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Au-Kline症候群(オウ・クライン症候群、岡本症候群、OMIM 616580)は、HNRNPK遺伝子の機能喪失型バリアントまたはミスセンスバリアントによって引き起こされる、極めて稀な常染色体顕性遺伝疾患です。著明な筋緊張低下、知的障害、特徴的な顔貌、そして大動脈基部拡張や自律神経機能不全という生命に直結する合併症を伴う多発奇形症候群として、日本では「HNRNPKを含む染色体9q21欠失症候群」として指定難病に認定されています。
Q. Au-Kline症候群とはどのような病気ですか?まず結論だけ知りたいです
A. 染色体9q21.32にあるHNRNPK遺伝子の変異によって起こる、生まれつきの多発奇形症候群です。重度の筋緊張低下、特徴的なお顔(長い眼瞼裂・浅い眼窩・M字型の上唇・深く溝のある舌など)、知的障害を主軸に、先天性心疾患・水腎症・骨格異常・自律神経機能不全といった全身性の合併症を伴います。かつて日本で「岡本症候群」と呼ばれていた疾患と同一の病気であることが、2019年に分子レベルで証明されました。
- ➤疾患の定義 → OMIM 616580、日本では指定難病、有病率は極めて稀(全世界で約100例)
- ➤原因遺伝子 → HNRNPK遺伝子のLoFバリアント・ミスセンスバリアント・9q21微細欠失
- ➤特徴的な顔貌 → 6つの主要顔面特徴(長い眼瞼裂・浅い眼窩・M字型上唇・深く溝のある舌など)
- ➤最新診断技術 → 疾患特異的DNAメチル化エピシグネチャーによる確定診断
- ➤生命予後 → 大動脈基部拡張・心疾患・自律神経異常への生涯にわたるサーベイランス
1. Au-Kline症候群とは:疾患概念と歴史的背景
Au-Kline症候群(Au-Kline syndrome:AKS、OMIM 616580)は、染色体9q21.32に位置するHNRNPK遺伝子の病的バリアントによって発症する、常染色体顕性遺伝形式の極めて稀な多発奇形症候群です。重度から中等度の知的障害、著明な全般性筋緊張低下、そして極めて特徴的な顔貌を主軸に、先天性心疾患・水腎症を伴う腎泌尿器異常・骨格系異常・自律神経機能不全といった全身性の合併症を伴います。日本国内においては「HNRNPKを含む染色体9q21欠失症候群」として厚生労働省の指定難病に認定されており、小児期から成人期まで生涯にわたる集学的な医療管理が必要とされる疾患です。
💡 用語解説:常染色体顕性(じょうせんしょくたいけんせい)遺伝
2022年に日本人類遺伝学会の用語変更により、従来の「優性遺伝」が「顕性遺伝」、「劣性遺伝」が「潜性遺伝」と呼ばれるようになりました。「常染色体顕性」とは、性染色体(X・Y)以外の染色体(2本対)のうちどちらか1本に変異があるだけで症状が現れる遺伝形式を意味します。患者本人が子どもをもうけた場合、変異が次世代に伝わる確率は理論上50%です。詳しくは遺伝形式の解説ページもご覧ください。
「岡本症候群」と「Au-Kline症候群」がひとつになった経緯
本疾患には興味深い医学史的背景があります。1997年、日本の岡本らは、重度の知的障害・全般性筋緊張低下・水腎症(腎盂尿管移行部狭窄)・心奇形・特徴的な顔貌を呈する複数の患者を報告し、これを「Okamoto症候群(岡本症候群)」と命名しました。当時は分子遺伝学的な原因が解明されておらず、症例数も限定的でした。
一方、2015年にカナダの臨床遺伝医Ping-Yee Billie Auらは、重度の知的障害と特異な顔貌・結合組織および骨格系の異常を有する患者群において、網羅的ゲノム解析を実施し、HNRNPK遺伝子における新規の機能喪失型バリアントを同定。発見者にちなんで「Au-Kline症候群」と命名されました。
その後、Okamoto症候群として長期フォローアップされていた患者が再受診した際、臨床医が新たに提唱されたAu-Kline症候群との臨床的類似性に気づき、HNRNPK遺伝子の標的解析を実施したところ新規のスプライシングバリアントが同定されました。これにより、「Okamoto症候群」と「Au-Kline症候群」は同一のHNRNPK関連疾患であることが分子レベルで完全に証明され、現在では国際的にも日本の難病指定の枠組みにおいても、同一疾患として扱われています。
2. 原因遺伝子HNRNPKと分子病態メカニズム
Au-Kline症候群の原因遺伝子であるHNRNPK遺伝子は、ヘテロ核リボヌクレオタンパク質K(hnRNP K)と呼ばれる多機能なRNA結合タンパク質をコードしています。hnRNP Kは進化の過程で高度に保存されており、細胞核と細胞質の両方において、遺伝子発現のあらゆる段階を制御する「ドッキングステーション」として中心的な役割を担います。
hnRNP Kタンパク質の多面的な役割
hnRNP Kは、特定のDNA配列・mRNA前駆体(pre-mRNA)・成熟mRNA・他のタンパク質複合体と直接結合することで、複雑な分子ネットワークを形成します。その主な機能は次の通り多岐にわたります。
①クロマチンリモデリングと転写制御
核内で様々な転写因子と協調し、標的遺伝子の発現を活性化または抑制します。特に胚発生・骨格形成・神経系の構築において位置情報を決定するHox遺伝子群の発現を、スプライソソームC複合体の一部として厳密に制御しています。
②mRNAスプライシングと安定化
転写後のmRNA処理プロセスに直接関与し、生成されたmRNAの細胞質への輸送・半減期の調節(安定化または分解の促進)・翻訳効率の微調整を行います。
③lncRNAを介した細胞分化制御
組織ごとに特異的な長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)と結合することで、文脈依存的に機能を切り替えます。この動的相互作用の破綻がAu-Kline症候群の多系統表現型の基礎となります。
💡 用語解説:機能喪失型(LoF)バリアントとミスセンスバリアント
機能喪失型(Loss-of-Function:LoF)バリアントとは、遺伝子の働きが完全に失われるタイプの変異です。ナンセンス変異・フレームシフト変異・スプライス部位変異などが該当し、タンパク質が正しく作られなくなります。
ミスセンスバリアントとは、DNAの1文字が変化することでアミノ酸が別の種類に置き換わる変異です。タンパク質の形は変わりますが、機能の一部は残ることがあります。詳しくは機能喪失型変異の解説やミスセンス変異の解説もご覧ください。
筋緊張低下の分子メカニズム:動物モデルからの知見
Au-Kline症候群の患者にほぼ普遍的に見られる重度の全般性筋緊張低下については、近年マウスやゼブラフィッシュを用いた研究で分子メカニズムが明らかになりつつあります。骨格筋において、hnRNP Kは筋発生(Myogenesis)・筋再生・恒常性維持に必須の因子です。
骨格筋特異的にHnrnpkをノックアウトしたマウスでは、胎児期の筋形成プロセスが著しく破壊され胎生致死となること、成体マウスでは筋萎縮とアポトーシスの亢進が生じることが確認されています。これらの所見は、患者が乳児期早期から極度の筋緊張低下を呈し、運動発達遅延や重度の哺乳不良を引き起こす根本的な病態生理を強力に裏付けています。
3. 特徴的な頭蓋顔面所見(Facial Gestalt)
Au-Kline症候群の臨床診断において、最も強力な視覚的手がかりとなるのが特異な顔貌です。Choufaniら(2022年)は大規模コホート研究に基づき、本疾患の診断を強力に支持する6つの主要な顔面特徴を明確に定義しました。これら6つのうち4つ以上を認める場合、本症候群が強く疑われます。
①長い眼瞼裂
左右の目の切れ込みが異様に長いのが特徴。歌舞伎症候群とも共有される所見です。
②眼瞼下垂
軽度から視界を遮る重度のものまで様々で、左右非対称な場合もあります。
③浅い眼窩
眼窩底が浅いため、眼球がやや突出して見えます。鑑別の重要ポイント。
④幅広く平坦な鼻
鼻梁が広く、鼻翼が厚く、鼻孔に切れ込みが見られることがあります。
⑤M字型上唇/開口
しばしば口をぽかんと開けた状態を維持。上唇は中央が下がり両脇が上がる「M字型のキューピッドの弓」を描きます。
⑥深く溝のある舌
舌は肥大傾向(巨舌)にあり、正中線に沿って深い溝が走ります。本疾患に極めて特異的な所見です。
これら6つの主要特徴に加え、耳介の形態異常(単純な耳輪を伴う突出耳・耳介低位・大きな耳)、耳前瘻孔も高頻度に観察されます。また口蓋裂・粘膜下口蓋裂・高口蓋・二分口蓋垂などの口蓋異常も一般的で、これらが哺乳不良や呼吸器系問題の一因となります。
4. 全身に及ぶ多系統合併症
Au-Kline症候群は中枢神経系から自律神経系・結合組織まで複数の器官系に深刻な影響を及ぼします。臨床管理においては、それぞれの合併症リスクを把握し、生涯にわたる体系的サーベイランスを行うことが極めて重要です。
神経発達と知的機能
ほぼすべての患者で全般的な精神運動発達遅滞および知的障害が認められます。運動マイルストーン(定頸・寝返り・座位保持・独歩)の達成が大幅に遅延し、重症患者では生涯にわたり自立歩行に至らないこともあります。言語発達の遅延も著しく、発語消失となる症例も存在します。脳の形成異常も約半数の患者で報告され、頭部MRIで脳梁の低形成や異所性灰白質が高頻度に見られます。
てんかんの発症率は約3%と他の染色体異常症候群と比較して低く、発症した場合でも一般的な抗てんかん薬への反応性は良好です。自閉スペクトラム症(ASD)の合併は約15%とされ、ADHD・不安障害・強迫性障害などの神経行動学的問題も報告されています。
心血管系:生命予後を左右する大動脈基部拡張
先天性心疾患(CHD)は患者の約63%に合併する生命予後を左右する重大な所見です。心室中隔欠損症(VSD)・心房中隔欠損症(ASD)・大動脈二尖弁といった構造的異常が代表的です。
⚠️ 最も警戒すべき合併症:大動脈基部拡張
結合組織の脆弱性に起因する大動脈基部拡張は、無症状のまま進行し、放置すれば大動脈解離や大動脈破裂といった急性の生命を脅かす事態に直結します。診断後のみならず生涯にわたる定期的な心エコーによる血管径の厳格なモニタリングが不可欠です。診断時に異常がなくても、専門医の判断によりフォローアップを継続します。
腎・泌尿器系:水腎症と反復性尿路感染
かつてOkamoto症候群として独立した疾患と認識されていたほど、本症候群の中核的特徴のひとつが腎泌尿器系の形成異常です。腎盂尿管移行部狭窄による先天性水腎症が高頻度で認められ、膀胱尿管逆流症(VUR)と相まって反復性の重篤な尿路感染症のリスクが高くなります。男性患者では停留精巣の合併率が高く、早期の外科的介入が必要となる場合があります。
骨格・結合組織異常
頭蓋縫合早期癒合症は患者の約3分の1に認められ、主に矢状縫合または前頭縫合が早期に癒合します。これは整容的な問題にとどまらず、脳の成長を阻害し頭蓋内圧亢進を招くため、乳児期早期の神経外科的介入が必須となります。詳細は頭蓋縫合早期癒合症の解説もご参照ください。
体幹および四肢においては、重度の脊柱側弯症・脊椎の分節異常・四肢関節の過伸展・先天性股関節脱臼・足趾の重なり・第5趾の多指症などが報告されています。歯牙の形成異常として乏歯症や不正咬合も高頻度に生じます。
自律神経機能不全:見過ごされがちな重大なQOL低下因子
💡 用語解説:自律神経機能不全(Dysautonomia)
自律神経とは、消化・体温調節・痛覚伝達など、私たちが意識せずに行われる体の機能をコントロールする神経系のことです。Au-Kline症候群の患者の3分の1以上で、自律神経が正しく働かないことによる以下のような不可解な症状の組み合わせが認められます。
消化管蠕動不全は極めて一般的で、重度の胃食道逆流症(GERD)・難治性慢性便秘・嚥下障害を引き起こします。これに筋緊張低下と巨舌が加わることで、乳児期には深刻な哺乳不良と体重増加不良をきたし、経管栄養や胃瘻の造設を余儀なくされる症例が少なくありません。
さらに、極端に高い痛覚閾値(痛みを感じにくい状態)を示すことがあり、これは骨折・急性虫垂炎・重篤な感染症の発見を遅らせる極めて危険な兆候です。無汗・乏汗による高温環境への不耐性もあり、猛暑下での熱中症リスクが極めて高くなります。原因不明の反復性発熱エピソードも見られます。
5. 遺伝子型-表現型相関:LoFとミスセンスで臨床像が大きく異なる
これまでの症例データの蓄積と詳細解析により、HNRNPK遺伝子におけるバリアントの「種類」が、患者の臨床的重症度や特定の合併症リスクに極めて強い影響を与えることが明らかになっています。この知見は個々の患者における予後予測とサーベイランスの最適化に直結する重要な情報です。
| 臨床所見 | 機能喪失型(LoF) | ミスセンス |
|---|---|---|
| 先天性心疾患 | 86% | 23% |
| 高い痛覚閾値 | 67% | 20% |
| 側弯症 | 67% | 15% |
| 知的障害の程度 | 中等度〜重度 | 軽度傾向 |
| 小頭症 | あり(LoFのみ) | 報告なし |
| 口蓋裂 | 高頻度 | 報告なし |
| 頭蓋縫合早期癒合症 | 大部分 | 極めて稀 |
この表からわかるように、LoFバリアントを有する患者は、ミスセンスバリアントの患者と比較して、生命に関わる先天性心疾患や、日常生活に大きな影響を与える自律神経異常・骨格変形の発現率が圧倒的に高くなります。一方、ミスセンスバリアントを有する患者は、顔貌特徴も「非定型的」または「ごく軽微」であることが多く、診断が困難な場合があります。この事実こそが、後述するDNAメチル化エピシグネチャー解析が、表現型に乏しい軽症例を正確に拾い上げるために極めて重要となる理由です。
6. 診断アプローチとエピシグネチャーによる確定診断
Au-Kline症候群の診断は、詳細な臨床評価と分子遺伝学的検査の組み合わせによって確定されます。表現型がKabuki症候群など他疾患と重複するため、効率的な診断アルゴリズムが重要です。
Choufaniの臨床診断基準
前述の6つの主要顔面特徴のうち少なくとも4つ以上を有する場合、本疾患を強く疑います。さらに全般性発達遅滞または知的障害および筋緊張低下を伴い、かつ6つの顔面特徴のうち5つ以上を満たす場合、臨床診断として「極めて濃厚(Highly likely)」と判断されます。
日本における指定難病の診断基準
日本国内では、本疾患は厚生労働省の指定難病の対象疾患として厳格な診断基準が設けられています。大症状として「発達遅滞あるいは知的発達症(必須項目)」と「特徴的顔貌(口蓋異常・頭蓋形態を含む)」が定義され、小症状として「内臓先天異常」「脳形成異常」「骨格異常」が挙げられています。必須項目を満たし、かつ遺伝学的検査によりHNRNPKを含む染色体9q21領域の欠失、またはHNRNPK遺伝子の病的バリアントが同定されたものを「Definite(確定診断)」とします。
分子遺伝学的検査の階層的アプローチ
①多遺伝子パネル検査
知的障害・先天性心疾患・多発奇形を主訴とする場合の第一選択。HNRNPKに加えKMT2D・KDM6A・CHD7など類似疾患の原因遺伝子を網羅的に解析するNGSパネルが効率的です。
②全エクソーム/全ゲノム解析
パネル検査で原因が特定できない場合や、臨床像が非定型的でパネルの選定が困難な場合に実施。WESまたは全ゲノム解析でエクソン・イントロン領域の変異を探索します。
③DNAメチル化エピシグネチャー解析
臨床的に強く疑われるが既知の病的バリアントが同定されない場合、またはWESで同定されたバリアントの病原性が不明(VUS)な場合の、確定診断の最終的な強力ツールです。
エピシグネチャー:診断のパラダイムシフト
💡 用語解説:DNAメチル化エピシグネチャー(Episignature)
DNAそのものの配列ではなく、DNAに付加されているメチル基という化学修飾のパターンを全ゲノムレベルで網羅的に解析する手法です。疾患ごとに固有の「メチル化の指紋」が刻まれるため、これを末梢血DNAから検出することで疾患を確定できます。詳しくはエピジェネティクス入門もご参照ください。
2022年のChoufaniらによる画期的研究で、HNRNPKの機能喪失型バリアントを有するAu-Kline症候群患者には、健常者やKabuki症候群患者とは明確に区別可能な特異的かつ均一なDNAメチル化パターンが存在することが証明されました。この発見は実臨床に三つの大きな恩恵をもたらしています。
- ➤VUSの病原性評価:意義不明だったミスセンスバリアントについて、エピシグネチャーと合致すれば「病原性」と機能的に確定診断できる
- ➤表現型スペクトラムの拡大:軽微な顔貌異常や臓器奇形を欠く非定型患者の検出が可能に
- ➤エピ-遺伝子型相関:軽症ミスセンス患者では「中等度」のメチル化異常が見られ、変異の性質が重症度を予測できる
7. 鑑別診断:Kabuki症候群との違いがカギ
本疾患は他の遺伝性多発奇形症候群と臨床像が重なるため、正確な鑑別が遺伝カウンセリングと医学的管理の前提となります。臨床現場で最も混同されやすいのはKabuki症候群(歌舞伎症候群)です。実際、Au-Kline症候群の初期報告例の複数が、当初は臨床遺伝医によってKabuki症候群と診断されていた経緯があります。
| 鑑別ポイント | Au-Kline症候群(HNRNPK) | Kabuki症候群(KMT2D / KDM6A) |
|---|---|---|
| 眼部の特徴 | 浅い眼窩、長い眼瞼裂、眼瞼下垂 | 長い眼瞼裂、下眼瞼外側1/3の外反 |
| 口・舌 | M字型上唇、開口、正中に深い溝のある巨舌 | 口蓋裂、下唇の突出 |
| 皮膚・四肢 | 発汗異常、結合組織の脆弱性 | 胎児性指尖隆起の遺残、関節過伸展 |
| エピシグネチャー | HNRNPK特異的 | KMT2D / KDM6A特異的 |
Kabuki症候群に特有の「胎児性指尖隆起の遺残(指先の膨らみ)」はAu-Kline症候群では見られません。また、Au-Kline症候群に特異的な「浅い眼窩」「広い鼻梁」「常に開口した口とM字型上唇」「正中線に深く溝のある巨舌」が明確に観察されれば、本症候群の可能性が極めて高いと判断できます。最終的にはDNAメチル化エピシグネチャーが両疾患を完全に区別します。
その他、CHARGE症候群(CHD7)・Larsen症候群(FLNB)・Noonan症候群などとの鑑別が必要となる場面もあります。それぞれに特異的な所見(CHARGEのコロボーマや後鼻孔閉鎖、Noonanの翼状頸など)の有無で区別します。
8. 治療と生涯にわたるサーベイランス
本疾患の根本原因を修復する治療法は現時点では存在しません。治療の主体は集学的かつ症状の重症度に応じた積極的な対症療法と、致死的合併症を防ぐための予防的サーベイランスとなります。小児科・循環器科・腎泌尿器科・整形外科・耳鼻咽喉科・歯科・神経内科・遺伝診療科など多くの専門医による生涯にわたる協働が必要です。
診断直後の急性期評価
診断確定直後には、小児循環器専門医による心エコー検査で先天性心疾患の構造的異常と大動脈基部拡張の有無をスクリーニングします。乳児期には頭蓋縫合早期癒合症の視診・触診による評価を優先し、必要に応じてCTで確認します。腹部超音波検査で水腎症や腎構造異常を評価し、尿路感染症の予防に努めます。
麻酔時のリスク管理:見過ごせない重要事項
⚠️ 重要:手術時の気道確保困難リスク
巨舌・不正咬合・浅い眼窩・結合組織異常という頭蓋顔面の構造的変異により、気管挿管が困難(Difficult airway)となるリスクが極めて高い疾患です。これに自律神経の不安定さが加わるため、心疾患修復術・頭蓋形成術・胃瘻造設術などの外科的介入の前には、麻酔科医との入念な事前コンサルテーションと特殊な気道確保デバイスの準備が強く推奨されます。術後は自発呼吸の回復遅延の可能性もあり、抜管計画を慎重に策定し集中治療管理を前提とした体制で臨むことが必要です。
自律神経機能不全への対応
無汗・乏汗による熱中症リスクのため、空調による厳密な環境温度の調整が必要です。高い痛覚閾値のため、骨折・脱臼・重篤な感染症・急性腹症の発見が遅れる危険が常につきまといます。保護者や介護者に対しては「痛みを訴えないからといって重症ではないとは限らない」という教育を徹底し、原因不明の発熱や不機嫌が続く際には骨や内臓を含む念入りな全身検索が求められます。
長期サーベイランス・プロトコル
| 頻度 | 評価項目 |
|---|---|
| 毎回の受診時 | 成長パラメータ・栄養状態・運動言語発達・神経行動学的症状・側弯症進行の評価 |
| 乳児期受診ごと | 頭蓋縫合早期癒合症の視診・触診スクリーニング |
| 6ヶ月ごと | 歯科・矯正歯科専門医による評価(乏歯症・う蝕・不正咬合) |
| 年1回 | 聴力評価・眼科評価(視力・斜視・眼瞼下垂)・甲状腺機能(TSH・遊離T4) |
| 専門医判断 | 心エコーによる大動脈基部拡大・心機能の評価 |
| 必要に応じて | 骨密度測定(DEXA)・脳波検査・脊髄MRI |
9. 遺伝カウンセリングと出生前診断
本疾患は遺伝学的には常染色体顕性遺伝の形式をとりますが、これまでに報告されている患者のほぼ全例において、HNRNPK遺伝子の病的バリアントは両親から受け継いだものではなく、生殖細胞形成や初期胚発生で突発的に生じた新生突然変異(de novo変異)に起因しています。
💡 用語解説:新生突然変異(de novo変異)
両親の精子や卵子が作られる過程、あるいは受精直後の胚発生において、お子さんに新たに生じた遺伝子の変化のことです。両親には同じ変異が存在しません。「ご両親に原因はなく、誰にでも起こりうる偶然の出来事」であることをご家族にお伝えすることは、遺伝カウンセリングにおいて極めて重要です。父親の加齢に伴う精子のde novo変異リスクについてはde novo変異NIPTの解説もご参照ください。
再発リスクの説明
発端者の両親の末梢血を用いた遺伝子検査で病的バリアントが検出されない場合、次のお子さんが再び発症する確率は一般集団とほぼ同等(1%未満)と説明されます。ただし、いずれかの親の生殖細胞系列にのみ変異が存在する生殖細胞系列モザイクの可能性が理論上極めて低い確率で存在することにも言及します。
一方、Au-Kline症候群の患者ご本人が将来成人し、お子さんをもうけられた場合、その子に対して原因バリアントが遺伝する確率(再発リスク)は性別を問わず50%となります。
出生前診断の選択肢
胎児期の超音波検査で本疾患に特異的ではないものの存在を示唆しうる所見として、妊娠初期から中期の頸部浮腫(NT肥厚)・嚢胞性ヒグローマ・羊水過多・先天性の重度水腎症・心奇形などが報告されています。これらの組み合わせが認められた場合、確定診断に向けたアプローチとして、羊水検査・絨毛検査によって採取された胎児DNAを用いた網羅的ゲノム解析が考慮されます。家族内に既知のHNRNPK病的バリアントが存在する場合は、特定の遺伝子領域のみを調べる標的遺伝子検査による確実な出生前診断が可能です。
なお、ミネルバクリニックでは、NIPTを受検された方には互助会制度(8,000円)が適用され、陽性時の羊水検査・絨毛検査の費用が補助される仕組みになっています。NIPTでHNRNPK遺伝子変異を含む単一遺伝子疾患の評価を希望される方は、インペリアルプラン(154遺伝子)またはダイヤモンドプラン(56遺伝子)でHNRNPKを検査対象に含めています。
よくある質問(FAQ)
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Au-Kline症候群をはじめとする希少遺伝性疾患に関するご相談は、
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