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人工妊娠中絶とは|いつまで可能か・方法・費用・術後をわかりやすく解説

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・がん薬物療法専門医・総合内科専門医。出生前診断と遺伝カウンセリングを専門としています。

人工妊娠中絶とは、胎児が母体の外では生きられない時期に、胎児と胎盤などを人工的に体の外へ出すことで、日本では母体保護法で条件と手続きが決められています。中絶ができるのは妊娠21週6日までで、妊娠12週未満の「初期中絶」と、12週以降の「中期中絶」では方法も体への負担も大きく変わります。この記事では、中絶できる期間、手術と中絶薬の違い、費用の目安と使える公的支援、術後に気をつけることまでを、公的資料と医学的根拠にもとづいて解説します。なお、ミネルバクリニックでは中絶手術・中絶薬の処方は行っていません。胎児の病気や異常がわかって悩んでいる方の、出生前診断と遺伝カウンセリングを担当しています。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🩺 いつまで・方法・費用・術後
★ 臨床遺伝専門医監修

Q. 人工妊娠中絶はいつまでできますか?

A. 妊娠22週未満、つまり21週6日までです。11週6日までが初期中絶、12週0日から21週6日までが中期中絶で、12週以降は入院が必要になり、死産届も必要です。22週以降は、どのような理由でも中絶はできません。

  • ➤方法 → 初期は吸引法・掻爬法、妊娠9週0日までは中絶薬(メフィーゴパック)も。中期は薬で陣痛を起こす方法
  • ➤費用 → 原則自費で医療機関ごとに異なる。条件を満たせば妊婦支援給付金・出産育児一時金の対象
  • ➤同意 → 法律が求めるのは本人と配偶者の同意
  • ➤胎児の病気が理由の場合 → NIPTだけで決めず、確定検査と遺伝カウンセリングを先に

1. 人工妊娠中絶とは

人工妊娠中絶とは、胎児が母体の外で生命を保つことのできない時期に、人工的に胎児とその付属物(胎盤など)を母体の外に出すことです。これは母体保護法第2条第2項の定義で[1]、日本の中絶はすべてこの法律の条件と手続きのもとで行われます。

厚生労働省の衛生行政報告例によると、令和6年度の人工妊娠中絶の件数は127,992件で、前年度より1.0%増えました。年齢階級別では20〜24歳が33,663件で最も多く、女子人口千人あたりの実施率も11.1と最も高くなっています[6]。

母体保護法による定義と、中絶が認められる条件

中絶が認められるのは、母体保護法第14条第1項の2つの場合に限られます。1つ目は「妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの」、2つ目は「暴行若しくは脅迫によつて又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの」です[1]。

また、母体保護法には、胎児の病気や障害そのものを理由に中絶を認める規定(いわゆる胎児条項)はありません[1]。胎児の病気がわかった場合の中絶も、上の第14条の要件のもとで指定医師が判断することになります。

受けられるのは母体保護法指定医師のいる医療機関だけ

人工妊娠中絶を行えるのは、都道府県の医師会が指定した「母体保護法指定医師」だけです。産婦人科医であれば誰でも中絶を行えるわけではありません[1]。

中絶薬も同じで、指定医師の確認のもとでしか使えません。薬局やインターネットでは購入できず、海外の中絶薬の個人輸入も原則として認められていません[10][26]。通販などで入手した薬を自己判断で使うと、大量出血などが起きたときに適切な処置を受けられず、命にかかわることがあります。

同意書は必要ですが、母体保護法第14条が求めているのは本人と「配偶者(法律上の夫)」の同意です。そのため、結婚していない場合は、相手の男性の同意は必要ありません。厚生労働省も通知でこの考え方を示しています[1][28]。

結婚している場合でも、次のようなときは本人の同意だけで足ります。

📝 相手(配偶者)の同意がいらない場合

ケース 根拠
結婚していない(未婚) 法律が求めるのは配偶者の同意のため(厚生労働省通知)
配偶者が亡くなった 母体保護法第14条第2項(妊娠後に配偶者がなくなったとき)
配偶者が意思を表示できない・行方がわからない 母体保護法第14条第2項。事実上の所在不明や、事実上意思を表示できない場合も含む
性暴力による妊娠 加害者の同意は不要(厚生労働省通知)
DVなどで婚姻関係が実質的に破綻している 配偶者の同意を得るのが難しい場合は本人の同意だけで足りる(厚生労働省通知)

※母体保護法[1]、厚生労働省の通知・解釈[3][4][28]による。

⚠️ 同意書の署名を他人が書くのは犯罪です

相手の同意が得られないからといって、同意書の署名を本人以外が勝手に書くことは、有印私文書偽造にあたる犯罪です。相手と連絡がとれない、同意を得られない事情があるときは、署名をごまかさず、医療機関や相談窓口に事情をそのまま相談してください。

未成年の場合、母体保護法には保護者の同意を求める規定はありません[1]。ただ、麻酔を使う処置であることなどから、保護者の同意を求めている医療機関もあります。必要な書類は医療機関ごとに違うので、予約の段階で確認しておくと安心です。

2. 中絶はいつまで?妊娠21週6日が期限

人工妊娠中絶ができるのは妊娠22週未満、つまり21週6日までです。このうち11週6日までを「初期中絶」、12週0日から21週6日までを「中期中絶」と呼びます。22週0日以降は、どのような事情があっても中絶はできません[2]。

22週未満と決められている理由

「22週」は法律の条文そのものではなく、厚生事務次官通知で決められた基準です。母体保護法は中絶できる時期を「胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期」と定めているだけで、具体的な週数は書いていません[1]。この時期の基準は、1990年の厚生事務次官通知(厚生省発健医第55号)で「通常妊娠満22週未満」とされ、1991年から適用されています。個々のケースでこの時期にあたるかどうかは、指定医師が判断します[2]。

妊娠週数の数え方(最終月経・超音波検査)

妊娠週数は、最後の月経が始まった日を「妊娠0週0日」として数えます。排卵や受精はその約2週間後なので、「妊娠に気づいたときにはすでに5〜6週になっていた」ということもよくあります。

月経周期が不規則な人ではこの計算がずれるため、実際の週数は超音波検査で胎児の大きさを測って確定します。自己判断せず、早めに受診して正確な週数を知ることが大切です。

いつからできる?(胎嚢の確認と異所性妊娠の除外)

中絶は、超音波検査で子宮の中に妊娠していること(胎嚢)を確認してから行います。妊娠検査薬が陽性でも、受精卵が子宮の外に着床する「異所性妊娠(子宮外妊娠)」のことがあり、その場合は中絶ではなく別の治療が必要になるためです。中絶薬の対象も、添付文書で「子宮内妊娠が確認された」人とされています[11]。

何週から処置できるかは一律に決まっておらず、胎嚢の大きさや子宮の状態をみて医療機関が判断します。

22週を過ぎてしまったら

妊娠22週を過ぎると、法律上、中絶はできません。その後は出産に向けて、妊婦健診と分娩の準備を進めることになります。

事情があって自分で育てることが難しい場合には、「特別養子縁組」という制度があります。家庭裁判所の審判で育ての親と実の親子と同じ関係をつくる制度で、原則として実親の同意が必要です[24]。一人で抱えず、各地の「にんしんSOS」や自治体の窓口に相談してください(第8章)。

3. 初期中絶と中期中絶の違い(方法・流れ・術後)

初期中絶と中期中絶では、方法、入院の要否、必要な届出、使える公的支援が大きく変わります。

📋 初期中絶と中期中絶の違い

項目 初期中絶 中期中絶
時期 妊娠11週6日まで 妊娠12週0日〜21週6日
主な方法 吸引法・掻爬法(9週0日までは中絶薬も) 薬で子宮を収縮させ、陣痛を起こして流産させる
入院 手術は日帰りが多い(中絶薬は院内での待機が必要) 入院が必要
届出 なし 死産届(死産後7日以内)
出産育児一時金 対象外 妊娠85日(12週1日)以降は対象

※死産届は死産の届出に関する規程[5]、出産育児一時金は厚生労働省[17]による。入院日数や当日の流れは医療機関によって異なります。

受診・週数の確認超音波検査
▶
説明と同意同意書の提出
▶
術前の検査血液・感染症など
▶
処置初期は日帰りが多い
▶
術後の診察出血・回復の確認

初期中絶(妊娠11週6日まで)の流れ

初期中絶は、受診して週数を確かめ、検査と同意の手続きをすませてから、多くは日帰りで処置を受ける流れです。まず超音波検査で子宮内の妊娠と週数を確認し、血液検査や感染症の検査を行います。そのうえで方法や合併症の説明を受け、同意書を提出して処置の日を決めます。

処置の前に、子宮の出口(頸管)をゆっくり広げるため、水分を吸ってふくらむ棒状の器具(ラミナリアなど)を入れることがあります。天然素材のラミナリアは12時間ほどでほぼ最大の太さになり、合成の製品は4時間ほどで広がります[9]。処置は麻酔をかけて行い、日本では静脈麻酔が主流です[9]。後日、出血や子宮の回復を確認する診察を受けます。

中期中絶(12週〜21週6日)の流れと死産届

中期中絶は入院して行い、薬で子宮を収縮させて、陣痛のように胎児と胎盤を出す方法です。子宮の出口を広げる処置をしたうえで、ゲメプロストという腟坐剤を3時間ごとに入れていきます(1日5個まで)。この薬は、母体保護法指定医師が、入院のうえ救急処置ができる体制で使うことと決められています[14]。

添付文書には、まれに子宮破裂や子宮頸管の裂傷が起こることが警告として書かれています[14]。

妊娠12週以降の中絶は「死産」として届け出る必要があります。死産の届出に関する規程では、死産を「妊娠第四月以後における死児の出産」と定め、死産後7日以内に市区町村長へ届け出ることとしています[5]。

4. 中絶の方法:手術と中絶薬

初期中絶の方法には、手術(吸引法・掻爬法)と、妊娠9週0日までに使える中絶薬があります。それぞれの特徴を表にまとめます。

🩺 初期中絶の方法の比較

方法 やり方 主な特徴
吸引法 細い管で子宮の内容物を吸い出す(電動・手動) WHOが14週未満の手術として推奨する方法
掻爬法 器具で子宮の内容物をかき出す WHOは推奨していない。遺残・穿孔などが吸引法より多い
中絶薬 2種類の薬を順に使い、流産を起こす 妊娠63日(9週0日)まで。入院可能な施設で院内待機が必要

※WHOの推奨はAbortion care guideline[7]、合併症の比較は日本産婦人科医会の調査[8][9]、中絶薬の条件は厚生労働省[10]による。

吸引法と掻爬法の違い

吸引法は子宮の内容物を管で吸い出す方法、掻爬法は器具でかき出す方法で、世界保健機関(WHO)は妊娠14週未満の手術として吸引法を推奨し、掻爬法は推奨していません。吸引法には電動のものと、手動の吸引器を使うもの(MVA)があります[7]。

日本産婦人科医会の調査でも、合併症の総発生率、とくに子宮の中に組織が残る「子宮内遺残」の発生率は、吸引法に比べて、吸引と掻爬を組み合わせた方法や掻爬法で有意に高いことが示されています[8]。医会を通じて集計された10万件以上の初期中絶の結果では、掻爬法は吸引法に比べて、再手術が必要な不全流産と子宮穿孔が多かったと報告されています[9]。

日本ではいまも掻爬法が広く行われているとされるため[9]、どの方法で行うのかは事前に確認しておくとよいでしょう。

経口中絶薬(メフィーゴパック):対象の週数と受け方

経口中絶薬「メフィーゴパック」は2023年4月28日に承認された薬で、子宮内妊娠が確認された妊娠63日(9週0日)以下の人が対象です。ミフェプリストンという薬を飲み、36〜48時間後にミソプロストールという薬を頬の内側に置いて溶かす、2段階の方法です[10]。

国内の臨床試験(120人)では、2つ目の薬を使ってから24時間以内に、手術をせずに流産が完了した人は93.3%でした。主な副作用は下腹部の痛み(30.0%)、嘔吐(20.8%)、下痢(14.2%)で、出血は全員にみられました[12]。日本産婦人科医会は、約1割で外科的な処置が必要になる可能性があるとしています[13]。

2026年9月時点では、この薬は入院できる設備のある病院・有床診療所でしか使えず、2つ目の薬を使ってから胎嚢が出るまでは、入院または院内での待機が必要です[10][11]。この条件は今後見直される可能性があります。流産したかどうかは、出血があったときか、遅くとも2つ目の薬から1週間をめどに受診して、超音波検査で確認します。成功しなかった場合は薬を追加せず、手術を検討します[27]。

痛みと麻酔

初期の手術は麻酔をかけて行うため、処置中の痛みは抑えられますが、感じ方には個人差があります。日本では静脈麻酔が主流で、処置の前に頸管を広げる器具を入れるときに痛みを感じることがあります[9]。中絶薬では、流産が進むときに生理痛のような腹痛と出血があり[12]、中期中絶では陣痛に近い痛みがあります。痛み止めや麻酔の方法は、事前に確認しておくと安心です。

5. 中絶の費用の目安と、使える公的支援

中絶の費用は原則として自費で、金額は医療機関がそれぞれ決めています。ただし、胎児心拍の確認後に中絶した場合は妊婦支援給付金、妊娠85日以降の中絶では出産育児一時金の対象になります。

費用の目安:初期・中期・中絶薬

中絶の費用には公的な定価や統計上の平均がなく、医療機関によって異なります。初期中絶では、処置の料金に加えて、診察、術前の検査、麻酔、術後の診察などの費用がかかります。中期中絶は入院が必要なぶん高額になりやすい一方、出産育児一時金の対象になります。

中絶薬については、日本産婦人科医会が、薬剤費は5万円程度と見込まれ、診察・検査料や外科的処置も含めると従来の手術と費用に大きな差はないと考えられる、としています[13]。予約の段階で総額と、追加費用が出る場合を確認しておきましょう。

健康保険は使える?

経済的な理由だけによる中絶には、健康保険は使えません。国の通知では、母体保護法にもとづく中絶のうち、単に経済的理由によるものを除いて、保険の給付の対象とされています[15]。母体の病気など医学的な理由の場合は保険が使えることがあるので、持病がある人は医療機関に確認してください。

妊婦支援給付金(胎児心拍の確認後の中絶も対象)

2025年4月から始まった「妊婦のための支援給付」は、医師が胎児心拍を確認したあとであれば、人工妊娠中絶の場合も対象になります。こども家庭庁は、妊娠に着目した給付であるため、流産・死産・人工妊娠中絶の場合も支給の対象になると説明しています[16]。

給付は、妊婦としての認定を受けたときの5万円と、胎児の数×5万円の2回です。胎嚢の確認だけで心拍を確認する前に処置した場合は対象になりません。処置のあとで申請するときは、妊娠の事実を確認するための医師の診断書が必要で、申請できる期間は2年です[16]。手続きは住民票のある市区町村に確認してください。

出産育児一時金(妊娠85日以降の中絶)

公的医療保険に加入している人が妊娠85日(12週1日)以降に中絶した場合は、出産育児一時金の対象になります。支給額は原則50万円ですが、在胎22週未満の出産は48.8万円のため、中絶の場合は1人につき48.8万円です[17]。医療機関が「直接支払制度」に対応していれば、窓口では費用から一時金を差し引いた額を支払うしくみになります[17]。

💴 中絶で使える公的な支援

制度 対象になる条件 金額
妊婦支援給付金 医師が胎児心拍を確認したあとの中絶 5万円+胎児の数×5万円
出産育児一時金 公的医療保険に加入し、妊娠85日以降の中絶 1人につき48.8万円
健康保険 経済的理由だけによるものを除く中絶(母体の病気など) 保険診療の自己負担

※こども家庭庁[16]、厚生労働省[17]、国の通知[15]による。細かな条件や手続きは、自治体や加入している保険者に確認してください。

6. 中絶のリスクと術後の過ごし方

安全な方法で行われた中絶で重い合併症が起こることはまれですが、ゼロではありません。術後に気をつけたい症状と、生理・避妊・次の妊娠への影響を整理します。

起こりうる合併症

主な合併症は、出血、子宮の中に組織が残る子宮内遺残、感染、子宮に穴があく子宮穿孔です。子宮穿孔はまれですが、日本産婦人科医会の調査では、穿孔が起きた例の84%で開腹または腹腔鏡の手術が行われ、56%で腸の損傷が確認されました。腸を損傷した例の5%では人工肛門がつくられています[8]。

海外の大規模な調査(米国の約5万5千件)では、中絶後6週以内の合併症は全体で2.1%、入院・手術・輸血が必要な重い合併症は0.23%でした。方法別の重い合併症は、初期の吸引法で0.16%、中絶薬で0.31%、中期以降で0.41%でした[18]。日本にそのまま当てはまる数字ではありませんが、週数が進むほどリスクが増える傾向がわかります。

⚠️ すぐに受診したい症状

夜用ナプキンが1時間もたないほどの出血が続く、38℃以上の発熱がある、強い腹痛が続く、においの強いおりものが出る、といった症状があれば、処置を受けた医療機関にすぐ連絡してください。中絶薬を使ったあとも同じです。

術後の出血・生理・性交渉・避妊

生理は、中絶後およそ4〜6週で戻ることが多いとされますが、生理が戻る前に妊娠することもあります。米国産科婦人科学会(ACOG)はこう説明し、避妊法の中には中絶当日から始められるものもあるとしています[19]。

中絶薬のあとの排卵を調べた研究では、排卵が戻るまでの平均は約3週間で、早い人では8日目でした[20]。人数の少ない研究ですが、「生理が来るまでは妊娠しない」わけではないことがわかります。性交渉の再開時期は医療機関の指示に従い、望まない妊娠を繰り返さないよう、術後の診察で避妊方法を相談しておきましょう。

次の妊娠への影響

安全な方法で行われた中絶が、不妊の原因になることはほとんどないとされています。ACOGは、ほとんどの場合、中絶が将来の健康に影響することはなく、不妊のリスクを高めることもないとしています[19]。

ただし、子宮内容除去術(掻爬)の経験と、その後の妊娠での早産との関連は報告されています。約185万人を対象にしたメタ解析では、掻爬の経験がある人の37週未満の早産はオッズ比1.29、複数回の経験ではオッズ比1.74でした[21]。これは流産の処置も含めた研究で、関連を示したものであり、原因と結果の関係が確定したわけではありません。

中絶後、次の妊娠(妊活)はいつから?

術後の診察で体の回復が確認できれば、次の妊娠のために長く待つ必要はないとする研究が増えています。WHOは2005年の報告で、流産や中絶のあとは次の妊娠まで少なくとも6か月あけることを勧めていました[29]。しかしノルウェーの全国データ(中絶後の出産23,707件)では、中絶から3か月以内に妊娠しても、早産や妊娠高血圧腎症などのリスクは高くなっていませんでした[30]。流産後についても、6か月未満の妊娠で結果が悪くなることはないとするメタ解析があります[31]。

これらは集団としての結果で、どのくらい待つのがよいかは、中絶の時期や方法、体の回復の具合によって一人ひとり違います。まず術後の診察で出血がおさまり子宮が回復していることを確認し、とくに中期中絶のあとは医師と相談してください。一度生理を待つと、次の妊娠の週数を最終月経から数えやすくなります。妊娠を考え始めたら、葉酸を1日0.4mg、妊娠の1か月以上前からとることがすすめられています[32]。心の準備も大切です。

中絶後の心の変化とケア

中絶のあとは、ほっとする気持ち、悲しみ、罪悪感などが入りまじることがあり、どれも自然な反応です。望んだ妊娠をあきらめた場合は、悲しみがより深くなることもあります。

米国で中絶を受けた人と、希望したのに受けられなかった人を5年間追跡した研究では、中絶を受けたことで心の健康が悪くなる傾向は示されず、受けられなかった人のほうが直後の不安が強いなどの違いがみられました[22]。つらさが続くときは、一人で抱えずに相談してください。

7. 胎児の病気・異常を理由に中絶を考えている方へ

胎児の病気がわかって中絶を考えている場合は、まず確定検査で診断を確かめ、遺伝カウンセリングで病気の見通しと選択肢を整理してから決めることが大切です。この場合は中期中絶になることが多く、限られた時間の中で重い決断を迫られます。

NIPTなどの非確定検査だけで決めない:確定検査が先

NIPT(新型出生前診断)は「非確定的検査」で、陽性の結果だけでは診断は確定しません。日本医学会の指針は、NIPTの陽性は確定的検査を受ける相当の理由になるとする一方で、偽陽性がありうることを明記しています[23]。確定には、羊水検査や絨毛検査といった確定的検査が必要です。

同じ指針は、13・18・21トリソミーの3疾患以外については、NIPTの分析的・臨床的な妥当性が現時点では十分に確立されていないとしています[23]。NIPTの結果だけで中絶を決めると、実際には病気のない赤ちゃんの妊娠を中断してしまうおそれがあります。

残された時間を逆算する:陽性判明から21週6日まで

中絶ができる期限は21週6日なので、そこから逆算して、確定検査と話し合いの時間を確保することが大切です。確定検査は結果が出るまでに時間がかかり、その後に家族で話し合う時間も必要です。NIPTで陽性がわかったら、できるだけ早く専門の医療機関に相談してください。

NIPT陽性非確定的検査
▶
確定検査羊水・絨毛検査
▶
結果の説明遺伝カウンセリング
▶
家族で決める続ける/中断する
▶
期限21週6日まで

次の妊娠に向けて:病気の原因と再発の可能性を確かめる

赤ちゃんの病気が理由で中絶した場合、次の妊娠で同じ病気が起こる可能性は、病気の原因によって大きく違います。偶然に起こることが多い染色体の数の変化もあれば、ご両親のどちらかの染色体や遺伝子に原因があり、次の妊娠でも起こりうる場合もあります。

そのため、確定検査の報告書は大切に保管し、次の妊娠を考える前に遺伝カウンセリングで、原因と再発の可能性、次の妊娠で受けられる出生前検査の選択肢を確認しておくことをおすすめします。いつから妊活してよいかの目安は第6章を参考にしてください。

ミネルバクリニックでできること・できないこと

ミネルバクリニックが担当するのは、出生前診断と、その結果について考えるための遺伝カウンセリングです。中絶手術と中絶薬の処方は行っていません。NIPTや羊水検査・絨毛検査を院内で行い、結果の意味、赤ちゃんの病気の見通し、妊娠を続ける場合と中断する場合の選択肢を、臨床遺伝専門医が一緒に整理する場を提供しています。

中断を選んだ場合の処置は、母体保護法指定医師のいる医療機関で受けることになります。中期中絶に対応している医療機関は、地域ごとの一覧を全国妊娠中絶クリニックなびにまとめています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【どちらを選んでも、正しい情報の上で】

胎児の病気がわかったあとの決断に、正解はひとつではないと考えています。大切なのは、確定した診断と、病気についての正確な見通しの上で、ご家族が納得して選べることです。

そのためには、NIPTの結果だけで急いで決めず、確定検査を受け、時間の許す限り話し合うことが欠かせません。期限があるからこそ、早めに専門家を頼ってほしいと考えています。

\ 胎児の病気がわかって悩んでいる方へ /

出生前診断の結果の意味や選択肢について、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングでご相談いただけます。

※ミネルバクリニックでは中絶手術・中絶薬のご予約はお受けできません。|お問い合わせはこちら

8. どこで受ける?誰に相談する?

医療機関の選び方

中絶は、母体保護法指定医師のいる医療機関で受ける必要があります。そのうえで、自分の週数に対応しているか(中期中絶は入院設備が必要です)、中絶薬を希望する場合は入院できる施設か、費用の総額と支払い方法、術後の通院のしやすさを確認しましょう。

中絶を行っている医療機関と、初期・中期の対応や費用の情報は、全国妊娠中絶クリニックなびで都道府県別に探せます。

一人で抱えないための相談先

思いがけない妊娠で誰にも話せないときは、「にんしんSOS」などの相談窓口を利用できます。一般社団法人全国妊娠SOSネットワークは、各地の相談窓口の一覧を公開しており、妊娠相談の経験がある助産師や保健師などが対応しています[25]。市区町村の保健センターでも相談できます。

よくある質問(FAQ)

Q1. ミネルバクリニックで中絶手術は受けられますか?

いいえ、ミネルバクリニックでは中絶手術・中絶薬の処方は行っていません。胎児の病気がわかって悩んでいる方の出生前診断と遺伝カウンセリングを担当しています。中絶を行っている医療機関は、全国妊娠中絶クリニックなびで都道府県別に探せます。

Q2. 受診したその日に手術を受けられますか?

多くの場合は難しいと考えてください。中絶の前には、超音波検査で子宮内の妊娠と週数を確認し、血液検査などを行い、同意書を準備する必要があります。頸管を広げる前処置が必要な場合もあります。対応は医療機関によって異なるため、早めに受診して日程を相談してください。

Q3. 手術はどのくらい痛いですか?

初期の手術は麻酔をかけて行うため、処置中の痛みは抑えられます。ただし頸管を広げる前処置で痛みを感じることがあり、感じ方には個人差があります。中絶薬では生理痛のような腹痛、中期中絶では陣痛に近い痛みがあります。

Q4. 中絶後、生理はいつ来ますか?

中絶後およそ4〜6週で戻ることが多いとされます。ただし排卵は早ければ2週間前後で戻ることがあり、生理が来る前に妊娠する可能性もあります。避妊については術後の診察で相談しておきましょう。

Q5. 中絶を2回以上受けても大丈夫ですか?

法律上、中絶の回数に制限はありません。安全な方法で行われた中絶が不妊の原因になることはほとんどないとされますが、掻爬を複数回受けた経験は、その後の妊娠での早産と関連すると報告されています。望まない妊娠を繰り返さないよう、避妊方法を医療機関で相談することが大切です。

Q6. 中絶薬と手術はどちらを選べばよいですか?

中絶薬は妊娠63日(9週0日)までしか使えず、入院できる施設で胎嚢が出るまで待機する必要があります。約1割で手術が必要になる可能性もあります。手術は短時間で終わりますが麻酔を使います。週数、体調、通院のしやすさを含めて、医療機関で説明を受けたうえで選んでください。

Q7. 未成年でも中絶を受けられますか?

受けられます。母体保護法には保護者の同意を求める規定はありませんが、保護者の同意を求めている医療機関もあります。必要な書類は医療機関ごとに違うため、予約の際に確認してください。誰にも相談できないときは、にんしんSOSなどの窓口を利用できます。

Q8. 中絶後、いつから妊活していいですか?

術後の診察で出血がおさまり子宮の回復が確認できれば、長く待つ必要はないとする研究が増えています。ノルウェーの全国データでは、中絶から3か月以内に妊娠してもリスクは高くなっていませんでした。一度生理を待つと次の妊娠の週数を数えやすくなります。赤ちゃんの病気が理由の場合は、次の妊娠の前に遺伝カウンセリングで再発の可能性を確認しておくと安心です。

まとめ

人工妊娠中絶は、母体保護法のもとで指定医師が行う医療で、妊娠21週6日までしか受けられません。11週6日までの初期中絶は吸引法・掻爬法、9週0日までは中絶薬も選べ、12週以降の中期中絶は入院して薬で陣痛を起こす方法になり、死産届が必要です[1][5][10]。

費用は原則自費ですが、胎児心拍の確認後の中絶は妊婦支援給付金、妊娠85日以降の中絶は出産育児一時金の対象になります[16][17]。週数が進むほど体への負担と選べる方法が変わるため、迷っている段階でも早めに受診して正確な週数を知ることが大切です。胎児の病気が理由で悩んでいる方は、NIPTの結果だけで決めず、確定検査と遺伝カウンセリングを先に受けてください。

参考文献

  • [1] 母体保護法(昭和23年法律第156号). 厚生労働省 法令等データベース. [厚生労働省]
  • [2] 公益社団法人 日本産婦人科医会. 人工妊娠中絶の定義(厚生省発健医第55号 厚生事務次官通知, 1990年). [日本産婦人科医会]
  • [3] 厚生労働省子ども家庭局母子保健課長. 「母体保護法の施行について」の一部改正について(子母発1020第1号, 2020年10月20日). [日本産科婦人科学会]
  • [4] 内閣府男女共同参画局. 第1回 女子差別撤廃委員会最終見解への対応に関するワーキング・グループ 資料7(厚生労働省説明資料). [内閣府]
  • [5] 死産の届出に関する規程(昭和21年厚生省令第42号). 厚生労働省 法令等データベース. [厚生労働省]
  • [6] 厚生労働省. 令和6(2024)年度衛生行政報告例の概況. 2025. [厚生労働省]
  • [7] World Health Organization. Abortion care guideline, second edition. 2024. [NCBI Bookshelf] [Recommendations 23-26]
  • [8] 公益社団法人 日本産婦人科医会. 妊娠12週未満の人工妊娠中絶手術による合併症(日本産婦人科医会調査結果より). [日本産婦人科医会]
  • [9] 公益社団法人 日本産婦人科医会. 早期人工流産(妊娠12週未満の人工妊娠中絶)について. [日本産婦人科医会]
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プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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