DNAシークエンス(シークエンシング)とは

ゲノムシークエンシングとは?

シークエンシングsequencingは、連続したもの、その順序、という意味を持つ英語です。
わたしたちが目で文字をスキャンして文章を読むのと同じように、「遺伝の書」ともいえるDNAの「文字」である塩基配列(シークエンス)を「読み取る」のがシークエンシングです。
つまり、ゲノムシークエンシング(配列決定)とは、ゲノム内のDNAの塩基(塩基)の並び順、つまり生物のDNAを構成するアデニンA、シトシンC、グアニンG、チミンTの並び順を明らかにする(決定する)ことをいいます。ヒトのゲノムは、これらの遺伝文字30億対以上(2本鎖なので60億個以上)で構成されています。
ゲノムシークエンス技術の進歩
次世代シークエンサーが登場した2000年代以降、シークエンス技術は格段に進歩を遂げ、今日では、ゲノム全体の塩基配列を調べるなどの大規模なプロジェクトに必要な大規模なDNA配列決定は、ほとんどがこうしたハイテク機器によって行われています。

ゲノム配列決定のその先とは?

ゲノムの塩基配列を決定しただけでは、あまり意味がありません。ゲノム配列決定は「解読」とよく比較されますが、配列はやはりコードの中にあります。ある意味では、ゲノム配列は、しらない言語の非常に長い文字列のようなものです。

文章を読むとき、その文章の意味するところは文字の並びだけではありません。その文字が作る言葉や、その言語の文法にも意味があるのです。同様に、ヒトのゲノムも大切なものはその配列だけではありません。

ゲノムを、大文字も句読点も使わず、単語や文章、段落の間に区切りもなく、文章の間や文章の中にも意味のない文字列が散らばっている本として想像してみてください。一体何を書いてあるのかさえさっぱり分からないものとなるでしょう。

げひんのむとこをおんなおもこみちじこもじくかくなくせいりたんごさんぱんごもなんとぶんなくしょおどうもるだんおとらくこのくへむぎりてつもないんくぎすょうりんかんやぶんへびしょうでたのなかうちにいでのみもなづちいもじさよれつならがちなならばっかぶていかぐるとやそうひめぞうすすいるといはんったいじゃなにでをかごはいてんあるをのかさがえさくっぱりわとからおいないしものいとなでるでしょう

こんな感じ。めちゃくちゃですよね。全然わかりません。

このように、慣れ親しんだ言葉でも、その一節の意味を読み取るのは難しいものです。そして、ゲノムはあまり馴染みのない言語(AGCT)で「書かれている」ので、それを読むことの難しさが倍増どころかもう嫌になります。

だから、ゲノムの塩基配列を調べても、すぐに種全体の遺伝的な秘密が明らかになるわけではありません。ヒトのゲノム配列の大まかな配列が決定ができても、まだ多くの謎がが残っています。ゲノムを構成する様々な遺伝子がどのような働きをしているのか、異なる遺伝子がどのように関連しているのか、ゲノムの様々な部分がどのように調整されているのか、といったゲノムの仕組みを理解するために、これらの文字列を翻訳し、その産物であるタンパクの機能を解析して突き止めなければなりません。つまり、ゲノム配列の文字が何を意味しているのかは、これらが明らかになって初めて理解できるということなのです。
ゲノムを「予言の書」みたいに言っている人たちのことを、わたしたち遺伝子の専門家は、「入口に立って何もかも分かったように勘違いしているバカ者だと宣言しているってことね」って思ってくすっと笑ってしまいます。

なぜゲノム配列決定(シークエンシング)が重要なのか?

とはいえ、ゲノムの配列決定は、ゲノムを理解するための重要なステップです。
少なくとも、ゲノム配列を決定することは遺伝子をより簡単かつ迅速に見つけるのに役立ちます。ゲノム配列には遺伝子がどこにあるかについての手がかりが含まれています。
また、ゲノム配列全体を調べることができれば、ゲノム全体がどのように機能しているのか、つまり、遺伝子が生物全体の成長、発達、維持を指示するために一緒に働いているのかについて理解するための研究が進むと期待されています。
さらに、ゲノム全体の配列を知ることは、ゲノムの遺伝子以外の部分を研究するのに役立ちます。たとえば、遺伝子のオン/オフを制御する制御領域や、「ナンセンス」または「ジャンク」と呼ばれる長いDNAががあり、こうした部分がいったいどういう役割をしているのかという研究も進んでいくでしょう。

ゲノムの塩基配列のシーケンス方法とは?

ゲノム全体を一度に配列決定することはできませんので、ゲノムは「断片的に」配列決定されます。現在利用可能なDNA配列決定法は、まるごとのゲノムを配列決定できず、それよりずいぶん短いDNAしか扱えないからです。

そのため、ゲノムを細かく分割し、断片の配列を決定した後、適切な順序で組み立て直して、ゲノム全体の配列を決定する、という手順となります。配列決定に関わる作業の多くは、この巨大な生物学的ジグソーパズルを組み立てることにあります。

ゲノムを断片化して再構築する方法

ゲノムを切り刻んで元に戻す作業には、2つのアプローチがあります。

クローン・バイ・クローン

「クローン・バイ・クローン」と呼ばれる方法ではゲノムを15万塩基対(bp)程度の比較的大きな塊(クローン)に分割します。ゲノムマッピング技術を用いて、各クローンがゲノムのどこに属しているかを特定します。次に、各クローンを、配列決定に適した大きさの、重なり合った小さな断片(約500bp)に切断します。最後に、その断片を配列決定し、重なり合った部分を用いてクローン全体の配列を再構築します。
クローンバイクローン法は信頼性は高いのですが、時間がかかり、マッピングのステップには特に時間を要します。

全ゲノムショットガン法

「全ゲノムショットガン法」と呼ばれる方法では、ゲノムを細かく分割して配列を決定し、全ゲノムの配列に再構築する方法です。
全ゲノムショットガン法は非常に高速にできる可能性がありますが、非常に多くの小さな配列の断片を一度にまとめるに困難さがあります。技術革新で改善されてきました。

この記事の著者:仲田洋美医師
医籍登録番号 第371210号
日本内科学会 総合内科専門医 第7900号
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医 第1000001号
臨床遺伝専門医制度委員会認定 臨床遺伝専門医 第755号