InstagramInstagram

遺伝子型(genotype)とは?意味・書き方(AA・Aa・aa)と例、表現型との違いをわかりやすく解説

仲田洋美 医師

この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

記事の作り方(編集方針)

遺伝子型(いでんしがた、英語で genotype:ジェノタイプ)とは、ある遺伝子座(染色体上の決まった位置)に、その人が持っている2つのアレル(対立遺伝子)の組み合わせのことです。AA・Aa・aa のように記号で書き、遺伝子検査ではDNAの塩基で CC・CT・TT のようにも書きます。これに対して、実際に体に現れた性質を表現型と呼びます。同じ遺伝子型でも、表現型が人によって違うことがあります。この記事では、遺伝子型の意味と書き方、ABO血液型などの例、表現型との違い、そして遺伝子型が病気の遺伝や薬の効き方とどうつながるかを解説します。

⏱️ 30秒でわかる要約

🧬 Q. 遺伝子型とは何ですか?

遺伝子型とは、ある遺伝子座に持っている2つのアレル(対立遺伝子)の組み合わせのことです。父親と母親から1つずつ受け継ぐので、AA・Aa・aa のように2文字で書きます。

🧬 Q. 遺伝子型と表現型の違いは?

遺伝子型は「持っているアレルの組み合わせ」、表現型は「体に現れた性質」です。たとえばABO血液型では、遺伝子型 AO の人の表現型はA型になります。

🧬 Q. AA・Aa・aa はどう読み分けますか?

同じアレルが2つそろった AA・aa をホモ接合、違うアレルの組み合わせ Aa をヘテロ接合と呼びます。大文字は顕性(優性)、小文字は潜性(劣性)のアレルを表すのが一般的な約束です。

🧬 Q. 同じ遺伝子型なら症状も同じですか?

同じとは限りません。同じバリアントを持っていても発症しない人がいること(浸透率)や、症状の重さに差が出ること(表現度)が知られています。

この記事でわかること
📖 読了時間:約12分
🧬 遺伝子型・表現型・ホモ接合・ヘテロ接合
★ 臨床遺伝専門医監修
  • ➤遺伝子型とは → ある遺伝子座の2つのアレルの組み合わせ(英語で genotype)
  • ➤書き方 → AA・Aa・aa、報告書では c.[76A>C];[76=] のような書き方もある
  • ➤例 → ABO血液型は6つの遺伝子型から4つの表現型(A・B・AB・O型)になる
  • ➤医療とのつながり → 病気の遺伝のしかた・保因者・薬の効き方(CYP2C19)

遺伝子型(genotype)とは?意味・書き方(AA・Aa・aa)と例、表現型との違いをわかりやすく解説

1. 遺伝子型(genotype)とは?意味と読み方

遺伝子型とは、ゲノムの決まった位置(遺伝子座)に、どのタイプのバリアント(配列の違い)を持っているかを表したものです。米国国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)の用語集は、遺伝子型を「ゲノムの特定の位置(遺伝子座)にあるバリアントの種類を記録したもの」と説明し、BB・Bb・bb のような記号や、CC・CT・TT のような実際のDNAの塩基で表せるとしています[1]。

遺伝子型は「父から1つ・母から1つ」の組み合わせ

ヒトは常染色体を2本ずつ持つため、1つの遺伝子座には2つのアレルがあり、その組み合わせが遺伝子型になります。アレル(対立遺伝子)とは、同じ遺伝子座にある遺伝子の型の違いのことで、相同染色体(父由来と母由来の対になった染色体)の同じ位置に1つずつ存在します[2]。アレルそのものの説明は対立遺伝子(アレル)とは、遺伝子座の説明は遺伝子座(locus)とはにまとめています。

「遺伝子型」という言葉は、2つの意味の広さで使われます。狭い意味では、いま話題にしている1つの遺伝子座のアレルの組み合わせ(例:ABO遺伝子座で AO)を指します。広い意味では、教科書のように「目に見えるかどうかにかかわらず、その個体が持っているアレル全体の構成」を指します[2]。医療や遺伝子検査の現場で「遺伝子型を調べる」と言うときは、ほとんどの場合、特定の遺伝子座についての狭い意味です。

genotype の意味と読み方

英語の genotype は「ジェノタイプ」と読み、「個体の遺伝的な構成」という意味です。遺伝学者ヨハンセン(Wilhelm Johannsen)が1909年にドイツ語の Genotypus として用いた言葉で、gene(遺伝子)と type(型)からできています[3]。対になる言葉は phenotype(フェノタイプ、表現型)です。

論文や報告書では、名詞の genotype のほかに、動詞として「to genotype(遺伝子型を調べる)」、その作業を指す genotyping(ジェノタイピング、遺伝子型判定)という形でも出てきます。遺伝子型を決める検査の方法はジェノタイピングで解説しています。

遺伝子・アレル・遺伝子座・核型・ハプロタイプとの違い

遺伝子型は「アレルの組み合わせ」を指す言葉で、遺伝子そのものや、遺伝子の置き場所を指す言葉とは別物です。よく混同される言葉を表にまとめました。

📘 遺伝子型と、よく混同される言葉の違い

言葉 何を指すか ABO血液型でいうと
遺伝子(gene) タンパク質などをつくる情報をもつDNAの単位 ABO遺伝子
遺伝子座(locus) その遺伝子がある染色体上の位置 9番染色体の長腕(9q34)
アレル(allele) 同じ遺伝子座にある遺伝子の型の違い1つ1つ A・B・O
遺伝子型(genotype) 1つの遺伝子座の2つのアレルの組み合わせ AA・AO・BB・BO・AB・OO
表現型(phenotype) 体に現れて観察できる性質 A型・B型・AB型・O型
ハプロタイプ(haplotype) 1本の染色体の上に並んだ複数のアレルのセット (複数の遺伝子座をまとめて見るときに使う)
核型(karyotype) 染色体の数と形の構成 (遺伝子の型ではなく、46,XX・46,XY のように染色体を表す)

※ABO遺伝子の位置とアレルは NCBI Bookshelf「Blood Groups and Red Cell Antigens」[4]による。

遺伝子型は2本の染色体を合わせた「組み合わせ」ですが、ハプロタイプは1本ずつの染色体に乗っている「並び」を見ます。また「46,XY」は遺伝子型ではなく核型の書き方です。それぞれ遺伝子とは、ハプロタイプ、核型で詳しく解説しています。

2. 遺伝子型の書き方は?AA・Aa・aa とホモ接合・ヘテロ接合

遺伝子型は、アレルを表す文字を2つ並べて AA・Aa・aa のように書きます。教科書の交配の問題では、顕性(優性)のアレルを大文字、潜性(劣性)のアレルを同じ文字の小文字で表すのが一般的です。遺伝子検査の分野では、塩基そのものを並べて CC・CT・TT のように書くこともあります[1]。

大文字・小文字は「どちらの性質が表に出るか」の約束を表しているだけで、アレルの良し悪しを表すものではありません。顕性・潜性という言葉の意味や、なぜ片方の性質だけが表に出るのかは、優性・劣性(顕性・潜性)とはで詳しく説明しています。

ホモ接合・ヘテロ接合・ヘミ接合の違い

2つのアレルが同じならホモ接合、違えばヘテロ接合、もともとアレルが1つしかない場合はヘミ接合と呼びます。NHGRIの用語集は、ヘテロ接合を「両親からそれぞれ違うバージョン(アレル)を受け継いでいること」、ホモ接合を「同じバージョンを持っていること」と説明しています[5]。男性はX染色体を1本しか持たないため、X染色体上の遺伝子については、アレルを1つだけ持つヘミ接合になります[2]。

🧬 遺伝子型の3つの「接合」のしかた

呼び方 遺伝子型の例 意味
ホモ接合(homozygous) AA、aa、CC、TT 2つのアレルが同じ
ヘテロ接合(heterozygous) Aa、CT 2つのアレルが違う
複合ヘテロ接合(compound heterozygous) a1a2(同じ遺伝子の、違う2つの病的バリアント) 2つのアレルの両方に変化があるが、変化の場所が違う
ヘミ接合(hemizygous) 男性のX染色体上の遺伝子(例:XAY) アレルが1つしかない

※ホモ接合・ヘテロ接合の定義は NHGRI[5]、ヘミ接合は OpenStax Biology 2e[2]による。

それぞれの詳しい説明は、ヘテロ接合、ホモ接合、複合ヘテロ接合、ヘミ接合の各ページにあります。

遺伝子検査の報告書では遺伝子型をどう書く?

遺伝子検査の報告書では、国際的な表記ルール(HGVS表記)で、2つのアレルを角かっこ[ ]で分けて遺伝子型を書きます。HGVS(ヒトゲノム変異学会)の勧告では、次のような書き方が定められています[6]。

📋 HGVS表記での遺伝子型の書き方(例)

書き方の例 意味
c.[2376G>C];[2376=] 2376番目の位置について、片方のアレルにGからCへの変化があり、もう片方は参照配列と同じG(ヘテロ接合)
c.[2376G>C];[2376G>C] 両方のアレルに同じ変化がある(ホモ接合)
c.[2376G>C];[3103del] 2つのアレルに別々の変化がある(複合ヘテロ接合)
c.[2376G>C;3103del] 1つのアレルに2つの変化が並んでいる(同じ染色体の上=シス)
c.2376G>C(;)3103del 2つの変化が同じアレルか別々のアレルか、まだ分かっていない
c.[76A>C];[0] 男性のX染色体上の遺伝子(2つ目のアレルがない=ヘミ接合)

※HGVS Nomenclature「DNA:alleles」[6]の例による。実際の報告書では、先頭に NM_004006.2: のような基準配列の番号が付きます。

潜性(劣性)遺伝の病気では、2つの変化が「別々のアレル」にあるのか「同じアレル」にあるのかで意味が大きく変わります。両方がその病気を起こす病的バリアントで、別々のアレルにあれば発症につながる可能性がありますが、同じアレルにあれば、もう片方のアレルは働いている可能性があります。そのため、変化が2つ見つかったのに位置関係が分からない((;) の書き方の)ときは、両親の検査で確かめることがあります。報告書に出てくるバリアントの評価の言葉は病的バリアントとはで解説しています。

3. 遺伝子型の例:ABO血液型とメンデルの交配

遺伝子型と表現型の関係がいちばん分かりやすい例は、ABO血液型です。ABO遺伝子は9番染色体(9q34.1〜q34.2)にあり、主なアレルは A・B・O の3つです。A と B のアレルはそれぞれ赤血球の表面の目印(抗原)をつくる酵素(糖転移酵素)の情報を持っていますが、代表的な O のアレルでは1塩基(261番目のグアニン)が抜けていて、働く酵素をつくれません[4]。

ABO血液型の遺伝子型と表現型の対応

ABO血液型では、6通りの遺伝子型が4通りの表現型(A型・B型・AB型・O型)になります。A と B は O に対して顕性で、A と B が一緒にあるときは両方が現れます(共顕性)[4]。

🩸 ABO血液型の遺伝子型と表現型

遺伝子型 接合のしかた 表現型(血液型)
AA ホモ接合 A型
AO ヘテロ接合 A型
BB ホモ接合 B型
BO ヘテロ接合 B型
AB ヘテロ接合 AB型
OO ホモ接合 O型

※ABO血液型の主なアレルと顕性・共顕性の関係は Dean(NCBI Bookshelf, 2005)[4]による。実際には A・B・O の中にもさらに細かいアレルの違いがあります。

この表から分かるのは、表現型が同じA型でも、遺伝子型は AA と AO の2通りがありうるということです。A型同士の両親からO型の子が生まれることがあるのは、両親がどちらも AO で、子が両親から O を1つずつ受け継いだ場合です。血液型の検査(表現型)だけでは AA と AO を区別できず、区別するには遺伝子型を調べる必要があります。

Aa 同士の子どもの遺伝子型は?(パネットの方形)

ヘテロ接合(Aa)同士の子どもの遺伝子型は、AA:Aa:aa=1:2:1 の割合になると予想されます。親はそれぞれ A か a のどちらか一方を子に渡すので、組み合わせは4通りです。この組み合わせを升目にした表を「パネットの方形(Punnett square)」と呼び、確率の考え方で子の遺伝子型を予想する道具として使われます。A が a に対して顕性なら、表現型は「A の性質」:「a の性質」=3:1 になります[2]。

🔲 Aa × Aa のパネットの方形

父から \ 母から A a
A AA Aa
a Aa aa

※遺伝子型の比 AA:Aa:aa=1:2:1、表現型の比 3:1(A が顕性の場合)。OpenStax Biology 2e[2]による。

ここで大切なのは、この比は「子どもが4人いれば必ず1人が aa になる」という意味ではないことです。妊娠のたびに、それぞれ独立に同じ確率がかかります。また、両親がどちらも aa なら、子どもに渡せるのは a だけなので、子どもの遺伝子型はすべて aa になります。このようにアレルが分かれて子に渡るしくみはメンデル遺伝で、集団の中での遺伝子型の割合(遺伝子型頻度)の考え方はハーディ・ワインベルグ平衡で解説しています。

4. 遺伝子型と表現型の違いは?

遺伝子型は「持っているアレルの組み合わせ」、表現型は「その結果として体に現れた性質」です。NHGRIは表現型を「身長・目の色・血液型のような、観察できる性質」とし、表現型は遺伝子型と環境の両方で決まると説明しています[7]。

🔁 遺伝子型と表現型の比較

項目 遺伝子型(genotype) 表現型(phenotype)
指すもの アレルの組み合わせ(DNAの情報) 体に現れた性質・特徴
書き方の例 AO、Aa、CT A型、背が高い、病気の症状
調べ方 遺伝子検査(DNAを調べる) 診察・身体測定・血液検査・画像検査など
環境の影響 生まれつき受け継いだ配列を指す場合は基本的に変わらないが、体細胞の配列は環境中の変異原などで変わることがある 受ける(遺伝子型と環境の両方で決まる)

※表現型の定義は NHGRI[7]による。

ひとつ補足すると、「遺伝子型は一生変わらない」というのは、生まれつき全身の細胞が持っている遺伝子型(生殖細胞系列の遺伝子型)の話です。がんの細胞のように、生まれたあとに一部の細胞だけで配列が変わることもあり、遺伝子検査の報告書では、どの細胞(血液か、腫瘍の組織か)を調べた結果なのかも合わせて読む必要があります。

遺伝子型から表現型がどのようにつくられるのか、そのしくみ全体(遺伝子の発現、ゲノムインプリンティング、多遺伝子の影響など)は遺伝子型と表現型の違い(ゲノムから表現型へ)で、表現型という言葉そのものは表現型とはで、それぞれ詳しく解説しています。目に見える性質を指す似た言葉の形質もあわせてご覧ください。

同じ遺伝子型でも表現型が違うのはなぜ?浸透率と表現度

同じ遺伝子型を持っていても、病気が現れる人と現れない人がいたり、症状の重さに差が出たりします。前者を「浸透率」、後者を「表現度(表現型の多様性)」という言葉で表します。MedlinePlus(米国国立医学図書館)は、浸透率を「ある遺伝子のバリアントを持つ人のうち、その病気の徴候や症状が現れる人の割合」、表現度の違い(variable expressivity)を「人によって現れる徴候や症状の幅」と説明しています[8]。

同じ資料では、浸透率が100%でない例として、がんのリスクを高める BRCA1・BRCA2 遺伝子の病的バリアントが挙げられています。こうした病的バリアントを持っていても、がんを発症しない人もいて、誰が発症するかを前もって確実に予測することはできません。表現度の例としてはマルファン症候群が挙げられ、背が高く指が長いといった軽い特徴だけの人もいれば、命に関わる心臓・血管の合併症が起こる人もいます[8]。

遺伝子型を調べることで、その病気の原因となる病的バリアントが見つかることがあります。ただし、意義がまだ分からない変化(VUS)が見つかる場合や、検査で原因を検出できない場合もあります。また、「いつ、どのくらいの重さで発症するか」までは、遺伝子型だけでは決まらないことが多いのです。遺伝子型と症状のあいだに一定の傾向があるかどうかを調べる考え方を遺伝子型-表現型相関といいます。詳しくは浸透率と表現型の多様性(Variable Expressivity)で解説しています。

5. 遺伝子型は医療とどうつながる?

医療で遺伝子型が意味を持つ場面は、大きく「病気が遺伝するしかた」「家族への遺伝の確率」「薬の効き方」の3つです。どれも、2つのアレルの組み合わせが何であるかによって、考え方が変わります。

病気の遺伝のしかた(遺伝形式)は遺伝子型で決まる

1つの遺伝子の変化で起こる病気では、どの遺伝子型で発症するかによって遺伝形式が分かれます。常染色体顕性(優性)遺伝の病気では、片方のアレルに病的バリアントがあるヘテロ接合で発症します。常染色体潜性(劣性)遺伝の病気では、両方のアレルに病的バリアントがあるとき(ホモ接合または複合ヘテロ接合)に発症し、片方だけのヘテロ接合の人は通常は発症しない「保因者」になります。X連鎖の病気では、男性はX染色体上の遺伝子についてヘミ接合なので、1つのアレルの変化で発症します[2]。

🧬 遺伝形式と、発症する遺伝子型

遺伝形式 発症する遺伝子型 発症しないが変化を持つ遺伝子型
常染色体顕性(優性) ヘテロ接合(片方に病的バリアント) 浸透率が100%でない場合は、ヘテロ接合でも発症しない人がいる
常染色体潜性(劣性) ホモ接合・複合ヘテロ接合(両方に病的バリアント) ヘテロ接合=保因者
X連鎖潜性(劣性) 男性のヘミ接合 女性のヘテロ接合=保因者(症状が出る人もいる)

遺伝形式ごとのくわしい特徴は遺伝形式とは、潜性遺伝は常染色体潜性遺伝、X連鎖はX連鎖遺伝とはで解説しています。

生まれる前に分かる:両親の保因者検査

両親がどちらも同じ潜性(劣性)の病気の保因者(ヘテロ接合)のとき、子どもがその病気を発症する確率は、妊娠のたびに4分の1(25%)です。GeneReviewsは、両親がともにヘテロ接合の場合、子どもはそれぞれ受精の時点で、25%の確率で発症し、50%の確率で発症しない保因者になり、25%の確率で発症も保因もしない、と説明しています[9]。前の章のパネットの方形でいえば、aa の升目にあたります。保因者は通常は症状がないため、家族に患者さんがいなくても、この組み合わせは起こりえます。

X連鎖潜性の病気では、母親が保因者(ヘテロ接合)で父親がその病的バリアントを持たない場合、母親の変化が子に伝わる確率は妊娠ごとに50%で、受け継いだ男の子は発症し、受け継いだ女の子は保因者になります(女の子でも症状が出る場合があります)[10]。つまり男の子では、妊娠ごとに2分の1の確率で発症することになります。

こうした組み合わせを妊娠の前や妊娠中に知る方法として、両親それぞれの遺伝子型を調べる保因者検査があります。当院の拡大版保因者検査には、女性787遺伝子・男性714遺伝子と、女性1009遺伝子・男性911遺伝子の4つがあります。女性1009遺伝子は女性787遺伝子の遺伝子をすべて含み、男性版は女性版からX連鎖の遺伝子を除いたものです。4つともオンライン診療で受けられ、唾液や頬の粘膜の検体でも検査できます(オンラインの遺伝カウンセリング料金は事前のお支払いです)。NIPTと同じ日に採血して受けたい方には、ファミリーセーフティ プラスがあります(単独では受けられません)。

保因者検査にも限界があります。よく似た遺伝子や偽遺伝子(SMN1とSMN2、CYP21A2とCYP21A1Pなど)の影響は解析で大きく減らしていますが、まれに検出を妨げることがあります。脊髄性筋萎縮症(SMA)では、1本の染色体にSMN1が2コピーあり、もう1本にない「サイレント保因者」は今の検査方法では見分けられないため、陰性でも保因者の可能性はゼロにはなりません。また、リピートの伸長(脆弱X症候群のFMR1など)、1つのエクソンだけの欠失・重複、イントロンの深い部分の変化は、通常の解析の対象外です。検査のしくみは保因者スクリーニング検査とはで解説しています。

薬の効き方を遺伝子型で予測する:CYP2C19 とクロピドグレル

遺伝子型は、病気だけでなく薬の効き方の予測にも使われています。代表的な例が、血液を固まりにくくする薬クロピドグレルと、それを体内で働く形に変える酵素 CYP2C19(シップ・ツー・シー・ナインティーン)の遺伝子型です。クロピドグレルは体の中で CYP2C19 によって活性化されてはじめて効く薬(プロドラッグ)で、CYP2C19 の働きが弱い遺伝子型の人では、血小板を抑える効果が弱くなることが分かっています[11]。

💊 CYP2C19 の遺伝子型と、予測される表現型(代謝のタイプ)

遺伝子型(ディプロタイプ)の例 予測される表現型
*1/*1 通常の代謝(normal metabolizer)
*1/*2、*1/*3、*2/*17、*3/*17 中間の代謝(intermediate metabolizer)
*2/*2、*2/*3、*3/*3 代謝が弱い(poor metabolizer)

※CPIC(臨床薬理遺伝学実装コンソーシアム)ガイドライン 2022年改訂版[11]による。*2・*3 は働かないアレル、*17 は働きが強くなるアレル。

米国を中心とするこの国際的なガイドラインでは、急性冠症候群や冠動脈のカテーテル治療(PCI)の場面について、中間の代謝の人は標準量のクロピドグレルを、代謝が弱い人はクロピドグレルそのものをできるだけ避け、禁忌がなければプラスグレルまたはチカグレロルを標準量で使うことが強く推奨されています[11]。ここでは「*2/*2」のような星印の書き方が遺伝子型にあたり、「代謝が弱い」という分類が表現型にあたります。遺伝子型を薬の選び方に生かす考え方はファーマコゲノミクス(薬理ゲノミクス)で解説しています。なお、実際の薬の選択は主治医が病状全体をみて判断するもので、遺伝子型だけで決まるわけではありません。

遺伝子型はどうやって調べる?

遺伝子型は、血液や唾液などから取り出したDNAを調べる遺伝子検査で決めます。DNAシーケンス(塩基配列の解読)などの方法を使うと、1回の検査でゲノムの数百万か所の遺伝子型を決めることもできます[1]。1塩基の違いで表される遺伝子型についてはSNP(一塩基多型)、検査の種類や結果の読み方は遺伝子検査(遺伝学的検査)とはで解説しています。

妊娠中に赤ちゃんの染色体や遺伝子の変化を調べる出生前の検査もあります。東京・北青山の当院で受けられる出生前の検査の範囲と料金は、東京のNIPT(新型出生前診断)のページにまとめています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「遺伝子型が分かる」と「将来が分かる」は別のこと】

遺伝子型は、その人が持っているアレルの組み合わせという、生まれつきの事実を示します。一方で、その遺伝子型がどのような表現型として現れるかは、浸透率や表現度、環境、ほかの遺伝子の影響によって変わります。遺伝子型が分かったことと、将来どうなるかが分かったことは同じではない、と私は考えています。

また、同じ「ヘテロ接合」という言葉でも、顕性遺伝の病気なら発症に関わる可能性を、潜性遺伝の病気なら保因者であることを意味します。遺伝子型の記号だけを見て判断せず、どの遺伝子の、どの遺伝形式の病気についての結果なのかを確かめることが、結果を正しく読む出発点だと考えています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 遺伝子型とは、簡単に言うと何ですか?

ある遺伝子座に持っている2つのアレル(対立遺伝子)の組み合わせのことです。父親と母親から1つずつ受け継ぐため、AA・Aa・aa のように2つの文字で表します。

Q2. 遺伝子型と表現型の違いは何ですか?

遺伝子型は持っているアレルの組み合わせ、表現型はその結果として体に現れた性質です。たとえばABO血液型で遺伝子型が AO の人の表現型はA型です。表現型は遺伝子型と環境の両方の影響を受けます。

Q3. genotype の読み方と意味は?

genotype は「ジェノタイプ」と読み、日本語の遺伝子型にあたります。個体の遺伝的な構成という意味で、1909年にヨハンセンが用いた言葉です。遺伝子型を調べることは genotyping(ジェノタイピング)といいます。

Q4. AA・Aa・aa の大文字と小文字は何を表しますか?

交配の問題などでは、顕性(優性)のアレルを大文字、潜性(劣性)のアレルを小文字で書くのが一般的な約束です。AA と aa は同じアレルがそろったホモ接合、Aa は違うアレルの組み合わせのヘテロ接合です。大文字・小文字はアレルの良し悪しを表すものではありません。

Q5. 遺伝子型が aa の両親からは、どのような子が生まれますか?

両親がどちらも aa なら、子に渡せるアレルは a だけなので、子の遺伝子型はすべて aa になります。両親がどちらも Aa の場合は、子の遺伝子型は AA:Aa:aa=1:2:1 の割合になると予想され、この確率は妊娠のたびに同じようにかかります。

Q6. 血液型がA型の人の遺伝子型は何ですか?

A型の人の遺伝子型は AA か AO のどちらかです。血液型の検査は表現型を調べるもので、AA と AO を区別するには遺伝子型を調べる必要があります。両親がどちらも AO なら、O型の子が生まれることがあります。

Q7. 同じ遺伝子型なのに症状が違うのはなぜですか?

同じバリアントを持っていても発症しない人がいること(浸透率)や、症状の重さに幅があること(表現度)が知られています。環境やほかの遺伝子の影響も加わるため、遺伝子型だけで発症の時期や重さまでは決まらないことが多いです。

まとめ

遺伝子型(genotype)とは、ある遺伝子座に持っている2つのアレルの組み合わせのことで、AA・Aa・aa のように書きます[1]。同じアレルがそろえばホモ接合、違えばヘテロ接合、男性のX染色体上の遺伝子のようにアレルが1つならヘミ接合です[2][5]。ABO血液型では6つの遺伝子型が4つの表現型になり、同じA型でも AA と AO があります[4]。

表現型は遺伝子型と環境の両方で決まり、同じ遺伝子型でも発症のしかたや重さが違うことがあります[7][8]。医療では、遺伝子型が病気の遺伝形式、家族への遺伝の確率、薬の効き方の予測と結びついています。遺伝子型の記号を見るときは、どの遺伝子の、どの遺伝形式の病気についての結果なのかを合わせて確かめてください。

📘 この記事について

この記事は、遺伝子型という言葉の意味を解説する用語ページです。個別の検査結果の解釈を行うものではありません。遺伝子検査の結果が本人や血縁者にとってどういう意味を持つかを臨床遺伝専門医と整理する場として、遺伝カウンセリングがあります。

参考文献

  • [1] Genotype. Talking Glossary of Genomic and Genetic Terms. National Human Genome Research Institute (NHGRI). [NHGRI]
  • [2] Clark MA, Douglas M, Choi J. 12.2 Characteristics and Traits. Biology 2e. OpenStax; 2018. [OpenStax]
  • [3] Genotype (n.) – Etymology, Origin & Meaning. Online Etymology Dictionary. [Etymonline]
  • [4] Dean L. Chapter 5, The ABO blood group. Blood Groups and Red Cell Antigens. Bethesda (MD): National Center for Biotechnology Information (US); 2005. [NCBI Bookshelf NBK2267]
  • [5] Heterozygous. Talking Glossary of Genomic and Genetic Terms. National Human Genome Research Institute (NHGRI). [NHGRI]
  • [6] DNA: alleles. HGVS Nomenclature (Sequence Variant Nomenclature). Human Genome Variation Society. [HGVS]
  • [7] Phenotype. Talking Glossary of Genomic and Genetic Terms. National Human Genome Research Institute (NHGRI). [NHGRI]
  • [8] What are reduced penetrance and variable expressivity? MedlinePlus Genetics. National Library of Medicine. [MedlinePlus]
  • [9] Shearer AE, Hildebrand MS, Odell AM, Smith RJH. Genetic Hearing Loss Overview. In: Adam MP, et al., editors. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-. [GeneReviews NBK1434]
  • [10] Duvuru R, Cunningham T, Colvin MK, Veerapandiyan A. Dystrophinopathies. In: Adam MP, et al., editors. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-. [GeneReviews NBK1119]
  • [11] Lee CR, Luzum JA, Sangkuhl K, et al. Clinical Pharmacogenetics Implementation Consortium Guideline for CYP2C19 Genotype and Clopidogrel Therapy: 2022 Update. Clin Pharmacol Ther. 2022;112(5):959-967. [PubMed 35034351]

関連記事

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

記事の作り方と生成AIの使い方は、編集方針をご覧ください。

お電話での受付可能
診療時間
午前 10:00~14:00
(最終受付13:30)
午後 16:00~20:00
(最終受付19:30)
休診 火曜・水曜

休診日・不定休について

クレジットカードのご利用について

publicブログバナー
 
medicalブログバナー
 
NIPTトップページへ遷移