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全前脳胞症(ぜんぜんのうほうしょう)の症状・原因・顔について

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医として遺伝医療に携わっています。

全前脳胞症(ぜんぜんのうほうしょう。英語ではholoprosencephaly:ホロプロセンセファリー、略してHPE)は、赤ちゃんの脳がつくられるごく早い時期に、大脳が左右にうまく分かれないことで起こる、生まれつきの脳の形の違いです。受精後まもない時期にはおよそ250に1つと、頻度の高い先天異常ですが、多くは流産となり、生まれてくる赤ちゃんでは約1万6,000人に1人とされています[1][2]。目の間隔が狭い、頭が小さい、口唇裂・口蓋裂があるなど、顔にも特徴が出ることがあります。原因は13トリソミーなどの染色体の変化、遺伝子の変化、お母さんの妊娠前からの糖尿病などさまざまで、原因が特定できないことも少なくありません。この記事では、全前脳胞症の症状・顔の特徴・原因・寿命・検査について、臨床遺伝専門医が解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約12分
🧬 全前脳胞症・13トリソミー・出生前検査
★ 臨床遺伝専門医監修
  • ➤全前脳胞症がどんな異常で、妊娠のいつごろ起こるのか
  • ➤3つの分類(無分葉型・半分葉型・分葉型)と、顔にあらわれる特徴
  • ➤原因(13トリソミーなどの染色体の変化・遺伝子の変化・お母さんの妊娠前からの糖尿病)と遺伝のしかた
  • ➤治療の考え方と、寿命(余命・予後)についていま分かっていること
  • ➤エコーで分かる時期と、NIPT・確定検査で調べられること、調べられないこと

⏱️ 30秒でわかる要約

🧠 Q. 全前脳胞症とはどんな病気で、原因は何ですか?

受精後およそ18〜28日の時期に、大脳が左右に分かれる過程がうまく進まないことで起こる脳の先天異常です。およそ25〜50%は染色体の変化が原因で、最も多いのが13トリソミー(パトウ症候群)です。ほかに遺伝子の変化、お母さんの妊娠前からの糖尿病などがあり、調べても原因が分からないこともあります。

⏳ Q. 全前脳胞症の寿命(余命)はどのくらいですか?

型と原因によって大きく違います。顔の特徴が最も重い場合は生後1週間を超えることは少ない一方、軽い型のお子さんの多くは乳児期を超えて成長し、成人まで成長する方もいます。「生まれてもすぐに亡くなってしまう」というのは、よくある誤解だとされています。

🩸 Q. 全前脳胞症はNIPTでわかりますか?

NIPTは脳の形そのものを調べる検査ではありません。ただし、原因として最も多い13トリソミーは、ミネルバクリニックではすべてのプランで調べられます。原因のすべてが分かるわけではないため、陰性でも全前脳胞症がないとは言えません。

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当院のNIPTは通常妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週も臨床研究として受けられます。

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全前脳胞症とはどんな異常?いつ起こる?

赤ちゃんの脳は、はじめは1本の管のような形をしています。その先端にある「前脳(ぜんのう)」が左右に分かれて、右と左の大脳半球になります。全前脳胞症は、この前脳が左右に分かれる過程が、まったく進まないか、途中までしか進まないことで起こる脳の先天異常です[1][3]。脳の正中(まん中)がうまくつくられないため、同じ時期につくられる顔のまん中(目・鼻・上くちびる)にも特徴があらわれやすくなります。

この変化が起こるのは、受精後およそ18〜28日という、ごく早い時期です[1]。妊娠週数でいうと4週の後半から6週のはじめにあたり、多くの方が妊娠に気づく前後の時期です。

頻度については、日本で行われた調査が世界的によく引用されています。人工妊娠中絶で得られた妊娠初期の胚36,380例を調べたところ、150例(0.4%、およそ250に1つ)に全前脳胞症が見つかりました[2]。一方、生まれてくる赤ちゃんでは約1万6,000人に1人とされ[1]、世界の先天異常の登録(700万を超える出生)をまとめた報告では、出生1万あたり1.31人(およそ7,600人に1人)でした[4]。出生時の頻度は報告によって幅があります。受精後まもない時期(およそ250に1つ)と出生時の頻度の大きな差は、全前脳胞症の赤ちゃんの多くが、妊娠の早い時期に流産となることを示しています。

💡 用語解説:前脳(ぜんのう)と大脳半球

前脳は、赤ちゃんの脳のいちばん前の部分で、のちに大脳や視床(ししょう)などになります。通常は妊娠のごく初期に左右に分かれ、右と左の大脳半球ができます。全前脳胞症では、この左右への分かれ方が不十分なため、脳の中の部屋(脳室)が1つにつながっていたり、左右の大脳がつながったままになっていたりします。

全前脳胞症の3つの分類

全前脳胞症は、大脳がどの程度まで左右に分かれているかによって、大きく3つの型に分けられます[1][3]。ただし、型の境目ははっきりしたものではなく、重い型から軽い型まで連続していると考えられています。同じ型でも、症状の出方は一人ひとり違います。

🧠 全前脳胞症の3つの型

型 脳の状態 特徴
無分葉型(むぶんようがた)
アローバ型(alobar)
大脳が左右にまったく分かれていない。脳室は1つで、左右を分ける溝(大脳半球間裂)がない 最も重い型。顔の正中にも強い特徴を伴うことが多い
半分葉型(はんぶんようがた)
セミローバ型(semilobar)
大脳の後ろ側は分かれているが、前側(前頭葉・頭頂葉)はつながっている 中間の型。子どもと成人の全前脳胞症の約半数を占める
分葉型(ぶんようがた)
ローバ型(lobar)
大脳と脳室の大部分は左右に分かれているが、前頭葉の一部がつながっている 3つの型の中では最も軽い型。エコーでは見つけにくいことがある

出典:Dubourgら[1]、GeneReviews[3]をもとに作成。

この3つのほかに、大脳のまん中あたり(前頭葉の後ろ側と頭頂葉)だけがつながっている型(middle interhemispheric variant)や、脳の深いところのごく一部だけが分かれていない型も知られています[3]。また、脳の形には違いがなく、顔のまん中の軽い特徴(上の前歯が1本だけ、目の間隔が狭いなど)だけがみられる場合を「微小型(マイクロフォーム)」と呼びます[1][3]。

全前脳胞症の顔貌について

全前脳胞症では、およそ80%の方に顔の特徴がみられます[3]。脳と顔のまん中は、同じ時期につくられるためです。古くから「顔は脳を予見する(The face predicts the brain)」と言われ[5]、これとは別の数字として、顔の特徴の強さと脳の所見の重さは、約80%で対応すると報告されています[1]。

比較的軽い顔の特徴

比較的軽い場合は、目の間隔が狭い(眼間狭小)、頭が小さい(小頭症)、顔のまん中が平たい、鼻が低く平たい、口唇裂・口蓋裂がある、上の前歯がまん中に1本だけ生える(単一上顎正中中切歯)といった特徴がみられます[1][3]。顔の特徴がほとんど目立たない方もいます。成人まで成長した方では、約85%は顔の特徴が軽いか、典型的ではないとされています[3]。

重い顔の特徴

脳の所見が重い場合には、顔のまん中に次のような特徴がみられることがあります[1][3][5]。

👶 重い顔の特徴

名称 どんな状態か
単眼症(たんがんしょう) 顔のまん中に目が1つだけある、または2つの目がくっついている状態。鼻がないか、目の上に管のような形の鼻がある。最も重い特徴
篩頭症(しとうしょう) 目の間隔が極端に狭く、2つの目の間に管のような形の鼻がある状態
猿頭症(えんとうしょう) 目の間隔が狭く、鼻の穴が1つだけの小さく平たい鼻をもつ状態
正中唇裂(せいちゅうしんれつ) 上くちびるのまん中が割れている状態。上あごの前の骨(前顎骨)がつくられないことで起こる

ただし、顔と脳の対応は絶対ではありません。同じ家族の中でも症状の幅が大きいことが知られており[3]、とくにZIC2という遺伝子の変化が原因の場合は、顔の特徴の強さと脳の所見の重さが対応しないと報告されています[6]。顔つきだけで脳の状態や将来の見通しを決めることはできません。

全前脳胞症の遺伝について

全前脳胞症が次のお子さんにも起こるかどうかは、原因によって大きく変わります。そのため、まず原因を調べることが大切です。

染色体の変化が原因の場合

13トリソミーなど、染色体の数の変化が原因の場合、その多くは卵子や精子ができるときに偶然起こったもので、ご両親から受け継いだものではありません。ただし、ご両親のどちらかが染色体の転座(一部が入れ替わった状態)をもっている場合は、次の妊娠でも同じことが起こる可能性があるため、ご両親の染色体検査を検討します。

遺伝子の変化が原因の場合

遺伝子の変化による全前脳胞症の多くは、SHH遺伝子が原因の全前脳胞症3型のように、常染色体顕性遺伝(優性遺伝)という形をとります[3]。ただし、同じ変化をもっていても症状の出方には大きな幅があり、同じ家族の中で、重い無分葉型の方から、まったく症状のない方までみられます[3]。家族にほかに患者さんがいないように見えても、ご両親のどちらかが気づかれないまま変化をもっていることがあります。

ヨーロッパの645人の患者さんを調べた研究では、SHH・SIX3・TGIF1という遺伝子の変化は70%以上が親から受け継がれたもので、反対にZIC2の変化は70%が、ご両親にはなくお子さんで新しく生じたもの(de novo変異)でした[6]。

ご両親のどちらかが原因となる遺伝子の変化をもっている場合、次のお子さんがその変化を受け継ぐ確率は50%です。きょうだい全体でみると、全前脳胞症になるのが約20%、顔のまん中の軽い特徴(微小型)だけがみられるのが約15%、変化を受け継いでも症状がないのが約15%と報告されています[3]。ご両親のどちらにも変化が見つからない場合、くり返す可能性は低くなりますが、一般の方よりわずかに高いとされています[3]。

このように、遺伝のしかたは原因によって大きく違い、同じ原因でも症状に幅があります。上の前歯が1本だけ、目の間隔が狭い、においが分かりにくいといった軽い特徴がご両親やきょうだいにないかを確かめることも、診断の手がかりになります[3]。次の妊娠を考えるときは、全前脳胞症に詳しい臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングを受けることをお勧めします。

💡 用語解説:浸透率(しんとうりつ)と表現度(ひょうげんど)

遺伝子の変化をもっている人のうち、実際に症状が出る人の割合を浸透率といいます。全前脳胞症では変化をもっていても症状が出ない人がいる(浸透率が100%ではない)ことが分かっています。また、症状が出る場合でも、その重さや種類が人によって違うことを「表現度に幅がある」といいます。

全前脳胞症の治療法について

脳の形そのものを治す治療法は、現在のところありません。治療は、一人ひとりの症状に合わせて、起こっている症状をやわらげ、成長と生活を支えること(対症療法・支持療法)が中心になります。症状の種類や重さはお子さんによって違うため、治療の内容も個別に決めていきます。

全前脳胞症のお子さんにみられやすい症状と、その対応は次のとおりです[1][7]。

🩺 みられやすい症状と対応

症状 分かっていること・対応
発達の遅れ 生まれてきた全前脳胞症のお子さんのほぼ全員にみられる。程度には幅があり、療育(リハビリテーション)で支える
てんかん 約半数にみられる。抗てんかん薬で治療する
飲み込み・栄養の難しさ 誤嚥(ごえん)や栄養不足につながることがある。無分葉型・半分葉型では約3分の2で胃ろうが必要になる
ホルモンの異常 尿が多く出る尿崩症(にょうほうしょう)が代表的で、典型的な全前脳胞症の約70%にみられる。ホルモンの補充で治療する
水頭症 脳の中に水(髄液)がたまる状態。必要に応じて手術で髄液を流す管を入れる
体温・睡眠の調節の難しさ 体温、脈、呼吸、睡眠のリズムが不安定になることがある

出典:Dubourgら[1]、Leveyら[7]。

このように関わる診療科が多いため、小児神経、内分泌、脳神経外科、リハビリテーション、栄養など、複数の専門家がチームで支えていくことになります。

全前脳胞症の寿命(余命・予後)は?

「全前脳胞症の赤ちゃんは、生まれてもすぐに亡くなってしまう」と言われることがありますが、これはよくある誤解だとされています[3]。寿命は、脳の型、顔の特徴の重さ、そして原因によって大きく違います。

最も重い場合と、13トリソミーが原因の場合

単眼症や篩頭症のように顔の特徴が最も重い場合は、生後1週間を超えることは少ないとされています[3]。また、13トリソミーが原因の場合は、13トリソミーそのものの見通しが関わります。米国の9つの州で生まれた13トリソミーのお子さん693人を調べた研究では、1年後に生存していた割合は11.5%、5年後は9.7%でした[8]。

成人(大人)まで成長する方もいます

軽い型のお子さんの多くは乳児期を超えて成長します[7]。重い型のお子さんの一部を含め、成人まで成長する方もいます[3]。15〜33歳(平均22.5歳)の20人を詳しく調べた研究では、半分葉型が半数を占め、6割の方が胃ろうを使い、45%の方にてんかんがありました[9]。成長したあとも、医療と生活の支えが続いて必要になることが分かります。

これらは集団でみた数字であり、一人ひとりのお子さんの寿命を正確に予測できるものではありません。診断がついたときは、型と原因を確かめたうえで、主治医から個別の見通しを聞いてください。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【診断名だけで、見通しは決まらない】

全前脳胞症という診断名を調べると、最も重い型の写真や説明が先に目に入ります。けれども、この病名が指しているのは、生後まもなく亡くなる赤ちゃんから、成人まで成長する方、さらには上の前歯が1本というだけで気づかれずに暮らしている方までを含む、とても幅の広い状態です。

臨床遺伝専門医として大切だと考えているのは、「どの型で、原因は何か」を一つずつ確かめることです。原因が13トリソミーなのか、遺伝子の変化なのかで、見通しも、次の妊娠でくり返す可能性も変わります。原因を調べることは、ご家族がご自身を責めるためではなく、根拠をもってこれからを考えるためにあると考えています。

全前脳胞症の原因

全前脳胞症の原因は一つではありません。大きく「染色体の変化」「ほかの症状も伴う症候群」「遺伝子の変化」「お母さんの妊娠前からの糖尿病などの環境要因」に分けられます[3]。染色体の数の変化は、卵子や精子ができるときに偶然起こるものがほとんどです。遺伝子の変化には、親から受け継いだものと新しく生じたものがありますが、どちらも妊娠中の生活が原因で起こるものではありません。

🧬 全前脳胞症の主な原因

原因 割合の目安 主なもの
染色体の変化 約25〜50% 13トリソミー(最も多い)、18トリソミー、三倍体、18番染色体短腕の欠失(18p欠失)、7番染色体の一部の欠失など
ほかの症状も伴う症候群 約18〜25% スミス・レムリ・オピッツ症候群(DHCR7遺伝子)、ハーツフィールド症候群(FGFR1遺伝子)など
遺伝子の変化(全前脳胞症が主な症状) 遺伝子ごとに1%未満〜約6% SHH、ZIC2、SIX3、TGIF1 など
環境要因 ― お母さんの妊娠前からの糖尿病

出典:GeneReviews[3]。割合は報告によって幅があります。

染色体の変化(13トリソミーなど)

全前脳胞症のおよそ25〜50%には染色体の変化が見つかります。その中で最も多いのが13トリソミー(パトウ症候群)で、染色体が原因の全前脳胞症の約75%を占めます[3]。ほかに18トリソミー、三倍体(染色体がひと組まるごと多い状態)、18p欠失症候群などの染色体の一部の欠失も原因になります[3]。

反対に、13トリソミーの赤ちゃんがみな全前脳胞症になるわけではありません。13トリソミーの赤ちゃんで全前脳胞症がみられた割合は、妊娠中のエコーで調べた33例では39%[10]、ヨーロッパの登録にある、生きて生まれた赤ちゃん240例では13%[11]と、調べた時期や方法によって幅があります。

ほかの症状も伴う症候群

全前脳胞症のおよそ18〜25%は、全前脳胞症以外の症状も伴う、1つの遺伝子の変化による症候群です[3]。代表的なものがスミス・レムリ・オピッツ症候群で、コレステロールをつくる酵素の遺伝子(DHCR7)の変化で起こります。コレステロールは、次に説明するSHHというタンパク質が働くために必要な物質で、その不足が全前脳胞症につながるという仮説が示されています[12]。

遺伝子の変化(SHH・ZIC2・SIX3・TGIF1)

ほかの症状を伴わない全前脳胞症では、脳と顔のまん中をつくる指令に関わる遺伝子の変化が見つかることがあります。最初に見つかったのがSHH(ソニック・ヘッジホッグ)遺伝子です[13]。それぞれの遺伝子が占める割合は、SHHが5.4〜5.9%、ZIC2が4.8〜5.2%、SIX3が約3%、TGIF1が1%未満とされています[3]。ヨーロッパの645人の患者さんの研究では、この4つの遺伝子のいずれかに変化が見つかったのは25%でした[6]。

家族の中に複数の患者さんがいる(常染色体顕性遺伝の)家系に限ると、SHHの変化が見つかる割合は高くなり、27家系のうち10家系(37%)で見つかったと報告されています[14]。一方で、遺伝子を調べても原因が分からない方のほうが多いのが現状です。1つの遺伝子の変化だけでなく、複数の遺伝子の変化や環境要因が重なって起こるという考え方も示されています[6]。

遺伝子そのものではなく、遺伝子の働きを調節するDNAの配列も研究されています。2019年、国立遺伝学研究所と理化学研究所の共同研究グループは、脳の正中でShh遺伝子(ヒトのSHHにあたる遺伝子)を働かせる調節配列(SBE7)をマウスで見つけました。この配列を取り除いたマウスでは、ヒトの全前脳胞症に似た特徴があらわれました[15]。ヒトのゲノムにも似た配列がありますが、マウスでの研究であり、ヒトの患者さんでこの配列の変化が確かめられたわけではありません。

お母さんの妊娠前からの糖尿病などの環境要因

ヒトで知られている環境要因のうち最も多いのは、お母さんの妊娠前からの糖尿病です[3]。妊娠前からインスリンを必要とする糖尿病がある場合、赤ちゃんが全前脳胞症になる可能性は10倍以上高くなるとされ[3]、米国の大規模な調査でも、妊娠前からの糖尿病がある場合のオッズ比は13.1(起こりやすさの目安が約13倍)でした[16]。同じ調査では、妊娠糖尿病(妊娠中にはじめて見つかった糖代謝の異常)でのはっきりした増加はみられませんでした[16]。別の報告では、インスリンを必要とする糖尿病のあるお母さんの赤ちゃんで全前脳胞症が起こるのは約1%とされています[1]。言いかえると、約99%の赤ちゃんには起こりません。

このほか、お母さんのアルコール依存や一部の薬(レチノイン酸、コレステロールの合成を抑える薬)も、環境要因として挙げられています[1]。

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全前脳胞症の発見・検査方法

全前脳胞症の検査は、「脳の形を確かめる検査」と「原因を調べる検査」の2つに分けて考えると分かりやすくなります。

脳の形を確かめる検査(エコー・MRI)

妊娠中は、超音波(エコー)検査で見つかることがほとんどです。最も重い無分葉型は、妊娠10〜14週のエコーで診断できるとされています[3]。妊娠11〜13週のエコーを受けた57,119件の妊娠を調べた研究では、全前脳胞症は約1,300人に1人(1:1,298)の割合で見つかりました[17]。

妊娠9週2日に無分葉型と診断された1例の報告もありますが、専門の施設での例外的な報告です[18]。一方、半分葉型や分葉型は、エコーでは確実には見つけられません[3]。妊娠中期以降の精密なエコーや、胎児MRI(主に妊娠後期)でくわしく調べることになります[1]。生まれたあとは、頭部のMRIで脳の形をくわしく確かめます。

原因を調べる検査(染色体・遺伝子)

エコーで全前脳胞症が疑われた場合は、原因を調べるために確定検査(羊水検査・絨毛検査)を検討します。妊娠11〜13週に全前脳胞症が見つかった赤ちゃんでは、65.9%に染色体の変化(主に18トリソミーと13トリソミー)があったと報告されているためです[17]。

検査は、染色体の数と形を調べる検査、染色体の細かな欠失や重複を調べるマイクロアレイ検査、そして遺伝子の検査(SHH・ZIC2・SIX3などをまとめて調べるパネル検査)の順に進めるのが一般的です[3]。マイクロアレイ検査では、全前脳胞症の約10%に原因となる欠失・重複が見つかります[3]。

① エコーで疑い脳のまん中の構造が確認できない
▶
② 精密なエコー・胎児MRI型と、ほかの形の違いを確認
▶
③ 確定検査染色体検査・マイクロアレイ検査
▶
④ 遺伝子の検査・遺伝カウンセリング原因と、次の妊娠でくり返す可能性を確認

ミネルバクリニックでは、全前脳胞症のご本人やご家族に向けて、原因となる遺伝子をまとめて調べる全前脳胞症NGS遺伝子パネル検査(血液・唾液などで行う検査)も行っています。

全前脳胞症の早期発見にはエコー検査を

全前脳胞症そのものを妊娠中に見つけられる検査は、エコー検査です。妊娠11〜14週ごろのエコーでは、赤ちゃんの頭を水平に見た断面で、左右の脳室の中にある脈絡叢(みゃくらくそう:髄液をつくる組織)は、蝶が羽を広げたような形に見えます。これは「バタフライサイン」と呼ばれ、この形が確認できないことが、全前脳胞症に気づく手がかりになります[19]。

ただし、前の章で説明したとおり、無分葉型以外の型はエコーでは確実には見つけられません。妊娠初期のエコーで指摘がなくても、妊娠中期の健診や精密なエコーではじめて指摘されることがあります。13トリソミーの赤ちゃんにみられるエコーの特徴は、13トリソミーはエコーでいつわかる?妊娠週数別の特徴一覧でくわしく解説しています。

エコーで全前脳胞症の可能性を指摘されたときは、型と原因を確かめることが、その後を考える出発点になります。症状の重さは型と原因によって大きく違い、生まれてくるまで正確には分からない部分もあります。妊娠を続けるかどうか、どこで産み、生まれたあとにどんな医療と支えを準備するかは、ご家族ごとに答えが違います。早い時期に赤ちゃんの状態を知ることで、考える時間と準備の時間を持てます。

全前脳胞症とNIPT ― 当院で調べられること、調べられないこと

NIPT(新型出生前診断)は、お母さんの血液に含まれる赤ちゃん由来のDNAの断片から、染色体の変化の可能性を調べる検査です。脳の形を見る検査ではないため、全前脳胞症そのものを診断することはできません。一方で、全前脳胞症の原因として最も多い13トリソミーなど、原因となる染色体の変化の一部を、通常妊娠9週から調べることができます(妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます)。

13トリソミーは、すべてのプランで調べられます

ミネルバクリニックのNIPTでは、13トリソミーと18トリソミーを、5つのプランすべてで調べられます。また、約10〜15%に全前脳胞症の特徴を伴う18p欠失症候群[20]は、プレミアムプラン・ダイヤモンドプラン・双子マックスプラン・インペリアルプランで調べられます。

🩸 全前脳胞症の原因になる染色体の変化と、当院のNIPTプラン

染色体の変化 全前脳胞症との関係 調べられるプラン
13トリソミー 全前脳胞症の原因として最も多い染色体の変化 スタンダード・プレミアム・ダイヤモンド・双子マックス・インペリアル(すべてのプラン)
18トリソミー 全前脳胞症を伴うことがある すべてのプラン
18p欠失症候群 約10〜15%に全前脳胞症の特徴を伴う プレミアム・ダイヤモンド・双子マックス・インペリアル

※双子の妊娠で受けられるのは、スタンダードプランと双子マックスプランです。

遺伝子の変化が原因の全前脳胞症とNIPT

ダイヤモンドプランとインペリアルプランでは、染色体に加えて、1つの遺伝子に新しく生じた変化(de novo変異)も調べます。その対象遺伝子の中には、全前脳胞症の原因になることがある遺伝子も含まれています。ハーツフィールド症候群(全前脳胞症と、手足の指の間が深く裂けた形になる裂手裂足を伴う病気)の原因であるFGFR1遺伝子と、コルネリア・デ・ランゲ症候群の原因遺伝子のうちSMC1A・SMC3・RAD21です[3]。

ただし、これらの遺伝子が原因の全前脳胞症は全体のごく一部で、たとえばFGFR1は約1.2%です[3]。単一遺伝子の検査が陰性でも、遺伝子の変化が原因の全前脳胞症がないとは言えません。また、同じ遺伝子の変化でも症状の出方には幅があるため、陽性の場合は確定検査とエコーで赤ちゃんの状態を確かめる必要があります。

NIPTでは分からないこと

染色体の変化が原因の全前脳胞症は、全体の約25〜50%です[3]。残りは遺伝子の変化や、お母さんの妊娠前からの糖尿病、原因の分からないものです。そのため、NIPTが陰性でも、全前脳胞症がないとは言えません。NIPTで調べられる遺伝子は、全前脳胞症の原因遺伝子の一部に限られます。全前脳胞症そのものは、エコー検査で確かめる必要があります。

また、NIPTは可能性を調べる検査(スクリーニング検査)で、診断を確定する検査ではありません。陽性のときは、確定検査(羊水検査・絨毛検査)で本当にそうかを確かめる必要があります。とくに18p欠失症候群のような染色体の一部の欠失(微小欠失など)は、染色体の数の異常に比べて陽性的中率が低めです(項目によって60〜70%程度)。まれですが、偽陰性(見逃し)の可能性もあります。

すでにエコーで全前脳胞症が疑われている場合は、NIPTではなく、最初から確定検査で染色体とマイクロアレイを調べるほうが、原因を確かめる近道になります。

当院でNIPTを受ける場合

ミネルバクリニックのNIPTは、妊娠9週から受けられます。妊娠6〜8週の方は、臨床研究として受けられます。結果が出るまでの目安は10〜14日です(インペリアルプランの単一遺伝子の結果だけは3〜4週間)。90分の受診枠の中で、常駐する臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行います。

陽性だった場合の遺伝カウンセリングは、何度でも無料です。確定検査(羊水検査・絨毛検査)も院内で受けられ、主要な検査項目は3日以内に、マイクロアレイ検査は2週間ほどで結果が出ます。NIPTを受ける方は全員、カトレア会(8,000円)と安心検査結果保障制度(6,000円)の2つに加入します。カトレア会は陽性時の確定検査の費用を上限なしで補助します。安心検査結果保障制度は、再検査が必要になったのに流産して再検査ができなかったときに、検査代金(諸費用を除く)を返金する制度です。

🏥 13トリソミーなどの染色体の変化を、妊娠9週から調べたい方へ

当院のNIPTは通常妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週も臨床研究として受けられます。ミネルバクリニックのNIPTは、13トリソミー・18トリソミーをすべてのプランで調べられます。臨床遺伝専門医が常駐し、陽性のときは確定検査(羊水検査・絨毛検査)まで院内で受けられます。主要な検査項目は3日以内に結果が出ます。
NIPT専用ダイヤル:03-3408-3768

よくある質問(FAQ)

Q1. 全前脳胞症とはどんな病気ですか?

赤ちゃんの脳がつくられるごく早い時期(受精後およそ18〜28日)に、大脳が左右に分かれる過程がうまく進まないことで起こる脳の先天異常です。分かれ方の程度によって無分葉型・半分葉型・分葉型に分けられます。発達の遅れのほか、てんかん、飲み込みの難しさ、ホルモンの異常などを伴うことがあり、目の間隔が狭い、口唇裂・口蓋裂があるなど顔にも特徴が出ることがあります。

Q2. 全前脳胞症は何人に1人の割合で起こりますか?

受精後まもない時期にはおよそ250に1つと頻度の高い先天異常ですが、多くは妊娠の早い時期に流産となります。生まれてくる赤ちゃんでは約1万6,000人に1人、世界の先天異常の登録をまとめた報告では出生1万あたり1.31人(およそ7,600人に1人)とされています。

Q3. 全前脳胞症の原因は何ですか?妊娠中の生活が原因ですか?

およそ25〜50%は染色体の変化が原因で、最も多いのは13トリソミーです。ほかにSHH・ZIC2・SIX3・TGIF1などの遺伝子の変化や、スミス・レムリ・オピッツ症候群などの症候群が原因になります。染色体の数の変化は、卵子や精子ができるときに偶然起こるものがほとんどです。遺伝子の変化には、親から受け継いだものと新しく生じたものがありますが、どちらも妊娠中の生活が原因で起こるものではありません。環境要因としては、お母さんの妊娠前からの糖尿病が知られています。調べても原因が分からないこともあります。

Q4. 全前脳胞症はエコーでいつわかりますか?

最も重い無分葉型は、妊娠10〜14週のエコーで診断できるとされています。妊娠11〜14週のエコーでは、脳の中の脈絡叢が蝶の形に見える「バタフライサイン」が確認できないことが手がかりになります。一方、半分葉型や分葉型はエコーでは確実には見つけられず、妊娠中期以降の精密なエコーや胎児MRIではじめて分かることがあります。

Q5. 全前脳胞症の顔にはどんな特徴がありますか?

およそ80%の方に顔の特徴がみられます。比較的軽い場合は、目の間隔が狭い、頭が小さい、鼻が低く平たい、口唇裂・口蓋裂がある、上の前歯がまん中に1本だけ生えるといった特徴がみられます。脳の所見が重い場合には、顔のまん中に目が1つだけある単眼症、管のような形の鼻、上くちびるのまん中が割れる正中唇裂などがみられることがあります。顔の特徴がほとんど目立たない方もいます。

Q6. 全前脳胞症の寿命(余命)はどのくらいですか?

脳の型、顔の特徴の重さ、原因によって大きく違います。単眼症など最も重い場合は生後1週間を超えることは少ないとされ、13トリソミーが原因の場合は13トリソミーそのものの見通しが関わり、13トリソミーのお子さん全体では1年後の生存率は11.5%と報告されています。一方、軽い型のお子さんの多くは乳児期を超えて成長し、成人まで成長する方もいます。集団でみた数字であり、一人ひとりの寿命を正確に予測できるものではありません。

Q7. 全前脳胞症は治りますか?治療はできますか?

脳の形そのものを治す治療法は、現在のところありません。治療は、てんかんに対する薬、飲み込みが難しい場合の栄養の管理(胃ろうなど)、尿崩症などに対するホルモンの補充、水頭症に対する手術など、一人ひとりの症状に合わせた対症療法と、発達を支える療育が中心になります。

Q8. 全前脳胞症では、知能や発達にどのような影響がありますか?

生まれてきた全前脳胞症のお子さんのほぼ全員に、発達の遅れがみられます。ただし、その程度には大きな幅があります。脳の形に違いがなく、顔のまん中の軽い特徴だけがみられる方(微小型)では、症状がほとんどなく、通常の生活を送っている方もいます。

Q9. 全前脳胞症は遺伝しますか?次の妊娠でもくり返しますか?

原因によって違います。13トリソミーなど染色体の数の変化が原因の場合、多くは偶然起こったもので、ご両親から受け継いだものではありません。遺伝子の変化が原因の場合は、ご両親のどちらかが気づかれないまま同じ変化をもっていることがあり、その場合は次のお子さんが変化を受け継ぐ確率は50%です。ただし、受け継いでも症状の出方には大きな幅があります。まず原因を調べ、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングを受けることをお勧めします。

Q10. 全前脳胞症はNIPTでわかりますか?

NIPTは脳の形を見る検査ではないため、全前脳胞症そのものを診断することはできません。ただし、原因として最も多い13トリソミーは、ミネルバクリニックではすべてのプランで調べられます。ダイヤモンドプランとインペリアルプランでは、全前脳胞症の原因になることがあるFGFR1などの遺伝子も調べます。それでも原因のすべてが分かるわけではないため、陰性でも全前脳胞症がないとは言えません。陽性のときは、確定検査(羊水検査・絨毛検査)で確かめる必要があります。

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※本記事は一般の方に向けた情報提供を目的とするもので、個別の診断・治療方針を示すものではありません。赤ちゃんの診断や今後の見通しについては、主治医・専門医にご相談ください。

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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