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RERE遺伝子とは?働きと関連する病気(NEDBEH・1p36欠失症候群)を臨床遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

RERE遺伝子は、おなかの赤ちゃんの脳・眼・心臓・腎臓・耳などがつくられる時期に、たくさんの遺伝子のスイッチを正しく入れたり切ったりする「指揮者」のような役割を持つ重要な遺伝子です。この遺伝子に変化(変異)が起こると、発達の遅れや知的障害を中心とするNEDBEH(脳・眼・心臓の異常を伴う、あるいは伴わない神経発達障害)の原因となり、染色体のいちばん端で起こる「1p36欠失症候群」とも深く関わります。この記事では、RERE遺伝子の働きから、関連する病気の症状、変異タイプによる違い、検査の流れまでを、臨床遺伝専門医がやさしく解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約16分
🧬 RERE遺伝子・NEDBEH・1p36欠失
臨床遺伝専門医監修

Q. RERE遺伝子とは何ですか?まず結論だけ知りたいです

A. RERE遺伝子は、胎児期に脳・眼・心臓などの形づくりを指揮する「転写コレギュレーター」というタンパク質をつくる遺伝子です。片方の遺伝子の変化(ヘテロ接合)でNEDBEHという神経発達障害を引き起こし、1p36欠失症候群の症状を牽引する主要な原因遺伝子でもあります。報告されている多くは、親から受け継いだものではなくお子さんで初めて生じた新生突然変異(de novo)です。

  • 遺伝子の働き → レチノイン酸というシグナルを読み解き、多くの臓器の形成を時間的・空間的に制御する「核内のスイッチ役」
  • 関連する病気 → NEDBEH。発達の遅れ・知的障害・自閉スペクトラム症・筋緊張低下が中核で、眼・心臓・腎臓・難聴を合併することも
  • 変異タイプで違う → 機能喪失型は神経症状が中心、アトロフィン-1ドメインのミスセンス変異は多臓器の症候群を起こしやすい
  • 1p36との関係 → RERE遺伝子のハプロ不全が、1p36欠失症候群の重い症状の主要な牽引役と考えられています
  • 検査の流れ → 出生前はNIPT→羊水検査(CMA)、出生後は血液のCMA→必要に応じて全エクソーム解析(WES)

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1. RERE遺伝子とは?ーー発生の「指揮者」

RERE遺伝子は、第1染色体の短腕の末端近く(1p36.23という位置)にあります。この遺伝子からつくられるREREというタンパク質は、細胞の核の中で、ほかのタンパク質と大きな複合体をつくり、発生に必要な遺伝子の働きを「オン」にしたり「オフ」にしたりして調節します。こうした役割を持つタンパク質を転写コレギュレーター(共調節因子)と呼びます。オーケストラの指揮者のように、たくさんの楽器(遺伝子)に「いつ・どのくらい」演奏させるかを指示するイメージです[1]

REREという名前は、タンパク質の中にあるアルギニン-グルタミン酸(RE)というアミノ酸のペアが繰り返し並んでいることに由来します。別名としてアトロフィン2(ATN2)とも呼ばれ、別の遺伝子であるアトロフィン1(ATN1)とよく似た構造を持っています。RERE遺伝子はおよそ1,500個のアミノ酸からなる大きなタンパク質をつくり、BAH・ELM2・SANT・GATA型・そしてアトロフィン1ドメインといった、進化の中で大切に保たれてきた複数の働く部分(ドメイン)を備えています[6]

💡 用語解説:NEDBEH(ネドベ)とは

NEDBEHは「Neurodevelopmental disorder with or without anomalies of the brain, eye, or heart」の頭文字をとった病名で、日本語では「脳・眼・心臓の異常を伴う、あるいは伴わない神経発達障害」と訳されます。RERE遺伝子の変化が原因となる病気で、発達の遅れや知的障害を中心に、人によって脳・眼・心臓・腎臓・耳などにさまざまな症状が加わることがあります。「伴う、あるいは伴わない」という長い名前そのものが、症状の幅(個人差)がとても大きい病気であることを表しています。

RERE遺伝子のヘテロ接合性(2本ある染色体のうち片方)の病的バリアントは、常染色体顕性遺伝(じょうせんしょくたいけんせいいでん/旧称・常染色体優性遺伝)の形をとります。ただし、報告されている多くの患者さんは、ご両親には変化がなく、お子さんで初めて生じた新生突然変異(de novo変異)によるものです[3]。NEDBEHはOMIM番号#616975に登録されており、現時点では報告頻度が100万人に1人未満とされる希少疾患に分類されますが、全エクソーム解析などの検査が普及するにつれて、世界で確定診断に至る方が着実に増えています[7]

2. RERE遺伝子の働きーーレチノイン酸シグナルと多臓器形成

RERE遺伝子のもっとも大切な働きの一つが、胎児期のレチノイン酸(Retinoic Acid:RA)シグナルの調節です。レチノイン酸はビタミンAからつくられる物質で、からだの前後・左右の軸を決めたり、脳の領域分け、心臓のねじれ(ルーピング)、眼や内耳の形づくりを直接「指示」する、いわば設計図の伝令役です。REREは、このレチノイン酸の指示を核の中で正確に読み解き、必要な遺伝子のスイッチを入れる役割を担っています[1]

💡 用語解説:レチノイン酸シグナルとは

レチノイン酸は、ビタミンA(レチノール)が体内で変化してできる物質で、胎児の器官がつくられる時期に「ここは頭、ここは心臓」というように、細胞に位置や運命を伝えるモルフォゲン(形態形成物質)として働きます。レチノイン酸の量が多すぎても少なすぎても発生に異常が生じることが知られており、REREはこのシグナルを「ちょうどよく」読み取って実行するための重要な調整役です。だからこそ、RERE遺伝子に変化があると、レチノイン酸が関わる脳・眼・心臓・耳など、一見つながりのない多くの臓器に同時に影響が出るのです。

REREは核の中で、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)などのクロマチン(DNAが巻き付いた構造)を修飾するタンパク質と大きな複合体をつくります。この複合体を通じて、DNAの周りの構造をぎゅっと締めたりゆるめたりして、遺伝子の読み取りを抑えたり(コリプレッサー)活性化したり(コアクチベーター)と、状況に応じて使い分けます[1]。つまりREREは、レチノイン酸という「指示」と、クロマチンという「楽譜の開き具合」の両方をコントロールして、発生という大きな演奏を成立させているのです。

動物実験は、この遺伝子の重要さをはっきりと示しています。マウスでRERE遺伝子を両方とも働かなくすると、胎生の早い段階で重い中枢神経や心臓の異常を示して命を保てなくなります。また、心臓の内側(心内膜)でREREの働きが失われると、心臓の壁(中隔)づくりに不可欠なGATA4という遺伝子の働きが低下し、心室中隔欠損症(VSD)につながることが分子レベルで示されています[2]。ゼブラフィッシュ(小型の魚)でも、REREの働きが弱まると小さな眼(小眼球症)や眼の組織のすき間が閉じない異常が再現され、ヒトでの眼の症状とよく一致することがわかっています。

3. RERE関連疾患(NEDBEH)の症状

NEDBEHは、頭から足先まで多くの体の仕組みにまたがる症状を示します。もっとも一貫してみられるのが発達の遅れと知的障害で、これはほぼすべての患者さんに認められます。程度は軽度から最重度まで幅広く、首のすわり・座位・歩行といった運動の発達や、言葉の発達がゆっくりになる傾向があります[2][8]

行動・精神面では、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、反復的な行動、感覚の過敏さ、自傷行為などが報告されています。赤ちゃんの時期には全身の筋緊張低下(フロッピーインファント)がよくみられ、これが口の動きの弱さにつながって、哺乳や飲み込みの困難の原因になることがあります[2]。また、約半数でてんかん(けいれん発作)が起こり、点頭てんかん(ウエスト症候群)など治療が難しいタイプに至ることもあります[8]

RERE関連疾患(NEDBEH)にみられる主な症状と頻度の目安

報告症例に基づく推定値。症状の幅(個人差)はとても大きいことに注意してください

発達の遅れ・知的障害・ASD・筋緊張低下
90〜100%
脳の画像所見(脳梁・白質・脳室・小脳)
大半(約9割)
先天性心疾患(心室中隔欠損など)
40〜70%
てんかん
40〜50%
眼の異常(コロボーマ・視神経萎縮など)
30〜50%
腎・泌尿器の異常
25〜30%
感音難聴
20〜30%

眼・心臓・耳・腎臓などの構造的な症状

RERE遺伝子は眼の発生でレチノイン酸シグナルを仲立ちするため、約30〜50%の患者さんで眼の構造異常が合併します。代表的なのがコロボーマ(組織の欠損)で、虹彩が鍵穴のように欠ける虹彩コロボーマや、網膜・脈絡膜のコロボーマがみられます。そのほか、視神経の低形成や萎縮、小さな眼球(小眼球症)、角膜のにごりを伴うピーターズ異常なども報告されています[2]。これらは視力に不可逆的な影響を及ぼすことがあるため、視覚が育つ大切な時期に早めの眼科的評価を行うことがすすめられます。

💡 用語解説:コロボーマとは

コロボーマは、胎児期に眼の組織が袋状から閉じていく途中で、すき間がうまく閉じずに「組織の欠損」が残ってしまう状態です。虹彩(茶目)に欠損があると瞳が鍵穴のような形に見え、網膜や脈絡膜、視神経に及ぶと視野や視力に影響します。CHARGE症候群など他の発生の病気でもみられる所見で、RERE関連疾患の眼の症状を理解するうえで重要なキーワードです。

心臓では、約40〜70%で先天性心疾患が合併し、もっとも多いのは心室中隔欠損症(VSD)です。そのほか心房中隔欠損(ASD)や動脈管開存症(PDA)などの中隔・血管の異常が報告されています[2]。耳では約20〜30%で感音難聴がみられ、片側・両側いずれの場合もあり、成長とともに進む例もあるため、聴性脳幹反応(ABR)などによる定期的な確認が大切です。腎・泌尿器系では膀胱尿管逆流症、男児の尿道下裂、停留精巣、腎臓の形や位置の異常などが報告されています[2]。さらに、直線的な眉、深く落ちくぼんだ眼、顔の中ほどの後退、低い位置で後ろに回旋した耳といった、診断の手がかりになる特徴的な顔つきがみられることもあります[3]

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【なぜ1つの遺伝子で、こんなに多くの臓器に?】

「脳の症状」と「心臓の症状」と「眼の症状」が一度に出ると聞くと、まるで複数の病気が重なっているように感じられるかもしれません。けれども臨床遺伝専門医として文献を踏まえると、その答えはとてもシンプルです。REREは発生のごく早い時期に、レチノイン酸という共通の合図を読み解いて多くの臓器をつくる「指揮者」だからです。指揮者がひとつ調子を崩すと、オーケストラ全体の演奏がずれる――それが「多面発現」と呼ばれる現象です。

ですから、症状の数の多さは「重なった不運」ではなく、「ひとつの根っこから枝分かれした結果」だと理解していただくと、全体像がつかみやすくなります。ご両親への遺伝カウンセリングを行う立場としては、まずこの「一本の根」を共有することが、混乱を整理する第一歩になると考えています。

4. 変異タイプと症状の関係(遺伝子型と表現型)

RERE関連疾患でとくに興味深いのは、同じ遺伝子でも「どこが・どう壊れたか」によって、症状の重さや合併パターンが変わるという点です。これを遺伝子型と表現型の相関(Genotype-phenotype correlation)と呼びます[5]

💡 用語解説:ミスセンス変異と機能喪失型変異

ミスセンス変異は、DNAの1文字が変わることで、タンパク質をつくるアミノ酸が「別の種類」に置き換わる変化です。タンパク質自体は作られますが、形や働きが少し変わります。ミスセンス変異の詳しい解説もご覧ください。

機能喪失型変異(LoF)は、ナンセンス変異や遺伝子の欠失などによって、タンパク質が作られなくなったり、途中で切れて働けなくなる変化です。この場合、正常なタンパク質の量が半分に減るハプロ不全という状態になります。

機能喪失型変異の場合は、ハプロ不全による病態が中心となり、発達遅滞・知的障害・自閉スペクトラム症・筋緊張低下といった「神経の症状」が前面に出やすい傾向があります。一方で、タンパク質は作られるものの一部の働きが変わるミスセンス変異、とくにタンパク質のC末端側にあるアトロフィン1ドメイン(ヒスチジンに富む領域、His1435の近く)に集中する変異は、コロボーマなどの眼の構造異常、先天性心疾患、腎臓の異常、感音難聴を合併する確率が統計的に高いことが、複数の臨床研究で示されています[5]

RERE遺伝子:変異タイプで症状が変わる 同じ遺伝子でも「壊れ方」によって現れる症状が異なります 機能喪失型変異(LoF) ナンセンス変異・遺伝子の欠失など ハプロ不全 正常なタンパク質が半分に減る 神経症状が中心 発達の遅れ・知的障害・自閉スペクトラム症 ミスセンス変異 アトロフィン1ドメインに集中 ドミナントネガティブ 正常なタンパク質の働きも妨げる 多臓器の症候群 眼・心臓・腎臓・難聴を合併 (CHARGE症候群に似た像を示すことも)

機能喪失型変異はハプロ不全を通じて神経症状を中心に、アトロフィン1ドメインのミスセンス変異はドミナントネガティブ効果を通じて多臓器の症候群を引き起こしやすい、という関係を示しています。

この背景には、変異したREREタンパク質が複合体の中でドミナントネガティブ効果(優性阻害効果)を発揮している可能性が示唆されています。つまり、変異したタンパク質が、もう片方の正常な遺伝子から作られた正常タンパク質の働きまで妨げてしまい、レチノイン酸シグナルをより強く止めることで、より広い臓器に影響が出ると考えられています[5]。詳しくはドミナントネガティブの解説ページもご参照ください。

CHARGE症候群との重なり

アトロフィン1ドメインの特定の変異、とくに2つのアミノ酸が重複する変異(c.4313_4318dup, p.Leu1438_His1439dup)を持つ患者さんは、コロボーマ・心疾患・後鼻孔閉鎖・成長遅滞・生殖器異常・耳の異常や難聴を特徴とする多発奇形症候群「CHARGE症候群」によく似た臨床像を示すことが知られています[5]。実際、後鼻孔閉鎖はこの変異を持つ方に特徴的とされています。

CHARGE症候群の主な原因はCHD7という別の遺伝子ですが、診断基準を満たすのにCHD7に病的バリアントが見つからない患者さんが存在します。こうした「CHD7陰性のCHARGE症候群が疑われる方」には、RERE遺伝子の検査を検討することが現在すすめられています[5]。これは、REREとCHD7が胎児期のクロマチン制御や発生の道すじでとても近い場所で協力して働いていることを強く示しています。

5. 1p36欠失症候群とREREーードライバー遺伝子

RERE遺伝子の臨床的な意味を語るうえで欠かせないのが、第1染色体短腕の末端の小さな欠失で起こる「1p36欠失症候群」との関係です。1p36欠失症候群は新生児のおよそ5,000〜10,000人に1人で起こり、染色体の末端の微小欠失症候群としてはヒトでもっとも頻度が高いとされます。重い知的障害、難治性てんかん、先天性心疾患、筋緊張低下、特徴的な顔つきなどを示します。

💡 用語解説:ハプロ不全(ドライバー遺伝子)

私たちは1つの遺伝子につき、父由来・母由来の2つのコピーを持っています。ハプロ不全とは、片方のコピーが失われて働かなくなったために、残った1つだけでは必要なタンパク質の量を十分に作れず、機能不全をきたす状態のことです。大きな染色体欠失の中に多くの遺伝子が含まれていても、症状の「引き金(ドライバー)」になっているのが特定の1遺伝子であることがあります。1p36欠失症候群では、その主要なドライバーがREREだと考えられています。ハプロ不全の詳しい解説もご覧ください。

RERE遺伝子は、1p36の中でも動原体に近い側にある「近位1p36責任領域」の中心に位置しています。近年の研究で、RERE遺伝子だけの点変異を持つ患者さん(NEDBEH)と、近位1p36領域全体(数百万塩基対・多数の遺伝子を含む)を欠失している患者さんの臨床像を比べたところ、両者の症状が著しく重なることがわかりました[4]。すなわち、1p36欠失症候群でみられる脳の構造異常・視覚障害・心室中隔欠損・腎異常・発達の遅れの多くは、領域内の多くの遺伝子が失われた複合的な影響というよりも、単一のRERE遺伝子のハプロ不全が主たる原因(ドライバー)であると結論づけられたのです[4]

この発見により、1p36欠失と診断された患者さんで、欠失の範囲にRERE遺伝子が含まれるかどうかを確認することが、その後の心疾患や視覚障害のリスクを見積もり、一人ひとりに合わせた医療ケアの計画を立てるうえで役立つようになりました[4]。なお1p36領域には、心筋症に関わるPRDM16、顔・脳の発達に関わるSKI、てんかん発作のかかりやすさに関わるKCNAB2など、ほかにも大切な遺伝子が含まれており、これらが一緒に失われることで症状がさらに複雑になることも知られています。

6. 遺伝学的診断ーー出生前と出生後を分けて理解する

RERE関連疾患や1p36欠失症候群は、症状だけで他の多くの症候群と見分けることがほぼ不可能なため、確定には遺伝学的な検査が欠かせません。検査は「出生前」と「出生後」で目的も技術も大きく異なるため、分けて理解することが大切です。

💡 用語解説:CMAとWESの違い

CMA(染色体マイクロアレイ)は、染色体の「欠けている/増えている」を高い解像度で全ゲノムにわたって調べる検査です。1p36欠失のような微小欠失を見つけるのが得意で、欠失の正確な範囲やRERE遺伝子が含まれるかどうかを確認できます。一方、顕微鏡で見るGバンド分染法では、これほど小さな欠失は検出が困難です。

WES(全エクソーム解析)は、タンパク質をつくる全遺伝子領域を読み取り、CMAでは見つけられない「1文字レベルの変化(点変異)」まで調べられます。RERE遺伝子内の小さなミスセンス変異やナンセンス変異が原因のNEDBEHは、CMAでは検出できないため、このWESが確定の決め手になります。

出生後の確定診断の流れ

原因不明の発達遅滞・知的障害・多発先天異常があるお子さんでは、現在の第一選択検査は血液を用いたCMA(染色体マイクロアレイ)です。1p36欠失症候群であれば、CMAで欠失の正確な範囲とRERE遺伝子が含まれるかどうかを確認できます。CMAで構造異常が見つからない「CMA陰性」の場合は、次に知的障害の多遺伝子パネル検査や全エクソーム解析(WES)へ進み、RERE遺伝子の点変異を高い精度で同定します[2]。出生後にRERE関連疾患を調べたい場合は、遺伝子検査として発達障害・知的障害の遺伝子パネルやエクソーム解析が選択肢になります。

出生前のスクリーニングと確定検査

出生前では、非侵襲的なスクリーニング検査であるNIPT(新型出生前診断)により、ダウン症候群などの主要な染色体の数の異常に加え、1p36欠失を含む微小欠失症候群のスクリーニングが、母体の採血だけで可能になっています。遺伝学的に重要なのは、染色体の数の異常(トリソミー)は母体の加齢でリスクが上がる一方、微小欠失は細胞分裂時のランダムなエラーで起こるため、母体の年齢に関係なく発生するという点です。

従来のNIPTでは微小欠失の陽性的中率(陽性と出たとき実際に疾患を持つ確率)が約70%にとどまることが課題でしたが、当院が採用する次世代技術COATE法では、報告されている微小欠失の陽性的中率が99.9%超とされています。単一遺伝子疾患まで対象を広げたインペリアルプラン(154遺伝子・218疾患をカバー)には、RERE遺伝子も検査対象として含まれています。

NIPTはどれほど精度が高くても確定診断ではなく「スクリーニング検査」です。陽性結果が出た場合は、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングを経たうえで、羊水検査・絨毛検査と染色体マイクロアレイ(CMA)による確定診断へ進むことが大切です。当院のNIPTには互助会(8,000円)が含まれ、陽性時の確定検査(羊水検査)費用が全額補助されます。

なお、妊娠中期の超音波検査で脳梁欠損・心室中隔欠損・腎奇形などの多発性先天異常が見つかった場合、胎児と両親のDNAを同時に解析する出生前のトリオ全エクソーム解析(Trio-ES)の導入が進んでいます。従来の核型分析やCMAでは原因が特定できないケースが多い中、超音波異常を伴う胎児への第一選択としてTrio-ESを行うと診断率が高まることが報告されており、RERE遺伝子による重い心臓・脳の異常が出生前に同定される例も増えています[7]。羊水検査やCMAについては、学会の指針で原則として超音波での構造異常がある場合などが対象とされている点にも留意が必要です。

7. 治療・療育・遺伝カウンセリング

RERE遺伝子の変化による病気を根本から治す治療法は、現時点では確立されていません[2]。そのため医療の目的は、生活の質(QOL)を最大限に高め、合併症による命のリスクを避け、お子さんが持つ力を最大限に引き出すための対症療法と、早期からの多職種連携によるケアになります。

具体的には、心臓に対しては小児循環器科による定期的な心エコー監視と、必要に応じた外科的修復が行われます。てんかんには脳波に基づいた抗てんかん薬が用いられ、点頭てんかんにはACTH療法が検討されることもあります。眼や耳には年1回以上の定期評価を行い、視覚が育つ時期を逃さないよう眼鏡の処方や早期の補聴器導入が検討されます[2]。全身の筋緊張低下や運動・摂食の遅れに対しては、理学療法(PT)・作業療法(OT)・言語聴覚療法(ST)といった早期からのリハビリ(療育)がとても重要です。言葉の表出が難しい場合は、絵カードやタブレットを用いた代替・拡大コミュニケーション(AAC)の導入が、自己表現を助け、フラストレーションからくる行動を和らげるのに役立ちます[2]

将来に向けては、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを使った遺伝子の補充や、ゲノム編集、アンチセンスオリゴヌクレオチドなどの次世代治療の基礎研究が始まっています。REREは発生のごく早い時期に働く因子のため、生後からの介入でどこまで回復が見込めるかは未知数ですが、こうした前臨床研究が将来の可能性を広げると期待されています[2]

遺伝カウンセリングと再発リスク

診断が確定した場合、もっとも大切なプロセスの一つが臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングです。NEDBEHの大部分はお子さんで初めて生じた新生突然変異(de novo)のため、ご両親が次のお子さんを妊娠した際の再発リスクは一般集団とほぼ同じ(1%未満)と説明されます。ただし、親の生殖細胞の一部にだけ変異が存在する「生殖細胞系列モザイク」の可能性は完全には否定できないため、次子への出生前診断という選択肢も提示されます[2]

一方、1p36欠失症候群の場合は、約20%のケースで親の一方が「均衡型転座」の保因者であることがあり、この場合は次子への再発リスクが大きく上がるため、両親の染色体検査が強くすすめられます。RERE関連疾患か1p36欠失かで再発リスクの考え方が変わるため、どの検査でどう診断されたかを正確に整理することが、その後の選択にとても重要です。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「私のせいでは」と悩むご家族へ】

障害のあるお子さんを授かったご両親は、しばしば「妊娠中の食事やストレス、年齢のせいだったのでは」と強い自責の念に苦しまれます。けれど、新生突然変異は誰の細胞分裂でも起こりうる、まったくの偶然です。私は成人領域で遺伝性のがん(HBOCやリンチ症候群)のカウンセリングを重ねてきましたが、そこでもご本人が「自分の生活習慣のせいだ」と思い込んでしまう場面に何度も立ち会いました。遺伝の問題は、生活の責任とは別の次元にあります。

臨床遺伝専門医がまずお伝えしたいのは、「これはランダムなエラーであり、あなたのせいではありません」という科学的な事実です。私たちは特定の検査や選択を「おすすめ」する立場ではなく、正確な情報を中立にお渡しし、決定はご家族に委ねます。誤解と自責をほどくことが、前を向いてケアに専念するための第一歩になると、遺伝カウンセリングの現場で感じています。

8. よくある誤解

誤解①「遺伝病だから親も同じはず」

RERE関連疾患の多くは、ご両親に変化がなくお子さんで初めて生じた新生突然変異(de novo)です。家族歴がない症例が大半を占めるため、「遺伝病=親から受け継いだもの」とは限りません。

誤解②「NIPTで陽性=確定」

NIPTはあくまでスクリーニング検査です。陽性の場合は、羊水検査+CMAやWESによる確定診断が必要になります。陽性結果はパニックの理由ではなく、次のステップを相談するきっかけと考えてください。

誤解③「微小欠失は高齢妊娠だけのリスク」

1p36欠失などの微小欠失は、母体の年齢に関係なくランダムに起こります。トリソミーとは発生の仕組みが異なり、若い妊婦さんでも起こりうる点が大切なポイントです。

誤解④「症状は全員同じ」

NEDBEHは表現型の幅がとても大きい病気です。同じ遺伝子の変化でも、軽度の方から重度の方まで幅広く、合併する臓器の症状も人によって異なります。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【一本の根から枝分かれする物語を読み解く】

RERE遺伝子の研究は、「染色体の大きな欠失の中で、どの遺伝子が症状の引き金なのか」を分子レベルで突き止めた、現代遺伝学の美しい成果の一つだと、私は感じています。1p36という最も頻度の高い微小欠失の重い症状を、たった一つの遺伝子のハプロ不全が説明し得る――この発見は、検査結果の意味づけや予後の見通しを、ぐっと精密にしてくれました。

同時に、表現型の幅がとても広いこの病気では、「出生前に見つけることが常に利益になるとは限らない」という慎重さも必要です。臨床遺伝専門医の役割は、特定の検査や選択を勧めることではなく、分子の言葉を分かりやすく翻訳し、ご家族が納得して選べるよう中立に伴走することだと考えています。このページが、RERE遺伝子という「指揮者」を理解する一助になれば幸いです。

よくある質問(FAQ)

Q1. RERE遺伝子の変化は遺伝しますか?親も検査が必要ですか?

RERE関連疾患(NEDBEH)の多くは、ご両親に変化がなくお子さんで初めて生じた新生突然変異(de novo変異)です。この場合、次のお子さんの再発リスクは一般集団とほぼ同じ(1%未満)と説明されます。ただし生殖細胞系列モザイクの可能性は完全には否定できないため、希望に応じて次子の出生前診断を選択できます。1p36欠失症候群の場合は親が均衡型転座の保因者であることがあり、その際は両親の染色体検査がすすめられます。詳しくは臨床遺伝専門医にご相談ください。

Q2. NEDBEHと1p36欠失症候群はどう違うのですか?

NEDBEHはRERE遺伝子そのものの変化(点変異など)が原因の病気で、1p36欠失症候群はRERE遺伝子を含む染色体の一部がまとめて失われる病気です。RERE遺伝子は1p36の近位責任領域の中心にあり、1p36欠失症候群の重い症状の多くはREREのハプロ不全が主要な原因(ドライバー)と考えられています。そのため両者の症状は大きく重なりますが、検査方法(点変異はWES、欠失はCMA)や再発リスクの考え方が異なります。

Q3. NIPTでRERE遺伝子やNEDBEHを調べられますか?

出生前のスクリーニングとして、NIPTで1p36欠失を含む微小欠失を調べることができます。さらに、単一遺伝子疾患まで対象を広げたインペリアルプラン(154遺伝子・218疾患)にはRERE遺伝子も含まれています。ただしNIPTは確定診断ではなくスクリーニング検査であり、陽性の場合は遺伝カウンセリングを経て羊水検査・絨毛検査とCMAなどによる確定診断へ進みます。

Q4. CHARGE症候群と診断されましたが、RERE遺伝子の検査は必要ですか?

CHARGE症候群の主な原因はCHD7遺伝子ですが、診断基準を満たすのにCHD7に病的バリアントが見つからない方がいます。そのような「CHD7陰性のCHARGE症候群が疑われる方」では、RERE遺伝子(特にアトロフィン1ドメインの変異)の検査を検討することがすすめられています。RERE遺伝子の特定の重複変異はCHARGE症候群に似た像を示すことが知られています。詳しくは臨床遺伝専門医にご相談ください。

Q5. RERE関連疾患に治療法はありますか?

現時点で根本的に治す治療法は確立されていません。医療の中心は、心臓・てんかん・眼・耳などの合併症に対する対症療法と、理学療法・作業療法・言語聴覚療法といった早期からの療育です。将来的にはAAVベクターによる遺伝子補充やゲノム編集などの基礎研究が進められていますが、まだ研究段階です。一人ひとりの症状に合わせた多職種連携のケアが、生活の質を高めるうえで最も大切なアプローチです。

Q6. 同じRERE遺伝子の変化なのに、症状が軽い人と重い人がいるのはなぜですか?

変異の「タイプ」と「場所」によって症状が変わるためです。タンパク質が作られなくなる機能喪失型変異では神経症状が中心になりやすい一方、アトロフィン1ドメインのミスセンス変異はドミナントネガティブ効果により、眼・心臓・腎臓・難聴を伴う多臓器の症候群を起こしやすいことが報告されています。加えて、表現型の幅(個人差)がもともと大きい病気であることも、軽症から重症まで多様になる理由です。

Q7. RERE遺伝子は他のどんな遺伝子と関係がありますか?

REREは別名アトロフィン2(ATN2)と呼ばれ、アトロフィン1(ATN1)とよく似た構造を持つ「アトロフィンファミリー」の一員です。発生の場面ではレチノイン酸シグナルやHDAC(ヒストン脱アセチル化酵素)と協力して働き、CHD7とも近い経路で発生を調節していると考えられています。1p36領域では、心筋症に関わるPRDM16、てんかんに関わるKCNAB2などの隣接遺伝子とともに症状を形づくることがあります。

🏥 RERE遺伝子・出生前診断のご相談

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参考文献

  • [1] RERE gene. MedlinePlus Genetics, U.S. National Library of Medicine. [MedlinePlus]
  • [2] RERE-Related Disorders. GeneReviews®, NCBI Bookshelf (NBK538938). [GeneReviews NBK538938]
  • [3] Neurodevelopmental Disorder With or Without Anomalies of the Brain, Eye, or Heart (NEDBEH); OMIM #616975. Online Mendelian Inheritance in Man, Johns Hopkins University. [OMIM 616975]
  • [4] Fregeau et al. De Novo Mutations of RERE Cause a Genetic Syndrome with Features that Overlap Those Associated with Proximal 1p36 Deletions. Am J Hum Genet. 2016. [PubMed 27087320]
  • [5] Jordan et al. Genotype–phenotype correlations in individuals with pathogenic RERE variants. Hum Mutat. 2018. [PubMed 29330883]
  • [6] RERE, Arginine-Glutamic Acid Dipeptide Repeats; OMIM *605226. Online Mendelian Inheritance in Man, Johns Hopkins University. [OMIM 605226]
  • [7] RERE-related neurodevelopmental syndrome. Orphanet. [Orphanet 494344]
  • [8] Neurodevelopmental disorder with or without anomalies of the brain, eye, or heart. MedlinePlus Genetics, U.S. National Library of Medicine. [MedlinePlus]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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