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メンケ・ヘネカム症候群2型(MKHK2)とは|原因・症状・遺伝をわかりやすく解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。2025年国際誌『Global Woman Leader』表紙抜擢など、世界基準の出生前診断と遺伝カウンセリングを提供。

メンケ・ヘネカム症候群2型(MKHK2)は、EP300遺伝子のエクソン30・31に集中する特定の変異によって起こる、100万人に1人未満ともいわれる極めてまれな先天性の病気です。知的発達のゆっくりさ、特徴的な顔つき、低身長などがみられますが、幅広い親指がみられないという点が、同じEP300遺伝子が関わるルビンスタイン・テイビ症候群2型(RSTS2)との大切な見分けポイントになります。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 EP300遺伝子・先天性疾患・臨床遺伝
臨床遺伝専門医監修

Q. メンケ・ヘネカム症候群2型とは、どんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです

A. EP300遺伝子の特定の場所(エクソン30・31)に生じた変化によって起こる、とてもまれな先天性の病気です。知的発達のゆっくりさ、特徴的な顔つき、低身長、摂食のむずかしさ、難聴などがみられます。RSTS2の特徴である幅広い親指がみられないことが、診断の大切な手がかりになります。

  • 疾患の定義 → OMIM 618333、Orphanet ORPHA:592574、有病率は100万人に1人未満
  • 原因のしくみ → RSTS2の「量が半分」とは異なる、エクソン30・31特異的な変化
  • 主な症状 → 知的発達の遅れ(約98%)・摂食困難(約84%)・斜視(約60%)・難聴(約38%)
  • 鑑別診断 → ルビンスタイン・テイビ症候群2型(RSTS2)との違いを詳しく解説
  • 診断・管理 → 出生前・出生後の検査の考え方と、多職種チームによる支援

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1. メンケ・ヘネカム症候群2型とは:定義と歴史的背景

メンケ・ヘネカム症候群2型(Menke-Hennekam Syndrome 2、略してMKHK2、OMIM 618333)は、知的発達のゆっくりさ・発達の遅れ・自閉的な行動・著しい低身長・小頭症、そしてとても特徴的な顔つきや頭の形を主な特徴とする、生まれつきの病気です。さまざまな臓器に症状があらわれる「先天性多発奇形症候群」のひとつで、常染色体顕性遺伝(じょうせんしょくたいけんせいいでん/旧称:常染色体優性遺伝)という形をとります。原因は、22番染色体(22q13.2)にあるEP300という遺伝子の変化です。

💡 用語解説:常染色体顕性遺伝(優性遺伝)とは

「常染色体」とは、性別を決めるX・Y染色体以外の染色体のことです。「顕性(けんせい/旧称:優性)」とは、ペアになっている2本の染色体のうちどちらか1本に変化があるだけで症状があらわれることを意味します。つまり、変化した遺伝子を1つ持つだけで発症します。

親から子へ伝わる確率は理論上50%ですが、MKHK2のほとんどは、両親には変化がなく、お子さんで初めて生じた新生突然変異(de novo)によって発症するため、実際には親から繰り返し受け継がれることは少ないと考えられています。遺伝形式の詳しい解説は遺伝形式のページもご覧ください。

国際的な希少疾患データベースであるOrphanetには「ORPHA:592574」として登録されています。純粋なメンケ・ヘネカム症候群の有病率は100万人に1人未満と推定されており、EP300に関連する症候群全体(RSTS2を含む)でみても、出生10万〜12万5000人あたり1人ほどとされる、非常にまれな病気です。報告されている症例のほとんどが、健康なご両親から突発的に生じた新生突然変異によるものです。

歴史的に重要なのは、EP300遺伝子がもともとルビンスタイン・テイビ症候群2型(RSTS2)の原因遺伝子として知られていた点です。ところが、EP300の特定の場所(エクソン30・31)に限られた変化を持つ患者さんは、RSTS2の典型的な特徴(幅広い親指・足の親指など)を示さず、まったく別の顔つきや全身症状を呈することが明らかになりました。そこで、独立した病気としてMKHK2が確立されたのです。同じように、EP300とよく似た働きをするCREBBPという遺伝子の同じ領域の変化は、メンケ・ヘネカム症候群1型(MKHK1)として知られています。

2. 原因遺伝子EP300と病態のしくみ

MKHK2を理解するうえで核心となるのが、EP300遺伝子の特殊な変化のパターンと、それがタンパク質に与える影響です。このしくみは、同じ遺伝子が原因のRSTS2とは根本的に異なります。

💡 用語解説:EP300(p300)とは

EP300がつくる「p300」というタンパク質は、ヒストンアセチルトランスフェラーゼという酵素です。DNAは「ヒストン」というタンパク質に巻きついて収納されていますが、p300はそのヒストンに「アセチル基」という目印を付けて、必要な遺伝子を読みやすい状態(スイッチON)にします。胚(赤ちゃんのもと)の発生・細胞の増殖・分化など、体づくりの根幹にかかわる、とても重要な調整役です。

従来のRSTS2は、EP300遺伝子の全体にわたるさまざまな変化によってp300タンパク質の量が半分に減る「ハプロ不全」が主な原因です。これに対してMKHK2は、エクソン30・31に生じるミスセンス変異やインフレーム欠失(少しだけ削れる変化)によって起こります。この「場所の限定性」は、単純に機能が失われるのではなく、変化したタンパク質が正常なタンパク質の働きを邪魔したり、本来とは違う異常な働きを獲得したりする病態を示唆しています。

💡 用語解説:ミスセンス変異・インフレーム欠失・新生突然変異

ミスセンス変異とは、DNAの文字が1つ変わることで、タンパク質を構成するアミノ酸が別の種類に置き換わる変化です。インフレーム欠失とは、タンパク質の読み枠を保ったまま、ごく一部のアミノ酸が抜け落ちる変化を指します。どちらも、タンパク質の形を少し変えてしまいます。

新生突然変異(de novo)とは、ご両親には存在せず、精子・卵子がつくられる段階や受精直後に新しく生じた変化のこと。MKHK2の多くはこのタイプです。ミスセンス変異の解説新生突然変異の解説

💡 用語解説:ハプロ不全とドミナントネガティブ(優性阻害)

ハプロ不全とは、ペアの遺伝子のうち片方が働かなくなり、タンパク質の「量が半分」になって不足する状態です。RSTS2の主なしくみです。

ドミナントネガティブ(優性阻害)/機能獲得とは、変化した異常なタンパク質が、残っている正常なタンパク質の働きを「積極的に邪魔する」、あるいは本来ない異常な働きを持ってしまう状態です。MKHK2ではこのしくみが想定されており、「量が足りない」RSTS2とは病態の質そのものが違うと考えられています。この違いが、同じEP300の変化でありながら両者の症状が大きく異なる理由です。

遺伝子の壁を越える「ドメイン特異的」という新しい考え方

近年の研究では、メンケ・ヘネカム症候群を「原因遺伝子別(CREBBP=1型/EP300=2型)」ではなく、変化が影響する“タンパク質の機能パーツ(ドメイン)別”に分類しなおす考え方が広がっています。p300とCBP(CREBBPの産物)は構造がよく似ており、特定のドメインが壊れると、遺伝子の違いを越えて共通の症状とエピゲノムの変化が生じることがわかってきました。

💡 用語解説:エピジェネティクスとDNAメチル化エピシグネチャー

エピジェネティクスとは、DNAの文字配列そのものは変えずに、遺伝子の「読まれ方(オン・オフ)」を調整するしくみの総称です。p300が行うヒストンへの目印付けも、その一つです。

DNAメチル化エピシグネチャーとは、血液のDNAについた「メチル化」という目印のパターンを網羅的に調べ、病気ごとに固有の“指紋”を見つける手法です。MKHKの各ドメイン型は、それぞれ特徴的なメチル化パターンを示すことが報告されており、遺伝子型と症状が一致しにくい難しい例で、客観的な診断の決め手になります。エピジェネティクスの解説エピゲノムの解説

ドメイン型 変化が起こる場所 働きと影響
MKHK-ZZ ZZ型亜鉛フィンガードメイン アセチル化されたヒストンに結合し、クロマチン上の標的への位置決めを担います。固有のメチル化異常を示します。
MKHK-TAZ2 TAZ2ドメイン(C末端側) TP53・STAT1・MYCなどの転写因子との結合を司ります。変化によりシグナル伝達因子との結合が選択的に妨げられます。
MKHK-ID4 第4の天然変性領域の最初のαヘリックス 転写を活性化する複合体の“足場”として働きます。非常に安定した固有のエピシグネチャーを形成し、確実な診断指標になります。

この分類は、CREBBP(1型)とEP300(2型)の両方にまたがる枠組みです。エピゲノム解析は、遺伝子型と症状が一致しにくい例で“橋渡し”をする強力な診断ツールとして確立されつつあります。

3. 主な症状と全身の合併症

MKHK2の症状は患者さんごとの幅がとても大きく、複数の臓器にわたります。ここでは、報告されている主な症状とおおよその頻度を整理します。数字はこれまでの少人数のまとめに基づくものであり、すべてのお子さんに当てはまるわけではありません。

🧠 神経発達・行動

  • 知的障害または発達遅滞:約98%
  • 言語発達の遅れ(初語の平均が約2.6歳)
  • 自閉的な行動・多動:約71%
  • てんかん(けいれん):約16%

👁️ 頭蓋顔面・感覚器

  • 斜視:約60%
  • その他の視覚障害(眼瞼下垂・屈折異常など):約28%
  • 難聴(感音性・伝音性):約38%
  • 特徴的顔つき(短い眼瞼裂・平坦な鼻梁・短い鼻・長い人中・薄い上唇など)

🍽️ 消化器・栄養

  • 哺乳困難・摂食障害:約84%
  • 胃食道逆流症(GERD):約46%
  • 慢性の便秘:約54%
  • 必要に応じ胃瘻(栄養チューブ)を検討

🦴 骨格・循環器・その他

  • 先天性心疾患(PDA・ASD・VSDなど):約26%
  • 脊椎側弯・股関節形成不全・関節の過可動性
  • 第5指の側弯・足趾の合指・内反足
  • 男児の停留精巣・腎構造異常(馬蹄腎など)

神経面では、体幹のやわらかさ(軸性の筋緊張低下)に手足のつっぱり(筋緊張亢進)が合併することがあり、運動の獲得をさらにむずかしくします。脳のMRIでは、脳梁の低形成や脳室の拡大、白質の萎縮などがみられることがあります。一方で、対人関係では非常に人懐っこく、「過度にフレンドリー」な傾向が特徴的とされます。

💡 用語解説:軸性筋緊張低下(じくせいきんきんちょうていか)

体の中心(体幹)の筋肉の張りが弱く、首すわりやおすわりが遅れたり、姿勢を保ちにくくなったりする状態です。MKHK2では、体幹がやわらかい一方で手足はつっぱる、という組み合わせがみられることがあり、運動発達の支援が重要になります。

成長面では、一部の患者さんで脳MRI上の下垂体前葉の低形成と、それにともなうIGF-1(インスリン様成長因子1)の著しい低下が確認されており、これが低身長の主要な原因の一つと考えられています。また、中耳炎・副鼻腔炎などの上気道感染を繰り返しやすく、これには顔面骨格の未発達や、胃食道逆流にともなう微量誤嚥が関係していると考えられています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「親指の形」が、診断の入口になる】

同じEP300遺伝子が原因でも、ルビンスタイン・テイビ症候群2型では幅広い親指が必ずといってよいほどみられます。ところが、MKHK2ではその特徴が見られません。多発奇形のお子さんを前にしたとき、私はまず手足の形をていねいに確認します。小さなサインの有無が、進むべき検査の方向を大きく変えるからです。

頻度の数字は、これまで報告された少人数のまとめにすぎません。「うちの子は何%に当てはまるのか」と心配されるご家族もいますが、数字は地図であって運命ではありません。一人ひとりの症状を丁寧に見て、必要な支援を一つずつ組み立てていくことが、いちばん大切だと考えています。

4. 鑑別診断:ルビンスタイン・テイビ症候群2型との違い

MKHK2とRSTS2は、いずれもEP300遺伝子の変化で起こりますが、変化の場所としくみが違うため、臨床的にもエピゲノム的にも完全に区別できる別の病気です。正確に見分けることは、見通しの予測・合併症の管理・遺伝カウンセリングのいずれにおいても、とても重要です。

比較項目 ルビンスタイン・テイビ症候群2型(RSTS2) メンケ・ヘネカム症候群2型(MKHK2)
変化の種類と場所 EP300遺伝子の全域にわたるハプロ不全型の変化 エクソン30・31に限られたミスセンス変異・インフレーム欠失
親指・足の親指 幅広く外側に偏った親指・母趾が必発 親指・母趾の異常はみられない
鼻の形 鳥のくちばし状の鼻 平坦な鼻梁・短い鼻
眼裂の傾き 外下がり 外上がりの傾向
DNAメチル化 RSTS特有の広範なパターン 変化箇所に応じたドメイン特異的なパターン

RSTS2が遺伝子全域のナンセンス変異やフレームシフト変異によるハプロ不全を主体とするのに対し、MKHK2はごく狭い領域の変化が原因です。2024年に発表された「ルビンスタイン・テイビ症候群の診断・管理に関する初の国際コンセンサス」では、客観的なスコアリングが導入されました。遺伝子検査でMKHK(1型・2型)と確定した45名を評価したところ、RSTSの確実な診断基準を満たした人は1人もいなかったと報告されており、両者が独立した病気であることが裏づけられています。

5. 診断と遺伝子検査の進め方

MKHK2は比較的最近に確立された病気で、世界共通の診断基準はまだありません。特徴的な顔つきや全身症状の組み合わせから疑い、遺伝子検査でEP300遺伝子エクソン30・31の変化を確認することで診断します。検査は「いつ調べるか」によって方法が大きく異なるため、出生前と出生後に分けて整理します。

出生後の診断(生まれた後に調べる場合)

出生後は、血液を用いた遺伝子解析が中心になります。EP300のエクソン30・31の小さなミスセンス変異やインフレーム欠失は、染色体を顕微鏡で見るGバンド法では検出できません。そのため、両親を含めた3名で同時に調べるトリオ全エクソーム解析が、新生突然変異を効率よく見つけられる有力な方法です。知的発達のゆっくりさや発達の遅れの原因を幅広く調べる場合は、発達障害・学習障害・知的障害の遺伝子パネル検査や、自閉症の遺伝子パネル検査といった選択肢もあります。検査の選び方は、症状や目的に応じて臨床遺伝専門医とご相談ください。

診断の落とし穴は変化の解釈にあります。EP300に変化が見つかると、自動的にRSTS2と判断されてしまうことがあります。見つかった変化がエクソン30・31の特定領域にあたるかどうかを厳密に評価する必要があり、補助的にDNAメチル化エピシグネチャー解析が役立つことがあります。

出生前の診断(妊娠中に調べる場合)

妊娠中の確定診断は、絨毛検査または羊水検査で得た胎児由来の細胞を用いて行います。家族内ですでに変化が特定されている場合(たとえば患者さんご本人が次のお子さんを希望される場合など)には、その既知の変化を確実に調べることができます。料金や流れについては羊水検査・絨毛検査のページをご覧ください。

💡 NIPT(出生前のスクリーニング)について

一般的なNIPTは染色体の数の変化を調べるもので、EP300の小さな変化は対象外です。ただし当院のインペリアルプランでは、単一遺伝子をしらべる項目にEP300が含まれています。

NIPTはあくまでスクリーニング(ふるい分け)であり、確定診断は絨毛検査・羊水検査で行います。NIPTの全体像はこちらをご覧ください。

大切なのは、MKHK2のように症状の幅が広い病気では、出生前に見つけることが常にご家族の利益になるとは限らないということです。検査を受けるかどうか、結果をどう受け止めるかは、十分な情報提供のもとでご家族が主体的に決めることがらです。当院は、特定の検査をおすすめしたり、安心を保証したり、不安をあおったりすることはありません。中立的な立場で情報をお伝えし、決定はご家族に委ねます。

6. 治療と長期的な管理

現時点でMKHK2を根本的に治す治療法はなく、症状に応じた対症療法と、成長段階に合わせた支援が管理の基本です。小児科・耳鼻咽喉科・眼科・内分泌科・消化器科・整形外科・臨床遺伝科などが連携する多職種チームによる包括的なケアが重要になります。

発達・療育

診断後できるだけ早く、理学療法(PT)・作業療法(OT)・言語聴覚療法(ST)を開始します。言葉の遅れには代替コミュニケーション(AAC)の活用を、学齢期には個別教育計画(IEP)の作成を検討します。

消化器・栄養

誤嚥を避けながら十分な栄養を保つため、小児消化器科・言語聴覚士・管理栄養士による食事指導を行います。逆流症には薬物療法や必要に応じた外科的対応、便秘には継続的なコントロールを行います。

内分泌・感覚器

下垂体低形成やIGF-1低下が確認された場合は、小児内分泌専門医のもとで成長ホルモン治療の適応を慎重に検討します。斜視や難聴には、眼科・耳鼻咽喉科による定期評価と適切な矯正(眼鏡・補聴器・人工内耳など)を早期に行います。

骨格の変形(脊椎側弯・股関節形成不全など)には、整形外科による装具療法や手術が検討されます。なお、p300は細胞周期やDNA修復においてがん抑制因子と協調して働くため、理論的には腫瘍のリスクに注意するという考え方があります。ただしMKHK2はまだ症例数が少なく、リスクの大きさは十分には確立していません。原因不明の血球減少・微熱・骨痛・リンパ節腫脹などがあれば、速やかに精密検査ができる体制を整えておくことが望まれます。

7. 遺伝カウンセリングの意義

確定診断のあとは、ご家族への丁寧な遺伝カウンセリングが欠かせません。臨床遺伝専門医が、次のような内容をご家族の状況に合わせてお伝えします。

  • 遺伝形式と再発リスク:多くは新生突然変異のため、両親から繰り返し受け継がれるリスクはごく低く、統計上およそ1%(生殖細胞モザイクを考慮)と見積もられます。一方、患者さんご本人が子どもを持つ場合、変化が伝わる確率は理論上50%です。
  • 見通しの共有:症状の幅が広いため、お子さんごとの状態を踏まえて、現実的な支援計画を一緒に考えます。
  • 出生前診断の選択肢:次のお子さんを望む場合、絨毛検査・羊水検査が選択肢になります。受けるかどうかはご家族の価値観を尊重します。
  • 心理的サポートの継続:希少疾患のため情報が限られます。医療機関との連携を続け、長期的に支えていく姿勢が大切です。

8. よくある誤解

誤解①「EP300変異=RSTS2」

EP300に変化が見つかっても、自動的にRSTS2とはいえません。エクソン30・31の特定の変化はMKHK2を起こします。変化の場所と種類の精密な解釈が必要です。

誤解②「親が健康だから遺伝ではない」

MKHK2の多くは新生突然変異で、両親には同じ変化がないことがほとんどです。「両親が健康だから関係ない」という思い込みが、診断を遅らせることがあります。

誤解③「NIPTで分かる」

一般的なNIPTは染色体の数を調べる検査で、EP300の小さな変化は対象外です。確定診断には絨毛検査・羊水検査や、出生後の遺伝子解析が必要です。

誤解④「珍しいから診断はあきらめるしかない」

まれな病気でも、変化の場所を精密に評価し、エピシグネチャー解析を組み合わせることで確定できる場合があります。専門医による再解釈が有効です。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【正しい病名が、正しい支援の入口になる】

MKHK2のお子さんは、最初に「ルビンスタイン・テイビ症候群かもしれない」と説明を受けていることが少なくありません。症状が重なる部分があり、最初の判断はとてもむずかしいのです。けれど、正確な病名にたどり着くことで、ご家族の心の整理や、これからの計画の立て方が大きく変わります。

遺伝子検査の結果は、出すだけでは支援になりません。「どの場所の、どんな変化か」を読み解き、ご家族にとって受け止められる言葉で伝えるまでが、私たち臨床遺伝専門医の仕事だと考えています。まれな病気だからこそ、一人ひとりの診断の精度が、その後の人生に大きく影響します。

よくある質問(FAQ)

Q1. メンケ・ヘネカム症候群2型は遺伝しますか?

常染色体顕性遺伝(優性遺伝)の病気ですが、報告されているほとんどの症例は新生突然変異(de novo)によるもので、両親には同じ変化が存在しません。患者さんご本人が子どもを持つ場合の遺伝確率は理論上50%です。次のお子さんの出生前診断(絨毛検査・羊水検査など)の選択肢については、臨床遺伝専門医にご相談ください。

Q2. ルビンスタイン・テイビ症候群2型とは何が違うのですか?

どちらも同じEP300遺伝子の変化で起こりますが、変化の場所としくみが違います。RSTS2は遺伝子全域の変化でタンパク質の量が半分になる「ハプロ不全」が主体で、幅広い親指が必発です。MKHK2はエクソン30・31の特定の変化が原因で、幅広い親指はみられず、平坦な鼻梁や外上がりの眼裂などを示します。DNAメチル化のパターンも異なり、別の病気として区別されます。

Q3. どのように診断されますか?

特徴的な顔つきや、知的発達のゆっくりさ・摂食困難・難聴などの組み合わせから臨床的に疑い、遺伝子検査でEP300遺伝子エクソン30・31の変化を確認して診断します。両親を含めたトリオ全エクソーム解析が有力で、必要に応じてDNAメチル化エピシグネチャー解析が補助診断として用いられます。小さな変化は染色体検査(Gバンド法)では検出できません。

Q4. 知的障害はどのくらいありますか?

報告では約98%に知的障害または発達遅滞がみられ、特に言葉の遅れが目立ち、初語の平均が約2.6歳と報告されています。ただし重症度には大きな幅があります。早期からの療育や発達支援が、お子さんの力を伸ばすうえで重要です。数字はこれまでの少人数のまとめに基づくもので、すべてのお子さんに当てはまるわけではありません。

Q5. 妊娠中に調べることはできますか?

家族内で変化がすでに特定されている場合は、絨毛検査や羊水検査による出生前遺伝子診断が可能です。一般的なNIPTは染色体の数を調べる検査で小さな変化は対象外ですが、当院のインペリアルプランではEP300を含む単一遺伝子のスクリーニングが行えます。なお、症状の幅が広い病気であり、出生前に調べることが常に利益になるとは限りません。受けるかどうかはご家族で十分に話し合ってお決めください。

Q6. どのような合併症に注意すればよいですか?

摂食困難・胃食道逆流(誤嚥や上気道感染のリスク)、難聴や斜視といった感覚器の問題、下垂体低形成による低身長、先天性心疾患などに注意します。これらを念頭に、消化器・耳鼻咽喉科・眼科・内分泌科・整形外科などが連携して、早期から定期的に評価し支援することが、お子さんの発達と生活の質を守るうえで大切です。

Q7. ルビンスタイン・テイビ症候群と診断されていますが、別の病気の可能性はありますか?

EP300に変化が見つかっている場合でも、その変化がエクソン30・31の特定領域にあたるなら、RSTS2ではなくMKHK2と再分類される可能性があります。また、過去に「意義不明のバリアント」と分類されていた変化が、最新の文献と照合することで病的と再評価されるケースもあります。臨床遺伝専門医によるセカンドオピニオンと、変化の精密な再解釈が有効です。

🏥 希少疾患の診断・遺伝カウンセリングについて

メンケ・ヘネカム症候群2型をはじめとする希少遺伝性疾患に関するご相談は、
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にご相談ください。

関連記事

参考文献

  • [1] OMIM #618333. Menke-Hennekam Syndrome 2 (MKHK2). Johns Hopkins University. [OMIM]
  • [2] Orphanet. Menke-Hennekam syndrome. ORPHA:592574. [Orphanet]
  • [3] Menke LA, et al. Further delineation of an entity caused by CREBBP and EP300 mutations but not resembling Rubinstein-Taybi syndrome. Am J Med Genet A. 2018;176(4):862-876. [PubMed]
  • [4] Menke-Hennekam syndrome: delineation of domain-specific subtypes with distinct clinical and DNA methylation profiles. HGG Adv. 2024. [PMC11040166]
  • [5] Menke-Hennekam Syndrome: A Literature Review and a New Case Report. Children (Basel). 2022;9(5):759. [PMC9139512]
  • [6] Identification of a novel, pathogenic CREBBP variant in a patient with Menke-Hennekam syndrome: a Case Report. Front Genet. 2025. [PMC12375898]
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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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