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シャルコー・マリー・トゥース病2C型(CMT2C)とは|原因遺伝子TRPV4・症状・遺伝・最新治療を遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

臨床遺伝専門医・がん薬物療法専門医・総合内科専門医。30年にわたる臨床のなかで、のべ10万人以上のご家族の切実な意思決定に伴走してきました。世界基準の遺伝子診断と遺伝カウンセリングを、終始責任をもって提供します。

📍 クイックナビゲーション

「足首から先の力が入りにくい」「声がかすれて戻らない」「息苦しさで夜に眠れない」——手足の末梢神経の病気であるはずのシャルコー・マリー・トゥース病のなかに、声帯や横隔膜まで巻き込む、少し毛色の違うタイプがあります。それがシャルコー・マリー・トゥース病2C型(CMT2C)です。原因は、細胞の内外をつなぐ「イオンチャネル」をつくるTRPV4という遺伝子の変化にあります。

この10年あまりで、CMT2Cは「原因も治療法もわからない難病」から、分子のレベルで何が起きているかが解明され、その原因を直接ねらう飲み薬の治験が始まる段階へと大きく動きました。CMT2Cがどんな病気で、なぜ声帯や呼吸に症状が出るのか、どのように診断し、どんな治療の可能性が見えてきているのか。あわせて、常染色体顕性遺伝という遺伝の形と、ご家族が知っておきたい点まで整理します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約16〜18分
🧬 軸索型ニューロパチー・イオンチャネル病
臨床遺伝専門医監修

  • CMT2Cがどんな病気で、なぜ声帯麻痺や呼吸障害が起こるのか
  • 原因遺伝子TRPV4の「機能獲得型変異」がもたらす細胞の異常
  • 同じ遺伝子が神経にも骨にも影響する、多彩な表現型のしくみ
  • 診断の決め手となる声帯・横隔膜の所見と、遺伝子検査の位置づけ
  • 原因を直接ねらう新薬ABS-0871と、治療開発の最前線
⏱️ 30秒でわかる要約

🧬Q. CMT2Cとはどんな病気ですか?

手足の末梢神経の「軸索」が変性する軸索型のシャルコー・マリー・トゥース病の一型で、四肢の筋力低下に加えて声帯麻痺や横隔膜のはたらきの低下を伴うのが特徴です。原因はTRPV4遺伝子の変化で、常染色体顕性(優性)遺伝の形をとります[1]

🩺Q. なぜ声帯や呼吸に症状が出るのですか?

声帯を動かす反回神経や、横隔膜を動かす横隔神経の軸索が変性するためです。TRPV4の変化した患者さんでは、声帯の運動障害が高い割合で報告されており、重症例では気管切開や人工呼吸が必要になることもあります[2]

🌸Q. 治療法はありますか?

現在は装具や呼吸管理などの対症療法が中心ですが、原因であるTRPV4の過剰なはたらきを抑える経口の新薬ABS-0871の治験が始まっています。まだ研究・開発段階で、一般診療で使える承認薬ではありません[11]

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CMT2Cとは——声帯と呼吸を巻き込む「軸索型」のCMT

シャルコー・マリー・トゥース病のなかでの位置づけ

シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot-Marie-Tooth disease、以下CMT)は、手足の末梢神経が徐々に障害されていく遺伝性の病気の総称です。人口のおよそ2,500人に1人にみられ、遺伝性の末梢神経疾患のなかで最も多いことが知られています。全体像はシャルコー・マリー・トゥース病(CMT)の総論で解説していますが、CMTは大きく、神経を包む「ミエリン鞘(髄鞘)」の異常が主体の脱髄型(CMT1など)と、神経細胞から伸びる電線部分「軸索」そのものが変性する軸索型(CMT2など)に分けられます。

シャルコー・マリー・トゥース病2C型(CMT2C)は、このうち軸索型に属し、常染色体顕性(優性)遺伝の形をとるタイプです[1]。手足の遠位(先端)だけでなく近位(体幹に近い部分)の筋力低下も起こしやすく、さらに声帯麻痺や横隔膜のはたらきの低下という、命にかかわりうる特徴を伴う点が、ほかの多くのCMTとの決定的な違いです[1]。この病気は、かつて遺伝性運動感覚ニューロパチー2C型(HMSN2C)とも呼ばれてきました。

🔬 用語解説:軸索型と脱髄型

神経は、電気信号を伝える「軸索」という電線と、それを包んで信号の伝わりを速くする「ミエリン鞘」でできています。ミエリン鞘が壊れるのが脱髄型(信号がゆっくりになる)、電線そのものが傷むのが軸索型(信号の強さが弱くなる)です。CMT2Cは軸索型なので、神経伝導検査では信号のスピードは比較的保たれる一方、信号の振幅(強さ)が落ちるのが典型的です。

発症年齢と重症度の幅の広さ

CMT2Cの発症年齢は、生まれたときから成人期後期まで、きわめて幅広いのが特徴です。多くの患者さんは生後早い時期に症状が出るとされますが、成人になってからゆっくり進むタイプもあります[2]。さらに、同じ家系のなかや、まったく同じTRPV4の変化を持つ患者さん同士であっても、症状の重さが大きく異なることがあります[1]

この「重症度の幅の広さ」の背景には、後で述べる不完全浸透や表現度の多様性があります。TRPV4の変化を受け継いでも症状がごく軽い、あるいはほとんど出ない人がいる一方で、同じ家系内に重い症状の人がいることも珍しくありません。この点は、後半の遺伝カウンセリングの項目で改めて触れます。

症状の特徴——足の変形から声帯麻痺、呼吸障害まで

CMT2Cの症状は、古典的なCMTの「足先から始まる左右対称の筋力低下」という枠に収まらず、より広い範囲の神経・筋を巻き込みます。以下では、運動・感覚の障害から、この病気を特徴づける声帯・呼吸の症状までを順に見ていきます。

手足の筋力低下・筋萎縮と足の変形

最も多くみられるのは、進行性の筋力低下と筋萎縮です。下腿の外側にある腓骨筋群や前脛骨筋が痩せると、つま先が上がりにくくなる下垂足(フットドロップ)や、膝を高く上げて歩く鶏歩が生じます。あわせて、凹足やハンマートゥ、内反尖足といった足の変形がしばしば認められます。TRPV4の変化を持つ患者さんを集めた報告では、何らかの足部変形が非常に高い割合でみられたとされます[3]

CMT2Cが多くのCMTと一線を画すのは、足先などの遠位筋だけでなく、肩甲帯や大腿といった近位筋の筋力低下・萎縮を高い頻度で伴う点です[2]。肩甲帯の筋が痩せると、なで肩や、肩甲骨が翼のように浮き上がる翼状肩甲がみられることがあります。この所見は、肩甲腓骨型脊髄性筋萎縮症(SPSMA)という別の病名で呼ばれてきた病態と、CMT2Cが臨床的に重なり合うことを示しています[10]。感覚の障害は運動の障害に比べて軽いことが多いものの、振動を感じる感覚や痛覚の低下、手袋や靴下をはいたような範囲の感覚のにぶさが認められ、下肢を中心に腱反射が弱くなる・消えることもあります[1]

声帯麻痺——診断上の決め手になる症状

CMT2Cの最も特徴的で、かつ生命にかかわりうる症状が声帯麻痺です。声帯を動かす反回神経や迷走神経のはたらきが低下し、声帯がうまく開閉しなくなります[4]。TRPV4の変化を持つ患者さんのコホートでは、声帯の運動障害が高い割合で報告されており、これによって声のかすれ(嗄声)、発声のしづらさ、息を吸うときのゼーゼーという音(吸気性喘鳴)が生じます[2]。重症例では、気道が狭くなるのを避けるために、若いうちから永久的な気管切開が必要になることもあります[4]

✓ ここがポイント

「手足のCMTなのに声がかすれる」という組み合わせは、数あるCMTのなかでも原因遺伝子を大きく絞り込む重要な手がかりです。声帯麻痺を伴うCMTを診たときは、TRPV4によるCMT2Cが有力な候補として浮かび上がります。

横隔膜のはたらきの低下と呼吸障害

横隔膜や肋間筋の筋力低下も、CMT2Cで生命予後を左右する重大な要素です[4]。横隔膜を動かす横隔神経の軸索が変性すると、横隔膜のはたらきが落ちて呼吸不全につながります。患者さんは、横になると息苦しくなる起座呼吸、睡眠時無呼吸、慢性的に血液中の二酸化炭素がたまる状態(高炭酸ガス血症)に陥ることがあります[4]。呼吸を助けるために、非侵襲的陽圧換気(マスク式の人工呼吸)や人工呼吸器が必要になる患者さんもいます[2]

このほか、両耳の感音難聴、膀胱がきゅっと締まる感じや尿失禁といった自律神経系の症状、まれに動眼神経や外転神経の麻痺による眼の動きの障害を合併することもあります[1]。このように、CMT2Cは末梢神経だけでなく、脳神経・呼吸器・自律神経まで巻き込む多系統の病気という顔を持っています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「声のかすれ」を神経の病気と結びつける難しさ】

手足の力の入りにくさで神経内科を受診し、一方で声のかすれは耳鼻咽喉科で診てもらう——別々の診療科にかかっているうちに、その2つが同じ病気の症状だと気づかれにくいことがあります。CMT2Cは、まさにこの「つながり」を見落とすと診断が遠回りになりやすい病気です。

遺伝性の神経疾患では、一見ばらばらに見える症状を一本の糸でつなぐ視点が診断の入り口になります。手足の症状と声帯麻痺、そして呼吸のしづらさが同じ人に重なっているとき、その背景に一つの遺伝子の変化があるかもしれない——そう考えられるかどうかが、次の一歩を大きく変えます。

原因遺伝子TRPV4——ひとつの遺伝子が神経にも骨にも

2010年、複数の国際的な研究グループが、連鎖解析や全エクソーム解析といった手法を用いて、CMT2Cの原因が第12番染色体長腕(12q24.11)にあるTRPV4という遺伝子であることを突き止めました[1]。TRPV4は、カルシウムを通しやすい「非選択的陽イオンチャネル」をつくる遺伝子です。このチャネルは、細胞にとってのセンサーのような役割を果たし、浸透圧の変化、機械的な刺激、温度、特定の脂質など、さまざまな物理的・化学的な刺激に反応して開きます。

🔬 用語解説:イオンチャネルと「チャネロパチー」

細胞の膜には、特定のイオン(電気を帯びた粒子)だけを通す「門」のような通路がいくつも埋め込まれています。これがイオンチャネルです。この門の開き方に異常が起きて生じる病気を、まとめてチャネロパチー(イオンチャネル病)と呼びます。CMT2Cは、カルシウムを通すTRPV4という門の開きすぎが原因となる、代表的なチャネロパチーの一つです。

同じTRPV4が、多彩な病気を引き起こす

興味深いことに、TRPV4の変化はCMT2Cだけを起こすわけではありません。同じ遺伝子の別の変化が、肩甲腓骨型脊髄性筋萎縮症(SPSMA)や先天性遠位型脊髄性筋萎縮症(CDSMA)といった脊髄性筋萎縮症に近い病態を起こすほか、短い体幹・脊柱側弯・骨端の異形成を特徴とするさまざまな骨系統疾患(骨格異形成症)の原因にもなります[1]。骨の側の代表例が、脊椎骨幹端異形成症 Kozlowski型です。

ひとつのイオンチャネル遺伝子の変化が、末梢神経系と骨・軟骨というまったく異なる組織に、これほど幅広い症状(アレリズム)をもたらす——このしくみは、分子細胞生物学と神経遺伝学における重要な研究テーマとなっています。どの部位にどんな症状が出るかは、変化が起きるTRPV4の「場所」と、その変化がチャネルの機能にどれだけ影響するかによって決まってくることがわかってきました[1]

変異の場所と症状の対応(遺伝子型-表現型相関)

TRPV4のタンパク質は、細胞の内側に大きく張り出した「アンキリンリピートドメイン(ARD)」という領域と、細胞膜を貫く「膜貫通ドメイン(TMD)」などから構成されます。CMT2Cなどの神経の病気を起こすミスセンス変異の多くは、このARDに集中しています[1]。下の表は、代表的な変異と症状のおおまかな対応をまとめたものです。

表1:代表的なTRPV4変異と主な症状のタイプ

変異(例) タンパク質の領域 主に起こる症状のタイプ
R269C / R269H アンキリンリピート(ARD) 典型的な神経の病気(CMT2C・SPSMA)
R232C / R315W / R316C アンキリンリピート(ARD) CMT2C・SPSMAおよびその混合型
S542Y 膜貫通ドメイン(TMD) 重い神経の病気+著しい低身長
R616Q 膜貫通ドメイン(TMD) 骨系統疾患(骨格異形成症)

※おおまかな傾向であり、同じ変異でも症状の重さには幅があります。

アンキリンリピートに集まるアルギニン(R)というアミノ酸の変異(R269C、R315Wなど)は、主に末梢神経の障害(CMT2CやSPSMA)を起こします[1]。一方、S542Yのように膜貫通ドメインやその近くの変異では、神経と骨格の両方に重い障害をもたらす混合型が起こりやすいことが知られています[4]。研究では、細胞の中に流れ込むカルシウムの基礎的な増え方が大きいほど、症状が重く、発症も早まる傾向が示されています[5]

病態のしくみ——「機能獲得」で起こるカルシウム過剰

TRPV4の変化がどのように神経を傷めるのか、その分子のしくみは、ここ数年で大きく解明が進みました。ここは少し専門的になりますが、後で述べる新しい治療の考え方に直結する、重要な部分です。

🔬 用語解説:機能獲得型変異とは

遺伝子の変化には、はたらきを失わせる「機能喪失型」と、逆に本来より過剰にはたらかせる「機能獲得型(ゲイン・オブ・ファンクション)」があります。CMT2Cを起こすTRPV4の変異は、そのほぼすべてが機能獲得型です。チャネル(門)が開きっぱなしに近い状態になり、カルシウムが細胞に流れ込みすぎてしまうのが病気の出発点です[6]

カルシウムの流れ込みすぎから軸索の崩壊へ

変化したTRPV4チャネルは、細胞膜の上に正しく配置されてはいるものの、静かなときでも開いている確率が高く、構成的(絶えず開きっぱなしに近い状態)に活性が高まっています[6]。その結果、細胞の外から中へカルシウムが過剰に流れ込みます。神経細胞のなかでカルシウムが増えすぎた状態が続くと、カルシウムに依存してはたらく分解酵素「カルパイン」が異常に活性化し、軸索の骨組みであるニューロフィラメントや微小管を切断・分解して、軸索の構造が物理的に壊れていきます[6]

さらに、過剰なカルシウムを処理しようとするミトコンドリアにも異常が生じます。研究では、CaMKII(カルシウム・カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII)という酵素を介する経路によって、ミトコンドリアを軸索の中で運ぶしくみ(軸索輸送)が妨げられることが示されています[7]。長い軸索を持つ運動神経では、ミトコンドリアの輸送が滞ると遠位でエネルギーが枯渇し、末端から神経が退いていく「dying-back(遠位からの軸索退縮)」が進むと考えられています[7]

図1:CMT2Cで神経が傷むまでの流れ

TRPV4変異

機能獲得型

カルシウム過剰

流れ込みすぎ

輸送・骨格の障害

ミトコンドリア・軸索

軸索の変性

遠位から退縮

血管の細胞から神経が傷む——非細胞自律的なしくみ

近年の非常に重要な発見として、TRPV4の変化による運動神経の変性が、神経細胞そのものの欠陥だけでなく、神経の外側にある血管の細胞を起点に「非細胞自律的」に起こりうることが、動物モデルで示されました[8]。研究チームは、CMT2Cを起こすR269C・R232C変異をマウスのTRPV4遺伝子に導入したモデルを作りました。このマウスは早期に亡くなったり、運動神経が減っていく症状を示したりしましたが、驚くことに、変異TRPV4を神経細胞やグリア細胞から取り除いても症状は改善せず、血管の内皮細胞から取り除いたときにだけ、劇的に改善したのです[8]

血管内皮細胞でTRPV4が過剰にはたらくと、細胞どうしをつなぐ結合の構造が乱れ、脳・脊髄と血液を隔てる関門である血液脊髄関門(BSCB)の一部が壊れて漏れやすくなります[8]。この関門が壊れると、血液中の有害な物質が神経の組織に流れ込み、周囲の環境の悪化を通じて二次的に運動神経の細胞死が誘導されると考えられています。実際、全身にTRPV4を抑える薬を投与すると、この関門の機能が回復し、マウスの運動障害や早期死亡が大きく改善しました[8]。この事実は、血管のバリア機能を標的にした治療という新しい方向性を、強く後押しするものです。

RhoAという「重し」が外れると門が開く

クライオ電子顕微鏡という最新の構造解析技術によって、TRPV4がどのように開閉するのか、その立体的なしくみも原子レベルで見えてきました[9]。TRPV4のアンキリンリピートドメインには、細胞骨格を制御する低分子GTアーゼ「RhoA」が結合しています。RhoAがくっついているとき、TRPV4の細胞内部分の動きが立体的に制限され、チャネルは閉じた状態に安定します。いわばRhoAは、門が開きすぎないように抑える「重し」の役割を果たしているのです[9]

ところが、CMT2Cを起こすアンキリンリピート上の変異は、このRhoAとの結合面を物理的に壊してしまいます[9]。重しが外れることで、TRPV4は容易に開いた状態へ移りやすくなり、カルシウムが流れ込みます。これまで見てきた「カルシウム過剰」の根っこには、このRhoAという重しが外れるという構造上の変化があったわけです。こうした構造の理解は、次に述べる薬の設計の確かな土台になっています。

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診断と鑑別——検査の組み合わせで確定する

CMT2Cの診断は、家族歴のていねいな聴取、神経学的な診察、電気生理学的検査、そして確定診断としての遺伝子検査を組み合わせて行います。とくに声帯麻痺や呼吸障害という「手がかり」があるかどうかが、鑑別を大きく左右します。

神経伝導検査と喉頭・横隔膜の評価

神経伝導検査では、運動神経の伝わるスピード(伝導速度)は正常範囲にとどまるか軽度の低下にとどまる一方、信号の振幅(複合筋活動電位や感覚神経活動電位の大きさ)が著しく低下し、軸索の障害であることが示されます[2]。針筋電図では、神経が失われて再びつながり直す慢性の変化が確認されます。呼吸障害のある患者さんでは、横隔神経を刺激する検査で信号の振幅が低下しており、横隔膜の針筋電図の異常とあわせて、横隔神経の軸索変性が確認されます[4]。声帯については、喉頭鏡検査で声帯の開閉のはたらきの低下を直接見ることができます[4]

遺伝子検査と、鑑別すべき病気

現在では、複数の原因遺伝子をまとめて調べるCMTの遺伝子パネル検査や、より広く調べるクリニカルエクソーム検査が診断の柱です。TRPV4は、声帯麻痺を伴う神経筋疾患を対象とする遠位型遺伝性運動ニューロパチーの検査脊髄性筋萎縮症の検査にも含まれています。実際、TRPV4の変化は「純粋なCMT2」よりも、声帯麻痺や骨格の異常を伴うタイプで見つかりやすいことが、フランスの169人のコホート研究で示されています[2]

軸索型CMTのなかで最も頻度が高いのは、ミトコンドリアの融合にかかわるMFN2遺伝子によるCMT2Aです[2]。しかし、重い声帯麻痺や横隔膜麻痺を伴う場合、鑑別すべき病気は大きく絞られます。声帯麻痺を伴うCMTとしては、TRPV4によるCMT2Cのほかに、GDAP1遺伝子によるCMT4A/CMT2Kが重要です。GDAP1による病気は常染色体潜性(劣性)遺伝をとることが多く、四肢の広範な筋力低下が進んで車椅子生活になった後に声帯麻痺が遅れて現れる傾向があります。一方でTRPV4によるCMT2Cでは、手足の症状が比較的軽い段階から、あるいは小児期の早期から声帯麻痺や呼吸障害が先に現れることがあり、両者を見分ける手がかりになります[4]

最新の治療——対症療法から、原因をねらう新薬へ

現在のCMT2Cの標準的な治療は、症状をやわらげる対症療法が中心です。足の変形に対する装具や整形外科的な処置、呼吸不全に対する人工呼吸の管理、声帯麻痺に対する喉頭の手術などが行われます[2]。しかし、TRPV4が「機能獲得型変異」で病気を起こすというしくみが解明されたことで、チャネルの過剰なはたらきを抑える薬(アンタゴニスト)による治療への道が開けました。

期待される新薬ABS-0871

基礎研究では、TRPV4を抑える複数の低分子化合物が開発され、細胞やハエ・マウスの疾患モデルで、過剰なカルシウムの流れ込みや細胞毒性を抑え、運動機能の回復や血液脊髄関門の修復といった効果が示されてきました[8]。こうした前臨床データを背景に、現在最も臨床応用に近い位置にあるのが、Actio Biosciences社が開発したABS-0871です。ABS-0871は、経口投与が可能なTRPV4の阻害薬で、CMT2Cの疾患モデルで、未治療の対照群と比べて運動機能や可動性の改善を示したと報告されています[11]

このデータに基づき、米国食品医薬品局(FDA)は2024年8月、ABS-0871に対して希少疾患治療薬指定(オーファンドラッグ指定)と希少小児疾患指定を付与しました[11]。そして2025年3月には、健康な成人を対象に安全性・忍容性・薬物動態を調べる第1相試験(無作為化二重盲検プラセボ対照試験)で最初の参加者への投与が行われたことが公表されました[11]。今後、TRPV4の変化を持つCMT2C患者さんを対象とした試験へと進む計画とされています。

⚠️ 注意

ABS-0871は現在も臨床試験の段階にある開発中の薬であり、一般の診療で受けられる承認薬ではありません。有効性や安全性は、これからの試験で慎重に評価されていく段階です。

開発体制の動きと自然歴研究

治療薬開発をめぐる企業の動きも進んでいます。2026年8月、製薬企業Jazz Pharmaceuticals社が、Actio Biosciences社を買収する契約を締結したことが公表されました[12]。この買収の主目的はてんかん領域の別の候補薬でしたが、CMT2C治療薬ABS-0871を含むTRPV4プログラムは、新たに設立される独立した会社(スピンアウト企業)へ移管されることが決まり、Jazz社は少数株主として関与するとされています[12]。専門の開発体制のもとで、CMT2Cの治療開発が進められる環境が整いつつあります。

あわせて学術の分野でも、TRPV4関連ニューロパチーの患者さんを対象に、病気の進み方を定量化し、将来の臨床試験で使う評価指標(バイオマーカーや臨床スコア)を確立するための自然歴データの蓄積が進んでいます[13]。CMT2Cは、対症療法だけの難病から、原因を直接ねらう治療が視野に入る疾患へと、大きく変わろうとしている段階にあります。

遺伝と家族——常染色体顕性遺伝と再発リスク

CMT2Cは常染色体顕性(優性)遺伝の形をとります[1]。人は遺伝子を父母から1本ずつ、2本1組で受け継ぎますが、常染色体顕性遺伝では2本のうち1本に変化があれば発症しうるのが基本です。したがって、変化を持つ方から次のお子さんにその変化が伝わる確率は、妊娠ごとに原則として2分の1(50%)となります。ただし、新生突然変異(親には変化がなく、その人で初めて生じた変化)として発症する場合もあります。

🔬 用語解説:不完全浸透と表現度の多様性

変化を受け継いでも、必ずしも同じように発症するとは限りません。変化を持っていても症状が出ない・ごく軽い場合があることを不完全浸透、症状の重さや出方に幅があることを表現度の多様性と呼びます。CMT2Cでは、同じ家系・同じ変異でも重症度が大きく異なることがあり、実際にR269C変異で浸透が不完全であった家系も報告されています[2]。「変化があるから必ず重くなる」わけではない点が、見通しを考えるうえで大切です。

こうした確率や見通しは数字だけで割り切れるものではなく、ご家族一人ひとりの状況によって受け止め方も異なります。発端者(最初に診断された方)の診断が確定したら、症状の有無にかかわらずご家族の評価を検討することや、将来の妊娠に向けて着床前遺伝学的検査(PGT-M)や出生前診断といった選択肢があることなど、整理すべき論点は少なくありません。こうした点は、遺伝カウンセリングのなかで、臨床遺伝専門医と一緒に、時間をかけて考えていくことをおすすめします。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「確率」の数字だけでは決められないこと】

「子どもに伝わる確率は2分の1」という数字は、事実としては正確です。けれども、その数字をどう受け止め、これからどう生きていくかは、ご家族ごとにまったく違います。同じ50%という数字を前にしても、安心の材料にする方もいれば、重く受け止める方もいます。数字は出発点であって、結論ではありません。

不完全浸透があるCMT2Cでは、「変化があること」と「発症すること」「重症になること」は必ずしも一致しません。だからこそ、検査の結果を一人で抱え込まず、正確な情報と、これからの選択肢を一緒に並べて考える場が大切だと考えています。答えを急がず、ご家族が納得して次の一歩を選べるよう伴走することを大切にしています。

よくある質問(FAQ)

Q. CMT2Cは進行しますか?寿命に影響しますか?

多くのCMTはゆっくり進行し、生命予後に大きく影響しないことが多いのですが、CMT2Cは声帯麻痺や横隔膜のはたらきの低下という、呼吸にかかわる症状を伴う点で注意が必要です。重症例では気道や呼吸の管理が必要になることがあり、症状の程度は患者さんによって大きく異なります。定期的な呼吸機能の評価が大切です。

Q. 「手足のCMT」なのに、なぜ声がかすれるのですか?

CMT2Cでは、手足の末梢神経だけでなく、声帯を動かす反回神経の軸索も変性するためです。この「手足の症状+声帯麻痺」という組み合わせは、CMTのなかでも原因遺伝子を大きく絞り込む重要な手がかりで、TRPV4によるCMT2Cを強く示唆します。

Q. 子どもに伝わる確率はどのくらいですか?

CMT2Cは常染色体顕性(優性)遺伝の形をとり、原因となるTRPV4の変化がお子さんに伝わる確率は、妊娠ごとに原則50%です。ただし、変化を受け継いでも必ず発症するわけではなく(不完全浸透)、発症の年齢や症状の重さにも幅があります。ご家族の見通しは、臨床遺伝専門医との遺伝カウンセリングで整理することをおすすめします。

Q. なぜ同じTRPV4の変化なのに、神経の病気になったり骨の病気になったりするのですか?

変化が起きるTRPV4の「場所」と、その変化がチャネルの機能にどれだけ影響するかによって、出やすい症状が変わってくるためです。アンキリンリピートという領域の変化は主に末梢神経の病気(CMT2CやSPSMA)を、膜貫通ドメインなどの変化は骨格の異常も伴う病気を起こしやすい傾向があります。ひとつの遺伝子が、変化のタイプによって別の病気の入り口になる典型例です。

Q. 治療薬ABS-0871はもう使えますか?

いいえ、ABS-0871は現在も臨床試験の段階にある開発中の薬で、一般の診療で受けられる承認薬ではありません。2024年にFDAの希少疾患治療薬指定などを受け、2025年から健康な成人を対象とした第1相試験が始まっています。今後、患者さんを対象とした試験へ進む計画とされていますが、有効性と安全性はこれからの試験で慎重に評価されていく段階です。

Q. GDAP1によるCMTとは、どう見分けるのですか?

どちらも声帯麻痺を伴いうる点は共通しますが、GDAP1による病気は常染色体潜性(劣性)遺伝が多く、四肢の広範な筋力低下が進んで車椅子生活になった後に声帯麻痺が遅れて現れる傾向があります。一方、TRPV4によるCMT2Cは常染色体顕性遺伝で、手足の症状が比較的軽い段階から声帯麻痺や呼吸障害が先に現れることがあります。最終的には遺伝子検査で確定します。

関連記事

参考文献

  1. [1] Mutations in TRPV4 cause Charcot-Marie-Tooth disease type 2C. Nat Genet. 2010. [PMC2812627]
  2. [2] Phenotypic spectrum and incidence of TRPV4 mutations in patients with inherited axonal neuropathy. Neurology. 2014. [PubMed 24789864]
  3. [3] Autosomal Dominant TRPV4-Related Disorders. GeneReviews®. [NCBI Bookshelf NBK201366]
  4. [4] CMT2C with vocal cord paresis associated with short stature and mutations in the TRPV4 gene. Neurology. 2010. [PMC3014233]
  5. [5] TRPV4 mutations and cytotoxic hypercalcemia in axonal Charcot-Marie-Tooth neuropathies. Neurology. 2011. [PMC3059145]
  6. [6] Mutant TRPV4-mediated toxicity is linked to increased constitutive function in axonal neuropathies. J Biol Chem. 2011. [PubMed 21454511]
  7. [7] TRPV4 disrupts mitochondrial transport and causes axonal degeneration via a CaMKII-dependent elevation of intracellular Ca2+. Nat Commun. 2020. [Nat Commun 2020;11:2679]
  8. [8] Gain-of-function mutations of TRPV4 acting in endothelial cells drive blood-CNS barrier breakdown and motor neuron degeneration in mice. Sci Transl Med. 2024. [PMC11316273]
  9. [9] Structure of human TRPV4 in complex with GTPase RhoA. Nat Commun. 2023. [PMC10290124]
  10. [10] A TRPV4 mutation caused Charcot-Marie-Tooth disease type 2C with scapuloperoneal muscular atrophy overlap syndrome and scapuloperoneal spinal muscular atrophy in one family. BMC Neurol. 2023. [PMC10311707]
  11. [11] Actio Biosciences Announces First Participant Dosed in Phase 1 Clinical Trial of ABS-0871, a Novel TRPV4 Inhibitor, for the Treatment of Charcot-Marie-Tooth Disease 2C. Actio Biosciences. 2025. [Actio Biosciences]
  12. [12] Jazz Pharmaceuticals to Acquire Actio Biosciences, Expanding Rare Epilepsy Portfolio. Jazz Pharmaceuticals / PR Newswire. 2026. [PR Newswire]
  13. [13] TRPV4 neuromuscular disease registry highlights bulbar, skeletal and proximal limb manifestations. Brain. 2024. [PMC12054732]

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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