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NIPTの倫理的側面・社会的側面
NIPT(新型出生前診断)の普及は、親が生まれてくる子どもの遺伝的特徴を早期に知り、選択を行う可能性を提供します。しかし、この技術は倫理的な課題を提起しています。具体的には、生命の価値が遺伝的条件によって左右されるべきか、親がどの程度選択権を持つべきかという問題です。これらの選択が障害を持つ人々の社会的価値や平等をどう影響するか、また、その判断が親や社会全体に及ぼす影響について慎重な議論が必要です。
遺伝子検査によって得られる情報は、親が胎児の健康や将来の生活の質を考慮して中絶を選択する材料となりますが、この選択が社会に与える影響は深刻です。特に、障害者の存在価値が問われ、社会が障害者をどのように見るかが変わる可能性があります。障害があるという理由での中絶が増えることで、障害者が社会から疎外される恐れがあり、社会全体としての多様性や人権尊重の精神が揺らぐ可能性があります。このため、遺伝子検査と中絶に関する社会的倫理の再考が求められます。
日本では、障害者福祉の制度がまだ十分に整っていないため、障害のある子どもを育てる親にとって大きな不安が伴います。民法上、親族に対して扶養義務が課せられていることも、家族への負担を増加させます。また、社会全体で障害者を支えるセーフティネットが脆弱であるため、親が将来的なサポートを確保できないことが不安材料となります。これらの要因が、障害のある子どもを持つことへの不安を増幅させています。
NIPTの普及に伴い、これからお子さんを持つご夫妻は、この検査の意味を主体的に判断することが求められます。倫理的および社会的側面を考慮すると、遺伝子検査は単なる選択肢以上のものであり、生命の価値や家族の未来に関わる重要な決定です。日本では障害者福祉が十分でなく、親に大きな負担がかかる現状もありますが、それでも各家庭が自身の価値観に基づいて慎重に判断することが重要です。
ここからは、中期中絶に至った症例についてお伝えします。
NIPT(新型出生前診断)で陽性となり、羊水検査で確定して妊娠中期中絶(人工妊娠中絶手術)した体験談です。中期中絶は本当に大変なんだなとたくさんの中期中絶と向き合い感じました。
37歳、2人目妊娠でNIPTを受けると決意
Aさん、37歳。2人目の妊娠。
出生前診断はそれまで受けたことがありませんでした。
上のお子さんを妊娠中に利用していた妊娠出産アプリで、「今NIPT(新型出生前診断)を受けるのにいい時期です」と教えてくれるので、NIPT自体は知っていたそうです。
しかし当時は34歳での出産だったので、ぎりぎり高齢出産ではなくNIPTを受けませんでした。それにもしも障害のあるお子さんでも、1人目なら何とか頑張れると思えたそうです。
今回2人目を妊娠するにあたり、上にお子さんがいるので「自分たちは障害のあるお子さんでも頑張って育てていけると思うけど、兄妹になる上の子に負担をかけるのは申し訳ない」と思い、NIPTを受けることにしました。
出生前診断(しゅっせいまえしんだん しゅっしょうまえしんだん どちらでもかまいません。)がどういうものかは深く考えませんでした。
妊娠10週をむかえ、広告で知った東京都内の非認証クリニックでNIPTを受けることにしました。
当時、NIPTでわかるのはダウン症(21トリソミー)くらいの理解しかなく、検査の説明や、遺伝カウンセリングがある、ない、などの違いについては全く何の知識もありませんでした。
受けたクリニックは美容外科だったのですが、採血だけなので「こんなものか」と思っていました。
NIPT当日から結果が返ってくるまで
妊娠10週から12週くらいの妊婦さんの多くは、つわりの真っただ中です。
不安な気持ちはつわりを増強します。ミネルバクリニックでは「結果が返ってくるまでの間、あまりいろいろ考えないで。人生待つしかない時間ってあるんです」といつも説明しています。
しかしAさんの場合は、説明もフォローもない採血だけするクリニックでNIPTを受けたので、誰もアドバイスをする人はいませんでした。不安で眠れなかったこともあったそうです。
ミネルバクリニックでは、こういうことのために代表電話は転送電話にして携帯で24時間電話を受ける体制で運営しています。採血だけしかしない、結果はメールで、っていうクリニックにそういうクオリティーを求めることは無理でしょう。
不安で仕方がない。悪い結果が出たら?不吉なことを考えてはいけない。
そう思いながらぞわぞわする気持ちと一人戦っていました。それでも、不安は時々不意に襲ってきます。
そんな時は仕事もなかなか手につかず、つい検索魔となり、NIPTを受けるときには全然知識もないままでしたが、ダウン症候群(21トリソミー)やNIPTでわかる疾患についてスマホ片手に調べまくったそうです。そうしなければ心の平静を保てなかったのでしょう。
そしてその日はやってきました。
届いたメールに緊張しすぎて、息もできないような感じがしてしまったそうです。
やっとの思いでメールを開き、震える手でパスワードをうちこみ、添付ファイルのPDFを開くと、そこには21トリソミーの疑いがあること、羊水検査がすすめられることが書かれていました。
Aさんは頭が真っ白になるような感覚を覚え、それからの30分くらいのことはあまりよく思い出せないそうです。ショックが強いと、人は思考能力を奪われて停止してしまうということなのでしょう。
そういう経験、大なり小なり生きているうちに何回か皆さん経験すると思います。
NIPT陽性の結果から羊水検査まで
どうせ陰性だから、そう思って受けたのに、陽性の結果を受け取ったAさん。
その時初めて、事前の説明もない、事後の説明もない、ただ検査するだけのクリニックで安易に受けてしまったことを後悔しました。
どうして私だけこんな目に?
わたしがいったい何をしたの?
赤ちゃんはどうなるの?
Aさんは、メールに書かれていた羊水検査を受けられる病院をそんな精神状態で探したそうです。
Aさんの行っていた産婦人科は大きな大学病院のサテライトクリニックで、そのクリニック自体は小さくて羊水検査は出来ません。そして、相談したとしても非認証施設でNIPTを受けて陽性になった人を、大学病院に紹介できないと怒られるだけです。
陽性になったなんて言えない。。。
自力で探すしかない…..
頭が真っ白になってしまったあとは、上のお子さんもいるししっかりしなきゃと思い、なんとかネットサーフィンをして頑張ったそうです。
そんなとき、東京都の羊水検査実施病院費用等一覧比較というページが目に飛び込んできました。
このページはミネルバクリニックが「羊水検査をどこで受けたらいいか」をミネルバクリニックでNIPTを受けた患者さんがお困りにならないように東京都内の羊水検査実施施設を病院なびのデーターをもとに電話調査して作った表を公開したものです。
わたしは臨床遺伝専門医として日々、NIPTを受ける妊婦さんたちが何にお困りかということを一人一人と向き合って伺っています。
このキーワードで検索する人のなかには、Aさんのような追い詰められた精神状態の方がいる、ということを知りました。
ほかの非認証施設で、NIPTに関して説明もなくアフターフォローもなくうけて陽性になった妊婦さんたちのために公開することにしたのです。
それがAさんのお役に立ったと知り、このページを作って良かったなと思いました。
そしてAさんは自宅から近く、中期中絶もやってくれる産婦人科クリニックの予約を取って受診しました。
中期中絶を行っている病院(クリニック)は本当に少なくて情報もあまりなくて大変な思いをしながら調べたそうです。
このため、ミネルバクリニックでは中絶クリニックの情報サイトも作りました。
関連記事:東京都中絶クリニックなび|妊娠初期・中期中絶実施病院費用週数など詳細比較
結果を受け取ったのが妊娠12週、そこから羊水検査が受けられる妊娠16週までの4週間は気が遠くなるように長く感じられ、本当に孤独な思いをしながら過ごしたそうです。
ミネルバクリニックではいつでも電話がつながり、いつでも院長と話ができる体制で運営しているのも、もともと院長ががんの専門医でもあるので、つらい思いにリアルタイムに寄り添うことをずっと大切にしているからです。
Aさんは羊水検査のクリニックが決まってから気持ちが少し落ち着き、毎日を赤ちゃんに話しかけながら過ごそうと決めました。
ダウン症候群(21トリソミー)だったら産まないって決めているのに、変だなと思わなくもなかったですが、それでもサヨナラまでの毎日をわたしのおなかに来てくれてありがとう、と感謝の気持ちで親子で過ごそうって決めたそうです。
羊水検査
家から一番近いのは、高級住宅街の超人気駅チカクリニック。
近いと言っても同じ区内ではありませんでしたが、中期中絶手術も視野に入れると、そちらが一番良かったそうです。
羊水検査は日帰りでした。
羊水検査を受けないといけないなんて、妊娠したときには考えたこともありませんでした。
検査の説明書には、流産や、感染症、破水、出血などのリスクが書かれていて、見ると余計不安になりました。
でも。NIPTの陽性がまちがってることもあるから、受けないといけないと産婦人科医たちは診察のたびに口をそろえて言います。
悪い夢をずっと見ているような不思議な感覚でした。
ある日、夢から覚めたら、何もかもなかったことになる。それが偽陽性。一縷の望みをもち、偽陽性だと信じようとしました。
できるだけはやく結果が出るように、3週間かかる普通の染色体検査だけでなく、別料金でFISH法を追加することにしました。これだと1週間以内にわかると言われたからです。一刻も早く結果を知りたい。追加料金のことなんて全く考えられない状態でした。
羊水検査の前に、赤ちゃんを超音波検査(エコー)で確認します。ダウン症候群(21トリソミー)に特徴的なエコー所見はないと言われました。
異常はないのかもしれない、と思いたかった。
そして羊水を取るために針を刺す(羊水穿刺)、という段階になりました。
特に麻酔はしませんでした。針を刺されている間も違和感はありましたが、早くちゃんと取れてほしいとだけ祈りながら過ごしました。
無事に羊水採取も終わり、経過観察のため2時間程度横になってすごし、何事もないので帰っていいと言われました。
ここまでくると、不思議と気持ちが落ち着いてきました。
あと1週間たらずで結果がわかる……
羊水検査の結果が返ってくるまで
このころになると、毎日をこの赤ちゃんと大事に過ごす、という気持ちで過ごしていました。
NIPTのいいところは、やはり10週(ミネルバクリニックでは9週)で受けることができるので、羊水検査をするまでの時間経過とともに気持ちを段々落ち着けて、本当に自分たちがどうしたいのかと向き合う時間が長くとれる、ということでしょう。
陽性になり中絶した女性たちの大部分の感想として、「サヨナラまでの短い期間を本当に親子で有意義に過ごせて悔いはない」ということがあります。
羊水検査の結果
ご想像に難くないと思いますが、NIPTの21トリソミーの陽性的中率は非常に高いです。
Aさんも陽性が確定しました。
確定したら中絶する、と決めていたので、迷いなく中期中絶へと進みました。
中期中絶
覚悟はしていたのですが、Aさんは中絶について調べたら本当に陽性で確定してしまう気がして、中絶についての知識はあまりありませんでした。
陽性が確定して調べてみたら、12週までとその後で中絶手術はまったく異なったやり方になるということがわかりました。
12週までは吸引法で中絶できるのですが、それ以降中期中絶になると出産と変わらない方法になることもわかりました。
つまり、母体から出ると生きていけない時期に出産することで生きられなくするのが中期中絶なのです。
12週までの初期中絶では麻酔がかかっている間に終わってしまうのですが、中期中絶になるとそうはいきません。
自分の意志でおなかの赤ちゃんを殺す感が強くなります。
事実そうなのですが。
21トリソミーの赤ちゃんを産んで、インスタグラムに投稿しているママたちを見ても自分がそうできる自信はありません。
もう、何も見ないことにしました。
上のお子さんとパパと3人の生活を取り戻そう。
ごめんね、あかちゃん。
でも、あなたを愛していないわけじゃないこと、わかってくれるよね。
ママだって産みたいのよ。本当は。
だけど自信がないの。
中期中絶のスケジュールは
入院1日目と入院2日目はラミナリアで子宮口を人工的に広げる。
入院3日目に分娩。
入院4日目に退院。
という感じでした。
経産婦なのでラミナリアはそんなに怖くないのかな、と思っていました。
思った通り、そんなに痛みは感じなかったですが、Aさんを苦しめたのは産婦人科病棟、とくに小さいクリニックならではで基本的には出産する人たちでにぎわっているので、赤ちゃんの泣き声と新生児を抱きしめた幸せなママたち、お見舞いに来る幸せな家族たちで、とにかく幸せに満ち溢れていたそうです。
一方で、Aさんは、一人でラミナリアで経管拡張されて陣痛が起こるのを待ち、陣痛が起こらなければ陣痛促進剤を打ち、生きられない子を出産するわけです。
幸せと不幸の落差が大きくて、それが心底Aさんを傷つけました。
何がいやって本当にあの状況がいやだった、とおっしゃっていました。
先生にとっては幸と不幸が混在する状況は普通でも、Aさんにとっては耐えがたい苦痛でした。
中期中絶では埋葬が必要となるので、前処置の子宮口を広げるラミナリアを受けながら、葬儀の案内がなされます。
生と死。
それが混在していることを新生児を抱えた幸せな母親たちには伝えられません。
まるで自分の存在自体が忌避されるような感じがして辛かった。罪人のようだ……
Aさんがこうしている間にも新生児の声が響き、おめでとうございますという言葉が投げかけられる。
こんな状況でAさんは21トリソミーのお子さんを出産しました。
対面した我が子は可愛かった。
ごめんね。生きて産んであげられなくて…
その後
先生からは生理がいつ頃来るのか、いつ頃から妊娠していいのか、という説明がありましたが、Aさんは妊娠がトラウマとなりました。
安易な気持ちでNIPTを受けてしまったことを本当に後悔したそうです。
その後、Aさんは思いがけず妊娠したことがわかり、倒れそうになりました。
震える手で中絶クリニックの案内をしていたクリニックの名前を検索し。
とにかくNIPTをミネルバクリニックで受けることにしました。
二度と中期中絶したくない。
12週までにとにかく全部決めたいんです。
真っ青な表情でそういったAさん。
わたしは言いました。
わかりました。
わたしも36週6日で死産したことがあります。どんな形でも子供を失うことは母親にとっては辛い出来事です。
うちの子は双子だったので、今でも双子用のベビーカーは見ることができません。泣いちゃうので。
他の陽性になった妊婦さん達からも人工妊娠中絶術、特に中期中絶手術がどれくらい女性を追い詰めダメージを与えるのかは理解しています。
辛い思いをしているのはあなただけではありません。そしてダウンちゃんがおなかに宿ったのも必ず何か意味があります。
それまでは考えなかった命の重さや大切さを貴方は学んだはずです。お子さんはそれを教えてくれるために来たんですよ。
お母さんがどんな選択をしても子どもというのはママが大好きです。恨んだりしてませんよ。その代わり毎日少しでも思い出して話しかけてあげてください。
NIPTの基本情報
NIPTを受けたいようかお悩みの方へ、基本的な情報を最後にまとめておきます。
検査方法
妊娠10週以降(ミネルバクリニックでは妊娠9週)になったら、母体の採血のみで行うことができます。確定検査の羊水検査や絨毛検査のように、検査による感染症、早産、流産などのリスクはありません。
予約方法
認証施設の場合、病院によって予約方法が異なります。
病院によっては紹介状が必要だったり、NIPTを受けられる妊婦さんに制限があったりします。ご自身での予約はできず、医療機関を通してのみの受付となるケースもあります。
必ず公式ホームページのNIPTに関する情報を確認した上で予約しましょう。
非認証施設の場合は、ホームページや電話での予約ができることがほとんどです。受けられる妊婦さんへの制限なども特にありません。
費用の相場
認証施設では10万円〜20万円程度、非認証施設では10万円〜30万円程度と差が開きます。
認証施設では21、18、13トリソミーの3つしか検査することができませんが、非認証施設ではこの3つに加えて全染色体検査や微小欠失症候群、性別なども検査してわかります。ご自身の受けられるプランによって金額が異なるでしょう。
本記事でもお伝えしましたが、非認証施設では安い分、遺伝カウンセリングやアフターフォローなどの対応がなく、陽性が出た際にパニックに陥ってしまう患者さんもいらっしゃいます。
非認証施設で受ける場合は、必ず事前に遺伝カウンセリングの有無やアフターフォローの内容について調べてから受けるようにしてください。
ミネルバクリニックでは、21、18、13トリソミーの染色体異常と性別がわかる一番ベーシックなプランが17万6,000円となっています。
臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングもあり、陽性だった場合は確定検査のできる医療機関のご紹介や、羊水検査の費用の一部サポート、24時間相談窓口もご用意しております。
安心してお問い合わせください。
結果までの期間
非認証施設の一部では数日で結果がわかることもありますが、一般的には1週間〜2週間程度かかると考えていたほうが良いでしょう。
今回のAさんのケースでお伝えしましたが、羊水検査などの確定検査までの間、十分に考える時間を持てたほうが安心です。できるだけ早めに受けられることをおすすめします。
NIPTを受けたい方は、ミネルバクリニックへ
ミネルバクリニックは出生前診断の専門家である臨床遺伝専門医として日本一多い症例を経験しています。
一人一人とちゃんと向き合って、陽性の人たちがその後どうだったのかなどもちゃんと追跡調査もしています。
専門医として日本一豊富な経験であなたをサポート致します。
どうぞご安心ください。
いや。
本当はご安心じゃないんですよ。
医師というのはいろんなリスクを説明するのが仕事です。
でも。
わたしはこう考えています。
一人一人にあわせた説明をする、つまりオーダーメイド医療を提供できてこそ専門医。
この患者さんには 安心してください と声をかけるのが一番大事だと思ったらそうしよう。
何もかもリスクを全部説明して不安にさせるなんて、訴訟リスクにおびえる素人医師のすることだ。
わたしに会った以上、元気になって帰ってもらいたい。
ようこそ、ミネルバクリニックへ。
そして。
無事に検査は終了し、今回は大丈夫な赤ちゃんでした。
安心して今度は幸せに包まれて赤ちゃんをその腕に存分に抱っこしてくださいね。