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アテロステオジェネシスIII型(AOIII)とは? ― 原因・症状・診断・遺伝の仕組みをやさしく解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

アテロステオジェネシスIII型は、FLNB遺伝子の変化によって全身の骨と軟骨の発達が大きく乱れる、100万人に1人未満という非常にまれな骨の病気です。四肢の強い短縮・複数の大きな関節の脱臼・特徴的な顔つき、そして狭い胸郭と気道の弱さによる呼吸の問題を主な特徴とします。一方で、I型・II型と違い適切な集中治療によって生き延びる赤ちゃんもいる点が、この病気を理解するうえで大切なポイントです。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 FLNB遺伝子・骨系統疾患・臨床遺伝
臨床遺伝専門医監修

Q. アテロステオジェネシスIII型とはどんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです

A. FLNB遺伝子の変化で起こる、とてもまれで重い骨と軟骨の病気(骨軟骨異形成症)です。強い四肢の短縮・大きな関節の脱臼・狭い胸郭による呼吸の問題を特徴とし、呼吸不全が生命にとって最も大きな課題になります。多くは親から受け継いだものではなく、お子さんに新しく生じた変化(新生突然変異)で発症します。

  • 疾患の定義 → OMIM 108721、Orphanet ORPHA:56305、有病率は100万人に1人未満
  • 原因と仕組み → FLNB遺伝子の機能獲得型の変化。フィラミンBの異常が軟骨の発達を妨げます
  • 主な症状 → 四肢短縮・大関節脱臼・内反尖足・口蓋裂・狭い胸郭・気道軟化症
  • 位置づけ → 致死的なブーメラン異形成症・I型から軽症のラーセン症候群へと続くスペクトラムの中核
  • 診断・遺伝 → 骨のX線検査と遺伝子検査で確定。遺伝カウンセリングとモザイクの考え方

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1. アテロステオジェネシスIII型とは:定義と歴史的背景

アテロステオジェネシスIII型(Atelosteogenesis type III、略称AOIIIまたはAO3、OMIM 108721)は、全身の骨格の発達と、軟骨が骨に置きかわっていく過程(軟骨内骨化)に重い異常をきたす、常染色体顕性遺伝(優性遺伝)の骨軟骨異形成症です。手足の近い側(上腕や太もも)が特に強く短くなる四肢短縮型の低身長、特徴的な顔つき、股関節・膝関節・肘関節など大きな関節の生まれつきの脱臼、そして特徴的なX線所見を主な特徴とします。

💡 用語解説:常染色体顕性遺伝(じょうせんしょくたいけんせいいでん)

「常染色体」とは、性別を決める性染色体(X・Y)以外の染色体のことです。「顕性(以前は優性と呼ばれました)」とは、2本ある染色体のうちどちらか1本に変化があるだけで症状が現れる遺伝のしかたを指します。

理論上、親が変化を持っていれば子へ伝わる確率は50%です。ただしアテロステオジェネシスIII型の多くは、両親には変化がなくお子さんで初めて生じた新生突然変異(de novo)で発症します。

1990年、Sternらの研究グループは、それまで知られていたアテロステオジェネシスI型・II型と、耳口蓋指症候群II型の中間にあたる、あるいは双方の特徴が重なる独特な骨格異形成症を報告し、これを独立した病気として「アテロステオジェネシスIII型」と名づけました。I型・II型は呼吸器の強い低形成のため通常は周産期に致死的となるのに対し、III型は重い合併症を伴いながらも、新生児期以降に生き延びる可能性をもつ点が大きな違いです。実際、Sternらが最初に記載した5名のうち3名が乳児期を生き延びています。

医学文献で詳しく報告された症例は世界でも25例未満ときわめて少なく、その大部分は家族に同じ病気の人がいない孤発例(散発例)として発生しています。性別による発症のかたよりや、特定の人種・地域への集中は知られていません。

2. 原因遺伝子FLNBとフィラミンBの働き

アテロステオジェネシスIII型の根本的な原因は、第3染色体短腕(3p14.3)にあるFLNB遺伝子の、片方の染色体だけに生じた変化(ヘテロ接合性変異)です。FLNB遺伝子は、細胞の骨組みをつくる「フィラミンB」というタンパク質の設計図にあたります。

💡 用語解説:フィラミンB・アクチン・細胞骨格

細胞の中には「アクチン」という繊維が網の目のように張りめぐらされ、細胞の形や強さを保っています。これを細胞骨格と呼びます。フィラミンBは、このアクチンの繊維どうしを十字に結びつけて立体的な骨組みをつくる、いわば「結束バンド」のようなタンパク質です。

フィラミンBは単なる骨組みにとどまらず、細胞の外からの信号を内側へ伝える「足場(スキャフォールド)」としても働きます。特に、骨になる前の柔らかい組織である軟骨をつくる細胞(軟骨細胞)で強く働き、軟骨細胞が正しく増え・成熟し・骨へと置きかわる過程を精密に調整しています。

変化が集まる「ホットスポット」と機能獲得型のしくみ

アテロステオジェネシスIII型を起こすFLNB遺伝子の変化は、主にアミノ酸が別のアミノ酸に置きかわるミスセンス変異や、読み枠を保ったまま小さな部分が抜け落ちるインフレーム欠失です。これらはランダムに起こるのではなく、特定の領域に集中しています。具体的には、アクチン結合領域であるCH2ドメインをコードするエクソン2〜5とエクソン13、さらにフィラミンBのIgリピート14・15をコードするエクソン27〜33に多く認められます。

💡 用語解説:ミスセンス変異とインフレーム欠失

ミスセンス変異は、DNAの1文字が変わることでタンパク質をつくる「部品(アミノ酸)」が1つ別の種類に置きかわる変化です。タンパク質の形がわずかに変わり、働きに影響します。

インフレーム欠失は、設計図の途中が3文字単位で抜け落ち、全体の読み枠(フレーム)はそのまま保たれる変化です。タンパク質は短くなりますが、最後まで作られます。

ここが重要なポイントです。これらの変化は、フィラミンBの働きを単に「失わせる」のではありません。変化したフィラミンBはタンパク質として作られたまま細胞内に存在し、本来とは異なる異常な働きをもつ「機能獲得型(Gain-of-Function)」の効果を示すと考えられています。この異常なフィラミンBが軟骨細胞の正常な増殖・分化の流れを邪魔し、軟骨内骨化を根本から妨げることで、長管骨の低形成や関節の形成不全といった、この病気に特徴的な症状とX線所見を生み出します。

💡 用語解説:機能獲得型とハプロ不全はどう違う?

機能獲得型は、変化したタンパク質が「本来なかった悪い働き」を新たに身につけてしまう状態です。アテロステオジェネシスIII型やラーセン症候群はこのタイプです。

これに対しハプロ不全は、タンパク質の「量が足りなくなる」状態です。同じFLNB遺伝子でも、タンパク質が作られなくなる機能喪失型(ハプロ不全)の変化は、まったく別の病気である脊椎手根足根癒合症候群(常染色体潜性=劣性遺伝)を起こします。同じ遺伝子でも、変化のしかたで病気が大きく変わるのが特徴です。

3. 主な症状と合併症

アテロステオジェネシスIII型の赤ちゃんは、生まれたときから全身にさまざまな症状を示します。大きく、骨格・整形外科的な異常、特徴的な顔つき、そして命に直結する呼吸器の合併症に分けられます。

🦴 骨格・関節

  • 四肢の強い短縮(特に上腕・太ももの近位部)
  • 股・膝・肘など大関節の生まれつきの脱臼
  • 重い内反尖足(足が内側・上向きにねじれる)
  • 幅広い手足・太い指趾、屈指症・合指症

😶 顔つきの特徴

  • 広く前に突き出た額(前頭部突出)
  • 両目の間が広い(両眼開離)
  • 鼻の低形成・中顔面の平坦化
  • 小さなあご(小顎症)
  • 口蓋裂(およそ半数)

🫁 呼吸器(最も重要)

  • 肋骨の低形成による狭い胸郭(釣鐘型)
  • 肺の発育不良(肺低形成)
  • 喉頭気管支軟化症(気道が虚脱しやすい)
  • 無呼吸・呼吸不全のリスク

🧠 成長後に現れる課題

  • 低酸素による学習・言語の発達の遅れ
  • 運動発達の遅れ(起立・歩行の困難)
  • 伝音性難聴(耳小骨の形成異常)
  • 頸椎の不安定性(後述の脊髄症リスク)

💡 用語解説:肺低形成と喉頭気管支軟化症

肺低形成とは、肺が十分に育たない状態です。肋骨が低形成で胸郭が狭いと、胎児期に肺がうまく広がれず、生まれたあとの呼吸が苦しくなります。

喉頭気管支軟化症は、気道を支える軟骨が弱いために、息を吸うときの陰圧で気道がつぶれてしまう状態です。これらが重なることで、アテロステオジェネシスIII型では呼吸不全が生命にとって最大の課題となります。出生直後から高度な呼吸管理が必要になることが多く、生き延びた後も気道感染症をくり返しやすい傾向があります。

そのほか、長く座位や臥位を続ける重症の骨格異形成症では、不動に伴う代謝の変化から尿路結石ができることがあります。3歳のアテロステオジェネシスIII型のお子さんで、血尿をきっかけに巨大な膀胱結石とタンパク尿が見つかった報告があり、定期的な腎・泌尿器の超音波検査と、適切な栄養・水分管理の大切さが示されています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「呼吸」をいちばんに考える理由】

手足の短さや関節の脱臼は見た目に目立ちますが、アテロステオジェネシスIII型でお子さんの命を左右する最大の要因は、実は「胸郭の狭さ」と「気道の弱さ」による呼吸の問題です。ここを最初に見極められるかどうかが、その後の経過を大きく変えます。

だからこそ、出生前にこの病気が疑われたときは、出産する施設をどこにするか、生まれた直後にどのような呼吸サポートを準備しておくかを、あらかじめチームで話し合っておくことがとても重要だと、私は考えています。

4. 鑑別診断:FLNBスペクトラムと類似疾患

FLNB遺伝子の機能獲得型の変化は、ひとつの病気だけでなく、致死的な最重症型から生命を保てる軽症型まで、連続した重症度の幅(スペクトラム)を形づくります。アテロステオジェネシスIII型は、このスペクトラムのちょうど中核に位置します。

FLNB関連疾患の重症度スペクトラム(機能獲得型)

← 重症(致死的)軽症(生存・歩行可)→

ブーメラン異形成症

大腿骨の著明な湾曲。周産期致死性。

I型(AOI)

骨化遅延が高度。周産期致死性。

III型(AOIII)

本記事の疾患。重症だが生存例あり。

ラーセン症候群

最軽症。歩行可能・知能は正常が多い。

🔍 関連記事:スペクトラム最重症端のブーメラン異形成症、致死性最重症のI型(AOI)もあわせてご覧ください。

画像診断でとくに大切なのが、最重症のI型(AOI)との見分けです。AOIでは骨化の遅れが極度で、手足の短い骨(指骨など)の低形成が著明です。これに対し、III型では骨化の遅れが相対的に軽く、X線でも指骨がある程度確認できるのが強力な手がかりになります。あわせて、大関節の多発脱臼があること、広い額などの特徴的な顔つきを総合して判断します。

疾患名 遺伝形式 III型との主な鑑別点 予後
I型(AOI) 常染色体顕性(FLNB) 骨化遅延が極度で短管骨の低形成が著明。多発脱臼はIII型ほど目立たない 周産期致死性
ラーセン症候群 常染色体顕性(FLNB) 多発脱臼・頸椎後弯は共通だが全身症状は軽い。短管骨の異形成は軽微 生存可能・知能は正常が多い
II型(AOII) 常染色体潜性(SLC26A2) 「ヒッチハイカー母指」や第1・2趾間の大きな隙間が特徴。III型では通常みられない 周産期致死性
ジアストロフィー性異形成症 常染色体潜性(SLC26A2) ヒッチハイカー母指、耳介の嚢胞性腫脹が特徴 生存可能
脊椎手根足根癒合症候群 常染色体潜性(FLNB・機能喪失型) 同じFLNBでもハプロ不全による別系統。椎体・手根足根骨の癒合が特徴 非致死性
SLC26A2(硫酸トランスポーター)の変化による疾患群(AOIIなど)は常染色体潜性遺伝で、病気のしくみが根本的に異なります。臨床像がよく似るため、遺伝子検査による確定が誤診を防ぐ決め手になります。

5. 診断と遺伝子検査の進め方

アテロステオジェネシスIII型が疑われたら、まず全身の骨格X線検査を行います。長管骨の短縮と骨幹端の不規則な形、大関節の多発脱臼、椎体の扁平化(平坦化)などを評価します。特に頸椎では、S字状の変形や異常な後弯がみられることがあり、これは後で述べる脊髄症のリスク因子として重要です。最終的な確定と病態の解明には、遺伝子検査が決定的な役割を果たします。

出生前の検査と出生後の検査は分けて考える

🤰 出生前の検査

妊娠中期(おおむね20週以降)の胎児超音波検査で、四肢の強い短縮・狭い胸郭・関節の脱臼・内反尖足・突出した額・羊水過多などが手がかりになります。

確定には絨毛検査(CVS)や羊水検査で胎児の細胞を採取し、FLNB遺伝子を調べます。

👶 出生後の検査

血液などから取り出したDNAを用い、次世代シーケンス(NGS)による骨系統疾患などのパネル検査や、FLNB遺伝子のサンガーシーケンスで確定します。

FLNB遺伝子は、当院のFLNBを含むNGSパネル検査の対象遺伝子にも含まれています。

超音波の所見はジアストロフィー性異形成症やタナトフォリック骨異形成症など他の致死性骨軟骨異形成症とも似るため、画像だけでの確定は難しいことがあります。しかし、複数の大関節の脱臼がはっきりしており、かつ指骨が比較的よく骨化していれば、それはアテロステオジェネシスIII型を強く示すサインになります。

FLNB遺伝子に変化が見つかることは、診断名がつくだけでなく、将来起こりうる合併症(呼吸の急な悪化や頸椎の不安定性に伴う脊髄症など)を高い精度で予測し、先回りした管理計画を立てるための確かな羅針盤になります。出生前に検査を選ぶかどうかは、ご家族の価値観によって異なります。医師は中立な立場で情報をお伝えし、決定はご家族に委ねます。

6. 治療と長期管理

現時点で、アテロステオジェネシスIII型を根本から治す方法はありません。そのため医療の中心は、機能の障害に対する対症療法と、命に関わる合併症の予防を目的とした、多くの診療科が連携する集学的なケアになります。方針は、お子さん一人ひとりの重症度、とくに呼吸器の見通しに大きく左右されます。

呼吸不全への高度な集中治療

新生児期を乗り越えられるかを決める最大の壁が、胸郭低形成(肺低形成)と気道軟化症による呼吸不全です。出生直後の気道確保から始まり、新生児集中治療室(NICU)での人工呼吸管理が必要になることが少なくありません。気道がとても弱いため、持続的に陽圧をかける管理や、場合によっては気管切開による外科的な気道確保が命を守るうえで欠かせないこともあります。気道感染症をくり返しやすいため、迅速な治療と呼吸理学療法も継続的に求められます。

頸椎の不安定性と脊髄症の予防

💡 用語解説:頸部脊髄症と全身麻酔の注意

FLNB関連疾患でとくに警戒すべき合併症が、頸椎の不安定性や後弯による脊髄の圧迫(頸部脊髄症)です。慢性的に脊髄が圧迫されると、手足の麻痺や筋力低下が起こります。症状がない乳児でも、画像で頸椎の不安定性が確認されれば、予防的な後方固定術が行われることがあります。

手術や検査で全身麻酔を行う際、気管挿管で首を強く後ろに反らせると脊髄を傷つける危険があります。事前に頸椎の評価を済ませ、首の動きを最小限にする特別な配慮が不可欠です。

そのほか、股関節脱臼に対する手術的整復、内反尖足や側弯への装具療法や矯正手術が、運動発達を支える目的で行われます。口蓋裂がある場合は形成外科・耳鼻咽喉科・歯科・言語聴覚士からなるチームが、安全な摂食指導から段階的な口蓋形成術までを計画します。難聴の頻度が高いため、早期の聴覚スクリーニングと補聴器などの支援も、言語発達を守るうえで重要です。

生命予後と長期的な見通し

全体としては予後不良な重い病気で、多くは死産となるか、生後数時間から数週間のうちに進行性の呼吸不全で亡くなります。しかし、I型・II型のように一律に致死的とされるのとは異なり、すべての症例が死に至るわけではないという臨床的な多様性があります。Sternらの最初の5例のうち3例が乳児期を生き延び、さらに高度な医療支援を受けながら成長し、自ら子どもをもうけた母親とその息子という、成人期に到達した記録も存在します。長期生存例では、乳児期の低酸素による発達の遅れや、関節拘縮・骨変形による運動の制約が課題となり、生涯にわたる集学的な医療の伴走が欠かせません。

7. 遺伝カウンセリングと再発のリスク

アテロステオジェネシスIII型は常染色体顕性遺伝の病気ですが、遺伝カウンセリングでは「50%で遺伝する」という単純な説明が当てはまらないことが多く、繊細な評価が必要です。臨床遺伝専門医による説明と、遺伝カウンセリングが役立ちます。

①新生突然変異と孤発例

新たに診断される患者の大多数は、両親とも健康で、家系内に同じ病気の人がいない孤発例です。これは生殖細胞(精子・卵子)ができる過程や受精直後に、FLNB遺伝子に新しく偶然の変化(新生突然変異/de novo)が生じたことを意味します。両親の血液から該当する変化が検出されず、純粋な新生突然変異と確認できれば、次のお子さんで再発するリスクは一般集団とほぼ同じレベルまで下がります。

②生殖細胞系列モザイクと体細胞モザイク

💡 用語解説:モザイクとは

モザイクとは、体の一部の細胞にだけ変化があり、他の細胞にはない状態です。精子や卵子をつくる細胞の一部にだけ変化がある場合を生殖細胞系列モザイク、体の細胞の一部にある場合を体細胞モザイクと呼びます。

親の血液検査が陰性でも、生殖細胞系列モザイクの可能性は完全には否定できません。このため、健康な両親から患児が生まれた場合の再発リスクはゼロではなく、経験的に数%程度と見積もられます。この事実は、次のお子さんで侵襲的な出生前診断を検討する十分な根拠になります。

さらに注意が必要なのが、親自身が気づかないうちにFLNB変化の体細胞モザイクをもっているケースです。FLNB関連疾患では、ごく軽い症状(ラーセン症候群に近い、左右非対称な所見など)で成人した親が、変化を持たない正常な細胞が混ざっていたために軽症で済み、その精子に変化が含まれていたために、より重い病気の子をもうけた例が報告されています。実際、ラーセン症候群のモザイクの男性で、精子のDNAを次世代シーケンスで詳しく調べ、伝達リスクを個別に評価できた報告もあります。

このため患児の診断時には、両親に対して詳しい身体診察(関節の過柔軟性や軽い顔つきの特徴)や骨格X線検査を行い、隠れたモザイク保因者でないかを確認します。もし親がモザイク保因者と判明すれば、次のお子さんへのリスクは数%から最大で50%(常染色体顕性遺伝の理論値)まで上がる可能性があります。

出生前診断という選択肢

家族内ですでに変化が同定されている場合、次のお子さんでは絨毛検査・羊水検査による確定的な出生前診断が選択肢となります。また、FLNB遺伝子は当院のダイヤモンドプランインペリアルプランの対象遺伝子に含まれています。どの検査を選ぶか、あるいは選ばないかは、ご家族で話し合ってお決めください。医師は中立・非指示的な立場で情報提供を行います。

当院でNIPTを受けた方には互助会(8,000円)が適用され、陽性となった場合の羊水検査費用が全額補助されます

8. よくある誤解

誤解①「III型も必ず命を落とす」

I型・II型は通常致死的ですが、III型は集中治療によって生き延びる例があり、成人に到達した記録もあります。一律に致死的と決めつけることはできません。

誤解②「FLNB=ひとつの病気」

同じFLNB遺伝子でも、変化のしかたで病気が変わります。機能獲得型はI型〜ラーセン症候群、機能喪失型は別の劣性疾患を起こします。

誤解③「両親が健康だから遺伝ではない」

多くは新生突然変異ですが、親の隠れたモザイクの可能性があり、再発リスクはゼロではありません。両親の評価が重要です。

誤解④「不完全骨形成症と同じ」

名前が似ていますが、骨形成不全症(osteogenesis imperfecta)とは別の病気です。原因遺伝子も病態も異なるため、混同しないことが大切です。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「数字」だけでは語れないこと】

アテロステオジェネシスIII型は、文献上「多くは致死的」と書かれます。けれども、同じFLNBの病気でも一人ひとりの経過は大きく異なり、成人にまで到達した方もいます。私が大切にしているのは、確率や統計だけでお伝えするのではなく、「その結果をご家族がどう受け止め、どう生きていくか」までを一緒に考えることです。

この病気では、親御さんの隠れたモザイクという複雑な遺伝のしくみが、次のお子さんへの見通しを左右することがあります。だからこそ、正確な遺伝子検査と丁寧な遺伝カウンセリングが、ご家族が後悔の少ない選択をするための土台になると、私は信じています。

関連する疾患(フィラミン遺伝子ファミリー)

FLNB(フィラミンB)と兄弟関係にあるFLNA(フィラミンA)の変化でも、さまざまな疾患が起こります。FLNA関連の疾患の多くはX連鎖遺伝の形をとります。

遺伝子FLNA遺伝子フィラミンAをコードする、FLNBと相同性の高い遺伝子です。関連疾患耳口蓋指症候群I型FLNA関連の骨格・顔面の異常を特徴とする疾患です。関連疾患耳口蓋指症候群II型顔つきの特徴がアテロステオジェネシスIII型と類似します。関連疾患前頭骨幹端異形成症1型FLNA変化による骨格異形成症のひとつです。関連疾患メルニック・ニードルズ症候群FLNA関連の骨格異形成症で、特徴的な骨所見を示します。関連疾患終末性骨異形成症FLNA関連の四肢末端の骨形成異常を特徴とします。関連疾患脳室周囲結節性異所性1型FLNA関連の脳神経系の発生異常を特徴とします。関連疾患X連鎖型心臓弁異形成FLNA関連で心臓弁の異常をきたす疾患です。関連疾患先天性短腸症FLNA関連で腸管の発生異常をきたす疾患です。関連疾患神経性腸偽閉塞FLNA関連で腸の運動障害をきたす疾患です。

よくある質問(FAQ)

Q1. アテロステオジェネシスIII型は遺伝しますか?

常染色体顕性遺伝の病気ですが、報告されている多くは両親に変化のない新生突然変異(de novo)によるものです。純粋な新生突然変異と確認できれば、次のお子さんの再発リスクは一般集団とほぼ同じまで下がります。ただし親の生殖細胞系列モザイクの可能性は完全には否定できず、再発リスクは経験的に数%程度と見積もられます。

Q2. I型・II型と何が違うのですか?

I型(FLNB)とII型(SLC26A2)は通常、周産期に致死的です。III型は重症ですが、集中治療によって新生児期以降に生き延びる例があり、成人に到達した記録もあります。画像では、III型は骨化の遅れが相対的に軽く、指骨がある程度確認できる点が見分けの手がかりになります。

Q3. どのように診断されますか?

全身の骨格X線検査で特徴的な所見(大関節の多発脱臼・指骨の骨化など)を評価し、FLNB遺伝子を調べる遺伝子検査(NGSパネルやサンガーシーケンス)で確定します。遺伝子検査は、似た病気であるSLC26A2関連疾患などとの区別を明確にする決め手になります。

Q4. 出生前に診断できますか?

妊娠中期以降の胎児超音波検査で、四肢の強い短縮・狭い胸郭・関節脱臼・羊水過多などの所見から疑われることがあります。確定には絨毛検査や羊水検査でFLNB遺伝子を調べます。検査を選ぶかどうかはご家族の価値観によります。詳細は臨床遺伝専門医にご相談ください。

Q5. 生命にとって最も注意すべき合併症は何ですか?

最大の課題は、狭い胸郭による肺低形成と、気道軟化症による呼吸不全です。これに加え、頸椎の不安定性に伴う頸部脊髄症にも注意が必要です。出生直後の気道確保と呼吸管理、頸椎の評価を含めた先回りの管理が予後を大きく左右します。

Q6. 全身麻酔のとき、特別な注意は必要ですか?

必要です。頸椎が不安定なことがあるため、気管挿管の際に首を強く後ろに反らせると脊髄を傷つける危険があります。手術や検査の前には頸椎の評価を済ませ、首の動きを最小限にする特別な麻酔手技で行うことが大切です。

Q7. 両親が健康なら次の子は心配いりませんか?

多くは新生突然変異ですが、再発リスクはゼロではありません。親の生殖細胞系列モザイクで数%程度、また親がごく軽症の体細胞モザイク保因者であれば最大で50%になることもあります。患児の診断時には両親の詳しい診察やX線評価を行い、隠れた保因者でないかを確認します。

Q8. 骨形成不全症と同じ病気ですか?

違います。名前が似ているため混同されやすいですが、骨形成不全症(osteogenesis imperfecta)は主にコラーゲンの遺伝子の異常で骨がもろくなる別の病気です。アテロステオジェネシスIII型はFLNB遺伝子の機能獲得型の変化が原因で、病態も経過も異なります。

🏥 希少疾患の診断・遺伝カウンセリングについて

アテロステオジェネシスIII型をはじめとする希少な骨系統疾患・遺伝性疾患に関するご相談は、
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にご相談ください。

関連記事

参考文献

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  • [3] MedlinePlus Genetics. Atelosteogenesis type 3. [MedlinePlus]
  • [4] Robertson S, et al. FLNB-Related Disorders. GeneReviews®. University of Washington, Seattle. [GeneReviews]
  • [5] Bicknell LS, et al. Mutations in two regions of FLNB result in atelosteogenesis I and III. Hum Mutat. 2006;27(7):705-710. [PubMed]
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  • [8] Atelosteogenesis type III: orthopedic management. J Pediatr Orthop B. 2017. [PubMed]
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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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