目次
- 1 1. 鎖骨頭蓋異形成症(CCD)とは:3大徴候と全体像
- 2 2. 原因遺伝子RUNX2とハプロ不全:なぜ骨と歯に影響するのか
- 3 3. 全身にあらわれる症状:頭から足まで
- 4 4. 顎口腔の問題と歯科・矯正治療:QOLを最も左右する課題
- 5 5. 診断の進め方:臨床・画像・遺伝子検査の3本柱
- 6 6. 似ている病気との見分け方(鑑別診断)
- 7 7. 遺伝のしくみと再発リスク:常染色体顕性・de novo・モザイク
- 8 8. 出生前・出生後の検査と家族計画
- 9 9. 治療・日常管理と公的支援
- 10 10. よくある誤解
- 11 11. 臨床遺伝専門医からのメッセージ
- 12 よくある質問(FAQ)
- 13 参考文献
- 14 関連記事
鎖骨頭蓋異形成症(CCD)は、骨をつくる「司令塔」の遺伝子RUNX2の働きが半分になることで、全身の骨と歯の形成・成熟がうまく進まなくなる、生まれつきの骨の病気です。鎖骨の低形成・大泉門の開存・歯のトラブルという3つの特徴が知られていますが、知能や寿命は通常まったく正常で、適切な歯科・矯正治療と多職種のケアによって、健康な人と変わらない充実した人生を送ることができます。本記事では、原因遺伝子のしくみから診断・治療、そしてNIPTやPGT-Mといった最新の出生前・家族計画の選択肢まで、臨床遺伝専門医がやさしく解説します。
Q. 鎖骨頭蓋異形成症(CCD)とはどんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです
A. RUNX2という骨形成の司令塔となる遺伝子の働きが半分になることで、全身の骨と歯の形成・成熟が遅れる、生まれつきの骨系統疾患です。鎖骨の低形成、大泉門が長く開いたままになること、そして乳歯が抜けず永久歯が生えてこない・過剰歯が多いという歯のトラブルが3大徴候です。脳や知能への影響はなく、寿命も一般の方と変わりません。治療の中心は、生涯にわたる歯科・矯正治療と多職種チームによる管理です。
- ➤病気の正体 → RUNX2のハプロ不全(働きが半分)で骨・歯の形成が遅れる常染色体顕性遺伝の骨の病気
- ➤3大徴候 → 鎖骨の低形成・無形成/大泉門の開存/多発過剰歯と永久歯の萌出不全
- ➤知能と寿命 → 中枢神経への直接の影響はなく、知的発達も寿命も正常に保たれる
- ➤診断 → 特徴的な見た目・X線所見+RUNX2遺伝子解析の3本柱で確定する
- ➤遺伝と検査 → 親に所見がない新生突然変異の例も多い/出生前はNIPT・確定検査、家族計画ではPGT-Mも選択肢
1. 鎖骨頭蓋異形成症(CCD)とは:3大徴候と全体像
鎖骨頭蓋異形成症(Cleidocranial dysplasia:CCD)は、全身の骨づくりが全体的にゆっくりとしか進まないことを基本とする、まれな骨系統疾患です[1]。1898年にフランスの医師ピエール・マリーとポール・サントンによって「遺伝性鎖骨頭蓋異骨症」として初めて詳しく記載されました。以来、①頭蓋骨の縫合(つなぎ目)がなかなか閉じない、②鎖骨が小さい・あるいは無い、③歯の発生と生え変わりに強い異常があるという古典的な3つの徴候を中心とする病気として、世界中で知られています。
発症頻度は世界的におよそ100万人に1人と推定されています。ただし症状の強さには非常に大きな個人差があり、3大徴候がそろう典型例から、骨の異常をほとんど伴わず歯の異常だけが目立つ軽症例まで、連続的に分布しています。軽症だと見過ごされることもあるため、本当の患者数は推定値より多い可能性があると考えられています。人種・民族・性別による発症頻度の明らかな偏りは報告されていません。
💡 用語解説:骨系統疾患(こつけいとうしっかん)
骨や軟骨の形・大きさ・かたさ・成長のしかたに、生まれつきの異常が生じる病気の総称です。背の高さや手足の比率、頭の形などに影響が出ます。CCDはそのなかでも、命に関わることは少なく、骨と歯のかたちづくりが「ゆっくり・不十分」になるタイプに分類されます。同じ骨系統疾患でも、骨が極端に弱くなる骨形成不全症や、命に関わるタナトフォリック骨異形成症とは、経過も予後も大きく異なります。
大切なのは、これだけ全身の骨に広く影響が及ぶにもかかわらず、脳や中枢神経そのものには直接の障害が起こらないという点です。難聴をきちんと管理すれば、知的発達・認知機能・運動の発達は正常に経過します。つまりCCDの医療の最大の目標は「命を守ること」ではなく、生涯にわたる生活の質(QOL)をいかに高く保つかに集約されます。
2. 原因遺伝子RUNX2とハプロ不全:なぜ骨と歯に影響するのか
🔍 関連記事:RUNX2遺伝子の役割/転写因子とは/ハプロ不全とは
CCDの主な原因は、第6染色体短腕(6p21)にあるRUNX2遺伝子(別名CBFA1)の片方のコピーに生じる病的な変化です[3]。RUNX2は、まだ役割の決まっていない幹細胞を「骨をつくる細胞(骨芽細胞)」へと変身させ、さらに軟骨が骨に置き換わる過程も細かく調整する、いわば骨づくりの「マスター(司令塔)遺伝子」です。I型コラーゲンやオステオポンチンといった、骨の土台となるタンパク質をつくる指示も、RUNX2が出しています。
💡 用語解説:転写因子(てんしゃいんし)
遺伝子という「設計図」の、どのページを・いつ・どれだけ読み出すかを決めるスイッチ役のタンパク質です。RUNX2は骨に関わる多数の遺伝子のスイッチをまとめてオンにする「親方スイッチ」のような存在で、これがうまく働かないと、骨づくりの現場全体が指示待ちで止まってしまいます。RUNX2は、DNAに結合する中心部分「runtドメイン」など、いくつかの機能パーツからできており、CCDで見つかる変化の多くはこのrunt部分に集中しています[4]。
CCDが起こる中心的なしくみは「ハプロ不全」です。私たちは同じ遺伝子を父と母から1つずつ、合計2コピー受け継ぎます。RUNX2の片方が壊れて働かなくなると、残り1コピーが正常でも、つくられるタンパク質はおよそ半分。骨と歯を正常につくるにはこの半分では足りず、結果として全身の発達異常が連鎖的に起こります。
RUNX2の働きが半分になると、骨をつくる細胞の準備が間に合わず、頭の骨・鎖骨・歯という、本来この遺伝子に最も依存している部位から順に影響が現れます。
変異のタイプと症状の強さの関係
RUNX2の変化には、1つのアミノ酸が別のものに置き換わるミスセンス変異、設計図の読み枠がずれてしまうフレームシフト変異、タンパク質が途中で打ち切られるナンセンス変異など、いくつかの種類があります。一般に、タンパク質の構造を大きく壊すフレームシフトやナンセンス変異は症状が強く出やすい傾向があり、働きが部分的に残るタイプの変化では、骨の異常を伴わず歯の異常だけの軽症型になることもあります[4]。
💡 用語解説:ミスセンス変異・フレームシフト変異
遺伝子はA・T・G・Cという4文字が3つ1組(コドン)でアミノ酸を指定する「文章」のようなものです。ミスセンス変異は1文字が変わって別のアミノ酸に置き換わる「誤字」、フレームシフト変異は文字が増減して以降の読み方が全部ずれてしまう「読み枠のずれ」です。
どの種類の変化かによって、できあがるタンパク質の壊れ方が変わり、症状の重さにも影響します。より詳しくはミスセンス変異の解説ページもご覧ください。
なお、臨床的・画像的に典型的なCCDでも、現在の一般的な塩基配列解析では約20〜30%でRUNX2の変化が見つからないことがあります。これらの例では、遺伝子の調節領域(プロモーターやエンハンサー)の異常や、配列解析では見えにくい大きな欠失などが関与していると考えられています。
3. 全身にあらわれる症状:頭から足まで
CCDの症状は全身に及びます。生まれたときに最も目立つのが、異常に大きく開いた大泉門と、頭蓋骨の縫合(つなぎ目)の閉じる遅れです。本来は乳児期に閉じる大泉門が、長く開いたまま残ることが少なくありません[2]。前頭部の縫合が開くと額が左右に分かれて広く平らに見え、額や頭頂部の骨が出っぱった独特の頭の形になります。
💡 用語解説:大泉門・ウォルム骨
大泉門は、赤ちゃんの頭のてっぺん前方にある、骨と骨のすき間(やわらかい部分)です。通常は生後1歳半ごろまでに閉じますが、CCDでは閉じが大きく遅れたり、生涯開いたまま残ることがあります。ウォルム骨(縫合間骨)は、開いた縫合の中にできる、独立した小さな骨のかけらのことで、X線で多数見られるとCCDを強く示唆する所見です。
病名の由来となった鎖骨の異常は、最も象徴的な所見です。鎖骨は、完全に欠けてしまう無形成から、部分的な欠損、外側を中心とした低形成まで、さまざまな程度を示します。両肩を胸の前で極端に近づけられるという特徴的な動きができるのは、この鎖骨の異常のためです。胸郭は上が細い釣鐘のような形になり、肩甲骨の低形成も加わって、全体に「なで肩」の体型になります。
部位別にみる主な所見
手足では、全体に短く先細りの指(短指症)が見られ、X線では中手骨の偽骨端核や、指の中節骨の円錐状の骨端が特徴的です。骨盤では恥骨結合が大きく開き、大腿骨では「シェフの帽子(コック帽)」に似た形が見られることがありますが、これはCCDを示唆する所見ではあるものの、CCDだけに特有のものではありません。低身長は中等度(同年代より低い程度)にとどまり、致死的な骨系統疾患のような極端な低身長とは区別されます。骨の質も低下しやすく、若い年代から骨粗鬆症や骨減少症を高頻度に認め、軽い外力で骨折を経験することもあります。
見落とせない全身の合併症
顔の中央部(中顔面)の発育が弱く副鼻腔が育ちにくいこと、胸郭が狭いことが重なり、反復する副鼻腔炎・中耳炎、慢性的な鼻づまり、気道感染への弱さが生じやすくなります。とくに中耳炎を放置すると伝音性難聴につながり、ことばの発達の遅れを招くおそれがあるため注意が必要です。また気道が狭いことから、閉塞性睡眠時無呼吸(OSAS)を合併することもあります。CCDの女性が出産を迎える際は、母体の狭い骨盤と胎児側の頭の形が組み合わさり、児頭骨盤不均衡が起こりやすく、帝王切開になる割合が高いことも知られています。
4. 顎口腔の問題と歯科・矯正治療:QOLを最も左右する課題
🔍 関連記事:部分性無歯症(過剰歯・歯牙異常)NGSパネル/RUNX2遺伝子
鎖骨や頭蓋骨の異常が大きな機能障害を起こすことは少ない一方で、歯と顎の問題は、咀嚼や見た目に直結し、生涯にわたるQOLに最も大きく影響します。CCDの歯の問題は、大きく2つあります。1つは「乳歯がなかなか抜けず、後ろに控えた永久歯が生えてこない」こと。もう1つは「本来より多くの歯(過剰歯)が顎の中に多数つくられる」ことです。
永久歯が生えてこないのは、本来なら永久歯が出る前に溶けて吸収されるはずの乳歯の根が、吸収に抵抗する特殊なセメント質に覆われてしまい、いつまでも残ってしまうためと考えられています。さらに永久歯側も歯を押し上げる力が弱く、二重に「生えにくい」状況が生まれます。多数の過剰歯は上の前歯や下の小臼歯のあたりに集まりやすく、無秩序な奇形歯ではなく本来の歯に似た形(補充歯)であることが特徴です。
💡 用語解説:過剰歯・埋伏歯・萌出(ほうしゅつ)
過剰歯は、本来の本数より多くつくられる余分な歯です。埋伏歯は、生えずに顎の骨の中に埋まったままの歯、萌出は歯が歯ぐきから出てくることを指します。CCDでは、過剰歯が物理的な「ふた」になり、本来の永久歯の萌出を妨げてしまうことが大きな問題になります。
自然に生えるのを待つだけの様子見では、CCDの歯はまず萌出しません。そのため現代では、残った乳歯や過剰歯を計画的に外科的に抜き、埋まった永久歯を外科的に開窓したうえで、矯正の力でゆっくり引っぱり出すという、外科と矯正を組み合わせた統合的アプローチが世界的な標準です。代表的な治療の考え方には、永久歯の根の成長に合わせて段階的に手術を重ねる方法、できるだけ手術回数を減らすため一度にまとめて抜歯する方法、その中間として2回の手術ステージに分ける方法などがあり、年齢・歯の発達段階・体への負担への耐えやすさを総合して選ばれます。近年は歯科用CT(CBCT)や矯正用アンカースクリューの併用で、より確実な治療が可能になっています。
5. 診断の進め方:臨床・画像・遺伝子検査の3本柱
CCDの診断は、①特徴的な見た目・体つきの確認、②全身の骨X線などの画像評価、③RUNX2遺伝子の解析、という3本柱で進みます。画像で診断を強く支持するのは、鎖骨の低形成・欠損、大きく開いた大泉門と多数のウォルム骨、そして歯科パノラマX線でみえる多数の埋伏永久歯と過剰歯の組み合わせです[2]。
最終的な確定診断は、血液からDNAを取り出してRUNX2を調べる遺伝子解析です。まず全エクソンと隣接領域を読む塩基配列解析を行い、これで臨床的にCCDとされる方のおよそ70〜80%で病的な変化が見つかります。配列解析で見つからない場合は、エクソンや遺伝子全体の大きな欠失・重複(量の変化)を見るMLPAやマイクロアレイ(CMA)に進み、さらに約15%で原因が同定されます。これらをすべて行っても5〜15%では原因が特定できず、未知の調節領域の変化などが関与すると考えられています。
💡 用語解説:塩基配列解析とコピー数解析(MLPA・CMA)
塩基配列解析は遺伝子の文字を1つずつ読んで「誤字」を探す検査、コピー数解析(MLPA・CMA)は遺伝子のかたまりが「丸ごと欠けている/増えている」という量の変化を見つける検査です。配列解析だけでは大きな欠失を見逃すため、陰性のときはコピー数解析を追加することが、CCDの診断では大切な手順になります。
6. 似ている病気との見分け方(鑑別診断)
CCDに似た骨や歯の所見を示す遺伝性疾患はいくつかあり、正確に見分けることが、予後の予測・適切な医療計画・正しい遺伝カウンセリングにつながります。代表的な鑑別疾患を整理します。
なかでも「頭頂孔を伴うCCD(PFMCCD)」は、頭と鎖骨の所見がCCDとよく似ますが、原因はMSX2遺伝子の中で起こるフレームシフト変異であり、RUNX2が原因の古典的CCDとは別の病気です[5]。歯の異常を伴わない点が、見分ける重要な手がかりになります。逆に、CCDの典型像に重い知的障害や多発奇形が加わり、RUNX2解析で異常が見つからないときは、6p21周辺を巻き込む染色体の構造異常を疑い、核型検査も検討されます。
また、同じRUNX2の変化でも、特殊なタイプでは上顎低形成を伴う骨幹端異形成症(MDMHB)という、CCDとは表現型が異なる関連疾患を引き起こすことが知られています。同じ遺伝子でも変化の種類により別の病像になりうる、という点でも興味深い疾患です。
7. 遺伝のしくみと再発リスク:常染色体顕性・de novo・モザイク
CCDは常染色体顕性遺伝(じょうせんしょくたいけんせいいでん/旧称:優性遺伝)の形をとります。罹患している親から子へ変化したRUNX2が伝わる確率は、1回の妊娠ごとに50%です。一方で、臨床で診断される患者さんの少なくない割合は、両親に所見も遺伝子変化もない「新生突然変異(de novo変異)」で発症する、家族歴のない例です。
💡 用語解説:常染色体顕性遺伝(優性遺伝)と新生突然変異
常染色体顕性遺伝は、2つあるコピーのうち片方が変化しているだけで症状が出るタイプの遺伝形式です(以前は「優性遺伝」と呼ばれていました)。新生突然変異(de novo変異)は、親には無く、その子で初めて生じた変化のことです。
ここで遺伝カウンセリング上とても大切なのが、「見かけ上のde novoでも、次のお子さんの再発リスクは厳密にはゼロと言い切れない」という点です。親の血液検査が陰性でも、精子や卵子の一部にだけ変化が潜む生殖細胞系列モザイクの可能性があるためです。見かけ上の新生変異のうち一定割合が、実は親のモザイクに由来することが近年の研究で示されており、再発リスクの「個別評価」が重視されるようになっています。
8. 出生前・出生後の検査と家族計画
🔍 関連記事:NIPTトップ/インペリアルプラン/羊水・絨毛検査/遺伝カウンセリングとは
検査は「出生前」と「出生後」で目的も方法も異なります。混同しないよう、分けて理解することが大切です。なお前提として、CCDは知能・寿命が保たれる予後良好な疾患です。出生前に見つけることが常に必要・有益とは限りません。検査を受けるかどうか、結果をどう受け止めるかは、情報を十分に理解したうえで、ご家族が主体的に決めることです。
出生後にCCDが疑われた場合、当院ではRUNX2を含む遺伝子パネルで原因を調べることができます。RUNX2は、歯の異常を中心に調べる部分性無歯症NGSパネルや、頭蓋の発生に関わる遺伝子を調べる頭蓋骨縫合早期癒合症NGSパネルに含まれており、CCDの歯・頭蓋の所見と相性のよい検査です。
NIPTで単一遺伝子疾患を調べる時代へ
かつてのNIPT(非侵襲的出生前検査)は、ダウン症などの「染色体の数の異常」を調べるものでした。しかし技術の進歩により、近年は特定の単一遺伝子の変化(モノジェニック)まで母体血で評価できる検査が実用化されています[6]。妊娠10週ごろから母体の血液を用いて実施でき、RUNX2を含む重要な単一遺伝子を高い精度でスクリーニングできるパネルが登場しています。
当院のダイヤモンドプラン(56遺伝子・30以上の疾患に関連)とインペリアルプラン(154遺伝子・218疾患)は、いずれもRUNX2を対象に含み、陽性的中率は99.9%超とされています。とくにこの方式の意義は、家系に遺伝歴がなく超音波でも早期には見つけにくい、新生突然変異による重い骨系統疾患のリスクを早い段階で拾い上げられる点にあります。
💡 ここが重要:NIPTは「確定診断」ではありません
どれほど精度が高くても、NIPTはあくまでリスクを評価するスクリーニング検査です。「高リスク(陽性)」が出ても、それが本当に胎児の病気を意味するかどうかは、絨毛検査・羊水検査などの確定診断で確かめる必要があります。妊娠の継続に関する重大な判断を、NIPTの結果だけで行ってはいけません。
NIPTで陽性となった場合、確定診断として羊水検査・絨毛検査が選択肢になります。これらには穿刺に伴うわずかな流産リスクが伴いますが、当院では互助会(8,000円)により、羊水検査費用が全額補助されます。互助会はNIPTを受ける方全員に自動的に適用される制度です。検査の前後では、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングを通じて、結果の意味と選択肢をご一緒に整理します。
着床前検査(PGT-M)という選択肢
家系内のRUNX2の変化があらかじめ判明している場合、体外受精と組み合わせたPGT-M(単一遺伝子疾患を対象とした着床前遺伝学的検査)も選択肢になります。受精後に育てた胚から将来胎盤になる部分の細胞を少量採取し、RUNX2の変化の有無を調べ、変化を受け継いでいない胚を子宮に戻す方法です。これにより、次世代への継承を妊娠前の段階で避けることができます。どの方法を選ぶかは、ご夫婦の価値観・状況をふまえ、遺伝カウンセリングのなかで一緒に考えていくものです。
9. 治療・日常管理と公的支援
現時点でRUNX2そのものを修復する根本治療はないため、CCDの医療は、生じる問題への丁寧な対症療法と予防的ケアが中心です。歯科・口腔外科・矯正歯科・整形外科・耳鼻咽喉科・小児科などが連携する多職種チームによる早期からの介入で、機能的な問題は大きく改善でき、健康な人と変わらない人生を送ることが十分に可能です[2]。
- ➤頭部の保護:大泉門が大きく開いている時期は、転倒・衝突から脳を守るため、リスクの高い活動では保護ヘルメットの着用が勧められます。激しいコンタクトスポーツは避けるのが安全です
- ➤骨の健康:若い年代から骨密度が低下しやすいため、定期的な骨密度評価と、必要に応じたカルシウム・ビタミンDの補充で骨折を予防します
- ➤耳鼻咽喉・呼吸器:反復する中耳炎には早めの対応を行い、難聴やことばの遅れを防ぎます。いびきや睡眠時無呼吸が疑われれば睡眠の検査を検討します
- ➤麻酔・周産期:気道確保が難しいことがあるため、手術時は事前の気道評価が重要です。出産時は帝王切開の可能性も視野に入れた計画的な産科管理が行われます
なお、中等度の低身長に対して安易に成長ホルモン治療を導入することは、現時点では推奨されていません。RUNX2が成長板の維持にも関わる転写因子であるため、外から成長ホルモンを加えることがかえって不利に働く可能性が理論的に懸念されるためです。
公的支援については、CCDは生命予後が通常良好であることから、成人を対象とした指定難病には単独の疾患名として登録されていません。一方、18歳未満では、重症度などの要件を満たす場合に小児慢性特定疾病の枠組みで医療費助成の対象となりうる道があります。高度で長期にわたる歯科・矯正治療が避けられないケースが多いため、診断後は医療ソーシャルワーカー等と連携し、障害者手帳や各自治体の助成制度の活用についても個別に相談していくことが重要です。
10. よくある誤解
誤解①「知能や寿命にも影響する重い病気だ」
CCDは骨と歯の病気で、脳そのものには直接の障害がありません。難聴をきちんと管理すれば、知的発達も寿命も一般の方と変わりません。見た目の特徴は目立ちますが、命に関わる病気ではありません。
誤解②「永久歯は待っていればそのうち生える」
CCDでは生え変わりのしくみ自体が止まっているため、様子見では永久歯はまず生えてきません。外科と矯正を組み合わせた計画的な治療が必要で、早めに専門医に相談することが大切です。
誤解③「親の血液が陰性なら次の子は絶対安心」
親の血液検査が陰性でも、生殖細胞系列モザイクの可能性があるため、再発リスクは厳密にはゼロと言い切れません。次のお子さんを考える際は、個別の再発リスク評価を含めた遺伝カウンセリングが役立ちます。
誤解④「鎖骨がないと運動はできない」
鎖骨の異常で肩の動きに特徴は出ますが、日常生活や多くの運動は問題なく行えます。頭部への強い衝撃を避ける配慮は必要ですが、過度に活動を制限する必要はありません。
11. 臨床遺伝専門医からのメッセージ
鎖骨頭蓋異形成症は、たった1つの遺伝子RUNX2の働きが半分になるだけで、頭から足、そして歯までこれほど広く影響が及ぶという、私たちの体が「分子の言葉」で作られていることを鮮やかに教えてくれる疾患です。劇的な見た目の特徴に最初は驚かれるかもしれませんが、知能も寿命も保たれ、適切な医療とともに歩めば、人生の可能性が狭まることはありません。
大切なのは、歯と顎の長期的な治療計画、骨や耳・呼吸器のケア、そして必要に応じた遺伝カウンセリングを、早い時期から多職種で組み立てていくことです。診断は終わりではなく、その子とご家族にとって最適なケアの出発点です。CCDや骨系統疾患、出生前診断についてお悩みがあれば、臨床遺伝専門医が在籍する当院にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
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参考文献
- [1] OMIM. #119600 Cleidocranial Dysplasia; CCD. Johns Hopkins University. [OMIM 119600]
- [2] Machol K, et al. Cleidocranial Dysplasia Spectrum Disorder. GeneReviews®, University of Washington. [NCBI NBK1513]
- [3] Mundlos S. Cleidocranial dysplasia: clinical and molecular genetics. J Med Genet. 1999;36(3):177-182. [PubMed 10204840]
- [4] Zhang X, Liu Y, Wang X, et al. Analysis of novel RUNX2 mutations in Chinese patients with cleidocranial dysplasia. PLoS One. 2017;12(7):e0181653. [PMC5524338]
- [5] García-Miñaur S, et al. Parietal foramina with cleidocranial dysplasia is caused by mutation in MSX2. Eur J Hum Genet. 2003;11(11):892-895. [Eur J Hum Genet]
- [6] Zhang J, Wu Y, Chen S, et al. Prospective prenatal cell-free DNA screening for genetic conditions of heterogenous etiologies. Nat Med. 2024;30(2):470-479. [PubMed 38253798]



