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ジェノタイピング(genotyping)とは、ゲノム上のあらかじめ決めた場所について、その人がどの型のDNAを持っているか、つまり遺伝子型を判定することです。日本語では「遺伝子型判定」「遺伝子型決定」と訳されます。医療では薬の副作用予測や移植の適合性の確認に、研究では遺伝子改変マウスの確認や集団の遺伝研究に使われています。この記事では、ジェノタイピングの意味と目的、PCRやSNPアレイなどの方法、シークエンスや遺伝子検査との違い、そして「調べてわかること・わからないこと」までを、臨床遺伝専門医の立場から整理します。
Q. ジェノタイピングとは何ですか?まず結論だけ知りたいです
A. ジェノタイピングとは、ゲノム上の決まった位置(遺伝子座)について、父由来と母由来のDNAがそれぞれどの型か(例:A/G)を判定する技術で、日本語では遺伝子型判定といいます。配列を端から読んでいくシークエンスとは違い、「調べる場所をあらかじめ決めて、その場所の型だけを判定する」のが特徴です。そのため効率よく多くの人を調べられる一方、調べる場所に入っていない変化は見つけられません。
- ➤意味 → genotyping=遺伝子型判定・遺伝子型決定。決まった位置の型を判定すること
- ➤目的 → 医療では薬の副作用予測・移植・病原体の型、研究では改変マウスの確認や集団研究
- ➤方法 → PCR(リアルタイムPCR・TaqMan法など)、SNPアレイ、シークエンス
- ➤シークエンスとの違い → 既知の位置だけを判定するか、連続した配列を読むか。シークエンスでも遺伝子型は判定できる
- ➤限界 → 調べていない位置は見えない。SNPアレイはまれなバリアントで誤判定が多いと報告されている
🧬 ジェノタイピングの基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 読み方・訳語 | ジェノタイピング/genotyping。日本語では遺伝子型判定、遺伝子型決定、遺伝子型解析 |
| 定義 | ゲノム上の決まった位置の遺伝子型(アレルの組み合わせ)を判定すること |
| 主な方法 | PCRを用いる方法(リアルタイムPCR、TaqMan法、電気泳動)、SNPアレイ(マイクロアレイ)、シーケンスによるジェノタイピング |
| シークエンスとの違い | ジェノタイピングは既知の位置を判定、シークエンスは連続した塩基配列を読む |
| 主な用途 | 薬の効き方・副作用の予測、HLA型の判定、病原体の型、集団研究、個人識別、研究用動物の確認 |
※本記事は遺伝学の用語・手法の解説です。検査や治療の判断は、必ず主治医・専門医とご相談ください。

1. ジェノタイピングとは?遺伝子型を「判定」する技術
ジェノタイピングとは、ゲノム上の決まった位置について、その人がどの型のDNAを持っているかを判定することです。ここでいう「型」が遺伝子型(genotype)です。米国国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)は、遺伝子型を「ゲノム上の特定の位置(遺伝子座)にあるバリアントの型を表したもの」と説明しており、BB・Bb・bbのような記号や、CC・CT・TTのような実際の塩基で表すことができるとしています[1]。ジェノタイピングは、この遺伝子型を実際にDNAを調べて決める作業を指します。
ひとことで言うと:決まった場所の「アレルの組み合わせ」を読む
ヒトの細胞には、父親由来と母親由来の染色体が1組ずつあります。そのため、ほとんどの常染色体上の位置には、父由来と母由来の2つのDNAの型が並んでいます。たとえば、ある位置の塩基が父由来ではA(アデニン)、母由来ではG(グアニン)だった場合、その人のその位置の遺伝子型は「A/G」と書きます。両方ともAなら「A/A」、両方ともGなら「G/G」です。ジェノタイピングは、この組み合わせを1か所ずつ、あるいは数十万〜数百万か所まとめて判定する技術です。
ここで大切なのは、ジェノタイピングが「調べる場所をあらかじめ決めてから判定する」方法だという点です。人と人とでDNAの型が異なることが知られている位置を選び、その位置の型だけを確認します。東北メディカル・メガバンク機構は、ジェノタイピングを「全ゲノムの配列を解読する代わりに、個人間で異なることが予めわかっているゲノム上の場所についてのみ調べる技術」と説明しています[2]。決まった場所だけを見るので効率がよく、多くの人を同じ条件で比べやすいのが長所です。
A/AやG/Gのように2つが同じ型である状態をホモ接合、A/Gのように異なる状態をヘテロ接合といいます。ジェノタイピングの結果は、多くの場合この「ホモかヘテロか、どの型か」という形で返ってきます。医療で使われるジェノタイピングでは、この判定結果をもとに、薬の量を調整したり、副作用のリスクを見積もったりします。
日本語では何という?遺伝子型判定・genotypingの意味
英語のgenotypingは、gene(遺伝子)とtype(型)を組み合わせたgenotype(遺伝子型)に、「〜すること」を表す-ingが付いた言葉です。日本語では「遺伝子型判定」「遺伝子型決定」「遺伝子型解析」などと訳され、カタカナで「ジェノタイピング」とそのまま書かれることも多くあります。研究の現場や検査会社の案内では「タイピング」と略して呼ぶこともあり、「HLAタイピング」「SNPタイピング」のように、何の型を調べるかを前に付けた言い方もよく使われます。
よく似た言葉に「遺伝子型検査」があります。これは主に、医療や消費者向けのサービスで、決まった位置の遺伝子型を調べる検査を指すときに使われる表現です。一方、ジェノタイピングはもっと広い言葉で、研究用のマウスの確認や、植物・家畜の品種の判別、ウイルスの型の判定まで含みます。つまり「遺伝子型検査」はジェノタイピングを使った検査の一種、と考えるとわかりやすいでしょう。
💡 用語解説:遺伝子型と表現型(フェノタイプ)
遺伝子型(ジェノタイプ)は、ある位置のDNAがどの型の組み合わせかという「設計図の情報」です。これに対して表現型(フェノタイプ)は、身長や血液型、病気の有無のように、実際に体に現れる特徴を指します。同じ遺伝子型でも、環境や他の遺伝子の影響で表現型が変わることがあります。ジェノタイピングで調べられるのは遺伝子型であって、表現型そのものではありません。
遺伝子型・遺伝子座・アレルとの関係
ジェノタイピングを理解するうえで欠かせない言葉が3つあります。1つめは遺伝子型、2つめは染色体上の「住所」にあたる遺伝子座、3つめはその住所に入りうる中身のバリエーションであるアレル(対立遺伝子)です。ジェノタイピングとは、ある遺伝子座について、父由来と母由来の2つのアレルがそれぞれ何かを確かめ、その組み合わせ(遺伝子型)を決める作業、と言い換えることができます。
たとえばABO式血液型では、9番染色体上の1つの遺伝子座に、A・B・Oという複数のアレルが入りえます。親から1つずつ受け継いだアレルの組み合わせがAOなら、その人の遺伝子型はAO、血液型(表現型)はA型です。ジェノタイピングで遺伝子型を調べれば、血液型の検査だけではわからない「AAなのかAOなのか」まで区別できます。遺伝子型そのものの詳しい説明は、遺伝子型の解説ページで扱っています。
2. ジェノタイピングの目的:何のために調べるのか
ジェノタイピングの目的は、大きく「医療で個人の遺伝子型を判断材料に使うこと」と「研究で多数の個体の遺伝子型を比べること」の2つに分けられます。医療では、薬を使う前に副作用が起こりやすい体質かどうかを確かめる、臓器や造血幹細胞の移植で型を合わせる、感染したウイルスの型を調べる、といった場面で使われます。研究では、遺伝子を改変したマウスが目的どおりの遺伝子型になっているかを確かめる作業や、病気と遺伝子型の関連を多数の人で調べる研究の土台になっています。
医療での目的:薬の効き方・副作用、移植、病原体の型
医療でジェノタイピングが最も確立しているのは、薬の効き方や副作用の出やすさを遺伝子型から予測する分野です。これをファーマコゲノミクス(薬理ゲノミクス)と呼びます。代表的な例が、NUDT15(ヌディックス・ティー・フィフティーン)という遺伝子です。炎症性腸疾患や急性リンパ性白血病などで使われるチオプリン製剤(アザチオプリン、メルカプトプリン)では、NUDT15がつくる酵素が活性代謝物であるチオグアニンヌクレオチドの不活化に関わります。米国の薬理遺伝学の専門家団体CPICの指針によると、NUDT15の働きが低下するアレルはアジア系やヒスパニック系の人に比較的多く、この型を持つ人では活性代謝物が蓄積しやすいため、骨髄抑制(白血球などが大きく減ること)が起こりやすくなります。指針はこの遺伝子型に基づいて開始量を調整することを推奨しています[3]。
日本では、NUDT15遺伝子多型検査が2019年2月に保険適用となりました。検査はリアルタイムPCR法で行われ、チオプリン製剤を使い始める前に1回実施するものと位置づけられています[4]。日本リウマチ学会の通知では、日本人の約1%にみられるCys/Cys型の人は重い白血球減少や全身の脱毛のリスクが非常に高いため、チオプリン製剤は原則として避け、Arg/Cys型・His/Cys型の人は通常の半量程度から始めることを検討するよう示されています[5]。ホモ型の頻度はアジア人で2%前後とする報告もあり[4]、数字は集団によって幅があります。これは集団での頻度であって、ある個人がその型である確率を示すものではありません。
もう一つの代表例がHLA(ヒト白血球抗原)です。HLAは免疫の働きに関わる遺伝子群で、型の種類が非常に多いことが知られています。臓器移植や造血幹細胞移植では、移植の種類に応じてドナーと患者のHLAを検査し、適合性の評価に用います。ここでもジェノタイピングが使われます。また、HLAの型は薬の重い副作用とも関係しています。日本人を対象にした研究では、抗てんかん薬カルバマゼピンによる重症の薬疹(スティーヴンス・ジョンソン症候群など)の遺伝的リスク因子として、HLA-A*31:01という型が見つかっています[6]。海外では、HIV治療薬アバカビルの過敏症とHLA-B*57:01との関係が知られ、1,956人を対象にした無作為化試験で、投与前にこの型を調べることの有効性が検証されました[7]。どちらも「リスクを高める型」であって、その型を持つ人に必ず副作用が起こるわけではなく、持っていない人に起こらないとも限りません。
身近な例では、お酒に強いか弱いかに関係するALDH2(アルデヒド脱水素酵素2)遺伝子があります。ALDH2のrs671は、アルコール代謝で生じるアセトアルデヒドを酢酸へ代謝する酵素の活性を低下させる変化です。この変化を持つ人では飲酒後に顔が赤くなる反応などが起こりやすく、東アジア、とくに日本人を含む集団で比較的多くみられます[8]。頻度は対象集団、性別、地域などによって異なるため、一般化した一律の割合としては示しません。さらに、病原体に対しても「型を調べる」という意味でジェノタイピングという言葉が使われます。ヒトパピローマウイルス(HPV)の型判定などがその例で、ウイルスの型によって性質が異なるため、型の情報が診療に使われます。
🩺 院長コラム【遺伝子型は「薬を選ぶ前」に意味を持つ】
NUDT15の例は、ジェノタイピングが医療でどう役立つかをよく示しています。遺伝子型は生まれてから変わらないので、薬を使い始める前に一度調べておけば、その結果を開始量の判断に使うことができます。副作用が出てから原因を探すのではなく、出る前に体質を確かめておく、という考え方です。
一方で、遺伝子型だけで副作用のすべてが予測できるわけではありません。リスクの低い型の人でも副作用は起こりえますし、ほかの薬や体の状態も影響します。遺伝子型は判断材料の一つであり、実際の治療の判断は、主治医が全体を見て行うものです。臨床遺伝専門医としては、結果を「確率の話」として正しく受け取ることが大切だと考えています。
研究での目的:遺伝子改変マウスの確認(マウスのジェノタイピング)
「ジェノタイピング」という言葉で最もよく検索されている場面の一つが、研究室でのマウスのジェノタイピングです。特定の遺伝子を壊したノックアウトマウスや、外から遺伝子を入れたトランスジェニックマウスは、見た目では普通のマウスと区別がつかないことがほとんどです。そのため、生まれたマウス1匹ずつについて、目的の遺伝子改変が入っているか、入っているなら片方の染色体だけ(ヘテロ)か両方(ホモ)かをDNAで確かめる必要があります。この確認作業がマウスのジェノタイピングです。
作業の流れは、耳や尾の小さな組織からDNAを取り出し、改変部分をはさむように設計したプライマーでPCRを行い、増えたDNAの長さを電気泳動で確認する、というものです。改変された遺伝子と元の遺伝子とでPCRで増える断片の長さが違うように設計しておくと、電気泳動で見える帯(バンド)の位置で遺伝子型がわかります。元の型の帯だけなら野生型、改変型の帯だけならホモ、両方の帯が出ればヘテロ、という読み方です。

遺伝子改変マウスでは、目的領域をPCRで増幅し、電気泳動のバンドパターンから野生型・ヘテロ接合体・ホモ接合体を判定します。模式図であり、実際のバンド位置・サイズをそのまま表したものではありません。
同じ考え方は、植物や家畜の品種改良にも使われています。望ましい性質と関連する型を持つ個体を、DNAで早い段階から選び出すことができるからです。医療の検査とは目的も手順の細部も異なりますが、「決まった場所の型を判定する」という点では同じジェノタイピングです。なお、実験の具体的な条件(試薬の量や温度など)は実験系ごとに異なるため、この記事では扱いません。
集団研究と個人識別:GWASと親子鑑定
ジェノタイピングは、多数の人を対象にした研究の土台でもあります。GWAS(ゲノムワイド関連解析)では、病気のある人とない人の遺伝子型を数十万〜数百万か所で比べ、どの位置の型が病気と関連しているかを探します。先に紹介したHLA-A*31:01とカルバマゼピンの重症薬疹との関連も、日本人を対象にしたGWASで見つかったものです[6]。ただしGWASで見つかる多くの関連は、一つひとつの影響が小さく、「その型を持つと必ず病気になる」という意味ではありません。
個人を識別する用途では、マイクロサテライト(STR)と呼ばれる短い繰り返し配列の遺伝子型が使われます。STRは繰り返しの回数が人によって大きく異なるため、複数の位置の型を組み合わせると、個人を高い精度で見分けることができます。米国のFBIが運用するDNAデータベースでは、必須とされるSTRの位置が2017年1月1日から13か所から20か所に増やされました[9]。親子鑑定も、子どもの遺伝子型が両親から1つずつ受け継いだ組み合わせになっているかを、複数のSTRで確かめる考え方にもとづいています。
3. ジェノタイピングの主な方法
ジェノタイピングの方法は、大きく「PCRを用いる方法」「SNPアレイ」「シークエンスによる方法」の3つに分けられます。違いは、一度に調べる位置の数と、調べられる範囲です。数か所を正確に速く調べたいときはPCR系、数十万〜数百万か所を一度に調べたいときはSNPアレイ、あらかじめ位置を決めずに配列ごと確かめたいときはシークエンスが選ばれます。
PCRを用いたジェノタイピング(電気泳動・リアルタイムPCR・TaqMan法)
PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)は、DNAの狙った部分だけを何百万倍にも増やす技術です。1サイクルは3つの段階からなります。まず高温でDNAの二本鎖をほどいて一本鎖にする「熱変性」、次に温度を下げて短いDNAの目印(プライマー)を狙った配列に結合させる「アニーリング」、そしてDNAポリメラーゼという酵素がプライマーを起点に新しい鎖を伸ばす「伸長」です。このサイクルを繰り返すと、狙った領域が指数関数的に増えていきます。
増えたDNAから遺伝子型を読み取る方法はいくつかあります。マウスの例のように長さの違いを電気泳動で見る方法のほか、医療の検査でよく使われるのがリアルタイムPCR(qPCR)です。PCRの国際的な報告基準であるMIQEガイドラインでは、qPCRを「定量的リアルタイムPCR(quantitative real-time PCR)」の略として定義しています[10]。つまり、qPCRとリアルタイムPCRは同じものを指す言葉です。増幅の進み具合を蛍光で1サイクルごとに測るため、電気泳動をしなくても結果が得られます。なお、RNAを逆転写してから行うものはRT-qPCRと呼び分けられています[10]。
リアルタイムPCRでジェノタイピングを行う代表的な方法がTaqMan法です。調べたい位置の2つの型それぞれにぴったり結合するプローブ(短いDNAの目印)を用意し、別々の色の蛍光色素で標識しておきます。PCRで増幅が進むと、結合したプローブが分解されて蛍光が出るので、どちらの色が光ったかで型がわかります。片方の色だけならホモ、両方の色が出ればヘテロです。先に紹介したNUDT15の検査も、リアルタイムPCR法で行われています[4]。
💡 用語解説:プライマーとプローブ
プライマーは、PCRでDNAを増やすときに「ここから複製を始める」という起点になる、20塩基前後の短いDNAです。プローブは、増えたDNAの中の特定の配列にくっついて「その配列があるかどうか」を知らせる目印の役割を持つ短いDNAです。プライマーが「増やす範囲を決めるもの」、プローブが「型を見分けるもの」と考えると区別しやすくなります。
SNPアレイ(マイクロアレイ)
SNP(一塩基多型)とは、1つの塩基が人によって異なる位置のことで、ヒトのゲノムに最も多い個人差です。SNPアレイは、こうしたSNPの位置を検出するための短いDNAを、1枚の小さなチップの上に何十万〜何百万種類も並べたものです。調べたい人のDNAをチップに反応させると、各位置でどの型のDNAが結合したかが蛍光の強さとして読み取られ、多数の位置の遺伝子型が一度に判定されます。
SNPアレイで確認できるのは、全ゲノムのごく一部にあたる、チップ上にあらかじめ載せられた数十万〜数百万か所です。チップに載っていない配列は検出できません[2]。その代わり、1人あたりの費用が比較的低く、同じ位置を多数の人で比べられるため、GWASのような大規模研究や、消費者向けの遺伝子検査サービスで広く使われています。どの位置を調べるかはチップの設計で決まっているため、何が見えて何が見えないかを理解しておくことが大切です。
シーケンスによるジェノタイピング
DNAの塩基配列を読む次世代シークエンサー(NGS)を使って、遺伝子型を判定することもできます。調べたい領域の配列を読み、参照となる標準配列と比べることで、その位置の型がわかります。NHGRIも、DNAシークエンスなどの方法で一度に数百万か所の遺伝子型を決められると説明しています[1]。狙った領域だけを増やして読む方法もあれば、多数の位置をまとめて読む方法もあり、動植物の研究ではSNPアレイより低コストな選択肢として使われることもあります。
| 方法 | 一度に調べる位置 | 向いている用途 |
|---|---|---|
| PCR+電気泳動 | 1〜数か所 | 研究用マウスの確認など、決まった改変の有無の判定 |
| リアルタイムPCR(TaqMan法など) | 1〜数十か所 | 薬理遺伝学の検査など、特定の型をすばやく正確に判定 |
| SNPアレイ | 数十万〜数百万か所 | GWASなどの集団研究、消費者向け検査 |
| シーケンスによる方法 | 狙った領域〜多数の領域 | 決まった位置以外も含めて配列ごと確認したい場合 |
4. ジェノタイピングとシークエンスの違い
ジェノタイピングは「決まった位置の型を判定すること」、シークエンスは「連続した塩基配列を読むこと」です。ジェノタイピングは、調べる場所をあらかじめ選び、その場所がA/AなのかA/GなのかG/Gなのかだけを答えます。シークエンスは、ある範囲のDNAをA・C・G・Tの並びとして端から読み取り、どこにどんな違いがあるかを配列ごと明らかにします。
両者は対立する技術ではありません。シークエンスで読んだ配列から、特定の位置の遺伝子型を判定することもできるからです。違いは「何を知りたいか」にあります。すでに意味のわかっている位置の型だけを知りたいならジェノタイピングが効率的で、まだ知られていない変化も含めて探したいならシークエンスが必要になります。
| 比較項目 | ジェノタイピング | シークエンス |
|---|---|---|
| 調べるもの | 決まった位置の遺伝子型 | 連続した塩基配列 |
| 調べる位置 | あらかじめ選んだ既知の位置 | 読んだ範囲の全体 |
| 未知の変化 | 見つけられない | 読んだ範囲なら見つけられる |
| 得意な場面 | 多数の人を同じ条件で比べる、特定の型を速く調べる | 原因のわからない病気の遺伝子を探す、まれな変化を確かめる |
大規模な研究では、両方を組み合わせて使うこともあります。東北メディカル・メガバンク機構は、全ゲノムを解読した検体についても、チップによるジェノタイピングを全例で併せて行っていると説明しています[2]。ヒトのゲノムには未知の多様性があり、シークエンスでは予想しない結果が出ることがあるため、異なる方法の結果を突き合わせて精度を確認するためです。どちらが優れているかではなく、目的に応じて使い分け、ときには組み合わせる、というのが実際の姿です。
医療の遺伝学的検査では、調べる範囲に応じて、特定の遺伝子を読む方法から、すべての遺伝子のタンパク質をつくる部分を読むエクソーム解析、ゲノム全体を読む全ゲノム解析までの選択肢があります。原因のはっきりしない病気の遺伝子を探す場面では、決まった位置しか見ないジェノタイピングではなく、こうしたシークエンスが選ばれるのが一般的です。
5. ジェノタイピングと遺伝子検査(遺伝学的検査)の違い
遺伝子検査は、遺伝子や染色体を調べる検査全体を指す広い言葉で、ジェノタイピングはその中で使われる一つの手法です。遺伝子検査(遺伝学的検査)には、特定の位置の型を判定するジェノタイピングのほか、遺伝子の配列を読むシークエンス、染色体の数や大きな欠失・重複を調べる染色体検査や染色体マイクロアレイなど、さまざまな方法が含まれます。
目的の違いで整理すると、ジェノタイピング(遺伝子型検査)は「特定の型を持っているかどうか」を確かめるのに向いています。薬の副作用に関わる型や、移植のためのHLAの型がその例です。一方、病気の原因を探す遺伝学的検査では、どこに変化があるかわからないことが多いため、遺伝子を広く読む方法が選ばれます。同じ「遺伝子を調べる」でも、何を知りたいかによって、適した方法が変わるということです。
検査結果の受け取り方にも違いがあります。ジェノタイピングの結果は「この位置はA/G型」のように明確に出ますが、その型が体にどう影響するかは、型ごとに蓄積された研究にもとづいて解釈されます。どの位置を調べ、その結果が何を意味し、何を意味しないのかを、検査を受ける前に確認しておくことが大切です。
6. ジェノタイピングでわかること・わからないこと
ジェノタイピングでわかるのは「調べた位置の遺伝子型」であり、調べていない位置の変化や、その型が将来どう現れるかまではわかりません。この限界を知っておくことは、特に消費者向けの遺伝子検査の結果を読むときに重要になります。
調べた場所以外の変化は見えない
ジェノタイピングは、あらかじめ選んだ位置の型だけを判定する方法です。そのため、選ばれていない位置にある変化は、どれほど重要なものであっても結果には現れません。SNPアレイで確認できるのはゲノムのごく一部の位置であり、チップにない配列は検出できないと説明されています[2]。「検査で異常がなかった」という結果は、調べていない位置にも変化がないことを意味しません。
ある遺伝子に病気の原因となる変化がないかを知りたい場合、その遺伝子で知られている代表的な位置だけをジェノタイピングで調べても、ほかの位置の変化は見落とされます。家族にまれな遺伝性の病気がある場合など、どこに変化があるかわからない状況では、遺伝子全体を読む方法のほうが適しています。
まれなバリアントとSNPアレイの誤判定
SNPアレイは、よくある型の判定では非常に正確です。しかし、まれなバリアント(遺伝子の変化)の判定には弱点があることが、大規模な研究で示されています。英国の研究者たちは、UKバイオバンクの49,908人について、SNPアレイの結果と、より信頼性の高いシークエンスの結果を比べました[11]。頻度の高い108,574の位置では、感度・特異度・陽性的中率・陰性的中率のいずれもが99%を超えていました。一方、集団での頻度が0.001%未満のきわめてまれな位置では、アレイがヘテロ接合と判定した4,757件のうち、シークエンスで確認できたのは16%にとどまりました[11]。
同じ研究では、消費者向けの遺伝子検査のデータを公開していた21人を調べたところ、20人に、少なくとも1つの誤って判定された、まれな病気の原因となる変化が含まれていました[11]。また、乳がんなどに関わるBRCA1・BRCA2遺伝子のまれな変化について、アレイで陽性とされた人の関連するがんの発生率は、年齢をそろえた比較対象の人と大きく変わらず、その多くが誤判定だったことがうかがえます。これに対し、シークエンスで陽性とされた人では、関連するがんのリスクがはっきり高くなっていました[11]。この数値は特定の研究条件で得られたものですが、アレイで見つかったまれな変化を、確認の検査なしに医療上の判断に使うべきではないことを示しています。
⚠️ 消費者向け遺伝子検査の結果を受け取った方へ
消費者向けの遺伝子検査で、病気に関わるまれな変化を指摘されることがあります。その多くはSNPアレイによる判定であり、上記のように誤判定が含まれることが報告されています。結果だけで治療や予防の方針を決めず、医療機関で行う確認の検査と専門医による解釈を経てから判断してください。
遺伝子型がわかっても発症がわかるとは限らない
ジェノタイピングで遺伝子型が正しくわかったとしても、それがそのまま病気になるかどうかを意味するわけではありません。ある遺伝子型を持つ人のうち、実際に症状が現れる人の割合を浸透率といいます。浸透率は遺伝子や変化ごとに大きく異なり、ほぼ全員に症状が出るものもあれば、ごく一部の人にしか影響しないものもあります。
また、GWASで見つかる多くの型は、病気のなりやすさをわずかに高めるだけで、一つひとつの影響は小さいものです。環境や生活習慣、ほかの多くの遺伝子の影響も重なって、最終的に体に現れる特徴、つまり表現型が決まります。遺伝子型と表現型の関係については、遺伝子型と表現型の違いの解説もあわせてご覧ください。遺伝子型は将来を決める答えではなく、確率を考えるための材料の一つ、と捉えるのが正確です。
🩺 院長コラム【「調べた場所」と「調べていない場所」を分けて読む】
ジェノタイピングの結果を読むときに最初に確認すべきなのは、「どの位置を調べた検査なのか」です。同じ遺伝子の名前が結果に書かれていても、その遺伝子の一部の位置しか見ていない検査と、遺伝子全体を読んだ検査とでは、「異常なし」の意味がまったく違います。
消費者向けの検査で見つかったまれな変化は、確認の検査で否定されることが少なくありません。反対に、アレイで何も見つからなくても、調べていない位置に変化がある可能性は残ります。検査結果は、どの方法で、どこを、どれだけの精度で調べたのかとセットで解釈する必要があります。これは臨床遺伝専門医として、遺伝子検査の結果を扱うときに常に確認している点です。
7. 遺伝情報の扱い:プライバシー・差別・遺伝カウンセリング
ジェノタイピングで得られる遺伝子型の情報は、生涯変わらず、血縁者とも一部を共有する、特別な性質を持った個人情報です。数十万か所以上の遺伝子型の組み合わせは、個人を特定できるほどの情報を含みます。そのため、遺伝情報の保護と、遺伝情報にもとづく不当な差別の防止が、各国で課題とされてきました。
日本では、2023年6月に「良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律」(ゲノム医療推進法)が公布・施行されました。その基本理念には、ゲノム情報の適正な取扱いと、差別などへの適切な対応の確保が含まれています[12]。この法律にもとづく基本計画は2025年11月に策定されています[13]。法務省は、ゲノム情報への理解不足から、就職や保険の加入などの場面で不当な差別やプライバシーの侵害が起こるおそれがあるとして、人権相談などで対応するとしています[14]。ただし、この法律は施策の方向を定めたもので、遺伝情報による差別を個別に禁止する規定を置いたものではない点に注意が必要です。
米国では、2008年に遺伝情報差別禁止法(GINA)が成立し、健康保険と雇用の場面で遺伝情報にもとづく差別が禁止されています[15]。一方で、GINAは生命保険や長期介護保険には適用されないなど、保護の範囲には限りがあります。欧州連合の一般データ保護規則(GDPR)は、遺伝データを特に慎重な扱いが必要な「特別な種類の個人データ」に位置づけ、原則として処理を禁止したうえで例外を定めています[16]。国によって保護の範囲が異なるため、海外の事業者の検査を利用する場合は、データがどこでどう扱われるかを確認しておくことが大切です。
医療で遺伝子型を調べる場合には、検査の前後で遺伝カウンセリングが行われることがあります。検査で何がわかり何がわからないのか、結果が本人や血縁者にとってどのような意味を持つのか、情報をどのように扱うのかを、検査の前に整理しておくためです。特に、将来の病気のなりやすさに関わる型を調べる場合や、血縁者にも関係する結果が出うる場合には、この整理が重要になります。
まとめ ─ 「どこを調べたか」とセットで読む
ジェノタイピングは、ゲノム上の決まった位置の遺伝子型を判定する技術で、日本語では遺伝子型判定と呼ばれます。医療では、NUDT15やHLAのように薬の副作用のリスクを見積もる判断材料として使われ、研究では遺伝子改変マウスの確認や、多数の人を対象にした集団研究の土台となっています。方法には、PCRを用いる方法、SNPアレイ、シーケンスによる方法があり、調べる位置の数と範囲で使い分けられます。
シークエンスとの違いは、決まった位置の型だけを判定するか、連続した配列を読むかにあります。ジェノタイピングは効率よく多くの位置を調べられる一方で、調べていない位置の変化は見えず、SNPアレイではまれなバリアントの誤判定が多いことも報告されています[11]。遺伝子型の結果は、どの方法で、どの位置を調べたのかとセットで読み、発症の有無そのものではなく確率を考える材料として扱うことが大切です。
よくある質問(FAQ)
Q1. ジェノタイピングとは日本語で何といいますか?
ジェノタイピング(genotyping)は、日本語で「遺伝子型判定」「遺伝子型決定」「遺伝子型解析」などと訳されます。ゲノム上の決まった位置について、父由来と母由来のDNAがそれぞれどの型か(例:A/G)を判定することを指します。genotype(遺伝子型)に「〜すること」を表す-ingが付いた言葉です。
Q2. ジェノタイピングとシークエンスの違いは何ですか?
ジェノタイピングは、あらかじめ選んだ既知の位置の遺伝子型だけを判定します。シークエンスは、ある範囲のDNAの塩基配列を連続して読みます。ジェノタイピングは多くの人を効率よく比べるのに向いていますが、調べていない位置の変化は見つけられません。シークエンスは読んだ範囲の未知の変化も見つけられます。シークエンスで読んだ配列から遺伝子型を判定することもできるため、両者は目的に応じて使い分けられます。
Q3. ジェノタイピングの目的は何ですか?
医療では、薬の副作用が起こりやすい体質かどうかの確認(例:チオプリン製剤とNUDT15、カルバマゼピンとHLA-A*31:01)、移植でのHLAの型合わせ、ウイルスの型の判定などに使われます。研究では、遺伝子改変マウスの確認や、病気と遺伝子型の関連を多数の人で調べるGWAS、個人識別などに使われます。
Q4. マウスのジェノタイピングとは何ですか?
遺伝子を改変したマウスが、目的どおりの遺伝子型(野生型・ヘテロ・ホモ)になっているかをDNAで確かめる作業です。耳や尾の小さな組織からDNAを取り出し、改変部分をはさむプライマーでPCRを行い、電気泳動で見える帯(バンド)の位置や数で遺伝子型を判定します。見た目では区別がつかないため、研究に使う個体を選ぶうえで欠かせない工程です。
Q5. ジェノタイピングにはどれくらい時間がかかりますか?
方法や調べる位置の数、検査を行う施設によって大きく異なるため、一律の目安を示すことはできません。医療で行う検査の場合は、結果が出るまでの期間を検査を受ける前に医療機関へ確認してください。
Q6. 遺伝子型がわかれば、病気になるかどうかわかりますか?
わかるとは限りません。ある遺伝子型を持つ人のうち実際に症状が現れる人の割合(浸透率)は、遺伝子や変化によって大きく異なります。また、多くの型は病気のなりやすさをわずかに変えるだけで、環境やほかの遺伝子の影響も重なります。遺伝子型は将来を決める答えではなく、確率を考えるための材料の一つです。
Q7. ミネルバクリニックでジェノタイピングを依頼できますか?
当院では、研究用サンプル(マウスなどの実験動物や植物)のジェノタイピングの受託や、消費者向けのSNP検査は行っておらず、これらについてのご予約・お問い合わせもお受けしていません。研究用のジェノタイピングは、受託解析を行う検査会社や研究機関へご相談ください。
🏥 研究用ジェノタイピングの受託をお考えの方へ
当院では、研究用サンプル(実験動物・植物など)のジェノタイピング受託や、消費者向けのSNP検査を行っておりません。
この件についてのご予約・お問い合わせはお受けしておりません。
研究用のジェノタイピングは、受託解析を行う検査会社や研究機関へご相談ください。
この記事はジェノタイピングを正しく知っていただくための解説であり、当院での検査をご案内するものではありません。なお、他の診療の過程で具体的な遺伝学的評価が必要と判断された場合に限り、遺伝カウンセリングが関係することがあります。
参考文献
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- [2] ジェノタイピングとシークエンシング. ようこそゲノムの世界へ. 東北大学 東北メディカル・メガバンク機構. 2019. [ToMMo]
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- [14] ゲノム情報(遺伝情報)に関する偏見や差別をなくしましょう. 法務省. [法務省]
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