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終止コドン(ストップコドン)とは?──翻訳を終わらせる3つの暗号と、病気・治療とのつながり

仲田洋美 医師

この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

記事の作り方(編集方針)

終止コドン(ストップコドン)とは?──翻訳を終わらせる3つの暗号と、病気・治療とのつながり

終止コドン(ストップコドン)とは、mRNAを読んでタンパク質をつくる「翻訳」を終わらせる合図で、UAA・UAG・UGAの3つがあります。この3つには対応するアミノ酸がなく、リボソームに入ってくるのはアミノ酸を運ぶtRNAではなく、解離因子(eRF1)というタンパク質です。設計図のDNAではTAA・TAG・TGAと書きます。一方、本来は合図のない場所に変異で終止コドンができてしまうことがあり、これをナンセンス変異と呼びます。報告されている遺伝性疾患の原因となる遺伝子変化のおよそ11%がナンセンス変異です[8]。この記事では、開始コドンとの違い・3つの覚え方・翻訳が止まるしくみから、病気・遺伝子検査とのつながりまでを、臨床遺伝専門医が図と表で解説します。

⏱️ 30秒でわかる要約

🧬 Q. 終止コドンとは?3つはどれ?

翻訳を終わらせる合図で、UAA・UAG・UGAの3つ(DNAではTAA・TAG・TGA)です。64種類あるコドンのうち、この3つだけはアミノ酸を指定しません。覚え方は「うあー・うあぐ・うがー」、3つとも先頭がUです。

🚦 Q. 開始コドンとの違いは?

開始コドンAUGは「始まり」の合図で、メチオニンというアミノ酸も指定します。終止コドンは「終わり」の合図で、アミノ酸を指定せず、tRNAではなく解離因子というタンパク質に読まれます。

⚠️ Q. 病気とはどう関係する?

途中に終止コドンができるナンセンス変異は、タンパク質が途中で途切れる原因になります。遺伝子検査の結果では「*」や「Ter」の記号で書かれます。

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1. 終止コドンとは:翻訳の「終わりの合図」

終止コドンは、翻訳を終わらせる3つの塩基の並び(UAA・UAG・UGA)で、アミノ酸を指定しない唯一のコドンです。私たちのからだは、DNAという設計図をもとにタンパク質をつくって働いています。設計図の一部はいったんmRNAという「持ち運び用のコピー」に書き写され、それをリボソームという装置が3文字ずつ読み取って、アミノ酸を順番につなげていきます。この「設計図を読んでタンパク質をつくる作業」を翻訳といいます。

mRNAを読むときの3文字の単位をコドンと呼びます。A・U・G・Cの4種類の塩基を3つ並べるので、コドンは全部で4×4×4=64種類あります。そのうち61種類はそれぞれ特定のアミノ酸を指定しますが、UAA・UAG・UGAの3種類だけは、どのアミノ酸も指定しません[1]。この3つが、翻訳の「ここで終わり」という合図、すなわち終止コドンです。

mRNAの読み始めから終わりまで(模式図) 5′ 3′ AUG GCU UGG … CGA UAA 開始コドン 終止コドン メチオニン アラニン トリプトファン アルギニン アミノ酸なし 解離因子(eRF1)が結合 → タンパク質を切り離す リボソームが3文字ずつ読み進む tRNAがアミノ酸を1つずつ運んでくる

模式図:開始コドンAUGから読み始め、アミノ酸を1つずつつなぎ、終止コドン(この図ではUAA)で翻訳が終わります。終止コドンにはアミノ酸を運ぶtRNAが対応せず、かわりに解離因子が入ります。

💡 用語解説:コドンとアミノ酸

コドンは、mRNAの上に並ぶ「3文字の暗号」です。たとえばAUGはメチオニン、UGGはトリプトファンというアミノ酸を指定します。アミノ酸はタンパク質をつくる“部品”で、コドンの並びどおりに部品が連結されて、ひとつのタンパク質が完成します。終止コドンは部品を指定しない“句点(。)”のような役割だと考えるとイメージしやすいです。

開始コドンと終止コドンの違い(一覧表)

開始コドン(AUG)は「始まり」の合図でメチオニンも指定し、終止コドン(UAA・UAG・UGA)は「終わり」の合図でアミノ酸を指定しません。試験でもよく比べられる2つを、表にまとめます。

📊 開始コドンと終止コドンの比較

項目 開始コドン 終止コドン
mRNAでの並び AUG(ふつうは1種類) UAA・UAG・UGAの3種類
DNAでの書き方 ATG TAA・TAG・TGA
アミノ酸 メチオニンを指定する 指定しない
読み取るもの 開始用のtRNA(メチオニンを運ぶ) 解離因子(ヒトではeRF1)というタンパク質
役割 翻訳を始める位置と、読み枠(3文字の区切り方)を決める 翻訳を終わらせ、できたタンパク質をリボソームから切り離す

開始コドンについて詳しくは開始コドン(AUG)とはで解説しています。

終止コドンはなぜアミノ酸を指定しない?翻訳されない理由

終止コドンにぴったり合うアミノ酸運搬用のtRNAが細胞にふつうは存在せず、かわりに解離因子というタンパク質が入って翻訳を終わらせるためです。アミノ酸を指定するコドンはtRNA(運び屋のRNA)によって読み取られます。これに対し、終止コドンはRNAではなく、tRNAそっくりの形をしたタンパク質(解離因子eRF1)に読み取られます[2]。文字を読むのにふつうは“同じ言語の相手(RNA)”を使うのに、終止コドンだけは“別のしくみ(タンパク質)”で読まれる――これが終止コドンのいちばんの特徴です。翻訳全体の流れはDNAからタンパク質へ(転写・翻訳とセントラルドグマ)でも図解しています。

2. 3種類の終止コドンと「色」の名前・覚え方

終止コドンはUAA・UAG・UGAの3つで、アンバー(UAG)・オーカー(UAA)・オパール(UGA)という色の別名があります[14]。この呼び名は、分子生物学の初期に、細菌に感染するウイルス(ファージ)の変異を研究していた時代につけられたもので、今も論文や実験の現場で使われています。

🎨 終止コドン一覧(3種類と別名)

mRNA DNA 別名(色) 特徴
UAA TAA オーカー(黄土) 3つのうち、AとUだけでできている
UAG TAG アンバー(琥珀) 一部の古細菌などでは、ピロリシンという特殊なアミノ酸を指定する(第4章)
UGA TGA オパール(蛋白石) ヒトでも、特定の条件ではセレノシステインという特殊なアミノ酸を指定する(第4章)

名前の対応は取り違えられやすい点です。アンバー=UAG、オーカー=UAA、オパール=UGAと覚えておきましょう。対応は米国国立医学図書館(NLM)の医学用語集MeSHの「Codon, Terminator」の項で確かめています[14]。

💡 終止コドンの覚え方

終止コドンは「UAA・UAG・UGA」を「うあー・うあぐ・うがー」と口に出すと覚えやすくなります。3つとも先頭が必ず「U」で、残り2文字は「AA・AG・GA」と、AとGだけの組み合わせ(ただしGGはない)です。

英語の語呂合わせもあります。UAA=U Are Away(あなたは行ってしまった)、UAG=U Are Gone(あなたはいなくなった)、UGA=U Go Away(行ってしまえ)。頭文字がそのまま3文字になり、どれも「去る・終わる」という意味なので、終止コドンと結びつけやすくなります。

開始コドンは「AUG」。終止コドンのUAGと文字の並びが入れ替わっただけなので、セットで覚えると混乱しにくくなります。

設計図のDNAの段階では「U(ウラシル)」のかわりに「T(チミン)」が使われるため、DNA上ではTAA・TAG・TGAと表記されます。検査レポートや論文でDNA配列を見るときは、この読み替えを知っておくと混乱しません。

終止コドンはなぜ3つあるの?

64通りのコドンのうち61通りがアミノ酸に割り当てられ、残った3通りが「終わり」の役目を担っている、というのが現在の遺伝暗号の姿です。なぜちょうど3つなのかについては、遺伝暗号ができあがった進化の過程にかかわる問いで、決定的な答えは出ていません。大切なのは、合図が3種類あっても、ヒトではeRF1という1種類の解離因子が3つすべてを読み取るという点です[3]。

3. どうやって翻訳を終わらせるのか

リボソームの「A部位」に終止コドンが来ると、tRNAのかわりに解離因子が入り、完成したタンパク質を切り離して翻訳が終わります。A部位は、新しいアミノ酸を運ぶtRNAが入ってくる座席です。終止コドンがここに来ても、合うtRNAは入ってきません。かわりに解離因子(Release Factor)が入り込み、「ここで終わり」と判断して、できあがったタンパク質をリボソームから切り離します。

💡 用語解説:解離因子(かいりいんし)とは

終止コドンを読み取って翻訳を終わらせる専用のタンパク質で、終結因子とも呼ばれます。アミノ酸を運ぶtRNAのかわりにA部位に入り、完成したタンパク質をリボソームから外す“終了ボタン”のような働きをします。タンパク質なのにtRNAに似た形をしていて、A部位にぴったりはまります[2]。

細菌とヒトでしくみが少し違う

解離因子のしくみは、細菌(原核生物)とヒトなどの真核生物で異なります。細菌では2種類の因子が役割を分担しますが、ヒトでは1種類の因子(eRF1)が3つの終止コドンすべてを読み取る“何でも屋(オムニポテント)”として働きます[3][4]。

🦠 細菌とヒトの解離因子の比較

項目 細菌(原核生物) ヒトなど(真核生物)
コドンを読む因子 RF1(UAA・UAGを担当)/RF2(UAA・UGAを担当) eRF1が1種類で3つすべてを担当
出典 Korostelev 2011[3]・Brown 2015[4]
組んで働く因子 RF3(RF1・RF2がリボソームから離れるのを助ける) eRF3(GTPを使い、eRF1が働ける形になるのを助ける)
特徴 2種類で分担 1種類で全対応(オムニポテント)

おもしろいのは、細菌の因子とヒトのeRF1は進化的に別の系統と考えられているのに、どちらも同じA部位で終止コドンを読み取るように働いている点です[4]。リボソームという古い構造に合わせて、別々の出発点から似た働きへたどり着いた例といえます。

eRF1は「読む」と「切る」を別の場所で行う

ヒトの解離因子eRF1は、終止コドンを「読む」部分と、タンパク質を「切り離す」部分をもっています。切り離しに欠かせないのが、GGQ(グリシン・グリシン・グルタミン)というアミノ酸の並びで、ここに変異を入れたeRF1は切り離しの働きを失うことが示されています[5]。また構造解析では、eRF1がA部位に入るとmRNAの形が変わり、終止コドンの3文字に加えてすぐ後ろの4文字目までA部位に引き込まれることが分かっています[4]。つまりeRF1は3文字だけでなく、その後ろの“文脈”まで使って、終止コドンとほかのコドンを見分けています。さらに、eRF1はeRF3と組んで入り、eRF3がGTPを使うことで、終止コドンの確認が済んでから切り離しへ進むよう、段階を踏んで進むことも報告されています[2]。

4. 終止コドンが「読み替えられる」例外

終止コドンはふつう終わりの合図ですが、特別な条件ではアミノ酸として読み替えられることがあります。これをリコーディング(翻訳の再定義)と呼びます。代表例が、第21のアミノ酸といわれるセレノシステインです。

💡 用語解説:セレノシステインとピロリシン

セレノシステインは、セレンという微量元素を含む特殊なアミノ酸です。ヒトの甲状腺ホルモンにかかわる酵素(1型脱ヨウ素酵素)では、本来は終止コドンであるUGAがセレノシステインとして読まれ、そのためにはmRNAの終止コドンより後ろ(3′非翻訳領域)にある特別な配列が必要であることが示されています[6]。この配列は、セレノシステイン挿入配列(SECISエレメント)と呼ばれます。

ピロリシンは、一部の古細菌がもつ特殊なアミノ酸で、こちらは終止コドンのUAGが読み替えられて使われます[7]。どちらも「終わりの合図のはずが、特定の状況では別の意味になる」という、遺伝暗号の奥深さを示す例です。

こうした“読み替え”や“読み飛ばし(リードスルー)”は自然界にもある現象で、この性質を治療に応用しようという研究が、後で紹介するナンセンス変異の治療研究につながっています。終止コドンは「絶対の終わり」ではなく、文脈しだいで意味が変わりうる合図なのです。

5. 異常な終止コドン:ナンセンス変異とPTC

DNAの1文字の変化で、本来アミノ酸を指定していたコドンが途中で終止コドンに変わってしまうことを「ナンセンス変異」といいます。DNAのたった1文字が変わる点突然変異によって、予定より早い場所に終止コドンができてしまうことがあり、これがナンセンス変異です。途中にできたこの異常な終止コドンを、専門用語で未成熟終止コドン(PTC:Premature Termination Codon)といいます。

💡 用語解説:ナンセンス変異とミスセンス変異の違い

ミスセンス変異は、1文字の変化でアミノ酸が「別のアミノ酸」に置き換わる変異です。文章でいえば一文字だけ別の字に変わっても、文はまだ続きます。

ナンセンス変異は、1文字の変化でアミノ酸を指定するコドンが「終止コドン」に変わる変異です。文章の途中に突然「。(句点)」が打たれて、文がそこで切れてしまうイメージです。その結果、本来より短く途切れたタンパク質がつくられたり、つくられなくなったりします。

ナンセンス変異の多くは、タンパク質の働きが失われる機能喪失型変異の代表例です。読み枠がずれて途中に終止コドンが生じやすいフレームシフト変異とも深い関係があります。

ヒトの遺伝性疾患の原因として報告された遺伝子変化を集めて分析した研究では、ナンセンス変異は全体のおよそ11%、遺伝子のタンパク質をつくる部分の1塩基置換に限ると約20%を占めていました[8]。デュシェンヌ型筋ジストロフィーや嚢胞性線維症など、よく知られた病気の一部にも関わっています。

検査レポートでの書かれ方(「*」と「Ter」)

遺伝子検査の結果には、国際的な表記ルール(HGVS)にしたがって変異が書かれています。ナンセンス変異は、アミノ酸の番号のあとに「Ter」(3文字表記)または「*」(1文字表記)をつけて表します。たとえば「p.Trp24Ter」と「p.Trp24*」は同じ意味で、「24番目のトリプトファン(Trp)のところが終止コドンに変わり、そこで翻訳が止まる」ことを示します。予測にもとづく記載では「p.(Trp24*)」のように丸かっこがつきます[9]。Trpのようなアミノ酸の略号はアミノ酸記号の一覧で確かめられます。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「*」や「Ter」を見つけたとき】

検査結果に「*」や「Ter」という記号があると、それだけで重い病気を意味すると受け止めてしまうかもしれません。これは「タンパク質が途中で止まるタイプの変異」を示すものですが、同じ“途中で止まる変異”でも、止まる場所や遺伝子によって体への影響は大きく変わります。記号ひとつだけで重症度や予後がすべて決まるわけではない、と私は考えています。

大切なのは、その変異がどの遺伝子の、どこに、どのように起きたのかを、ほかの所見とあわせて総合的に読み解くことです。変異が「病気の原因と判断できるか」は、病的バリアントの5段階分類にもとづいて評価されます。記号だけで思い悩まず、臨床遺伝専門医とその意味を確かめていただきたいと考えています。

6. 異常なmRNAを見張るしくみ:NMD

細胞には、途中に終止コドン(PTC)をもつ異常なmRNAを見つけて分解する「NMD」という品質管理のしくみがあります。NMD(Nonsense-Mediated mRNA Decay:ナンセンス変異依存mRNA分解)は、こうしたmRNAを処分することで、病気の原因にもなりうる途切れたタンパク質がつくられるのを防いでいます[10]。

💡 用語解説:NMDとは

NMDは、途中に未成熟終止コドン(PTC)をもつmRNAを見つけて、すばやく分解するしくみです。細胞が「不良品の設計図コピー」を回収するイメージです。NMDは異常なmRNAだけでなく、正常なmRNAの一部(約10%)の量の調節にもかかわっています[10]。

細胞は、終止コドンが「正しい位置」にあるのか「途中(PTC)」にあるのかを、スプライシングのときにエクソンのつなぎ目に残る目印(エクソン接合部複合体:EJC)を手がかりに見分けます。終止コドンより後ろにこの目印が残っていると、「途中で止まっている=異常」と判断され、mRNAが分解されます[10]。

臨床的に大事なのは、同じナンセンス変異でも、NMDで分解されるか、分解を逃れるか(変異が最後のエクソンにある場合など)によって、病気の現れ方が変わりうる点です。タンパク質が「足りない」状態になるのか、「邪魔をする短いタンパク質」が残るのかが変わるため、同じ遺伝子の変異でも症状の重さが異なることがあります。分解を逃れるしくみはNMDエスケープと最終エクソン則で解説します。

7. ナンセンス変異が関わる病気と治療研究

ナンセンス変異は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーや嚢胞性線維症の一部の患者さんの原因になっており、終止コドンを「読み飛ばさせる」治療が研究されています。デュシェンヌ型・ベッカー型筋ジストロフィーや嚢胞性線維症の一部の患者さんでは、遺伝子の途中にできた終止コドンによって、筋肉や臓器に必要なタンパク質が十分につくられなくなります。

「読み飛ばさせる」リードスルー療法

そこで研究されてきたのが、リボソームに未成熟終止コドンを“読み飛ばさせ”、翻訳を最後まで続けさせて、働くタンパク質をつくらせるリードスルー療法(翻訳リードスルー)です。アミノグリコシド系の抗菌薬や、その性質をもとに設計された低分子化合物が研究されてきました。

代表的な薬が、ナンセンス変異によるデュシェンヌ型筋ジストロフィーを対象に開発されたアタルレン(ataluren、商品名Translarna)です。ただし、その有効性の評価は大きく揺れています。欧州では、2025年3月28日に欧州委員会が条件付き販売承認を更新しないと決定し、承認は失効しました[11]。米国では、2026年2月12日、開発企業が、FDAから「承認に必要な有効性の根拠を満たす見込みが低い」との見解を受け、新薬承認申請(再提出分)を取り下げたと発表しました[12]。アタルレンは標準治療ではありません。

判断がむずかしい背景には、読み飛ばしで回復するタンパク質の量がもともとわずかで、その小さな変化を「病気の進行を遅らせる効果」として示すのがむずかしい、という事情があると考えられます。人の手で終止コドンのしくみに介入することの、繊細さを物語っています。

次の研究:人工サプレッサーtRNA

低分子化合物の限界を超えるため、人工的に設計したサプレッサーtRNAを使い、途中の終止コドンに“本来あるべき正しいアミノ酸”を入れさせる研究が進められています[13]。ただし、哺乳類の細胞での働き方にまだ分かっていない点があり、体内への届け方などの技術的な課題も残っています[13]。期待の大きい分野ですが、研究段階であり、すぐに使える確立した治療ではありません。

8. 遺伝子検査・遺伝カウンセリングとのつながり

終止コドンの知識は、遺伝子検査で「途中で止まる変異(*やTer)」が見つかったときに、その意味を読み解く土台になります。見つかった変異が病気とどう関係するのかを、ほかの所見とあわせて判断するのが、臨床遺伝専門医の役割です。

生まれたあとに病気が疑われるとき

生まれたあとに病気が疑われる場合は、血液などを用いた遺伝子の解析で原因を調べます。たとえば筋肉の病気が疑われる場合には、原因となる多数の遺伝子をまとめて調べる神経筋疾患遺伝子パネル検査などで、DMD遺伝子をはじめとする原因遺伝子の変異を評価できます。

妊娠中に調べたいとき

ご家族の中ですでに原因となる変異が分かっている場合、次のお子さんについては、妊娠中に羊水検査・絨毛検査で同じ変異があるかを確かめることを選択肢として検討できます。当院では羊水検査・絨毛検査を院内で行っています。

一方、ナンセンス変異は、ご両親にはなく赤ちゃんで新しく生じるde novo(新生突然変異)として起こることもあります。当院の採血で行う出生前検査(NIPT)では、ダイヤモンドプランで56遺伝子、インペリアルプランで最大155遺伝子(202疾患)について、de novoによる単一遺伝子の変化を調べています。これはスクリーニング検査で、陽性なら羊水検査などの確定検査で確かめます。また、ご家族で分かっている特定の変異を確かめる検査ではない点にご注意ください。対象の遺伝子は56遺伝子de novo変異NIPT・155遺伝子de novo変異NIPTで確認できます。

💡 用語解説:新生突然変異(de novo)

ご両親には存在せず、お子さんで初めて新しく生じた変異のことを、新生突然変異(de novo)と呼びます。ナンセンス変異もこの新生突然変異として生じることがあります。「両親が健康だから遺伝の病気ではない」と考えてしまうと診断が遅れることがあるため、変異の起こり方も含めて理解することが大切です。

検査の結果をどう受け止め、どう次の選択につなげるかは、ご家族にとって大きな問いです。当院では、特定の検査を押しつけたり、結果について安心を約束したり、不安をあおったりせず、遺伝カウンセリングで正確な情報を中立的にお伝えし、最終的な決定はご家族が納得して選べるようにすることを大切にしています。

9. 終止コドンをめぐるよくある誤解

誤解①「終止コドンにもアミノ酸がある」

UAA・UAG・UGAには対応するアミノ酸がありません。tRNAではなく解離因子(タンパク質)が読み取る点が、ほかのコドンとの決定的な違いです。

誤解②「アンバー=UAAだ」

取り違えが多い点です。正しくはアンバー=UAG、オーカー=UAA、オパール=UGAです。

誤解③「終止コドンは絶対に終わりだ」

通常は終わりの合図ですが、特定の条件ではアミノ酸として読み替えられることがあります(セレノシステインなど)。

誤解④「途中で止まる変異=必ず重症」

止まる位置や遺伝子、NMDで分解されるかどうかによって影響は大きく変わります。記号一つで重症度がすべて決まるわけではありません。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【小さな“句点”が教えてくれること】

終止コドンは、たった3文字の「終わりの合図」にすぎません。けれども、その合図が予定外の場所にできてしまうだけで、体に必要なタンパク質がつくられなくなることがあります。文章でいえば、たった一つの句点が、伝えたい内容を途中で切ってしまうようなものです。生命の設計図が、いかに繊細なバランスの上に成り立っているかを実感させられます。

同時に、その合図を読み飛ばさせる治療研究のように、しくみを深く理解することが新しい可能性につながっていく分野でもあります。私が遺伝の情報発信を続けているのは、こうした基礎の知識が、検査結果に向き合うご家族の理解の土台になると考えているからです。難しい言葉の向こうにある“意味”を、これからもわかりやすくお届けしていきます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 終止コドンとは何ですか?3つはどれですか?

終止コドンは、mRNAを読んでタンパク質をつくる「翻訳」を終わらせる合図で、UAA・UAG・UGAの3つです。DNAではTAA・TAG・TGAと書きます。64種類あるコドンのうち、この3つだけはアミノ酸を指定しません。

Q2. 終止コドンと開始コドンの違いは何ですか?

開始コドン(ふつうはAUG)は翻訳の「始まりの合図」で、メチオニンというアミノ酸も指定します。一方、終止コドン(UAA・UAG・UGA)は「終わりの合図」で、対応するアミノ酸はありません。始まりはアミノ酸を運ぶtRNAが、終わりは解離因子というタンパク質が読み取る、という違いもあります。

Q3. 終止コドンの覚え方はありますか?

UAA・UAG・UGAを「うあー・うあぐ・うがー」と口に出すと覚えやすくなります。3つとも先頭がUで、残り2文字はAA・AG・GAです。英語の語呂合わせなら「U Are Away(UAA)・U Are Gone(UAG)・U Go Away(UGA)」です。開始コドンAUGは、終止コドンUAGの文字が入れ替わった並びなので、セットで覚えると混乱しにくくなります。

Q4. 終止コドンはなぜ翻訳されない(アミノ酸を指定しない)のですか?

終止コドンにぴったり合うアミノ酸運搬用のtRNAが、細胞にふつうは存在しないためです。かわりに、tRNAに似た形をした解離因子(ヒトではeRF1)というタンパク質がリボソームに入り、できたタンパク質を切り離して翻訳を終わらせます。

Q5. アミノ酸の数を数えるとき、終止コドンは数えますか?

数えません。終止コドンはアミノ酸を指定しないので、できあがるタンパク質のアミノ酸の数には入りません。たとえば開始コドンから終止コドンまでが101コドンなら、アミノ酸は100個です。ただし「コドンの数」を問われたときは、終止コドンも1つのコドンとして数えます。

Q6. ターミネーターと終止コドンの違いは何ですか?

ターミネーターは、DNAからRNAを写し取る「転写」を終わらせるDNA上の配列です。終止コドンは、mRNAを読んでタンパク質をつくる「翻訳」を終わらせる3文字の合図です。終わらせる作業(転写か翻訳か)が違います。

Q7. 終止コドン・ストップコドン・ナンセンスコドンは同じものですか?

基本的に同じものを指します。英語のstop codon(ストップコドン)を日本語にしたものが終止コドン(終結コドンとも)で、アミノ酸を指定しないことから「ナンセンスコドン」とも呼ばれます。なお「終始コドン」と書かれることがありますが、正しくは「終止コドン」です。

Q8. ナンセンス変異とは何ですか?

DNAの1文字の変化によって、本来アミノ酸を指定していたコドンが終止コドンに変わってしまう変異です。その結果、タンパク質が予定より早い場所で途切れます。この途中の終止コドンを未成熟終止コドン(PTC)と呼び、遺伝性疾患の原因として報告された遺伝子変化のおよそ11%がナンセンス変異です。

Q9. 検査結果の「*」や「Ter」はどういう意味ですか?

どちらも「そのアミノ酸の位置で終止コドンができ、翻訳が止まる」ことを示す記号です。たとえば「p.Trp24Ter」と「p.Trp24*」は同じ意味で、24番目のトリプトファンのところで翻訳が止まることを表します。ただし、止まる場所や遺伝子によって体への影響は異なるため、記号だけで重症度が決まるわけではありません。

Q10. 終止コドンがアミノ酸として読まれることはありますか?

あります。これをリコーディング(翻訳の再定義)と呼びます。代表例として、mRNAに特別な配列(SECISエレメント)があるとき、UGAがセレノシステインという特殊なアミノ酸として読まれます。一部の古細菌ではUAGがピロリシンとして読まれます。いずれも限られた条件での例外的なしくみです。

Q11. ナンセンス変異の病気に、すでに使える治療はありますか?

途中の終止コドンを読み飛ばさせる「リードスルー療法」が研究されてきましたが、代表的な薬アタルレン(Translarna)は、欧州で2025年3月に条件付き承認が更新されず失効し、米国でも2026年2月に承認申請が取り下げられました。人工サプレッサーtRNAなどの研究も進んでいますが、まだ研究段階です。

Q12. 終止コドンの変異は出生前に調べられますか?

ご家族の中で原因となる変異がすでに分かっている場合は、羊水検査・絨毛検査でその変異を確かめることを検討できます。両親にない新しい変化(de novo)については、当院のNIPTのダイヤモンドプラン(56遺伝子)・インペリアルプラン(最大155遺伝子)で一部の単一遺伝子の変化を調べられます。NIPTはスクリーニング検査なので、陽性なら確定検査で確かめます。

🏥 検査結果の変異の意味を、臨床遺伝専門医と確かめる

臨床遺伝専門医が常駐し、検査結果に書かれた変異(*やTerなど)の意味をご説明します。妊娠中の方は、羊水検査・絨毛検査まで院内で受けられます。

まだ決めていない方は:遺伝カウンセリングとは | 臨床遺伝専門医とは

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参考文献

  • [1] Caskey CT, Tompkins R, Scolnick E, Caryk T, Nirenberg M. Sequential translation of trinucleotide codons for the initiation and termination of protein synthesis. Science. 1968;162(3849):135-138. [DOI 10.1126/science.162.3849.135]
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  • [3] Korostelev AA. Structural aspects of translation termination on the ribosome. RNA. 2011;17(8):1409-1421. [DOI 10.1261/rna.2733411]
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※本記事は一般の方に向けた情報提供を目的とするもので、個別の診断・検査の選択を示すものではありません。検査については臨床遺伝専門医にご相談ください。

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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