目次
NIPTの採血管に入った血液は、そのままシークエンサー(塩基配列を読む装置)にかけられるわけではありません。血漿を分け、そこにわずかに含まれるセルフリーDNA(cfDNA)を取り出し、装置が読める形に整える「ライブラリー(ライブラリ)調製」という前処理を経て、はじめて解析が始まります。この前処理の質が、胎児分画(胎盤由来のDNAの割合)や判定保留の起こりやすさ、さらには結果の信頼性に直結します。このページでは、採血から血漿の分離、cfDNAの抽出、ライブラリー調製、検体を見分けるバーコードまでを順に解説します。NIPT教科書シリーズ第2章の4節目です(第2章の全体像はNIPTの原理を理解しよう)。
Q. ライブラリー調製とは何ですか?
A. 取り出したDNA断片の両端に、装置が認識できる共通の配列(アダプター)を付け、シークエンサーにかけられる状態の「DNA分子の集まり(ライブラリー)」にする工程です。NIPTでは、cfDNAがもともと約150塩基の短い断片になっているため、通常の遺伝子検査で必要なDNAを細かく切る工程が要りません。検体ごとに異なるバーコード配列もここで付けられます。
- ➤血漿の分離 → cfDNAは血球ではなく血漿にあります。白血球の混入や溶血は、胎盤由来のDNAを薄めてしまいます
- ➤約150塩基の理由 → DNAを切る酵素がヌクレオソームに巻かれた部分を切れないため。胎盤由来の断片はさらに少し短くなります
- ➤品質管理 → PCRで増やすと抽出の失敗が隠れるため、読んだ量ではなく「ライブラリーの複雑性」で確かめます
- ➤WGS法とSNP法 → ライブラリーの作り方が違い、必要な採血量や断片長の情報の残り方も変わります
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. NIPTは胎盤由来のDNAを調べている?
はい。血漿の中の「胎児の」DNAは、実際には胎盤の細胞から出てきた断片です。母体由来の断片より少し短いという特徴があります。
🩸 Q. 採血の後の扱いで結果は変わる?
変わります。保存中に母体の血球からDNAが出てくると、胎児分画が下がり、判定保留の原因になります。
🔖 Q. 多くの人の検体をどうやって見分ける?
検体ごとに6〜8塩基ほどのバーコード配列を付けてから、まとめて装置で読み、あとでコンピューター上で分け直します。

1. NIPTの検体が検査室で読める形になるまで
NIPTの解析は、大きく「シークエンサーに入れる前(前処理)」「シークエンサーの中」「シークエンサーから出た後(データ解析)」の3段階に分けられます。このページで扱うのは最初の段階です。DNAの塩基配列を読む技術の全体像はDNAシークエンスで、装置そのものについては次世代シークエンサーで解説しています。
シークエンサーに入れる前の「前処理」が結果を左右する理由
NIPTで調べたいのは、母体の血液中のcfDNAのうち、わずか数%から十数%しかない胎盤由来の断片の、さらにわずかな量の変化です。たとえば21トリソミーでは、21番染色体由来の断片の割合がほんの少し増えるだけで、それを統計的に見分ける必要があります。前処理の段階で胎盤由来のDNAが薄まったり、取り出せた分子の数が足りなかったりすると、どれだけ高性能な装置で読んでも、その差は見えなくなってしまいます[1]。
言い換えると、NIPTの検出力は「装置がどれだけ正確に読めるか」だけでなく、「装置に入る前に、胎盤由来の分子をどれだけ薄めずに、どれだけ多くの種類を確保できたか」で決まります。このページの各章は、その条件を一つずつ確かめていく構成になっています。
2. 採血から血漿の分離まで
cfDNAは血球ではなく血漿にある
セルフリーDNA(cfDNA)は、細胞の外に出て血液中を漂っているDNAの断片で、血球の中ではなく血漿に含まれています。採血管を遠心分離すると、上から血漿、白血球の薄い層(バフィーコート)、赤血球の3層に分かれ、全血のおよそ55%が血漿です。cfDNAの抽出には、このうち上の血漿だけを吸い取って使います[1]。
白血球の混入と溶血が、胎盤由来のDNAを薄めてしまう
血漿を吸い取るときにバフィーコートを巻き込むと、白血球の中の大量の母体DNAが混ざり、もともと少ない胎盤由来のcfDNAが薄まってしまいます。その結果、胎児分画が下がり、異数性を見つける感度が落ちたり、検出できなくなったりします。遠心の速さは、層を分けるのに十分でありながら、赤血球が壊れる溶血を起こさない程度に設定されます。採血後の長時間保存や不適切な温度管理などにより白血球由来のゲノムDNAが血漿へ放出されると、胎盤由来cfDNAの相対割合が低下します。溶血は主として赤血球の破壊であり、赤血球は核DNAを持たないため、溶血そのものを母体ゲノムDNA増加の主因とはみなしません[1]。
採血してから血漿を分けるまでの時間も重要です。一般的なEDTA採血管で室温に置いておくと、時間とともに母体の血球からDNAが血漿中に放出され、胎児分画が急速に下がることが示されています。そのため、遠方から検体を送る検査では、血球からのDNA放出を抑える専用の保存用採血管が使われています[2]。「採血の後の扱い」は、検査を受ける方からは見えませんが、結果の出やすさに直接かかわる工程です。胎児分画の考え方は胎児ゲノム率(胎児分画)で、判定保留の原因はNIPT結果が出ない原因と対処法で詳しく扱っています。
🩸 前処理のトラブルと結果への影響
| 起こりうること | 何が起きるか | 結果への影響 |
|---|---|---|
| バフィーコートの巻き込み | 白血球の母体DNAが混ざる | 胎児分画が下がり、感度が落ちる |
| 長時間保存・不適切な温度管理 | 白血球由来のゲノムDNAが血漿へ放出される | 胎児分画が相対的に下がる |
| 通常の採血管での長時間の保管 | 母体の血球からDNAが放出される | 胎児分画が時間とともに下がる |
| 抽出の効率が悪い | 取り出せる分子の種類が少ない | 統計の力が足りず、判定が不安定になる |
採血量はなぜ決まっているのか
血漿中のcfDNAの濃度は、通常1mLあたり5〜50ngと非常に低く、この少なさが必要な採血量の下限を決めています。取り出せたDNAがゲノム10コピー分しかなければ、21番染色体の2%の増減を見分けることはおそらくできません[1]。
必要な量は解析の方式によっても異なります。全ゲノムを広く読むWGS法では、ゲノム上の1か所あたりの断片はごく少なくてよいため、採血量は比較的少なくて済み、1本の採血管から複数回抽出することもできます。一方、SNP(一塩基多型)の対立遺伝子の比を正確に測るSNP法では、標的とする各部位で数百ゲノム分の分子が必要になるため、WGS法より多くの採血量を要するのが一般的です[1][3]。
3. cfDNAが約150塩基にそろう理由
結論から言うと、NIPTで調べているのは主に胎盤の細胞から出てきたDNAで、cfDNAは「細胞が死ぬときに残ったヌクレオソーム1個分のDNA」なので、長さが約150塩基にそろっています。
アポトーシスとヌクレオソーム
cfDNAは、死んだ細胞の名残です。細胞がアポトーシス(プログラムされた細胞死)を起こすと、ゲノムDNAを分解する酵素がはたらきます。代表的なものが、カスパーゼによって活性化されるDNA分解酵素(CAD)です[4]。ところがこの酵素は、ヒストンに巻き付いたDNAには手を出せず、ヌクレオソームとヌクレオソームの間をつなぐ部分(リンカーDNA)しか切ることができません。その結果、ヌクレオソーム1個に巻かれた分のDNAが分解を免れ、血液中に出てきます[1]。
血漿cfDNAの長さの分布を調べると、最も多いのは約166塩基対の断片で、これはヒストン8量体に巻き付く約147塩基対に、リンカーDNA約20塩基対を加えた長さに相当します[5]。cfDNAの切れ方にはヌクレオソームの位置が刻まれていて、どの組織から来たDNAかを推定する手がかりにもなることがわかっています[6]。
💡 用語解説:ヌクレオソーム
DNAがヒストンというタンパク質の8量体に約2周巻き付いた、クロマチンの基本単位です。1個のヌクレオソームに巻かれるDNAは約147塩基対で、ヌクレオソームどうしは短いリンカーDNAでつながっています。巻き付いたDNAは酵素から守られるため、細胞が死んだあとも分解されずに残りやすく、これが血液中のcfDNAの長さを決めています。詳しくはヌクレオソームをご覧ください。
胎盤由来の断片は少し短い
妊婦の血漿では、胎盤由来のcfDNAは母体由来より系統的に短く、母体由来の主なピークが約166塩基対なのに対し、胎盤由来は約143塩基対で、150塩基対より短い断片が多くを占めます。短い断片と長い断片の比率は胎児分画と相関するため、断片の長さから胎児分画を推定することができます[5]。断片の長さの情報を使って胎児の染色体の異数性を見分ける方法も報告されています[7]。胎盤由来の断片が短くなる理由としては、DNAのメチル化の状態やクロマチンの開き具合が組織によって異なり、DNA分解酵素の切る位置に違いが生じることが考えられています[5]。
この性質は、ライブラリー調製の設計に直結します。断片の長さの情報を残す作り方をすれば、それ自体が胎児分画の推定や品質管理に使える情報になるからです。この点は6章のWGS法とSNP法の違いで改めて取り上げます。
長さの違いを積極的に利用する工夫もあります。短い断片を選んで解析したり、短い断片が増えやすい条件でPCRを行ったりすると、胎盤由来のDNAの割合を相対的に高めることができ、胎児分画の低い検体への対策として研究・応用が進んでいます[5]。cfDNAの長さの分布は、検体の品質を確かめる指標にもなります。血球のDNAが混ざると長い断片が増え、検体が劣化すると全体が短くなるため、分布の形の異常から前処理のトラブルに気づくことができるのです[5]。
4. cfDNAの抽出と品質管理
抽出量が少ないとどうなるか
cfDNAの抽出には市販の標準的な方法で十分な量が得られますが、効率よく取り出せるかどうかが、その後の統計的な検出力を左右します。効率の良い抽出であれば、胎児分画が低めの検体でも、判定に十分なゲノム当量(ゲノム何コピー分の分子があるか)を確保できます[1]。
「読んだ量は十分なのに統計の力がない」落とし穴
cfDNAは量が少ないため、抽出直後の量を正確に測るのは簡単ではありません。しかも、多くの方法ではシークエンス前にPCRでDNAを増やすため、抽出がうまくいっていなくても、装置で読める量(シーケンス深度)は十分に見えてしまいます[1]。
そこで使われるのが「ライブラリーの複雑性」という指標です。WGS法で効率よく抽出できていれば、もとの分子が豊富にあるため、ゲノム上のある位置に並ぶ断片はほとんどが0個か1個になります。抽出が不十分だと、もとの分子がまばらになり、同じ分子をPCRでコピーした重複が積み重なって「0個か、たくさん」という偏った分布になります[1]。WGS法NIPTの感度は、数えた断片の数による統計(計数統計)で決まることが示されており[8]、同じ分子のコピーを何回数えても、統計の力は増えません。つまり、品質管理で見るべきなのは「何回読んだか」ではなく「何種類の分子を読んだか」です。抽出効率が非常に高ければ、PCRを使わないライブラリー調製も可能になります[1]。近年は、分子ごとに固有の短い配列(分子バーコード)を付けて、PCRによる重複と自然に同じ位置にある断片を区別する工夫も使われています[5]。
5. ライブラリー調製の手順
ライブラリー(ライブラリ)調製とは、抽出したcfDNAの両端に、装置が認識する共通の配列「アダプター」を付けて、シークエンサーにかけられるDNA分子の集まりにする工程です。臨床で広く使われているIllumina社の装置では、すべての分子の5’端に1種類、3’端にもう1種類の、通常約50塩基のアダプターを付けます。共通のアダプターがあるので、1組のプライマーだけで、ライブラリー中のすべての分子を増やしたり読んだりできます[1][9]。この共通配列が使われるのは、装置に入れる量を確保するための事前のPCR(必要な場合)、装置の中で分子を増やすクラスター形成、そして塩基配列を読む反応そのものの3つの場面です[1]。つまりアダプターは、ライブラリーのすべての分子に共通の「取っ手」を付ける作業だと言えます。
末端修復とAテーリング
血漿から取り出したcfDNAは二本鎖ですが、両端が少しずれていて、一本鎖の短い突出部分があります。まずポリメラーゼのはたらきで、3’側に突き出た部分は削り、5’側に突き出た部分は埋めて、端をそろえます(末端修復)。次に、すべての分子の3’端に塩基のA(アデニン)を1つだけ付け足します(Aテーリング)[1][9]。
Yアダプターの付加
続いて「Yアダプター」とDNAをつなぐ酵素(リガーゼ)を加えます。Yアダプターは2本の一本鎖DNAからなり、Yの字の幹にあたる部分は互いに相補的で二本鎖になり、枝の部分は相補的でないため開いています。幹の端にはT(チミン)が1つ突き出ていて、cfDNAの端のAと対になって結合します。このY字の非対称な設計のおかげで、つないだあとのそれぞれの鎖が「片端に5’側用、反対の端に3’側用」の共通配列を持つことになります[1]。
NIPTでは断片化の工程が要らない
通常の遺伝子検査では、長いゲノムDNAを試験管の中で細かく切り、長さをそろえる工程が必要ですが、NIPTではこの工程が不要です。断片の長さがそろっているほど読み取りの偏りが小さくなりますが、cfDNAはアポトーシスによって体の中ですでに約150塩基の非常に均一な長さに切られているからです[1]。そのため、通常のゲノムDNAライブラリー調製で行う機械的・酵素的な断片化を省略できます。
6. WGS法とSNP法でライブラリーはどう違うか
WGS法:すべての断片を偏りなく拾う
全ゲノムを広く読むWGS法では、末端修復とAテーリングのほかはcfDNAに手を加えず、Yアダプターを付けるだけです。目的が「血漿中の断片を偏りなく数えること」なので、この作り方が適しています。もとの断片の長さがそのまま保たれるため、断片長の情報も解析に使えます[1]。
SNP法:標的を濃縮し、断片長の情報が失われる
SNP法では、情報を持つSNPの部位に重なる断片だけが役に立ちます。そこで、1本のチューブに数百から数千種類のプライマーの組を入れるマルチプレックスPCRで、目的の部位だけを増やします[1][3]。このとき増えてくるDNAの長さはプライマーの設計で決まり、もとのcfDNA断片の長さではありません。そのため、SNP法のライブラリーからは断片長の情報が失われます。断片長から胎児分画を推定する方法がSNP法では使えないのはこのためで、SNP法は代わりに対立遺伝子の比から胎児分画を求めます[1]。
🧪 WGS法とSNP法のライブラリーの違い
| 項目 | WGS法 | SNP法 |
|---|---|---|
| ライブラリーの作り方 | cfDNAにYアダプターを付けるだけ | マルチプレックスPCRで標的部位を濃縮 |
| ねらい | 全断片を偏りなく数える | SNP部位の対立遺伝子の比を測る |
| 必要な採血量 | 比較的少なくて済む | 各部位で数百ゲノム分が必要で、多めになる |
| 断片長の情報 | 保たれる | 失われる(長さはプライマーで決まる) |
※Muzzey(2018)[1]、Zimmermannら(2012)[3]による。採血量などは、その後の各社のプロトコルの改良で変わっている可能性があります。
7. バーコードとマルチプレックス:多数の検体を一度に読む
フローセルを多数の検体で分け合う
シークエンサーで1回に読める量は、フローセル(DNAを固定して読み取るガラス板)1枚あたり数億から数十億本にもなり、NIPT 1検体に必要な量をはるかに上回ります。そこで、多数の検体のライブラリーを混ぜて1枚のフローセルで一度に読む「マルチプレックス」が経済的になります。ただし、混ぜてしまうと、どの断片がどの検体のものかが物理的には区別できなくなります[1]。NIPTの結果が出るまでに一定の日数がかかるのは、こうして多くの検体をまとめて処理する仕組みであることも一因と考えられます。
6〜8塩基のバーコードと、取り違えを防ぐ設計
そこで、ライブラリー調製の段階で、Yアダプターの中に検体ごとに異なる約6〜8塩基の短い配列(バーコード、インデックスとも呼ばれます)を組み込んでおきます。同じ検体の分子はすべて同じバーコードを持ち、装置はバーコードの配列と断片の配列を別々に読み取ります。バーコードは、読み取りで1塩基程度の誤りがあっても別の検体と取り違えないよう、互いに十分に異なる配列が選ばれています[1]。マルチウェルプレートで検体を物理的に分けていたことを、コンピューターの上で再現する仕組みです。もしバーコードの設計や読み取りが不十分だと、別の人の断片が自分の検体に混ざって数えられることになり、わずかな割合の変化を見る検査では結果に影響しかねません。バーコードの設計は、目立たないながら検体の取り違えや混入を防ぐ品質管理の基本です。読み取った配列を検体ごとに分け直す「デマルチプレックス」と、ゲノム上の位置を決める「アライメント」は2-6で扱い、装置の中でどう配列が読まれるかは、次の2-5(ショートリードシーケンサーの仕組み)で解説します。
🩺 院長コラム【前処理の質は、結果の説明責任につながる】
NIPTの話題では、検出率や陽性的中率といった「解析の性能」が注目されがちです。その数字自体はもちろん大切です。けれども、その性能は、採血管の選び方、運ぶ時間と温度、血漿の分け方、抽出の効率といった、目に見えない前処理の積み重ねの上に成り立っています。判定保留や胎児分画の低さは、妊婦さん側の要因だけでなく、こうした工程の質にも左右されます。
NIPTの結果を評価する際には、「なぜこの結果になったのか」を前処理の段階までさかのぼって検討できることが重要です。検査がどのような工程を経て結果になるのかを知ることは、検査の特性や結果を理解するうえでも役立ちます。
よくある質問(FAQ)
Q1. NIPTは胎盤由来のDNAを調べているのですか?
はい。母体の血漿中にある「胎児の」cfDNAは、実際には胎盤の細胞から出てきたDNAの断片です。母体由来の断片の主なピークが約166塩基対なのに対し、胎盤由来は約143塩基対と少し短く、この長さの違いは胎児分画の推定にも使われています。
Q2. ライブラリー(ライブラリ)調製とは何ですか?
取り出したDNA断片の端を整え、両端に装置が認識する共通の配列(アダプター)と検体を見分けるバーコードを付けて、シークエンサーで読める分子の集まりにする工程です。NIPTではcfDNAがもともと約150塩基の短い断片になっているため、DNAを細かく切る工程は必要ありません。方式によって作り方が異なり、WGS法ではアダプターを付けるだけですが、SNP法ではマルチプレックスPCRで標的の部位を増やしてライブラリーを作ります。
Q3. NIPTの採血量はなぜ決まっているのですか?
血漿中のcfDNAは1mLあたり5〜50ngとごく少量で、判定に必要な分子の数を確保するために一定量の血液が必要だからです。必要な量は方式によって異なり、SNP法は標的部位ごとに多くの分子が必要なため、WGS法より多めの採血量を要するのが一般的です。
Q4. 溶血したり、採血から時間がたったりすると結果に影響しますか?
影響することがあります。通常の採血管で長く保存するなどして母体白血球からゲノムDNAが血漿へ放出されると、胎盤由来のcfDNAが薄まって胎児分画が下がります。そのため、遠方から検体を送る検査では、血球からのDNA放出を抑える専用の採血管が使われています。
Q5. 判定保留は前処理と関係がありますか?
関係することがあります。胎児分画が低い、取り出せた分子の種類が少ない(ライブラリーの複雑性が低い)といった状態では、統計的に判定するための情報が足りず、判定保留になることがあります。原因は妊婦さん側の要因と検体処理の両方にわたるため、再検査の方法も含めて個別に考える必要があります。
まとめ:前処理はNIPTの精度の土台
NIPTでは、採血管の血液から血漿を分け、ごく少量のcfDNAを取り出し、アダプターとバーコードを付けてライブラリーにするという前処理を経て、はじめてシークエンサーにかけられます[1]。cfDNAはアポトーシスの際にヌクレオソーム1個分が残ったもので、長さは約150塩基にそろい、胎盤由来の断片は母体由来より少し短くなります[5]。白血球の混入や溶血、保存中の血球からのDNA放出は胎盤由来のDNAを薄め[2]、抽出の不足はPCRに隠れて統計の力を奪うため、ライブラリーの複雑性による品質管理が欠かせません[8]。
また、WGS法とSNP法ではライブラリーの作り方が異なり、必要な採血量や断片長の情報の残り方まで変わります[3]。次の2-5では、こうして作られたライブラリーが装置の中でどのように読まれるのかを見ていきます(NGSの仕組み:クラスター形成から塩基配列の読み取りまで)。
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参考文献
- [1] Muzzey D. Understanding the Basics of NGS in the Context of NIPT. In: Page-Christiaens L, Klein HG, eds. Noninvasive Prenatal Testing (NIPT): Applied Genomics in Prenatal Screening and Diagnosis. Academic Press (Elsevier); 2018:7-24. [DOI]
- [2] Fernando MR, et al. A novel approach to stabilize fetal cell-free DNA fraction in maternal blood samples for extended period of time. PLoS One. 2018;13(12):e0208508. [DOI]
- [3] Zimmermann B, et al. Noninvasive prenatal aneuploidy testing of chromosomes 13, 18, 21, X, and Y, using targeted sequencing of polymorphic loci. Prenat Diagn. 2012;32(13):1233-1241. [DOI]
- [4] Enari M, et al. A caspase-activated DNase that degrades DNA during apoptosis, and its inhibitor ICAD. Nature. 1998;391(6662):43-50. [DOI]
- [5] Shi J, et al. Size profile of cell-free DNA: A beacon guiding the practice and innovation of clinical testing. Theranostics. 2020;10(11):4737-4748. [Theranostics]
- [6] Snyder MW, et al. Cell-free DNA Comprises an In Vivo Nucleosome Footprint that Informs Its Tissues-Of-Origin. Cell. 2016;164(1-2):57-68. [DOI]
- [7] Yu SCY, et al. Size-based molecular diagnostics using plasma DNA for noninvasive prenatal testing. Proc Natl Acad Sci U S A. 2014;111(23):8583-8588. [DOI]
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- [9] Quail MA, et al. A large genome center’s improvements to the Illumina sequencing system. Nat Methods. 2008;5(12):1005-1010. [DOI]



