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コルネリア・デ・ランゲ症候群4型(CdLS4)とは?RAD21遺伝子の変化で起こる病気をやさしく解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

コルネリア・デ・ランゲ症候群4型(CdLS4)は、染色体を束ねる「コヒーシン」というリング状のタンパク質複合体の部品であるRAD21遺伝子の変化で起こる、まれな先天性の症候群です。顔つきや手足の特徴は比較的おだやかな「非古典型(軽症型)」が多い一方で、一部のお子さんでは全前脳胞症(ぜんぜんのうほうしょう)という脳の正中構造の重い形成異常を合併することがあり、単純に「軽い」とは言い切れない二面性をもつ病気です。この記事では、原因・症状・診断・遺伝のしくみ・日本の支援制度・出生前診断との関わりまでを、臨床遺伝専門医がやさしく解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約16分
🧬 RAD21・コヒーシン病・先天異常症候群
臨床遺伝専門医監修

Q. コルネリア・デ・ランゲ症候群4型(CdLS4)とはどんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです

A. CdLS4は、染色体を束ねる「コヒーシン」というリング状の複合体の部品であるRAD21遺伝子の変化で起こる、まれな先天性の症候群です。NIPBL遺伝子による古典的CdLSに比べて顔つきや手足の特徴はおだやかな「非古典型(軽症型)」が多い一方、一部のお子さんでは全前脳胞症(HPE)という脳の正中構造の重い形成異常を合併することがあります。大半は新生突然変異で生じるため、ご両親に責任はありません。日本では小児慢性特定疾病・指定難病(先天異常症候群)の対象です。

  • 原因 → 8番染色体上のRAD21遺伝子。コヒーシンのリングを閉じる「クレイシン」という部品をつくる設計図
  • 頻度 → 全CdLSの約0.6%とごくまれ。多くは親に変異がない新生突然変異(de novo変異)
  • 二面性 → 顔や手足はおだやかでも、全前脳胞症(HPE)など正中の脳の異常を伴うことがある
  • 診断 → 2018年の国際コンセンサススコア+遺伝子検査(NGS)。血液で陰性でも頬の粘膜での再検査が重要
  • 支援 → 小児慢性特定疾病(告示番号17)・指定難病310(先天異常症候群)の対象

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1. コルネリア・デ・ランゲ症候群4型(CdLS4)とは

コルネリア・デ・ランゲ症候群(Cornelia de Lange syndrome:CdLS)は、特徴的な顔つき、生まれる前から続く成長の遅れ、手足の骨格の異常、知能や運動の発達の遅れなどを伴う、複数の臓器にまたがった先天性の症候群です。1933年にオランダの小児科医コルネリア・デ・ランゲが2人の新生児を詳しく報告したことから、この名前がつきました[12]。発症頻度は出生1万〜3万人に1人ほどと推定され、軽い症例が見逃されている可能性を考えると、実際はもう少し多いと考えられています[2]

研究が進むにつれて、CdLSは1つの遺伝子の病気ではなく、「コヒーシン病(コヒーシノパチー)」という共通の分子的な土台をもつ、いくつもの遺伝子による疾患グループであることがわかってきました。その中で、8番染色体の長腕(8q24.11)にあるRAD21遺伝子の片方のコピーに変化が起きて発症するタイプが「コルネリア・デ・ランゲ症候群4型(CdLS4)」です[1]

CdLS4は全CdLSの約0.6%とごくまれなタイプです[3]。RAD21型は、NIPBL型でみられるような重い四肢の欠損が少なく、全体的には「非古典型(軽症型)」の見た目を示すことが多いとされています。ところがその一方で、脳の正中(左右の真ん中)に重い形成異常を合併するリスクをあわせ持つという、臨床的にとても重要な特徴があります。実際、国際的な病名登録でもこの病気は「正中の脳の異常を伴う/伴わないコルネリア・デ・ランゲ症候群4型」と記載されています[1]

💡 用語解説:コヒーシン病(コヒーシノパチー)とは

細胞の中で染色体を束ねる「コヒーシン」という機械(タンパク質複合体)や、その働きを助ける因子の遺伝子に変化が起きて発症する病気の総称です。CdLSはその代表で、原因となる遺伝子がNIPBL・SMC1A・SMC3・HDAC8・RAD21など複数あるため、症状の重さにも大きな幅が生まれます。

2. 原因遺伝子RAD21とコヒーシン複合体

CdLS4を理解する鍵は、コヒーシン複合体という細胞内の「機械」にあります。コヒーシンは、細胞が分裂するときに2本に複製された染色体(姉妹染色分体)をきちんと束ねて正確に分配するだけでなく、分裂していないふだんの細胞でも、DNAをループ状に折りたたんで立体的なゲノム構造をつくり、遺伝子のスイッチのオン・オフを精密に調節する役割を担っています[12]

この複合体はリング状の構造をしています。SMC1AとSMC3という2本の長い腕がV字型のヒンジ(蝶番)でつながり、その腕の先端(頭部)どうしをRAD21(クレイシンとも呼ばれます)が橋渡しして、巨大なリングを閉じ、安定させています。そしてNIPBLは、このリングをDNAの上に装着させる「ローダー(積み込み役)」です。RAD21が欠けると、このリングが正しく閉じられず、コヒーシン本来の働きがうまく回らなくなります[1]

💡 用語解説:クレイシン(kleisin)とは

コヒーシンのリングの「フタ」にあたる部品で、RAD21がこれにあたります。SMC1AとSMC3の頭部をつなぎ、リングを閉じる役目をします。細胞分裂の終わりには、セパラーゼという特別なハサミ役の酵素がこのRAD21を切断し、リングが開いて染色体が左右に分かれます。RAD21はまさに「鍵をかけたり外したりする要(かなめ)」の部品なのです。

コヒーシン複合体とRAD21(クレイシン) リング状の複合体が染色体とDNAを束ね、立体構造と遺伝子発現を制御する ヒンジ SMC1A SMC3 ATPaseドメイン(頭部) RAD21(クレイシン) 2本の頭部を橋渡しし、リングを閉じる DNA NIPBL DNAへの装着を助ける

SMC1AとSMC3がつくるリングの開口部をRAD21(クレイシン)が結合して閉じ、内側にDNAを抱え込みます。NIPBLはこの複合体をDNAに装着させるローダーです。RAD21が減ったり働けなくなると、このリングが正しく機能できなくなります。

「染色体の束ね役」よりも「遺伝子発現の調整役」としての異常

最近の研究では、RAD21やSMC3などのコヒーシン部品の変化は、細胞分裂のときの染色体の分配ミスというより、細胞分裂とは関係のない場面での「遺伝子発現の調整」の失敗として強い影響を与えると考えられています。とくに、胎児が育つ大切な時期に、必要な遺伝子を必要なだけ正確にオンにする調整がうまくいかなくなることが、病態の中心とされています[4]

RAD21が減ると、ゲノムの立体的な折りたたみ構造(TAD:トポロジカル関連ドメイン)が変わり、離れた場所にあるエンハンサー(増強因子)とプロモーター(遺伝子の入口)が正しく出会えなくなります。その結果、本来オンになるべき遺伝子の調整が乱れます。CdLS4で重要なのは、この乱れが脳の正中をつくるシグナル(Sonic Hedgehog/SHH経路)にも及び、ZIC2やGLI2といった脳の発生に欠かせない遺伝子群の働きが乱れる点です[4]。これが、次章で述べる全前脳胞症との関連につながります。

3. CdLS4の主な症状・特徴

CdLSの症状は、命に関わる重い古典型から、身体の異常が目立ちにくい軽い非古典型まで、連続したひと続きの幅をもっています。RAD21によるCdLS4は、全体としては非古典型(軽症型)の顔つき・手足の特徴を示すことが多いのが特徴です[8]。代表的な特徴を、領域ごとに整理します。

👀 顔つき(顔貌)

  • 濃く弓なりの眉毛、左右がつながる眉(合眉)
  • 長くカールしたまつ毛
  • 低く短い鼻、上向きの鼻先
  • 長くなめらかな人中、薄い上くちびる

✋ 手足・骨格

  • 小さな手、第5指の彎曲(わんきょく)
  • 肘の動きを制限する橈尺骨癒合症
  • 第2・第3趾の部分的な合趾(合指)
  • 側弯症など脊椎の変化

📏 成長・発達

  • 生まれる前からの成長の遅れ
  • 低身長・小頭症が続きやすい
  • ことばの遅れ(とくに表出言語)
  • 非古典型では認知の遅れが軽いことも

🩺 全身の合併症

  • 胃食道逆流症(GERD)・摂食の問題
  • 先天性心疾患
  • 難聴・近視などの感覚の問題
  • 多毛症・皮膚の所見

知能の幅は非常に広く、平均はおよそIQ53とされますが、RAD21やSMC3などの非古典型では認知の障害が比較的軽いことも多く、約45%が軽度、約10%は正常範囲という報告もあります[11]。ただしことばの遅れはほぼ全例にみられ、聞いて理解する力に比べて、話す力が強く制限される傾向があります[2]

なかでも見落とされやすいのが胃食道逆流症(GERD)です。吐くなどのわかりやすい症状を示さない「サイレント(静かな)逆流」として進むことが多く、気づかれないまま食道炎や誤嚥性肺炎につながることがあります[11]。命に関わる合併症の予防という観点から、消化器の評価はとても大切です。

4. 全前脳胞症(HPE)との関連 ― CdLS4の二面性

CdLS4で最も注目すべき特徴が、脳の正中(左右の真ん中)の形成異常、とくに全前脳胞症(HPE)との関連です。この病気の国際的な正式名称が「正中の脳の異常を伴う/伴わないコルネリア・デ・ランゲ症候群4型」とされているのは、まさにこの特徴のためです[1]

💡 用語解説:全前脳胞症(HPE)とは

妊娠のごく初期(受精後3〜4週ごろ)に、胎児の前脳が左右の大脳半球にうまく分かれずに発生する、重い脳の形成異常です。最重症の無葉型から、比較的軽い分葉型まで幅があります。脳と顔は同じ発生の道すじを共有するため、顔の正中の異常(口唇口蓋裂など)を伴うこともあります。くわしくは全前脳胞症の解説ページもご覧ください。

ここで誤解を避けたい大切な点があります。HPEはCdLS4の全例に起こるわけではありません。むしろ一部のお子さんにみられる所見です。実際、RAD21変異の患者さんをまとめたレビューでも、口蓋裂や心疾患などの先天異常は約半数にみられた一方、重い四肢の欠損は認められず、HPEを含む正中脳の異常はあくまで一部の症例でした[1]。だからこそ病名も「伴う/伴わない」となっています。

それでもHPEがCdLS4を特徴づける重要な所見とされるのは、頻度は高くなくても、合併したときの影響が大きく、CdLS4を他のタイプと分ける手がかりになるからです。ヒトの神経幹細胞でコヒーシン関連因子の働きを抑えると、HPEに関係するZIC2・GLI2・SMAD3・FGFR1といった遺伝子の発現が乱れることが示されており、コヒーシンが正中前脳の正常な発達を司る重要な調整役であることがわかっています[4]。妊娠34週の胎児で、エクソーム解析によってRAD21の機能喪失変異とHPEの合併が見つかった報告もあります[5]

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「軽症型」という言葉だけでは語れないこと】

CdLS4はNIPBL型に比べて顔つきや手足の特徴がおだやかなことが多く、「非古典型」「軽症型」と説明されます。けれども病名そのものが「正中の脳の異常を伴うこともある/伴わないこともある」と記しているとおり、一部のお子さんでは全前脳胞症という重い脳の形成異常を合併します。この二面性こそが、出生前の情報提供をむずかしくする部分です。

出生前診断に長く携わる臨床遺伝専門医として、私は「軽症型」という一言だけで安心を語ることも、まれな重症像だけを強調して不安を煽ることも避けたいと考えています。同じ遺伝子の変化でも現れ方には幅があります。文献を踏まえながら、その幅を正直にお伝えし、ご家族が落ち着いて考えられる土台をつくることが、私の役割だと思っています。

5. 遺伝のしくみ ― 常染色体顕性・新生突然変異・モザイク

CdLS4は常染色体顕性(優性)遺伝の病気です。これは、一対あるRAD21遺伝子のうち片方に変化があるだけで症状が現れうる、という意味です。そして臨床で診断される症例の大半(約99%)は、家系に同じ病気の人がいない、精子や卵子がつくられる過程でたまたま新しく生じた新生突然変異(de novo変異)によるものです[2]

💡 用語解説:新生突然変異(de novo変異)とは

ご両親のどちらの遺伝子にも変化がないのに、お子さんで初めて生じた遺伝子の変化のことです。受精のときや受精直後に、偶然のコピーミスとして起こります。つまり親の生活習慣・お薬・妊娠中の行動が原因ではありません。RAS病など、多くの先天性症候群がこのしくみで起こります。

ただし、少数ながら家族内で受け継がれる例もあります。親がごく軽い症状をもっていたり、見た目はまったく症状がなくても、卵子や精子の一部にだけ変異がある生殖細胞系列モザイクを抱えている場合があるためです。そのため、孤発例とみられるご夫婦の次のお子さんでの再発リスクは、経験的におよそ1〜5%と見積もられ、ゼロとは言い切れません[6]

さらにCdLS全般で決定的に重要なのが、体細胞モザイクの高い頻度(全体の15%以上)です。これは受精後の発生のごく初期に新たに変異が生じ、からだの一部の細胞だけが変異をもつ状態です[6]。このため、血液の遺伝子検査で変異が見つからない「陰性」のCdLSでも、頬の粘膜(口腔スワブ)や皮膚など、由来の異なる組織で詳しく調べると変異が見つかることがあります。これは診断の落とし穴として、次章でくわしく触れます。

💡 用語解説:モザイクとは

1つの受精卵に由来しながら、遺伝子や染色体の型が異なる細胞が体内に混在している状態です。変異をもつ細胞の割合や、どの組織に多いかによって、症状の出方が変わります。くわしくはモザイクの解説ページもご覧ください。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「私のせいでは」という問いに向き合って】

出生前診断と遺伝カウンセリングを専門とする臨床遺伝専門医として、ご両親が最初に口にされる問いの多くが「妊娠中の私の何かが原因だったのでは」というものだと、カウンセリングの場面で痛感します。CdLS4の原因となるRAD21の変化は、その大半が、精子や卵子がつくられる過程や受精直後にたまたま生じた新生突然変異です。

つまり、食事も、お薬も、お仕事も、妊娠中の行動も、原因ではありません。HBOC(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)やリンチ症候群といった成人の遺伝性疾患のカウンセリングと地続きの問題として、私はいつも「責任の所在」ではなく「これからどう支えていくか」へ、そっと視点を移していくお手伝いをしたいと考えています。

6. 診断の進め方

CdLSの診断は、長らく医師の経験にもとづく特徴的な顔つき(ゲシュタルト)の認識に頼ってきました。しかし軽い非古典型を見逃さないために、現在は客観的な基準が使われています。2018年に作られた国際コンセンサススコアは、疾患に特徴的な「主症状(各2点)」と、他の症候群でもみられうる「副症状(各1点)」に分け、合計点で診断の道すじを標準化します[7]

主症状(各2点)

  • 合眉、または濃い眉毛
  • 低い鼻梁を伴う短い鼻・上向きの鼻先
  • 長く平坦な人中
  • 薄い上くちびる・下向きの口角
  • 手の乏指症・無指症
  • 横隔膜ヘルニア

副症状(各1点)

  • 全般的な発達遅延・知的障害
  • 出生前・出生後の成長の遅れ
  • 小頭症
  • 小さな手・足、短い第5指
  • 多毛症

合計点による目安は次のとおりです[7]11点以上(主症状3つ以上)で古典型CdLSの確定診断、9〜10点(主症状2つ以上)で非古典型を強く示唆、4〜8点(主症状1つ以上)で遺伝子検査が勧められ、4点未満では本疾患の可能性は低いと判断されます。RAD21によるCdLS4の多くは、この9〜10点の非古典型に該当します。

遺伝子検査(NGS)と「血液陰性」の落とし穴

スコアが確定に届かない場合や、HPEなどの所見を伴う非古典型が疑われる場合は、次世代シークエンサー(NGS)による遺伝子検査が確定診断の柱になります。第一選択は、NIPBL・SMC1A・SMC3・RAD21・HDAC8に加え、表現型が重なる類縁疾患(ANKRD11・BRD4など)もまとめて調べるターゲット遺伝子パネル検査です[3]

ここで臨床医が直面する重大な落とし穴が、血液からのDNA検査による「偽陰性」です。前章でふれたとおり、コヒーシン病では体細胞モザイクが多いため、血液の検査で変異が見つからなくても安易にCdLSを除外してはいけません。臨床的にCdLSが強く疑われるときは、頬の粘膜(口腔スワブ)・唾液・皮膚など、由来の異なる組織での再検査を行うことが国際的に強く推奨されています[6]

💡 用語解説:ミスセンス変異・機能喪失(LoF)変異

ミスセンス変異は、DNAの1文字が変わってタンパク質のアミノ酸が1つ別のものに置き換わる変異です。一方、ナンセンス変異やフレームシフト変異のように、タンパク質が途中で途切れて働きを失うものを機能喪失(LoF)変異といいます。

RAD21によるCdLS4では、こうした機能喪失型の変化により、コヒーシンのリングを閉じる部品が足りなくなる「量の不足」が主な仕組みと考えられています。遺伝子変異の種類もあわせてご覧ください。

7. 日本の医療支援制度

日本では、コルネリア・デ・ランゲ症候群は公的な医療費助成の対象になっています。お子さんでは小児慢性特定疾病(「染色体又は遺伝子に変化を伴う症候群」、告示番号17)として登録され、推計で約4,000人の患者さんがいるとされています[9]

また指定難病としては、個別の病名ではなく、まとめて扱う「先天異常症候群」(指定難病310)のカテゴリーの中で対象になります[10]。この制度では、食事・栄養(経管栄養の必要性など)や呼吸(気管切開の有無など)の自立度、心疾患のNYHA分類などをもとにした重症度分類で、医療費助成の対象になるかどうかが判定されます[10]

制度の適用条件や申請の手続きは、お住まいの都道府県・指定都市の窓口や主治医によって判断されます。重症度が国の基準を超えた場合に対象となり、医師の診断書が必要です。

8. 治療・管理と予後

CdLSは全身の多くの臓器に影響するため、ひとつの診療科だけでは対応できません。小児科・臨床遺伝科・消化器科・循環器科・神経科・眼科・耳鼻科・整形外科・リハビリテーション専門職などによる多職種チーム医療が欠かせません[7]。現時点で原因そのものを治す治療法は確立しておらず、先回りした対症療法と、命に関わる合併症の予防が長期管理の柱になります。

  • 消化器・栄養:サイレントな胃食道逆流症(GERD)の評価と治療が最優先。誤嚥性肺炎や低栄養の予防が重要です
  • 循環器:初診時の心エコー・心電図で先天性心疾患をスクリーニング。聴診だけでは見つからない欠損もあります
  • 発達・コミュニケーション:言語聴覚士による早期支援、絵カードやタブレットなど代替コミュニケーションの確立が、困りごとに伴う行動の問題を減らします
  • 感覚器・整形外科:難聴・近視への対応、橈尺骨癒合症など骨格的な制約をふまえたリハビリが大切です

予後は、合併する臓器の異常の重さに大きく左右されます。重い心疾患や全前脳胞症などを伴う場合は乳児期に命に関わることがあります。一方で、こうした重い内臓・脳の異常を持たない多くの患者さん(とくにRAD21型などの非古典型・軽症例)では、寿命は一般の方と大きく変わらず、成人期以降も長く生活されることが十分に期待できます[11]。成人期の最大の課題は、未治療のGERDや嚥下障害から進む慢性的な誤嚥性肺炎であり、小児から成人診療への切れ目のない移行(トランジション)を含めた、生涯にわたるケア体制が大切です[11]

9. 出生前診断と遺伝カウンセリング

分子診断は「出生前」と「出生後」で目的も技術も異なるため、分けて理解することが大切です。

🤰 出生前の検査

スクリーニング:一般的なNIPTではCdLSは調べられません。RAD21などを含む単一遺伝子NIPTで対象になります。

確定検査:絨毛検査・羊水検査+既知変異のターゲット解析

👶 出生後の検査

遺伝子パネル:コルネリア・デランゲ症候群NGSパネル

再検査:血液で陰性でも頬粘膜・皮膚での確認(体細胞モザイク対策)

「コルネリア・デ・ランゲ症候群はNIPTで分かりますか?」というご質問をよくいただきます。結論として、染色体の本数を調べる一般的なNIPTでは、単一遺伝子の病気であるCdLSは検出できません。当院のダイヤモンドプラン(56遺伝子・30以上の疾患に関連、RAD21を含みます)や、より広く単一遺伝子疾患を調べるインペリアルプランのように、特定の遺伝子の変化を直接調べる検査でのみ対象になります。なお、出生前にどの検査を選ぶか、そもそも調べるかどうかは、ご家族で十分に話し合ってお決めいただくことです。くわしくはCdLSとNIPTの解説もご覧ください[5]

CdLS4と診断された後、ご家族への遺伝カウンセリングが大切な役割を果たします。遺伝カウンセリングでは、新生突然変異が大半でご両親に責任がないこと、孤発例でも生殖細胞系列モザイクのため再発リスクはゼロではなく約1〜5%と見積もられること、次の妊娠での出生前診断の選択肢、そして当事者ご本人が将来お子さんをもつ場合は常染色体顕性遺伝の原則から子へ受け継がれる確率が理論上50%になること、などが扱われます[6]。これらは「検査を勧める」ためではなく、ご家族がご自身で考え、納得して選んでいただくための情報提供です。

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10. よくある誤解

誤解①「親のせいで起きた病気だ」

CdLS4の多くは新生突然変異で起こり、妊娠中の生活やお薬が原因ではありません。誰にでも起こりうる、偶然のコピーミスです。

誤解②「軽症型だから心配いらない」

顔や手足はおだやかでも、一部では全前脳胞症など重い脳の異常を伴います。一方で多くは寿命に大きな影響がなく、幅をふまえた評価が必要です。

誤解③「血液検査で陰性なら否定できる」

CdLSは体細胞モザイクが多いため、血液で陰性でも頬粘膜などの再検査が必要です。安易に除外してはいけません。

誤解④「ふつうのNIPTで分かる」

染色体の本数を調べる一般的なNIPTでは、単一遺伝子の病気であるCdLSは検出できません。特定の遺伝子を直接調べる検査が必要です。

よくある質問(FAQ)

Q1. コルネリア・デ・ランゲ症候群4型(CdLS4)と、ほかのタイプは何が違うのですか?

CdLSは原因遺伝子によってタイプが分かれます。最も多いのはNIPBLによる古典型で、四肢の欠損や知的障害が重い傾向があります。RAD21によるCdLS4は全体の約0.6%とまれで、顔つきや手足はおだやかな非古典型が多い一方、一部で全前脳胞症などの正中脳の異常を伴う点が特徴です。原因遺伝子の確認には遺伝子パネル検査が役立ちます。

Q2. CdLS4は遺伝しますか?次の子にも起こりますか?

多くは親に変異がない新生突然変異で起こります。そのため、孤発例のご夫婦の次のお子さんで同じ病気が再発する確率は基本的に低いのですが、生殖細胞系列モザイクの可能性があるためゼロではなく、経験的に約1〜5%と見積もられます。一方、当事者ご本人が将来お子さんをもつ場合は、常染色体顕性(優性)遺伝の原則から理論上50%の確率で受け継がれます。具体的なリスクは遺伝カウンセリングでご相談ください。

Q3. NIPT(出生前診断)でCdLS4は分かりますか?

染色体の本数を調べる一般的なNIPTでは、単一遺伝子の病気であるCdLSは検出できません。RAD21など特定の遺伝子の変化を直接調べる単一遺伝子NIPT(当院のダイヤモンドプランやインペリアルプランなど)でのみ対象になります。陽性の場合は羊水検査・絨毛検査による確定診断が選択肢です。検査を受けるかどうかも含め、ご家族で話し合ってお決めください。

Q4. 血液の遺伝子検査で「異常なし」と言われましたが、本当にCdLSではないのでしょうか?

必ずしも否定はできません。CdLSは体細胞モザイク(体の一部の細胞だけが変異をもつ状態)が15%以上と多いため、血液では変異が見つからないことがあります。臨床的にCdLSが強く疑われる場合は、頬の粘膜(口腔スワブ)や皮膚など、由来の異なる組織での再検査が国際的に勧められています。気になる場合は臨床遺伝専門医にご相談ください。

Q5. 全前脳胞症(HPE)は必ず合併するのですか?

いいえ、全例ではありません。病名が「正中の脳の異常を伴う/伴わない」となっているとおり、HPEは一部のお子さんにみられる所見です。頻度は高くないものの、合併したときの影響が大きいため、CdLS4を特徴づける重要な所見とされています。胎児の評価では、超音波や胎児MRIで脳の正中の形成を確認していきます。

Q6. 日本では医療費の助成を受けられますか?

はい、対象になります。お子さんでは小児慢性特定疾病(告示番号17)、また指定難病としては「先天異常症候群(指定難病310)」のカテゴリーで、重症度が国の基準を満たした場合に医療費助成の対象となります。申請には医師の診断書が必要で、適用の判断はお住まいの自治体の窓口や主治医によって行われます。

Q7. CdLS4に根本的な治療法はありますか?

現時点では、原因そのものを治す治療法は確立していません。治療の中心は、合併症を先回りして予防・管理する対症療法です。とくにサイレントな胃食道逆流症や先天性心疾患、発達の課題に対し、多職種チームによる生涯にわたるケアが大切になります。重い内臓・脳の異常を伴わない多くの方では、寿命は一般の方と大きく変わらないと期待されています。

Q8. RAD21という遺伝子について、もっと詳しく知りたいです。

RAD21は、染色体を束ねるコヒーシン複合体のリングを閉じる「クレイシン」という部品をつくる設計図です。細胞分裂やDNA修復、遺伝子発現の調整など、幅広い役割を担っています。遺伝子としての働きや関連する疾患についてはRAD21遺伝子の解説ページ、機械としての全体像はコヒーシンの解説ページでくわしく紹介しています。

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コルネリア・デ・ランゲ症候群やRAD21に関する
遺伝子検査・遺伝カウンセリングは
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にご相談ください。

参考文献

  • [1] Cornelia de Lange Syndrome 4 With or Without Midline Brain Defects (CDLS4). OMIM #614701. Johns Hopkins University. [OMIM 614701]
  • [2] Cornelia de Lange syndrome. Orphanet (ORPHA:199). [Orphanet]
  • [3] Cornelia de Lange Syndrome Caused by an Intragenic Heterozygous Deletion in RAD21. PMC. 2023. [PMC10742884]
  • [4] Cohesin complex-associated holoprosencephaly. PubMed. 2019. [PubMed 31334757]
  • [5] Another case of holoprosencephaly associated with RAD21 loss-of-function variant. PMC. [PMC7825475]
  • [6] Genetic heterogeneity in Cornelia de Lange syndrome (CdLS) and CdLS-like phenotypes with observed and predicted levels of mosaicism. Journal of Medical Genetics. [J Med Genet]
  • [7] Advancing the Clinical and Molecular Understanding of Cornelia de Lange Syndrome: A Multidisciplinary Pediatric Case Series and Review of the Literature. Journal of Clinical Medicine (MDPI). 2024. [MDPI J Clin Med]
  • [8] A Novel Variant in RAD21 in Cornelia de Lange Syndrome Type 4: Case Report and Bioinformatic Analysis. Genes (MDPI). 2023. [MDPI Genes]
  • [9] コルネリア・デランゲ(Cornelia de Lange)症候群 概要(小児慢性特定疾病・告示番号17). 小児慢性特定疾病情報センター. [小児慢性特定疾病情報センター]
  • [10] 先天異常症候群(指定難病310). 難病情報センター. [難病情報センター]
  • [11] コルネリア デ ランゲ症候群(GeneReviews 日本語版). [GeneReviews Japan]
  • [12] Cornelia de Lange syndrome. MedlinePlus Genetics (NIH). [MedlinePlus]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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