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やむを得ない事情から、妊娠継続を断念しなければならない場合、人工妊娠中絶手術を受ける必要があります。
中絶手術にはある程度まとまったお金が必要になりますので、費用の目安や利用できる制度などをあらかじめ確認しておきましょう。
今回は中絶の費用の目安や利用可能な制度、中絶可能な時期、手術を受ける際の注意点についてわかりやすく解説します。
中絶の費用目安
一般的な病気やケガなら健康保険が適用されますが、人工妊娠中絶費用は保険の適用対象外のため、費用はすべて自己負担となります。
中絶にかかる費用の基本的な内訳は以下の通りです。
- ・術前のカウンセリング費用
- ・術前の診察費用
- ・検査費用・処置費用
- ・中絶手術費用・麻酔料
- ・術後診察費用
どの項目にどのくらいの費用がかかるかは医療機関によって異なるため、最終的な中絶費用も選んだ病院によって差が出ます。
そのため、一概に「中絶費用は◯◯円」と断言することはできませんが、一般的には15~20万円程度が相場となっているようです。
なお、中絶手術は妊娠初期から受けることが可能ですが、施術した時期によって「初期中絶」と「中期中絶」の2つに区分されます。
初期中絶の場合、1日で手術が終わるので、費用も比較的少なくて済みますが、中期中絶は入院をともなうケースが多いため、初期に比べると費用は割高になります。
妊娠週数に対する中絶費用の取り決めは医療機関によって異なりますので、事前に病院へ問い合わせておきましょう。
中絶費用の工面に利用できる方法・制度
中絶費用の相場は15~20万円と多額なので、支払いが難しいとお悩みの方も多いでしょう。
ただ、中絶手術は受けられる期間が限られていますので、お金が準備できないからといって施術を先延ばしにしていると、中絶そのものが不可能になってしまうおそれがあります。
前述の通り、中絶費用は妊娠週数が進んでいるほど負担が大きくなりますので、支払いが難しい場合はさまざまな方法・制度を利用してお金の工面をしましょう。
ここでは中絶費用の工面や補填に利用できる方法と制度を4つご紹介します。
1. クレジットカードで支払う
医療機関によっては、中絶費用のクレジットカード払いに対応しているところがあります。
クレジットカードなら分割払いやボーナス払いなども可能ですので、一括払いが難しい場合でも無理なく返済できます。
2. 出産育児一時金の利用
出産育児一時金とは、眷顧保険法等に基づく保険給付として、被保険者またはその被扶養者が出産した際、一定の金額を支給する制度のことです。[注1]
「出産育児」と銘打たれていますが、支給対象は妊娠4ヶ月(妊娠12週)以上の出産であるため、早産や死産、流産、そして人工妊娠中絶の場合も出産育児一時金の給付を受けられます。
出産育児一時金の支給額は2022年時点で1児につき42万円ですが、妊娠22週未満の出産の場合、支給額は39万円となります。
出産育児一時金は、保険者(国保や健保など)が直接医療機関に出産育児一時金を支払う「直接支払制度」や、医療機関が代理で出産育児一時金を受け取る「受取代理制度」に対応しているため、中絶費用が39万円以下だった場合、患者が窓口で費用を負担する必要はありません。
[注1]厚生労働省「出産育児一時金について」
www.mhlw.go.jp/content/12401000/000700493.pdf
3. 医療費控除の利用
医療費控除とは、その年の1月1日~12月31日までの間に支払った医療費が一定額を超えた場合に、その医療費をもとに計算される金額の所得控除を受けられる制度のことです。[注2]
中絶費用の場合、母体保護法指定医が、母体保護法に基づいて中絶手術を行った場合に限り、医療費控除を受けることができます。
医療費控除の対象となる金額は以下のように計算されます。
(実際に支払った医療費の合計額-保険金などで補填される金額)-10万円
一般的に、中絶手術は保険金の給付対象となりませんので、中絶費用が10万円を超えるか否かが医療費控除の対象となる基準と言えます。
なお、医療費控除の計算のもとになる医療費は、本人だけでなく、生計を一にする配偶者やその他親族の医療費も合算されますので、中絶費用単体だけでなく、その年にかかった家族の医療費をトータルで計算してみましょう。
[注2]国税庁「医療費を支払ったとき(医療費控除)」
www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm
4. 高額療養費制度の利用
高額療養費制度とは、医療機関や薬局の窓口で支払った額がひと月で上限額を超えた場合に、その超過分が支給される制度です。[注3]
対象となるのは健康保険が適用される医療費ですので、自由診療である中絶費用は本来であれば適用対象外ですが、術前検査などで母体に異常が見つかり、治療のために中絶を余儀なくされた場合などは適用可能になることもあります。
[注3]厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」p3
www.mhlw.go.jp/content/000333279.pdf
中絶可能な時期はいつまで?
人工妊娠中絶に関する事項を定めた母体保護法の第二条の2では、人工妊娠中絶について「胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期に、人工的に、胎児及びその附属物を母体外に排出すること」と定義しています。[注4]
この「胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期」に関しては、平成8年9月25日に公布された「母体保護法の施行について」において、「通常妊娠満22週未満であること」を基準としています。[注5]
つまり、中絶可能な時期は妊娠21週6日(妊娠6ヶ月の2週まで)となります。
[注4]e-Gov法令検索「母体保護法」
elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0100000156
[注5]厚生労働省「母体保護法の施行について」
www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta9675&dataType=1&pageNo=1#:~:text=%E6%B3%95%E7%AC%AC2%E6%9D%A1%E7%AC%AC,%E9%80%B1%E6%9C%AA%E6%BA%80%E3%81%A7%E3%81%82%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%80%82
中絶が可能になる時期
では、中絶手術が可能になる時期はいつなのでしょうか。
法律では、中絶手術の始期について明確な定めがないため、妊娠が判明した直後(妊娠4~5週)に施術しても違法にはなりません。
ただ、妊娠4~5週は子宮頸管が非常に硬いため、鉗子を挿入する掻爬法で処置する場合、子宮頸管を拡張させる前処置が非常に困難になります。
そのため、掻爬法を選択する場合は、妊娠6週~9週を目途に施術するのが一般的です。
なお、妊娠10週以降になると胎児の発育が進んで大きくなるため、母体への負担も増加すると言われています。
最近主流の吸引法(吸引器を使って子宮内容物を吸い出す方法)であれば、基本的に前処置が不要のため、初期中絶でも負担なく施術することが可能とされています。
妊娠12週を過ぎると、中期中絶となり、掻爬法や吸引法ではなく、子宮収縮剤を投与して人為的に陣痛を起こす方法が用いられます。
なお、妊娠12週を過ぎて中絶手術を行った場合、医師または助産師が作成した死産証書を添えて、死後七日以内に役場に死産届を提出する必要があります。[注6]
そのため、中絶を選択する多くの方は、妊娠11週までに手術を受けています。
[注6]厚生労働省「昭和二十一年厚生省令第四十二号(死産の届出に関する規程)」
www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=08023000&dataType=0&pageNo=1
中絶するときの注意点
中絶手術を受ける際に気をつけたいポイントを5つご紹介します。
1. 術後検診は必ず受ける
中絶手術を受けた後は、炎症や出血などの異常が発生する可能性があります。
手術後は指定の日時に術後検診を受け、術後の経過が順調かどうかきちんと診断してもらいましょう。
2. 手術当日の入浴は避ける
中絶手術当日は、出血や細菌感染のリスクが高くなる可能性があるので、入浴は避けましょう。シャワーの使用はかまいませんが、膣内およびその周辺を必要以上に洗浄するのは避けた方が無難です。
翌日以降は入浴も可能になります。
3. 術後3日~4日は飲酒を避ける
手術当日は麻酔が残っているので、同様の効果を与えるアルコールの摂取はNGです。
また、アルコールには出血を促す作用がありますので、術後3日~4日は飲酒を控えましょう。
4. 術後の生理について
中絶手術を受けた後の生理は、術後1ヶ月半~2ヶ月を目途に訪れます。
ただ、それまでに一度排卵が起こりますので、生理が来ないからと言って避妊をせずに性交することのないよう注意しましょう。
5. 術後1~2週間は性交を避ける
術後の母体には少なからず負担がかかっていますので、手術から1~2週間は性交渉を控えましょう。
経過に問題がなければ3週間後から性交が可能ですが、前述の通り妊娠の可能性がありますので、きちんと避妊することが大切です。
【まとめ】中絶を検討する場合は、費用や時期、禁止事項などに注意しよう
中絶手術は法律により、妊娠22週未満までの間に受ける必要があります。
費用の目安は15~20万円ほどですが、一般的に妊娠週数に比例して高くなりますので、手術を検討する際は施術する時期にも注意を払いましょう。
術後は医師の指示のもと、入浴や飲酒、性交などに注意しつつ、必ず術後検診を受けることが大切です。