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熱性けいれんは生後6ヶ月から5歳までの幼児によく見られる神経学的な症状で、高熱を伴うことが特徴です。多くの場合は心配ないものですが、遺伝的な要因が関係していることが分かっています。この記事では、熱性けいれんと遺伝的要因の関係について分かりやすく解説します。
熱性けいれんとは?
熱性けいれんは、幼い子どもが高熱(通常38℃以上)を出したときに起こるけいれん発作のことです。5歳未満の子どもの約2~4%に見られ、ピークは生後12~18ヶ月頃です。男の子の方が女の子よりもやや多く見られます。
熱性けいれんの特徴
- 生後6ヶ月~5歳の子どもに発生
- 38℃以上の発熱を伴う
- 脳の感染症や炎症がない
- けいれんを引き起こす代謝異常がない
- これまでに熱のないけいれん発作の既往がない
単純型と複雑型の熱性けいれん
熱性けいれんは「単純型」と「複雑型」の2つに分けられます:
単純型熱性けいれん
最も一般的なタイプで、以下の特徴があります:
- 全身性のけいれん(左右対称に体全体に起こる)
- 15分未満で終わる(多くは3~4分程度)
- 24時間以内に繰り返し起こらない
複雑型熱性けいれん
以下のいずれかの特徴を持つ場合は「複雑型」と分類されます:
- 局所性(体の一部だけがけいれんする)
- 15分以上続く
- 24時間以内に再発する
熱性けいれんと遺伝的要因
熱性けいれんには明らかな遺伝的な傾向があります。以下に、熱性けいれんと遺伝的要因の関係について説明します。
家族歴の影響
熱性けいれんを経験した子どもの第一度近親者(両親や兄弟姉妹)の約10~20%も熱性けいれんを経験したか、将来経験する可能性があります。また、一卵性双生児は二卵性双生児よりも一致率が高く、二卵性双生児の一致率は他の兄弟姉妹と同程度です。
ある子どもが熱性けいれんを起こした場合、その兄弟姉妹が熱性けいれんを経験する確率は一般の子どもよりも3~4倍高くなります。
遺伝子変異と熱性けいれん
熱性けいれんの発症には、いくつかの遺伝子が関わっていることが研究で明らかになっています:
- 第8染色体長腕8q13-21(FEB1)
- 第19染色体短腕(FEB2)
- 第2染色体長腕2q23-24(FEB3)
- その他の染色体領域
特に注目されているのは、GABRG2遺伝子のR43Q変異で、熱性けいれんを持つ患者では対照群よりも有意に高い頻度(36%対2%)で見られました。
また、大規模なゲノムワイド関連解析によれば、熱性けいれんはナトリウムチャネル遺伝子SCN1AやSCN1Bなどを含む遺伝子座の一般的な遺伝子変異と関連があることが分かっています。
遺伝性てんかん症候群と熱性けいれん
一部の患者や家族では、熱性けいれんの傾向は「熱性けいれんプラス」(GEFS+)と呼ばれる遺伝性てんかんの初期症状である場合があります。GEFS+は常染色体優性遺伝形式で伝わることが多く、さまざまな原因遺伝子変異が特定されています。
また、「乳児重症ミオクロニーてんかん」(ドラベ症候群)も、幼少期に熱に伴うけいれんが多く見られる遺伝性てんかんの一種です。ドラベ症候群の患者の約70~80%にSCN1A遺伝子の変異が認められます。
遺伝的素因と他の要因の相互作用
熱性けいれんの発症には、遺伝的素因だけでなく、以下のような他の要因も関わっています:
高熱
熱の高さが熱性けいれんの主な決定要因と考えられています。研究によれば、けいれんを伴う発熱の平均は、けいれんを伴わない発熱よりも高いことが示されています(104.0°F対103.3°F)。
感染症
ウイルス感染症は熱性けいれんと関連することが多く、特に高熱を引き起こすヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)やインフルエンザウイルスは最もリスクが高いと考えられています。
予防接種
特定のワクチン(三種混合ワクチンや麻疹・おたふくかぜ・風疹ワクチンなど)の接種後に熱性けいれんのリスクが高まることが知られていますが、絶対的なリスクは低いです。
遺伝子検査は必要?
通常の熱性けいれんでは、家族歴が陽性であっても、遺伝子検査は推奨されていません。しかし、ドラベ症候群などの別の診断が考えられる場合(12~18ヶ月未満で複数の長時間焦点性熱性けいれんや他のタイプのけいれんがある場合など)には、遺伝子検査が適応となることがあります。
遺伝的リスクがある家庭での注意点
熱性けいれんの家族歴がある場合、以下のことに注意しましょう:
- 子どもが発熱した場合は早めに解熱剤を使用する(医師の指示に従ってください)
- 熱性けいれんの症状や対処法を事前に知っておく
- けいれんが起きた場合の緊急対応を家族で共有しておく
まとめ
熱性けいれんは幼児期によく見られる症状で、多くの場合は単純型であり、長期的な健康への影響はありません。熱性けいれんには明らかな遺伝的要素があり、特定の遺伝子変異や家族歴がリスク要因となります。
ただし、熱性けいれんのほとんどは良性であり、将来てんかんを発症するリスクはわずかに高まるだけです。複雑型熱性けいれんは、より不均一なグループであり、幼少期の再発リスクや将来の非熱性けいれんの可能性が高くなります。
お子さんが熱性けいれんを起こした場合は、慌てずに安全を確保し、必要に応じて医師の診察を受けてください。特に初めてのけいれん、長時間続くけいれん、または複雑な特徴を持つけいれんの場合は医師の診察が重要です。

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