目次
末端骨異形成症(Terminal Osseous Dysplasia, TOD)は、FLNA遺伝子のエクソン31末端に生じる特定のスプライシング異常によって引き起こされる、X連鎖優性遺伝形式の超希少な骨系統疾患です。男性胎児では発生初期に致死的となるため、出生後に診断される患者はすべて女性という極めて特徴的な背景を持ち、手足の末端骨格異常・顔面の色素沈着・乳児期の再発性指趾線維腫という三徴を呈します。
Q. 末端骨異形成症(TOD)とはどんな病気ですか?まず結論を教えてください
A. X染色体上のFLNA遺伝子のスプライシング異常を原因とする、超希少な遺伝性骨格症候群です。男児胎児では発生初期に致死的となり、出生後に診断される患者はすべて女性です。手足の末端骨の変形・顔面の色素沈着・乳幼児期の指趾線維腫という三徴に加え、近年は拘束型心筋症・左室緻密化障害といった重篤な心臓合併症の存在も明らかになっています。
- ➤疾患の定義 → OMIM 300244(TODPD)、Xq28、男児致死、女性のみ発症
- ➤分子メカニズム → FLNAエクソン31の c.5217G>A/c.5217+5G>C による16アミノ酸欠失
- ➤主な症状 → 末端骨異形成・色素異常・再発性指趾線維腫・心筋症・間質性肺疾患
- ➤鑑別診断 → OPDスペクトラム障害(OPD1・OPD2・FMD・MNS)との違いを詳解
- ➤診断・管理 → 次世代シーケンスによる確定診断と多職種連携による生涯フォロー
1. 末端骨異形成症(TOD)とは:疾患の定義と歴史的背景
末端骨異形成症は、英語名「Terminal Osseous Dysplasia」の頭文字をとって「TOD」と略されます。国際的な遺伝性疾患データベースOMIMでは「Terminal Osseous Dysplasia with Pigmentary Defects(TODPD)」として登録番号300244で記載されており、文献によっては「Digitocutaneous dysplasia」とも呼称されます。Orphanetでも独立した希少疾患として登録されている、極めて稀な遺伝性骨系統疾患です。
💡 用語解説:OMIM(オミム)
OMIM(Online Mendelian Inheritance in Man)は、ジョンズ・ホプキンス大学が運営する遺伝性疾患と遺伝子の世界標準データベースです。各疾患・各遺伝子には6桁の固有番号(MIM番号)が付与され、研究論文と臨床情報が日々更新されています。詳しくはOMIMとはなにかのページで解説しています。
TODを定義づける3つの臨床的特徴(三徴)
TODの臨床診断において出発点となるのは、以下の3つの主要症状の組み合わせです。
- ➤末端性の骨格異形成——手足の末端の骨(指趾・手根足根骨)が著しく変形・短縮し、関節拘縮や長管骨の湾曲を伴います。
- ➤顔面・頭皮の色素沈着異常——とくにこめかみ周辺や頭皮に暗褐色の色素斑が現れます。
- ➤再発性乳児期デジタル線維腫症——指趾に良性の線維腫が多発し、外科切除しても再発を繰り返すという特徴を持ちます。
これらに加え、同じFLNA変異を持つ家系内であっても患者ごとに重症度や症状の組み合わせが大きく異なる強い表現型多様性(phenotypic variability)がTODの大きな特徴です。母親が無症状あるいはごく軽微な所見しか示さないのに、娘が重症型を発症するケースも報告されており、診断には注意深い家族歴の聴取が欠かせません。
X連鎖性で男性胎児には致死的——患者がすべて女性である理由
TODの原因遺伝子FLNAは、X染色体長腕の末端(Xq28領域)に位置します。X連鎖優性(顕性)遺伝形式をとり、変異したFLNA遺伝子を持つ男性胎児は発生のごく初期段階で致死的となるため、出生に至り臨床的に同定される患者は例外なくすべて女性です。
この「男性致死性」と「女性のみ発症」という疾患パターンは、後述するX染色体不活化(XCI)の偏りという生物学的メカニズムによって理解できます。TODは、Melnick-Needles症候群などと並んで「胎児期男性致死型X連鎖優性遺伝」を示す代表的な希少疾患として知られています。
2. 原因遺伝子FLNAと分子病態メカニズム
TODの病態を理解するうえで核心となるのが、FLNA遺伝子の極めて特異的なスプライシング変異と、それが生み出す異常タンパク質の構造的欠陥です。FLNA変異が引き起こす疾患群(フィラミノパチー)の中でも、TODは特に限定的な変異パターンを持つ点で際立っています。
🔍 関連記事:FLNA遺伝子の総合解説|スプライシング変異とは
💡 用語解説:FLNA遺伝子とフィラミンAタンパク質
FLNA(Filamin A)はX染色体(Xq28)に位置する遺伝子で、全身の細胞に広く発現する280kDaの巨大な「アクチン結合タンパク質」であるフィラミンAをコードしています。フィラミンAは細胞の骨組み(細胞骨格)を構築するアクチン繊維を網目状に架橋して細胞の形・接着・移動を物理的に制御するほか、150種類以上のシグナル伝達分子と結合する巨大な「足場(スキャフォールド)」としても機能します。神経細胞の遊走、心臓弁の形成、骨格のリモデリングなど、発生のあらゆる場面で欠かせない役割を担っています。
TODを引き起こす「ピンポイント」のスプライシング異常
FLNA変異による疾患群(後述するOPDスペクトラム障害など)の原因変異が遺伝子の様々な部位に分布するのに対し、TODを引き起こす変異は驚くほど限定されています。これまでに報告された大部分の症例で同定されているのは、FLNAエクソン31の最後の塩基に生じる一塩基置換 c.5217G>Aという、ただ一つの再発性変異です。さらに2021年には、同じ表現型を示す患者でイントロン側の c.5217+5G>C という新規変異も報告されました。
💡 用語解説:スプライシング変異とは
遺伝子はDNAからRNAへ写し取られたあと、不要な「イントロン」を切り取り必要な「エクソン」をつなぎ合わせる「スプライシング」という工程を経て、タンパク質を作る設計図(成熟mRNA)になります。スプライシング変異とは、このつなぎ目に変化が生じてエクソンの一部が抜け落ちたり、不要な配列が残ったりする変異です。TODのc.5217G>A変異は塩基が1つ変わるだけですが、その結果、エクソン31の末尾48塩基がmRNAから欠失する「クリプティックスプライス部位の異常活性化」を引き起こします。詳細はスプライスバリアントの解説ページをご参照ください。
この異常スプライシングの結果、翻訳されたフィラミンAタンパク質からは16個のアミノ酸(p.Val1724_Thr1739del)がインフレームで欠失します。この欠落部分は、フィラミンAの構造上「フィラミン反復配列15(Filamin repeat 15)」と呼ばれる領域の表面にあたります。重要なのは、c.5217G>A も c.5217+5G>C も結果として全く同じ16アミノ酸の欠失を生み出すという点で、TODの病態がこの特定の構造欠陥に強く依存していることを決定的に裏付けています。
機能獲得型変異——「量が足りない」のではなく「邪魔をする」
同じFLNA遺伝子の変異であっても、その「効き方」によって全く異なる疾患を引き起こします。TODの16アミノ酸欠失型フィラミンAは、単純に機能を失っているのではなく、反復配列15の表面構造が変化して特定のパートナータンパク質との結合が破綻し、骨格発生や細胞増殖のシグナル伝達を撹乱する「機能獲得型(gain-of-function)」変異と考えられています。
💡 用語解説:機能獲得型変異 vs 機能喪失型変異
機能獲得型(gain-of-function)変異とは、変異タンパク質が「本来とは違う、または異常に強い・新しい働き」を持ってしまう変異です。TODやOPDスペクトラム障害がこのタイプにあたります。
機能喪失型(loss-of-function)変異とは、タンパク質の機能そのものが失われる変異です。同じFLNA遺伝子でも機能喪失型変異が起きると、脳室周囲結節状異所性灰白質(PVNH)という全く別の疾患になります。詳しくは機能喪失型突然変異の解説をご覧ください。
3. X連鎖優性遺伝とX染色体不活化(XCI)の偏り
TODが「男性胎児には致死的」「女性は生き延びるが多彩な症状を呈する」「同じ家系でも重症度がバラつく」「線維腫だけが特定の組織に出る」という特異な臨床像を示す根本的な理由は、X染色体不活化(X-chromosome inactivation: XCI)という、女性に固有の生命現象によって説明されます。
🔍 関連記事:X連鎖遺伝の基本|X染色体不活化(XCI)の詳細|エスケープ遺伝子
💡 用語解説:X染色体不活化(XCI)とライオニゼーション
女性は2本のX染色体を持っていますが、両方が同時にフル稼働すると遺伝子の発現量が男性(X染色体1本)の2倍になってしまい、生命活動のバランスが崩れてしまいます。これを防ぐため、女性の体細胞ではごく早い胚発生段階で2本のうち1本がランダムに不活化(読まれない状態に)されます。この現象は提唱者Mary Lyon博士にちなんで「ライオニゼーション」とも呼ばれます。本来はどちらの親由来のX染色体が不活化されるかは細胞ごとにランダム(ほぼ50:50)ですが、特定の状況下では大きく偏ることがあります。
なぜ女性は生存できるのか——「偏った不活化(SXCI)」のしくみ
男児胎児がFLNA変異を持つと致死的になるのは、X染色体が1本しかないため変異の影響を逃れる細胞が存在せず、フィラミンAという必須タンパク質の機能異常を全身でカバーできないからです。一方、女性は2本のX染色体を持っているため、変異FLNAを持つX染色体が選択的に不活化される極端な偏り(Skewed X-Chromosome Inactivation: SXCI)が起こります。
TOD患者の血液や皮膚の正常組織を調べると、変異アレル(変異を持つX染色体)はほぼ完全に不活化され、正常なFLNAアレルだけが働いている細胞が体内の大部分を占めていることが確認されています。これは、変異アレルを強く発現する細胞が増殖や生存において選択的に不利になるためと推測されており、結果として大部分の細胞で正常なフィラミンAが産生されることが、TOD患者が胎児期を生き延びられる決定的な理由です。
SXCIが組織ごとに違う——「指の線維腫」と「心筋症」が起こる理由
SXCIの「偏り方」は組織によって異なることが、TODの臨床像を読み解くカギです。患者の正常皮膚の線維芽細胞では変異アレルがほとんど発現していないのに対し、外科的に切除された「指の線維腫」の細胞では変異アレルが明確に発現していることが報告されています。つまり、何らかの局所的事情で変異アレルが活性化された細胞集団が増殖し、腫瘍を形成しているのです。これがTOD特有の「皮膚にだけ再発性の線維腫ができる」という現象の根本原因です。
さらに重要なのが心臓組織です。ある症例では血液・皮膚・肺では変異アレルが極端に不活化されていたにもかかわらず、心臓組織では変異アレルが有意に発現(一部エスケープ)していました。この組織特異的な変異タンパク質の発現が、近年明らかになった拘束型心筋症や左室緻密化障害の発症基盤になっていると考えられています。
体細胞モザイクの母親と重症の娘——軽症化のしくみ
臨床的にはほぼ無症状で、口腔小帯の異常などごく軽微な所見しかない母親から、重症の娘が生まれる事例も報告されています。これは母親が体細胞モザイク(somatic mosaicism)——つまり「変異アレルを持つ細胞」と「持たない細胞」が体内に混在している状態——で、変異細胞の割合が低いために軽症で済んでいると考えられます。家族歴の聴取において母親の口腔内(多発性口腔小帯)や皮膚をしっかり診察することが、家系内のリスク評価において重要な意味を持ちます。
4. 主な症状と臓器別合併症の詳細
TODは「骨格と皮膚の症候群」として歴史的に記述されてきましたが、近年の症例報告の蓄積により、心血管系・呼吸器系・神経系を巻き込む全身性の結合組織・臓器形成不全としての側面が明らかになってきました。臨床的には軽症例から致死的合併症を伴う重症例まで幅広いスペクトラムを示します。
🦴 骨格系(末端骨優位)
- 屈指症・短指症・斜指症
- 母指(足趾)低形成・足趾の重なり
- 手根骨・足根骨の癒合と骨化遅延
- 前腕・下腿の中間部湾曲・低身長
- 多発性関節拘縮・胸郭低形成・側弯症
🖐️ 皮膚・毛髪
- 再発性乳児期デジタル線維腫症
- こめかみ・頭皮の暗褐色色素斑
- 下肢のブラシュコ線状の白斑
- 頭皮の平滑筋過誤腫
- 頭髪脱毛を伴う症例も
👶 頭蓋顔面・口腔・感覚器
- 眼間開離・中顔面低形成
- 耳介低位・鼻根部陥凹・眼瞼下垂
- 虹彩・眼瞼コロボーマ
- 多発性肥厚性口腔小帯(軽症例の唯一の所見になることも)
- 耳小骨奇形による伝音性難聴
❤️ 心血管・呼吸器・神経
- 心室・心房中隔欠損/肺動脈狭窄
- 拘束型心筋症・左室緻密化障害
- 大動脈基部拡張
- 小児期発症の間質性肺疾患
- てんかん発作
💡 用語解説:再発性乳児期デジタル線維腫症(IDF様腫瘍)
生後数ヶ月以降に手指・足趾に多発する良性の線維性腫瘤で、外科的に切除しても高頻度で同じ部位に再発するという臨床的に厄介な特徴を持ちます。ただし、ほとんどの場合小児期を迎える頃には自然に退縮・消失し、それ以降は再発しなくなります。一般的な乳児デジタル線維腫症(IDF)では細胞内に特徴的な「封入体」が見られますが、TODに伴う線維腫では封入体を認めないという決定的な病理組織学的違いがあります。
💡 用語解説:拘束型心筋症と左室緻密化障害
拘束型心筋症は、心臓の壁が硬くなって拡張時にうまく広がれず、血液を十分に取り込めなくなる心筋症です。心不全や不整脈を引き起こし、生命予後に直結します。
左室緻密化障害(noncompaction cardiomyopathy)は、左心室の内側の筋肉が胎児期の網目状の状態から正常な「緻密」な構造へ十分に発達せず、海綿状の異常な構造のまま残る心筋症です。心機能低下や致死的不整脈、血栓塞栓症のリスクがあります。TODではフィラミンAが心臓組織の機械的刺激の伝達やマトリックス再構築に深く関与しているため、これらの心筋症が組織特異的に発症します。
5. OPDスペクトラム障害との鑑別診断
TODは、同じFLNA遺伝子の機能獲得型変異によって引き起こされる「X連鎖性耳口蓋指(Otopalatodigital: OPD)スペクトラム障害」と呼ばれる疾患群の一員に位置づけられています。この疾患群には、TODに加えて4つの症候群が含まれ、表現型に重なる部分があるため精密な鑑別が必要です。
OPDスペクトラム障害5疾患の比較表
OPDスペクトラム障害はいずれもFLNA変異を原因としますが、男性の生存予後・主たる骨格症状・特異所見に明確な違いがあります。皮膚色素異常と再発性指趾線維腫が同時に存在する点は、TODに固有の臨床所見であり、ほかのOPDスペクトラム障害とTODを分ける最大の決め手となります。
機能獲得型と機能喪失型——FLNAの2つの顔
同じFLNA遺伝子の変異でも、機能獲得型変異はOPDスペクトラム障害(TODを含む)を引き起こすのに対し、機能喪失型変異は神経遊走障害による「X連鎖性脳室周囲結節状異所性灰白質(PVNH1)」という、まったく別の疾患を生み出します。PVNH患者は脳内の灰白質異所症に加え、関節過可動・大動脈拡張・てんかんなどを呈し、男児は胎内致死となります。
原則として、機能獲得型のOPDスペクトラムと機能喪失型のPVNHは相反する変異効果であるため、互いに排他的な疾患と考えられてきました。しかしごくまれに、特定のFLNAミスセンス変異が異常なスプライシング産物(機能喪失)とミスセンス変異産物(機能獲得)の両方を生み出し、母子4人全員がPVNHとMelnick-Needles症候群の骨格症状をすべて併発するという例外的な家系も報告されています。これはフィラミノパチー研究における重要な転換点となりました。
FLNA関連疾患——骨格以外にも広がる表現型
FLNAの変異は骨格・皮膚以外にも多様な臓器に影響を及ぼし、以下のような疾患を引き起こすことが知られています。鑑別診断や全身評価において、これらの可能性を念頭に置くことが重要です。
- ➤X連鎖性心臓弁形成異常——心臓弁の形成に関わる病態
- ➤先天性短腸症候群——消化管の発生異常
- ➤神経性腸管偽閉塞症——腸管運動の機能不全
- ➤脳室周囲結節状異所性灰白質(PVNH1)——機能喪失型による神経遊走障害
6. 診断と遺伝子検査の進め方
TODの確定診断には、特徴的な臨床所見の確認と分子遺伝学的検査によるFLNA変異の同定、必要に応じた病理組織学的検討の組み合わせが必要です。表現型の多様性が大きいため、軽症例では見過ごされるリスクもあり、体系的な評価が重要となります。
出生前診断——FLNA変異が家系内で既知の場合
TODは女性のみが発症する疾患ですが、罹患女性の母親も保因者である可能性があり、また罹患女性が次子を望む場合には男児胎児では胎内致死、女児胎児では発症リスクという重い意味を持つ遺伝形式です。家系内で既知のFLNA変異がある場合、出生前診断としては以下の選択肢があります。
- ➤NIPT(新型出生前検査)——当院ではFLNA遺伝子を含む単一遺伝子疾患を対象としたインペリアルプランを提供しています。母体血からの非侵襲的なスクリーニングです。
- ➤絨毛検査・羊水検査——既知の変異の確定診断には絨毛検査または羊水検査による胎児DNAの直接解析が用いられます。
- ➤胎児超音波検査——重症例では妊娠中期以降に四肢異常・成長制限などが描出されることがあります。
出生前診断は「検査をすれば必ず安心が得られる」ものでも「特定の選択を勧めるためのもの」でもありません。表現型が幅広く、軽症から重症まであるTODのような疾患では、出生前に変異の有無を知ることが必ずしもご家族にとっての利益になるとは限らず、検査前の十分な遺伝カウンセリングを通じて、ご家族自身が納得して選択できる環境が大切です。
出生後の確定診断——分子遺伝学的検査が最も確実
出生後にTODが疑われた場合、確定診断のゴールドスタンダードはFLNA遺伝子のシーケンス解析です。臨床的に疑いがある場合、現在では次世代シーケンシング(NGS)を用いた包括的解析が第一選択として推奨されています。
💡 用語解説:次世代シーケンシング(NGS)とトリオ解析
次世代シーケンシング(NGS)は、複数の遺伝子(あるいは全エクソン領域)を一度に網羅的に解読する技術で、骨系統疾患のように原因遺伝子の候補が複数ある場合に特に有用です。トリオ解析とは、お子さん本人と両親3人を同時に検査することで、新生突然変異(de novo variant)や両親由来の変異を効率よく検出する方法です。TODのほとんどは新生突然変異またはX染色体不活化により母親で発症していない変異の継承であるため、トリオ解析が威力を発揮します。
病理組織学的鑑別——「封入体の有無」が決め手
指趾の線維腫を認めた場合、一般的な乳児デジタル線維腫症(IDF)・ケロイド・若年性手掌足底線維腫症・肥厚性指症などとの鑑別が必要です。前述のとおり、IDFに特有の細胞質内封入体がTODの線維腫では認められないことが、病理組織学的な最も重要な指標となります。さらに、TODでは皮膚色素異常・骨格異常・多発性口腔小帯といった全身所見が必ず存在するため、線維腫を診たら必ず全身の総合評価を行うことが診断への近道です。
7. 治療と長期管理プロトコル
TODに対する根本的治療はまだ存在しませんが、骨格・皮膚・心血管・呼吸器・神経系にわたる多臓器障害に対する集学的な対症療法と継続的なモニタリングが、患者さんのQOLと予後を大きく左右します。小児科・整形外科・皮膚科・循環器科・呼吸器科・耳鼻咽喉科・臨床遺伝科による多職種チーム医療の構築が望まれます。
🦴 整形外科的介入
関節拘縮や四肢変形に対する装具療法、必要に応じた外科的矯正手術が運動機能の維持に寄与します。進行性側弯症に対しては定期的な側面X線評価とブレース療法、進行例では外科的介入を検討します。低身長への対応も含め、生涯にわたる継続的な評価が大切です。
❤️ 循環器科スクリーニング
最重要事項。構造的心疾患のみならず、致死的不整脈や心不全に直結する拘束型心筋症・左室緻密化障害のリスクを念頭に、診断時の心エコー・心電図・ホルター心電図に加え、軽症の保因者である母親も含めて生涯にわたる定期的な心機能モニタリングが強く推奨されます。
🖐️ 皮膚科・形成外科
指趾の線維腫は機能障害や疼痛がある場合に切除を検討しますが、再発率が高いことと小児期に自然退縮する傾向があることを十分に説明したうえで、適応を慎重に判断します。色素斑への対応は美容的観点が中心となり、無理な介入は避けます。
🫁 呼吸器・神経モニタリング
小児期発症の間質性肺疾患のリスクを念頭に、慢性的な低酸素血症やばち指・労作時呼吸困難の出現に注意します。てんかん発作の出現には小児神経科による評価が必要です。これらの症状は必ず全例で出るわけではありませんが、可能性を見落とさない管理が重要です。
「症状がない母親」の心機能フォローアップが特に重要
2021年の症例報告では、線維腫と軽度の骨格異常しか示さない母親において、心機能スクリーニングの結果左室緻密化障害が発見されました。表面上は軽症に見える保因者にも心筋症が潜在しうるという事実は、家系全体への先制的スクリーニングの重要性を強く示しています。TODの診断が家系内についた時点で、罹患女性本人だけでなく、母親や姉妹・娘などの女性家族にも詳細な心エコー・心電図検査を提案することが、致死的合併症の早期発見に直結します。
8. 遺伝カウンセリングと家族支援
TODはX連鎖優性遺伝形式をとり、表現型多様性が大きく、母親が体細胞モザイクである可能性も含めて、家系内のリスク評価は複雑です。臨床遺伝専門医による緻密な遺伝カウンセリングの提供が不可欠です。
- ➤母親の評価:罹患女性の母親は、無症状であっても変異の保因者である可能性があります。詳細な皮膚・口腔診察、骨格画像評価、そして心機能評価を含めた包括的な評価が望まれます。
- ➤再発リスクの説明:罹患女性が将来子どもを望む場合、男児胎児では胎内致死、女児胎児では発症(重症度はランダム)のリスクが理論上それぞれ50%です。自然流産や死産のリスクが高まることを丁寧に説明する必要があります。
- ➤出生前診断の選択肢:家系内で変異が同定されていれば、絨毛検査・羊水検査・NIPTいずれも検討可能です。ただし、検査を受けるかどうか、結果をどう受け止めるかは、ご家族自身が時間をかけて決定すべき事柄です。
- ➤心理社会的支援:希少疾患であるため情報が限られ、ご家族の孤立感は大きくなりがちです。患者会や同病者ネットワーク、長期的なフォローアップ体制への接続も遺伝カウンセラーが担う重要な役割です。
9. よくある誤解と臨床遺伝専門医からのメッセージ
誤解①「FLNA変異=歌舞伎症候群じゃないの?」
歌舞伎症候群の主要原因遺伝子はKMT2DとKDM6AでありFLNAではありません。FLNA変異は、変異の種類と部位によってTOD・OPDスペクトラム障害・PVNHなどまったく異なる複数の疾患を引き起こします。正確な変異の評価が不可欠です。
誤解②「指の線維腫は普通のIDFでしょう?」
再発を繰り返す指趾の線維腫を診て一般的な乳児デジタル線維腫症(IDF)と判断するのは危険です。病理組織学的に封入体がないこと、全身所見(色素異常・骨格・口腔小帯)が併存することを確認しなければ、TODを見逃します。
誤解③「母親が無症状なら遺伝性ではない」
TODでは母親が体細胞モザイクで臨床的にほぼ無症状のことがあり、口腔小帯の異常など微細な所見しか示さないケースが報告されています。「親が健康だから遺伝の話ではない」と決めつけることは、家系内リスクの見逃しにつながります。
誤解④「骨と皮膚の病気だから心臓は関係ない」
2021年以降、TOD患者および軽症保因者にも拘束型心筋症・左室緻密化障害という生命予後を左右する心筋症が発症することが明らかになりました。診断がついた時点で家系全体の心機能評価が必須です。
よくある質問(FAQ)
🏥 希少遺伝性疾患・骨系統疾患のご相談
TODをはじめとする希少遺伝性疾患の診断・遺伝カウンセリング・出生前診断について、
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にご相談ください。
関連記事
参考文献
- [1] Sun Y, et al. Terminal osseous dysplasia is caused by a single recurrent mutation in the FLNA gene. Am J Hum Genet. 2010;87(1):146-153. [PMC2896768]
- [2] OMIM #300244. Terminal osseous dysplasia with pigmentary defects. Johns Hopkins University. [OMIM]
- [3] MedlinePlus Genetics. Terminal osseous dysplasia. National Library of Medicine. [MedlinePlus]
- [4] Orphanet. Terminal osseous dysplasia-pigmentary defects syndrome. ORPHA:88630. [Orphanet]
- [5] Wade EM, et al. Terminal osseous dysplasia with pigmentary defects and cardiomyopathy caused by a novel FLNA variant. Am J Med Genet A. 2021;185(9):2761-2766. [PubMed 34254723]
- [6] Robertson SP, et al. FLNA-Related Otopalatodigital Spectrum Disorders. GeneReviews®. NCBI Bookshelf. [GeneReviews]
- [7] Robertson SP. Otopalatodigital syndrome spectrum disorders: otopalatodigital syndrome types 1 and 2, frontometaphyseal dysplasia and Melnick-Needles syndrome. Eur J Hum Genet. 2007;15(1):3-9. [ResearchGate]
- [8] Parrini E, et al. Familial periventricular nodular heterotopia, epilepsy and Melnick-Needles syndrome caused by a single FLNA mutation with combined gain-of-function and loss-of-function effects. J Med Genet. 2015;52(6):405-412. [J Med Genet]
- [9] Lange M, et al. Terminal osseous dysplasia with pigmentary defects (TODPD) due to a recurrent filamin A (FLNA) mutation. Am J Med Genet A. 2015;167A(2):385-391. [PMC4303216]
- [10] Mariani M, et al. The X-linked filaminopathies: Synergistic insights from clinical and molecular analysis. Hum Mutat. 2020;41(5):865-883. [Wiley]



