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ルビンシュタイン・テイビ症候群2型(RSTS2)は、22番染色体にあるEP300遺伝子の片方のコピーが働かなくなる「ハプロ不全」によって起こる、まれな先天性の症候群です。幅広い親指や特徴的な顔つき、ゆっくりとした発達がみられますが、より頻度の高い1型(CREBBP遺伝子が原因)に比べて症状が軽いことが多く、知能が正常範囲に保たれる方もいます。一方で、妊娠中のお母さんに妊娠高血圧腎症が起こりやすいなど、2型ならではの注意点もあります。
Q. ルビンシュタイン・テイビ症候群2型とは、どのような病気ですか?まず結論だけ知りたいです
A. EP300遺伝子の変化(ハプロ不全)によって起こる、まれな先天性多発奇形症候群です。幅広い親指・第1足趾、特徴的な顔つき、発達のゆっくりさを主な特徴とします。1型(CREBBP遺伝子が原因)よりも全体に症状が軽い傾向があり、知能が正常範囲の方もいる一方で、特徴が目立たないために診断が見逃されやすいという課題があります。
- ➤疾患の定義 → OMIM #613684、Orphanet ORPHA:783、出生10万〜12.5万人に1人
- ➤原因 → 22番染色体(22q13.2)のEP300遺伝子のハプロ不全。クロマチノパチーの一種
- ➤1型との違い → 親指の側方への傾きが少ない・知的障害が軽い・小頭症が多い
- ➤妊娠中の注意 → 母体の妊娠高血圧腎症の頻度が高い(約23%)
- ➤診断・管理 → 遺伝子解析とエピシグネチャー、生涯にわたる多職種でのサーベイランス
1. ルビンシュタイン・テイビ症候群2型とは:定義と歴史
ルビンシュタイン・テイビ症候群(以下RSTS)は、いくつかの生まれつきの体の特徴と、発達のゆっくりさをあわせ持つ、とても珍しい病気です。1957年にMichailらが「橈側(とうそく:親指側)に反った幅広い親指」を持つお子さんを報告したのが最初のきっかけで、1960年に小児科医のRubinstein医師と放射線科医のTaybi医師が、特徴的な顔つき・幅広い親指と第1足趾(足の親指)・発達のゆっくりさという3つをそろえて持つ7人のお子さんを報告し、1963年に独立した病気として確立されました。
現在、RSTSの出生頻度はおよそ10万人から12.5万人に1人と見積もられています。遺伝子研究が進んだことで、RSTSは原因となる遺伝子の違いから2つのタイプに分けられるようになりました。16番染色体にあるCREBBP遺伝子の変化で起こる1型(RSTS1:OMIM #180849)が全体の約55〜75%を占めるのに対し、22番染色体にあるEP300遺伝子の変化で起こる2型(RSTS2:OMIM #613684)は全体の約5〜11%(おおよそ8%前後)と、比較的少数です。
RSTS2は、1型に比べて全体に症状が軽く、典型からはずれた現れ方をすることが知られています。そのため、診断が遅れたり、見逃されたりしやすいのがこのタイプの特徴であり、課題でもあります。
💡 用語解説:常染色体顕性遺伝(優性遺伝)
「常染色体」とは、性別を決めるX・Y以外の染色体のこと。「顕性(けんせい=優性)」とは、ペアになっている2本の染色体のうちどちらか1本に変化があるだけで特徴が現れることを意味します。RSTS2では、変化したEP300遺伝子を1つ持つだけで発症します。ただし実際には、両親にはない変化が赤ちゃんで初めて生じる「新生突然変異(de novo)」によるものが大半です。遺伝形式についてさらに詳しくは遺伝形式の解説ページをご覧ください。
2. 原因遺伝子EP300と分子病態メカニズム
RSTSは、遺伝子の「読まれ方」を調整する重要なタンパク質がうまく働かなくなることで起こる、クロマチノパチー(遺伝性のクロマチン制御異常症)の代表的な病気です。RSTS1の原因であるCBP(CREBBPがつくるタンパク質)と、RSTS2の原因であるp300(EP300がつくるタンパク質)は、よく似た構造を持つ「兄弟」のようなタンパク質です。
💡 用語解説:ヒストンアセチル化とクロマチノパチー
DNAは「ヒストン」というタンパク質に巻きついてクロマチンという束をつくっています。p300は、このヒストンに「アセチル基」という目印を付ける酵素(ヒストンアセチルトランスフェラーゼ=HAT)です。目印が付くとクロマチンがゆるんで、必要な遺伝子が読まれる(スイッチが入る)ようになります。この仕組みは脳の発達・記憶・細胞の成長に欠かせません。この調整役の遺伝子の異常で起こる病気をまとめて「クロマチノパチー」と呼びます。詳しくはクロマチンの解説ページをご参照ください。
💡 用語解説:ハプロ不全(はぷろふぜん)
遺伝子は通常、父・母から1本ずつ、合計2コピー受け継ぎます。ハプロ不全とは、片方のコピーが働かなくなり、残り1コピーだけではタンパク質の量が足りなくなって不調が出る状態です。RSTS2では、EP300の片方が壊れることで、p300の働きがおよそ半分に落ち、多くの遺伝子のアセチル化(スイッチ操作)がうまくいかなくなります。詳しくはハプロ不全の解説ページへ。
EP300変異の特徴:どんな種類の変化が多いのか
CREBBPとEP300はよく似た構造ですが、見つかる変化の種類には違いがあります。EP300ではこれまでに100種類以上の病的バリアントが報告されており、その内訳は次のグラフのようになっています。タンパク質を途中で止めてしまう「遺伝子切断型」が最も多いのが特徴です。
図1:RSTS2(EP300)で報告されている変化の種類の割合
遺伝子切断型(ナンセンス・フレームシフト)
69.5%
ミスセンス変異
13.6%
大規模な欠失など
11.8%
スプライシング異常
5.1%
注目すべきは、ミスセンス変異(アミノ酸が1つ置き換わるタイプ)はほぼ例外なく、p300の酵素の中心であるHATドメインの中に限って起こるという点です。一方、HATドメインの外で起こる遺伝子切断型の変化は、「壊れた設計図」を細胞が処分する仕組み(NMD)を通じてハプロ不全を引き起こします。
💡 用語解説:ミスセンス変異とNMD
ミスセンス変異は、DNAの1文字が変わってアミノ酸が別の種類に置き換わる変化です。タンパク質の形が変わり、働きに影響します(ミスセンス変異の解説)。
NMD(ナンセンス変異依存mRNA分解)は、途中で切れてしまう設計図(mRNA)を細胞が見つけて処分する品質管理の仕組みです。これによりタンパク質が作られず、ハプロ不全になります(ナンセンス変異の解説)。
面白いことに、設計図の末尾近くなどNMDをすり抜ける位置に変化が起こると、機能の一部が残った異常タンパク質が作られることがあります。1型ではこれがMenke-Hennekam症候群という別の現れ方につながることが知られ、2型でもHATドメインを温存した特定の変化が、ごく軽い知的障害や目立たない骨の特徴にとどまる「非古典的なRSTS2」を生むことが分かってきています。
3. 主な症状と1型との違い
RSTS2の体の特徴は1型と多くが共通しますが、身体の発育・骨格・発達のそれぞれで、統計的にはっきりした違いが報告されています。なかでも特徴的なのが、妊娠中のお母さんの妊娠高血圧腎症の多さです。
💡 用語解説:妊娠高血圧腎症(子癇前症)
妊娠中に高血圧とタンパク尿などが現れ、お母さんと赤ちゃんの両方に影響しうる状態です。EP300は、酸素が足りないときに働く因子(HIF1A)と協力して胎盤の血管を作る役割を担います。赤ちゃん側のp300が半分しか働かないと胎盤の血管づくりがうまくいかず、その胎盤のストレスがお母さんの血圧や腎臓に影響すると考えられています。EP300変異の赤ちゃんを妊娠した場合の発症率は約23%で、一般妊婦(5〜8%)や1型(約3.4%)より明らかに高いことが報告されています。
胎盤の働きが落ちる二次的な影響として、RSTS2の赤ちゃんは子宮内発育遅延(IUGR)を約43%、出生後の小頭症を約82%に合併し、いずれも1型より高いことが分かっています。次のグラフで1型と2型の主な違いを比べてみましょう。
図2:1型と2型の主な違い(出現頻度の比較)
グレー=1型(CREBBP)/カラー=2型(EP300)
妊娠高血圧腎症(お母さんの合併症)
子宮内発育遅延(IUGR)
出生後の小頭症
多毛症
弓状の眉
体の特徴を器官ごとに整理すると、次のようになります。RSTS2では親指・第1足趾の側方への傾き(偏位)がほとんど見られず、「太くて短い」幅広化にとどまる点が、1型との大きな違いです。
🖐️ 手足・骨格
- 幅広い親指・第1足趾(偏位はまれ)
- 第2〜3指の合指症を伴うことも
- 末節骨の短縮・幅広化
👤 顔つき
- 鼻中隔下垂(鼻柱が低く垂れる)が目立つ
- 弓状の眉(約66%)
- 成長とともに鼻の突出が明瞭化
🧠 発達・行動
- 知的障害は軽度〜正常範囲のことも
- 自閉スペクトラム症の合併:約25%
- 不安や社会的恐怖が強い傾向
🤰 周産期
- 母体の妊娠高血圧腎症:約23%
- 子宮内発育遅延:約43%
- 出生後の小頭症:約82%
RSTS2のお子さんは、幼児期には顔つきの特徴が目立ちにくく、成長とともに少しずつ明瞭になる傾向があります。手足の親指も「太くて短い」だけで左右への傾きを伴わないため、見ただけの初期診断がより難しいのが実情です。
4. 鑑別診断:似ているけれど違う病気
RSTS2は症状が軽く非典型的なため、いくつかの病気と見分ける必要があります。代表的なものを整理します。
1型(CREBBP)との違い
2型の特徴:
親指の偏位が少ない、知的障害が軽い、小頭症や妊娠高血圧腎症が多い。
同じRSTSでも、原因遺伝子の違いが現れ方の違いに直結します。
Menke-Hennekam症候群との違い
同じCREBBP/EP300でも、NMDをすり抜ける特定領域の変化で生じる別の現れ方です。
ポイント:変化の「位置」が現れ方を決めます。
Floating-Harbor症候群との違い
SRCAP遺伝子が原因で、RSTSと一部似た特徴が重なることがあります。
ポイント:遺伝子解析で明確に区別できます。
5. 診断と遺伝子検査の進め方
RSTS2は表現型が軽いため、見た目だけでなく遺伝子による確認がとても重要です。診断は「出生後」と「出生前」で考え方が異なります。両者を分けて説明します。
生まれた後の診断(出生後)
RSTSが疑われるお子さんでは、まず血液を用いた遺伝子解析を行います。CREBBP・EP300・SRCAPをまとめて調べるパネル検査や、全エキソームシーケンシング(WES)が用いられます。点変異が陰性なら、欠失・重複の解析(MLPA法など)へと段階的に進めます。
💡 用語解説:全エキソームシーケンシング(WES)
遺伝子のうち、タンパク質の設計情報を持つ部分(エクソン)をまとめて読み取る解析方法です。本人とご両親の3名を同時に調べる「トリオ解析」と組み合わせると、両親にない新生突然変異を効率よく見つけられます。検査の基礎はDNAシークエンシングの解説もご覧ください。
「意義不明のバリアント(VUS)」とエピシグネチャー
解析が普及するにつれ、病気と関係あるか判断がつかない変化(VUS)がEP300内に見つかることが増えました。そこで近年、血液DNAの「メチル化の指紋(エピシグネチャー)」を調べる検査が役立っています。
💡 用語解説:エピシグネチャー(DNAメチル化の指紋)
DNAそのものの文字は変えずに、遺伝子の読まれ方を調整する仕組みを「エピジェネティクス」と呼びます。RSTS2の患者さんは、正常な人や似た病気(Menke-Hennekam症候群など)とははっきり異なる、独自のメチル化パターンを持つことが分かっています。この指紋を確認することで、VUSが本当に病的かどうかを判断する手がかりになります。詳しくはエピゲノムの解説へ。
生まれる前の診断(出生前)
出生前の確定診断は、絨毛検査・羊水検査で得た細胞を用いた遺伝子解析で行います。ご家族の中で原因となる変化がすでに分かっている場合は、その変化を狙って確実に調べることができます。
なお、染色体の数を調べる一般的なNIPT(新型出生前診断)では、EP300の小さな点変異を直接検出することはできません。当院の単一遺伝子NIPTであるインペリアルプランはEP300を解析対象の遺伝子に含みますが、どの検査を選ぶか、そもそも調べるかどうかは、ご家族の価値観によって答えが変わります。
RSTS2は症状の幅が広く、知能が保たれる方もいます。「出生前に見つけること」が常にご家族の利益になるとは限りません。医師は情報をお伝えする立場であり、決めるのはご家族です。当院は中立・非指示的な立場で、判断に必要な情報をていねいにお伝えします。
6. 治療と長期管理
RSTS2は多くの臓器に影響しうるため、小児科・耳鼻科・眼科・整形外科・歯科・循環器・臨床遺伝科などが連携した、生涯にわたる組織的なサーベイランス(経過観察)が大切です。
皮膚・腫瘍と、DNAを守る仕組みの関わり
RSTS患者さんの約24%で、思春期以降に胸や肩を中心にケロイド(傷あとが盛り上がる難治性のしこり)ができやすいことが知られています。手術や小さな擦り傷をきっかけに生じることがあり、治りにくいため、不要な侵襲的処置を避ける・衣服での摩擦を防ぐ・爪を短く保ってかき壊しを防ぐといった「予防」が第一です。また、良性腫瘍である毛母腫(約17.6%)や髄膜腫(約8.3%)の頻度が高く、悪性腫瘍の生涯リスクは約5%と見積もられています。
💡 用語解説:ゲノム不安定性
CBP/p300は、傷ついたDNAを修復する仕組みにも関わっています。その働きが落ちると、細胞のDNAに傷がたまりやすくなり、これを「ゲノム不安定性」と呼びます。RSTSでケロイドや腫瘍が増えやすい背景には、この仕組みの関与が考えられています。詳しくはゲノムの安定性の解説をご覧ください。
呼吸・睡眠・麻酔の注意
小顎・狭く高い口蓋・筋緊張の低さ・肥満などが重なり、RSTS2では閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)のリスクが高いとされます。必要に応じて睡眠の評価(ポリソムノグラフィー)やCPAPなどを検討します。さらに、気道の構造の問題から全身麻酔の導入・抜管後のリスクが高いため、麻酔は小児の複雑な気道に対応できる専門の体制で行う必要があります。
器官ごとの定期チェック
成長・栄養
RSTS専用の成長曲線で身長・体重・頭囲を確認。胃食道逆流や便秘、哺乳・摂食の困難に注意し、成長不全時はホルモンの評価も検討します。
心臓・腎臓
診断時に心エコー・心電図で先天性心疾患を確認。腎超音波で腎尿路の形を評価し、男児では停留精巣の有無を確認します。
感覚器・歯・発達
眼科・耳鼻科は年1回を目安に評価。歯は乳歯萌出から定期受診。理学療法・作業療法・言語療法などの発達支援も大切です。
7. 遺伝カウンセリングの意義
RSTS2の多くは新生突然変異(de novo)ですが、知能が保たれる軽症例が比較的多いため、ご本人が次の世代をもうけるときの遺伝(垂直伝播)が現実的な話題になります。
💡 用語解説:新生突然変異(de novo)
両親にはなく、精子・卵子がつくられる段階や受精直後に赤ちゃんで初めて生じた変化のことです。RSTS2の大半はこのタイプで、その場合は両親に同じ変化はありません。詳しくは新生突然変異の解説へ。
遺伝カウンセリングでは、主に次のような内容をお話しします。
- ➤遺伝形式と再発リスク:多くは新生突然変異で両親への遺伝は認めません。ただし常染色体顕性遺伝のため、ご本人が子どもを持つ場合の遺伝確率は理論上50%です。両親が無症状でも、生殖細胞のモザイクの可能性から、きょうだいへの再発リスクは経験的に約0.5〜1%と見積もられます。
- ➤軽症の親への配慮:親指がやや太い、軽い学習の遅れがあるなど、ごく軽い特徴の親から子へ伝わった家系も報告されています。発端者のご両親に潜在的な保因の可能性を考えた検査をお勧めすることがあります。
- ➤出生前の選択肢:次のお子さんを望む場合、絨毛検査・羊水検査による出生前遺伝子診断が選択肢になります。家系内の変化が分かっていれば確実な診断が可能です。
- ➤心理的サポート:希少疾患は情報が限られます。長期的な経過を見守る医療機関との連携が、ご家族の安心につながります。
8. よくある誤解
誤解①「親指が傾いていないからRSTSではない」
2型では親指の側方への傾きがほとんど見られず、太く短いだけのことが多いのです。傾きがないことは、むしろ2型を疑う手がかりになります。
誤解②「知能が正常だから病気ではない」
知能が保たれることは2型の特徴であり、病気がないことを意味しません。妊娠高血圧腎症・腫瘍・睡眠時無呼吸など、注意すべき点はあります。
誤解③「NIPTを受ければ必ず分かる」
染色体の数を調べる一般的なNIPTでは、EP300の小さな点変異は検出できません。確定には絨毛・羊水検査などによる遺伝子解析が必要です。
誤解④「親が健康だから遺伝ではない」
多くは新生突然変異であり、両親に同じ変化がないことがほとんどです。「両親が健康だから」という思い込みが診断を遅らせることがあります。
9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ
よくある質問(FAQ)
🏥 希少疾患の診断・遺伝カウンセリングについて
ルビンシュタイン・テイビ症候群2型をはじめとする希少遺伝性疾患のご相談は、
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にお寄せください。
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参考文献
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