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マロン酸・メチルマロン酸複合尿症(CMAMMA)|新生児スクリーニングで見逃されやすい代謝異常症をやさしく解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

マロン酸・メチルマロン酸複合尿症(CMAMMA)は、尿と血液のなかで「マロン酸」と「メチルマロン酸」という2種類の有機酸が同時に増える常染色体劣性の代謝異常症です。通常の新生児マススクリーニングでは見逃されやすいことが大きな特徴で、無症状のまま大人になる方から、乳児期に低血糖やアシドーシスで見つかる方、成人になってから神経症状や精神症状で気づかれる方まで、臨床像の幅が非常に広い疾患です。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 有機酸代謝異常・ミトコンドリア代謝・臨床遺伝
臨床遺伝専門医監修

Q. マロン酸・メチルマロン酸複合尿症(CMAMMA)とはどんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです

A. ACSF3という遺伝子の両親由来2本にそれぞれ病的な変化が起きることで発症する、稀な有機酸代謝異常症です。尿と血液の中でマロン酸とメチルマロン酸が同時に上がり、メチルマロン酸のほうがマロン酸より高いのが典型的です。通常の新生児マススクリーニングで使う指標が動かないため、見逃されやすい疾患として知られています。

  • 疾患の定義 → 尿と血漿でマロン酸とメチルマロン酸が同時に上昇する常染色体劣性疾患
  • 分子メカニズム → ACSF3遺伝子欠損によるミトコンドリア内マロン酸活性化・解毒の障害
  • 主な症状 → 無症候〜低血糖・発達遅滞・痙攣・記憶障害・精神症状まで幅広い
  • 鑑別診断 → 孤発性メチルマロン酸血症・マロニルCoA脱炭酸酵素欠損症との違い
  • 診断・管理 → 血漿MA/MMA比の活用とACSF3を含む次世代シーケンス解析

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1. マロン酸・メチルマロン酸複合尿症(CMAMMA)とは

マロン酸・メチルマロン酸複合尿症(Combined Malonic and Methylmalonic Aciduria、略してCMAMMA)は、尿や血液の中で「マロン酸(MA)」と「メチルマロン酸(MMA)」という2種類の有機酸が同時に高い値を示す、常染色体劣性遺伝の先天代謝異常症です。主な原因はACSF3という遺伝子の働きが両親から受け継いだ2本のうちどちらにおいても損なわれることにあります。

💡 用語解説:常染色体劣性(潜性)遺伝

人は父と母から1本ずつ、合計2本の遺伝子を受け継ぎます。「常染色体劣性」とは、2本の遺伝子の両方に病的な変化があって初めて発症する遺伝のしかたです。1本だけが変化している人は「保因者」と呼ばれ、通常は症状がありません。両親がともに保因者のとき、子どもが発症する確率は1/4(25%)、保因者となる確率は1/2(50%)、どちらの変化も受け継がない確率は1/4(25%)です。

CMAMMAが独立した疾患として分子レベルで確立されたのは、2011年のことです。SloanらとAlfaresらの2つの研究チームがそれぞれ独立に、エクソーム解析(遺伝子の働く部分をまとめて調べる検査)によって原因遺伝子がACSF3であることを突き止めました。それまでは「マロン酸とメチルマロン酸が両方上がる病態」は、別の疾患であるマロニルCoA脱炭酸酵素欠損症(マロン酸尿症)との区別が曖昧でしたが、この2つの研究によって「マロニルCoA脱炭酸酵素の働きは正常で、メチルマロン酸のほうがマロン酸より多く出る」ACSF3型のCMAMMAが独立疾患として整理されることとなりました。

推定頻度と「見逃されやすさ」

一般集団における遺伝子レベルの推定頻度はおよそ1:30,000〜1:37,000とされていますが、実際に診断されている患者数はこれよりずっと少ないと考えられています。その最大の理由は、通常のろ紙血を使った新生児マススクリーニングでは見逃されやすいためです。

💡 用語解説:プロピオニルカルニチン(C3)

プロピオニルカルニチンは、アシルカルニチンと呼ばれる代謝物の一種で、通常の新生児マススクリーニング(タンデムマス法)の指標として使われます。古典的なメチルマロン酸血症ではこのC3が上がるため検出できますが、CMAMMAではC3が上がらないため、新生児マススクリーニングの網から漏れます。これがCMAMMAの「世界的に過少診断されている」大きな理由です。

特定の集団では遺伝的背景によって保因者頻度が高いことも知られています。アシュケナージ系ユダヤ人集団では、ACSF3の c.1411C>T(p.Arg471Trp)と呼ばれる特定の変異がほぼすべての病的アレルを占め、保因者頻度は約1/69と報告されています。これは「非常に稀な突然変異」ではなく、この集団内ではかなり頻度の高いキャリアアレルであることを意味します。

2. 原因遺伝子ACSF3と代謝経路のしくみ

ACSF3は、アシルCoAシンテターゼファミリーの第3番メンバー(Acyl-CoA Synthetase Family member 3)で、ミトコンドリアの内部ではたらく酵素をつくる遺伝子です。少し似た響きのアシル-CoAデヒドロゲナーゼファミリーβ酸化を担う酵素群)とは別のファミリーですが、どちらもエネルギー代謝の上流で働くという共通点があります。

💡 用語解説:ミトコンドリア

細胞の中にある「発電所」に例えられる小さな器官です。食べ物から得たエネルギーを私たちが使える形(ATP)に変換する役割を担っています。ミトコンドリアの中では脂肪酸の分解(β酸化)やアミノ酸代謝、クエン酸回路などたくさんの代謝反応が起こっており、ACSF3はこの中でのマロン酸・メチルマロン酸の「活性化」と「解毒」に関わります。

ACSF3がおこなう3つの仕事

ACSF3酵素は、マロン酸をマロニルCoAに、メチルマロン酸をメチルマロニルCoAに変換する反応を、ATPというエネルギーを使って行います。この単純そうな反応が、少なくとも次の3つの重要な役割を担っていると考えられています。

🔄 ① マロン酸の解毒

マロン酸はクエン酸回路の酵素(コハク酸脱水素酵素)を邪魔する「代謝の毒」としての性質があります。ACSF3はこのマロン酸を無害な形(マロニルCoA)に変換し、ミトコンドリア内の代謝効率を守る役割を担います。

🧪 ② ミトコンドリア脂肪酸合成(mtFAS)の出発点

ミトコンドリア内には独自の脂肪酸合成経路(mtFAS)があり、その出発点となるのがマロニルCoAです。ACSF3はこのマロニルCoAを供給することで、リポ酸などミトコンドリア内の重要な補因子の合成につながる経路を支えています。

🔗 ③ タンパク質のマロニル化

ACSF3由来のマロニルCoAは、ミトコンドリア内のタンパク質のリジン残基に「マロニル基」を付加する修飾反応にも使われます。これは細胞内でのシグナル伝達や代謝制御にかかわる、エピジェネティックな調節機構の一端と考えられています。

💡 用語解説:有機酸代謝異常症

体内でタンパク質などを分解してエネルギーを取り出す過程で、中間産物である「有機酸」が分解しきれずに体にたまってしまう一群の病気の総称です。代表例にはメチルマロン酸血症、プロピオン酸血症、グルタル酸尿症などがあります。体が「異化」(エネルギーを取り出すために自分のからだを分解する状態)に傾くと有機酸が一気にたまり、代謝性アシドーシスなどの症状を起こすことがあります。

代表的な変異

ACSF3の病的変異はミスセンス変異、ナンセンス変異、スプライス変異、小さな欠失など多様です。大規模なコホート研究(ケベック州の家系解析)では、p.Glu359Lys(E359K)p.Arg558Trp(R558W)という2つの変異が比較的高い頻度で見つかっており、家系アレル全体のそれぞれ約38%と約21%を占めていました。またp.Arg558Trpは2026年時点でも複数の検査機関により「病的(Pathogenic)」または「病的である可能性が高い(Likely Pathogenic)」と統一的に解釈されている代表的な病的変異です。

💡 用語解説:ミスセンス変異

DNAの塩基配列が1つ変わったことで、タンパク質を構成するアミノ酸が別の種類に置き換わるタイプの変異です。置き換わる場所によってタンパク質の形や働きがどれくらい変わるかは大きく異なり、ほとんど影響しないこともあれば、酵素の働きを著しく損ねることもあります。CMAMMAでは多くの病的変異がこのミスセンス変異です。

3. 主な症状と自然歴

CMAMMAの臨床像は、ほかの有機酸代謝異常症と比べても極めて幅が広いのが特徴です。まったく無症状のまま成人する方もいれば、乳児期に重篤な代謝不全を起こす方、成人してから神経症状や精神症状で気づかれる方もいます。

👶 乳児・小児期

  • 低血糖
  • ケトアシドーシス
  • 哺乳不良・体重増加不良
  • 発達遅滞
  • 筋緊張低下(軸性低緊張)
  • 小頭症
  • ジストニア

🧠 成人期

  • 痙攣(複雑部分発作など)
  • 記憶障害
  • 眼性片頭痛
  • 精神症状(不安・うつ・幻覚など)
  • 認知機能低下
  • 頭部MRIでT2高信号所見

✨ 無症候〜軽症例

  • まったく症状なし
  • 尿有機酸分析の偶然所見
  • 生化学的異常のみ
  • 通常の発達経過
  • 健診で初めて指摘

ケベック州25例コホートが示した「多くは軽症」の実像

自然歴(治療しなかった場合や一般的な経過)を考えるうえで、世界で最も重要な資料の一つが、2019年に報告されたカナダ・ケベック州の25例コホートです。ケベック州では通常のろ紙血に加えて生後21日目に尿スクリーニングを行う独自の仕組みがあり、ここからCMAMMAが拾い上げられました。その結果、6か月〜30歳の25例は、治療の有無にかかわらず概ね良好な経過をたどっていることが示されました。

このコホートが示唆したこと:CMAMMAにおいては生化学的な表現型(尿・血漿の異常)は明瞭でも、臨床的な表現型(実際の症状)は軽いことが少なくない——つまり「生化学的に異常だが、元気に過ごしている」方が相当数いる可能性が高いということです。

2025年の新しい報告が示す「重症の外れ値」

一方で、2025年には軽症説だけでは片付かない報告もいくつか出てきています。高インスリン性低血糖を伴う新生児例(Gragnaniello ら)、レノックス・ガストー症候群に似た発達てんかん性脳症を呈する8歳男児(Curry ら)、そしてCMAMMAに加えて別の遺伝性疾患(βケトチオラーゼ欠損症の原因遺伝子であるACAT1の変異を含む他の病的変異)を同時に持つ症例(Ersoy ら)などです。

特にErsoy らの6例報告では、3家系の症例でCHRNG・BTD・CDK10などの追加変異が見つかり、CMAMMA症状の一部はもう一つの遺伝性疾患(Dual Molecular Diagnosis)が寄与していた可能性があることが示されました。「重症CMAMMA」を見たときには、別の疾患が重なっていないかを慎重に評価する必要があります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「稀な病気」ではなく「未診断の病気」かもしれない】

CMAMMAの推定頻度は1:30,000〜1:37,000。この数字は、実はダウン症候群よりは稀ですが、ある種の遺伝性がんよりはむしろ一般的な頻度です。それなのに「聞いたこともない病名」に感じられるのは、通常の新生児マススクリーニングでは使われる指標(C3)が動かず、網から漏れてしまうからです。

臨床遺伝外来で「原因不明のメチルマロン酸軽度上昇」「ビタミンB12治療に反応しないMMA」といった方に出会ったら、私は必ずCMAMMAを候補に挙げます。見逃されているだけで、実はまわりにいるかもしれない——そう考えて診療するのが大切だと思っています。

4. 鑑別診断:似た生化学像を示す疾患との見分け方

CMAMMAは「尿中のメチルマロン酸が高い」ことからスタートすることが多いのですが、この所見だけではほかの疾患と区別できません。特に注意すべきは、古典的(孤発性)メチルマロン酸血症マロニルCoA脱炭酸酵素欠損症(マロン酸尿症)、そしてZBTB11関連知的発達症です。

3疾患の比較(生化学・遺伝・臨床)

比較項目 CMAMMA 孤発性メチルマロン酸血症 マロン酸尿症(MLYCD欠損)
主な原因遺伝子 ACSF3 MMUT, MMAA, MMAB, MMADHC, MCEE など MLYCD
遺伝形式 常染色体劣性 多くは常染色体劣性 常染色体劣性
有機酸パターン MAとMMAの両方上昇/通常MMA>MA 主としてMMAが上昇/MAは上がらない MA優位/ときにMMAも上昇するがMA≫MMA
アシルカルニチン(NBS) C3は正常/通常のNBSで見逃されやすい C3上昇/NBSで拾われやすい C3DC上昇が参考/NBSで拾われうる
代表臨床像 無症候〜低血糖、アシドーシス、発達遅滞、成人期の神経精神症状 新生児〜乳児の重篤な代謝不全、反復するクリーゼ、腎・神経・肝合併症 低血糖、ケトーシス、アシドーシス、発達遅滞、心筋症
ビタミンB12反応性 原則 反応乏しい サブタイプによる(cblA/cblBで反応例あり) 反応性の標準的概念なし
治療の軸 症状に応じた個別化/栄養管理/カルニチン B12(反応例)、タンパク制限、カルニチン、急性期治療 低脂肪・高炭水化物・MCT・カルニチン、心筋症管理
予後 多くは良好/ただし外れ値あり サブタイプによりしばしば重篤 心筋症の有無が予後を左右

血漿MA/MMA比という重要な手がかり

尿中有機酸分析だけに頼ると、マロン酸(MA)は測定感度の問題で見逃されることがあります。2016年のde Sain-van der Veldenらの研究は、血漿でMAとMMAを同時に定量し、その比(MA/MMA比)を計算することで、古典的なメチルマロン酸血症とCMAMMAを正確に鑑別できることを示しました。実務的には、CMAMMAではMMA/MA比が5を超えることが多いとされます。

また、似た生化学像を示す疾患として近年注目されているのがZBTB11関連知的発達症です。尿・血漿で高MA・高MMA、MMA/MA>5、C3非上昇と、ACSF3欠損に非常によく似たパターンを示しますが、臨床的には知的発達症・先天異常・白内障・脳異常が前面に出やすく、CMAMMAとは全く異なる遺伝子が原因です。「CMAMMA=必ずACSF3」ではなく、CMAMMA様の生化学像を示す疾患群の鑑別という発想が重要になります。

一方、有機酸代謝異常症のなかでもよく鑑別にあがるβケトチオラーゼ欠損症ACAT1遺伝子異常)は、イソロイシン中間代謝とケトン体代謝の障害で、CMAMMAとは代謝経路が異なりますが、反復する重篤なケトアシドーシスを呈するため急性期には鑑別が必要になります。またホモシステインが同時に上昇するホモシスチン尿症を伴うメチルマロン酸血症(cblC・cblDほか)との鑑別も、総ホモシステイン・メチオニンを測ることで可能です。

5. 診断・遺伝子検査の進め方

CMAMMAの診断では、「メチルマロン酸が高い」というだけで満足せず、必ずマロン酸も定量すること、C3が正常でもCMAMMAを除外しないこと、尿だけでなく血漿でも測ることの3点が特に重要です。

診断ワークフロー

1

契機:尿または血漿でメチルマロン酸の上昇に気づく

原因不明の低血糖、アシドーシス、発達遅滞、または成人期の神経精神症状があるときも該当します。

2

尿・血漿でMA(マロン酸)とMMA(メチルマロン酸)を同時定量

尿だけではMAは見逃されやすいため、血漿での定量とMA/MMA比の評価が重要です。

3

アシルカルニチン解析とC3の評価

C3が上昇している場合は古典的メチルマロン酸血症やコバラミン代謝異常を優先。C3が正常でMMA>MAならCMAMMAを強く疑います。

4

ホモシステイン・メチオニン・メチルクエン酸などを評価

ホモシステインが同時に上がっていればcblC/cblDなどのコバラミン代謝異常、メチルクエン酸が顕著なら古典的MMA/プロピオン酸血症を考えます。

5

ACSF3を含むマルチ遺伝子パネル/エクソーム解析

臨床的にCMAMMAを強く疑ったら、ACSF3を含む次世代シーケンス解析で確定診断へ。ACSF3陰性ならZBTB11・MLYCD・SUCLA2/SUCLG1・TCN2などを再検討します。

💡 用語解説:次世代シーケンス(NGS)

何百〜何千もの遺伝子を同時並行で読み取れる高速シーケンス技術です。従来のサンガー法が「1つずつ調べる」方法だったのに対し、NGSは「まとめて調べる」方法です。CMAMMAのように原因候補が複数ありうる疾患や、症状から原因遺伝子を絞りきれない疾患では、ACSF3を含む代謝異常症関連遺伝子パネルや、さらに広くエクソーム解析(タンパク質をコードする領域すべて)を用いることで、効率的に確定診断へ到達できます。

ミネルバクリニックで実施可能な関連パネル

6. 治療・長期管理

CMAMMAには、古典的メチルマロン酸血症のように確立した国際ガイドラインや根治的治療法はまだ整備されていません。主要な国際ガイドラインは孤発性メチルマロン酸血症とプロピオン酸血症を対象にしており、これらをそのままCMAMMAに当てはめることはできません。したがって現時点では、症状と年齢に応じた個別対応が基本となります。

🍽️ 食事療法

無症状の方に一律の厳格な食事制限は行いません。症状を繰り返す方や代謝ストレス時に悪化する方では、タンパク質の過剰摂取を避ける穏やかな調整が検討されます。

💊 L-カルニチン補充

症例報告では有機酸代謝異常全般に準じてL-カルニチンが使用されることがあります。CMAMMA特異的な確立エビデンスは乏しいものの、症候性例では試みる価値があります。

⚠️ ビタミンB12

CMAMMAは原則としてB12治療に反応しないと整理されています。古典的MMA(cblAなど)のように必須の治療薬ではありませんが、個々の症例ごとに反応性は評価します。

🚨 急性期の対応

発熱・感染・摂食不良の時は「異化」(自分の体を分解してエネルギーを得る状態)を避けるため、早めの糖輸液などで介入します。重症例は有機酸代謝異常として急性期対応を行います。

長期フォローアップの考え方

乳幼児では成長・発達、反復する低血糖・代謝性アシドーシスの有無を重視し、必要に応じて尿・血漿のMA/MMA、アシルカルニチン、遊離/総カルニチンを定期的にチェックします。学童期〜成人では、痙攣、認知・記憶、精神症状、運動異常などに注意し、症状がある場合は神経学的評価を追加します。感染・発熱・摂食不良時には異化を避ける介入を前倒しで行うことが大切です。

⚠️ 根治療法について:2026年時点では、遺伝子治療・mRNA治療・酵素補充療法・移植をCMAMMAに体系的に適用した臨床データは主要文献で確認されていません。研究レベルではmtFAS・マロン酸解毒・タンパク質マロニル化・リポ酸生合成などが注目されていますが、臨床応用はまだ先の段階です。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「治療すべきかどうか」も含めて悩む疾患】

CMAMMAの診療で頭を悩ませるのは、「確定診断されたけれど症状がない方」をどう管理するかです。ケベックコホートが示すように、無症状で健やかに成人するケースも少なくありません。そのような方に厳格なタンパク制限や継続的なカルニチン投与を一律に行うことは、過剰介入になる可能性があります。

一方で、2025年に発達てんかん性脳症や高インスリン性低血糖症の重症例が報告されたことで、「軽症が多い=放置していい」とも言えない難しさがあります。患者さんやご家族と一緒に、今の年齢・症状・家族歴・生活環境を踏まえて、「何を測るか」「何を制限するか」を個別に組み立てていくことが、この疾患の診療の本質だと考えています。

7. 遺伝カウンセリングとキャリアスクリーニング

CMAMMAは常染色体劣性遺伝の疾患です。両親がともにACSF3の保因者である場合、子どもが発症する確率は1/4(25%)、保因者となる確率は1/2(50%)、どちらも受け継がない確率は1/4(25%)です。

💡 用語解説:キャリア(保因者)スクリーニング

自分や配偶者が、子どもに遺伝する可能性のある劣性疾患の遺伝子変化を持っていないかを調べる検査です。保因者は通常、自分自身には症状がありませんが、配偶者も同じ疾患の保因者だった場合、お子さんが発症する可能性があります。妊娠前、あるいは妊娠早期にキャリアスクリーニングを受けておくことで、選択肢を持った状態で家族計画を考えることができます。詳しくはキャリアスクリーニングとはのページをご覧ください。

アシュケナージ系ユダヤ人集団のように、ACSF3の保因者頻度が比較的高いことが知られている集団では、妊娠前のキャリアスクリーニングを検討する価値があります。日本人集団における保因者頻度は十分に調査されていませんが、一般に先天代謝異常症を対象としたACMG/ACOGが推奨する拡大キャリアスクリーニングではCMAMMAを含むACSF3が対象に入っている商品もあります。

家族への情報提供と心理的サポート

遺伝性疾患の告知は、ご本人だけでなく、ご家族全体の今後の人生にかかわる情報です。ミネルバクリニックでは、すでに他の遺伝性疾患で保因者検査を受けたご家族の体験談も共有しています。たとえば副腎白質ジストロフィー(ALD)保因者検査の姉妹の体験談ALDと家族計画をあきらめないための選択肢は、CMAMMAとは疾患は違いますが、「家族のなかで保因者がわかったとき何を考え、どう進めていったか」の実例として参考になります。

遺伝カウンセリングでは、以下のような内容を一緒に整理していきます。

  • 遺伝形式と再発リスクの説明:常染色体劣性であることと、同胞(兄弟姉妹)・次の子どもへのリスク。
  • 保因者診断の意義:症状がない家族が変異を持っているかどうかを調べることで、家族計画に活かせます。
  • 出生前診断の選択肢:既知の変異が家族にある場合、絨毛検査や羊水検査で出生前診断が可能です。
  • 長期的なフォローアップの見通し:症状の有無にかかわらず、どのタイミングでどんな評価を続けるかを整理します。

8. よくある誤解

誤解①「新生児マススクリーニングが正常だから大丈夫」

通常の新生児マススクリーニングはC3(プロピオニルカルニチン)を指標にしていますが、CMAMMAではC3が上がらないため検出されません。NBSが正常だからといってCMAMMAを除外することはできません。

誤解②「メチルマロン酸血症=ビタミンB12治療」

古典的メチルマロン酸血症のなかでもcblA/cblB型はB12に反応することがありますが、CMAMMAは原則としてB12には反応しません。「MMAが高いからB12を打てば治る」というイメージはCMAMMAには当てはまりません。

誤解③「症状が軽いから治療しなくていい」

ケベックコホートが示すように多くは軽症ですが、2025年には発達てんかん性脳症や高インスリン性低血糖の重症例も報告されています。「軽症=放置していい」ではなく、年齢と症状に応じたフォローアップが大切です。

誤解④「MMAが高い=孤発性メチルマロン酸血症」

MMAが高いだけでは診断名が決まりません。マロン酸(MA)も同時に測って、MMA>MAのパターンがあるかを確認しないとCMAMMAは見逃されます。尿だけでなく血漿での定量とMA/MMA比の評価が重要です。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

CMAMMAは、医学が進歩するなかで「独立した疾患」として分類されるようになった新しい病気です。2011年に原因遺伝子が確定してから、わずか15年ほどの歴史しかありません。そのため、世界中の専門家が「どのくらいの人がかかっていて、どの程度症状が出るのか」という基本的な問いにすら、はっきりと答えられない段階にあります。

その一方で、実臨床では「原因不明のメチルマロン酸軽度上昇」「ビタミンB12治療に反応しないMMA」「説明のつかない低血糖や神経症状」といった、診断名のつかない患者さんが確かに存在します。CMAMMAはその一部を説明しうる候補疾患であり、きちんと疑ってマロン酸を同時に測ること、ACSF3を含む遺伝子解析を進めることで、診断の地図が少しずつ埋まっていきます。

「稀な病気だから自分には関係ない」ではなく、「見逃されているだけかもしれない」——そう考えて、原因不明の症状に向き合っていくことが、診療の質を上げるうえでも、未来の患者さんのためにも重要だと考えています。ミネルバクリニックでは、こうした診断困難な代謝・遺伝性疾患の相談を随時お受けしています。

よくある質問(FAQ)

Q1. CMAMMAは遺伝する病気ですか?

常染色体劣性遺伝の疾患です。両親がともにACSF3の保因者である場合、子どもが発症する確率は1/4(25%)、保因者となる確率は1/2(50%)、どちらの変化も受け継がない確率は1/4(25%)です。保因者には通常症状がないため、家族歴からでは気づかれにくく、検査で初めてわかることが多い疾患です。

Q2. 新生児マススクリーニングが正常だったのですが、CMAMMAの可能性はありますか?

あります。通常の新生児マススクリーニング(タンデムマス法)は、プロピオニルカルニチン(C3)を主な指標としていますが、CMAMMAではC3が上がらないため、このスクリーニングでは検出されません。原因不明のメチルマロン酸の軽度上昇や低血糖などがある場合は、血漿のマロン酸とメチルマロン酸を同時に定量し、MA/MMA比を評価することが推奨されます。

Q3. CMAMMAはどのように診断されますか?

尿・血漿でマロン酸(MA)とメチルマロン酸(MMA)を同時に定量し、両方が上昇していてMMA>MAのパターン(MMA/MA>5など)が認められ、プロピオニルカルニチン(C3)が正常である場合にCMAMMAを強く疑います。最終的な確定診断は、ACSF3を含むマルチ遺伝子パネル検査またはエクソーム解析によって両アレル性の病的変異を同定することで行われます。

Q4. 古典的なメチルマロン酸血症と何が違うのですか?

古典的(孤発性)メチルマロン酸血症は主にMMUT、MMAA、MMAB、MMADHCなどの遺伝子異常で起こり、メチルマロン酸だけが高くなるのに対し、CMAMMAではマロン酸とメチルマロン酸の両方が同時に上がります。また、古典的MMAではC3が上昇し、多くは新生児期に重篤な代謝不全で発症するのに対し、CMAMMAではC3が上がらず、新生児マススクリーニングで見逃されやすく、臨床像も無症候から成人発症までずっと幅広いのが特徴です。

Q5. ビタミンB12を飲めば治りますか?

CMAMMAは原則としてビタミンB12(コバラミン)治療に反応しない疾患として整理されています。古典的メチルマロン酸血症のcblA型などではB12が有効なことがありますが、CMAMMAではACSF3という別の酵素の異常が原因であり、B12を補充しても代謝経路を回復させることができません。治療は症候に応じた個別対応(栄養管理、L-カルニチンなど)が中心となります。

Q6. 予後はどのくらい良いのですか?

2019年のカナダ・ケベック州の25例コホートでは、6か月〜30歳の患者さんが治療の有無にかかわらず概ね良好な経過をたどっており、「多くは軽症」と考えられています。ただし2025年には発達てんかん性脳症や高インスリン性低血糖を伴う重症例も報告されており、「軽症が多いが、外れ値として重症例もある」という理解が現時点での最もバランスの取れた見方です。年齢・症状・家族歴に応じた個別のフォローアップが重要です。

Q7. 次の子どもへの影響を知りたい場合、どうすればいいですか?

まず、すでにCMAMMAと診断されたご家族でACSF3の変異が特定されている場合、その変異情報をもとに両親や同胞の保因者検査、次子の出生前診断(絨毛検査・羊水検査)を行うことが可能です。まだどなたも診断されていない場合は、妊娠前・妊娠早期のキャリアスクリーニングで有機酸代謝異常症を対象とした複数遺伝子の保因者検査を受ける選択肢もあります。臨床遺伝専門医への相談をおすすめします。

Q8. CMAMMAの推定頻度はどのくらいですか?

一般集団では遺伝学的に推定された頻度がおよそ1:30,000〜1:37,000とされていますが、通常の新生児マススクリーニングでは見逃されるため、実際に診断されている患者数はこれよりずっと少ないと考えられています。アシュケナージ系ユダヤ人集団ではp.Arg471Trpという特定の変異の保因者頻度が約1/69と高く、集団によって遺伝的背景が異なることも知られています。日本人集団での正確な頻度はまだ十分に調査されていません。

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参考文献

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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