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毛髪鼻指節症候群Ⅰ型(TRPS1)とは?症状・遺伝・最新治療を遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

臨床遺伝専門医・がん薬物療法専門医・総合内科専門医。遺伝医学・腫瘍学・内科診療の知見に基づき、出生前診断と遺伝カウンセリングを提供します。

毛髪鼻指節症候群Ⅰ型(もうはつびしせつしょうこうぐん・TRPS I)は、8番染色体にあるTRPS1遺伝子の片方の働きが弱くなることで、薄くまばらな髪・洋なし型の特徴的な鼻・指の曲がりや短さ・低身長などがゆっくりあらわれる、とてもまれな遺伝性の病気です[1][3]。多くの症状は生まれたときには目立たず、幼児期から思春期にかけて少しずつはっきりしてくるのが特徴です[3]。この記事では、病気のしくみから症状、診断の決め手となる「円錐状骨端」、よく似た2型・3型との違い、生まれる前にNIPTで何がわかるのか、そして成長ホルモンやミノキシジルなど最新の治療の考え方までを、臨床遺伝専門医が医学的根拠に基づいて解説します。

⏱️ 30秒でわかる要約

💇Q. 毛髪鼻指節症候群Ⅰ型(TRPS I)とは?

8番染色体にあるTRPS1遺伝子の片方に病的バリアントが生じることで、髪・鼻・指と全身の骨に特徴的な変化が起こる常染色体顕性(優性)遺伝の病気です。薄い髪、洋なし型の鼻、指の短さや曲がり、低身長、進行する股関節の傷みなどが手がかりになります。

🦴Q. 診断の決め手は何ですか?

手足のX線でみられる「円錐状骨端(コーン状骨端)」がほぼ全例(>95%)に認められ、最大の手がかりになります。特徴的な顔つき・毛髪・指の所見とあわせて疑い、TRPS1遺伝子検査で確定します。

🌸Q. NIPTで調べられますか?

染色体の数を調べる一般的なNIPTではわかりませんが、単一遺伝子を調べる当院のNIPTプランにはTRPS1が対象遺伝子として含まれています。ただし報告範囲は検査時点の仕様確認が必要です。NIPTはスクリーニング検査のため、陽性の場合は羊水検査・絨毛検査での確認が必要です。

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1. 毛髪鼻指節症候群Ⅰ型とは:まず全体像をつかむ

毛髪鼻指節症候群(Trichorhinophalangeal syndrome:TRPS、OMIM #190350)は、その名前のとおり、毛髪(トリコ=Tricho)・鼻(リノ=Rhino)・指趾の骨(ファランジアル=Phalangeal)の3つを中心に、全身の骨や皮膚のつくりに特徴的な変化があらわれる、まれな常染色体顕性(優性)遺伝の骨系統疾患です[1][5]。1966年に小児放射線科医のGiedionが独立した症候群として初めて記載しました[5]

頻度はまれで、複数の報告ではおおよそ10万人に0.2〜1人程度と見積もられています[6]。ただし、症状の重さには同じ家系のなかでも大きな幅があり、軽い薄毛や指の軽度な変化だけの方は「年齢のせい」「体質」と受け取られて診断に至らないことも少なくありません[3]。そのため、診断されていない潜在的な患者さんは、報告より多い可能性があると指摘されています[6]

💡 用語解説:常染色体顕性(優性)遺伝とは

人は同じ遺伝子を父方・母方から1つずつ、2つ持っています。「常染色体顕性(優性)」とは、そのうち片方に病的な変化があるだけで症状が出うる遺伝の形です。性別に関係なく、親が持っていれば子へ50%の確率で受け継がれます。TRPS Iはこの形をとります[3]

「1型・2型・3型」から「1/3型はひとつの連続体」へ——2023年の分類の変化

TRPSは歴史的に、重症度と遺伝的背景から1型・2型・3型に分けて語られてきました。しかし、2023年に改訂された遺伝性骨格疾患の国際分類(Nosology 2023)で大きな整理が行われました[8]。かつて非常に重い低身長と著しい短指を示す「3型(Sugio-Kajii症候群、OMIM #190351)」と呼ばれていた病態は、その後の解析で独立した別の病気ではなく、TRPS1遺伝子による同じ病気の重い側のスペクトラムであることがわかりました[10]。このため現在は、TRPS1遺伝子の点変異や遺伝子内欠失によるものはまとめて「毛髪鼻指節異形成症 1/3型」として扱われます[8]。一方、2型(Langer-Giedion症候群)は、TRPS1だけでなく隣接するEXT1・RAD21を含む8番染色体の広い欠失による別のしくみの病気で、経過も予後も異なるため厳密に区別されます[1]。くわしくは3型(TRPS III)のページもあわせてご覧ください。

2. 原因遺伝子TRPS1と「オフのスイッチ」のしくみ

TRPS Iの根本の原因は、8番染色体長腕(8q23.3)にあるTRPS1遺伝子の、片方のコピーの病的な変化(または遺伝子を含む欠失)です[3][14]。TRPS1遺伝子は、GATA型ジンクフィンガー転写因子ファミリーに属する大きなタンパク質の設計図で、細胞の核のなかで特定のDNAに結合し、標的となる遺伝子の働きを「オフ」にする(抑える)司令塔として働きます[14]

このタンパク質は、胎児期から成長期にかけて、軟骨細胞の成熟や骨のつくられ方、毛包(毛のもと)の発生と毛のサイクルを、適切なタイミングで整える役割を担っています[14]。必要なときに「オフ」の指令がきちんと出せなくなると、骨の成長端(骨端線)の形づくりや毛のもとの働きがうまくいかなくなり、TRPS Iに特徴的な変化があらわれると考えられています。

💡 用語解説:ハプロ不全(はぷろふぜん)

遺伝子は父方・母方に1つずつ、計2つあります。片方が壊れても、もう片方だけでは十分に量が足りず、機能を保てない状態をハプロ不全と呼びます。TRPS Iでは、切断型バリアントや欠失ではTRPS1のハプロ不全が主要な発症機序です。一方、GATA型ジンクフィンガー領域の一部のミスセンスバリアントでは優性阻害(dominant-negative)作用が示唆されています[3]

これまでに報告されている変化はとても多彩で、アミノ酸が入れ替わるミスセンス変異、途中でタンパク質づくりが止まるナンセンス変異(例:c.1198C>T[p.Gln400X]、c.2086C>T[p.Arg696X])、スプライシング異常、フレームシフト、さらには遺伝子全体を巻き込む大きな欠失までが知られています[11][14]。ここで診療上むずかしいのは、「変異の場所やタイプ」から「将来の症状の重さ」をはっきり予測する明確な相関(遺伝子型・表現型相関)が、今のところ確立していない点です[3]。同じ家系で同じ変異を共有していても、症状のあらわれ方が大きく違うことがしばしば観察されます[3]。これは、症状が単一の変異だけでなく、まだ解明されていない修飾因子や環境との複雑な相互作用で形づくられていることを示唆しています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「変異の場所」だけで未来は決められない】

検査でTRPS1の病的バリアントが確認されても、それだけで将来の症状や重症度を断定することはできません。TRPSでは同一家系内でも表現型の幅があり、さらにバリアントの種類によって発症機序が異なる場合があります。臨床遺伝専門医としては、遺伝学的検査で確定できる事項と、現時点では予測できない事項を区別し、臨床所見や画像所見とあわせて評価することが重要です。

3. 主な症状:髪・鼻・指から全身の骨まで

TRPS Iの症状は一つの臓器にとどまらず、顔つき・毛髪や爪などの外胚葉組織・全身の骨格・歯に広く及びます[1]。多くは新生児期には目立たず、加齢とともに、とくに小児期から思春期にかけて少しずつはっきりしていくという時間的な特徴があります[3]。まず、器官系ごとに全体像を見てみましょう。

👤 顔つき

  • 洋なし型にふくらんだ鼻先(球状鼻)
  • 低く未発達な鼻翼、長く平らな人中
  • 薄い上唇、内側が太い眉毛
  • 大きく突き出した耳、小さめのあご

💇 毛髪・爪・皮膚

  • 細くまばらで伸びの遅い髪(>85%)
  • 進行する薄毛、まばらな眉・まつげ
  • 薄く割れやすい爪の変形(40〜50%)
  • 手のひら・足裏の角化、多汗

🦴 骨格・関節

  • 低身長(TRPS Iで40〜50%)
  • 短い指・趾、指の曲がり(斜指症)
  • 指のこわばり・可動域の制限
  • 進行する股関節の傷み(股関節異形成)

🦷 歯・その他

  • 過剰な歯(多剰歯)や歯の欠損
  • 矮小歯・エナメル質の形成不全
  • 歯並びの乱れ(叢生)・咬み合わせ
  • 骨密度の低下(オステオペニア 約20%)

※ かっこ内の頻度はGeneReviewsの集計(TRPS I)に基づく代表値です[3]。症状の有無や重さには大きな個人差があります。

顔つきと毛髪:年齢とともにはっきりしてくる

もっとも目を引くのは鼻の形です。鼻先が洋なし型に丸くふくらむ「球状鼻」で、鼻の脇(鼻翼)は低く未発達、人中(鼻の下から上唇までの溝)が長く平らで、上唇が薄いのが特徴です[1]。眉毛は内側が太く外側で薄くなり、耳は大きく突き出して見えます[1]。毛髪はほぼ全例で細くまばら(>85%)で、伸びが遅く、前頭部・側頭部を中心に進行性の薄毛がみられます[3]。これらは成長とともに相対的に強調され、年長児や成人でより際立って見えるようになります[3]

骨格・関節:低身長・短指・股関節の傷み

出生時の身長・体重は正常範囲のことが多いのですが、成長の過程で低身長が進行してくるのが典型です[3]。手足では、中手骨・中足骨の不均等な短縮により指・趾が短くなり、特定の指が横に曲がる「斜指症」を伴います[1]。小児期には関節が柔らかい時期もありますが、成長が完了に近づくと逆に関節のこわばりや可動域制限が進みます[3]。とくに手指の関節の腫れとこわばりは、小児の関節リウマチと間違われることがあるほど目立つことがあります[1]。さらに、整形外科的な対応を要する重要な合併症が股関節異形成で、大腿骨頭の扁平化などのペルテス病様の変化を示し、若くして変形性股関節症へ進むことがあります[1][15]

4. 診断の核心:「円錐状骨端」と遺伝子検査

現在、TRPS Iには国際的に統一された診断スコアはありません。確定診断は、①特徴的な臨床所見(顔つき・毛髪・骨格)②X線での特徴的所見③遺伝子検査の3つを組み合わせて行います[3]

最大の手がかり——「円錐状骨端」とは

TRPSの骨格診断で最も重要なのが「円錐状骨端(cone-shaped epiphyses)」です。これはほぼすべての患者さん(TRPS Iで>95%)の手足のX線でみられ[3]、本来は半球状であるはずの骨端(骨の成長端)が、骨幹端に向かって円錐(コーン)状に食い込む変化です[1]。中でも手の中節骨の近位端に最も多くあらわれます[1]。重要なのは、生後すぐには写らず、骨端が石灰化しはじめる2歳以降に確認できるようになる点で、乳児期の見逃しの一因にもなります[14]。くわしくは円錐状骨端の用語解説もご覧ください。

正常な骨端と「円錐状骨端」の違い ① 正常:なめらかな半球状 骨端と骨幹端が平らに接する ② TRPS:円錐状に食い込む 骨幹端へV字状に深く入り込む

円錐状骨端はTRPSに特徴的な骨端形成異常で、斜指症や短指などの手指骨格所見と関連します[1]

遺伝子検査:配列解析から欠失解析へ

臨床的に強く疑われる場合、まずTRPS1遺伝子の配列解析(次世代シーケンサーなど)で、ミスセンス・ナンセンス・スプライス部位変異や小さな欠失・挿入を調べます[3]。ここで変異が見つからなくてもTRPS Iは否定できません。単一エクソンから遺伝子全体規模の大きな構造的欠失・重複が通常の配列解析では検出されないことがあるため、マイクロアレイ染色体検査(CMA)やMLPA法による解析へ進むことが重要です[3]。ごくまれに、8番染色体を含む染色体再構成がTRPS1を分断していることもあり、状況に応じて核型分析も考慮されます[3]

5. 2型・3型との違いと鑑別

診断で最も慎重を要する鑑別が2型(Langer-Giedion症候群、OMIM #150230)です[3]。名前は似ていますが、しくみと長期予後が決定的に異なります。2型は、TRPS1単独の異常ではなく、8番染色体長腕(8q23.3-q24.11)の広い微小欠失で複数の遺伝子(TRPS1に加えEXT1・RAD21など)が同時に失われる「隣接遺伝子欠失症候群」です[3]

そのため2型は、TRPS Iと多くの特徴を共有しつつ、隣の遺伝子が失われることで①多発性骨軟骨腫(EXT1の喪失による外骨腫)②軽度〜中等度の知的障害(RAD21など)が追加されます[3]TRPS Iには多発性骨軟骨腫は基本的に認められない(TRPS Iでのosteochondromas ≒0%)ため、画像上の決定的な鑑別点になります[3]。知的発達についても、TRPS Iは多くが正常範囲です(TRPS Iでの知的障害は約10%と報告される一方、2型では50〜60%)[3]

項目 TRPS I(1型) TRPS III(3型) TRPS II(Langer-Giedion)
しくみ TRPS1の点変異・遺伝子内欠失 TRPS1(1型と同じ遺伝子・連続体) TRPS1・EXT1・RAD21を含む広い欠失
低身長・短指 あり(幅がある) より重度 あり
多発性骨軟骨腫 なし(≒0%) なし あり(>85%)
知的障害 多くは正常(約10%) 多くは正常 50〜60%
OMIM #190350 #190351 #150230

頻度はGeneReviewsの集計、分類・OMIM番号は各一次情報に基づきます[3][12][13]

このほか、外胚葉異形成症(顔つきや円錐状骨端を欠く)や、歯の多剰を共有する鎖骨頭蓋異形成症、股関節所見が似る特発性ペルテス病なども鑑別に挙がりますが、いずれも全身の所見を合わせて総合的に区別します[1]

6. 遺伝のしくみと再発リスク

TRPS Iは常染色体顕性(優性)遺伝です。片方の親が発症している場合、子どもの性別に関係なく、毎回の妊娠で50%の確率で病的バリアントが受け継がれます[3]。一方で、患者さんの約3分の1は、両親とも健常で、新たに生じた変異(de novo変異による孤発例です[3]

(新たに生じる変異(de novo)が子へ伝わるイメージ)

de novo変異のお子さんの両親が次に子を設ける場合、再発リスクは低くなりますが、一般集団と完全に同等とは言い切れません。ただし、親の生殖細胞の一部にだけ変異がある生殖細胞モザイクの可能性は完全には否定できず、わずかなリスクが残ることは念のため説明されます[3]。ご家族で病的バリアントが特定できている場合には、羊水検査・絨毛検査による出生前診断や、体外受精と組み合わせる着床前遺伝学的検査(PGT)といった選択肢を、遺伝カウンセリングのなかでご説明できます[3]

⚠️ 大切なこと:出生前に「重さ」までは予測できない

今の遺伝医学では、胎児や胚に特定のTRPS1変異が見つかっても、生まれてくるお子さんの低身長がどの程度か、いつ股関節の症状が始まるか、薄毛がどこまで進むかといった具体的な将来像を、出生前に予測することはできません[3]。この不確実性を前提に、価値観を押しつけず、情報提供と心理的支援を続けることが大切だと考えています。

7. NIPT・出生前検査でわかること

よく知られるNIPT(新型出生前診断)は、主にダウン症(21トリソミー)など「染色体の数」の変化を調べる検査です。TRPS Iは染色体の数は正常のまま、TRPS1という一つの遺伝子だけに変化が起こる「単一遺伝子疾患」なので、数を数えるタイプの一般的なNIPTでは見つけられません。

一方で、単一遺伝子を解析するタイプのNIPTで対象遺伝子・対象バリアントに含まれていれば、スクリーニングの対象になり得ます。当院のNIPT(インペリアルプラン/ダイヤモンドプラン)では、TRPS1が対象遺伝子に含まれています。ただし、TRPS Iとしてどのバリアントまで報告対象になるかは、検査時点の解析・報告仕様の確認が必要です。とくに、当院は必要な領域をターゲット法で精度よく調べることを重視しています(広く浅く読むワイドゲノム法は偽陽性が多く、精度に課題があると考えています)。NIPTはあくまで可能性を調べるスクリーニングであり、陽性の場合は羊水検査・絨毛検査による確認が必要です。

なお、TRPS Iの約3分の1を占めるde novo変異は、両親に所見がなくても起こりうるものです。父親の年齢が上がると精子で新たに生じる変異が増えることが知られており、こうした「新生突然変異」に着目した56遺伝子de novo NIPTのような選択肢もあります。詳しくはNIPTトップページもご参照ください。

8. 治療とこれから:対症療法から新しい知見まで

現在、TRPS1の異常そのものを治す根本的な遺伝子治療はありません。医療の中心は、症状ごとの対症療法と、機能低下を遅らせる支持療法です[3]。年齢とともに症状の主座が変わるため、小児科・内分泌科・整形外科・皮膚科・歯科・リハビリ職などによる長期的な多職種連携が重要になります[3]

低身長:成長ホルモン療法の考え方

進行する低身長に対して、近年遺伝子組み換えヒト成長ホルモン(rhGH)療法が検討されています[6][7]。TRPS Iの低身長は単純なホルモン不足だけでは説明できず、明らかな成長ホルモン分泌不全がない患者さんも多いことが知られています[6]。TRPS I患者12例をまとめた報告では、rhGH療法を行った症例の多く(8例)で良好な反応がみられ、分泌不全の有無が治療適応の絶対的な基準にはならないこと、短期的には思春期前の身長改善に寄与しうることが示されています[6]。ただし、最終身長への効果はより長期のデータが必要で、全例が反応するわけではありません[7]。IGF-1値の測定を含む内分泌評価を行い、個別に適応を検討することが推奨されています[6]

薄毛:ミノキシジル外用の報告と注意点

薄毛に対しては、5%ミノキシジル外用が有効だった症例報告があります。9歳の女児で、4か月の外用後に多毛症などの副作用なく頭皮全体で毛の密度と長さが改善したと報告されました[21]。ただし、これは1例の症例報告であり、「第一選択」「確立した治療」と言える段階ではありません。むしろ別のTRPS症例では、5%ミノキシジル外用後に全身性の多毛症を生じた報告もあり[22]、効果や副作用には個人差があります。使用の可否は必ず主治医・皮膚科と相談してください。かつら(ウィッグ)や、成人後の自毛植毛も整容的な選択肢です[3]

骨・関節・歯:整形外科・歯科的マネジメント

進行する股関節や手指の変形・二次性の関節症には、鎮痛薬による疼痛管理と理学療法が基本で、重度に進行した若年成人例では人工股関節全置換術が検討されます[3]。骨密度が下がりやすいため、骨減少が疑われる場合などに必要に応じてDXAで評価し、カルシウム・ビタミンDの適切な摂取を検討します[3]。歯科では、多剰歯の有無を含む歯科評価を行い、必要に応じて多剰歯の抜歯などを検討します[3]。細かい手作業の困難には作業療法士の早期介入が有用です[3]

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【診断までに確認すべき情報】

TRPS Iのように年齢とともに臨床所見が明瞭になる遺伝性疾患では、診断時点の年齢によって得られる所見が異なることがあります。臨床遺伝学では、現時点で確認できる顔貌・毛髪・骨格所見、X線所見、家族歴を整理し、必要に応じてTRPS1の配列解析と欠失・重複解析を組み合わせます。診断後も、遺伝学的検査で確定した事項と将来予測が困難な事項を区別して説明することが重要です。

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🏥 ミネルバクリニックの特徴
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9. よくある誤解

誤解①「見た目の問題だけで、体には影響しない」

薄毛や鼻の形が注目されがちですが、TRPS Iは全身の骨・関節の病気でもあり、股関節や指の変形が生活の質に影響しうるため、整形外科的な経過観察が大切です[1]

誤解②「親に症状がないから遺伝ではない」

約3分の1は新たに生じた変異(de novo)による孤発例です。親に所見がなくても起こりえますし、発症した本人からは次世代へ50%で受け継がれます[3]

誤解③「1型も2型も同じような病気」

2型(Langer-Giedion)は多発性骨軟骨腫や知的障害を伴う別のしくみの病気で、予後や必要な管理が異なります。正確な分子診断による区別が重要です[3]

誤解④「治療法がないから調べても意味がない」

根本治療はまだありませんが、早期に診断がつけば、低身長への成長ホルモン療法の検討、股関節や骨密度の先回りの管理、歯科の計画的介入など、先手を打てることがあります[3][6]

よくある質問(FAQ)

Q1. 毛髪鼻指節症候群Ⅰ型は遺伝する病気ですか?

常染色体顕性(優性)遺伝の病気で、片方の親が持っている場合、子どもの性別に関係なく50%の確率で受け継がれます。ただし、患者さんの約3分の1は新たに生じた変異(de novo)による孤発例で、親には所見がありません。孤発例でも、発症したご本人からは次世代へ50%の確率で受け継がれます。ご家族で変異が分かっている場合は、遺伝カウンセリングで出生前診断や着床前遺伝学的検査(PGT)といった選択肢をご説明できます。

Q2. 生まれる前にNIPTで調べることはできますか?

染色体の数を調べる一般的なNIPTでは検出できません。当院の単一遺伝子を調べるNIPTプラン(インペリアル/ダイヤモンド)にはTRPS1が対象遺伝子として含まれますが、すべてのTRPS I関連バリアントが一律に報告対象となるとは限らないため、検査時点の解析・報告仕様の確認が必要です。NIPTは可能性を調べるスクリーニング検査であり、確定診断ではありません。陽性の場合は羊水検査・絨毛検査による確認が選択肢となります。

Q3. 診断はどうやってつけるのですか?

特徴的な顔つき・毛髪・指の所見に加え、手足のX線でみられる「円錐状骨端」が最大の手がかりです(ほぼ全例に認められます)。これらで疑い、TRPS1遺伝子の配列解析で確定します。配列解析で見つからない場合でも、大きな欠失・重複を調べるマイクロアレイ検査(CMA)やMLPA法へ進むことが重要です。円錐状骨端は生後2歳以降に写るようになる点にも注意します。

Q4. 2型(Langer-Giedion)とはどう違うのですか?

1型はTRPS1遺伝子単独の変化で起こり、多くは知的発達が正常で、多発性骨軟骨腫はほとんど伴いません。一方2型は、TRPS1に加えて隣のEXT1・RAD21を含む広い欠失で起こる「隣接遺伝子欠失症候群」で、多発性骨軟骨腫や軽度〜中等度の知的障害を追加で伴います。この2点が決定的な鑑別点で、正確な区別には分子遺伝学的検査が重要です。

Q5. 低身長に成長ホルモンは効きますか?

TRPS I患者12例をまとめた報告では、成長ホルモン(rhGH)療法を行った症例の多くで良好な反応がみられ、短期的な身長改善に寄与しうると報告されています。成長ホルモン分泌不全の有無は治療適応の絶対的な基準にはならないとされます。ただし全例が反応するわけではなく、最終身長への効果はより長期のデータが必要です。IGF-1値を含む内分泌評価を行い、個別に適応を検討します。

Q6. 薄毛にミノキシジルは使えますか?

5%ミノキシジル外用で毛の密度・長さが改善した症例報告があります(9歳女児、多毛症なく改善)。ただしこれは1例の報告であり、確立した第一選択の治療ではありません。別のTRPS症例では外用後に全身の多毛症を生じた報告もあり、効果や副作用には個人差があります。使用の可否は必ず主治医・皮膚科とご相談ください。かつらや成人後の自毛植毛も整容的な選択肢です。

Q7. 知的発達や寿命への影響はありますか?

TRPS I(1型)は、多くの場合、知的発達は正常範囲です(報告される知的障害は約10%)。知的障害を高率に伴うのは、隣接遺伝子欠失による2型です。寿命そのものへの直接的な影響は一般に大きくないとされますが、股関節や骨・関節の症状は生活の質に影響しうるため、年齢に応じた継続的な管理が大切です。症状の重さには個人差が大きい点にもご留意ください。

Q8. ミネルバクリニックではどんな対応ができますか?

当院は臨床遺伝専門医が運営し、原因遺伝子の同定(TRPS1を含む遺伝子検査)とご家族への遺伝カウンセリングを担い、終始責任をもって支援します。出生前にリスクを調べたい方には、TRPS1を対象遺伝子に含むNIPTプランについて、TRPS Iとしての解析・報告範囲を検査時点の仕様で確認したうえでご案内します。確定が必要な場合は羊水検査・絨毛検査の選択肢をご案内します(2025年6月から自院で実施)。NIPTが陽性となった場合の羊水検査費用は、互助会(8,000円)により補助されます。実際の治療(整形外科・皮膚科・歯科など)は各専門施設と連携してご紹介します。

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参考文献

  • [1] A Case of Trichorhinophalangeal Syndrome Caused by a Novel Heterozygous Nonsense Mutation in the TRPS1 Gene. Clin Case Rep. 2025. [PMC12313832]
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  • [5] Trichorhinophalangeal Syndrome Type I: A Patient with Two Novel and Different Mutations in the TRPS1 Gene. Case Rep Genet. 2013. [PMC3652099]
  • [6] Recombinant Human Growth Hormone Therapy for Childhood Trichorhinophalangeal Syndrome Type I: A Case Report. Children (Basel). 2022. [PubMed 36291383 / PMC9600025]
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  • [8] Nosology of genetic skeletal disorders: 2023 revision. Am J Med Genet A. 2023. [PMC10081954]
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  • [12] Trichorhinophalangeal Syndrome, Type I; TRPS1. OMIM #190350. [OMIM 190350]
  • [13] Trichorhinophalangeal Syndrome, Type III; TRPS3. OMIM #190351. [OMIM 190351]
  • [14] Transcriptional Repressor, GATA-Binding 1; TRPS1. OMIM *604386. [OMIM 604386]
  • [15] Trichorhinophalangeal syndrome, type III. NIH Genetic Testing Registry (GTR). [NCBI GTR C1860823]
  • [17] TRPS1 mutation associated with trichorhinophalangeal syndrome type 1 with 15 supernumerary teeth, hypoplastic mandibular condyles with slender condylar necks and unique hair morphology. J Dermatol. 2020;47(7):774-778. [PubMed 32347565]
  • [21] Successful topical minoxidil treatment for hair density and length in trichorhinophalangeal syndrome type 1. Pediatr Dermatol. 2024. [PubMed 38193387]
  • [22] Generalized Hypertrichosis After 5% Minoxidil Solution in Trichorhinophalangeal Syndrome: A Case Report and Review of the Literature. Indian J Dermatol. 2023. [PMC10162767]

※本記事は一般の方および遺伝診療に関わる方に向けた情報提供を目的とするもので、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や検査・治療については、必ず主治医・専門医にご相談ください。

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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