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ラーセン症候群(OMIM 150250)とは?原因・症状・出生前診断と遺伝のしくみ

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

ラーセン症候群は、FLNB遺伝子(フィラミンB)の変化によって、股・膝・肘などの大きな関節が生まれつき外れる(脱臼する)、平坦で特徴的な顔つき、脊椎の変形などを生じる、出生10万人に1人程度の稀な先天性の骨・結合組織の病気です。症状の重さには大きな幅がありますが、多くの場合、知的発達は正常に保たれます。一方で、首の骨(頚椎)の変形や気道のやわらかさは命に関わることがあるため、早い時期からの評価がとても大切になります。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 FLNB遺伝子・骨系統疾患・臨床遺伝
臨床遺伝専門医監修

Q. ラーセン症候群とはどのような病気ですか?まず結論だけ知りたいです

A. FLNB遺伝子の変化によって、大きな関節の先天性脱臼・特徴的な顔つき・脊椎の変形などが生じる、稀な先天性の骨と結合組織の病気です。原因の多くは「タンパク質が異常な働きを獲得する」タイプの変化で、常染色体顕性(優性)遺伝の形をとります。首の骨や気道の問題は命に関わることがある一方で、知的発達は正常なことが多いのが特徴です。

  • 疾患の定義 → OMIM 150250、出生10万人に1人程度、1950年にLarsenが初めて報告
  • 原因と仕組み → FLNB遺伝子(3p14.3)の機能獲得型の変化と、軟骨・骨の発達の乱れ
  • 主な症状 → 大関節脱臼(股・膝・肘)、平坦な顔つき、頚椎後弯、内反足など
  • FLNB関連疾患スペクトラム → ごく軽症から周産期致死までつながる一連の病気との関係
  • 診断と遺伝 → 出生前・出生後の診断の進め方、再発リスク、遺伝カウンセリング

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1. ラーセン症候群とは:定義と歴史的背景

ラーセン症候群(Larsen Syndrome、OMIM 150250)は、全身の骨格の発達と結合組織に広く影響する、稀な先天性の病気です。1950年にLarsenらによって初めて医学文献に報告され、大きな関節の生まれつきの脱臼・特徴的な顔つき・脊椎の変形を伴う、結合組織の全身性の障害として知られるようになりました。骨や軟骨の形がうまく作られない「骨軟骨異形成症」という大きなグループに含まれます。

発症の頻度は出生10万人に1人程度と推定されていますが、これは実際より少なく見積もられている可能性があると考えられています。その理由は、同じ家系の中でさえ症状の重さに大きな幅がある(家系内多様性)ためです。ごく軽症の場合は、単独の内反足や軽い関節のやわらかさ、わずかな低身長だけのこともあり、ほかの病気や孤立した骨の異常として見過ごされてしまうことがあります。

💡 用語解説:結合組織(けつごうそしき)とは

体のさまざまな部分をつなぎ、支える「土台」となる組織のことです。骨・軟骨・腱・靱帯・皮膚などが含まれます。結合組織の作られ方に問題が生じると、関節がゆるくなったり、骨や軟骨の形が変わったり、血管や気道の支えが弱くなったりと、全身のいろいろな場所に影響が及びます。ラーセン症候群はこの結合組織が全身的に影響を受ける病気です。

呼吸器や首の骨の問題に対して早めの医療的なケアが行われれば、成人期以降も生活していくことが可能です。また、知的機能や認知の発達は正常に保たれることが多く、運動機能の制限や体の変形に対する生涯にわたる多職種のサポートが、生活の質(QOL)を大きく左右する重要な要素になります。

2. 原因遺伝子FLNBと体の中で起きていること

ラーセン症候群の根本的な原因は、第3染色体の短腕(3p14.3)にあるFLNB遺伝子(OMIM 603381)の変化であることがわかっています。この遺伝子は、細胞の形を保ち、動かすために欠かせないタンパク質「フィラミンB(Filamin B)」の設計図です。

💡 用語解説:フィラミンBと細胞骨格

細胞の中には「細胞骨格」と呼ばれる骨組みがあり、その主役のひとつがアクチンという繊維状のタンパク質です。フィラミンBは、このアクチンどうしを橋渡し(架橋)してしなやかな網目構造を作ります。これによって細胞は外からの力に耐え、形を変えたり移動したりできます。フィラミンBはとくに血管の内側の細胞や、骨のもとになる軟骨細胞でよく働いていて、胎児期の骨格づくりに重要な役割を果たしています。

フィラミンBには大きく3つの役割があります。1つ目は、アクチンと結びついて細胞の立体的な骨組みを作ること。2つ目は、骨組みとさまざまな信号タンパク質をつなぐ足場として働き、組織が成長・変形していくときの細胞のふるまいを調整すること。3つ目は、軟骨が骨へ置き換わっていく内軟骨性骨化という過程を正しく進めることです。

💡 用語解説:ミスセンス変異とは

遺伝子(DNA)の文字がひとつ変わることで、タンパク質を作る部品であるアミノ酸が別の種類に置き換わるタイプの変化です。設計図のたった1文字の違いでも、できあがるタンパク質の形や働きが変わってしまうことがあります。ラーセン症候群の多くは、このミスセンス変異や、ごく小さな欠失(インフレーム欠失)によって起こります。ミスセンス変異の詳しい解説はこちら

ラーセン症候群を起こすFLNBの変化は、遺伝子全体に散らばっているわけではなく、フィラミンBの特定の部分——アクチン結合ドメインと、フィラミンリピート13〜17と呼ばれる領域——に集まる傾向があります。重要なのは、これらの変化が単にタンパク質の働きを失わせる(機能喪失)のではなく、異常なタンパク質が新しい困った働きを獲得する「機能獲得型」として作用する点です。

💡 用語解説:機能獲得型変異とドミナントネガティブ効果

機能獲得型(Gain-of-Function)とは、変化したタンパク質が、本来なかった新しい働きを身につけてしまうことです。さらに、その異常なタンパク質が正常なタンパク質の働きまで邪魔してしまう現象をドミナントネガティブ(優性阻害)効果と呼びます。ラーセン症候群では、変異したフィラミンBがアクチンの網目をうまく作れなくし、細胞の移動能力を低下させると考えられています。これは「量が足りない(機能喪失)」とは異なる仕組みです。

この変化の結果、骨が伸びる場所である成長板での骨化(軟骨が骨に置き換わること)が大きく遅れます。研究では、軟骨細胞が増える層(増殖層)が減る一方で、成熟した細胞の層(肥大層)が異常に広がるという変化が確認されています。この増殖と分化のバランスの崩れが、ラーセン症候群に特有の重い骨格の異常を生み出します。また、骨化に必要な栄養を運ぶ細い血管の発達も妨げられ、骨格づくりの遅れをさらに悪くする要因になります。

図:成長板で起きている違い(正常 vs ラーセン症候群)

正常な成長板

増殖層(しっかりした厚み)
肥大層(適切な大きさ)
骨化(順調に進む)

ラーセン症候群の成長板

増殖層が減少
肥大層が異常に拡大
骨化が大きく遅れる

変異したフィラミンBが軟骨細胞のアクチンの網目を乱すことで、成長板で軟骨細胞が増える働きが低下し、骨化のプロセスが著しく遅れます。

3. 主な症状と全身の特徴

ラーセン症候群の影響は骨格だけにとどまらず、頭蓋・顔面、呼吸器、心血管、感覚器など全身の広い範囲に及びます。症状の出方には個人差が大きいのですが、代表的な所見を器官別に整理します。

🦴 関節・四肢

  • 大関節の先天性脱臼(股 約80%・膝 約80%・肘 約65%
  • 膝の前方脱臼(歩行に大きく影響)
  • 内反足・外反足:約75%
  • 円柱状の指、ヘラ状の母指

🩻 脊椎・骨盤

  • 頚椎の後弯:約12%(脊髄症の危険)
  • 弾丸状の椎体、歯突起の低形成
  • 側弯症(硬く進行しやすい)
  • 胸郭不全症候群のリスク

😶 頭蓋・顔面

  • 平坦な顔つき(皿状顔貌)
  • 前頭部の突出
  • 眼の間隔が広い(眼距開離)
  • 鼻の付け根の陥凹、口蓋裂・口唇裂

🫁 呼吸器・心血管・感覚器

  • 喉頭・気管・気管支軟化症(気道のやわらかさ)
  • 大動脈基部の拡張、ASD・VSD・動脈管開存症
  • 耳小骨の奇形による伝音性難聴
  • 角膜の混濁、停留精巣(男性)

💡 用語解説:頚椎後弯と脊髄症(せきずいしょう)

「頚椎後弯」とは、首の骨が後ろ向きに大きく曲がってしまう変形です。この変形が進むと、首を通る脊髄(神経の太い束)が物理的に押しつぶされることがあり、これを「脊髄症」と呼びます。後弯のある患者さんの約15%が実際に脊髄症を発症すると報告されており、進行すると手足の麻痺や、呼吸中枢が圧迫されることによる突然死につながる危険があります。だからこそ、症状が出る前の早期評価が命を守る鍵になります。

関節は通常より動く範囲が広い(過可動性)一方で、逆に固まって動きが制限される拘縮を合併することもあり、これらが運動発達の遅れに直結します。脱臼の頻度は年齢とともに減る傾向がありますが、加齢に伴って二次性の変形性関節症を高い確率で発症します。最終的な成人身長は152cm未満となる軽度から中等度の低身長を伴うことが多いものの、平均以上に達する人もいて、成長のばらつきは大きいです。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「軽そうに見える」その奥にある危険】

ラーセン症候群は、症状の重さに本当に大きな幅があります。手足のやわらかさや内反足だけが目立ち、一見「軽い体質」のように見えるお子さんもいらっしゃいます。けれども、見た目の印象と、首の骨や気道に潜むリスクは必ずしも一致しません。

私が最も大切にしているのは、症状が軽そうに見える時こそ、首の骨(頚椎)と気道をきちんと評価しておくことです。無症状のうちに見つけて備えることが、その後の人生を守ることにつながります。「大丈夫そうだから様子を見ましょう」で済ませない——この姿勢が希少疾患の診療では特に重要だと考えています。

4. FLNB関連疾患スペクトラムと鑑別診断

FLNBの変化は、ひとつの病気だけを起こすのではありません。変化の起き方やアレル(遺伝子のコピー)の状態によって、重さの異なる一連の骨の病気を引き起こすことがわかっており、これらは「FLNB関連疾患スペクトラム」とまとめて呼ばれます。大きく「機能喪失型」と「機能獲得型」に分かれます。

💡 用語解説:機能喪失型と機能獲得型、アレルの違い

遺伝子は父由来・母由来の2本(2つのアレル)で1組です。機能喪失型は両方のアレルに変化があって初めて発症する「常染色体潜性(劣性)遺伝」の形をとり、FLNBでは脊椎手根足根癒合症候群(SCT)を起こします。一方機能獲得型は、片方のアレルの変化だけで発症する「常染色体顕性(優性)遺伝」の形をとり、ラーセン症候群はこちらに含まれます。

変異タイプ 遺伝形式 疾患名 重症度・予後 主な特徴
機能喪失型
(両アレル)
常染色体潜性(劣性) 脊椎手根足根癒合症候群(SCT) 出生後発症(予後は比較的良好) 不均衡な低身長、椎体の癒合による側弯・前弯、手根骨・足根骨の癒合。大関節脱臼や口蓋裂は通常みられない
機能獲得型
(片アレル)
常染色体顕性(優性) 単発性内反足 軽症 家族性の内反足のみが唯一の症状のことがある(スペクトラムの最も軽い端)
ラーセン症候群 中等症 大関節脱臼、内反足、頚椎後弯(脊髄症の可能性)、ヘラ状母指、特徴的な顔つき、口蓋裂、難聴
アテロステオジェネシス3型(AO3) 重症(呼吸管理で新生児期以降の生存可能) 重度の短肢性小人症、大関節脱臼、内反足、重い喉頭気管気管支軟化症
アテロステオジェネシス1型(AO1) 周産期致死 極度の四肢短縮(ヒレ状の四肢)、重度の合多指趾。Piepkorn異形成症・Boomerang異形成症もこのスペクトラムに含まれる

FLNBに変化がないのに、ラーセン症候群とよく似た症状(多発性関節脱臼・低身長・頭蓋顔面の特徴)を示す病気もあります。代表的なのがB3GAT3遺伝子の変化による「ラーセン様症候群(B3GAT3型)」で、こちらは骨格の異常に加えて複雑な先天性心疾患を高頻度・重症に合併する傾向があります。また、B4GALT7遺伝子による「レユニオン島型」も、現在では別の結合組織の病気として扱われています。

出生前や新生児期には、同じFLNBスペクトラムのAO3とラーセン症候群の区別が問題になることがあります。四肢の長い骨の短縮や先細りは両者に共通しますが、AO3に特徴的な「腓骨(すねの外側の骨)の無形成」は、ラーセン症候群では通常みられず腓骨は正常に形成されているため、これが両者を見分ける決定的な手がかりになります。

5. 診断と遺伝子検査の進め方(出生前・出生後)

診断は「いつ調べるか」によってアプローチが分かれます。ここでは出生前と出生後に分けて整理します。なお、後述するように、ラーセン症候群のように症状の幅が広い病気では、出生前に見つけることが常にご家族の利益になるとは限りません。検査を受けるかどうかは、十分な情報を得たうえでご家族が決めることが大切です。

出生前の評価:超音波と確定診断

高精細な超音波検査の普及により、出生前にラーセン症候群が疑われる例が増えています。最も見つけやすいのは妊娠22〜26週ごろで、四肢の近位部が短い(根節短縮)、上腕骨や大腿骨の遠位端が細くなる、肘・股・膝が異常な位置にある(多発性関節脱臼を示唆)、内反足などが手がかりになります。顔つきでは、平坦な輪郭・鼻の付け根の陥凹・小顎・前頭部の突出・眼距開離などが描出されます。

超音波で疑われた場合の出生前の確定診断は、羊水検査や絨毛検査で胎児のDNAを採取し、FLNB遺伝子の変化を調べる方法で行われます。費用や流れについては羊水検査・絨毛検査のページをご覧ください。

採血だけで行うNIPT(新型出生前診断)では、当院のダイヤモンドプランインペリアルプランの対象遺伝子にFLNBが含まれています。ただしNIPTはあくまでスクリーニング(ふるい分け)であり、確定診断ではありません。陽性となった場合は羊水検査・絨毛検査での確認が必要です。当院ではNIPTを受けられた方に互助会(8,000円)が適用され、その後の羊水検査費用が全額補助されます。検査の精度を高めるためのCOATE法についても参考にしてください。

出生後の診断:臨床所見と遺伝子検査

出生後は、大関節の脱臼・特徴的な顔つき・内反足などの臨床所見とX線検査から疑い、FLNB遺伝子のシークエンス解析(塩基配列を読む検査)や欠失・重複解析によって確定診断します。米国のGenetic Testing Registry(GTR)には30種類以上の臨床検査プログラムが登録されており、世界的にアクセスできる環境が整いつつあります。

💡 用語解説:シークエンス解析と全エクソーム検査

「シークエンス解析」は、遺伝子のDNAの文字(塩基)の並びを正確に読み取る検査です。FLNBのように原因遺伝子がわかっている場合は、その遺伝子をねらって調べます。原因が絞りきれないときは、遺伝子のタンパク質を作る領域全体を一度に調べる全エクソーム検査(WES)や、全ゲノムシークエンス(WGS)も選択肢になります。どの遺伝子が調べられるかは遺伝子リストをご確認ください。

6. 治療と長期的な管理

現時点で、ラーセン症候群を根本から治す遺伝子治療や分子標的治療は確立されていません。そのため治療の中心は、各臓器の障害を最小限に抑え、運動能力とQOLを最大化するための対症療法と予防的なケアになります。小児科・臨床遺伝科・整形外科・脊椎外科・耳鼻咽喉科・呼吸器科・心臓血管外科・麻酔科・理学療法士などからなる多職種チームによる、生涯にわたる連携が欠かせません。

最優先:首の骨(頚椎)の評価と外科的対応

診断が疑われた、あるいは確定した乳児に最も急いで行うべきは、頚椎の画像評価(X線検査など)です。頚椎の後弯や亜脱臼は致命的な脊髄圧迫を起こしうるため、症状のないうちに見つけることが生死を分けます。柔軟で無症状の軽い後弯には予防的な後方固定術が、脊髄症の兆候を伴う重度の後弯には前方除圧術と全周性固定術が検討されます。進行する側弯症には、成長を温存する手術や最終的な脊柱固定術が選択されます。

関節・四肢、呼吸・循環、感覚器の管理

関節・四肢

股・膝の脱臼には、まず徒手整復やギプス・装具による保存療法が試みられますが、限界があることが多く、整復術・靱帯再建・骨切り術などの手術が成長に応じて複数回必要になります。膝の前方脱臼は歩行への影響が大きく、早期の矯正が勧められます。内反足にはポンセティ法などの段階的ギプス矯正が行われます。

呼吸・麻酔のリスク

喉頭・気管軟化症による気道虚脱には厳重なモニタリングが必要で、重症ではCPAPや気管切開が行われます。手術の機会が多い一方、小顎・気管軟化・頚椎の不安定性が重なり挿管が難しくなるため、麻酔管理には高度な技術と、頚椎を不用意に伸展させない配慮が求められます。

循環器・聴覚

大動脈基部の拡張などのリスクを評価するため、定期的な心エコー検査が行われます。難聴は高頻度にみられるため、早期の聴覚スクリーニングを実施し、言語発達の遅れを防ぐために必要に応じて補聴器の装用や耳鼻咽喉科的な介入が提供されます。

💡 用語解説:気管軟化症(きかんなんかしょう)

気管(空気の通り道)を支える軟骨がやわらかいために、呼吸のたびに気管がつぶれやすくなる状態です。息を吐くときにゼーゼーした音が出たり、無呼吸を起こしたりします。ラーセン症候群では結合組織がもろいため、喉頭・気管・気管支のいずれにも軟化が起こりやすく、とくに乳児期は呼吸の状態に注意が必要です。

7. 遺伝カウンセリングの意義

確定診断のあと、ご家族への丁寧な遺伝カウンセリングが大切になります。臨床遺伝専門医が中立的な立場で情報を提供し、決定はご家族に委ねる——これが基本姿勢です。主に扱われる内容は次の通りです。

💡 用語解説:新生突然変異と生殖細胞系列モザイク

新生突然変異(de novo変異)とは、両親には存在せず、子どもで初めて生じた変化のことです。生殖細胞系列モザイクとは、親の体の細胞には変化がなくても、精子や卵子の一部にだけ変化が存在する状態を指します。見かけ上は孤発例(家族歴のない初めての発症)でも、親がモザイクである可能性が統計的に最大50%程度考慮されるため、次のお子さんでの再発リスクはゼロとは言えません。新生突然変異の詳しい解説はこちら

  • 遺伝形式と再発リスク:ラーセン症候群は常染色体顕性(優性)遺伝の形をとり、患者本人が子どもを持つ場合の遺伝確率は男女問わず理論上50%です。孤発例でも生殖細胞系列モザイクの可能性があるため、次のお子さんの出生前診断や着床前遺伝学的検査(PGT-M)の選択肢について情報提供が行われます。
  • 表現型の幅(家系内多様性):同じFLNBの変化を共有する家族間でも、症状の重さが全く異なることが珍しくありません。遺伝子検査の結果だけで出生後の重症度を断定することは難しいため、現実的で多角的なシナリオを想定した支援が必要です。
  • 非指示的な意思決定支援:症状の幅が広いこの病気では、出生前に見つけることが常に利益になるとは限りません。特定の検査を勧めたり、安心を保証したり、不安をあおったりすることはせず、ご家族が納得して決められるよう支えます。遺伝カウンセリングとはもご参照ください。
  • 長期的なQOLの支援:多臓器にわたる複雑な病気であるため、患者会や支援団体の活用、最新の医療情報の共有、医療機関との連携継続が、ご家族の負担を和らげるうえで重要です。

8. よくある誤解

誤解①「知的障害がある重い病気」

ラーセン症候群では知的発達は正常なことが多いのが特徴です。運動機能の制限はあっても、認知機能は保たれることが多く、適切な支援のもとで自立した生活が期待できます。

誤解②「親が健康だから遺伝ではない」

多くは新生突然変異(de novo変異)で生じ、両親には同じ変化がないことがほとんどです。さらに生殖細胞系列モザイクのため、次のお子さんでの再発リスクはゼロではありません。

誤解③「FLNBの変化=必ず重症」

FLNBの変化は、ごく軽い内反足だけの場合から周産期致死まで幅が広いのが特徴です。同じ家族の中でも重さが大きく違うことがあり、遺伝子の結果だけで重症度は決められません。

誤解④「軽そうだから様子見でよい」

見た目が軽くても、頚椎後弯や気道のやわらかさは命に関わることがあります。症状が出る前の頚椎・気道の評価が重要で、安易な経過観察は勧められません。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【結果を「どう受け止めるか」までを支える】

ラーセン症候群のように症状の幅が広い病気では、出生前に変化が見つかったとしても、生まれてくるお子さんがどの程度の症状になるかを正確に予測することはできません。だからこそ私は、検査結果の数値そのものだけでなく、その結果をどう受け止め、これからどう生きていくかまでを、ご家族と一緒に考える時間を大切にしています。

医師は情報を提供する立場であり、答えを押しつける立場ではありません。「検査を受けるべき」「受けないべき」のどちらにも誘導せず、中立な立場で正確な情報をお伝えする。そのうえで、ご家族が納得して選んだ道を全力で支える——希少疾患の診療において、私が最も大切にしている姿勢です。

よくある質問(FAQ)

Q1. ラーセン症候群は遺伝しますか?

常染色体顕性(優性)遺伝の形をとり、患者さん本人が子どもを持つ場合の遺伝確率は理論上50%です。一方で報告されている多くの例は新生突然変異(de novo変異)によるもので、両親には同じ変化が見つかりません。ただし生殖細胞系列モザイクの可能性があるため、見かけ上の孤発例でも次のお子さんでの再発リスクはゼロではありません。詳しくは臨床遺伝専門医にご相談ください。

Q2. 知的障害はありますか?

ラーセン症候群では、知的機能や認知の発達は正常に保たれることが多いとされています。これは予後を考えるうえで重要な点です。ただし、重い呼吸不全や脊髄圧迫などの二次的な影響によって発達に影響が及ぶ可能性は考慮されるべきで、運動発達の遅れに対する支援は重要です。

Q3. どのように診断されますか?

大関節の脱臼・特徴的な顔つき・内反足などの臨床所見とX線検査から疑い、FLNB遺伝子のシークエンス解析や欠失・重複解析によって確定します。出生前は超音波検査で疑い、羊水検査・絨毛検査で胎児のDNAを調べて確定します。原因が絞りきれない場合は全エクソーム検査(WES)も用いられます。

Q4. 出生前にわかりますか?

妊娠22〜26週ごろの超音波検査で、四肢の短縮や関節の異常な位置、内反足、平坦な顔つきなどから疑われることがあります。確定は羊水検査・絨毛検査でのFLNB解析で行います。ただし症状の幅が広いため、出生前にわかったとしても重症度の正確な予測は難しく、検査を受けるかどうかはご家族でよく話し合ってお決めください。

Q5. 命に関わる合併症は何ですか?

①頚椎の後弯・不安定性による脊髄圧迫(脊髄症・呼吸中枢の圧迫)、②喉頭・気管軟化症による呼吸不全、③重い側弯による胸郭不全——が特に注意すべき合併症です。いずれも早期発見と先回りした管理が予後を大きく左右します。だからこそ乳児期からの頚椎・気道の評価が重要です。

Q6. 治療法はありますか?

根本的に治す治療はまだありませんが、関節脱臼に対する整復・手術、内反足のギプス矯正、頚椎・側弯への脊椎外科手術、呼吸管理、補聴器などの対症療法と予防的ケアによって、運動能力と生活の質を高めることができます。多職種チームによる生涯にわたる連携が大切です。

Q7. 「FLNB関連疾患スペクトラム」とは何ですか?

同じFLNB遺伝子の変化が、変化の起き方によって重さの異なる一連の病気を引き起こすことを指します。両アレルの機能喪失型では脊椎手根足根癒合症候群(SCT)、片アレルの機能獲得型では軽症の単発性内反足からラーセン症候群、さらに重いアテロステオジェネシス3型・1型までが連続したスペクトラムを形成します。

Q8. よく似た別の症候群と区別できますか?

FLNBに変化がなくても似た症状を示す病気があります。B3GAT3型のラーセン様症候群は複雑な先天性心疾患を高頻度に合併し、B4GALT7によるレユニオン島型は別の結合組織の病気として扱われます。出生前にAO3との区別が問題になる場合は、腓骨の無形成がAO3に特徴的で、ラーセン症候群では腓骨が正常に形成されている点が手がかりになります。遺伝子検査による確認が確実です。

🏥 希少疾患の診断・遺伝カウンセリングについて

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参考文献

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  • [5] National Organization for Rare Disorders (NORD). Larsen Syndrome. [NORD]
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  • [7] Prenatal diagnosis of Larsen syndrome caused by a mutation in the filamin B gene. PMC. [PMC2713786]
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  • [9] OrphanAnesthesia. Anaesthesia recommendations for Larsen Syndrome. [OrphanAnesthesia]

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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