InstagramInstagram

毛髪・鼻・指節症候群III型(TRPS III/Sugio-Kajii症候群)とは?重度の低身長・短指症をきたす遺伝性疾患を遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

臨床遺伝専門医・がん薬物療法専門医・総合内科専門医。30年にわたる臨床のなかで、のべ10万人以上のご家族の切実な意思決定に伴走してきました。世界基準の遺伝医療と遺伝カウンセリングを、終始責任をもって提供します。

毛髪・鼻・指節症候群III型(もうはつ・び・しせつしょうこうぐん3がた、Trichorhinophalangeal syndrome type III:TRPS III、別名 Sugio-Kajii症候群〈スギオ・カジイしょうこうぐん〉、OMIM 190351)は、8番染色体にあるTRPS1遺伝子の変化によって、まばらな毛髪・洋梨のような鼻・重度の低身長・手足の指の著しい短さ(重度の短指症)があらわれる、とてもまれな遺伝性の病気です[11]。同じTRPS1が原因のI型(軽症型)と地続きの一連の病気(スペクトラム)ですが、III型は骨格の症状がとくに強く出るのが特徴です[1]。この記事では、病気のしくみから症状、よく似たI型・II型との見分け方、遺伝のしかたと再発の可能性、遺伝子検査でわかること、そして治療の現状までを、臨床遺伝専門医が医学的根拠に基づいて解説します。

⏱️ 30秒でわかる要約

🧬Q. 毛髪・鼻・指節症候群III型(TRPS III)とは?

8番染色体のTRPS1遺伝子の変化で、毛髪・鼻・骨格に特徴的な症状が出る常染色体顕性(優性)遺伝の病気です。III型は、まばらな毛髪や洋梨状の鼻に加えて、とくに重い低身長と、手足の指の著しい短さを特徴とします。知能の発達は正常です。

🩺Q. I型(TRPS I)とどう違うのですか?

原因遺伝子は同じTRPS1ですが、変化の「性質」が異なります。I型ははたらきが半分になる(ハプロ不全)タイプ、III型は正常なタンパク質のはたらきまで邪魔してしまう(ドミナントネガティブ効果)タイプが多く、その分だけ低身長・短指症が重くなると考えられています。

🌸Q. 遺伝子検査でわかりますか?

TRPS1遺伝子の解析(配列解析)で、多くの場合に原因となる変化を確認できます。とくにIII型が疑われるときは、GATA DNA結合領域のミスセンス変異に注目して評価します。確定診断や遺伝カウンセリングに役立ちます。

\ 遺伝性疾患・遺伝子診断について専門医に相談したい方へ /

📅 遺伝カウンセリングを予約する

遺伝子検査・遺伝性疾患に関するご相談:遺伝子検査について

1. 毛髪・鼻・指節症候群III型とは:まず全体像をつかむ

毛髪・鼻・指節症候群(Trichorhinophalangeal syndrome:TRPS)は、その名前のとおり「毛髪(トリコ)」「鼻(ライノ)」「指節骨(ファランジアル)」の3つに特徴的な症状が出る、まれな常染色体顕性(優性)遺伝の病気です[11]。1959年にVan der Werff ten Bosch、1966年にGiedionがまとまった形で報告して以来、症状の重さや原因のちがいから、いくつかのタイプに分けて理解されてきました[1]

そのなかでIII型は、I型と共通するまばらな毛髪や洋梨のような鼻といった顔まわりの特徴をもちながら、進行性の重い低身長と、手足の指の骨(中手骨・指節骨)が著しく短くなる重度の短指症が前面に出る、TRPSのなかでもっとも骨格症状が強いタイプとして位置づけられてきました[9]。TRPS全体でも有病率は10万人あたり0.2〜1人ほどと推定される超希少疾患で、症状の幅が広いため、診断がつかないまま経過している方も少なくないと考えられています[2]

「Sugio-Kajii症候群」から「TRPS 1/3型」へ

III型の原型となった家系は、1984年に日本の杉尾(Sugio)・梶井(Kajii)によってRuvalcaba症候群として報告され、その後TRPS III(Sugio-Kajii症候群)として再分類され、「Sugio-Kajii症候群」とも呼ばれます[4]。当初は重い短指症をもつ別の病気(Ruvalcaba症候群)の一種とも議論されましたが、知的障害や小頭症を伴わず、II型でみられる骨のこぶ(多発性外骨腫)もない点で、独立した病態だと整理されていきました[10]

その後、分子遺伝学の進歩によって、I型もIII型も同じTRPS1遺伝子(8番染色体長腕)の変化が原因であることがわかりました[1]。両者は別々の病気というより「ひとつながりのスペクトラム」であることが分子レベルで示され、2023年の国際的な骨系統疾患分類の改訂では、I型とIII型を統合して「毛髪・鼻・指節異形成症 1/3型」とまとめる方向になりました[11]。とはいえ、「III型」という重症型の見方は、予後の見通しや整形外科的な介入の時期を考えるうえで今も臨床的に役立ちます。この記事でも、重症型としての特徴を中心に解説します。

なお、原因となるTRPS1遺伝子そのものの詳しい分子生物学(転写因子としてのはたらきや、乳がんとの関わりなど)はTRPS1遺伝子の解説ページで、軽症型であるI型の詳細毛髪・鼻・指節症候群I型のページで、それぞれより深く扱っています。あわせてお読みいただくと理解が立体的になります。

💡 用語解説:骨系統疾患(骨のかたちの病気)とは

骨や軟骨がつくられ、成長し、入れ替わっていく過程に生まれつき違いが生じ、骨の形・硬さ・長さ・強さなどに影響があらわれる病気の総称です。TRPS IIIはそのなかでも「骨の成長・成熟のタイミングが乱れて、指の骨が短くなり背が伸びにくくなる」タイプで、原因が一つの遺伝子(TRPS1)にしぼられている点が、診断や研究を進めやすくしています。骨系統疾患のNGSパネル検査では、こうした多数の骨の病気の原因遺伝子を一度に調べられます。

2. 原因遺伝子TRPS1と「ブレーキ役」のしくみ

TRPS1遺伝子は、骨・軟骨がつくられる過程や、毛包(毛のもと)の発生を調整する「転写抑制因子」というタンパク質の設計図です[17]。転写抑制因子は、いわば遺伝子のはたらきを必要に応じて「オフにするブレーキ役」です。TRPS1タンパク質はGATA型と呼ばれる転写因子の仲間で、特定のDNA配列に結合して、標的となる遺伝子のはたらきを抑えます[20]

骨の成長は、軟骨がつくられてから硬い骨に置きかわる「内軟骨性骨化」という精巧な流れで進みます。TRPS1は、この流れのなかで、骨づくりを進める中心的な因子RUNX2のはたらきや、軟骨細胞の増え方・入れ替わりを制御するSTAT3などを適切に抑えることで、「進みすぎず・止まりすぎず」のちょうどよい成長を保つ、いわば交通整理役をしています[20][18]。このブレーキがきかなくなると、軟骨の成熟や骨端(骨の端)の石灰化のタイミングが乱れ、TRPSに特徴的な円錐状骨端や指の短さが生じると考えられています[30]

💡 ここが核心:I型とIII型は「変化の性質」がちがう

同じTRPS1でも、I型はタンパク質のはたらきが半分になるハプロ不全が中心で、残る半分がある程度はたらくため症状は比較的軽めです[6]。一方III型は、つくられた異常タンパク質が、正常なタンパク質のはたらきまで邪魔してしまうドミナントネガティブ効果が中心です[11]。ブレーキが「半分きく」のと「ほとんどきかない」のとの差が、症状の重さの差につながります。

III型を起こす変化は、DNAに結合する要となるGATA DNA結合領域に起こるミスセンス変異にほぼ集中しています[6]。TRPS1は仲間どうしで組んで(多量体をつくって)はたらくため、変異したタンパク質が正常なものと組むと、正常なほうまで機能を発揮できなくなります[11]。その結果、細胞全体でのブレーキ力が半分よりさらに大きく下がり、重い低身長と重度の短指症という、III型に特有の強い骨格症状につながると考えられています[11]。実際、GATA領域の新しいTRPS1変異によって重度の短指症と低身長を示した症例が報告されています[25]

同じTRPS1でも「効き方」がちがう I型:はたらきが半分(ハプロ不全) 正常 欠損 正常な半分がはたらく 症状:比較的軽め III型:正常の足を引っぱる 正常 変異 変異が正常の機能まで妨げる 症状:重くなりやすい

III型では、変異したTRPS1が正常なTRPS1と組むことで、細胞全体のブレーキ力が大きく低下します。これが、I型より重い低身長・短指症につながると考えられています。

3. TRPS IIIの主な症状:毛髪・鼻・骨格の三徴

症状は同じ家系のなかでもあらわれ方に幅があります(浸透率はほぼ100%ですが、重さには個人差があります)[7]。ここでは、顔まわり・外胚葉(毛や爪など)の症状と、III型でとくに強く出る骨格の症状に分けて整理します。

毛髪・顔まわり・爪や歯の特徴

  • まばらな毛髪(疎毛):ほとんどの方にみられる主要な特徴で、髪は細く・まばらで・伸びにくく・折れやすい傾向があります[2]。眉毛は内側が濃く、外側にいくほど薄くなることがよくあります[3]
  • 洋梨状(球状)の鼻:鼻の先が丸くふくらんだ洋梨のような形で、鼻の下(人中)が長く平ら、上くちびるが薄い、耳が大きく後ろに張り出す、といった顔立ちが特徴的です[2]
  • 爪・歯の変化:爪は薄く弱く、スプーン状などの変形がみられることがあります(手より足の爪で目立ちやすい)[1]。歯では過剰歯・小さい歯・萌出の遅れなどが報告されています[11]

III型でとくに強く出る骨格の症状

  • 重度の短指症:手足のすべての中手骨・中足骨・指節骨が進行性に短くなります。指が横に曲がる(斜指症)ことや、関節の腫れを伴うこともあり、I型より短縮が極端で、細かい手作業がしにくくなることがあります[11]
  • 円錐状骨端:指の骨の端が円錐(三角コーン)のような形になり、隣の骨に食い込む、TRPSに特徴的なX線所見です。通常2歳ごろから手のX線で確認できます[11]
  • 重い低身長:出生時の身長は正常範囲のことが多いものの、小児期から成長がゆっくりになり、I型より背の伸びにくさが目立ちます[11]
  • 股関節の異常:大腿骨頭が平たくなるなど、ペルテス病に似た若年性の股関節の変化がTRPS患者の約25〜30%(またはそれ以上)でみられ、若いうちから関節の痛みや歩行の負担につながることがあります[9]
体のシステム 主な症状・所見
毛髪・外胚葉 まばらで細く折れやすい毛髪、眉毛外側の薄さ、薄く弱い爪(スプーン爪など)[2]
顔・頭部 洋梨状の鼻、長く平らな人中、薄い上くちびる、大きく後方に張り出した耳[2]
骨格系 重度の短指症、円錐状骨端、重い低身長、股関節の変化(ペルテス様)[11]
歯・その他 過剰歯・小歯・萌出の遅れ、まれに心臓の弁の異常など[11]

診断上とても大切な点として、TRPS III(およびI型)では、原則として知能・精神運動の発達は正常です[4]。これは、あとで述べるII型との重要な見分けポイントになります。心臓の弁の軽い異常などが約10%で報告されていますが、命に関わる経過をとることは多くなく、生命予後は一般に良好とされています[5]

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「顔つき」で決めつけない、という姿勢】

TRPSは、まばらな髪や洋梨状の鼻といった見た目の特徴から「疑う」ことが診断の入り口になります。ただ私は、成人の遺伝性腫瘍を専門にしてきた立場から、「特徴的な顔つき」だけで結論を急がないことを大切にしています。同じ遺伝子でも、変化の性質しだいで症状の重さも見通しも変わる——これは遺伝医学で重要な考え方と地続きです。特徴に気づいたら、次はX線と遺伝子検査で、「どのタイプか」「なぜ起きているか」を一つずつ確かめていく。その積み重ねが、正確な診断への近道だと考えています。

4. I型・II型との違いと鑑別

TRPSは共通のスペクトラムをつくりますが、遺伝のしくみのちがいから、はっきりした見分けポイントがあります。I型とIII型はどちらもTRPS1単独の変化によるもので、III型はGATA領域のミスセンス変異によるドミナントネガティブ効果で骨格症状が重くなります[6]。一方、II型(ランガー・ギーディオン症候群)は、TRPS1の近くにあるEXT1遺伝子などがまとめて失われる「隣接遺伝子欠失症候群」です[1]。そのため、II型ではEXT1欠失による多発性外骨腫(骨のこぶ)と、知的障害・小頭症を伴う点が、決定的な見分けポイントになります[1]。骨のこぶは遺伝性多発性外骨腫としても知られています。

項目 I型(TRPS I) II型(ランガー・ギーディオン) III型(旧Sugio-Kajii)
原因 TRPS1単独 TRPS1・EXT1等の欠失 TRPS1単独
変化のしくみ ハプロ不全 微小欠失 GATA領域のミスセンス(ドミナントネガティブ)
短指症 軽〜中等度 軽〜中等度 極めて重度
低身長 軽〜中等度 高頻度 極めて重度
多発性外骨腫 なし あり(EXT1欠失) なし
知的障害・小頭症 原則なし 伴うことがある なし

※上記は各タイプの典型的な傾向を整理したものです。実際には症状に幅があり、最終的な区別は遺伝子検査で行います[1][11]

このほか、歴史的に混同されたRuvalcaba症候群は小頭症・知的障害を伴う点で、知能が正常なIII型とは区別されます[13]。また、手足の骨の短縮を主とする短指症E型も鑑別対象で、毛髪や顔立ちの特徴があるかどうかが見分けの手がかりになります[25]。股関節の変化については、鑑別・関連としてペルテス病の理解もあわせて役立ちます。

5. 遺伝のしかたと再発の可能性

TRPS III型は常染色体顕性(優性)遺伝の病気です。2つあるTRPS1のうち片方に病的な変化があれば症状があらわれ得る形で、発症した方のお子さんが同じ変化を受け継ぐ確率は、性別に関係なく50%です[12]

一方で、TRPS Iでは約3分の1の方が、親から受け継いだのではなく、ご本人の代で新しく生じた変化(de novo変異によって発症すると報告されています[11]。この場合、ご両親は同じ変化をもたないことが多いのですが、生殖細胞モザイク(生殖細胞の一部に変化がある状態)の可能性を完全にはゼロにできないため、次のお子さんの見通しについては個別の評価が大切です。実際、同じ家系内で同じTRPS1変異をもちながら、母は比較的軽いI型、娘は重い低身長と極端な短指症を示すIII型という、症状の幅が報告された例もあります[31]

💡 用語解説:常染色体顕性(優性)遺伝とは

人は同じ遺伝子を父由来・母由来で2つずつもっています。そのうち片方に変化があるだけで症状が出うる遺伝のしかたを「常染色体顕性(優性)遺伝」と呼びます。TRPS III型はこのタイプで、発症した方からお子さんへは50%の確率で変化が伝わります。家系で原因となる変化がわかっている場合は、出生前診断や着床前診断(PGT)といった選択肢について、遺伝カウンセリングで整理できます。

6. 検査と診断の進め方

診断は、診察・画像(X線)・遺伝子検査を組み合わせて確立します[12]。最初の手がかりは、特徴的な顔立ち・まばらな毛髪・進行性の短指症のパターンに気づくことです[12]

画像検査(X線)の役割

小児期(およそ2歳以降)の手のX線で、指の骨の円錐状骨端と、中手骨・指節骨の全体的な短縮を客観的に確認します。III型では、この短縮が年齢に不釣り合いなほど強いことがX線で明らかになります[10]。あわせて股関節のX線で、大腿骨頭の平たさなどペルテス病に似た変化がないかを評価し、将来の関節への負担を見通します[11]。また、II型を確実に除外するため、膝・肩・ひじなどに骨のこぶ(外骨腫)がないかをX線で確認することも重要です[3]

遺伝子検査でわかること

確定診断・予後の見通し・ご家族への遺伝カウンセリングのためには、遺伝子検査がとても役立ちます[3]。まずTRPS1遺伝子の配列解析が第一選択で、III型が疑われるときはGATA DNA結合領域のミスセンス変異に注目します[6]。配列解析では、約81%の症例で原因となる変化が見つかると報告されています[11]。配列解析で見つからない場合は、遺伝子全体の欠失・重複を調べる検査(染色体マイクロアレイなど)に進み、これはEXT1を含む広い欠失によるII型の確定・除外にも欠かせません[3]。当院のような遺伝医療の施設では、骨系統疾患のNGS遺伝子パネル検査など、複数の骨の病気の原因遺伝子を一度に調べる検査も利用できます[35]。低身長が前面に出る場合には低身長の遺伝子パネル検査が入り口になることもあります。

7. 治療の現状とこれから

現在、TRPS III型を根本的に治す方法はまだ確立されていません。治療の主眼は、機能の維持・痛みのコントロール・生活の質(QOL)の最大化に置かれ、小児科・整形外科・内分泌科・歯科・皮膚科・リハビリ・遺伝科などが連携する多職種のアプローチが大切です[12]

  • 成長ホルモン(GH)療法:低身長があり、成長ホルモン分泌不全が確認された場合には検討されることがありますが、効果にはばらつきが報告されています。成長速度が改善する例がある一方、十分な反応が得られない例もあります[11]。TRPSの低身長には軟骨・骨の成長異常そのものも関与するため、導入は成長ホルモン分泌能や骨端線の状態、治療への反応をみながら個別に判断します[37]
  • 股関節・関節の管理:股関節の痛みには、まずNSAIDsなどの鎮痛薬が用いられます。可動域や運動機能を保つための継続的な理学療法が推奨され、細かい手作業がしにくい場合は作業療法も役立ちます[11]。重い股関節の変形や進行した関節症で歩行が損なわれる場合には、適切な時期に人工関節置換術や骨切り術などの整形外科手術が検討されます[1]
  • 毛髪・整容面のケア:疎毛や若年からの脱毛には、医療用ウィッグの活用や頭皮に負担の少ないヘアケアが現実的で有用とされています[11]
  • 歯科的管理:過剰歯・小歯・萌出遅延などの歯科所見に対し、定期的な歯科評価が重要です。とくに過剰歯は萌出や咬合に影響することがあり、必要に応じて抜歯などの歯科的対応が検討されます[11]

分子レベルのしくみが明らかになったことで、TRPS1の機能低下で過剰にはたらくSTAT3経路やIhh/PTHrP経路を薬で調整できれば、骨格の変形や軟骨の早すぎる成熟を遅らせられる可能性が、基礎研究の段階で示唆されています[5]。根治にはまだ距離がありますが、正確な診断は、成長ホルモン療法の個別化、股関節への早めの対応、歯科・整容面の支援へのアクセスを可能にし、生涯にわたるQOLの改善につながります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「診断がつく」ことが持つ力】

原因がわからないまま検査を重ねる期間は、ご本人にもご家族にも負担の大きいものです。30年の遺伝診療のなかで、私は診断名がつくまでの時間の長さそのものが課題になる場面に、くり返し向き合ってきました。TRPS IIIのように、遺伝子検査で「どのタイプか」まで見えてくる病気では、診断が予後の見通しや先回りのケア(股関節・骨密度・歯の管理)につながるという強みがあります。「50%で遺伝します」という数字を冷たく告げるのではなく、その数字が何を意味し、これから何ができるのかまで一緒に整理する。それが遺伝カウンセリングの役割だと考えています。

8. よくある誤解

誤解①「I型とIII型は別々の病気」

原因はどちらも同じTRPS1遺伝子で、ひとつながりのスペクトラムです。ちがいは変化の「性質」(ハプロ不全か、ドミナントネガティブか)で、それが症状の重さの差になります。

誤解②「知的障害を伴う」

TRPS IIIでは原則として知能は正常です。知的障害や小頭症、骨のこぶを伴うのは別のタイプ(II型・ランガー・ギーディオン症候群)で、EXT1などの欠失が関わります。

誤解③「ただの低身長・体質だろう」

まばらな毛髪・洋梨状の鼻に加えて指が著しく短いときは、体質ではなく骨系統疾患の可能性があります。手のX線で円錐状骨端が見つかることが、診断の大きな手がかりです。

誤解④「成長ホルモンを打てば背は伸びる」

TRPSでは低身長の背景に軟骨・骨の成長異常があり、成長ホルモン分泌不全を伴う例もあります。成長ホルモン療法の効果にはばらつきがあるため、分泌能を評価したうえで反応をみながら慎重に判断する必要があります。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

TRPS III型は、TRPS1という一つの遺伝子の「ブレーキ」がうまくきかなくなることで、毛髪・鼻・骨格に特徴的な症状をもたらす病気です。長く独立した症候群(Sugio-Kajii症候群)として扱われてきましたが、分子診断の確立によって、I型と地続きのスペクトラムの重症型として、確かな位置づけを得ました[11]

臨床遺伝専門医として文献を踏まえると、この病気は「同じ遺伝子でも、変化の性質しだいで対応が変わる」という、遺伝医学で重要な考え方と地続きです。だからこそ、特徴に気づいたら、X線と遺伝子検査で「どのタイプか」「なぜ起きているか」を一つずつ確かめることが、予後の見通しと先回りのケアにつながります。原因不明の重い低身長や指の短さ、遺伝への不安を抱えておられるなら、正確な診断に基づいて今後の選択肢を整理できるよう、私たちが終始責任をもって整理をお手伝いします。

🏥 正確な診断に基づいて、今後の選択肢を

毛髪・鼻・指節症候群をはじめとする骨系統疾患・遺伝性疾患の
遺伝子検査・遺伝カウンセリングは
臨床遺伝専門医が運営するミネルバクリニックへ。
検査の前後から結果の説明、その後のケアまで、終始責任をもって支援します。

🏥 ミネルバクリニックの特徴
臨床遺伝専門医が運営する、稀有な医療機関です
✓ カウンセリング・遺伝子検査・結果説明・その後のケアまで一貫対応
✓ 骨系統疾患を含む幅広い遺伝性疾患の遺伝子解析に対応
✓ 生涯にかかわる検査だからこそ、スピードより「正確性」を最優先

よくある質問(FAQ)

Q1. 毛髪・鼻・指節症候群III型は遺伝する病気ですか?

はい、常染色体顕性(優性)遺伝の病気です。発症した方からお子さんへは、性別に関係なく50%の確率で原因となる変化が受け継がれます。一方で、TRPS Iでは約3分の1の方が親から受け継いだのではなく、ご本人の代で新しく生じた変化(de novo変異)で発症すると報告されています。ご家族で変化が分かっている場合は、遺伝カウンセリングで出生前診断や着床前診断(PGT)といった選択肢をご説明できます。

Q2. I型(TRPS I)とIII型(TRPS III)はどう見分けるのですか?

原因遺伝子はどちらも同じTRPS1ですが、変化の性質が異なります。I型ははたらきが半分になるハプロ不全が中心で症状は比較的軽め、III型はGATA領域のミスセンス変異によるドミナントネガティブ効果が中心で、低身長と短指症がとくに重くなります。臨床的には骨格症状の重さやX線所見、最終的には遺伝子検査でどの領域にどんな変化があるかを確認して区別します。

Q3. II型(ランガー・ギーディオン症候群)とは何が違うのですか?

II型は、TRPS1に加えてすぐ近くのEXT1遺伝子などがまとめて失われる「隣接遺伝子欠失症候群」です。そのため、EXT1欠失による多発性外骨腫(骨のこぶ)や、知的障害・小頭症を伴うことがあり、この点が知能の正常なIII型との決定的な見分けポイントになります。診断では、X線での骨のこぶの有無や、染色体マイクロアレイによる欠失の確認が役立ちます。

Q4. 知能や寿命に影響はありますか?

TRPS III型では、原則として知能・精神運動の発達は正常です。心臓の弁の軽い異常などが一部で報告されていますが、命に関わる経過をとることは多くなく、生命予後は一般に良好とされています。主な負担は、股関節や指の関節の痛み・変形、重い低身長といった骨格の症状で、これらへの継続的なケアが生活の質を保つうえで重要になります。

Q5. 遺伝子検査はどのように行いますか?

まずTRPS1遺伝子の配列解析を行い、III型が疑われるときはGATA DNA結合領域のミスセンス変異に注目します。配列解析では約81%の症例で原因となる変化が見つかると報告されています。見つからない場合は、遺伝子全体の欠失・重複を調べる検査(染色体マイクロアレイなど)に進み、これはII型の確定・除外にも欠かせません。骨系統疾患のNGS遺伝子パネル検査で、関連する複数の遺伝子を一度に調べることもできます。

Q6. 低身長に対して成長ホルモン治療は効きますか?

TRPSでは低身長がある場合に成長ホルモン分泌不全の評価が行われ、分泌不全が確認された場合には成長ホルモン療法が検討されます。治療効果にはばらつきがあり、成長速度が改善する例がある一方で十分な反応が得られない例もあります。導入する場合は、成長ホルモン分泌能や骨端線の状態、治療への反応を慎重にみながら、専門医が個別に判断します。

Q7. ミネルバクリニックではどんな対応ができますか?

当院は臨床遺伝専門医が、原因遺伝子の同定(TRPS1を含む骨系統疾患NGSパネル検査など)と、ご家族への遺伝カウンセリングを担います。確定診断や、家系で変化が分かっている場合の出生前診断・着床前診断(PGT)といった選択肢の整理も行います。TRPS IIIの実際の治療(股関節手術・成長ホルモン療法・歯科的処置など)は整形外科・内分泌科・歯科などの専門施設で行われますので、必要に応じて連携先へのご紹介となります。まずは正確な診断に基づいて、ご家族が納得して今後の選択肢を整理できるよう、終始責任をもって支援します。

関連記事

遺伝子TRPS1遺伝子TRPS IIIの原因遺伝子TRPS1のはたらきと、乳がんとの関わりまで解説します。同じ病気のI型毛髪・鼻・指節症候群I型(TRPS I)TRPS1が原因の軽症型。III型との症状・しくみの違いを解説します。鑑別(II型)ランガー・ギーディオン症候群(TRPS II)EXT1欠失で骨のこぶ・知的障害を伴う、鑑別が重要なタイプです。検査骨系統疾患NGSパネル検査TRPS1を含む多数の骨系統疾患の原因遺伝子を一度に調べます。検査低身長遺伝子パネル検査低身長が前面に出る場合の入り口となる遺伝子パネルです。遺伝診療遺伝カウンセリング・遺伝診療検査結果の意味や再発の可能性を、臨床遺伝専門医と整理できます。

参考文献

  • [1] Maas SM, Shaw AC, Bikker H, et al. Phenotype and genotype in 103 patients with tricho-rhino-phalangeal syndrome. Eur J Med Genet. 2015;58(5):279-292. PMID: 25792522. [PubMed]
  • [2] Pathogenesis and potential therapeutic targets of trichorhinophalangeal syndrome; lessons obtained from animal studies. [PMC12994121]
  • [3] 毛髪-鼻-指節症候群. 遺伝学的検査受託・研究に関する情報(GRJ). [GRJ]
  • [4] Sugio Y, Kajii T. Ruvalcaba syndrome: autosomal dominant inheritance. Am J Med Genet. 1984;19(4):741-753. doi:10.1002/ajmg.1320190414. PMID: 6517098. [PubMed]
  • [5] Pathogenesis and potential therapeutic targets of trichorhinophalangeal syndrome. Dev Dyn. 2025. [Osaka Univ. Repository]
  • [6] Lüdecke HJ, Schaper J, Meinecke P, et al. Genotypic and phenotypic spectrum in tricho-rhino-phalangeal syndrome types I and III. Am J Hum Genet. 2001;68(1):81-91. doi:10.1086/316926. PMID: 11112658. [PubMed]
  • [7] What Is Your Diagnosis?(TRPS 臨床像に関する論説). 2017. [MDedge]
  • [9] Trichorhinophalangeal syndrome, type III. NIH Genetic Testing Registry (GTR). [NCBI GTR]
  • [10] Tricho-Rhino-Phalangeal Dysplasia Type III. AccessPediatrics. [AccessPediatrics]
  • [11] Trichorhinophalangeal Syndrome. GeneReviews®. NCBI Bookshelf. [NBK425926]
  • [12] Trichorhinophalangeal syndrome(症例報告). HK J Paediatr (New Series). 2021;26:62-64. [HK J Paediatr]
  • [13] Ruvalcaba Syndrome. AccessAnesthesiology. [AccessAnesthesiology]
  • [17] Momeni P, Glöckner G, Schmidt O, et al. Mutations in a new gene, encoding a zinc-finger protein, cause tricho-rhino-phalangeal syndrome type I. Nat Genet. 2000;24(1):71-74. doi:10.1038/71717. PMID: 10615131. [PubMed]
  • [18] Trps1 regulates proliferation and apoptosis of chondrocytes through Stat3 signaling. [CORE]
  • [20] Identification of the GATA Factor TRPS1 as a Repressor of the Osteocalcin Promoter. [PMC2797240]
  • [25] Severe brachydactyly and short stature resulting from a novel pathogenic TRPS1 variant within the GATA DNA-binding domain. [PMC6506180]
  • [30] Uncoupling of chondrocyte differentiation and perichondrial mineralization underlies the skeletal dysplasia in tricho-rhino-phalangeal syndrome. [PMC2710999]
  • [31] A novel frameshift mutation in the TRPS1 gene caused Tricho-rhino-phalangeal syndrome type I and III in a Japanese family. [PMC4965513]
  • [35] 骨系統疾患NGS遺伝子パネル検査. ミネルバクリニック. [ミネルバクリニック]
  • [37] Levy-Shraga Y, Modan-Moses D, Wientroub S, Ovadia D, Zeitlin L. The effect of growth hormone treatment in a child with tricho-rhino-phalangeal syndrome: a case report and review of the literature. Eur J Med Genet. 2020;63:103830. PMID: 31884116. [PubMed]

※本記事は一般の方および遺伝診療に関わる方に向けた情報提供を目的とするもので、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や検査・治療については、必ず主治医・専門医にご相談ください。

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

お電話での受付可能
診療時間
午前 10:00~14:00
(最終受付13:30)
午後 16:00~20:00
(最終受付19:30)
休診 火曜・水曜

休診日・不定休について

クレジットカードのご利用について

publicブログバナー
 
medicalブログバナー
 
NIPTトップページへ遷移