目次
📍 クイックナビゲーション
細胞が正しく2つに分かれるためには、染色体を左右へ引き分ける「引っぱりの支点」が必要です。その支点となる中心体(ちゅうしんたい)の周囲にある「中心体周辺物質(PCM)」を組み立てる主要な足場タンパク質が、PCNT遺伝子から作られるペリセントリンです。この遺伝子が両方とも壊れると、細胞分裂がうまく進まず、胎児期から極端に成長が制限される小頭骨異形成性原発性小人症II型(MOPD II)という重い病気が起こります。さらにこの病気では、もやもや病や脳動脈瘤といった血管の合併症が生命を左右することが分かってきました。本記事では、細胞分裂の基礎から重い遺伝性疾患、そして予防につながる最新の知見までを、遺伝専門医がやさしく解説します。
Q. PCNT遺伝子とは何をする遺伝子ですか?まず結論だけ知りたいです
A. PCNTは「ペリセントリン」という大きな足場タンパク質の設計図で、細胞分裂の支点となる中心体の周辺物質(PCM)を組み立てる主要な土台になります。この遺伝子が両方のコピーとも働かなくなると、細胞分裂と脳の発達が障害され、小頭骨異形成性原発性小人症II型(MOPD II)という常染色体潜性(劣性)の重い成長障害が起こります。加えて、もやもや病や脳動脈瘤などの血管障害を高い頻度で合併し、これが予後を大きく左右します。
- ➤中心体での役割 → 微小管形成の中心である中心体に、γ-チューブリンなど多数の部品をつなぎ止める足場タンパク質
- ➤MOPD IIとの関係 → PCNTの両アレル機能喪失変異によってMOPD IIを発症する。成人身長は約100cm、頭は極端に小さいが知能はほぼ正常なことが多い
- ➤血管の合併症 → もやもや病・頭蓋内動脈瘤などの血管障害が高頻度。脳卒中や若年の心筋梗塞のリスクが高い
- ➤予防の手がかり → 血管平滑筋でのコレステロール合成経路の異常が関与し、動物実験ではスタチンでプラークが減少。定期的な脳血管スクリーニングが重要
- ➤遺伝形式の要点 → 常染色体潜性遺伝で、次のお子さんが同じ病気になる確率は1回の妊娠あたり25%。保因者診断・出生前診断の選択肢がある
🧬 PCNT遺伝子の基本情報
各項目の根拠と詳しい解説は、本文の該当セクションをご覧ください。
1. PCNT遺伝子とペリセントリン ─ 中心体を組み立てる「巨大な足場」
PCNTは、Pericentrin(ペリセントリン)というタンパク質の設計図となる遺伝子です。ペリセントリンは、細胞のなかで微小管という細い管を組み立てる中心地、すなわち中心体の「周辺物質(PCM)」を組み立てる、いわば足場(あしば)の役目を担う巨大なタンパク質です。ヒトのペリセントリンは3,336個のアミノ酸からなり、分子量は約378kDaにも達します[1]。
PCNT遺伝子は21番染色体の長腕(21q22.3)にあり、約121.61kbのゲノム領域に47個のコーディングエクソンを含んでいます[2]。この場所は、ダウン症候群の原因となる21番染色体の末端に近い領域で、後の章でお話しするダウン症との意外なつながりの伏線にもなっています。
💡 用語解説:中心体と微小管
中心体(ちゅうしんたい)は、動物細胞のなかで「微小管」という細い管を放射状に伸ばす起点です。微小管は、細胞の形を支え、物を運ぶレールとなり、細胞分裂のときには染色体を左右へ引き分ける装置になります。中心体はこの微小管を束ねる司令塔で、その周りを取り囲むタンパク質のかたまりを周辺物質(PCM:Pericentriolar Material)と呼びます。ペリセントリンは、このPCMの骨組みをつくる主役の一つです。
ペリセントリンの構造には、大きな特徴が二つあります。ひとつは、タンパク質どうしが縄のように絡み合うコイルドコイルという領域を広く持つこと。もうひとつは、C末端(タンパク質の末尾側)付近に、生物種を超えて強く保存されたPACTドメインという部分を備えていることです[4]。このPACTドメインが中心体への位置決め(局在)に決定的に重要で、ペリセントリンはこの領域を使って、微小管の芽をつくる部品であるγ-チューブリン複合体など多数のタンパク質を中心体につなぎ止める、多機能な足場として働きます[4]。
PCNTはカルモジュリンというカルシウム結合タンパク質とも結合でき、また選択的スプライシング(1つの遺伝子から複数の型のタンパク質をつくり分けるしくみ)によって、組織ごとに少しずつ違う型(アイソフォーム)を生み出すことも知られています[5]。精巣・骨髄・脳の神経前駆細胞など、活発に分裂する組織で広く発現していることは、ペリセントリンが単なる一部品ではなく、生命の根幹である細胞分裂に深く関わっていることを物語っています。
2. 中心体での働き ─ 染色体を正確に分けるための「支点づくり」
🔍 関連記事:紡錘体(有糸分裂紡錘体)/ダイニン
細胞が分裂するとき、複製された染色体は2つの娘細胞へきっちり半分ずつ配られなければなりません。この配分を担うのが、中心体を両極とする紡錘体(ぼうすいたい)という装置です。ペリセントリンは、この装置の土台づくりのほぼ全過程に関わっています。
分裂期に中心体が「成熟」する
細胞が分裂期(M期)に入ると、中心体の周りのPCMは劇的に大きく広がり、微小管をつくる力を最大限に高めます。この現象を中心体の成熟と呼びます。成熟は、PLK1(ポロ様キナーゼ1)などの分裂期キナーゼがPCMのタンパク質にリン酸という目印を付けることで始まります。ペリセントリンはこのPLK1に依存した過程で成熟の口火を切り、CEP192やCDK5RAP2(CEP215)といった他のPCM部品を中心体へ呼び込む、上流の司令塔として働きます[4]。
実際、ペリセントリンが失われると紡錘体の組み立てが乱れ、染色体の分配ミス(ミスセグリゲーション)が起こることが、細胞や動物のモデルで示されています[1]。これは、後の章で述べる小頭症(脳が極端に小さくなる状態)の細胞レベルの原因に直結します。脳をつくる神経前駆細胞が正確に分裂できなければ、必要な数の神経細胞がそろわないからです。
巨大なタンパク質を効率よく届ける2つのしくみ
ここで一つの謎が生まれます。ペリセントリンは3,300個以上のアミノ酸からなる非常に大きなタンパク質で、最初から最後まで合成するには10〜20分もかかると見積もられています。ところが中心体の成熟はあっという間に進みます。どうやって、これほど大きな部品を必要な瞬間に必要な場所へ間に合わせているのでしょうか。近年、その答えとして2つの巧妙なしくみが明らかになりました。
ひとつめは翻訳同時輸送です。分裂の初期に、ペリセントリンの設計図であるmRNAは、細胞質ダイニンというモータータンパク質の力で、リボソームが結合したまま中心体へと能動的に運ばれ、中心体のすぐそばで翻訳(タンパク質合成)されます[9]。できあがってから遠くへ運ぶのではなく、「作りながら現地へ運ぶ」ことで、時間のロスをなくしているのです。
ふたつめは液–液相分離(LLPS)です。ペリセントリンのN末端(先頭側)には、先ほどのコイルドコイルに加えて「低複雑性領域」と呼ばれる配列が豊富にあり、これが多数の弱い相互作用を通じて、油が水のなかで粒になるように凝集して「ペリセントリン凝縮体」をつくります[10]。この凝縮体は、γ-チューブリンなど特定の部品を選んで濃縮し、やがて液体からゲル・固体のような足場へと性質を変えて、中心体を組み上げていきます[10]。

💡 用語解説:液–液相分離(LLPS)
液–液相分離(えきえきそうぶんり)とは、ドレッシングの油と酢が分かれるように、細胞のなかで特定のタンパク質やRNAが集まって、膜のない「液滴(りゅうてき)」をつくる現象です。中心体は膜に包まれていないオルガネラですが、この相分離のしくみによって、必要な部品だけを一か所に集め、余計な反応が細胞全体に散らばらないよう区切っていると考えられています。ペリセントリンはこの液滴づくりの主役の一つです。
この2つのしくみは、いずれも「巨大な中心体という構造を、狂いなく素早く組み立てる」ための工夫です。逆にいえば、ペリセントリンの設計図に変化が起きてこの足場が正しく作れなくなると、中心体そのものの完全性が損なわれ、細胞分裂の精度が落ちてしまいます。それがどのような病気につながるのかを、次の章で見ていきます。
3. 小頭骨異形成性原発性小人症II型(MOPD II)とは
PCNT遺伝子の両方のコピー(両アレル)が機能を失う変異を持つと、極めてまれで重い常染色体潜性(劣性)遺伝疾患である小頭骨異形成性原発性小人症II型(Microcephalic Osteodysplastic Primordial Dwarfism type II:MOPD II)が起こります[1]。MOPD IIは、胎児期から始まる重度の成長障害を特徴とする「原発性小人症(原発性低身長症)」のなかで、最も高い頻度でみられる型です[12]。
💡 用語解説:原発性小人症(原発性低身長症)
原発性小人症(げんぱつせいしょうじんしょう)とは、「原発性(primordial=生命の最初期から)」という名のとおり、胎児期から成長が制限され、生まれた後も身体各部の比率を保ったまま著しく小さいままとどまる病気の総称です。成長ホルモンの不足による低身長とは異なり、ホルモンは正常に出ていて、細胞そのものの増える力が根本的に障害されています。MOPD IIのほか、セッケル症候群、マイヤー・ゴーリン症候群などが含まれます。
MOPD IIの臨床的な特徴
MOPD IIの患者さんは、胎児期からの極端な成長遅延を示します。骨格の成熟が終わったあとでも平均身長はおよそ100cmにとどまり、頭のサイズは生後3か月の乳児と同程度と、極端に小さくなります。ところが特徴的なことに、知能はほぼ正常に近いことが多いのです[1]。中心体の完全性が損なわれると紡錘体の組み立てが妨げられ、とくに大脳皮質をつくる神経前駆細胞の分裂が滞ることが、この深刻な成長障害と小頭症の細胞レベルの原因と考えられています[1]。
骨格の面では、上肢の中間部が短くなる中間肢短縮、細い長管骨、骨端の骨化の遅れ、股関節の変形、脊柱側弯症などが多くみられます[12]。また、エナメル質の形成不全を伴う小さな歯(小歯症)や早期の歯の喪失といった重い歯牙異常、インスリン抵抗性・糖尿病、血小板が増える血液学的な異常なども、しばしば合併する所見として知られています[3][12]。実際に、10歳の中国人女児の報告では、骨年齢が実年齢より大きく遅れ(およそ7歳相当)、血小板増多が確認されています[3]。
MOPD IIの主な特徴(イメージ)
セッケル症候群との関係
かつては、似た表現型を示すセッケル症候群の一部もPCNT変異に関連すると報告されたことがありました。しかし後の研究で、セッケル症候群は主にATR・CEP63・CENPJなど、DNA損傷への応答や中心体形成に関わる別の遺伝子の変異によるものであり、PCNT変異を持つ症例は実質的にMOPD IIの表現型スペクトラムに属することが明らかになっています[4]。当院で扱う原発性低身長症NGS遺伝子パネル検査でも、PCNTはMOPD IIの主要な原因遺伝子として、ATRやRNU4ATACなどとともに評価対象に含まれています。
4. 変異のしくみ ─ どんな変化が病気を起こすのか
MOPD IIを起こすPCNTの変異は、そのほとんどが「タンパク質を途中で作れなくする」タイプです。具体的には、ナンセンス変異、フレームシフト変異、スプライス部位変異が数多く報告されています。これらはいずれも、途中で終止の合図(未熟終止コドン)を生み出し、NMD(ナンセンス変異依存mRNA分解)という監視機構で設計図が壊されるか、あるいは機能に必要な部分を欠いた短いタンパク質しか作れなくします。結果として、ペリセントリンの機能喪失が起こります。
💡 用語解説:ナンセンス変異・フレームシフト変異とは
ナンセンス変異は、遺伝子の途中に「ここで終わり」という停止の合図が突然できてしまう変化で、タンパク質が途中で切れてしまいます。フレームシフト変異は、塩基が抜けたり増えたりして読み枠がずれ、それ以降の暗号がまったく別物になってしまう変化です。どちらも、正常な長さと機能を持つタンパク質を作れなくするため、機能喪失型の変異になります。
報告された変異の例として、中国人患者で見つかった新規のホモ接合性変異 c.6157G>T(p.Glu2053Ter)があり、この症例ではペリセントリン発現の完全な欠損が確認されています[3]。また、多発性の頭蓋内動脈瘤を伴った中国人家系では、エクソン41の16塩基欠失を含む複数の新規変異が同定され、構造モデリングにより、これらの欠失がタンパク質の二次・三次構造に大きな変化をもたらすと予測されています[11]。
興味深いことに、PCNTの一部の変異は病気の重さと血管合併症の起きやすさに影響する可能性も指摘されています。頭蓋内動脈瘤やくも膜下出血を起こした家系では、PCNTのエクソン38に見られるヘテロ接合性のミスセンス変異が複数報告されており、変異の種類や場所によって血管病変の現れ方が変わりうると考えられています[14]。
💡 用語解説:ミスセンス変異とは
ミスセンス変異とは、DNAの1文字が変わることで、アミノ酸が別のアミノ酸に置き換わる変化です。タンパク質は作られますが、部品の1つが違うものにすり替わるため、はたらきが弱まったり、逆に異常な働きを獲得したりすることがあります。その影響の大きさは、どの場所のアミノ酸が変わるかによって大きく異なります。
5. 血管の合併症 ─ MOPD IIで最も注意すべき問題
MOPD IIにおいて、患者さんの生命予後を最も大きく左右するのが、脳と心臓を含む全身の血管障害です。とくに、内頸動脈が進行性に狭くなって詰まっていくもやもや病と、多発性の頭蓋内動脈瘤の頻度が際立って高いことが知られています[6]。
MOPD II患者47名(3〜41歳)を対象とした登録研究では、血管障害の実態が具体的な数字で示されました。この集団の64%が、もやもや病・頭蓋内動脈瘤のいずれか、または両方と診断されていました[6]。さらに、全身性高血圧、慢性腎臓病、心筋梗塞などのリスクも高いことが同じ研究で報告されています[6]。
MOPD II患者にみられた主な合併症の割合
登録研究(患者47名・3〜41歳)で報告された割合。[6]
神経血管の病気のリスクは、生涯にわたって続きます。小児期や10代という若さで頭蓋内動脈瘤が破裂し、くも膜下出血や虚血性脳卒中を発症する例も報告されています[6]。こうした血管合併症は、MOPD IIの管理において最も注意を払うべき領域です。だからこそ、症状が出る前から画像で血管を調べる「先回りの評価」が重視されます。実際に、既存の血管障害がある場合はもちろん、その有無にかかわらず、若いうちから定期的にMRI・MRA(磁気共鳴血管画像)で脳血管をチェックしていく方針が、複数の臨床報告で支持されています[6]。
🩺 院長コラム【見えないうちに進む血管の変化】
MOPD IIでいちばん怖いのは、身長や頭囲といった目に見える特徴ではなく、静かに進む血管の変化です。もやもや病も動脈瘤も、破裂や脳卒中が起きて初めて気づかれることが少なくありません。だからこそ、症状が出る前に画像で確かめる意味は大きいのです。
私は成人の遺伝医療を担う立場ですが、こうした小児期発症の疾患でも、「今わかっているリスクを、いつ・どの検査で見張るか」を家族と一緒に設計することはできます。診断がついた時点から脳血管の評価計画を立てておくこと。それが、この病気と長くつきあううえでの土台になると考えています。
6. なぜ血管が傷むのか ─ スタチンにつながる分子のしくみ
中心体をつくるタンパク質が失われると、なぜ血管がこれほど傷むのでしょうか。近年の研究で、そのしくみが少しずつ解き明かされてきました。血管の壁をつくる平滑筋細胞(へいかつきんさいぼう)でペリセントリンが欠けると、血液中の脂質の値が正常であっても、動脈硬化のプラーク(血管壁のこぶ)が大きく増えることが、平滑筋特異的にペリセントリンを欠損させたマウスの実験で示されました[7]。
その道筋はこうです。ペリセントリンが失われて中心体の完全性が損なわれると、細胞にストレスがかかり、それが熱ショック転写因子1(HSF1)を活性化します。活性化したHSF1は、コレステロール合成の律速酵素であるHMG-CoA還元酵素(HMGCR)の発現と活性を高め、細胞のなかで過剰なコレステロールが作られます。すると小胞体(しょうほうたい)にストレスがかかり、PERKという経路が活性化して、平滑筋細胞が本来の「収縮する細胞」から「増えて動き回る細胞」へと性質を変えてしまい、動脈硬化のプラークが作られていく——というものです[7]。
ペリセントリン欠損から動脈硬化までの流れ
中心体の完全性が低下し細胞ストレス
HMGCRを増やしコレステロール合成が過剰に
小胞体ストレスで平滑筋が変容
プラークが増える
このしくみの発見は、治療戦略の面でも重要です。同じマウスモデルにHMG-CoA還元酵素を阻害するスタチン(プラバスタチン)を投与すると、細胞内のコレステロール合成が抑えられ、平滑筋細胞の性質変化が抑制されて、プラークの量が対照群と同じレベルにまで減少することが確認されました[7]。血液中のコレステロールが高くなくても効く可能性がある、という点が、この経路の特徴です。
📌 ここは慎重に読んでください
スタチンによるプラーク減少は、現時点ではマウスモデルで確認された知見です。ヒトのMOPD II患者さんに対する投薬の適否や開始時期は、個々の状態に応じて主治医が判断すべきことがらであり、この記事が特定の薬剤の使用を勧めるものではありません。ただし、定期的な脳血管スクリーニングと厳密な血圧管理が予後の改善に役立つ可能性は、複数の臨床報告で支持されています[6]。
7. 繊毛・精神疾患・がん・ダウン症との意外なつながり
ペリセントリンの役割は、細胞分裂だけにとどまりません。中心体は、細胞の表面から突き出す「アンテナ」である一次繊毛(いちじせんもう)の根元(基底小体)にもなります。ペリセントリンはこの基底小体に位置し、繊毛内輸送(IFT)タンパク質やポリシスチン-2などと複合体をつくって、一次繊毛の組み立てに関わることが報告されています[13]。一次繊毛は、ヘッジホッグシグナルなど発生に重要な信号を受け取る場でもあり、骨格の発達とも関係しています。
精神疾患との関連(DISC1ネットワーク)
ペリセントリンは、統合失調症や双極性障害の有力なリスク遺伝子として知られるDISC1(Disrupted in Schizophrenia 1)と物理的に結合するパートナーの一つ(PCNT2として)であることが分かっています[8]。日本人コホートを対象とした症例対照研究では、PCNT2内の特定の一塩基多型(rs2249057・rs2268524・rs2073380)が統合失調症と有意に関連することが報告され、双極性障害の患者さんの死後脳やリンパ球ではPCNT2の発現が上昇していることも確認されています[8]。これらは、中心体での微小管の組織化に関わるペリセントリンの異常が、脳の発達に影響し、精神疾患の病態形成に寄与する可能性を示唆する知見です。ただし、これは関連が報告されている段階であり、PCNTが精神疾患の確立した単独の原因遺伝子というわけではありません。
がん・ダウン症とのつながり
中心体の数や構造の異常(中心体増幅)は、異常な紡錘体を通じて染色体の不安定性を招き、多くのがんの特徴になっています。ペリセントリンの発現の乱れは、乳がんや前立腺がんの進行、造血器腫瘍における異数性(染色体数の異常)の程度と相関することが報告されています[4]。
一方、PCNTは21番染色体(21q22.3)に位置するため、21番染色体が3本になるダウン症候群ではPCNTも3コピーとなります。そのため、PCNTの遺伝子量増加が中心体機能や一次繊毛の形成に影響する可能性が研究されています[4]。ただし、ダウン症候群の病態は多数の21番染色体上遺伝子の遺伝子量効果が関与する複雑なものであり、PCNT単独の寄与は確立していません。
最新の研究アプローチ
PCNTの研究は、先端的な手法で大きく進んでいます。シングルセルRNAシーケンスによって、発生中の大脳皮質を1つ1つの細胞のレベルで解析できるようになり、PCNTの欠損がどの細胞・どの発生段階で小頭症を引き起こすのかを、細かくマッピングできるようになりつつあります。また、CRISPR/Cas9によるゲノム編集は、iPS細胞由来モデルや動物モデルを使った病態の再現と治療研究を後押ししています。ただし、脳や全身の標的組織へ安全かつ効率的に届ける技術や、狙い以外の場所を変えてしまうオフターゲットの課題があり、ヒトの神経発達障害に対する直接的なゲノム編集治療は、まだ研究段階にとどまっています。
8. 検査と遺伝カウンセリングの実際
🔍 関連記事:遺伝カウンセリングとは/臨床遺伝専門医とは
MOPD IIの診断は、胎児期からの重度の成長障害・小頭症・特徴的な骨格所見・顔貌といった臨床所見に加えて、PCNT遺伝子の両アレルの機能喪失変異を確認することで確定します[12]。臨床像が似た他の原発性小人症(セッケル症候群、MOPD I/III型、マイヤー・ゴーリン症候群など)と鑑別する必要があるため、関連する複数の遺伝子をまとめて調べる原発性低身長症NGS遺伝子パネル検査が有力な選択肢になります。
遺伝形式と再発率
MOPD IIは常染色体潜性(劣性)遺伝の形をとります。両親はそれぞれ、変異を1つだけ持つ無症状の保因者であることがほとんどです。その両親から、2つとも変異を受け継いだお子さんが発症します。この場合、次のお子さんが同じ病気になる確率は、1回の妊娠あたり25%と計算されます。
保因者どうしのカップルから生まれるお子さんの確率
この確率は妊娠のたびに同じで、「前回発症したから次は大丈夫」という関係にはありません。
家系内で病的変異が特定されている場合には、ご家族の保因者診断や、次の妊娠に向けた出生前診断・着床前診断といった選択肢について情報提供が可能です。どの選択肢を選ぶかは、正解が一つに決まるものではありません。臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングでは、検査の意味や限界、再発率、次のお子さんへの備えなどを、ご家族の価値観に沿って一緒に整理していきます。
🩺 院長コラム【「基礎の遺伝子」を知ることの意味】
PCNTは、細胞分裂という生命の根っこを支える遺伝子です。だからこそ、その変化は身長・頭のサイズ・血管・代謝と、全身のあちこちに影響します。一見ばらばらに見える症状が、一つの遺伝子の物語としてつながっていく——そこが、遺伝医療のおもしろさであり、難しさでもあります。
診断はゴールではなく、これからを考えるための出発点です。「なぜこの症状が出るのか」が腑に落ちると、ご家族の受け止め方は変わっていきます。今わかっていることの輪郭を正確にお渡しすることを、私はいつも大切にしています。
9. よくある誤解
誤解①「頭が小さいから知能も必ず低い」
MOPD IIでは頭囲が乳児程度と極端に小さくなりますが、知能はほぼ正常に近いことが多いと報告されています。頭のサイズと知的発達は必ずしも一致しません。見た目の印象だけで判断しないことが大切です。
誤解②「成長ホルモンを使えば背が伸びる」
原発性小人症では、成長ホルモンは正常に分泌されていて、細胞そのものの増える力が根本的に障害されています。そのため、通常の成長ホルモン補充では効果が期待しにくいと考えられています。
誤解③「血管の合併症は症状が出てから調べればよい」
もやもや病や動脈瘤は、破裂や脳卒中で気づかれることが少なくありません。だからこそ、症状が出る前からのMRI・MRAによる定期的なスクリーニングが重視されています。「先回りの評価」が予後を左右します。
誤解④「PCNTを調べれば統合失調症が分かる」
PCNT(PCNT2)と精神疾患の関連は、集団研究で関連が報告されている段階です。単独で発症を予測できる原因遺伝子ではありません。多型ひとつで将来を判断することはできません。
よくある質問(FAQ)
🏥 原発性小人症・成長障害の遺伝子診断のご相談
MOPD IIをはじめとする原発性小人症や、その合併症に関する
遺伝子検査と遺伝カウンセリングは
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにご相談ください。
参考文献
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- [2] PERICENTRIN; PCNT. OMIM. Johns Hopkins University. [OMIM 605925]
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