目次
- 1 1. SOS2遺伝子とは ─ RASのスイッチを入れる「点火役」
- 2 2. 自己抑制という安全装置 ─ SOS2はどうやってオン/オフされるのか
- 3 3. ヌーナン症候群9型(NS9)とは ─ SOS2の生まれつきの変異が起こす病気
- 4 4. なぜ変異はDHドメインに集中するのか ─ ホットスポットの理由
- 5 5. リンパ管の合併症とSOS1との違い ─ NS9で特に気をつけたいこと
- 6 6. 遺伝形式・再発リスク・出生前診断
- 7 7. がんとSOS2 ─ KRAS変異がんの「隠れた要」
- 8 8. SOS2をねらう創薬研究 ─ 選択的結合化合物とPROTACへの展開
- 9 9. 検査とカウンセリング ─ どこで調べられるか
- 10 10. よくある誤解
- 11 よくある質問(FAQ)
- 12 参考文献
- 13 関連記事
📍 クイックナビゲーション
細胞は、外から届いた合図を「増えなさい」「変わりなさい」という行動に翻訳して生きています。その翻訳の入口で、RAS(ラス)というスイッチを押す「点火役」を務めるのがSOS2遺伝子です。生まれつきこのスイッチが入りやすくなるとヌーナン症候群9型(NS9)という体質になり、逆に大人のがんでは、SOS2が同じスイッチを使ってがんの生存を助けていることが分かってきました。SOS2はまれな原因遺伝子ですが、その仕組みはヌーナン症候群全体、そしてKRAS変異がんの治療という大きなテーマにそのままつながっています。本記事では、SOS2という一つの遺伝子が「生まれつきの病気」と「がん」という2つの舞台で果たす役割を、遺伝専門医がやさしく解説します。
Q. SOS2遺伝子とは何をする遺伝子ですか?まず結論だけ知りたいです
A. SOS2は「RASという分子スイッチをオンにする点火役(GEF)」の設計図です。不活性なRASにGTPを結び付けて、細胞の増殖や分化を進める信号を流します。生まれつきの機能獲得型変異はヌーナン症候群9型(NS9)を起こし、とくにリンパ管の合併症が目立ちます。一方、大人のKRAS変異がんではSOS2が生存を後押しする「隠れた要」として、治療の標的にもなっています。
- ➤RASのスイッチ役 → 休止型RASにGTPを入れ替えて、RAS-MAPK経路・PI3K/AKT経路を起動する交換因子(GEF)
- ➤ヌーナン症候群9型(NS9) → 生まれつきの機能獲得型変異で発症。常染色体顕性(優性)遺伝で、リンパ管の合併症が多い
- ➤兄弟遺伝子SOS1との違い → 変異がDHドメインの数残基に集中し、リンパ管合併症の素因が突出する
- ➤がん治療の標的 → KRAS変異がんでPI3K/AKT経路を後押し。SOS2阻害+MEK阻害の「合成致死」戦略が研究段階
1. SOS2遺伝子とは ─ RASのスイッチを入れる「点火役」
結論からお伝えすると、SOS2はRASという分子スイッチを「オン」にするための点火役で、専門的にはグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)と呼ばれます。この一点を押さえると、生まれつきの病気の話も、がんの話も、同じ仕組みの表と裏として理解できます。
SOS2は、Son of sevenless homolog 2 の頭文字をとった遺伝子名で、14番染色体の長腕(14q21.3)にあります[1]。つくられるSOS2タンパク質は1,332個のアミノ酸からなる大きな酵素で、細胞のなかではRAS-MAPKシグナル伝達経路のいちばん上流近くで働きます。もともとはショウジョウバエの「Son of sevenless(Sos)」という遺伝子から見つかり、ヒトではよく似た兄弟遺伝子であるSOS1と2つそろって存在しています。両者はアミノ酸配列の約67%が同じで、全身の多くの組織に広く発現しています[2]。
💡 用語解説:GEF(グアニンヌクレオチド交換因子)とRAS
RASは、細胞のなかで「増えなさい」「変わりなさい」という合図を中継するスイッチのようなタンパク質です。GDPという分子が付いていると休止状態(オフ)、GTPが付くと活動状態(オン)になります。この付け替えは自然には進みにくいため、専用の係が必要です。それがGEF(グアニンヌクレオチド交換因子)で、SOS2はまさにこのGEFです。SOS2はRASからGDPが外れるのを促進し、その後GTPが結合することでRASのスイッチをオンに切り替えます。
RASがオンになると、その下流で2つの大きな流れが動き出します。ひとつは細胞の増殖や分化を進めるRAF/MEK/ERK(MAPK)経路、もうひとつは細胞の生存を支えるPI3K/AKT経路です。SOS2はこの「点火役」ですから、ここが働きすぎても、逆に働けなくても、下流の細胞の運命に影響が及びます。この記事の後半で出てくる「生まれつきの病気」と「がん」は、どちらもこの一点火が過剰になったときの話だと考えると、全体像がつかみやすくなります。
RASスイッチと、それを押すSOS2
(オフ/休止)
GDP→GTP を交換
(オン/活動)
PI3K/AKT経路が起動
2. 自己抑制という安全装置 ─ SOS2はどうやってオン/オフされるのか
結論から言うと、SOS2は普段、自分自身を折りたたんで働きを止めておく「自己抑制」という安全装置をもっています。この装置がどこで外れるかを知ると、なぜ変異が特定の場所に集中するのか(第4章)が自然に理解できます。
SOS1で詳しく解析されている機構やSOS2との構造的相同性から、SOS2でも同様の自己抑制・膜依存的活性化機構が働くと考えられています。SOS2は単純な酵素ではなく、機能の違う部品(ドメイン)が数珠つなぎになった大きなタンパク質です。RASと結合して実際にGDP/GTP交換を行う触媒部分(REM・CDC25ドメイン)のほかに、細胞膜の脂質を認識する部分(PHドメイン)や、全体を安定させる部分(HFドメイン・DHドメイン)が並んでいます[2]。細胞質にただよっているあいだは、この前半の部品(DH-PHユニット)が触媒部分にかぶさり、RASが結合しにくいようにフタをしています。これが自己抑制の状態です。
自己抑制(オフ)から活性化(オン)へ
(DH-PHがフタをする)
細胞膜へ移動
フタが外れる
SOS2が全開になる
では、どうやってフタが外れるのでしょうか。細胞の外から成長因子などの刺激が届くと、SOS2は細胞膜へ呼び寄せられます。膜の特定の脂質にPHドメインが結合し、同時にHFドメインが膜の電気的な性質を感じ取ることで、折りたたみがゆるみ、触媒部分が顔を出します。そこへ近くの活動型RAS(RAS-GTP)が結合すると、SOS2は一気に全開になり、次々とRASをオンにしていきます[2]。
ここで大切なのは、「フタが外れる仕組み」と「フタを保つ仕組み」は、どちらも同じ折りたたみに依存しているという点です。ご本人やご家族にとっての意味に置きかえると、この折りたたみの要となる部分に生まれつきの変化があると、刺激がなくてもフタが外れっぱなしになり、スイッチが入りやすい体質になる——ということです。次の章で見るヌーナン症候群9型は、まさにこの「安全装置の外れ」から起こります。
💡 用語解説:機能獲得型変異
遺伝子の変異には、はたらきが弱くなる「機能喪失型」と、はたらきが強くなりすぎる「機能獲得型」があります。SOS2で問題になるのは機能獲得型のほうで、安全装置が外れてスイッチが入りやすくなるタイプです。RASの信号が「多すぎる」状態が、体づくりの段階でヌーナン症候群という特徴を生みます。
3. ヌーナン症候群9型(NS9)とは ─ SOS2の生まれつきの変異が起こす病気
結論として、SOS2に生まれつきの機能獲得型変異があると、ヌーナン症候群9型(NS9)という体質になります。ヌーナン症候群は、RAS-MAPK経路の遺伝子の変化で起こるRASオパチー(RAS病)の代表で、SOS2はそのなかでもまれな原因遺伝子のひとつです。
SOS2とヌーナン症候群の関係は、2015年に初めて報告されました。ヌーナン症候群の患者さんを対象にした網羅的な遺伝子解析で、SOS2に変異をもつ複数の家系が見つかり、T376SやM267Kといった変異が同定されたのです[3]。この病型は公的データベースOMIMにヌーナン症候群9型(#616559)として登録されています[4]。SOS2変異はヌーナン症候群全体のなかでは2%未満とまれで、これまでに報告された数もそれほど多くありません[3]。
症状は、ほかのヌーナン症候群と大きく重なります。特徴的な顔立ち(両目の間隔が広い、目尻が下がる、耳が低い位置で後ろに回るなど)、比較的軽い低身長、幅広いまたは翼状の首、漏斗胸などの骨格の違い、そして肺動脈弁狭窄や肥大型心筋症などの心臓の異常がみられます[4]。出生時の身長は正常のことが多く、最終的な成人身長は正常範囲の下の方に落ち着く傾向があります。ヌーナン症候群全般の診療の考え方は、GeneReviewsなどの国際的な総説にも整理されています[5]。
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読者ご本人やご家族にとって大切なのは、SOS2型は「知的発達が比較的保たれやすい」タイプに入るという点です。もちろん個人差はありますが、強い学習の遅れはヌーナン症候群の平均と比べて少ない傾向が報告されています[6]。診断名だけで将来を決めつけず、お子さん一人ひとりの発達や心臓の状態を丁寧にみていくことが、見通しを立てるうえで役立ちます。
4. なぜ変異はDHドメインに集中するのか ─ ホットスポットの理由
結論から言うと、SOS2のヌーナン症候群を起こす変異は、DHドメインというごく限られた場所(数残基)に集中しています。これは第2章の「自己抑制」の仕組みから、無理なく説明できます。
兄弟遺伝子のSOS1では、ヌーナン症候群を起こす変異が複数の領域に広く分布します。ところがSOS2では、報告される変異がDH(Dblホモロジー)ドメイン内のわずか数か所のアミノ酸に偏っています[7]。代表的なものに、T264(T264K・T264R)、E266やM267のあたり(M267K・M267R・M267Tなど)、そしてT376(T376S)があります[3]。
💡 ここは誤解されやすい:偏りの理由
変異が数残基に集中していると聞くと、「その場所が壊れやすいのだろう」と思われがちですが、DHドメインは自己抑制を保つ折りたたみの要にあたります。病的変異がDHドメインの限られた残基に集中することから、これらの残基はSOS2の自己抑制を保つうえで特に重要で、変化によって機能亢進が生じやすいと考えられています。DNAそのものの変異しやすさだけでなく、タンパク質の構造・機能上の制約がホットスポット形成に関係すると考えられます[7]。
この点は、検査結果を読むうえでも役に立ちます。SOS2の変異が見つかったとき、「DHドメインのよく知られた場所かどうか」は、その変化が病気に関係するかを判断する重要な手がかりになります。逆に、これらのホットスポットから離れた場所の変化は、意義がはっきりしない変異(VUS)と判定されることも少なくありません。ご家族にとっては、「変異が見つかった=原因が確定した」ではない、という理解が大切です。
5. リンパ管の合併症とSOS1との違い ─ NS9で特に気をつけたいこと
結論として、SOS2型のヌーナン症候群でいちばん際立つのは、リンパ管の合併症が非常に多いことです。ここがSOS1型との実用的な見分けのポイントにもなります。
これまでで最大のSOS2変異患者の集団を解析した研究では、SOS2変異をもつ方の半数以上に、リンパ管の異常がみられました[6]。比較的軽いものでは下肢や外陰部の先天性リンパ浮腫、重いものでは慢性に進行するリンパ浮腫に加えて、乳び胸や胸水、慢性のリンパ球減少を合併することがあります。これらは生活の質に大きく影響し、重症例では命に関わることもあるため、SOS2変異が分かっている場合はリンパ管の状態に注意を払うことが、実際のケアで役立ちます。
では、SOS1型とはどこが同じで、どこが違うのでしょうか。同じ研究は、SOS2型の全体像はSOS1型のヌーナン症候群とよく似ていると述べています[6]。皮膚や毛髪などの外胚葉の症状が出やすい一方、強い低身長や学習の遅れは比較的少ない、という点が共通します。そのうえで、次の表のように「変異の集中しやすさ」と「リンパ管合併症の多さ」が、2つの遺伝子を分ける手がかりになります。
ご家族にとっての意味に置きかえると、「SOS2型かもしれない」と分かった時点で、リンパ管という観点をケアの視野に入れられることが、この違いを知る一番の価値です。なお、変異の位置によって症状の強さが異なることも知られており、詳しい型ごとの特徴はヌーナン症候群9型(NS9)の疾患ページで整理しています。
6. 遺伝形式・再発リスク・出生前診断
結論として、ヌーナン症候群9型は常染色体顕性(優性)遺伝で、親から受け継ぐ場合も、お子さんで初めて生じる場合もあります。ここでは「うつるのか」「次の子は」という、最も多いご質問にお答えします。
💡 用語解説:常染色体顕性遺伝と新生突然変異
常染色体顕性(優性)遺伝とは、2本ある遺伝子のうち片方に変異があれば症状が出るタイプです。親が変異をもっていれば、妊娠ごとに2分の1(50%)の確率でお子さんに伝わります。一方、両親には変異がなく、お子さんで初めて起きる変化を新生突然変異(de novo変異)といいます。
SOS2型では、家族性の例(親から子へ受け継がれた例)も、新生突然変異の例も報告されています[3]。新生突然変異の場合、次のお子さんでの再発率は一般に低いとされますが、生殖細胞にモザイク(変異をもつ細胞が一部だけ存在する状態)がある可能性があるため、完全にゼロとは言い切れません。ご家族の状況に応じて説明の仕方が変わりますので、正確な情報にもとづいて一緒に整理していくことが大切です。
出生前の話題にも触れておきます。胎児の後頸部のむくみ(NT)が厚いなどの所見をきっかけに、出生前にSOS2の変異が同定された症例も報告されています[8]。ただし注意したいのは順番です。NTが厚い背景として最も頻度が高いのは染色体の数や構造の変化であり、まずはそちらの評価が優先されます。染色体が正常でヌーナン症候群などが疑われる場合に、SOS2を含むRASオパチーの遺伝子を調べる、という流れになります。
(父親由来の遺伝子変異が子へ伝わるイメージ)
RASオパチーの新生突然変異のなかには、父親の加齢とともに増えることが知られているものがあります。当院では、こうした父親由来の新生突然変異を対象にした56遺伝子de novo変異NIPTを行っており、SOS2もその対象遺伝子に含まれます。染色体が正常でも単一遺伝子の変化が心配なとき、単一遺伝子疾患の出生前診断や、羊水検査・絨毛検査による確定検査という選択肢があります。
7. がんとSOS2 ─ KRAS変異がんの「隠れた要」
結論からお伝えすると、SOS2そのものはがんを起こす主役(ドライバー)ではありません。ただし、KRASという遺伝子の変異でできたがんが増えるとき、SOS2が生存を後押しする「隠れた要」として働いていることが分かってきました。ここは治療研究の話であり、「SOS2を調べればがんが分かる」という意味ではない点を、先にはっきりさせておきます。
RAS遺伝子の活性化変異はヒトがん全体の約3割にみられ、KRAS・NRAS・HRASのいずれかに変異をもち、とくに大腸がん・非小細胞肺がん・膵臓がんではKRAS変異が高頻度です。近年の研究で、変異KRASが最大限の力を発揮するには、上流のGEFであるSOS2の助けが要ること、そしてその依存度に序列(KRAS>NRAS>HRAS)があることが示されました[9]。とくにKRAS駆動型のがんで、SOS2はPI3K/AKT経路を後押しする役割を担っています[2]。
「合成致死」という考え方
(PI3K/AKTを弱める)
(MAPKを弱める)
=がん細胞が生きられない
この発見は、合成致死(synthetic lethality)という治療の考え方につながります。合成致死とは、1つの変化だけなら細胞は生きられるのに、2つを同時に止めると細胞が死んでしまうという現象です。KRAS変異がんでSOS2を止め、そこへMEK阻害薬を加えると、PI3K/AKTとMAPKという2つの経路が同時に遮断され、強い相乗効果が得られることが確認されています[9]。なお、KRAS G12C阻害薬(ソトラシブ・アダグラシブ)との併用では、SOSファミリーのうち主にSOS1を阻害する戦略が前臨床研究で検討されています。SOS2についてもKRAS駆動型がんの治療標的として研究されていますが、SOS1阻害とSOS2阻害は区別して考える必要があります[2]。
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読者ご本人やご家族にとって知っておいていただきたいのは、これらは前臨床・研究段階の話であり、現時点でSOS2をねらう薬が診療で使われているわけではないという点です。あくまで、生まれつきの病気で「困る側」だったSOS2が、がんの領域では「弱点として利用できる側」に変わる——という、同じ遺伝子の二面性の話として受け止めてください。
8. SOS2をねらう創薬研究 ─ 選択的結合化合物とPROTACへの展開
結論として、SOS2に選択的に結合する低分子化合物が近年報告され、SOS2を薬剤標的とするための足がかりが得られています。長らく「創薬しにくい」とされてきたRAS経路に、新しい切り口が生まれつつあります。
2025年に報告された研究では、6,000種類もの化合物ライブラリーをふるいにかけ、SOS2に結合する初期のヒット化合物「キナゾリン1」が見つかりました[10]。そこから、タンパク質の立体構造をもとに少しずつ形を改良していく構造ベース創薬が進み、結合の強さ(値が小さいほど強い)が段階的に向上しました。下のグラフは、その改良の道のりを示したものです。
SOS2に結合する化合物の親和性の改善
Kd値(μM)= 値が小さいほど強く結合する
33 μM
3.3 μM(約10倍)
約1 μM(約30倍)
特筆すべきは、これらの化合物がよく似たSOS1よりSOS2への選択性を示すよう設計されていることです[10]。SOS1とSOS2は結合ポケットが似ていますが、わずかなアミノ酸の違いを手がかりに、SOS2に固有の相互作用をつくることで選択性を実現しています。SOS1とSOS2を薬理学的に区別できる可能性は、将来SOS2選択的な治療戦略を検討するうえで重要です。
さらに同じ研究では、化合物の一部が溶媒側にはみ出す「出口ベクター」の存在が確認されました。これは、標的タンパク質を分解へ導くPROTAC(標的タンパク質分解誘導薬)を設計するのに好都合な特徴です[10]。SOS2結合化合物を足がかりに、タンパク質そのものを細胞内で分解・枯渇させるPROTACへ展開できる可能性を示す成果です。ただし、いずれも研究段階であり、実際の治療になるまでにはまだ時間がかかります。
9. 検査とカウンセリング ─ どこで調べられるか
結論として、SOS2はヌーナン症候群・RASopathiesの遺伝子パネル検査に含まれ、出生前ではNIPTのダイヤモンドプランで調べられる56遺伝子のひとつでもあります。単独ではなく、関連する遺伝子とまとめて調べるのが一般的です。
ヌーナン症候群が疑われるとき、通常の遺伝子検査としてはヌーナン症候群・RASopathies遺伝子パネル検査で、SOS2を含むRAS-MAPK経路の遺伝子をまとめて評価します。出生前では、NIPTダイヤモンドプランが単一遺伝子(56遺伝子)まで対象としており、SOS2もその一つです。ヌーナン症候群は、出生前に検出が検討される単一遺伝子疾患のなかでも頻度が高いグループにあたり、こうした広い範囲を調べられるのはダイヤモンドプランやインペリアルプランです。
💡 用語解説:VUS(意義不明変異)
検査では、病気に関係するのかどうか、現時点でははっきり判断できない変化が見つかることがあります。これをVUS(意義不明変異)と呼びます。SOS2でも、DHドメインのよく知られた場所から外れた変化はVUSと判定されることがあります。「変異が見つかった=原因が確定した」ではないため、結果は必ず専門家と一緒に読み解くことが大切です。
なお、SOS2は病気の原因という顔だけでなく、薬物反応との関連も研究されています。成長ホルモン分泌不全性低身長症やターナー症候群の子どもを対象にした国際的な薬理遺伝学研究では、SOS2内の特定の多型(rs13379306)をもつ場合に、成長ホルモン補充療法への反応が低いグループに入りやすいことが示されました(P=0.006)[11]。SOS2多型と成長ホルモン治療反応との関連を示した薬理遺伝学研究として興味深い知見ですが、現時点でSOS2 rs13379306を用いて成長ホルモン治療を選択・調整することが標準診療となっているわけではありません。
ご本人やご家族にとって、いちばん大切なのは「検査を受けるかどうか」「結果をどう受け止めるか」を、専門家と一緒に決められることです。ミネルバクリニックは臨床遺伝専門医が運営する遺伝診療を行っており、検査の前後を通じて、結果の意味やこれからの選択肢を一緒に整理します。ネットの情報だけで抱え込まず、一度専門医の話を聞きに来ていただければと思います。臨床遺伝専門医とはどんな役割かも、あわせてご覧ください。
10. よくある誤解
SOS2について、診療の場でよくお聞きする誤解を整理します。どれも、ご本人やご家族が不安を一つ減らすための手がかりになります。
誤解①「SOS2=がんの遺伝子」
SOS2はがんを起こす主役(ドライバー)ではありません。KRAS変異がんの生存を後押しする「隠れた要」であり、治療の標的として研究されている段階です。SOS2を調べればがんが分かる、という意味ではありません。
誤解②「変異が見つかれば原因確定」
SOS2の変化には、病気に関係するものと、意義がはっきりしないもの(VUS)があります。とくにDHドメインのよく知られた場所から外れた変化は、そのままでは原因と断定できません。結果は専門家と読み解く必要があります。
誤解③「必ず親から遺伝する」
親から受け継ぐ例もありますが、両親に変異がなく、お子さんで初めて生じる新生突然変異の例も報告されています。「親のどちらかが必ず同じ体質」とは限らず、家系の状況によって説明は変わります。
誤解④「SOS1と同じだから区別は不要」
全体像は似ていますが、SOS2型はリンパ管の合併症が半数以上と非常に多い点が異なります。SOS2型と分かれば、リンパ浮腫や乳び胸といった観点を早めにケアの視野に入れられます。
📌 このページを読んだあなたへ
この記事にたどり着いた方には、検査でSOS2の変化を指摘された方、胎児のNTが厚いと言われて調べている方、ご家族にヌーナン症候群の診断があった方など、さまざまな状況の方がいらっしゃると思います。次に確認しておくとよい観点を挙げておきます。
- ➤遺伝形式と再発リスク:常染色体顕性(優性)か、新生突然変異か → 常染色体顕性遺伝・新生突然変異
- ➤注意しておきたい合併症:心臓・リンパ管の状態 → ヌーナン症候群9型(NS9)
- ➤検査の選択肢:パネル検査・出生前診断・確定検査 → RASopathiesパネル・羊水・絨毛検査
- ➤相談先:結果の意味を一緒に整理する → 遺伝診療・遺伝カウンセリング
よくある質問(FAQ)
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ヌーナン症候群・RASオパチーに関する遺伝子検査と遺伝カウンセリングは、
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参考文献
- [1] OMIM #601247. SOS RAS/RAC GUANINE NUCLEOTIDE EXCHANGE FACTOR 2; SOS2. Johns Hopkins University. [OMIM 601247]
- [2] SOS2 Comes to the Fore: Differential Functionalities in Physiology and Pathology. Int J Mol Sci. 2021. [PMC8234257]
- [3] Rare variants in SOS2 and LZTR1 are associated with Noonan syndrome. J Med Genet. 2015. [PubMed 25795793]
- [4] OMIM #616559. NOONAN SYNDROME 9; NS9. Johns Hopkins University. [OMIM 616559]
- [5] Noonan Syndrome. GeneReviews. University of Washington, Seattle. [GeneReviews NBK1124]
- [6] Variants of SOS2 are a rare cause of Noonan syndrome with particular predisposition for lymphatic complications. Eur J Hum Genet. 2021. [PubMed 32788663]
- [7] Activating Mutations Affecting the Dbl Homology Domain of SOS2 Cause Noonan Syndrome. Hum Mutat. 2015. [PubMed 26173643]
- [8] First prenatal case of Noonan syndrome with SOS2 mutation: Implications of early diagnosis for genetic counseling. Am J Med Genet A. 2021. [PubMed 33750022]
- [9] Oncogenic RAS isoforms show a hierarchical requirement for the guanine nucleotide exchange factor SOS2 to mediate cell transformation. Sci Signal. 2018. [PubMed 30181243]
- [10] Discovery of Small Molecules that Bind to Son of Sevenless 2 (SOS2). J Med Chem. 2025. [J Med Chem 10.1021/acs.jmedchem.4c02007]
- [11] A pharmacogenomic approach to the treatment of children with GH deficiency or Turner syndrome. Eur J Endocrinol. 2013. [Eur J Endocrinol 169(3):277]



