人工呼吸を続けて30代・40代を迎えている方が多いとされています。一方で、呼吸のサポートは生涯必要で、合併症や神経の発達にも注意が必要です。見通しは、PHOX2Bの変化の種類や合併症によって一人ひとり違います。

Q2. どんな症状がありますか?

眠っているあいだに呼吸が浅く少なくなる低換気が中心で、重い方では起きているときにも起こります。体に二酸化炭素がたまっても息苦しさを感じにくいのが特徴です。ヒルシュスプルング病(約13〜20%)、神経芽腫などの腫瘍(約3〜5%)、心臓が一時的に止まる洞停止などを合併することがあります。

Q3. 治療法はありますか?

呼吸の問題を根本から治す治療はまだありません。人工呼吸器や横隔膜ペーシングなどで、呼吸のサポートを生涯続けます。酸素を吸うだけでは低換気の治療になりません。合併症に合わせた検査や治療もあわせて行います。

Q4. 原因は何ですか?親のせいですか?

主な原因はPHOX2B遺伝子の変化で、多くはお子さんで新しく起きた変化です。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。ただし、症状のない親御さんがモザイクや軽い変化をもっていることもあるため、ご両親の検査が勧められます。

Q5. 大人になってから見つかることはありますか?

あります。遅発型(LO-CCHS)と呼ばれ、眠っているあいだの低換気が中心です。PHOX2Bのアラニンの伸長が短い方(20/24や20/25の一部)では、症状がとても軽いことがあります。大人で原因のわからない睡眠中の低換気を指摘された場合も、この検査の対象になります。

Q6. 次の子どもで同じ病気が起こる確率は?

親御さんのどちらかがPHOX2Bの病的変化を通常の生殖細胞系列でヘテロ接合性にもっている場合、お子さん1人ごとに2分の1の確率で受け継がれます。一方、親御さんに性腺モザイクがある場合は、変化をもつ生殖細胞の割合によって確率が異なり、一律には決められません。ご両親の血液検査で変化が見つからなくても、次のお子さんでの再発可能性はゼロではありません。

Q7. 出生前診断はできますか?

ご家族のPHOX2Bの変化がわかっている場合、出生前の遺伝学的検査は可能とされています。出生前にわかっていると、生まれた直後からの呼吸の管理の準備に役立ちます。当院では羊水検査・絨毛検査を院内で行っていますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。

Q8. ヒルシュスプルング病だけの場合も、この検査を受けるべきですか?

呼吸の問題がなく、ヒルシュスプルング病だけの場合は、ECE1・EDN3・EDNRB・GDNF・RETを調べるヒルシュスプルング病の遺伝子検査が向いていることがあります。眠ると呼吸が浅くなるなど、CCHSを疑う症状がある場合は、PHOX2Bを含むこの検査を選びます。

🧬 一度の検査で、ご家族のこれからを考える

生まれ持った遺伝子は一生変わりません。先天性中枢性低換気症候群の原因がわかれば、合併症への備えだけでなく、ご両親の検査や、次の妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が、検査の前後の遺伝カウンセリングを行い、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。

お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768

参考文献

  • [1] Weese-Mayer DE, Rand CM, Khaytin I, Slattery SM, et al. Congenital Central Hypoventilation Syndrome. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle; 2004 (Updated 2021 Jan 28). [NCBI Bookshelf NBK1427]
  • [2] Trang H, Samuels M, Ceccherini I, et al. Guidelines for diagnosis and management of congenital central hypoventilation syndrome. Orphanet J Rare Dis. 2020;15:252. [DOI: 10.1186/s13023-020-01460-2](PMID: 32958024)
  • [3] Parisi MA. Hirschsprung Disease Overview. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle; 2002 (Updated 2015 Oct 1). [NCBI Bookshelf NBK1439]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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